第三回放送
黄昏。
青と赤と黄が交わり合った空を、やがて光から闇へと変わり行く空を、人は黄昏と呼ばずに何と呼ぶのだろうか。
人々は沈む陽を見て、一日の終幕を感じ始める。長い日であったか、短い日であったか。充実していたか、空虚なものであったか。
だが、この世界の黄昏時は、少なくとも一日を思い返し明日に繋げる刻ではない。
明暗の狭間で流れる無慈悲な声。
失望に至らせるあの声によって、人々は嗟嘆し、苛酷な現実を改めて思い知らされる。
「未来への光」ではなく「過去の残照」。この世界で意味する黄昏はそうであった。
歩く。走る。佇む。戦う。思う。嘆く。叫ぶ。笑う。
様々な人の様々な行動を前に、この世界の常理である声は始まる。
青と赤と黄が交わり合った空を、やがて光から闇へと変わり行く空を、人は黄昏と呼ばずに何と呼ぶのだろうか。
人々は沈む陽を見て、一日の終幕を感じ始める。長い日であったか、短い日であったか。充実していたか、空虚なものであったか。
だが、この世界の黄昏時は、少なくとも一日を思い返し明日に繋げる刻ではない。
明暗の狭間で流れる無慈悲な声。
失望に至らせるあの声によって、人々は嗟嘆し、苛酷な現実を改めて思い知らされる。
「未来への光」ではなく「過去の残照」。この世界で意味する黄昏はそうであった。
歩く。走る。佇む。戦う。思う。嘆く。叫ぶ。笑う。
様々な人の様々な行動を前に、この世界の常理である声は始まる。
時は、午後6時00分。
「諸君」
巨大スクリーンに浮かぶ25の小さな輝きと、それを緩慢に眺めていた人物。
その人──天上王ミクトランは分針と秒針が重なるのと同時に、マイクから語り掛けた。
何時も会場を支配し凍てつかせ時を止める0時の声だ。今頃各地の拡声器から声が流れているのだろう。
放送が流れる会場と留まり耳を傾ける人々の姿を想像し、彼ら彼女らの表情を思い浮かべるだけで心が高鳴った。
巨大スクリーンに浮かぶ25の小さな輝きと、それを緩慢に眺めていた人物。
その人──天上王ミクトランは分針と秒針が重なるのと同時に、マイクから語り掛けた。
何時も会場を支配し凍てつかせ時を止める0時の声だ。今頃各地の拡声器から声が流れているのだろう。
放送が流れる会場と留まり耳を傾ける人々の姿を想像し、彼ら彼女らの表情を思い浮かべるだけで心が高鳴った。
「如何がお過ごしかな? 楽しんでもらえているだろうか?
ゲームも2回目の夜を迎える。早いものだ…深い闇に紛れ不意打ちに遭わぬよう気をつけるのだな。いや、慣れてきた諸君らには既に通じない手かな?」
最後に出た、わざとがましい小さな嘲笑さえも聞こえているのだろう。
一度咳払いしミクトランは放送を続ける。
「最初に、新たな禁止エリアを発表しよう。既に分かっているとは思うが、今から3時間ずつ禁止エリアが増えていく。
まず午後9時にA3、午前0時にE4、午前3時にD1、午前6時にC8が禁止エリアとなる」
今回は大して反応もないだろう、と踏んでいたが案の上的中した。
盗聴器を通して聞こえてくる声には驚きの色が少ない。当然か。
前回拠点を多く選んだ故の控えめな選択。余り中心部ばかり指定し分断してしまうのは、色んな意味で望ましくなかった。
それに、この静けさも後の発表の前菜と思えば悪くはない。
メインディッシュは楽しみに取って置かなくては。
「では諸君らも待ちわびている、この12時間の間に脱落した者の名を呼ぶとしよう」
──空気が騒めき張り詰める。
それを直に肌で感じながら、ミクトランは一拍置き、名前を読み上げ始める。
ゲームも2回目の夜を迎える。早いものだ…深い闇に紛れ不意打ちに遭わぬよう気をつけるのだな。いや、慣れてきた諸君らには既に通じない手かな?」
最後に出た、わざとがましい小さな嘲笑さえも聞こえているのだろう。
一度咳払いしミクトランは放送を続ける。
「最初に、新たな禁止エリアを発表しよう。既に分かっているとは思うが、今から3時間ずつ禁止エリアが増えていく。
まず午後9時にA3、午前0時にE4、午前3時にD1、午前6時にC8が禁止エリアとなる」
今回は大して反応もないだろう、と踏んでいたが案の上的中した。
盗聴器を通して聞こえてくる声には驚きの色が少ない。当然か。
前回拠点を多く選んだ故の控えめな選択。余り中心部ばかり指定し分断してしまうのは、色んな意味で望ましくなかった。
それに、この静けさも後の発表の前菜と思えば悪くはない。
メインディッシュは楽しみに取って置かなくては。
「では諸君らも待ちわびている、この12時間の間に脱落した者の名を呼ぶとしよう」
──空気が騒めき張り詰める。
それを直に肌で感じながら、ミクトランは一拍置き、名前を読み上げ始める。
「アーチェ・クライン、エドワード・D・モリスン、ジョニー・シデン、マリアン・フュステル、ファラ・エルステッド、
バルバトス・ゲーティア、クラトス・アウリオン、マグニス、マーテル・ユグドラシル、サレ、ミミー・ブレッド。
以上の11名だ。ここに来て1番多くの死亡者が出たな…良い傾向だ。これからもどんどん殺し合ってくれたまえ。…そう」
部屋に広がる十人十色の反応を聞きながら、おもむろにミクトランが世間話でもするかのように軽く言葉を紡ぐ。
