朝の陰
「はあっ、はあっ…。ここまで来れば誰も来ないでしょう。」
小さな影は高台の上に止まり仮初の休息を取る。すでに、城は見えない。
いや、仮に城の近くにいたとしても見ることは叶わないが。
小さな影は高台の上に止まり仮初の休息を取る。すでに、城は見えない。
いや、仮に城の近くにいたとしても見ることは叶わないが。
本来なら城の崩壊を確認して動くべきだったのだが
他にも避難し終わった魔術師の男がいたためその場を直ぐ離れた。
一応あの男は自分たちを助けに来てくれたのではあるが、仲間を露骨に敵への当て馬
にしたり漁夫の利を狙うタイミングで乱入してくる辺りに崩壊の前から不信感は
あった。何より奴に似た空気を纏っていた、あのサディスト、悦楽至上主義者に。
他にも避難し終わった魔術師の男がいたためその場を直ぐ離れた。
一応あの男は自分たちを助けに来てくれたのではあるが、仲間を露骨に敵への当て馬
にしたり漁夫の利を狙うタイミングで乱入してくる辺りに崩壊の前から不信感は
あった。何より奴に似た空気を纏っていた、あのサディスト、悦楽至上主義者に。
しかしそれらは全て建前、後付の理由であることも分かっていた。
城の崩壊を、残った4人を、全て見殺しにした自分を、直視できなかったのだ。
後ろから降り注ぐ光すら、あの時は唯疎ましかった。
夢ならば覚めて欲しい。しかし手に持つ1本の剣がそれを許さない。
「クラトスさん…」
透き通るような蒼、少年の仲間が言った「輝ける青」、有るとするならきっとこんな色だと
思う。そんな剣を託した一人の剣士の言葉、遺言がリフレインする。
(情に弱く、理屈に疎く、どうしようもない奴だが、私の―――)
城の崩壊を、残った4人を、全て見殺しにした自分を、直視できなかったのだ。
後ろから降り注ぐ光すら、あの時は唯疎ましかった。
夢ならば覚めて欲しい。しかし手に持つ1本の剣がそれを許さない。
「クラトスさん…」
透き通るような蒼、少年の仲間が言った「輝ける青」、有るとするならきっとこんな色だと
思う。そんな剣を託した一人の剣士の言葉、遺言がリフレインする。
(情に弱く、理屈に疎く、どうしようもない奴だが、私の―――)
「自慢の息子だ…か。さぞや馬鹿息子なんでしょうね。」
口では皮肉を言うがその頬を流れるものがある、涙。
「僕にもしも親がいたなら…あんな風に言ってくれるのかな?」
少年は天涯孤独の身だった。物心付いた時にはすでにソロンの下で修行を行っていた。
苛烈な虐待の末、不要になって捨てられ、モフモフ族に拾われて、
冒険の末には沢山の仲間たちが、家族が出来た。
しかしそれでも彼は生みの親を求めていた、その唯一の手がかりである
生まれたときから持っていた鈴を後生大事に持っているのがその証左である。
そんな少年にあの剣士の遺言は思う所があったのだろう。
口では皮肉を言うがその頬を流れるものがある、涙。
「僕にもしも親がいたなら…あんな風に言ってくれるのかな?」
少年は天涯孤独の身だった。物心付いた時にはすでにソロンの下で修行を行っていた。
苛烈な虐待の末、不要になって捨てられ、モフモフ族に拾われて、
冒険の末には沢山の仲間たちが、家族が出来た。
しかしそれでも彼は生みの親を求めていた、その唯一の手がかりである
生まれたときから持っていた鈴を後生大事に持っているのがその証左である。
そんな少年にあの剣士の遺言は思う所があったのだろう。
しばし静かに泣いた後、少年は決意を新たにした。少々目元が赤くなっているが
気迫のようなものが感じられる。
「さて、食事がてらこれからの予定を立て直しますか。」
ジェイはデイバックの中からパンを出し、口に入れる。
ホタテが無いことに少し不満を覚えながら、自分のすべきことを確認する。
「シャーリィさんの保護、ミントさんへの合流、そしてこの剣を…あ。」
ここで彼は気付く。剣を渡すべき剣士の息子の名前を知らないのだ。
「まったく、なんで教えてくれなかったんでしょう?わざわざ
