ターニング・ポイント
「…こんな近くに死体があったのか…」
移動して間もなくのことだった。
C4の橋へ向かう途中の森で、2人が見つけたのは亡骸であった。
後方を歩いていたヴェイグは発見した途端、驚愕と苦痛に顔を歪める。
前方を歩いていたジューダスは予め分かっていたかのように、淡々と息をつく。
彼の表情は別段変わりはしなかった。後ろ姿しか見えないヴェイグにもそれは分かった。
理由は明快、ジューダスは昨夜ロイドと共にこの亡骸を見ているのだ。
ましてや常に冷静なジューダスのこと、以前見つけた死体を発見して取り乱す訳もない。
ただ、1つ反応が変わった点を示すとすれば、一帯に漂う鼻につく異臭だろうか。
彼らの名が呼ばれたのは第1回の放送。
大きく見て、死亡してから丸1日経過していることになる。少しでも腐敗が始まっていてもおかしくはない。
鼻を覆いたくなるような臭いに、自然と吐き気と咳が込み上げてくる。しかし、2人はそれを抑える。
片や火傷の酷い淡い青の髪の男性。
片や狂喜に歪み血に染まった男性。
C4の橋へ向かう途中の森で、2人が見つけたのは亡骸であった。
後方を歩いていたヴェイグは発見した途端、驚愕と苦痛に顔を歪める。
前方を歩いていたジューダスは予め分かっていたかのように、淡々と息をつく。
彼の表情は別段変わりはしなかった。後ろ姿しか見えないヴェイグにもそれは分かった。
理由は明快、ジューダスは昨夜ロイドと共にこの亡骸を見ているのだ。
ましてや常に冷静なジューダスのこと、以前見つけた死体を発見して取り乱す訳もない。
ただ、1つ反応が変わった点を示すとすれば、一帯に漂う鼻につく異臭だろうか。
彼らの名が呼ばれたのは第1回の放送。
大きく見て、死亡してから丸1日経過していることになる。少しでも腐敗が始まっていてもおかしくはない。
鼻を覆いたくなるような臭いに、自然と吐き気と咳が込み上げてくる。しかし、2人はそれを抑える。
片や火傷の酷い淡い青の髪の男性。
片や狂喜に歪み血に染まった男性。
面影は変わっていない。
どちらも血の気は失せ、本来なら温もりの色の根源である自身の血に塗れながらも、土色の肌がやけにはっきりと映えている。
リアルな「死」が見えたような気がした。
双方傷は酷い。余程の死闘だったのだろう。
至る所に血が付着しているのは、大地も同じだった。黒褐色と化した大量の血痕が地にこびり付いている。
相討ち。
その短い言葉がぱっと頭を過ぎり、留まった。
どちらも血の気は失せ、本来なら温もりの色の根源である自身の血に塗れながらも、土色の肌がやけにはっきりと映えている。
リアルな「死」が見えたような気がした。
双方傷は酷い。余程の死闘だったのだろう。
至る所に血が付着しているのは、大地も同じだった。黒褐色と化した大量の血痕が地にこびり付いている。
相討ち。
その短い言葉がぱっと頭を過ぎり、留まった。
「ヴェイグ」
「何だ…」
「後ろを向いていろ。見ない方がいい」
「何だ…」
「後ろを向いていろ。見ない方がいい」
後ろのヴェイグを見ないまま、ジューダスは機械のように呟いた。
感情は極力排除されている。
その言葉で、ヴェイグは今から彼が何を成そうとしているのか直ぐに理解できた。
一度は沈痛な表情を落とすものの、直ぐに首を左右に振り、否定の意を表す。
自分も目を背ける訳にはいかないのだ。過去と、現在と、未来から。
そして彼は深く息を吸い一言紡ぐ、「…大丈夫だ」と。
感情は極力排除されている。
その言葉で、ヴェイグは今から彼が何を成そうとしているのか直ぐに理解できた。
一度は沈痛な表情を落とすものの、直ぐに首を左右に振り、否定の意を表す。
自分も目を背ける訳にはいかないのだ。過去と、現在と、未来から。
そして彼は深く息を吸い一言紡ぐ、「…大丈夫だ」と。
「…そうか」
一言の返答の後、鞘を掠る音が鳴る。
黒衣に輝く冷たき刃。
それは金属特有の冷たさでもあり、彼の心の冷たさでもある。
だがどこか不完全な、冷たさ。
黒衣に輝く冷たき刃。
それは金属特有の冷たさでもあり、彼の心の冷たさでもある。
だがどこか不完全な、冷たさ。
(すまない…僕の愚かしい行為を…許せ…!)
