卓上ゲーム板作品スレ 保管庫

第05話

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迷錯鏡鳴 鏡の巻



 宿縁というものがあるのならばこの瞬間に生み出されたのだろう。
 その日、奇なる理由において対峙する二人。
 忍者――斉堂 一狼。
 龍使い――藤原 竜之介。
 異なるスタイルの二人、顔すらも昨日まで知らなかった二人が殺し合いを行うなど誰が想像しようか。
 推測出来ぬ。
 予想し得ない。
 されど、その二つのスタイルを見合わせて、その対峙の様相を見ればおそらくは宿命だったのだろうと感嘆のうちに告げるだろう。
 それは何故か?
 求めるものは同じであれど、道を違えた決して相容れぬ流派だからである。
 忍者。
 それは古来から伝わる技巧術、鍛錬術、薬学、或いは精神操作によって越常の身体能力と技巧を手に入れたウィザードの一派。
 肉の伸縮、骨の繋ぎ、皮膚の硬度、血流の勢い、それら肉体のポテンシャルを尋常ならざる鍛錬の果てに、血反吐をぶちまけて、臓物が裏返り、肉が裂け、血が滲み出るような修行をこなし鍛え上げ続けるある種の狂人。
 指先一本で崖を登り、つま先のみで天井にぶら下がり、その一足にて風をも追い抜かす超人である。
 武術家ではなく、武道家でもなく、それらはつまるところの技巧者。
 殺すための、仕えるための、要求に応える為の、不可能を可能とするべく鍛錬を重ねるもの。
 その思想は中国武術における外家功夫に近い。
 身体能力の精錬に、技の研磨を主な修練とする“剛”の武術である。
 数多く知られる中国武術はこれに属していた。
 それに対して、龍使い。
 それも九天一流は外家功夫ではなく、内家功夫に属していた。
 外家が肉体の鍛錬を主にするに対して、内家は心を精錬し、心技を極めることを修練とした“柔”の武術である。
 ただ単純に肉体を極めれば力が手に入る外家と異なり、その習得は厳しく、多くの外家武術家が大成を成すのに比べて、内家武術家の数は如何に少ないかという面から見て分かるとおりだった。
 入り口は狭く、その先もまたさらにか細い、成功するのは本の一握り。
 されど、内功を極めた者は外功に匹敵する――否、凌駕するであろう功夫を持つ。
 剣を振るえば真っ向から鉄すらも断ち切り、跳ねれば羽毛のように舞い、対峙すれば旋風の中に優雅に舞い踊る木の葉のように打たせず、捉えられず、翻弄されるのみ。
 生物である人間の肉体には少なからず限界があるが、心技には果てはない。
 外家に極限はあれど、内家には究極はないのだ。
 故に内家功夫は数が少なくとも、外家に匹敵するだけの存在意義を保有していた。
 極めれば内功に敵無し。
 それが現代武術界における認識である。
 されど、それは本当だろうか?
 心技を習得した内家功夫に、本当に外家功夫は勝てぬのか。
 外道の手段は取り、肉体置換などの果てに人外の速度を持ってすれば勝てるかもしれない。
 金剛石をも砕く手足に、跳ねればロケットのように跳び上がり、対峙すれば閃光のように砕く機構を兼ね備えれば内家は圧倒できるだろう。
 事実、肉体強化の果てに同等の性能を保有する強化人間や、設計段階から見直され、人外としての能力を保有する人造人間ならば内家をも圧倒するかもしれぬ。
 されど、試したいのだ。
 本当に肉体の鍛錬のみでは、技術の研磨だけでは心に追いつけぬのか。
 体術技巧の極みの果てにあるものと。
 心技精錬の極みの果てにあるものと。

 人は心が上なのか、体が上なのか、試してみよう。

 心行くまで。






ナイトウィザード 異説七不思議録

【迷錯鏡鳴】 鏡の巻






 活気溢れる登下校。
 春の日差し眩しい朝の光景、輝明学園秋葉原分校へと向かう途中の坂道をふらふらと血の気の引いた顔つきで歩く人影があった。
 瓶底眼鏡に、ピンッとどこかしら寝癖が飛び出ただらしない髪型、落ち込んだかのように猫背の姿勢で歩く中肉中背の目立たない少年。
 つまるところ藤原 竜之介だった。
 登校時間としてもそれなりにギリギリな時間で、ふらついた足取りで歩いている。

「あー死ぬー……」
「しっかりしろ、竜之介」

 その横で歩いている一匹の三毛猫――猫状態のあげはが一目がないことを確認してから、短くエールを飛ばした。

「しっかりなんかできねえって……背中は痛みは感じないけど、なんか引き攣るし、熱いし……」

 制服に隠れて見えないが、その上半身には息が絞まるほどにきつく包帯が巻かれている。
 今日は体育のない日付でよかったと思うべきか。あっても見学は確定だが。
 朝気付けに飲まれたHPヒールポーションと、ぼやきながらも続けている気息によって血流を操作し、竜之介は体を動かしていた。
 体調はすこぶるよくない。
 普通なら休むべきだ。
 しかし、それを祖父の竜作は許さなかった。

