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  • The Chess named 'Battle-Royal'

テイルズオブバトルロワイアル@wiki

The Chess named 'Battle-Royal'

最終更新:2019年10月13日 16:28

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The Chess named 'Battle-Royal'


 忌まわしきミクトランの放送が終わって、そろそろ小一時間というところ。
 ほとんど生き物の気配のないこの殺戮の島。島の夜は、まるで死者を待ち構える深淵のごとく、静かに、禍々しく過ぎてゆく。
 星詠み師ですら見たこともない、ありえないはずの星の配置。由来も定かならざる、赤と青の月。
 ここが「バトル・ロワイアル」の会場でさえなければ、十分に幻想的な夜空と言えただろう。美しい月に、嘆息することも出来ただろう。
 そんな夜空に向け、クレス・アルベインはあらん限りの語彙を尽くし、怨嗟の言葉を連ねていた。
「あああああぁぁぁあぁぁああっ!!!」
 地面に転がったクレスは、まさに悶絶という言葉を使うにふさわしい、苦痛のもがきを見せていた。
 震える自分の両手を見ていると、それがどろどろと腐り落ち、その中から骨が現れる。
 腐り落ちた肉からは数百匹もの蛆虫が湧き、貪欲にクレスの肉であったものを喰らう。
 たちまち肩まで蛆虫に蝕まれ、クレスの両腕はまっさらな白骨と化していた。
 たまらずに目を背けるクレス。目を背けた先は、東の砂漠。黄土色の大地が、延々地平線まで伸びている。
 その地平線から、「何か」がぼこっ、と生えてきた。
 「何か」はふらふらとした頼りない足取りで、しかし確実にクレスの方に向かってくる。
 マーテルだった。マリーだった。
 マーテルは涙とも血ともつかない赤黒い液体を、その瞳から垂れ流し、匍匐前進で迫ってくる。
 それもそのはず。彼女は右手一本で、地面を這いながら進んでいるのだ。余った左手は、足首を掴んでいる。クレスが両断した、彼女自身の下半身を。
 マリーは、さながら屍生人(ゾンビ)を思わせるような足取りで、のたのたとクレスに歩み寄ってくる。
 眼窩。鼻。耳。口。全身の傷口。腐敗した腸がはみ出る腹部。全身の穴という穴から、津波のように害虫が湧き、四方八方に撒き散らされる。
(ドウシテ…ワタシ…コロシタノ……)
 いつの間にかクレスの眼前にまで迫ったマーテルは、うつろな瞳でクレスに問いかけた。
「く…来るなぁ!!」
(かゆい…カユイカユイカユイカユ…)
 全身をかきむしるマリー。傷口を1つかくごとに、湧き出る蟲の量も一段と増える。害虫を撒き散らす両手が、クレスの首に伸ばされ…
「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
 クレスは今、悪夢の中にいた。

「さて…『お仕置き』もこれくらいやればいいだろう」
 青息吐息で地面に転がるクレスを前に、デミテルは1人ごちた。
 彼が右手に握る物は、小さな木製の椀。どろりとした深緑の液体が、そこには満たされていた。
「クレス・アルベイン。これを飲め」
 デミテルの存在に気付いたクレス。もはやまともな言葉を繰ることも出来ない喉。
 だが、彼はそれで、やってきた救いの手に必死にすがろうとする意志を、主人たる男に必死に表していた。その意志は、確かに伝わっていた。
 震える手を無理やりに押さえつけ、椀を受け取るクレス。椀の中の深緑の液体は、小刻みに波打っていた。
 それを急いで口元にやり、一気に飲み干す。味ははっきり言って飲めた代物ではないが、それでも今の状態が永遠に続くよりは遥かにましだ。
 げほげほとむせ返りながら、クレスは椀を投げ捨てた。荒い呼吸と、言うことを聞かない四肢。それは段々と、収まっていった。
「言うことを聞かないからこうなる。…分かったか?」
 いまだ息の荒いクレス。その金髪を掴み上げ、デミテルはクレスの目を真っ向から見据える。クレスは対して、荒い呼吸の中から、途切れ途切れにデミテルに答えた。
「はい…ご主人…様……」
「分かればいい」
 デミテルは、掴んだクレスの金髪を手放した。糸が切れた人形のように、クレスはかくん、と頭を垂れた。
「……………!」
 いまだに苦しげな声を漏らす金髪の青年。彼を見やる青髪の魔術師は、落胆半分安堵半分といった様子で、言葉を紡ぐ。
「…やれやれ…『保険』をかけておいて、やはり正解だったようだな」
 立ち上がるデミテル。その言葉を誰に聞かせるでもなく、感情で色を付けるでなく。
 深淵の暗闇は、あっという間にデミテルの言葉を呑み込み、辺りは再び静寂に帰った。
 デミテルがクレスを操る際にかけておいた『保険』…それは、クレスを操る際に錬金術で成分を変質させた、あのバクショウダケにある。
 コカの葉を…さもなくば芥子(けし)の実を精製し、作り出した薬を例に出すまでもなく、人の精神を変質させる薬は、往々にしてとある性質を持つ。
 一度飲んだ薬に、服用者の肉体を、ひいては精神を依存させ、最終的には薬抜きには服用者を生きられなくするという性質だ。
 人はその薬を「麻薬」と呼ぶ。
 本来バクショウダケもまた、デミテルの在りしアセリアの大地には存在しないはずのキノコ。
 だが、簡易なマナ解析を行う錬金術の初歩呪文程度で、デミテルは「そのこと」を見抜いていたのだ。
 バクショウダケの成分を、マナを以って変質させれば、人間の凶暴性を引き出す薬を精製しうることを。善意を失わせ、精神を蝕む魔の薬を。
 本来ならば成分の組み換えを行う際、麻薬としての性質を抜き取ろうと思えば、抜き取ることも出来た。
 習慣性を示さない、「安全な」薬品を作ることも出来なくはなかった。
 しかしそれを取りやめ、あえて薬に習慣性を残しておいたのは、この事態を想定しておいてのことだ。
 習慣性を残しておけば、もし服用者が暴走するような事態になっても、まだ制御の手段は残る。
 禁断症状で服用者を苦しめる、という手段が。

