天才旋律
唐突に彼は目を覚ました。
何時間眠っただろうか…いや、実際は何分くらいかもしれない。それほどまでに少年、リオンの時間間隔が狂っていた。
この教会に来ることが第一の目的にしていたため、眠る頃が何時頃だったかリオンの記憶には無かった。
時計を取り出して見る。時刻はちょうど夕方の四時。
おそらく、三時間以上は寝ていたであろう彼の思考回路は、その働きを徐々に取り戻していく。
「シャル、何か問題は無かったか」
『これといって特にありませんでしたよ』
自分の相棒であるシャルティエに声を掛ける。その返答に少なからずともリオンは安堵した。
もし実際に何か事が起こっていればリオンが悠々と眠っていられずはずがないのではあるが、彼は年の為に聞いた。
それほどまでに彼の「生」への執着心、そしてある一つの「野望」の達成心は凄まじい。
一つ一つの選択を、常に自分に有利な方へ。
一つ一つの決断を、常に自分の「生」の為に。
リオンはペットポトルを取り出す。
そこに眠っているのは彼女。変わり果ててしまった彼女。
だがリオンはソレに微笑みかける。
やるべきことは全てこの人の為に。捧げるものは全てこの人の元に。
そうしてリオンは気付く。簡易レーダーに映った一つの光を。
何時間眠っただろうか…いや、実際は何分くらいかもしれない。それほどまでに少年、リオンの時間間隔が狂っていた。
この教会に来ることが第一の目的にしていたため、眠る頃が何時頃だったかリオンの記憶には無かった。
時計を取り出して見る。時刻はちょうど夕方の四時。
おそらく、三時間以上は寝ていたであろう彼の思考回路は、その働きを徐々に取り戻していく。
「シャル、何か問題は無かったか」
『これといって特にありませんでしたよ』
自分の相棒であるシャルティエに声を掛ける。その返答に少なからずともリオンは安堵した。
もし実際に何か事が起こっていればリオンが悠々と眠っていられずはずがないのではあるが、彼は年の為に聞いた。
それほどまでに彼の「生」への執着心、そしてある一つの「野望」の達成心は凄まじい。
一つ一つの選択を、常に自分に有利な方へ。
一つ一つの決断を、常に自分の「生」の為に。
リオンはペットポトルを取り出す。
そこに眠っているのは彼女。変わり果ててしまった彼女。
だがリオンはソレに微笑みかける。
やるべきことは全てこの人の為に。捧げるものは全てこの人の元に。
そうしてリオンは気付く。簡易レーダーに映った一つの光を。
―知らずに、リオンは笑っていた。
身体全体を見回す。服はまだ乾ききってはいないものの、不快感だけはどうにか消えてくれた。
血の匂いもほとんど消えている。
傷はまだ残ってはいるが痛みを感じない。動きに支障はない。
火傷と凍傷もほぼ治ってきている。
人間の睡眠による体力回復には改めて関心させられる。
リオンは荷物をザックに入れて二本の剣を抜く。
レーダーの捕らえた印は北に約一キロメートル。
気配を消して、ゆっくり近づき。
そして…
「まずは一人目」
リオンは歓喜の顔を保ちながら教会を後にした。
血の匂いもほとんど消えている。
傷はまだ残ってはいるが痛みを感じない。動きに支障はない。
火傷と凍傷もほぼ治ってきている。
人間の睡眠による体力回復には改めて関心させられる。
リオンは荷物をザックに入れて二本の剣を抜く。
レーダーの捕らえた印は北に約一キロメートル。
気配を消して、ゆっくり近づき。
そして…
「まずは一人目」
リオンは歓喜の顔を保ちながら教会を後にした。
ここからは、鼻歌など歌ってはいられない。
とうとう作戦開始の場所へと辿り着いた。
