寄せる想い、継ぐ力
今から、何年も前のこと。
クルザンドのとある港町、とある民家。
1人のマリントルーパーと1人の水の民の少女は、人目を避けて暮らしていた。
追っ手の目に姿を見られぬように。追っ手の耳に声を聞き取られぬように。
(シャーリィ、もし変な奴らに捕まったら、まず狙うべきは小指だ)
まだ幼さの抜けやらぬ銀髪の少年は、傍らの金髪の少女に言う。
(小指を思い切り手の甲の側に捻れば、たいていの奴は痛みに怯む。逃げる隙を作ることが出来る)
(うん、お兄ちゃん)
金髪の少女が髪に差すは、花をあしらった可憐なカチューシャ。彼女の頷きに合わせ、カチューシャにまとめられた髪が揺れる。
(もし羽交い絞めにでもされたら、効果的なのは踏み潰しだな。
シャーリィの履いているそのブーツなら、相当に効くぞ。上手く入れば、相手の足の指の骨を砕くことだって出来る。
かなりの時間が、それで稼げるはずだ)
幼いシャーリィにそう教える銀髪の少年は、セネル・クーリッジ。シャーリィに花のカチューシャを買い与えたのは、彼。
(それから…ちょっと下品ですまないんだけどな…)
そう言って、セネルは中段から下段を狙った後ろ蹴りの演武を披露する。男性の暴漢に襲われた際、効果的と言われる技だ。
(このときはなるべく、足首をしなやかにして蹴りを放つといい。
ここはアーツ系爪術をもってしても鍛えるのは至難の急所だから、直撃したらほぼ耐えられる相手はいないはずだ。
…頼むから俺なんかを練習台にしないでくれよ)
そういうセネルの頬は、少しばかりいたたまれない気持ちに赤面していた。
(…え…あ……うん…そんなこと、しないから大丈夫だよ)
兄が赤面しながらしてくれた、生々しいけれども大切な話。シャーリィも羞恥心に駆られながらも聞き届ける。
その後もセネルは、シャーリィに簡単な護身術をいくらか教え続けた。
(さすがにヴァーツラフ辺りの手下の爪術使いが敵に回れば、厳しいかも知れない。
でも、町のチンピラや痴漢なんかに出くわしても、これくらい知っとけば逃げる助けにはなるからな)
熱心な講師役を果たしてくれる、セネルの青緑色の瞳。シャーリィは兄のこの瞳が大好きだった。
クルザンドのとある港町、とある民家。
1人のマリントルーパーと1人の水の民の少女は、人目を避けて暮らしていた。
追っ手の目に姿を見られぬように。追っ手の耳に声を聞き取られぬように。
(シャーリィ、もし変な奴らに捕まったら、まず狙うべきは小指だ)
まだ幼さの抜けやらぬ銀髪の少年は、傍らの金髪の少女に言う。
(小指を思い切り手の甲の側に捻れば、たいていの奴は痛みに怯む。逃げる隙を作ることが出来る)
(うん、お兄ちゃん)
金髪の少女が髪に差すは、花をあしらった可憐なカチューシャ。彼女の頷きに合わせ、カチューシャにまとめられた髪が揺れる。
(もし羽交い絞めにでもされたら、効果的なのは踏み潰しだな。
シャーリィの履いているそのブーツなら、相当に効くぞ。上手く入れば、相手の足の指の骨を砕くことだって出来る。
かなりの時間が、それで稼げるはずだ)
幼いシャーリィにそう教える銀髪の少年は、セネル・クーリッジ。シャーリィに花のカチューシャを買い与えたのは、彼。
(それから…ちょっと下品ですまないんだけどな…)
そう言って、セネルは中段から下段を狙った後ろ蹴りの演武を披露する。男性の暴漢に襲われた際、効果的と言われる技だ。
(このときはなるべく、足首をしなやかにして蹴りを放つといい。
ここはアーツ系爪術をもってしても鍛えるのは至難の急所だから、直撃したらほぼ耐えられる相手はいないはずだ。
…頼むから俺なんかを練習台にしないでくれよ)
そういうセネルの頬は、少しばかりいたたまれない気持ちに赤面していた。
(…え…あ……うん…そんなこと、しないから大丈夫だよ)
兄が赤面しながらしてくれた、生々しいけれども大切な話。シャーリィも羞恥心に駆られながらも聞き届ける。
その後もセネルは、シャーリィに簡単な護身術をいくらか教え続けた。
(さすがにヴァーツラフ辺りの手下の爪術使いが敵に回れば、厳しいかも知れない。
でも、町のチンピラや痴漢なんかに出くわしても、これくらい知っとけば逃げる助けにはなるからな)
熱心な講師役を果たしてくれる、セネルの青緑色の瞳。シャーリィは兄のこの瞳が大好きだった。
自分の海色の瞳とは違うけれど、きれいな色合い。水の民の輝く金髪とは違う、兄の銀色の髪。
みんなみんな、シャーリィは大好きだった。
(お兄ちゃん…)
(…ん?)