 麻薬漬けになった人間が、いざ麻薬を止めようと思っても自力ではほとんど止められなくなるのは、この禁断症状によるところが大きい。
 麻薬に依存しきった人間が、麻薬を断ったとき。彼は…または彼女は地獄のような苦痛と、そして悪夢に見舞われる。
 その苦痛と悪夢を逆手に取れば、麻薬の提供者は、服用者を好きなように手玉に取れる。
 アルヴァニスタやミッドガルズがどれほど「手入れ」を行おうと、麻薬の販売者を根絶しきれないのは、これにも一因があるのだ。
 すなわちデミテルは、クレスの良心をバクショウダケから精製した麻薬で破壊し、そして麻薬の依存症でクレスを隷属させる。
 この手段を以って、手綱を取っているのだ。
 クレスにしてみれば、もはやデミテルに付き従う以外の選択肢はない。デミテルが死ねばもはや麻薬を作れる人間はいなくなる。
 後はそうなれば、クレスは死の瞬間まで地獄の苦痛と悪夢に付き合わねばならないのだ。
 無論、こんな手段を以ってして他者を隷属させるなど、まさに鬼畜や外道の行い。人非人と謗られても文句を言えない、極悪な行為だ。
 だが、古くより伝わる戦争論の書物には、この一句が存在することもまた事実。「目的は手段を正当化する」と。
 いざ戦争になれば、浅薄な感傷や正義感など、吹けば飛ぶようなはかない題目に過ぎない。
 鬼畜外道に堕ちる覚悟のない者は、戦争の勝者たり得ないのだ。
 クレスの荒い吐息も、夜の闇に消えようとするその時。デミテルは傍らに控える、もう1人の青年に声をかける。
「…異常はないか、ティトレイ・クロウ」
 ひとところに座し、禅の位を組みながら精神を研ぎ澄ます青年、ティトレイ・クロウ。
 彼の目はいまだ、深い霧に閉ざされた森林のように濁っている。ここにあらざる彼の心は、いまだに彼の体に帰る素振りを見せない。
 だが、彼はただ聞かれるがままに、主たる男への質問に、最低限の疑問や関心を持つ以外せずに、淡々と答えていた。
「…ない。だいじょうぶ」
 デミテルのもう1つの駒たる緑髪の青年は、ただ自らの主の命ずるがままに周囲の草木と息吹を合わせ、草木に伝わるあらゆる情報をその脳裏に運んでいた。
 「樹」のフォルスは植物を急成長させたり、蔦で獲物をがんじがらめにするだけが能ではない。
 草木を自分の意に沿わせるのではなく、逆に草木の方に寄り添えば、彼らは術者に有益な情報をもたらしてくれる。
 すなわち、術者の周囲に近寄る存在の感知。ティトレイは、これにより草木そのものを鳴子に利用、警報の役割を果たすのだ。
 草を踏みしめる存在を感じれば、木に寄りかかって休息をとる者がいれば、草木自身が…すなわちティトレイが直ちにそれを感知する。
 空を飛ぶ力を持つ者か、はたまた警告を発することが無意味なほど高速で接近する者か、どちらかでない限りこの草木の警報は有効。
 逆に、相手に己が存在を感知されたことに気付いていない、愚かな侵入者の油断を誘っておいて、不意打ちの逆襲を見舞うことも出来る。
 気配を消せる消せないの問題ではない。どれほど練達の暗殺者であろうと、地面を踏みしめねば獲物に歩み寄ることは出来ない。
 すなわち、忍びの術に長けた者でさえ、ティトレイの監視を逃れることは不可能なのだ。そこに草木の生えた地面がある限り。

「さて、ここから先、どう打っていくか…」
 デミテルはクレスへの「お仕置き」を終え、再び地面に座して思考の海へと漕ぎ出す。
 当初は人質の…マーテルの死に錯乱した金髪の少年、ミトスを利用する形を想定して、次なる策略を展開する予定だった。
 C3の村で漏れ聞こえてきた会話から察するに、ミトスなる少年はマーテルの弟であったらしい。
 肉親や友人や恋人を殺された人間が、憤怒や憎悪の余り、この会場を包む狂気に呑まれるという事態は、これまでこの島で散々起きてきた。
 ミトスという少年もまた、その狂気に呑まれた者の1人。
 そして狂気を飼いならし、したたかにこの島を生き延びるデミテルにとっては、ミトスの狂気は、またしても天から恵まれた嬉しい誤算。
 狂気にかられた人間が、他の人間を襲い、殺す。そこから更に狂気は広まり、まさに鼠に媒介される黒死病の様相を呈する。
 よしんば何者かが強い意志で狂気の伝染に絶えたとしても、命がけの激闘を繰り広げ、疲弊した一同を殺すのは容易。
 デミテルはすでに、狂気を伝染させ、噛み合う互いが疲弊した隙を突き、多くの命を葬っている。
 ましてやミトスは、下手をすればあのダオスとさえ互角に渡り合えるくらいの、強大な力を備えている。
 強大な存在ほど、狂気に堕ちたときの周囲への破壊は凄まじい。
 その点において乱心したミトスは、デミテルにとってはこの上ない漁夫の利の提供者…となるはずであった。
 だが、その目論見は、クレスの狂気の方に阻まれた。血への欲情を抑えきれなくなったクレスが、無駄な「道草」を食ってしまったことで。
 それでも、デミテルはクレスを手放すことに、ためらいを感じている。
 本人に聞くところによれば、まだクレスは最後の切り札を備えているというからだ。
 迫り来る死の重圧によって肉体の枷を解き放ち、いかなる魔力や闘気をも無化する激烈な剣風を放つ三連斬り…
 アルベイン流最終奥義・冥空斬翔剣を。
 御しきれないからと言って、あっさり切り捨ててしまうには惜しいほどのメリットを、クレスは包含しているのだ。
 クレスはまさしく騎士(ナイト)の駒。真っ直ぐに進むことも出来ず、かといって斜めにも進めない、歪んだ進路しか取れない、ひねくれ者の駒。
 だが、騎士(ナイト)は逆に言えば、他の駒には出来ない奇襲戦法を取ることが出来る。
 何より、敵の張った兵士(ポーン)の防衛線をあっさり飛び越え、王(キング)に単騎で切り込める駒は、騎士(ナイト)を以って他にないのだ。
 そして、クレスという騎士(ナイト)は、見事にダオスという王(キング)に単騎駆けをこなして見せた。
 毒でもあり、薬でもある。まさにクレスは、劇薬の名を冠するにふさわしい手駒であった。
 劇薬のもたらすものは、利が多いか害が多いか。デミテルは常に、そのギリギリの見極めを強いられることになる。
 クレスはバクショウダケの禁断症状で、強引に押さえ付けてはいる。だが、だからといって油断は出来ない。
 クレスの「毒」も計算に入れた上で、今後の対策をいかにするか。
 デミテルの脳裏には、再び激しい火花が舞い始めた。