知らせたくない、あるいは聞かせたくない理由でも有ったんでしょうか。」
クラトスが知っていたかどうかは分からないが、確かに盗聴の可能性は極めて高い。
しかし少年は放送2回うち、一回は生きていたミント、2回目は死んでいた
ソロンの事実に驚愕していてまだその可能性に気付いていない。
ましてやこの剣が持つその意味合いに気付けるはずが無い。
「まあいいでしょう。二刀流の剣士なんてそういるはずが無いし、
そういう言い方をするんだからそいつが現在二刀流である確信があるんでしょうし。
ともかくそいつにこの剣を渡す。そしてこのゲームからの脱出、ですね。」
気迫のようなものが感じられる。
「さて、食事がてらこれからの予定を立て直しますか。」
ジェイはデイバックの中からパンを出し、口に入れる。
ホタテが無いことに少し不満を覚えながら、自分のすべきことを確認する。
「シャーリィさんの保護、ミントさんへの合流、そしてこの剣を…あ。」
ここで彼は気付く。剣を渡すべき剣士の息子の名前を知らないのだ。
「まったく、なんで教えてくれなかったんでしょう?わざわざ
知らせたくない、あるいは聞かせたくない理由でも有ったんでしょうか。」
クラトスが知っていたかどうかは分からないが、確かに盗聴の可能性は極めて高い。
しかし少年は放送2回うち、一回は生きていたミント、2回目は死んでいた
ソロンの事実に驚愕していてまだその可能性に気付いていない。
ましてやこの剣が持つその意味合いに気付けるはずが無い。
「まあいいでしょう。二刀流の剣士なんてそういるはずが無いし、
そういう言い方をするんだからそいつが現在二刀流である確信があるんでしょうし。
ともかくそいつにこの剣を渡す。そしてこのゲームからの脱出、ですね。」
筆記用具に記述をしながら思考を巡らせる、普段ならそんなことはしないが
紙に書いて入念に脳裏に刻み付ける。
「まずシャーリィさんですが、気の毒ですが彼女は後回しにしましょう。
この24時間を無事に生きているということは誰か強い人間に守られているんでしょうし。」
正直な話、少年の仲間の内最初に脱落するのは彼女だと思っていた。
単純なバイタリティの問題である。しかし現実にはセネルやモーゼス、あの不死身の
マウリッツやソロンが脱落する中現在も死亡確認されていない。
考えられるのはかなり強く尚且つ優しい人間たちと最初に出会い、守られている
ということである。実際彼の仮説は当たっていた、12時間前までは。
ともかく多少楽観的ではあるが体が一つしかない以上効率を考えなければならない。
紙に書いて入念に脳裏に刻み付ける。
「まずシャーリィさんですが、気の毒ですが彼女は後回しにしましょう。
この24時間を無事に生きているということは誰か強い人間に守られているんでしょうし。」
正直な話、少年の仲間の内最初に脱落するのは彼女だと思っていた。
単純なバイタリティの問題である。しかし現実にはセネルやモーゼス、あの不死身の
マウリッツやソロンが脱落する中現在も死亡確認されていない。
考えられるのはかなり強く尚且つ優しい人間たちと最初に出会い、守られている
ということである。実際彼の仮説は当たっていた、12時間前までは。
ともかく多少楽観的ではあるが体が一つしかない以上効率を考えなければならない。
「次にミントさん。絶対謝罪しなくちゃいけないけど…彼女は何処にいるか
分からずに探すにはリスクがでかすぎる。」
自分が殺しかけた少女、ミント。ソロンのせいにすることは出来るが元は自身の心の
弱さが招いた結果。なんとしてもこの手で謝りたい。しかし彼女に出逢ったのは
一日目の朝、一回目の放送で辛うじて生きていたとしても2回目の放送で
死んでいるはずである。
しかし生きているということはあの状況から回復しているということだ。
彼女はヒーラーであり、わりがちありえない話ではない。
しかし2、3時間ならともかく12時間以上あればこの島の何処にでもいける。
捜索範囲が広すぎて打つ手が無いのが現状だ。