一人の天才、ハロルドはその森林の真っ只中に立ち尽くしていた。
「磁針が無かったら確実に迷っているところだわ…」
辺りは時刻も時刻、光は背の高い木々に阻まれてその色を鬱蒼としている。
四方八方は同じ風景。少し読み誤れば禁止区域のF8へと足を踏み入れることになる。
この状況を手に使わずにしてどうする。天才ハロルドはここに来る途中あらゆる算段を考えていた。
だがここでどうしても出てくる問題がある。それは、
「やっぱ釣り糸と周りの環境だけでは難しいわね…明らかに資材不足だわ」
常に最高の作品を作り上げたいハロルドにとってこれは少しの痛手になった。
だが天才の前にそんな不安は通用しない。
「やることやって隠れますか」
言って釣り糸を取り出して早速近くの木に巻きつけ始める。
それは、リオンが起きる三十分前の出来事。
とうとう作戦開始の場所へと辿り着いた。
一人の天才、ハロルドはその森林の真っ只中に立ち尽くしていた。
「磁針が無かったら確実に迷っているところだわ…」
辺りは時刻も時刻、光は背の高い木々に阻まれてその色を鬱蒼としている。
四方八方は同じ風景。少し読み誤れば禁止区域のF8へと足を踏み入れることになる。
この状況を手に使わずにしてどうする。天才ハロルドはここに来る途中あらゆる算段を考えていた。
だがここでどうしても出てくる問題がある。それは、
「やっぱ釣り糸と周りの環境だけでは難しいわね…明らかに資材不足だわ」
常に最高の作品を作り上げたいハロルドにとってこれは少しの痛手になった。
だが天才の前にそんな不安は通用しない。
「やることやって隠れますか」
言って釣り糸を取り出して早速近くの木に巻きつけ始める。
それは、リオンが起きる三十分前の出来事。
北を歩く。そこに見えるのは大きな森。
自分が歩く度にレーダーの反応が段々と中心に近づいていく。
つまりこれはターゲットへと接近していることを意味していた。
距離にしておよそ半キロ。次第にリオンはその歩を早める。
刻々近づいていく危険。
はたしてそれはどちらのものなのか。
リオンは大きな森に足を踏み入れる。
地図で見た限りこの森の広さは半径一キロ程しかない。
このレーダーの捕獲範囲に十分達している。
相手が動かないのを見てここに隠れていることは確実だった。
だが、そこで一つの思考が巡り、リオンの足が止まる。
…隠れる?何故こんなところに?
北から南下して来たにせよ西側からやって来たにせよ、まず目がいくのは間違いなく先程まで睡眠を取っていた教会のはずだ。
もし一度教会に訪れたとしても、自分自身気が付かなかったし、なによりシャルが証言している通り何も事は起こっていなかったはずだ。
では何故教会ではなくこんな森深く、しかも禁止指定区域のすぐ近くで足を休めているのか。
リオンは気付く。ここに潜む目的が、休憩ではないことを。
そしてこれが罠であることも。
「…どうやら甘かったようだな」
リオンは森に入る。もちろん近くまでは行かない。
少ししてから足を止め、静かにシャルティエを掲げた。
自分が歩く度にレーダーの反応が段々と中心に近づいていく。
つまりこれはターゲットへと接近していることを意味していた。
距離にしておよそ半キロ。次第にリオンはその歩を早める。
刻々近づいていく危険。
はたしてそれはどちらのものなのか。
リオンは大きな森に足を踏み入れる。
地図で見た限りこの森の広さは半径一キロ程しかない。
このレーダーの捕獲範囲に十分達している。
相手が動かないのを見てここに隠れていることは確実だった。
だが、そこで一つの思考が巡り、リオンの足が止まる。
…隠れる?何故こんなところに?