 時はやはり、小一時間ほど遡る。
 夕暮れの空に、悲嘆と絶望をもたらす、あの声が響き渡る中。
 ダオスは、ジェイは、互いににらみ合いを続けていた。
 2人の手には、この島の地図と参加者の名簿。
 放送の通りに、ミクトランから与えられる情報を逐一書き込む。
 禁止エリア。死亡者。そしてミクトランの気まぐれな話。
「…これで、情報に間違いはありませんね」
 ジェイは独り言のように呟きながら、筆記用具で地図の各所を指し示し、一つ一つ確認する。
(あのマグニスとバルバトスがゲームから脱落してくれたのはありがたいけど…)
 ジェイは、シャーリィを除けば今や唯一の知人であった、ミミーの死を知った時も、心はそれほど揺れはしなかった。
 死者にこんな発言は不謹慎ではあるが、禁止エリアに踏み込んで死ぬような、間抜けな死に方を彼女がしていたから、かも知れない。
 禁止エリアを聞き逃すような真似など、もはやこの島においては、命なんて要りません、と言っているも同然。
 そしてジェイは、ただでさえソロンの「教育」で奪われたなけなしのお情けを、そんな人間に対して向けるほどには持ってはいないのだ。
 だが。さすがのジェイでさえ。11人目の死者に赤い×印を付ける事は逡巡した。
 クラトス・アウリオン。ジェイに魔剣ヴォーパルソードを渡し、息子にそれを渡すようにとジェイに言い、E2の城の瓦礫に消えた男。
 やはり、彼はバルバトスの凶弾に…崩れ去った城の瓦礫に斃れていたのだ。
 じわり、と視界がぼやける。鼻の奥が、つんと熱くなる。
 それでもジェイは、次の瞬間には己に喝を入れることを忘れてはいない。死者を想い涙するのは、自身の役割ではないのだ、と叱咤して。
 セネルの死を、モーゼスの死を耳にしても、挫けなかった心だ。泣き濡れなかった顔だ。ここで心を砕かれては、今までの頑張りが無に帰す。
 心の弱い者から順に、この会場の闇は命を食い尽くしていく。闇に生きる者にそんな運命は許されない。自らの生きる拠り所に食われ、死ぬ運命など!
 ジェイは湧き上がる悲哀を、ソロンに教え込まれた滅心の法で以って、強引に押さえ付けていた。
 今なすべきことは、目の前の金髪の偉人より、C3の村の情報を引き出すこと。
 それにより、このゲームに少しでも優位に立てるよう、今後の戦略を組み立てること。
 涙に震えそうになる声に無理やり芯を通し、ジェイはごく平然を装いながら、彼に話しかける。
「…ええと…ダオスさん、でしたね…」
「…………」

「…ダオスさん?」
「…聞こえている。心配するな」
 感情を押し殺した声。それが、ジェイにとっては自分の鏡写しのように思えて、ジェイは思わず言葉をつぐんでしまった。
「…お前もまた…大切な人を亡くしたのだな」
 呟くダオス。
「さて、何のことでしょう?」
 この男には、何か意図があって自分にカマをかけているような雰囲気はない。けれどもジェイは、生来の癖でとぼけたような返答をしていた。
「…私もまた、大切な人を亡くした。お前の醸し出す雰囲気は、私と同じだ」
 ダオスもまた、ジェイと同じく11人目の人物に×印を付けることをためらっていた。そして今、その作業を終えたところだ。
 マーテル・ユグドラシルの死を、ダオスはやっとのことで認めていた。死を認められていなかったからこその、印付けへの躊躇だった。
「…………」
 ダオスは目を伏せ、もう一度マーテルを偲ぶ。故郷の救世主たりえたはずの、唯一の人物を。1人の人として、敬うにあたう女性を。
「…ところで、放送で中断してしまいましたが、お話の続きをよろしいでしょうか?」
 ダオスの黙考を、しかし中断せしめるジェイ。ダオスは目を見開き、目の前に立つ白皙の少年を映す。
「それとも、もう少しお待ちしましょうか?」
 ともすれば、皮肉とも取れそうなジェイの物言い。だが、ダオスはその言葉を真っ直ぐに受け取り、そして返す。
「構わん。今の私には、物思いに沈む暇はないのだ」
 そう。ダオスには時間がないのだ。
 東の地平線には、赤と青の月が姿を覗かせ、遥かなる天球にかかろうとしている。あの二つの月が再び地平線に抱かれるとき、ダオスの刻は果てる。
「用件は手短に言え。私はこれから、この島に残るマーダーを狩り尽くさねばならんのだ」
 この島にいまだ残る、狂気にとらわれずに踏みとどまる者達が、悪しき意志を持つ輩の凶刃にかからぬ内に。来たる永遠の眠りを、一時の眠りに変えるために。
「…でしたらひょっとすれば、ぼくはあなたにとって有益な情報を、提供出来るかもしれませんよ」
「…何?」
 白皙の少年の言質に、ダオスは眉根をひそめる。
「ですから、ここは1つギブ・アンド・テイクでいきましょう。名簿を見ればご存知かとは思いますが、ぼくの名は『不可視の』ジェイ。
一応、遺跡船という所では、指折りの情報屋として知られていました。
あなたはダオスさんですね? 最初ミクトランに立ち向かったあのときの事、覚えていますよ」
 ジェイと名乗った少年は、すると早くも用件を切り出しにかかった。C3の村で起きたことを、知る限りでいいから証言してくれ、と。
 ダオスは今まであったことを筋道立てて、ジェイに告げる。

