抽象の現
体の神経を鋭敏に尖らせて歩いていたはずだった。しかしその者の姿は肉眼に映された時にようやく分かった。
気づくとまさに目の前にその者は立っていた。その姿は虚ろで、高く伸びた草間から闇夜に浮かび上がる様に音もなく存在する光景はさながら幽霊の様であった。
一瞬、今まで殺してきた人々の怨念が姿を象って現れたのではないかという、柄にもなく非現実的な発想がデミテルの頭に浮かんだ。
しかし確かにその男の存在を確認すると、それはただの思い過ごしだと分かる。
相当に戦ったのだろうかボロボロの衣服。そしてべったりと黒い血であろうシミが付いている。しかし決定的な違和感があった。
眼前に現れるまで気付かなかったように、この男からはなにも気配を感じないのだ。全く、読むことができない。見るからに明らかに死闘をしていた痕跡があるのに、男にそれだけの行動が出来たとは思えないほどだった。
姿が虚ろに見えたのはそのせいだった。
男の体は確かにここにあるはずなのに、その存在がとても危うく感じる。言ってみれば魂の入れ物がそこに「ある」という感覚だった。
月がこうこうと憎らしい位に闇を照らしているが、男の眼はその光すら映しはしなかった。
「お…、おれ、」
その声の主が立っている男だと気付くのには少々間隔が空いた。
そしてその言葉を聴いてデミテルははっとする。
殺らなければ―――
しかし何故か行動に移せないのだ。
恐怖ではない。
威圧感など全くない。
ましてや慈悲でもない。
それは無機物の様だったのだ。
言うなれば、それが、人間とは思えなかったのだ。
ただカカシの様に立っているだけの存在。きっと命を奪うなんて一瞬だろう。
しかしまたもや柄にもなく躊躇をした。
再び男が口を開く。
気づくとまさに目の前にその者は立っていた。その姿は虚ろで、高く伸びた草間から闇夜に浮かび上がる様に音もなく存在する光景はさながら幽霊の様であった。
一瞬、今まで殺してきた人々の怨念が姿を象って現れたのではないかという、柄にもなく非現実的な発想がデミテルの頭に浮かんだ。
しかし確かにその男の存在を確認すると、それはただの思い過ごしだと分かる。
相当に戦ったのだろうかボロボロの衣服。そしてべったりと黒い血であろうシミが付いている。しかし決定的な違和感があった。
眼前に現れるまで気付かなかったように、この男からはなにも気配を感じないのだ。全く、読むことができない。見るからに明らかに死闘をしていた痕跡があるのに、男にそれだけの行動が出来たとは思えないほどだった。
姿が虚ろに見えたのはそのせいだった。
男の体は確かにここにあるはずなのに、その存在がとても危うく感じる。言ってみれば魂の入れ物がそこに「ある」という感覚だった。
月がこうこうと憎らしい位に闇を照らしているが、男の眼はその光すら映しはしなかった。
「お…、おれ、」
その声の主が立っている男だと気付くのには少々間隔が空いた。
そしてその言葉を聴いてデミテルははっとする。
殺らなければ―――
しかし何故か行動に移せないのだ。
恐怖ではない。
威圧感など全くない。
ましてや慈悲でもない。
それは無機物の様だったのだ。
言うなれば、それが、人間とは思えなかったのだ。
ただカカシの様に立っているだけの存在。きっと命を奪うなんて一瞬だろう。
しかしまたもや柄にもなく躊躇をした。
再び男が口を開く。
「お、れ、は…」
男は無表情のままだ。何処を見るでもなく、怪しい口先の動き。
顔面の上で唇周りの筋肉だけが不自然に動いている様だった。
薄気味悪い光景だった。
ざわりと風が鳴く。
木の葉が男の頬を掠めるが眉ひとつ動かない。
男は無表情のままだ。何処を見るでもなく、怪しい口先の動き。
顔面の上で唇周りの筋肉だけが不自然に動いている様だった。
薄気味悪い光景だった。
ざわりと風が鳴く。
木の葉が男の頬を掠めるが眉ひとつ動かない。
「……名はなんという?」
絞り出す様な声でデミテルは男に尋ねた。
この男の名など本来はどうでも良いはずだ。自分でも訊いた理由は分からない。この男に少しだけ興味が湧いたのか。ただの物好きなのか。
「なまえ…?な…?
て、とれえ…?」
「……成程」
自分の名前を言えるのかも怪しい。ようやく少しだけ状況を理解した。
どうやらこのゲームで精神に異常を来したのだろう。しかもかなりの重症だ。
血塗れの姿は一見すると大量殺戮を行ってきたマーダーの様相を呈していた。しかし自分には逆にまるで親を目の前で殺された戦災孤児の様だと思えた。
見たところ、莫大な力を使ったのだろうか、相当に体力を消耗しているらしい。見れば脚が疲労の為だろう、かすかに震えている。尤もこの男はそれに気付いてないだろうが。
男は話し出す。
「ここは、へん。まっくら。でぐち、おしえてく、れ」
どうやら意識も相当怪しい。支離滅裂だ。
答えないでいると、きびすを返し、ふらふらとあてもなく歩きだした。
「――っ」
デミテルは一瞬声を掛けかけた。男の歩いている先には―――
男が数歩歩いて地面に変わりなく力ない足を付けたとたん、炎が吹き出た。
デミテルが念のために掛けておいたフレイムトラップだった。しかし、本来なら痛みを感じて叫ぶだろうが、男は傀儡のようにポーンと吹き飛んだ。
受け身を全く取らずに地面に転がる。
男はその暗い眼で虚空を見たまま大の字に倒れていた。
そこにいるのは人間のはずなのに、それはまるで出来損ないの意識を適当に詰め込んだゴム片の様だった。
絞り出す様な声でデミテルは男に尋ねた。
この男の名など本来はどうでも良いはずだ。自分でも訊いた理由は分からない。この男に少しだけ興味が湧いたのか。ただの物好きなのか。
「なまえ…?な…?