北から南下して来たにせよ西側からやって来たにせよ、まず目がいくのは間違いなく先程まで睡眠を取っていた教会のはずだ。
もし一度教会に訪れたとしても、自分自身気が付かなかったし、なによりシャルが証言している通り何も事は起こっていなかったはずだ。
では何故教会ではなくこんな森深く、しかも禁止指定区域のすぐ近くで足を休めているのか。
リオンは気付く。ここに潜む目的が、休憩ではないことを。
そしてこれが罠であることも。
「…どうやら甘かったようだな」
リオンは森に入る。もちろん近くまでは行かない。
少ししてから足を止め、静かにシャルティエを掲げた。
大体の作業を終えたハロルドはこの場所が見えるような位置へと身を隠す。
磁針が示す西側にもう少し歩けば、一転そこは地獄と化す。
確かに残酷ではあるにせよ、あの男に向ける復讐心に比べれは比では無い。
例えその後に残る感情がどれほど酷でも。
自分は自分の戒めをしっかりと報いなければならないのだ。
あの若くして命を落とした少年のためにも…。
磁針が示す西側にもう少し歩けば、一転そこは地獄と化す。
確かに残酷ではあるにせよ、あの男に向ける復讐心に比べれは比では無い。
例えその後に残る感情がどれほど酷でも。
自分は自分の戒めをしっかりと報いなければならないのだ。
あの若くして命を落とした少年のためにも…。
ズンと、どこかで音がする。
ハロルドは眉を寄せて叢にかがみこむ。そこから自分だけが辺りを見舞わせる視野確保用の穴を開ける。
これでこちらからは周りの様子が見える上に相手からはこちらの姿が見えなくなっている。
少し目を凝らして見てみると、森の中なのにそこには大きな壁が出来ていた。
「…誰か来たみたいね」
まずは相手の姿を確認して力量を測る。これがハロルドの考えていた一人で戦うための最重要条件。
だが相手の姿はまだ見えない。変わりに聞えるのは無気味で静かな轟の音。
そしてまた遠くで大きな壁が形成される。
「…不味い!」
直感的に感じる。天才の察しと言うべきか。
それは明らかに物理ではない力で壁は作られている。
つまりは晶術、あるいはその類の力。
確かにハロルドは森の中に罠を張った。それは重量級の(マグニスとバルバトスを想定して作られたので)敵でもおそらくは成功するであろう。
だがしかし見誤った。もしここに来る連中があの男たち以外の場合。
そしてそいつは頭の切れる奴でこの罠に気が付いた場合。
瞬間的に立場は逆転する。自分は袋の鼠になるのだ。
しかしここから自ずと違う真実が見えてくる。
一つは、ここに来ずして罠だと気付いたこと。
つまりこれは予め森に誰かいるとした前提で事は進められる。
相手は自分が森の中に潜んでいることを知っていたのだ。
だが森に入るところを見られた訳ではない。念入りに確認したのでこれは間違いない。
つまり相手は今さっきここにやってきて森の中に誰かいると判断したと言うことになる。
姿も見ずに相手の位置が分かる…他の世界の者の力か、支給品に属された電波感知系の道具。
ハロルドは両方を思惑に入れて考える。
前者の場合、その能力の特性を見極め、根本を見つけて打開。もしくは逃走。
後者の場合、その道具が本当であるかを見極め、奪回、もしくは破壊、それか逃走。
何にせよ相手の姿が見えない。これでは計画を練るも全ては憶測、推測になってしまう。
あまり確実性の無い結論は出したくない。それが天才である所以でもあった。
ハロルドは眉を寄せて叢にかがみこむ。そこから自分だけが辺りを見舞わせる視野確保用の穴を開ける。
これでこちらからは周りの様子が見える上に相手からはこちらの姿が見えなくなっている。
少し目を凝らして見てみると、森の中なのにそこには大きな壁が出来ていた。
「…誰か来たみたいね」
まずは相手の姿を確認して力量を測る。これがハロルドの考えていた一人で戦うための最重要条件。
だが相手の姿はまだ見えない。変わりに聞えるのは無気味で静かな轟の音。
そしてまた遠くで大きな壁が形成される。
「…不味い!」
直感的に感じる。天才の察しと言うべきか。
それは明らかに物理ではない力で壁は作られている。
つまりは晶術、あるいはその類の力。
確かにハロルドは森の中に罠を張った。それは重量級の(マグニスとバルバトスを想定して作られたので)敵でもおそらくは成功するであろう。
だがしかし見誤った。もしここに来る連中があの男たち以外の場合。