そんな大好きな兄へ、妹は問いかける。
(わたしに何があっても、お兄ちゃんはわたしのこと、守ってくれる?)
聞かずとも、明白な答え。けれどもそれを問いたくなるのは、幼いがゆえに相手の心をしかと抱き締めきれない、未熟さゆえか。
そして兄の返した答えは、シャーリィの期待と寸分違わぬものであった。
(…守るさ。
お前がまたヴァーツラフの手下どもにさらわれかけたって、万一さらわれたってな。
俺は世界の果てまででもお前を追っかけて、助けて見せる)
そう言いながら、幼いセネルは目を淋しげに、哀しげに細めながらおのが拳を見つめる。
そこには海のような青い輝きが、かすかばかりに宿っていた。
爪術の力が、セネルの手のひらの中で、かすかに脈打っているのだ。
(…そのための、この力かもしれないしな…)
憂いを払おうとして、けれどもその言葉には払い切れない憂いに満ちていた。
その言葉は、彼が未来にまで引きずることとなる足かせを暗示していたかのように、聞くことも出来たかもしれない。
(? …お兄ちゃん?)
(あ! いや、何でもない! …護身術の続きを教えなきゃな)
セネルの顔を見やるシャーリィ。
セネルは慌てて、笑顔を作った。同時に、セネルの声に満ちていた憂いも、きれいに剥がれ落ちる。
(とにかく、だ。シャーリィ、お前は俺が守る。ステラのためにも、ステラの分まで、2人で生きていこう。な?)
(うん!)
(じゃあ、次は地面に押し倒された時の受け身の練習だな)
(分かったわ)
みんなみんな、シャーリィは大好きだった。
(お兄ちゃん…)
(…ん?)
そんな大好きな兄へ、妹は問いかける。
(わたしに何があっても、お兄ちゃんはわたしのこと、守ってくれる?)
聞かずとも、明白な答え。けれどもそれを問いたくなるのは、幼いがゆえに相手の心をしかと抱き締めきれない、未熟さゆえか。
そして兄の返した答えは、シャーリィの期待と寸分違わぬものであった。
(…守るさ。
お前がまたヴァーツラフの手下どもにさらわれかけたって、万一さらわれたってな。
俺は世界の果てまででもお前を追っかけて、助けて見せる)
そう言いながら、幼いセネルは目を淋しげに、哀しげに細めながらおのが拳を見つめる。
そこには海のような青い輝きが、かすかばかりに宿っていた。
爪術の力が、セネルの手のひらの中で、かすかに脈打っているのだ。
(…そのための、この力かもしれないしな…)
憂いを払おうとして、けれどもその言葉には払い切れない憂いに満ちていた。
その言葉は、彼が未来にまで引きずることとなる足かせを暗示していたかのように、聞くことも出来たかもしれない。
(? …お兄ちゃん?)
(あ! いや、何でもない! …護身術の続きを教えなきゃな)
セネルの顔を見やるシャーリィ。
セネルは慌てて、笑顔を作った。同時に、セネルの声に満ちていた憂いも、きれいに剥がれ落ちる。
(とにかく、だ。シャーリィ、お前は俺が守る。ステラのためにも、ステラの分まで、2人で生きていこう。な?)
(うん!)