 マーテルの願いの元、島の北東部から向かってきたこと。
 その道中でロイドという少年と、メルディという少女と合流したこと。メルディが途中で狂乱状態に陥り、それを力づくで押さえた事。
 村に行ったら行ったで、自らを宿敵とみなす男、モリスンと鉢合わせしたこと。
 それでも、ロイドという少年に仲人を務めてもらい、一時的に仲間となったこと。
 その輪の中に、クレスという少年も途中から参加し、改めて一同の力でミクトランに立ち向かおうと、一度は決意したこと。
 しかしその団結の輪を、再び狂乱したメルディに壊され、クレスの誘導により一旦他の仲間と別れたこと。
 そこでダオスはクレスの卑劣な策略にはめられ、モリスンにより満身創痍になったこと。
 そこでモリスンは自ら殺したが、マーテルは殺されたこと。共に行動していたミトスとは断絶し、しばらく腑抜けのようになっていたこと。
 そして、こうしてマーダーを狩るべくして、ここにいること。
 ダオスはあえて、ジェイに自らの命が終わりに近いことは告げなかった。単純に、言う必要がないと思ったからだ。
 そしてジェイは、この一連の証言の中で、ようやく待ち望んでいたパズルの1ピースを手にすることが出来た。
 残された唯一の仲間…シャーリィ・フェンネスの安否という、1ピースを。
「シャ…シャーリィさんが化け物に!?」
「シャーリィは、お前の仲間だったのか…」
 だが、ダオスから顛末を聞いたジェイは驚愕した。
 セネルの死を受け入れられずに、狂気という毒を呑み、そして挙句の果てには怪物に成り果てた、というダオスの証言に。
「向こうも刃を向けてきた以上、こちらもやむなく応戦はした。恨みつらみは聞き入れんぞ」
「いえ、その判断は正しかったと思います」
 正直なところ、ジェイの受けた驚愕は凄まじい。恐らくこの驚愕は、ソロンの死を聞いた今朝のそれに匹敵するかも知れない。
 ジェイは万一シャーリィと鉢合わせしてしまったら…その恐怖もまた、憂慮すべき事態として、ジェイは羊皮紙に書き込んでおく。
 ダオスやミトスほどの力を持つ者が、手を組んでさえ止めを刺しきれぬほどとあらば、はっきり言って恐るべき脅威だ。
 ジェイの持つ切り札、クライマックスモードでさえ、通じるかどうか。
 もともとクライマックスモードは、大気を介して大いなる海の意志、滄我と自身をリンクさせ、周囲に滄我の絶対領域を生成し、敵の行動を封じる技。
 発動させれば、ほぼ確実に相手を葬り去れる。
 もし敵対する二者が、同時にクライマックスモードを発動させたなら、どうなるか。試したことこそないが、推測はつく。
 恐らく滄我の支配力が高かった方のみが、クライマックスモードの発動に成功する。
 そしてシャーリィは、怪物と化していようと、滄我の代行者と目されるメルネス。競り合えば、恐らくはジェイが敗れる。
 シャーリィを元に戻すにせよ、葬るにせよ、ろくな打開策を思いつけない。
 ジェイは、その問題については後回しとする。明確に彼女の脅威の迫っていない今、他に考えるべきことは多くあるのだ。
 ジェイはつとめて、冷静な口ぶりで、ダオスに謝辞を述べる。