それでも彼女の人間的甘さを考えるとあまり悠長にはしていられない。
分からずに探すにはリスクがでかすぎる。」
自分が殺しかけた少女、ミント。ソロンのせいにすることは出来るが元は自身の心の
弱さが招いた結果。なんとしてもこの手で謝りたい。しかし彼女に出逢ったのは
一日目の朝、一回目の放送で辛うじて生きていたとしても2回目の放送で
死んでいるはずである。
しかし生きているということはあの状況から回復しているということだ。
彼女はヒーラーであり、わりがちありえない話ではない。
しかし2、3時間ならともかく12時間以上あればこの島の何処にでもいける。
捜索範囲が広すぎて打つ手が無いのが現状だ。
それでも彼女の人間的甘さを考えるとあまり悠長にはしていられない。
「次は馬鹿息子。これにいたっては論外ですね、情報が少なすぎる。」
分かっていることはバカな事と二刀流であること、どちらも個人的情報で
場所を特定できない。しかしなぜ彼はこんな言い方をしたのか、時間が無いにせよ
情報を隠匿するにせよもう少し言い方があるはずでは?まさかただの親バカ?
と思ったあたりで考えを停止した。幾らなんでも故人に鞭を打つような真似は慎むべきである。
実際当たらずとも遠からずなのだが。
分かっていることはバカな事と二刀流であること、どちらも個人的情報で
場所を特定できない。しかしなぜ彼はこんな言い方をしたのか、時間が無いにせよ
情報を隠匿するにせよもう少し言い方があるはずでは?まさかただの親バカ?
と思ったあたりで考えを停止した。幾らなんでも故人に鞭を打つような真似は慎むべきである。
実際当たらずとも遠からずなのだが。
「結局手がかりは0か…当面は情報集収ですね。
とすると情報の整理…といっても一つしかありませんか。」
一つとはあの声のこと、青い凶戦士と戦っていた際聞こえたあの悲痛な声のことである。
「C3村、声の主を助けたいのは山々ですが、あの声を聞く限り恐らくもう…
ましてやあの声に集った人はマーダーの格好の餌だ。一人で何とかできる問題じゃない。」
少年は己の無力さを痛感した。助けようとして凶戦士に飛び掛ったはいいが結果は
あわや返り討ちになるかと言った所。決して臆病風に吹かれたわけではない、
命を無くしては何も守れないからだ。無謀と勇気は根本的に違う、少年はそれを
シャーリィから教わった。ソロンに家族を人質に取られた、あの事件の時に。
「北を避けて東に行ってみますか。第一、少し頭を働かせればあそこが
危険地帯になることなんて分かりきってるじゃないか。そんな所に行くのは
モーゼスさんのような大バカかセネルさんみたいな大甘…」
そこまで言って少年は口を噤む。あんな危険地帯に行くのは大馬鹿か、大甘…
「まさかクラトスさんが言ってたのはこのことか?!それにミントさんも!!」
彼は慌てて荷物を片付け始める。少し頭を働かせれば分かること、危険地帯だろうが
何だろうが困っている人を放って置けない危険な人種が確実にいることを失念していた。
とすると情報の整理…といっても一つしかありませんか。」
一つとはあの声のこと、青い凶戦士と戦っていた際聞こえたあの悲痛な声のことである。
「C3村、声の主を助けたいのは山々ですが、あの声を聞く限り恐らくもう…
ましてやあの声に集った人はマーダーの格好の餌だ。一人で何とかできる問題じゃない。」
少年は己の無力さを痛感した。助けようとして凶戦士に飛び掛ったはいいが結果は
あわや返り討ちになるかと言った所。決して臆病風に吹かれたわけではない、
命を無くしては何も守れないからだ。無謀と勇気は根本的に違う、少年はそれを
シャーリィから教わった。ソロンに家族を人質に取られた、あの事件の時に。
「北を避けて東に行ってみますか。第一、少し頭を働かせればあそこが
危険地帯になることなんて分かりきってるじゃないか。そんな所に行くのは
モーゼスさんのような大バカかセネルさんみたいな大甘…」
