崩れた前提
朝が訪れても満足な光は射し込まないだろう塔の一室で、赤い髪の青年はムメイブレードを傾けた。
刃の状態を確認して、鞘に納める。
差し迫る危険はこの塔には無い。しかし、不測の事態とは常に起こりうるものであり、それに対する準備を
怠ってはならないことを、理論詰めの友人とは異なる観点から、リッド・ハーシェルは肌身に染みて感じていた。
ふと部屋の片隅に目をやった。暗がりに一匹の鼠がいた。
殺そうと思えば容易い。が、リッドは頬杖をついたまま、か弱い生物を見るともなしに見ていた。
鼠もしばし、つぶらな瞳をリッドに向けていた。
が、突如何かを察知したのかのように物陰に逃げ込んだ、次の瞬間――
刃の状態を確認して、鞘に納める。
差し迫る危険はこの塔には無い。しかし、不測の事態とは常に起こりうるものであり、それに対する準備を
怠ってはならないことを、理論詰めの友人とは異なる観点から、リッド・ハーシェルは肌身に染みて感じていた。
ふと部屋の片隅に目をやった。暗がりに一匹の鼠がいた。
殺そうと思えば容易い。が、リッドは頬杖をついたまま、か弱い生物を見るともなしに見ていた。
鼠もしばし、つぶらな瞳をリッドに向けていた。
が、突如何かを察知したのかのように物陰に逃げ込んだ、次の瞬間――
大気が震えた。
耳障りな雑音とともに、嵐のごとき少女の声が響き渡った。
耳障りな雑音とともに、嵐のごとき少女の声が響き渡った。
『皆聞える!? 私はファラ、ファラ・エルステッド!――』
ファラ、だった。
『皆に聞いて欲しい事があって、C3の村から喋っているの! 聞える? リッド、キール、メルディ!』
「なっ―――これは……!?」
ソファから跳ね起きるキールを視線の端で捉えながら、リッドは立ち上がる。
耳慣れた少女の声。しかし直感的にリッドの脳裏をよぎったのは、安堵よりも暗い不安だった。
何か、何かがおかしい。
すぐに幼馴染の異変を看破したリッドは、無意識に剣の柄に手をかけていた。
ファラ、だった。
『皆に聞いて欲しい事があって、C3の村から喋っているの! 聞える? リッド、キール、メルディ!』
「なっ―――これは……!?」
ソファから跳ね起きるキールを視線の端で捉えながら、リッドは立ち上がる。
耳慣れた少女の声。しかし直感的にリッドの脳裏をよぎったのは、安堵よりも暗い不安だった。
何か、何かがおかしい。
すぐに幼馴染の異変を看破したリッドは、無意識に剣の柄に手をかけていた。
キール・ツァイベルは表情を強張らせてファラの悲壮な叫びを聞いた。
『最後に……リッド、キール、それにメルディ!! 私、げほっ、リッド達をごほっ、信じてるんだからね!! げほっ、リッド達ならイケる、イケるよね!?』
その言葉が最後だった。
重苦しい沈黙が場を支配した。
C3の村。そこにファラがいる。
ところどころ、知らない男性の声が混じっていたが――この際、些細なことだ。
重苦しい沈黙が場を支配した。
C3の村。そこにファラがいる。
ところどころ、知らない男性の声が混じっていたが――この際、些細なことだ。
咳き込むファラの声。そこに見え隠れする死の色。
(くっ……)
与えられた情報をまとめようと試みる。
しかし、激昂した仲間を前に、混乱する思考を噛み砕く猶予はキールになかった。
「待て、リッド!」
「!!何言ってんだ!!?」
既に出口に向かいかけていたリッドが振り返る。彼の顔面は蒼白だった。
「今の、あの放送、聞いただろ!」
「……拡声器を使ったようだな」
「んなことはどうでもいい!早く、早く行かねえと――ファラが!!」
「僕だって判っているっ!」
思わずキールも声を荒げた。
拡声器を使ったファラの願い。まったくファラらしいとしか言いようが無いその行動。
しかし、ここはそんな彼女らしさを微笑ましく思える場所ではない。
殺し合いの役者が揃えられた、殺し合いの舞台なのだ。
与えられた情報をまとめようと試みる。
しかし、激昂した仲間を前に、混乱する思考を噛み砕く猶予はキールになかった。
「待て、リッド!」
「!!何言ってんだ!!?」
既に出口に向かいかけていたリッドが振り返る。彼の顔面は蒼白だった。
「今の、あの放送、聞いただろ!」
「……拡声器を使ったようだな」
「んなことはどうでもいい!早く、早く行かねえと――ファラが!!」
「僕だって判っているっ!」
思わずキールも声を荒げた。
拡声器を使ったファラの願い。まったくファラらしいとしか言いようが無いその行動。
しかし、ここはそんな彼女らしさを微笑ましく思える場所ではない。
殺し合いの役者が揃えられた、殺し合いの舞台なのだ。
「ファラの呼びかけは、マグニスやバルバトス…他にもいるかもしれない殺人者の、格好の、的だ」
苦渋に満ちたキールの呟きに、リッドは耳を疑った。
苦渋に満ちたキールの呟きに、リッドは耳を疑った。
「まさか――ファラを見捨てろってのか!!」
「馬鹿を言うな!ただ、迂闊に動くのは危険だと――」
「迂闊も何もあるか!ファラが……苦しんでるってときに……!!」
「…………」
絶句するキールに、リッドは吐き捨てた。
「だいたい、もっと早く動くべきだったんだ!ここからならファラのいる場所はそう遠くねえ!