「ありがとうございます。ダオスさんのお陰で、C3の村周りの事件の真相は明らかに出来ました。ちょっとまとめてみましょう」
 ジェイは、今や半分以上の人間が赤く塗りつぶされた名簿と、そしてこの島の地図を取り出し、状況の整理にかかる。
「まず事の発端は、あの村にいたファラ・エルステッドさんとジョニー・シデンさんが、アーチェ・クラインさんを迎え入れたことからですね。
それが1日目の夜。今日の朝方になったとき、アーチェさんは2人の朝食に一服盛って、毒殺を試みたようです。
ジョニーさんはそれにギリギリ気付いたものの、ファラさんはすでに毒を受けていた。
アーチェさんはジョニーさんとのもみ合いの末ジョニーさんに刺殺され、ファラさんもまた、自らの死を知った。
ファラさんは最後の力を振り絞って、例の朝の呼びかけをしていたわけなんですね。
ちょうどありがたいことに、それと同時刻にE2城にいた、例のマグニスはこの紫髪の男…サレさんに殺されていた。
更に乱心したこの男…バルバトス・ゲーティアがE2の城を粉みじんに打ち壊し、その際の余波でサレさんとクラトス・アウリオンさん、
そして城を破壊した本人であるバルバトスが、まとめて死んだ。
…E2城の件は、ちょうどその時ぼくも現場に居合わせていたのですが、最後まで見ていたわけではないので、一部放送からの情報で推理したものです」
 もしE2城でマグニス達が死んでくれていなければ、C3の村はもっととんでもない事態になっていたかも知れませんね。
 その言葉と共に、ジェイは一度言葉を区切る。
「さて、問題のC3の村の件です。ファラさんの命を賭けた演説は、多くの人を呼び寄せた。
B2の塔に潜伏していたリッド・ハーシェルさんとキール・ツァイベルさん。エドワード・D・モリスンさん。
ダオスさんが率いていたマーテル・ユグドラシルさん、ロイド・アーヴィングさん、ミトス・ユグドラシルさん、メルディさん。
そして、そこに乱入してきたのが、クレス・アルベインさんてわけですね」
 ふう、とジェイはため息をつきながら、投げ出し気味の脚を畳む。
「後は、ダオスさんも見ての通り。その後C3の村に集った人間は、マーテルさんを旗振り役して一致団結するも、
そこに現れた不協和音が、ネレイドという異界の神に体を乗っ取られたメルディさんと、マーテルさんを人質に取ったクレスさん。
2人のせいで、せっかく組まれた仲間の輪は見事に空中分解。
メルディさんのせいでキールさんは家の中から外へと弾き出され、
リッドさん、ロイドさん、ミトスさん、ジョニーさんは屋内に幽閉され、その上で火計にかけられた。
屋外に追いやられたダオスさん、マーテルさん、モリスンさん、クレスさんの組は、クレスさんがマーテルさんを人質にとり、
最終的には屋内外併せて、ジョニーさん、モリスンさん、マーテルさんの3人が命を断たれた。
クレスさん、ダオスさん、ミトスさんはこうして南部に別々に進み、リッド・キール・ロイドさんを残して、
マーテルさんの作り上げた仲間の輪は崩壊したわけですね。
…最初ぼくはメルディさんとクレスさんが、裏で繋がって共謀していたと推理しましたが、その説は却下しました。
つまり村はあの時、マーテルさんの組とメルディさんとクレスさん、勢力が三つ巴になっていたわけですね」

「…一応聞くが、メルディとクレスがグルになっていたという説を、否定する理由は何だ?」
 そこで始めて、ダオスは口を差し挟んだ。ジェイはそれに、滞ることなく返事をする。
「確かに2人が共謀していたと考えれば、マーテルさんの組が団結を誓った直後に、あんな風に上手く戦力を分断できたのも説明がつきます。
ですが、ロイドさんの証言によると、メルディさんはロイドさんの見る前で、ネレイドという神にその体を明け渡したそうです。
それ以前の彼女は、心優しく善良で、何かに怯えているような風だったと彼は言っていました。
クレスさんと共謀するための打ち合わせが出来るとすれば、メルディさんがロイドさんと出会う前ですが、
ネレイドに屈する前の彼女の性格からして、C3の村の件のような悪辣な策略を立案したとは考えにくいですし…。
百歩譲って、もし彼女の本性は邪悪で、その悪意を完全に隠し切って今回の策を練っていたと仮定すると、
今度はC3の村の策略それ自体が、稚拙過ぎます。
もしメルディさんが、悪意を完全に隠し切って行動できるほどの腹芸の達人なら、もっと仲間内で絆を深め合って、
油断を誘っておいてからC3の村の面子を一網打尽にするくらい、やれていたはずです。
このようなかなり強引な仮定や論理展開が延々続いてしまって、共謀説は考えにくいんです」
 そこまで聞いて、ダオスは浅く頷いた。
 恐らくこの少年は、参加者の間を飛び回り、多くの証言を集めて縫い合わせている。
 証言だけからここまで精密な論理を展開できる少年の「指折りの情報屋」の自称は、伊達ではあるまい。
「ですから、C3の村の一件は、マーテルさん達とメルディさん、クレスさんの三つ巴、でカタをつけてもいいと思いますね。
…何より、ぼくが一番引っかかっているのは、屋内に閉じ込められたメンツが遭った『火計』です」
 今までのジェイの言葉に耳を傾けていたダオスは、その単語に反応し、きらりと目を輝かせた。
「ぼくが知りたいのは火計の犯人です。
あれも状況的にはメルディさんの仕業とまず推理したくなりますが、そうするといくつか腑に落ちない点が出てきます」
「…その『腑に落ちない点』とやらを言ってみろ」
 ジェイはそれに短く諾、と答え、すぐさまに言葉を繰り出し始める。
「もし火計の犯人がメルディさんだとすると、クレスさんがマーテルさん達を外に連れ出そうとした際、出口を潰すなどしてでも強引に引き止めたはずです。
先ほどの推理より、クレスさんとメルディさんは少なくとも共謀関係にないことが判明しましたから、メルディさんにとっては、その場にいた人間は全て敵。
もしメルディさんが火計の準備をしていたとすると、可能な限り多くの人間を殺すためなら、クレスさん達の逃走を見逃す手はありませんよね?」
 その方が、よりたくさんの人間を火事に巻き込めますから。ジェイは、そう締めくくる。
「そもそも、自分が家の中に残っている状態で、火を家に放つなんて馬鹿げた考え方です。
そんなことしたら、言うまでもなく自分も巻き添えになりますからね。
そこまでしてでも油断を誘ったり、はたまた乾坤一擲の大勝負に出なければならなかった理由も考えにくい。
おまけに、彼女には例の家の二階に運び込まれてから、キールさんが様子を見に行くまでの間、完全に意識を失っていた。
そんな状況じゃ火計のための仕込みなんて出来ませんし、遥か以前から彼女が仕掛けを張っていたなんて強弁は論外です。
…つまり、ぼくの言いたいことは分かりましたか、ダオスさん?」