て、とれえ…?」
「……成程」
自分の名前を言えるのかも怪しい。ようやく少しだけ状況を理解した。
どうやらこのゲームで精神に異常を来したのだろう。しかもかなりの重症だ。
血塗れの姿は一見すると大量殺戮を行ってきたマーダーの様相を呈していた。しかし自分には逆にまるで親を目の前で殺された戦災孤児の様だと思えた。
見たところ、莫大な力を使ったのだろうか、相当に体力を消耗しているらしい。見れば脚が疲労の為だろう、かすかに震えている。尤もこの男はそれに気付いてないだろうが。
男は話し出す。
「ここは、へん。まっくら。でぐち、おしえてく、れ」
どうやら意識も相当怪しい。支離滅裂だ。
答えないでいると、きびすを返し、ふらふらとあてもなく歩きだした。
「――っ」
デミテルは一瞬声を掛けかけた。男の歩いている先には―――
男が数歩歩いて地面に変わりなく力ない足を付けたとたん、炎が吹き出た。
デミテルが念のために掛けておいたフレイムトラップだった。しかし、本来なら痛みを感じて叫ぶだろうが、男は傀儡のようにポーンと吹き飛んだ。
受け身を全く取らずに地面に転がる。
男はその暗い眼で虚空を見たまま大の字に倒れていた。
そこにいるのは人間のはずなのに、それはまるで出来損ないの意識を適当に詰め込んだゴム片の様だった。
真っ暗だ。
夜だからじゃない。
草も、木も、大地もみな真っ暗だ。
俺は足の進むままに歩いて行った。どの方向かとかそんなことはわからない。どうでもよかった。
足元の草が微風に靡き、俺の脚を撫でているのになんとも感じない。
感情を排出する管に蓋をされたようだ。
このゲームに巻き込まれてから様々な事が起きた。
俺は沢山泣いていた。
だけどそれはどうやるんだっけ?
色々な感情があったはずなのにそれが喉元までくると、わからなくなる。
空っぽだった。
自分がここにいるということすら、よくわからない。俺はなんなのか、わからない。
ただ真っ暗な空間に自分の確かな呼吸や心音がぽっかりと浮かんで、闇に紛れて消え入りそうな俺を白くぼんやりと俺を見つめるので、まるで自分のいのちが闇に宙ぶらりんになった様で少し気持ち悪かった。
中途半端に俺は存在するのだ。
夜だからじゃない。
草も、木も、大地もみな真っ暗だ。
俺は足の進むままに歩いて行った。どの方向かとかそんなことはわからない。どうでもよかった。
足元の草が微風に靡き、俺の脚を撫でているのになんとも感じない。
感情を排出する管に蓋をされたようだ。
このゲームに巻き込まれてから様々な事が起きた。
俺は沢山泣いていた。
だけどそれはどうやるんだっけ?
色々な感情があったはずなのにそれが喉元までくると、わからなくなる。
空っぽだった。
自分がここにいるということすら、よくわからない。俺はなんなのか、わからない。
ただ真っ暗な空間に自分の確かな呼吸や心音がぽっかりと浮かんで、闇に紛れて消え入りそうな俺を白くぼんやりと俺を見つめるので、まるで自分のいのちが闇に宙ぶらりんになった様で少し気持ち悪かった。
中途半端に俺は存在するのだ。
しばらく歩くと人が現れた。
顔は灰色に塗りつぶされてしまっていてよくわからない。
名前とかを聞かれた気がする。俺の名前って何だっけ?それすらにも思考は行き届かなかった。
わからなかった。
俺はどうすればいい?
しかしそれすらも既につまらない事だった。
顔は灰色に塗りつぶされてしまっていてよくわからない。
名前とかを聞かれた気がする。俺の名前って何だっけ?それすらにも思考は行き届かなかった。
わからなかった。
俺はどうすればいい?
しかしそれすらも既につまらない事だった。
気付いたら俺は空を舞っていた。地面から何かが吹き上げてきた様な衝撃を感じた。
地面と俺の体がぶつかり、出会った男は俺のすぐ横に見下げる様に立ちはだかっていた。
地面と俺の体がぶつかり、出会った男は俺のすぐ横に見下げる様に立ちはだかっていた。
ああ、俺は死ぬのか。
【ティトレイ 生存確認】
所持品:メンタルバングル、バトルブック
状態:感情喪失、全身の痛み軽いやけど、TP消費(中)
行動方針:なりゆきにまかせる
所持品:メンタルバングル、バトルブック
状態:感情喪失、全身の痛み軽いやけど、TP消費(中)
行動方針:なりゆきにまかせる
【デミテル 生存確認】
状態:TP中消費
所持品:フィートシンボル ストロー ミスティーシンボル 金属バット
第一行動方針:ティトレイに若干の興味が湧く
第二行動方針:出来るだけ最低限の方法で邪魔者を駆逐する
第三行動方針:ダオスを倒せそうなキャラをダオスに仕向ける
現在地:F3草原
状態:TP中消費
所持品:フィートシンボル ストロー ミスティーシンボル 金属バット
第一行動方針:ティトレイに若干の興味が湧く
第二行動方針:出来るだけ最低限の方法で邪魔者を駆逐する
第三行動方針:ダオスを倒せそうなキャラをダオスに仕向ける
現在地:F3草原