彼は振り下ろす。
紺碧の空の下、躊躇いと悲哀の中で鈍く煌めく刃を。
彼は祈る。
深緑の森の中、死に行く者に安らぎが有らんことを。
決して形式ではなく、本物の行為。
紺碧の空の下、躊躇いと悲哀の中で鈍く煌めく刃を。
彼は祈る。
深緑の森の中、死に行く者に安らぎが有らんことを。
決して形式ではなく、本物の行為。
ごとん
橋というものは、流れというものに遮られた2つを、1つに結ぶものであって。
その上では様々な人が行き交い、出会い、擦れ違い、別れる。
向こう側に広がる世界は新しくて、
云うなれば、ひとつのターニング・ポイント。
その上では様々な人が行き交い、出会い、擦れ違い、別れる。
向こう側に広がる世界は新しくて、
云うなれば、ひとつのターニング・ポイント。
「これは…!?」
目の前の光景は、土で汚れた手の2人が予想していたより余程凄まじかった。
木造の橋は損傷し、真ん中にはぽっかりと穴が開いている。
縁も所々壊れ、下手をすれば海に落下してしまう程だった。
組立てと支柱がしっかりしているため、橋としての役割は機能しているのはまだ不幸中の幸いという所か。
ここで何が起きたのか。この場に居なかった2人には知る由も分かる訳もなく、ただ取り残された惨状を見つめる。
ただし、先程とは別。惨状という名の切り離された風景画の中には、明らかに足りないパーツがあり、不自然だった。
さあさあと波の優しくも無常な音はそれを教えてはくれず、ただ世界が無音の領域にならぬようにと必死にその身を揺らめかせている。
その切り離された世界に入り込む、黒と銀の2人の剣士。
剣士の存在は、世界を埋めるパーツとしては不適な存在であったが、それも知らない2人はずかずかと足を進めていった。
木造の橋は損傷し、真ん中にはぽっかりと穴が開いている。
縁も所々壊れ、下手をすれば海に落下してしまう程だった。
組立てと支柱がしっかりしているため、橋としての役割は機能しているのはまだ不幸中の幸いという所か。
ここで何が起きたのか。この場に居なかった2人には知る由も分かる訳もなく、ただ取り残された惨状を見つめる。
ただし、先程とは別。惨状という名の切り離された風景画の中には、明らかに足りないパーツがあり、不自然だった。
さあさあと波の優しくも無常な音はそれを教えてはくれず、ただ世界が無音の領域にならぬようにと必死にその身を揺らめかせている。
その切り離された世界に入り込む、黒と銀の2人の剣士。
剣士の存在は、世界を埋めるパーツとしては不適な存在であったが、それも知らない2人はずかずかと足を進めていった。
恐らく先程の音源はここだろう。2人はこれを見て直感する。
しかし、人影はない。それは生ある者も死す者も同じだった。
不揃いのパーツの第1。
しかし、人影はない。それは生ある者も死す者も同じだった。
不揃いのパーツの第1。
「…まさか、海に落ちたのか?」
「! ここはB4の近くだ、もし禁止エリアに流れついたら…!」
「! ここはB4の近くだ、もし禁止エリアに流れついたら…!」
黒衣の剣士は躊躇いもせず言い放つ。
銀髪の剣士は狼狽えて低音を荒げる。
銀髪の剣士は狼狽えて低音を荒げる。
「だが、禁止エリアに行き着いたとしても、確認出来ないのも事実だ。それにこの話はあくまで仮定…証拠はない」
それをまた黒衣の剣士は冷静に言い返す。
その視線の先は傷つけられながらも無言で佇む痛々しい橋。
それに釣られ見た銀髪の剣士は、足りないパーツの2つ目に気付く。
歩を進め、彼が止まった箇所は橋の少し奥であった。
そして碧眼を亜麻色の足元に向ける。俯いた顔に広がるは微かな笑み。
その視線の先は傷つけられながらも無言で佇む痛々しい橋。
それに釣られ見た銀髪の剣士は、足りないパーツの2つ目に気付く。
歩を進め、彼が止まった箇所は橋の少し奥であった。
そして碧眼を亜麻色の足元に向ける。俯いた顔に広がるは微かな笑み。
「…血痕が全くないな」
そこには、少量の血。
「ああ。戦いが起きたのならもう少し血が残る。ロイドやメルディも無事の可能性は高いと考えていいだろう」
貫かれたような穴から、何者かの熾烈な抗争があったのは分かる。