(じゃあ、次は地面に押し倒された時の受け身の練習だな)
(分かったわ)
交わした何気ない言葉。血なまぐさくも騒々しくもない、何気ない日常。この時には見せ掛けであった平和。
しかし、これより先数年後の未来において、2人が多くの仲間と共に勝ち取ることとなる、安息の日々。
その安息の日々は、平和は、三度崩された。
「バトル・ロワイアル」により。鮮血の遊戯盤の上に、2人が呼び出されることにより。
シャーリィはそこで、耐え難い犠牲をまた1つ、味わうことになる。セネルに下った理不尽な死の強要により。
もう、記憶の中にしか見つけることの出来ない、愛しい兄の微笑み。
だが現実は甘美な記憶の糸を手繰ることを、いつまでも許しはしない。
セピア色の思い出は、やがてまた別の色に染まることになる。
けばけばしい現実の赤に。残忍な鮮血の色に。
どれほど目を背けようと、現実はどこもかしこも、今やその一色に染め上げられているのだ――。
しかし、これより先数年後の未来において、2人が多くの仲間と共に勝ち取ることとなる、安息の日々。
その安息の日々は、平和は、三度崩された。
「バトル・ロワイアル」により。鮮血の遊戯盤の上に、2人が呼び出されることにより。
シャーリィはそこで、耐え難い犠牲をまた1つ、味わうことになる。セネルに下った理不尽な死の強要により。
もう、記憶の中にしか見つけることの出来ない、愛しい兄の微笑み。
だが現実は甘美な記憶の糸を手繰ることを、いつまでも許しはしない。
セピア色の思い出は、やがてまた別の色に染まることになる。
けばけばしい現実の赤に。残忍な鮮血の色に。
どれほど目を背けようと、現実はどこもかしこも、今やその一色に染め上げられているのだ――。
降り注ぎそうなほどの星空。
天を満たす微かで、それでも確かなきらめき。
その中から、およそ一刻前に一条の流れ星が落ちてきたのは、別段不可思議でも何でもないだろう。
それの正体が、輝く翼をまとった一人の少女でなければ。
天からの隕星のごとく大地に落下し、着地の際大地を楕円形に爆砕しながらも、少女は生きていた。
しばらく気を失っていたとは言え、ほぼ無傷で。
自らの破砕した大地の窪みから、今少女は這い上がってきた。
幾多の激闘を経て、異形の怪物に転じて、そしてつい先ほど、遥か天空から大地に叩きつけられて。
彼女が最初着ていた服は、もう服としての役割を果たさなくなっていた。
予備の着替えの入った袋を会場に持ち込んでいなければ、彼女は危うく裸でこの島をうろつく羽目になるところであった。
すすけた顔面。乱れた金髪。血や汗で濡れた肌。それと真新しい予備の着替えは、奇妙な違和感を彼女に与えていた。
天を満たす微かで、それでも確かなきらめき。
その中から、およそ一刻前に一条の流れ星が落ちてきたのは、別段不可思議でも何でもないだろう。
それの正体が、輝く翼をまとった一人の少女でなければ。
天からの隕星のごとく大地に落下し、着地の際大地を楕円形に爆砕しながらも、少女は生きていた。
しばらく気を失っていたとは言え、ほぼ無傷で。
自らの破砕した大地の窪みから、今少女は這い上がってきた。
幾多の激闘を経て、異形の怪物に転じて、そしてつい先ほど、遥か天空から大地に叩きつけられて。
彼女が最初着ていた服は、もう服としての役割を果たさなくなっていた。
予備の着替えの入った袋を会場に持ち込んでいなければ、彼女は危うく裸でこの島をうろつく羽目になるところであった。
すすけた顔面。乱れた金髪。血や汗で濡れた肌。それと真新しい予備の着替えは、奇妙な違和感を彼女に与えていた。
「…………」
立ち上がった彼女は、虚ろに空を見上げた。海色の瞳が、双月の光に揺れる。
シャーリィ・フェンネスは、トーマとユアン…雷と磁の力で空の彼方に打ち上げられながらも、生きていたのだ。
彼女の両腕と胸で、青い光が輝いていた。淡く鼓動するこの輝きこそ、シャーリィの奇跡の生還を成し遂げた秘密。
彼女はとっさに、受け身をとりながら着地していたのだ。テルクェスを併用しながら。
柔術などで、相手に転倒させられた際に取るべき動作は受け身。
地面を両手で叩き、肉体が…特に頭部などが転倒による衝撃をまともに受けないように、打撃を軽減する動作だ。
無論、遥か高空から地面に叩きつけられては、こんな動作は気休めにもなるまい。
だが、シャーリィは兄から教えられたこの動作に、テルクェスを複合させることでこの奇跡の生還を成し遂げた。
空に打ち上げられた時点で彼女は背にテルクェスを展開。翼を大きく広げ、落下速度を殺そうとした。