「竜之介。お前には呪詛が掛かっておる。その手掛かりを自分自身で探すんじゃ」

 その一言で着替えと朝食もそこそこに放り出され、手助けをしてくれるらしいあげはと一緒にひこーらへーこらと登校するはめになっている。
 秋葉原分校への坂がこんなにもきついと思ったのは産まれて初めてじゃないだろうか?
 規則性のある呼吸を繰り返し、血流に流れる酸素分量すらも把握しながら、瓶底眼鏡の奥で竜之介は必至に前へと前へと足を進める。
 その横をとてとてと歩くあげは。
 輝明学園までの道はそんなに汚れているわけではないが、去年から活動を開始したエコ部によりゴミを毎日取り除かれており、綺麗な道となっている。
 道の端のほうをあげはと一緒に歩いても、何の障害もないといえば分かるだろうか。
 そんな調子で十分ほど歩いた頃だろか。
 坂を上り終わると、校門が目の前に見えた。

「はぁ、やっとついた」

 肩から脱力し、気息を行うことによって神経を削ったプレッシャーによる汗が竜之介の額に浮かんでいた。
 風紀委員らしい生徒がそろそろ時間だぞー! と大きな声で叫んでいる、ご苦労なことである。

「あげは。んじゃ、先に入っててくれ。放課後になったら0-PHONEで電話するからさ」
「ニャー」

 一目があるため、猫の鳴き声で一声答えると、あげはは俊敏な足取りで校門を乗り越えて、輝明学園の中へと消えていった。
 それじゃあ自分も続くかと足を踏み出した時だった。

「わるい、退いてくれ!」

 どんっと慌てて走る大柄な男子生徒が肩にぶつかる。
 瞬間、突然の驚きと衝撃で気息が乱れた。
 規則性のある呼吸が止まり、テンポが乱れる。
 ビキリと体の何処かで音がしたような気がした。

「っ!」

 走り去っていく大柄な男子生徒を見ながら、竜之介は背筋に走る激痛に呻き声を上げて、よろめいた。
 傷は開いたわけじゃない、けど気息が乱れたのが痛かった。
 支えていた体調がプツンと息が切れたように途切れて、一瞬膝の力が入らず。

「あ」

 そのまま崩れ落ちる――と思った時。
 すっと竜之介の体を支える手があった。

「大丈夫か?」

 それは男子の手だった。
 掬い上げるかのように注し伸ばされた手が、倒れこむ竜之介を支えていた。

「え?」

 細い腕の割には硬い感触を感じながら、竜之介が視界を上げると――どことなく見覚えのある中肉中背の男子学生が居た。
 その横には酷く可愛らしいと思える女子生徒……見覚えがあった。

「あれ? お前……確か藤原だよな?」
「えっと、そっちは――」

 咄嗟に名前が出てこない。
 自分の頭を殴ってでも思い出そうと焦る竜之介に、女子生徒は救いの手を差し伸ばすかのように告げた。

「あ、藤原くんだよね? 私、姫宮 空。そっちは斉堂くん。昨日からクラスメイトだけど、憶えてなかったかな?」
「あ、ああ。思い出した」

 姫宮 空。
 斉堂 一狼。
 昨日教室で見かけたカップルの二人だった。

「大丈夫? 気分が悪いんだったら、保健室に連れて行こうか?」
「呼吸が荒いけど、貧血持ちか?」

 二人の心配するような言葉。
 それに竜之介は慌てて首を横に振ると。

「いや、ちょっと昨日夜更かししただけだからさ」

 あははと笑って誤魔化した。
 幾らなんでも背中に刀傷がありますよーなんてイノセントに言える訳がない。
 それに確か保険医もウィザードだったと思うが、連れ込まれて注目なんて引きたくないのが竜之介の心情だった。

「少し休めば自分でいけるからさ。先にいけよ。時間ないだろ?」
「あ、本当だ」

 空が校舎上の大時計を見て、焦ったように声を上げた。

「斉堂くん」

 どうしょうっかと空が首を傾げる。
 一狼は少しだけ考えるように顎に手を当てた。

(さっさといってくれ)

 竜之介としては二人が立ち去ってくれると嬉しかった。
 気息を建て直し、少し休めば教室までは行けるだろうと思っていたからだ。

「姫宮。先にいってちょっと先生に事情を説明しておいてくれないか? 僕が藤堂を運ぶから」
「わかった」

 空が承知とばかりに頷くと、てってってと駆け出して走っていく。
 スカートを翻し、走るその後姿と眩しい臀部は綺麗だとちょっとだけ思った。

「え? いや、そんなことしなくても――」

 竜之介は焦って声を上げるが、一狼の少し冷めた目で一瞥されると何も言えなくなった。
 全身を観察するような目つき、怪しんでいるのか、心配しているのか曖昧な鋭い目。

「どうみても体調が悪いだろ。ほら、肩貸してやるから」

 しょうがないなぁとばかりに息を吐くと、一狼は竜之介に肩を貸して、歩き出した。
 傍にいた風紀委員に、「この人、体調不良なんで」と一言告げた。

 こうして、竜之介は一狼に運ばれて教室まで行くことになった。


 ……なんでこんなことになったんだろう。

 そんな竜之介の疑問を挟みながら。



 竜之介と一狼の出会いはこんな始まりからだった。







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