血のオブジェ
海水に上着を浸し血を落とす。
元が青い布地だったことを微塵も感じさせないほど血で真っ赤に染まった上着は
洗えば洗うほど海水を赤く染め上げていく。
やがていくらか血を落としたところで水を絞り身に纏った。
乾いていない服を身に纏うのは気色悪い上に傷口に海水が染み気分が悪い事この上なかったが
代えの服が無いので贅沢は言っていられない。
これで少しは血の匂いも収まっただろうか。
元が青い布地だったことを微塵も感じさせないほど血で真っ赤に染まった上着は
洗えば洗うほど海水を赤く染め上げていく。
やがていくらか血を落としたところで水を絞り身に纏った。
乾いていない服を身に纏うのは気色悪い上に傷口に海水が染み気分が悪い事この上なかったが
代えの服が無いので贅沢は言っていられない。
これで少しは血の匂いも収まっただろうか。
いや・・・まだ足りない。
まだ生臭い血の匂いは体中に纏わりついて離れようとはしない。
大体上着を洗ったところで血は下地に浸透するほどに根深く染み付いているのだから。
これでは熟練した戦士なら血生臭いこの匂いに気付きかねない。
自分が不利になるあらゆる可能性は徹底的に排除されるべきなのだ。
そしてその為の努力を怠る事なく常に冷静にならなければならないのだ。
そうでなければ時間の経過と共に強者が残っていく中、己が生き残ることは出来ない。
そうならなければ、マリアンを生き返らせる事など出来ないのだから。
まだ生臭い血の匂いは体中に纏わりついて離れようとはしない。
大体上着を洗ったところで血は下地に浸透するほどに根深く染み付いているのだから。
これでは熟練した戦士なら血生臭いこの匂いに気付きかねない。
自分が不利になるあらゆる可能性は徹底的に排除されるべきなのだ。
そしてその為の努力を怠る事なく常に冷静にならなければならないのだ。
そうでなければ時間の経過と共に強者が残っていく中、己が生き残ることは出来ない。
そうならなければ、マリアンを生き返らせる事など出来ないのだから。
海水で血やら何やらがこびり付いた顔を洗い落とすと
そこからは冴えきったリオンの表情が現れた。
そこからは冴えきったリオンの表情が現れた。
- 出来る事なら着替えをしたい。贅沢だがもっと言うなら湯浴みを。
兎に角血を何とかしたい。
返り血を大量に浴びているというだけだが、それだけでも自分の生き残る可能性を
下げる要因になりかねないのだ。
なんとしても生き残らなければならない。
全てはマリアンを生き返らせるために!
返り血を大量に浴びているというだけだが、それだけでも自分の生き残る可能性を
下げる要因になりかねないのだ。
なんとしても生き残らなければならない。
全てはマリアンを生き返らせるために!