しかし、その大きな傷痕と比例する筈の、流れたであろう血は全くと言ってもいい程に無い。
しかし、その大きな傷痕と比例する筈の、流れたであろう血は全くと言ってもいい程に無い。
あるのは軽く吐血したような一箇所に広がる血痕のみ。
これが違和感、不揃いのパーツの第2。
そして、
これが違和感、不揃いのパーツの第2。
そして、
「何より、武器がなくて残念だったなヴェイグ」
「…残念だと言っているように聞こえないのは気のせいか?」
「…残念だと言っているように聞こえないのは気のせいか?」
偽りの目的であった武器の存在、不揃いのパーツの第3。
まあ、これに限っては無くても構わない。何せ虚言。
だがこの場に武器がないということは、他の状況と共に考えれば無事の証拠となる。
銀の剣士──ヴェイグ・リュングベルは顔を向ける。
黒の剣士──ジューダスへ。
ヴェイグの表情は安堵に染まっており、心なしか向けられているジューダスも同じように見える。
未完成の惨事の世界。
即ち、別離した2人の平安を意味していた。
まあ、これに限っては無くても構わない。何せ虚言。
だがこの場に武器がないということは、他の状況と共に考えれば無事の証拠となる。
銀の剣士──ヴェイグ・リュングベルは顔を向ける。
黒の剣士──ジューダスへ。
ヴェイグの表情は安堵に染まっており、心なしか向けられているジューダスも同じように見える。
未完成の惨事の世界。
即ち、別離した2人の平安を意味していた。
一瞬、空気が澄み渡る。
汚れた手と纏う青い光からは冷気が溢れ、研ぎ澄まされた鋭い音と共に氷が張っていく。
広げられた手の先は、術でえぐられた橋の穴。
海への口は氷により閉じられ、その奥で反抗するかのように波が荒れていた。
汚れた手と纏う青い光からは冷気が溢れ、研ぎ澄まされた鋭い音と共に氷が張っていく。
広げられた手の先は、術でえぐられた橋の穴。
海への口は氷により閉じられ、その奥で反抗するかのように波が荒れていた。
「…相変わらず、不思議な術だな」
「…不思議という感覚はないんだがな」
「…不思議という感覚はないんだがな」
ジューダスはヴェイグが用いる氷のフォルスを見て呟く。
ヴェイグは訝るような表情で手を戻し答える。
ヴェイグは訝るような表情で手を戻し答える。
(マナを感じさせないフォルス。
晶術はレンズから引き出す晶力…メルディが使った晶霊術とやらは、確か晶霊という存在をケイジに取り入れ、力を行使する…だが、それもこの世界ではマナと同意義とされているようだ)
晶術はレンズから引き出す晶力…メルディが使った晶霊術とやらは、確か晶霊という存在をケイジに取り入れ、力を行使する…だが、それもこの世界ではマナと同意義とされているようだ)
軽く両腕を重ね思考に潜る。
この世界の構造。
まず、ここは自分がいた世界でないのは確実だ。そうでなければマナなど要らない。
だからと言って、参加者の誰かの世界とも考えにくい。
今まで殆ど森に居たが、かつて自分が見たことのある植物も、全く知らない植物も存在していた。
単純に考えればジグソーパズルのように、様々な世界の、上手くはまる欠片を繋ぎ合わせたようなものだろう。
つまり、誰の世界でもなくミクトランが作り出した世界。それが複雑なマナの示す事実だ。
──だが、それぞれのパズルから少しずつ拝借したピースで、1つの絵が完成するのか?
否、出来上がるのは表現し難い絵。不明瞭なモザイク。非・完璧。
未完の絵となるように、ここも未完の世界なのである。
そして未完である以上、必ず穴がある。
この世界の構造。
まず、ここは自分がいた世界でないのは確実だ。そうでなければマナなど要らない。
だからと言って、参加者の誰かの世界とも考えにくい。
今まで殆ど森に居たが、かつて自分が見たことのある植物も、全く知らない植物も存在していた。
単純に考えればジグソーパズルのように、様々な世界の、上手くはまる欠片を繋ぎ合わせたようなものだろう。
つまり、誰の世界でもなくミクトランが作り出した世界。それが複雑なマナの示す事実だ。
──だが、それぞれのパズルから少しずつ拝借したピースで、1つの絵が完成するのか?