「今回の脱落者の内、マリアンとミミーは首輪が爆発し死亡した。禁止エリアに侵入したり等すれば彼女達と同じ、首から上を失う末路を辿ることになる。気をつけるのだな」
しん、と一瞬静寂が支配したのは思い過ごしだろうか。いや、そうだった。変わったのは明らかに声量が減ったことだけだ。
牽制の意。
脱出派の連中は、まず首輪の解除を目的として動く筈。それを首輪が爆発した者がいるという恐怖を与えてやれば、そうそう下手な行動は起こすまい。
何せ、首輪の解除が失敗すれば待っているのは確実に死なのだから。
バルバトス・ゲーティア、クラトス・アウリオン、マグニス、マーテル・ユグドラシル、サレ、ミミー・ブレッド。
以上の11名だ。ここに来て1番多くの死亡者が出たな…良い傾向だ。これからもどんどん殺し合ってくれたまえ。…そう」
部屋に広がる十人十色の反応を聞きながら、おもむろにミクトランが世間話でもするかのように軽く言葉を紡ぐ。
「今回の脱落者の内、マリアンとミミーは首輪が爆発し死亡した。禁止エリアに侵入したり等すれば彼女達と同じ、首から上を失う末路を辿ることになる。気をつけるのだな」
しん、と一瞬静寂が支配したのは思い過ごしだろうか。いや、そうだった。変わったのは明らかに声量が減ったことだけだ。
牽制の意。
脱出派の連中は、まず首輪の解除を目的として動く筈。それを首輪が爆発した者がいるという恐怖を与えてやれば、そうそう下手な行動は起こすまい。
何せ、首輪の解除が失敗すれば待っているのは確実に死なのだから。
生きたいから脱出しようとする。それと矛盾するわざわざ捨てるような行為をする奴など余程の命知らずだろう。
マリアンとミミーの知人にとっては精神的なダメージも与えることが出来る。
それに、
『第二回の放送を聴く限りどうやらあの主催者はかなりのお喋りの様だ。上手くすれば…』
ジファイブの町にいた男の言葉。
この男と周りの仲間達は盗聴されていると気付いていない。だが男の言うことを鵜呑みにして言葉を少なくすれば、逆に怪しまれかねない。
ならば多少は情報を与えねば。この程度の情報なら与えても不利になることはないだろう。
それが敢えてマリアンとミミーのことを告げた意味だった。
彼の口元には自然と笑みが浮かんでいた。喜悦、興奮、恐悦。それらが混ざった主催者に相応しい笑みだった。
「半数を切った今、諸君らも分かっているだろう? このゲームでは甘さなど通用しないことが。未だ持ち続ける者がいるとしたら、速やかに捨てることを勧める。それが生き残る唯一の方法なのだからな。
…では、放送を終了する」
1つの警告の後、マイクの電源を切り軽い一息の後大きめのソファーにもたれ込む。
双眼を伏せ、これからを考える。
マリアンとミミーの知人にとっては精神的なダメージも与えることが出来る。
それに、
『第二回の放送を聴く限りどうやらあの主催者はかなりのお喋りの様だ。上手くすれば…』
ジファイブの町にいた男の言葉。
この男と周りの仲間達は盗聴されていると気付いていない。だが男の言うことを鵜呑みにして言葉を少なくすれば、逆に怪しまれかねない。
ならば多少は情報を与えねば。この程度の情報なら与えても不利になることはないだろう。
それが敢えてマリアンとミミーのことを告げた意味だった。
彼の口元には自然と笑みが浮かんでいた。喜悦、興奮、恐悦。それらが混ざった主催者に相応しい笑みだった。
「半数を切った今、諸君らも分かっているだろう? このゲームでは甘さなど通用しないことが。未だ持ち続ける者がいるとしたら、速やかに捨てることを勧める。それが生き残る唯一の方法なのだからな。
…では、放送を終了する」
1つの警告の後、マイクの電源を切り軽い一息の後大きめのソファーにもたれ込む。
双眼を伏せ、これからを考える。
参加者は半数を切った。
どれほど生き残りたいのか、願いを叶えたいのか…その意思の強さが生死を左右する。
ここまで来た以上、全員が強い意思を持っているのだろう。しかし、それでも各々の思いは天秤に掛けられ、上がった方が切り捨てられる。
勿論、参加者の状況や状態によって天秤の傾きも変わってくるのだが。
様々な条件(ウェート)の下で掛けられる天秤。それに最後まで残った者がゲームの勝者となるのだ。
願望と引き換えの血塗られた手を持つ者が。
それは一体誰なのか。ここに現れるのは何時なのか。楽しみで仕方がなかった。
放送で抑えていた分を解放するかのように声を出して笑う。厳めしい笑声が部屋の声を上塗りし、響き渡った。
どれほど生き残りたいのか、願いを叶えたいのか…その意思の強さが生死を左右する。
ここまで来た以上、全員が強い意思を持っているのだろう。しかし、それでも各々の思いは天秤に掛けられ、上がった方が切り捨てられる。
勿論、参加者の状況や状態によって天秤の傾きも変わってくるのだが。
様々な条件(ウェート)の下で掛けられる天秤。それに最後まで残った者がゲームの勝者となるのだ。
願望と引き換えの血塗られた手を持つ者が。
それは一体誰なのか。ここに現れるのは何時なのか。楽しみで仕方がなかった。
放送で抑えていた分を解放するかのように声を出して笑う。厳めしい笑声が部屋の声を上塗りし、響き渡った。
色を手放した空は闇を抱いていく。
また、誰かがこの闇に堕ちていくのだろうか。
また、誰かがこの闇に堕ちていくのだろうか。