リオンは海岸から上がると見張りに砂浜に突き立てておいたシャルティエとディムロスを抜く。
そして。
そして。
「・・・マリアン・・・ 君だけは絶対に・・・」
ボコリ。
支給された水を入れていた透明な水入れの中が赤く泡立つ。
それは弾けとんだマリアンの頭部を形作っていたもの。
血と 肉と 脳と 髪の付いた頭皮と 崩れかけた眼球がペットボトルに入れられ、
グロテスクなオブジェとして赤く煌いていた。
リオンは大事そうにそれを抱きしめていたが、名残惜しそうにザックの中へとしまいこんだ。
すると、
支給された水を入れていた透明な水入れの中が赤く泡立つ。
それは弾けとんだマリアンの頭部を形作っていたもの。
血と 肉と 脳と 髪の付いた頭皮と 崩れかけた眼球がペットボトルに入れられ、
グロテスクなオブジェとして赤く煌いていた。
リオンは大事そうにそれを抱きしめていたが、名残惜しそうにザックの中へとしまいこんだ。
すると、
『皆聞える!? 私はファラ、ファラ・エルステッド!――』
「―――ッ!!」
波の音に紛れて聞こえてきたのは少女の声。
遠くから響いてきたらしいそれは、しかし話の内容を聞き取ることが出来る。
わんわんと響くその声はかなりの広範囲まで聞こえる事だろう。
現にこのファラとかいう少女はC3からこの放送を行っているらしい。
現在の位置はC7・・・ならば単純に考えれば半径4マスまでにいる人間には聞こえるわけだ。
「・・・馬鹿」
お人好しにも程がある。
これではゲームに乗った連中に殺されてしまうではないか。
それを承知での行動なのか?本当にどこの世界にもお人良しというのは存在するらしい。
そう、まるでスタンみたいな・・・
リオンはその演説を何処か遠い世界の言葉のように感じながら聴いていた。
実際そうだろうが・・・と思い当たると可笑しくて口角が釣り上がった。
遠くから響いてきたらしいそれは、しかし話の内容を聞き取ることが出来る。
わんわんと響くその声はかなりの広範囲まで聞こえる事だろう。
現にこのファラとかいう少女はC3からこの放送を行っているらしい。
現在の位置はC7・・・ならば単純に考えれば半径4マスまでにいる人間には聞こえるわけだ。
「・・・馬鹿」
お人好しにも程がある。
これではゲームに乗った連中に殺されてしまうではないか。
それを承知での行動なのか?本当にどこの世界にもお人良しというのは存在するらしい。
そう、まるでスタンみたいな・・・
リオンはその演説を何処か遠い世界の言葉のように感じながら聴いていた。
実際そうだろうが・・・と思い当たると可笑しくて口角が釣り上がった。
そうだ。もう自分には遠い世界の言葉だ。
ファラの演説を聞いているうちにリオンは違和感を覚えた。
何か様子が変だ・・・まるで喉に何かを詰まらせているような、無理な発声。
これはまさか既に危険な状況に陥っているのではないか!?
だとするとあの声を聞いた誰かが襲撃したか・・・いや、そんな様子はなかったはず。
ならば最初から・・・少なくとも発声が困難な状況である中での行動ということか。
例えば重傷を負っている・・・とか。
何か様子が変だ・・・まるで喉に何かを詰まらせているような、無理な発声。
これはまさか既に危険な状況に陥っているのではないか!?
だとするとあの声を聞いた誰かが襲撃したか・・・いや、そんな様子はなかったはず。
ならば最初から・・・少なくとも発声が困難な状況である中での行動ということか。
例えば重傷を負っている・・・とか。
「本当に・・・どこの世界にもお人好しはいるようだな・・・」
遠く離れた場所にいる少女の声は、話すたびに生命力を奪うかのように弱弱しくなっていく。
苦しそうに吐き出された声に混じって少女とは違う、別の男の声が聞こえた。
苦しそうに吐き出された声に混じって少女とは違う、別の男の声が聞こえた。
『おい、やっぱりもう止めないと……』
『大丈夫、大丈夫だから、お願い…………』
『だが、君の命がっ!』
やはりファラとかいう少女は何らかの傷を負っている。
しかもそれは死の瀬戸際まで追い込む程のもの・・・
『お願い! これが私の……最期の仕事になるかもしれ――あ』
しかもそれは死の瀬戸際まで追い込む程のもの・・・
『お願い! これが私の……最期の仕事になるかもしれ――あ』
リオンは持ち物を全部背負い込むと地図を広げた。