そしてそいつは頭の切れる奴でこの罠に気が付いた場合。
瞬間的に立場は逆転する。自分は袋の鼠になるのだ。
しかしここから自ずと違う真実が見えてくる。
一つは、ここに来ずして罠だと気付いたこと。
つまりこれは予め森に誰かいるとした前提で事は進められる。
相手は自分が森の中に潜んでいることを知っていたのだ。
だが森に入るところを見られた訳ではない。念入りに確認したのでこれは間違いない。
つまり相手は今さっきここにやってきて森の中に誰かいると判断したと言うことになる。
姿も見ずに相手の位置が分かる…他の世界の者の力か、支給品に属された電波感知系の道具。
ハロルドは両方を思惑に入れて考える。
前者の場合、その能力の特性を見極め、根本を見つけて打開。もしくは逃走。
後者の場合、その道具が本当であるかを見極め、奪回、もしくは破壊、それか逃走。
何にせよ相手の姿が見えない。これでは計画を練るも全ては憶測、推測になってしまう。
あまり確実性の無い結論は出したくない。それが天才である所以でもあった。
思考を切り替えよう。今度は相手が何をしているのか。
おそらく相手は何らかの力を用いて壁を作り、大きな、それも森全体を範囲とした囲いを作ろうとしているのだろう。
ハロルドは走り出す。早くこの森から出なければ敵はあっという間に自分を追い詰めて殺される。
「ったく、厄介なのを釣っちゃったみたいね…!」
一人悪態を付き森の北側の出口へと向かう。
轟なる音は南からしている。つまり開いているのは北。
ここは一先ず退散した方がいいだろう。
戦闘で一番必要とされるのは力でもなくスキルでもない、情報だ。
人は「知らない」だけでそれに恐怖を感じる。
まず相手が何なのかを知らない限り、こちらに勝ち目は無い。
木々の終わりが見える。もうすぐ出口だ。
ハロルドは走りきり、外の空気を吸う。
これで最悪の事態は免れた。あとは北上を開始して距離をとればいい。
だが、危険は常に隣り合っている。
ハロルドに向けて横から一つの剣戟が向かってくる。
それに気付いて咄嗟に身を投げ出し回避する。
顔を上げるとそこには一人の少年が立っていた。
少年はこちらに剣を向けている。
ハロルドはその剣を見て思わず息を飲んだ。
「…はは~ん、アンタだったわけね」
おそらく相手は何らかの力を用いて壁を作り、大きな、それも森全体を範囲とした囲いを作ろうとしているのだろう。
ハロルドは走り出す。早くこの森から出なければ敵はあっという間に自分を追い詰めて殺される。
「ったく、厄介なのを釣っちゃったみたいね…!」
一人悪態を付き森の北側の出口へと向かう。
轟なる音は南からしている。つまり開いているのは北。
ここは一先ず退散した方がいいだろう。
戦闘で一番必要とされるのは力でもなくスキルでもない、情報だ。
人は「知らない」だけでそれに恐怖を感じる。
まず相手が何なのかを知らない限り、こちらに勝ち目は無い。
木々の終わりが見える。もうすぐ出口だ。
ハロルドは走りきり、外の空気を吸う。
これで最悪の事態は免れた。あとは北上を開始して距離をとればいい。
だが、危険は常に隣り合っている。
ハロルドに向けて横から一つの剣戟が向かってくる。
それに気付いて咄嗟に身を投げ出し回避する。
顔を上げるとそこには一人の少年が立っていた。
少年はこちらに剣を向けている。
ハロルドはその剣を見て思わず息を飲んだ。
「…はは~ん、アンタだったわけね」
リオンは森の外を「ストーンウォール」で囲い始める。
中で罠を張っているのなら外からそれを包み込めばいい。
一つ一つ、多少粗はあるもののこれは二義的なものに過ぎない。
この行為の本当の意味は、中から鼠を誘き寄せるためのモノだ。
わざわざ中に入って行かずとも、あちらから出てくるよう仕向ければ話は早い。
リオンは森の中に潜むものが頭の切れる者だと踏んでいた。
でなければこんな森を選びはしないし、まず教会に寄るべきが寄らないとなると、
教会に誰かが潜んでいると考えてこの森で行動を開始したと考えるのが普通だ。
そしてなによりC3のあの放送。おそらくは相手も聞いていただろう。
だがそこには向かわずにこんなところで罠を張っている。
つまりC3の村が危険になることを予想出来ていて、そこに向かわなかった。もちろんお人好しでは無い。
これらから森の中にいる者は少なくともこの作戦で今自分の立場が危ういと答えを出すはず。
そうなれば外に出ざるを得なくなる。これこそがリオンの作戦だった。