「…第三者による放火、というわけか」
 ダオスの言葉を、ジェイは無言で肯定していた。
「はい。そう説明付けた方が、すっきりと筋が通るんです。ただ…」
 ジェイは声のトーンを一段階落とし、手元の羊皮紙を見る。
 もはや参加者の半数がこの島の大地にその血を啜られた。だが、容疑者はそれでも多過ぎる。
「現在の生存者数は25名。C3の村の一件の生存者5名やアリバイのあったクレスさん、そしてぼくを差し引いたとしても、
残された容疑者の数は18名。更にこの中でもぼくが直接見聞きした情報の中で、悪意がなさそうと確認した人を除外しても、
17名にまで絞り込むのが限界です」
 実を言えば、ジェイの偵察網にかかった人間の中には、位置的に犯行が可能な人間は1人…いや、2人いる。
 だが、「奴」を犯人だと確証出来る決定的証拠はない。そもそも、状況証拠でさえ不足している。
 あと一歩。仮決めのものでもいいから、パズルのピースがなければ、これ以上の推理は進められない。
 ジェイは、ここに来て改めて困惑した。
 今までの自分の推理は、証言を提供してくれたダオスへの返礼として披露していたが、さしもの彼でさえ、推理をこれ以上進めるのは困難となっていた。
 しかし。
 天恵か、はたまた必然か。
 ダオスは突然、その人物を指差した。
 ダオスが指し示した、その人物を確認した瞬間。
 ジェイの脳裏で、肝心要のパズルのピースが…仮決めのパズルのピースが、かちりとはまっていた。
「…デミテルだ。あんな策を繰り出す様な者を…私はこの中で一人だけ知っている。
それが…この男だ!」
 ダオスのその言葉と共に、ジェイは更なる情報への渇望に捕らわれる。もはや反射的に、ジェイはダオスへと問いを投げかけていた。
「その男のことについて、もっと詳しく教えていただけますか?」
 ダオスが指し示した男…デミテルこそ、ジェイが最も怪しいと睨んでいた人物。
 E2の城の崩落騒ぎのとき、ほんの一瞬だけ見かけた、赤メッシュを入れた青髪の男!

 ダオスは、デミテルという男の人となりを、ジェイに知る限りの情報を、全て提供していた。
 デミテルとは、アセリアの大地において、ダオスの軍門に下ったハーフエルフの1人。
 彼は屍霊術や黒魔術を専門とし、それだけではなく博物学、錬金術と言った諸般の学問に長けた男。
 そして彼はまた、戦術論・戦略論について深い造詣と天性の素養を持つ、ダオス軍屈指の智将であった。
 彼が軍師として指揮を振るった軍は、まさに無敗。
 さすがに全戦全勝とはいかなくとも、戦争論において絶対の鉄則である「負けない」という条件を常に満たしていた。
 彼の立案する作戦は、常にこの観点にから組み立てられていた。
 「いかにして、限りなく自軍の損害を0に近づけつつ、敵軍を壊滅させるか」。これを彼なりのやり方で、極限まで昇華させた戦法…
 それこそが、ダオス軍でも語り継がれる、「漁夫の利戦法」である。
 デミテルはダオスから、ある軍を壊滅させろと命じられたとき、まず何をするか。
 自らの軍勢を出撃させるのではない。まず周囲に敵軍を潰してくれそうな第三勢力が存在しないか、調査を行う。
 もし第三勢力が存在しないなら、別の手を使う。敵軍の一枚岩を割る、「ひび」を探すのだ。
 どんな軍でも、構成員は人間。そこには必ず派閥争いや、人間関係の軋轢がある。必ず付け入る隙はある。
 間諜を放ち、流言飛語を流行らせ、軍勢に揺さぶりをかける。第三勢力を挑発し、敵軍と戦うように仕向ける。
 これが最高形で決まれば、わざわざ手勢を派遣するまでもなく、敵軍は壊滅する。デミテルは一兵も派遣せず、敵軍を自滅させられるのだ。
 更に、一度やると決めたからには、鬼畜外道の所業を行うことも辞さない。
 第三勢力の軍を挑発するために、デミテルは自軍の兵士を用いて第三勢力の女性兵士を誘拐し、その目前で輪姦をさせたこともある。
 無論、デミテルが倒したい敵軍が、その輪姦を行ったように見せる偽装工作は怠らない。
 そんなデミテルは、しかしあるときダオス軍の軍師の座を辞した。
 その理由は、分からない。
 だが、十二分に勢力を拡大できたダオス軍にとって、デミテルの存在は必要不可欠ではなくなっていたため、あえてダオスはその辞意を受け入れた。
 以来彼は、1人ヴェネツィアの西の、とある孤島で孤独に学問を修めていたという。
「…なるほど。デミテルなる男の人となりは、ある程度理解できました」
 ジェイはそう答えながらも、仮決めのパズルのピースが正解である可能性の深まりに、疑問が氷解していくのを感じていた。
 位置的に犯行が可能であるというジェイの憶測と、状況から察してこのシナリオを書いたのは奴ではないかというダオスの憶測。
 二つの憶測が、一つの同じ結論を導出したのであれば、その憶測も結論も、真実である可能性はにわかに跳ね上がる。
「…しかし、となると、人数も減ってきたこの情勢下じゃ、そのデミテルって男が脅威になる可能性も濃くなってくるな…
よしんば今回のC3の件の犯人がそのデミテルって奴じゃなかったとしても…」
 呟きながら、推論を組み立てるジェイ。
 その耳に、ダオスの声が混じるまで、その思考は続いた。
 否。続けるわけにはいかなかった。
 ダオスの口から漏れる、その声を聞いては。