否、出来上がるのは表現し難い絵。不明瞭なモザイク。非・完璧。
未完の絵となるように、ここも未完の世界なのである。
そして未完である以上、必ず穴がある。
「? どうした、ジューダス…」
「いや、何でもない」
「いや、何でもない」
声をかけられて、やっと自分が深く思考に潜っていたことに気付く。
いつの間にか近くにいたヴェイグが心配そうな顔で見ていた。
ひらひらと小さく手を振る。が、その行動とは裏腹に思考は止まる余地を知らない。
いつの間にか近くにいたヴェイグが心配そうな顔で見ていた。
ひらひらと小さく手を振る。が、その行動とは裏腹に思考は止まる余地を知らない。
(…何故だ。どうして引っ掛かっている? この違和感は一体…)
それは前々からあった。
明らかに自分の中に疑念が生まれていた。
複雑な世界に生まれる欠陥。
複雑な世界と同じ、複雑なマナ。
明らかに自分の中に疑念が生まれていた。
複雑な世界に生まれる欠陥。
複雑な世界と同じ、複雑なマナ。
(…マナを感じさせない? ……。…他は…? ……。
…似て…否なるもの?)
…似て…否なるもの?)
疑念が、正体を現す。
「…頭でも痛いのか?」
「何故だ」
「…眉間に皴が寄っていた」
「何故だ」
「…眉間に皴が寄っていた」
再び思考から呼び覚ます声が聞こえた。ヴェイグの声だ。だが、今の発言はジューダスとしては聞き捨てならない。
一度思考を捨て、ふぅ、と一息つき斜に構えた顔で声の主を見下す。
いや、身長差を考えて仰ぐと言った方が正しいのか。
一度思考を捨て、ふぅ、と一息つき斜に構えた顔で声の主を見下す。
いや、身長差を考えて仰ぐと言った方が正しいのか。
「…僕はそんな風に言われるほど年を食ってないと思うがな」
「意外と苦労性なのか?」
「いい加減その口を閉じないと命がないぞ」
「意外と苦労性なのか?」
「いい加減その口を閉じないと命がないぞ」
そこまで言って、ふっと笑う。
つい数日前までにはあった、不思議な懐かしさ。ちょっとしたホームシック。
つい数日前までにはあった、不思議な懐かしさ。ちょっとしたホームシック。
共に行動し旅をしていた仲間達と、何となく重なったような気がした。
その内の1人は欠けてしまった。もう、戻りはしない日々。
だからと言って、いつまでも悲しみはしない。
1人足りない時は、いつも自分がもう1人分の力を出してきた。
それは今でも、こんなゲームでも変わらない。変わるのは、どこに力を出すか。
その内の1人は欠けてしまった。もう、戻りはしない日々。
だからと言って、いつまでも悲しみはしない。
1人足りない時は、いつも自分がもう1人分の力を出してきた。
それは今でも、こんなゲームでも変わらない。変わるのは、どこに力を出すか。
(…まだ独りよがりの予測の範囲だ。抜けはしない。だが…)
彼は仮面の紐のような飾りを揺らし、怪訝そうな表情の青年を見る。
(ヴェイグの存在は、ミクトランにとって予想だにしなかった「誤算」なのかもしれない…)
その先に見えたのは、彼の仮定が見出だした「希望」の1つだったのかもしれない。
勿論、本人は知る由もなくて。
勿論、本人は知る由もなくて。
「…そろそろ良いんじゃないか?」
沈黙に思わず問い掛ける銀髪の剣士。
問い掛けに頷く黒衣の剣士。
そして歩き始める。
離れ離れになった少年少女の無事を信じて。
橋の向こうは新世界、引き返して見える見慣れた世界もまた、以前と変わって見えて新しい。
問い掛けに頷く黒衣の剣士。
そして歩き始める。
離れ離れになった少年少女の無事を信じて。
橋の向こうは新世界、引き返して見える見慣れた世界もまた、以前と変わって見えて新しい。
橋は再び、手の加えられた未完成の風景画へと化す。
2人の剣士が去り無人になった後、誰かの手によって、奥の草原のまた奥に黒い煙が描き加えられた。
2人の剣士が去り無人になった後、誰かの手によって、奥の草原のまた奥に黒い煙が描き加えられた。
【ジューダス:生存確認】
状態:健康
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール、首輪
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:協力してくれる仲間を探す(特に首輪の解除ができる人物を優先)
第ニ行動方針:ヴェイグと行動
現在位置:C4橋→東側から南下
状態:健康
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール、首輪
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:協力してくれる仲間を探す(特に首輪の解除ができる人物を優先)
第ニ行動方針:ヴェイグと行動
現在位置:C4橋→東側から南下
【ヴェイグ 生存確認】
状態:右肩に裂傷 強い決意
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル) 首輪
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ジューダスと行動
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
現在位置:C4橋→東側から南下
状態:右肩に裂傷 強い決意
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル) 首輪
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ジューダスと行動
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
現在位置:C4橋→東側から南下
※チェスターとヒアデスの死体はC5の橋近くの森に埋められています。