案の定、レーダーに映った森の中の反応は動き出す。
実はリオンが今いる場所は南側ではなかった。
森の西側に立っているリオンは、そこからなら南側の入口も北側の入口も見える。
南側よりに壁を発生させれば敵は自然と北へと逃げていくだろう。
そうして反応は北へと進む。リオンもそれを追いかける。
スピードでは森の中を走る相手より地上を走る自分の方が遥かに速い。
直線で走る相手には十分間に合うだろう。
そしてようやく、その敵は姿を現す。
外に出たことで安堵しているだろう。狙うなら今。
少し長距離ではあったが、リオンはそれに向けて魔神剣を放つ。やはり距離によって威力は衰えた。間一髪にして敵に避けられた。
その敵の元に辿り着き、シャルティエを向ける。
「…はは~ん、アンタだったわけね」
敵はこちらを見据えて喋りだす。何故かその顔には余裕が感じられた。
「死んで貰う」
リオンは躊躇い無くシャルティエを振り下ろした。
中で罠を張っているのなら外からそれを包み込めばいい。
一つ一つ、多少粗はあるもののこれは二義的なものに過ぎない。
この行為の本当の意味は、中から鼠を誘き寄せるためのモノだ。
わざわざ中に入って行かずとも、あちらから出てくるよう仕向ければ話は早い。
リオンは森の中に潜むものが頭の切れる者だと踏んでいた。
でなければこんな森を選びはしないし、まず教会に寄るべきが寄らないとなると、
教会に誰かが潜んでいると考えてこの森で行動を開始したと考えるのが普通だ。
そしてなによりC3のあの放送。おそらくは相手も聞いていただろう。
だがそこには向かわずにこんなところで罠を張っている。
つまりC3の村が危険になることを予想出来ていて、そこに向かわなかった。もちろんお人好しでは無い。
これらから森の中にいる者は少なくともこの作戦で今自分の立場が危ういと答えを出すはず。
そうなれば外に出ざるを得なくなる。これこそがリオンの作戦だった。
案の定、レーダーに映った森の中の反応は動き出す。
実はリオンが今いる場所は南側ではなかった。
森の西側に立っているリオンは、そこからなら南側の入口も北側の入口も見える。
南側よりに壁を発生させれば敵は自然と北へと逃げていくだろう。
そうして反応は北へと進む。リオンもそれを追いかける。
スピードでは森の中を走る相手より地上を走る自分の方が遥かに速い。
直線で走る相手には十分間に合うだろう。
そしてようやく、その敵は姿を現す。
外に出たことで安堵しているだろう。狙うなら今。
少し長距離ではあったが、リオンはそれに向けて魔神剣を放つ。やはり距離によって威力は衰えた。間一髪にして敵に避けられた。
その敵の元に辿り着き、シャルティエを向ける。
「…はは~ん、アンタだったわけね」
敵はこちらを見据えて喋りだす。何故かその顔には余裕が感じられた。
「死んで貰う」
リオンは躊躇い無くシャルティエを振り下ろした。
『雷牙衝!』
咄嗟に短剣でシャルティエを弾いてハロルドは後ろに跳ぶ。
なにぶん杖ではないので威力は皆無。せいぜい目くらましが限度か。
リオンはシャルティエを弾かれて少し眉を寄せる。小さな子犬に吠えられた、そんな感じ。
するとリオンの腰から別の声が響きだす。
『リオン、こいつは…』
声を発したのはディムロスだったのだが、そこで言葉は途切られる。
ハロルドは指を鼻に当てて「黙ってなさい」のポーズをしていた。
設計者であるハロルド。共に旅をした仲間であるリオン。
自分の知る者同士が殺し合いをすなど黙って見ていられなかったディムロスは思わず声を出してしまっていたのだ。
だがディムロスはハロルドの考えていることが(昔から)分からないのでここはとりあえず従っておくことにした。
リオンはもちろんその様子を訝しげに見る。
何故この女がソーディアンの事を知っているのか。
それが気になったのは事実だが、今はそんなことより。
「大人しく僕らの為に死んでくれ」
リオンは再度シャルティエを掲げる。
ハロルドは気付く。設計者のみぞ知る晶術の輝き方で。
出る技が何なのかが分かれば対処は容易い。これが情報の、「知っている」ことの力だ。
ハロルドはバックステップでその場を飛ぶ。そこに一本の岩が飛び出してきた。
「なに…」
リオンは少しばかり驚く。シャルティエの晶術である『グレイブ』が回避された。
魔神剣の時は仕方なかったが、今回ばかりはまぐれでは済まされない。
リオンは相手に何らかの能力があると踏んだ。