そこまで言って少年は口を噤む。あんな危険地帯に行くのは大馬鹿か、大甘…
「まさかクラトスさんが言ってたのはこのことか?!それにミントさんも!!」
彼は慌てて荷物を片付け始める。少し頭を働かせれば分かること、危険地帯だろうが
何だろうが困っている人を放って置けない危険な人種が確実にいることを失念していた。
動揺するも思考は止めない。あの声から時間が経過している。
近い人間ならもう到着しているだろう、迂闊に村に入るわけには行かない。
自分の命を確保しつつ村に近づく参加者の情報を得る…手堅いのは身を潜め村への
出入りを調べること。少年は地図を広げ調べる。村への進入ルートは大別して
北西、東、南。南は移動の最中に把握できる、北西は来るとしたら既に入村
している可能性が大。北西の森から村の情報を素早く探れば9割把握できるだろう。
その後東、東の橋を押さえて参加者の動向を探る。
東側には森がある、潜んで探りを入れるには格好のポイント。ここに潜む。
橋を通るリスクがあるが西端の草原に立っているのは自殺行為だ。最小の手数で切り抜ける。
万が一森に先客が潜んでいる場合は仕方が無い、
交渉して退いてもらえないなら威嚇するしかない。
近い人間ならもう到着しているだろう、迂闊に村に入るわけには行かない。
自分の命を確保しつつ村に近づく参加者の情報を得る…手堅いのは身を潜め村への
出入りを調べること。少年は地図を広げ調べる。村への進入ルートは大別して
北西、東、南。南は移動の最中に把握できる、北西は来るとしたら既に入村
している可能性が大。北西の森から村の情報を素早く探れば9割把握できるだろう。
その後東、東の橋を押さえて参加者の動向を探る。
東側には森がある、潜んで探りを入れるには格好のポイント。ここに潜む。
橋を通るリスクがあるが西端の草原に立っているのは自殺行為だ。最小の手数で切り抜ける。
万が一森に先客が潜んでいる場合は仕方が無い、
交渉して退いてもらえないなら威嚇するしかない。
荷物をデイバックにいれ、メモはクシャクシャにして高台の下に捨てた。
焼却する時間が今は惜しい。少年は素早く走り始めた。少年はさらに急ぐ、忍者の速度で。
北西の森へ、東の橋へ、東の森へ急ぐ。会わねばならない人の無事を祈りながら。
焼却する時間が今は惜しい。少年は素早く走り始めた。少年はさらに急ぐ、忍者の速度で。
北西の森へ、東の橋へ、東の森へ急ぐ。会わねばならない人の無事を祈りながら。
少年は人間で、神ではない。だから知らない。
二刀流の人間が2人いることを、
シャーリィが既に自分の知る彼女ではなくなったことを、
ミントが自分のいた城跡の近くにいたことを、
馬鹿息子が橋にいることを。
二刀流の人間が2人いることを、
シャーリィが既に自分の知る彼女ではなくなったことを、
ミントが自分のいた城跡の近くにいたことを、
馬鹿息子が橋にいることを。
そしてこの後何が起こりうるのかなど、誰も知らない。
【ジェイ 生存確認】
状態:頸部に切傷 全身にあざ
所持品:忍刀・雷電 ダーツセット クナイ(三枚) ヴォーパルソード
第一行動方針:B2の森を経由してB5森へ移動しつつ参加者のチェック
クラトスの息子・ミントの発見を最優先、B5までは最速で行動
第二行動方針:クラトスの息子に剣を渡す
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:シャーリィと合流
現在位置:D2高台
状態:頸部に切傷 全身にあざ
所持品:忍刀・雷電 ダーツセット クナイ(三枚) ヴォーパルソード
第一行動方針:B2の森を経由してB5森へ移動しつつ参加者のチェック
クラトスの息子・ミントの発見を最優先、B5までは最速で行動
第二行動方針:クラトスの息子に剣を渡す
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:シャーリィと合流
現在位置:D2高台
_*メモはD2平野部に放置