夜通し探せば合流できたかもしれねえ!ファラが襲われたとき……守ってやれたかもしれねえっ!!
ミクトランのことも、脱出法も、後回しで良かったんだ!!」
「馬鹿を言うな!ただ、迂闊に動くのは危険だと――」
「迂闊も何もあるか!ファラが……苦しんでるってときに……!!」
「…………」
絶句するキールに、リッドは吐き捨てた。
「だいたい、もっと早く動くべきだったんだ!ここからならファラのいる場所はそう遠くねえ!
夜通し探せば合流できたかもしれねえ!ファラが襲われたとき……守ってやれたかもしれねえっ!!
ミクトランのことも、脱出法も、後回しで良かったんだ!!」
それがとどめだった。
結果論でしかなかった。しかし事実には違いなかった。
キールの顔から血の気が引いた。
そのキールに冷たい一瞥を向け、風と化したリッドが地を蹴った。
結果論でしかなかった。しかし事実には違いなかった。
キールの顔から血の気が引いた。
そのキールに冷たい一瞥を向け、風と化したリッドが地を蹴った。
「くそ……!」
残されたキールも、もはや躊躇することはできなかった。
リッドの後を追って走り出す。
生来、体力のない彼が、エルヴンマントに身を包んだ全速力のリッドに追いつける筈がない。
だがキールとてファラを放置するつもりはなかった。それに……。
(メルディ……)
彼もまた、言い知れない不安に突き動かされていた。
残されたキールも、もはや躊躇することはできなかった。
リッドの後を追って走り出す。
生来、体力のない彼が、エルヴンマントに身を包んだ全速力のリッドに追いつける筈がない。
だがキールとてファラを放置するつもりはなかった。それに……。
(メルディ……)
彼もまた、言い知れない不安に突き動かされていた。
うっすらと霞む森の影で鳥が一声鳴いた。
協力を促すはずのファラの行動が、彼女の仲間にもたらした皮肉を嘲笑うようだった。
しかしリッドは気付かない。
見下ろす木々の間を、ただ、駆ける。
協力を促すはずのファラの行動が、彼女の仲間にもたらした皮肉を嘲笑うようだった。
しかしリッドは気付かない。
見下ろす木々の間を、ただ、駆ける。
少女の無事、それだけを祈りながら―――
【リッド・ハーシェル 生存確認】
状態:背中に刀傷(9割回復)
所持品:ムメイブレード、エルヴンマント
基本行動方針:仲間と合流
第一行動方針:C3へ向かう
現在位置:B2の森
状態:背中に刀傷(9割回復)
所持品:ムメイブレード、エルヴンマント
基本行動方針:仲間と合流
第一行動方針:C3へ向かう
現在位置:B2の森
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:全身打撲(回復中 現在9割回復)
所持品:ベレット、ホーリィリング
基本行動方針:リッドと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す
第一行動方針:C3へ向かう
現在位置:B2の塔付近
状態:全身打撲(回復中 現在9割回復)
所持品:ベレット、ホーリィリング
基本行動方針:リッドと共に行動。ファラ、メルディと合流し、脱出法を探し出す
第一行動方針:C3へ向かう
現在位置:B2の塔付近