慎重に近づく。だが次の瞬間、
咄嗟に短剣でシャルティエを弾いてハロルドは後ろに跳ぶ。
なにぶん杖ではないので威力は皆無。せいぜい目くらましが限度か。
リオンはシャルティエを弾かれて少し眉を寄せる。小さな子犬に吠えられた、そんな感じ。
するとリオンの腰から別の声が響きだす。
『リオン、こいつは…』
声を発したのはディムロスだったのだが、そこで言葉は途切られる。
ハロルドは指を鼻に当てて「黙ってなさい」のポーズをしていた。
設計者であるハロルド。共に旅をした仲間であるリオン。
自分の知る者同士が殺し合いをすなど黙って見ていられなかったディムロスは思わず声を出してしまっていたのだ。
だがディムロスはハロルドの考えていることが(昔から)分からないのでここはとりあえず従っておくことにした。
リオンはもちろんその様子を訝しげに見る。
何故この女がソーディアンの事を知っているのか。
それが気になったのは事実だが、今はそんなことより。
「大人しく僕らの為に死んでくれ」
リオンは再度シャルティエを掲げる。
ハロルドは気付く。設計者のみぞ知る晶術の輝き方で。
出る技が何なのかが分かれば対処は容易い。これが情報の、「知っている」ことの力だ。
ハロルドはバックステップでその場を飛ぶ。そこに一本の岩が飛び出してきた。
「なに…」
リオンは少しばかり驚く。シャルティエの晶術である『グレイブ』が回避された。
魔神剣の時は仕方なかったが、今回ばかりはまぐれでは済まされない。
リオンは相手に何らかの能力があると踏んだ。
慎重に近づく。だが次の瞬間、
ズボ
リオンの下半身が消えた。ように見える。
実際はただの落とし穴だったのだがそこには釣り糸が至るところに張り巡らされていた。
一度絡まると抜け出すのが困難な構造になっていた。
「なに!?貴様!!」
リオンは上半身だけの姿でハロルドを見上げる。もちろんハロルドはリオンを見下している。
「森の中だけに罠が張ってあると思ったら大間違いよ。外も中も、あたしの領域(テリトリー)なわけ」
リオンは必死に抜け出そうとするが両手が縛られている形になっている。
釣り糸だけでこうも複雑な仕上がりが出来るとは、これも才たる所以か。
ハロルドは近づいて何本か穴から出ている釣り糸を見る。
それを見極めて一本だけ引き抜く。
そこから次第に絡まっていく糸はリオンの持っていた一本の剣を縛り、それを外へと放り出した。
ハロルドはそれをキャッチする。
そして一言言って、
「あたしの方が一枚、いや三枚ほど上手だったみたいだわ」
すぐさま逃走を開始した。
実際はただの落とし穴だったのだがそこには釣り糸が至るところに張り巡らされていた。
一度絡まると抜け出すのが困難な構造になっていた。
「なに!?貴様!!」
リオンは上半身だけの姿でハロルドを見上げる。もちろんハロルドはリオンを見下している。
「森の中だけに罠が張ってあると思ったら大間違いよ。外も中も、あたしの領域(テリトリー)なわけ」
リオンは必死に抜け出そうとするが両手が縛られている形になっている。
釣り糸だけでこうも複雑な仕上がりが出来るとは、これも才たる所以か。
ハロルドは近づいて何本か穴から出ている釣り糸を見る。
それを見極めて一本だけ引き抜く。
そこから次第に絡まっていく糸はリオンの持っていた一本の剣を縛り、それを外へと放り出した。
ハロルドはそれをキャッチする。
そして一言言って、
「あたしの方が一枚、いや三枚ほど上手だったみたいだわ」
すぐさま逃走を開始した。
今のあの状態のリオンなら短剣で色んなことが出来ただろうが、致命傷になるかどうかは疑わしいところ。
それにあの様子だとすぐに詠唱して脱出してくるはず。
なら今するべき事はこの場を引き、距離を取って相手からの危険を遠ざけること。
「逃げるが勝ちとはよく言ったものよね。勝ち目がまるで見当たらないわ。引き分けなだけ良しとしましょうか」
彼女は常に最善の選択をする。
ハロルドがリオンから奪った剣はその代償。
タダでやるほどあの作戦に命を賭けたわけではない。しっかりとそれ相応の報酬を頂かなければ。
「アンタが手に入ったのはボーナスものだわディムロス」
言って手に持った剣に喋りかける。
やれやれといった感じでディムロスはハロルドに賞賛を与えた。
『破天荒なところは相変わらずだなハロルド』
皮肉も交えて言ったつもりのそれは、彼女にとっては最高の褒め言葉だった。