「ごはっ!!!」
 ダオスは、まさに血反吐を吐いていたのだ。
「! ダオスさん!!」
(あれだけの傷…やっぱり内臓が傷付いていたか!)
 ジェイは満身創痍になっても、なお二本の脚で立つダオスの頑健さを、見誤っていた。
 あれほどに傷を受けていれば、本来立っていることさえ辛いはずなのに。
 ジェイには癒しの力のある、ブレス系爪術は使えない。それでも目の前の人間が血反吐を吐こうものなら、何事かと駆け寄るのが人間だ。
 ジェイもまた同じく。
 それでもダオスは、あえてジェイの好意を受けようとはしなかった。駆け寄るジェイを、乱暴に突き飛ばす。
「!? 何を!!」
「お喋りの時間は終わりだ…お前と話せたのは非常に有意義だった。今の話を聞いてますます私は、デミテルを殺さないわけにはいかなくなった」
「どうして!? どうしてそんなボロボロの体で!!?」
 ダオスの背よりにじみ出る、激しい感情。それに揺さぶられたのか、めったに感情的に声を上げないジェイでさえ、声のトーンが上がる。
 そして、帰ってきたのは、ジェイの悲鳴に層倍する、ダオスの大喝の声だった。
「私には…時間がないのだッ!!!」
 ジェイは瞬間、全身が凍り付いた。
 次の瞬間、全身の毛穴から、どっと冷たい汗が吹き出た。
 この男の発する鬼気…桁外れの凄まじさを秘めている。まさに触れるだけで、肌が切り裂かれそうな程の。
 違う。この男の鬼気はそんな生易しいものではない。刃そのものが烈風と化し、吹き付けるようなほどの気迫。
 少なくとも、ソロンは確実に超えている…次元が違う! ソロンのまとう鬼気など、この男のそれに比べれば、そよ風も同然だ。
 見れば、ダオスの金髪は、一房ばかりが色を失っている。一筋の銀髪が、そこにはあった。
 ジェイは理屈を通り越して、直感で理解する。この男の髪の毛が、全て銀髪に変わったとき、この偉人は死の闇に臥すのだと。
 ジェイの瞳には、確かに見える。見えた気がした。
 闇夜よりも黒い外套をまとい、大鎌を握り締める骸骨が、ダオスの肩の上に。
 死神は、もはやダオスの背から離れようとはしない。彼の命を、定められたその瞬間に奪い、冥府に帰還するまでは。
 ぶるぶると、ジェイの膝が震える。ソロンよりも、かの虚無の神より強き何者かが、自らに命じているかのようにさえ感じてしまう。
 この男の屍を拾えと。この男の命の、最後の輝きまでを見届けよと。この男の燃える命を、極限まで熱からしめよと。
 この偉人は、もはや限られた命を賭けて、何かを守ろうとしている。その意志を無視し、通り過ぎるなど、出来ようものか。
 歩み始めたダオスの背に、たまらずジェイは声をかけた。

「ダオスさん!!!」
 この男の放つ鬼気に負けまいと。刃の烈風をおして、少しでもこの気持ちが届けと。
「デミテルを殺すにしても、どうやって!!? あいつをいぶりだす策はあるんですか!!?
あなたが認めるほどの智将なんですよね! デミテルは!! ならば、策を用いねばデミテルは確実に取り逃します!」
「ならばどうしろと!! 私にひとところに座し、おとなしく犬死にを待てとでもほざくつもりかっ!!」
「そんなつもりはありません! …落ち着いて聞いて下さい」
 あくまで感情を激発させるダオスと、その激情を静かに受け止めるジェイと。
 ぎりぎりと、緊張の糸が引き締められる。
 先に言葉を発したのは、ジェイだった。
「…1つ質問します。デミテルはあなたの軍門下で、『漁夫の利戦法』を用いて軍を無敗に仕立て上げていたんですね?」
「いまさら何を言うかと思えば…」
「そのやり方を、一度でも崩したことはありますか?」
 ジェイの言葉を一蹴しようと、一時は考えたダオス。だが、ジェイの瞳の輝きは、ダオスにそれを許さなかった。
 ジェイの眼光に、熱くなりかけたダオスの頭は再び冷静さを取り戻していた。
「…いや、ない。『漁夫の利戦法』は、絶対無敵の兵法と奴自身が自負し、奴は軍を正面から派遣したことは一度もなかった。
逆に言えば、どんなに油断を排した軍を相手にしても、奴は奇襲をかける隙を的確に見抜き、それを突いていたのだ」
「ならば逆に、そこが奴に付け入る隙です」
 ジェイの眼光。撃ち抜かれたダオスは、はっと息に詰まる。
「なるほど。つまりはそれが弱点か」
「はい。俗に『兵は水に象る』とも言います。
無形の兵法、絶対に先読みの出来ない兵法をデミテルに打たれれば、ぼくらは百回戦っても、百回負けるでしょう。
ですが、デミテルは『漁夫の利戦法』に固執した布石を打ってくるのであれば、その兵法はもはやとらえどころのない『水』ではありません。
デミテルが漁夫の利に食いついてくるのであれば、ぼくらはそれを逆手に取って、漁夫の利をぶら下げてデミテルを『釣る』んです」
 その漁夫の利が餌であると気付かせなければ、デミテルはほぼ確実に釣り上げることが出来る。
 ダオスはデミテルを智将とは目したが、その戦闘力自体はそこまで高くはない。
 たとえ今の満身創痍のダオスでも、「テトラアサルト」あたりをクリーンヒットさせれば…
 デミテルの秘孔を一撃でも突く事ができれば、その瞬間勝負は決まる。
 「テトラアサルト」は四連続の格闘攻撃で、敵の肉体を痛めつけるだけの技ではない。
 同時に敵の肉体の秘孔を突き、体内のマナのバランスを崩すことで、たちまちの内に肉体を石化させる技なのだ。
 これが決まれば、デミテルは有無を言わさず王手(チェックメイト)にかかる。
 だが…

