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チェンジ・ザ・ワールド☆
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ランキング戦開始

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 ランキング戦開始












 「和葉」

「あ、はい」


 テニスコートから少し離れた芝生の上で、眉間にしわを寄せてノートパソコンを睨んでいた和葉に竜崎が声を掛けた。

 顔を上げて竜崎を仰ぎ見る。


「今日はランキング戦だよ。行かないのかい?」

「あ、行きますけど、離れた所から見ようと思って」

「はあ? 離れた所から?」

「はい。なのでこの間の教室使ってもいいですか?」

「そりゃあ空いていれば構わんが、何で近くで見ないんだい?」


 変な事を言う和葉に、竜崎は首を傾げる。

 ノートパソコンを閉じて立ち上がると、和葉が笑った。


「まだ皆私の事に慣れてないと思うんで、変に緊張させたらいけないと思って」

「あははは、そんな事気にしてるのかい? レギュラーの奴らなら平気だろうから、間近で見てみな」

「いいえ、レギュラーはまだいいんです。私が見たいのはレギュラー以外の2年生ですから」

「なるほど、本格的に弱点を探すって訳かい」

「そういうことです。それに全体が見えた方が同時にやっている試合もまんべんなく見れますし」


 そこで和葉はコートの方を伺った。

 リョーマの姿が見えたのだ。相変わらず澄ました顔で歩いている。


「まあ、お前に任せるよ。あ、そうそう、さっき月刊プロテニスの記者が来てね。新しいトレーナーに取材を申し込みたいって言っておったぞ?」


 竜崎の言葉に和葉はすぐさま反応する。


「うわ、パスですパス! 私がそういうの苦手だって、知ってるでしょ?」

「相変わらずだねえ。まあ嫌なら無理に受けなくていいさ。それに取材を受けたら元プロだってのもバレるかもしれないしねえ」

「父さんが向こうでの名前でエントリーしてたんで、六条和葉じゃ分かる人はほとんどいないと思いますけど、さすがにテニス雑誌の記者さんとなると知っている可能性は高いですよね……ですから静かに、目立たないように。あくまで私は青学の影ですから。あ、教室の使用状況は教務課で聞けばいいですか?」


 慌てて首を振る和葉に苦笑すると、竜崎は頷いた。


「ああ」

「それじゃあ失礼します」


 眼鏡を光らせて走って行く和葉を見送り、竜崎はコートの方へ視線を送った。

 ボールがラケットにぶつかる音、部員達のかけ声、これから始まる子ども達の戦いを思うと、胸が躍った。

















 和葉はだらしない口元を、なかなか元に戻せずにいた。

 今、眼下のテニスコートではリョーマ対海堂の試合が行なわれようとしている。

 和葉とそう身長の変わらない海堂だが、随分と手が長い。

 それを生かしたバギーホイップショットを打つというデータを手元のノートパソコンで見ながら、試合が始まるのを今かと待っているのだ。

 実際に和葉は海堂と打ち合った事がなかったので、自分が良く知るリョーマと試合をするというのは海堂がどの程度の実力かを見るにはもってこいだった。


「さて、どうなりますか……」


 ぼそりと和葉は呟いた。

 リョーマのサービスで始まったゲームは、初っぱなから面白い物となった。

 15-0とリョーマがポイントを先取すると、海堂の顔つきが変わった。

 うまく逆を付いたと思われたリョーマのリターンを、海堂が一瞬にして追いかけ、長い腕を利用してショットを放つ。

 ラケットから離れたボールはリョーマの目の前で急激にカーブし、コートの手前にクロスして突き刺さる。


 お、出た。


 胸が躍る和葉。とても中学生とは思えない良い変化をする。

 そこでリョーマは右手に持っていたラケットを左手に持ち替えた。

 海堂は得意のスネイクショットを使い、リョーマを左右に何度も走らせていた。

 体力を削る作戦のようだ。

 それに対しリョーマは必死に海堂の球を追いかけて、ただただ返すだけ。

 日差しの強い今日、相当の体力が消耗されているはずだ。

 ふと、海堂の動きが鈍った。


 あらら、先にへばったね。うちのリョーマは、ちょっとやそっとじゃスタミナ切れなんてしないよ。海堂君。


 リョーマは海堂のボールをコートのライン深くに低く返し続けていた。

 深い位置からのリターンは両膝に負担がかかる。

 常に中腰でつま先立ちに近い構えを取り続けるテニスにおいて、それをさらに低い位置で重心を保ち続けるということは思った以上に体力を削られる。


 でも……


「リョーマはフィジカル練習を増やさないとね」


 体格の差はいなめない。

 両者一進一退の試合が続く。

 もしリョーマが海堂と同じくらいの身長と体力を持っていたら、勝負はもっと早くに付いていただろう。

 勝負がついた。

 勝ったリョーマとそれを喜ぶ同じ一年生部員。

 しかし海堂は違った。

 負けた己の不甲斐なさにラケットで自分の膝を殴打し始めたのだ。


「いけないっ」


 和葉は急いで教室を飛び出した。

















 誰もいない水場で、海堂は頭から水を被っていた。


「海堂君」


 突然声をかけられ、驚いて顔を上げる。

 怒ったような顔で立っている和葉に、海堂は辺りを見回した。


「さっき殴っていた膝、見せて」

「ーーーあ」


 どうやら自分に話しかけている事に間違いがないと確認すると、近づいて来る和葉の姿に一瞬怯む。

 まだ動けないでいる海堂の前に素早くかがみ膝の様子を見ると、青紫色にうっ血し切れて血も出ていた。


「そこに座って」

「はい……」


 言われるまま水場の淵に腰をかけると、和葉は持っていた救急箱を開いて慣れた手つきで手当を始めた。


「負けたから悔しいのは分かるけど、自分の不甲斐なさを自傷行為に向けるのはプレーヤーとして褒められた行動じゃないわよ」

「ーーーすんません」

「でも、よく走り込んでるわね」


 そう言って微笑みながら海堂のふくらはぎや太ももの筋肉を確かめる。

 しっかりと筋肉の付いた下腿三頭筋や大腿四頭筋。まだ中学2年生という年齢を考えれば、無理をせずじっくりと育ててやりたいと思う。

 これだけスタミナを付ける努力をしているのだ、そのスタミナ勝負でたかだか一年坊主に負けたのはさぞ悔しかっただろう。


「えっと、練習メニューは乾君が組み立ててくれてるんだっけ?」

「はい……」


 初めてまともに話した和葉に、人見知りの激しい海堂は戸惑っていた。

 怖い顔と乱暴な物言いで自分に話しかけて来る女子は少ない。そんなことなどまるで気にしない和葉は、年齢よりも随分と年上に感じられた。

 大人だな、と海堂は思った。


「メニュー以上の事を急にやりすぎないようにね。よし、これで終わり」

「あ……ありがとうございます」


 ぼそりとそれだけ言うと、海堂は頭を下げて和葉の前から去って行った。

 照れているらしいその顔に、つい頬が緩む。

 和葉は楽しかった。

 こんなにテニスに必死になる少年達がいるということが。

 そしてリョーマが、もっとテニスを好きになってくれるといいと、そう思った。





                                続く…






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