それにあの様子だとすぐに詠唱して脱出してくるはず。
なら今するべき事はこの場を引き、距離を取って相手からの危険を遠ざけること。
「逃げるが勝ちとはよく言ったものよね。勝ち目がまるで見当たらないわ。引き分けなだけ良しとしましょうか」
彼女は常に最善の選択をする。
ハロルドがリオンから奪った剣はその代償。
タダでやるほどあの作戦に命を賭けたわけではない。しっかりとそれ相応の報酬を頂かなければ。
「アンタが手に入ったのはボーナスものだわディムロス」
言って手に持った剣に喋りかける。
やれやれといった感じでディムロスはハロルドに賞賛を与えた。
『破天荒なところは相変わらずだなハロルド』
皮肉も交えて言ったつもりのそれは、彼女にとっては最高の褒め言葉だった。
リオンは静かにその晶術を発動させる。
最小限の『デモンズランス』をリオンごと穴に命中させる。
マーキングはしているので見事に釣り糸だけを切り刻んでくれた。
両手を使って這い上がるリオンは、敵が去っていた方角を見つめる。
レーダーの反応はまだある。だがかなり距離をとられてしまった。
どうやら北西に向かったのは間違いなさそうだ。
彼女は常に最善の選択をする。
北西に向かったのもおそらく西側のG5の町が禁止区域になっているからだろう。
そして近くのE7も禁止区域になっている。
つまり彼女はE7を避けて北上したと言うことになる。
「シャル…行くぞ」
「はい坊ちゃん」
リオンは一人北を歩く。
思うものはマリアンのこと。
想う人はマリアンのこと。
それだけを信念に、リオンは生き続ける。
リオンとシャルティエ。一人と一本。
それはかつてあった、自然な姿。
最小限の『デモンズランス』をリオンごと穴に命中させる。
マーキングはしているので見事に釣り糸だけを切り刻んでくれた。
両手を使って這い上がるリオンは、敵が去っていた方角を見つめる。
レーダーの反応はまだある。だがかなり距離をとられてしまった。
どうやら北西に向かったのは間違いなさそうだ。
彼女は常に最善の選択をする。
北西に向かったのもおそらく西側のG5の町が禁止区域になっているからだろう。
そして近くのE7も禁止区域になっている。
つまり彼女はE7を避けて北上したと言うことになる。
「シャル…行くぞ」
「はい坊ちゃん」
リオンは一人北を歩く。
思うものはマリアンのこと。
想う人はマリアンのこと。
それだけを信念に、リオンは生き続ける。
リオンとシャルティエ。一人と一本。
それはかつてあった、自然な姿。
【ハロルド 生存確認】
状態:冷徹な復讐心
所持品:短剣 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) ソーディアン・ディムロス
基本行動方針:迂闊なことは言わない 単独行動(たとえ仲間に出会ってもマーダーの振りをして追い払う)
第一行動方針:北上して危険を回避
第二行動方針:首輪のことを調べる
第三行動方針:C3地点の動向を探る
第四行動方針:マーダー(マグニスたち)の始末
状態:冷徹な復讐心
所持品:短剣 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) ソーディアン・ディムロス
基本行動方針:迂闊なことは言わない 単独行動(たとえ仲間に出会ってもマーダーの振りをして追い払う)
第一行動方針:北上して危険を回避
第二行動方針:首輪のことを調べる
第三行動方針:C3地点の動向を探る
第四行動方針:マーダー(マグニスたち)の始末
現在位置:F6平原→北上
【リオン 生存確認】
所持品:ソーディアン・シャルティエ 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り)
状態:腹部に痛み(軽め) 極めて冷静 眠気なし
基本行動方針:マリアンを生き返らせる
第一行動方針:ハロルドを追いかける
第二行動方針:ジューダスという男に会う
第三行動方針:目的を阻む者の排除
所持品:ソーディアン・シャルティエ 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り)
状態:腹部に痛み(軽め) 極めて冷静 眠気なし
基本行動方針:マリアンを生き返らせる
第一行動方針:ハロルドを追いかける
第二行動方針:ジューダスという男に会う
第三行動方針:目的を阻む者の排除
現在位置:F7草原北側