現在の位置はC7・・・先ほどいたB7はいずれ禁止区域になる。
今自分は疲労で戦いにおいてベストを尽くせそうにない。
ましてや回復晶術を使うことも出来ないのだ。
ならば休息・・・まとまった時間での睡眠が出来なければ体調に万全を期すことは出来ないだろう。
現在の位置はC7・・・先ほどいたB7はいずれ禁止区域になる。
今自分は疲労で戦いにおいてベストを尽くせそうにない。
ましてや回復晶術を使うことも出来ないのだ。
ならば休息・・・まとまった時間での睡眠が出来なければ体調に万全を期すことは出来ないだろう。
『…………私も誰か知らない女の子に殺されそうになった! だけど、げほっ! 私もその女の子を傷つけてしまった! こんなのって、ごほっ、あんまりだよ!』
幸いにも自分は一人での行動というわけではない。
シャルとディムロスがいる・・・見張りをしてもらえれば睡眠をとることは容易だ。
兎に角いざ戦闘になった時、疲労でその動きに支障が出ては困る。
そう、生き残るために考えられる不利な状況は全てクリアしなければならない。
シャルとディムロスがいる・・・見張りをしてもらえれば睡眠をとることは容易だ。
兎に角いざ戦闘になった時、疲労でその動きに支障が出ては困る。
そう、生き残るために考えられる不利な状況は全てクリアしなければならない。
『私は、私達にそんなことをさせるミクトランとかいう人を絶対に許さない! げほっ! 絶対に許さない!!』
ここから一番近い建物はC6の城・・・しかしさっきの連中に鉢合わせする可能性が高い。
マリアンを守っていてくれたのだ。出来ることなら殺したくは無い。
もちろん最後の最後で彼らが残ったのだとしたら容赦無く剣を取るのであろうが。
第一今の疲労しきった体で勝てるとは思っていない。無駄死にするだけだ!
そして自分が死ぬことはマリアンが生き返らないという事!
マリアンを守っていてくれたのだ。出来ることなら殺したくは無い。
もちろん最後の最後で彼らが残ったのだとしたら容赦無く剣を取るのであろうが。
第一今の疲労しきった体で勝てるとは思っていない。無駄死にするだけだ!
そして自分が死ぬことはマリアンが生き返らないという事!
『殺し合いなんて絶対だめ!! げほっ! もう私みたいに苦しむ人が出て欲しくないよ!! ごほっ、だから……皆、協力し合って、お願い!!』
それだけは絶対に避けなければならない!
彼女はこんなところで死ぬべき人じゃない、
普通に暮らして大多数の人間が与えられる当たり前の幸福の中で生きていく人だ!
あのミクトランが本当に約束を守るのかなんて保証は無いが仕方が無い、
もうそれに縋るしかない・・・だってそれ以外にどうしろというのだ!
彼女はこんなところで死ぬべき人じゃない、
普通に暮らして大多数の人間が与えられる当たり前の幸福の中で生きていく人だ!
あのミクトランが本当に約束を守るのかなんて保証は無いが仕方が無い、
もうそれに縋るしかない・・・だってそれ以外にどうしろというのだ!
『最後に……リッド、キール、それにメルディ!! 私、げほっ、リッド達をごほっ、信じてるんだからね!! げほっ、リッド達ならイケる、イケるよね!?』
その言葉を最後に少女の声は途絶えた。
彼女がどうなったのか・・・それは次の放送で判る事だ。
今の演説で少なからず他の参加者達の動きはあることだろう。
止めようと村に向かうお人好しもいるだろうし、そこに獲物がいるとわかってやってくる者もいる。
特に仲間だった人間ならばきっと行く。
リオンは地図上の右下の建物・・・教会に目をつけた。
休息はもちろんだが物資の補給もしなければならない。
G5にも村があるがそこは危険地帯になる。
ならばそこを拠点としていた者が、次の拠点としてこの教会を選ぶ可能性もあったが
そういう人間は所謂、穏便派・・・戦いに乗りたくないが為の建物に篭るという自衛。
ゲームに乗っている人間と戦うよりは遥かに危険が少ない。
もちろん慎重に越したことは無いが・・・
彼女がどうなったのか・・・それは次の放送で判る事だ。
今の演説で少なからず他の参加者達の動きはあることだろう。
止めようと村に向かうお人好しもいるだろうし、そこに獲物がいるとわかってやってくる者もいる。
特に仲間だった人間ならばきっと行く。
リオンは地図上の右下の建物・・・教会に目をつけた。