「問題は、奴に付き添う一人の砦(ルーク)ですね」
 ジェイはE2の騒動でちらりとだけ見かけた、緑髪の青年を思い出していた。名簿によれば、彼の名はティトレイ・クロウ。
 たとえデミテルを釣り上げたとしても、彼がいる限りデミテルに肉薄するのはかなりの難業となるだろう。
 それだけではない。
 ダオスがモリスンとの戦いの際見かけたという、禍々しいまでに魔力を増大させる杖。それは地面から伸びた蔓が、どこかへ持ち去ったという。
 それはジェイがあの火計の跡地で見かけた、焼け爛れた蔓と奇妙な一致を見ている。
 それに、ダオスをこうまで痛めつける策を放った張本人、クレスのことも忘れてはならない。
 彼がもし、メルディではなく、デミテルと共謀していたと仮定したなら。少なくともメルディとの共謀説よりはしっくりきそうな気がする。
 さまざまな情報がジェイの脳裏を渦巻き、高速で整理されていく。
 この「バトル・ロワイアル」が始まって、まる1日半。
 デミテルもダオスでさえ一目置くほどの人間なら、この1日半のうちで、幾枚もの切り札を手にしている可能性がある。
 デミテルはC3の村の筋書きを構想し、その通りに見事に一同を踊らせたほどの相手とあれば、どれほど用心しても、し過ぎる事はあるまい。
 もちろんジェイは、ここで情報収集を終えたなら、ダオスを見限ってさっさとリッド達の元へ帰ることも出来る。
 だが、ジェイは頭でも、心でもその選択肢を破棄していた。
 今なら、ジェイはダオスの強大な力を借りることが出来る。少なくとも、今なら。
 それに、これから来る夜の闇は、もとよりジェイの得意とする舞台。ジェイは幼少時より、闇と共に生きることを強いられてきた。
 そんな自分が、軍隊の本営の中でぬくぬくと椅子を暖め、自分の手を汚すのを是とせぬような人間ごときに、遅れを取るわけにはいかない!
 ありがたいことに、デミテルはまだジェイという女王(クイーン)の存在に気付いていない。
 存在は認知していても、どれほど自慢の頭脳を働かせても、ジェイがこうしてダオスの味方になりつつあることは、予測し得ないだろう。
 少なくともジェイは、デミテルに自分がいかなる存在なのかを、一言も漏らしていないのだ。
 もとより不意打ち、闇討ち、騙し討ちは忍者の家芸。おまけにジェイには、デミテルと同じく軍師として働いた経験さえある。
 兵法にいわく、「人に致して人に致されず」。智将同士の対決においては、先手や上策で以って、先に戦いの主導権を握った方が勝つ。
 デミテルが生き残るのなら、ゆくゆくは必ずジェイも彼との対決を強いられることは必定。
 その時点で戦いの主導権を握られていたならば、目も当てられまい。だが、今ならジェイから「人に致す」またとない好機。
 「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを見ざるなり」。先手必勝は、いかなる戦いにおいても成立するのだ。
「…ぼくに、この戦いの絵を描かせてもらえますか、ダオスさん?」
「…………」
 その無言の返答は、ダオスがジェイの提案を受け入れたことを、如実に示す。ジェイは少しだけ笑みを浮かべると、すかさず続けた。
「それではダオスさん、あなたの持つ切り札を、ぼくに教えて下さい。ぼくもこれから、持ちうる切り札を全て、かき集めて来ましょう」
 それからジェイは、ダオスと短い会話を交わした後、すかさず「鏡殺」で走り出す。彼が付いていた、仲間たちの下へと。

 この鮮血の島を舞台に、いま一つのチェスゲームが始まる。
 ジェイという名の女王(クイーン)を味方に付けた金色の王(キング)、ダオス。
 クレスという騎士(ナイト)と、ティトレイという砦(ルーク)を手駒にする青の王(キング)、デミテル。
 金色の王(キング)は、かけられた王手(チェックメイト)が成立するまでの、わずかな時間を以って、青の王(キング)へ肉薄する。
 次なる手を打つのは、デミテル。
 ここから先、双方共に、一手てたりとて悪手を打てない。まさに自らの命を駒とした、壮絶な戦いが起ころう。
 互いに互いの陣地の一部を、駒の一部を見やることの出来ぬこのチェス盤。
 結果論でもよい。上策を打たねばならない。先に上策を打てなくなった方が、先に判断を誤った方が死ぬ。
 王手(チェックメイト)成立までに、わずかな時間の猶予という、奇跡を掴み取ったダオスか。
 はたまた姿を見せぬ不明の智将、デミテルが、今度こそ完全に金色の王(キング)を滅するか。
 勝利の女神に微笑まれるのは、天運を呼び込むのは、果たしてどちらか。
 両雄は、こうしてチェス盤の上に立つことと相成る。「バトル・ロワイアル」という名のチェス盤は、激闘への予感に、打ち震えていた。


【デミテル 生存確認】
状態:TP残り85%
所持品:ミスティシンボル、ストロー、金属バット 魔杖ケイオスハート
第一行動方針:ミトス追跡は断念し、今後の行動の計画
第二行動方針:出来るだけ最低限の方法で邪魔者を駆逐する
現在位置:E3

【ティトレイ・クロウ 生存確認】
状態:感情喪失、TP残り60%
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック
基本行動方針:かえりたい
第一行動方針:デミテルの指示通りに行動する
現在位置:E3

【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:TP残り80%、善意及び判断能力の喪失 薬物中毒(デミテルから定期的に薬品の投与を受けねば、禁断症状が起こる)
所持品:ダマスクスソード、忍刀血桜
基本行動方針:ひとまず禁断症状で苦しみたくはない
第一行動方針:デミテルの指示通りに行動する(不安定)
現在位置:E3

【ジェイ 生存確認】
状態:緊張 全身にあざ TP残り70%
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(三枚) 双眼鏡
基本行動方針:後顧の憂いを立つために、ダオスのデミテル討伐に協力する
第一行動方針:出来る限り多くの切り札を用意する
第二行動方針:3人との合流
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:ミトス・ユアンを発見する
現在位置:D3崖下

【ダオス 生存確認】
状態:TP残り75%  HP1/8 死への秒読み(3日目未明~早朝に死亡) 壮烈な覚悟 髪の毛が一房銀髪化
所持品:エメラルドリング  ダオスの遺書
基本行動方針:死ぬまでになるべく多くのマーダーを殺害する
第一行動方針:デミテル一味の殺害
第二行動方針:クレスの殺害
第三行動方針:遺志を継いでもらえそうな人間は、決して傷付けない
現在位置:D3崖下

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