休息はもちろんだが物資の補給もしなければならない。
G5にも村があるがそこは危険地帯になる。
ならばそこを拠点としていた者が、次の拠点としてこの教会を選ぶ可能性もあったが
そういう人間は所謂、穏便派・・・戦いに乗りたくないが為の建物に篭るという自衛。
ゲームに乗っている人間と戦うよりは遥かに危険が少ない。
もちろん慎重に越したことは無いが・・・
行動方針を決めるとリオンは南に向かって歩き出した。
少女の最後の訴えは、「マリアンを生き返らせる」それだけが信念に変わってしまった少年の心に届くことは無かった。
歩きながらリオンは今の状況では唯一の、けして自分を裏切らない相棒に声をかけた。
少女の最後の訴えは、「マリアンを生き返らせる」それだけが信念に変わってしまった少年の心に届くことは無かった。
歩きながらリオンは今の状況では唯一の、けして自分を裏切らない相棒に声をかけた。
「シャル・・・僕はマリアンを生き返らせる。絶対に
その為ならなんとしても生き延びる。そうしなきゃならない・・・
頼む、力を貸してくれ。
それからディムロス、だから・・・お前のマスターも最後には殺さなきゃいけなくなる。
それがお前の本心にそぐわないものだとしても、僕の本心にそぐわなくてもだ。
お前達は首輪を付けられてはいないが・・・参加者だ。しかも剣であるがゆえに、恐らく確実に生き残れる唯一の存在だ。
だから・・・辛いだろうが最後まで見届けてくれ。」
その為ならなんとしても生き延びる。そうしなきゃならない・・・
頼む、力を貸してくれ。
それからディムロス、だから・・・お前のマスターも最後には殺さなきゃいけなくなる。
それがお前の本心にそぐわないものだとしても、僕の本心にそぐわなくてもだ。
お前達は首輪を付けられてはいないが・・・参加者だ。しかも剣であるがゆえに、恐らく確実に生き残れる唯一の存在だ。
だから・・・辛いだろうが最後まで見届けてくれ。」
リオンはそう言うと少し悲しそうに笑った。
そしてそれが最後だった。
マリアンが殺されて間もないというのに恐ろしいほどに冷静なのが判る。
生き残るためのあらゆる戦略が頭の中を駆け巡り、16年と人としてはまだ短い時間の中だったがその中で培った
ありとあらゆる知識を総動員してそれが網目のように張り巡らされていくのが判る。
こんなに自分は機械人形のように、このような状況下で知識を捻り出す事が出来るのだろうかと不思議に思った。
そしてそれが最後だった。
マリアンが殺されて間もないというのに恐ろしいほどに冷静なのが判る。
生き残るためのあらゆる戦略が頭の中を駆け巡り、16年と人としてはまだ短い時間の中だったがその中で培った
ありとあらゆる知識を総動員してそれが網目のように張り巡らされていくのが判る。
こんなに自分は機械人形のように、このような状況下で知識を捻り出す事が出来るのだろうかと不思議に思った。
もはやリオンの表情はピクリとも変化することなく、仮面のようにそれは無表情だった。
そんなリオンにシャルティエとディムロスは掛ける言葉を見失ってしまっていた。
そんなリオンにシャルティエとディムロスは掛ける言葉を見失ってしまっていた。
それは、狂気だった。
【リオン 生存確認】
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り)
状態:全身に軽い火傷 全身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 疲労 極めて冷静
第一行動方針:マリアンを生き返らせる
第二行動方針:G7の教会に向かう
第三行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:C7の海岸地帯
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り)
状態:全身に軽い火傷 全身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 疲労 極めて冷静
第一行動方針:マリアンを生き返らせる
第二行動方針:G7の教会に向かう
第三行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:C7の海岸地帯