だが、この島の異常なマナの位相下では、テルクェスは十分な風を孕めなかった。滑空することさえ困難だったのだ。
そこで地面に叩きつけられる直前、シャーリィは背に展開していたテルクェスを収納し、両手に再展開。
テルクェスを用いた受け身で地面を叩き、落下の衝撃をほとんど減殺することに成功したのだ。
これによる弊害は、着地の衝撃で脳震盪を起こし、しばらくの間気を失っていたことくらい。
セネルやワルターがここにいたなら、驚愕に目を剥いていた事だろう。
あれほどの高空から打ち上げられたなら、鍛錬を十分に重ねたアーツ系爪術師でも、相当な深手を負う。
むしろ、全身を強打して虫の息…それを通り越して即死していても、何ら不思議はなかったくらいだ。
それでも、シャーリィは生きている。こうして、二本の足で立っているのだ。
「…ありがとう」
シャーリィは胸の前で両手を重ね、ここにはいない兄を想った。
「ありがとう…セネル・クーリッジお兄ちゃん」
滅多に呼ぶことのない兄の名。シャーリィはあえてその名を呼ばいながら、感謝の意を天の星に捧げる。
テルクェスがなくても。兄の教えた受け身がなくても。シャーリィは無事では済まされなかっただろう。
セネルはここにはいなくとも、シャーリィに教えた護身術を通して、彼女を守ったのだ。
立ち上がった彼女は、虚ろに空を見上げた。海色の瞳が、双月の光に揺れる。
シャーリィ・フェンネスは、トーマとユアン…雷と磁の力で空の彼方に打ち上げられながらも、生きていたのだ。
彼女の両腕と胸で、青い光が輝いていた。淡く鼓動するこの輝きこそ、シャーリィの奇跡の生還を成し遂げた秘密。
彼女はとっさに、受け身をとりながら着地していたのだ。テルクェスを併用しながら。
柔術などで、相手に転倒させられた際に取るべき動作は受け身。
地面を両手で叩き、肉体が…特に頭部などが転倒による衝撃をまともに受けないように、打撃を軽減する動作だ。
無論、遥か高空から地面に叩きつけられては、こんな動作は気休めにもなるまい。
だが、シャーリィは兄から教えられたこの動作に、テルクェスを複合させることでこの奇跡の生還を成し遂げた。
空に打ち上げられた時点で彼女は背にテルクェスを展開。翼を大きく広げ、落下速度を殺そうとした。
だが、この島の異常なマナの位相下では、テルクェスは十分な風を孕めなかった。滑空することさえ困難だったのだ。
そこで地面に叩きつけられる直前、シャーリィは背に展開していたテルクェスを収納し、両手に再展開。
テルクェスを用いた受け身で地面を叩き、落下の衝撃をほとんど減殺することに成功したのだ。
これによる弊害は、着地の衝撃で脳震盪を起こし、しばらくの間気を失っていたことくらい。
セネルやワルターがここにいたなら、驚愕に目を剥いていた事だろう。
あれほどの高空から打ち上げられたなら、鍛錬を十分に重ねたアーツ系爪術師でも、相当な深手を負う。
むしろ、全身を強打して虫の息…それを通り越して即死していても、何ら不思議はなかったくらいだ。
それでも、シャーリィは生きている。こうして、二本の足で立っているのだ。
「…ありがとう」
シャーリィは胸の前で両手を重ね、ここにはいない兄を想った。
「ありがとう…セネル・クーリッジお兄ちゃん」
滅多に呼ぶことのない兄の名。シャーリィはあえてその名を呼ばいながら、感謝の意を天の星に捧げる。
テルクェスがなくても。兄の教えた受け身がなくても。シャーリィは無事では済まされなかっただろう。
セネルはここにはいなくとも、シャーリィに教えた護身術を通して、彼女を守ったのだ。
その時。
「!?」
シャーリィの組まれた腕の隙間から、光が漏れ出す。
青い光。穏やかに波打つ、優しい光。
(滄我の…光?)
シャーリィは、即座に気付いた。こんな輝きをもたらすものは、シャーリィの知る限りそれしかあり得ない。
大いなる海の意志、滄我。
シャーリィは服を透かして輝く、胸の宝石を見た。
胸元を開け、覗き込む。胸に埋まるそれが、服の中を満たしている。
エクスフィア…否。後もう一歩のところでハイエクスフィアになり損ねた、未完の輝石。
まったき球であったはずのそれは、ユアンにより砕かれたからだろうか、変形して菱形に変わっている。
滄我の力を満たしたエクスフィア。本来の紅き輝きを得る間もなく、外界に放り出されたエクスフィア。
紅き輝きの代わりに、輝石がまとうは滄我の青。
さしずめ「ネルフェス・エクスフィア」とでも銘打つべき、更なる高位の姿へと脱皮を終えた宝珠は。
こうしてシャーリィの腕の中、産声のように光を放っていたのだ。
その光は、脈動しながらシャーリィの腕に染み渡る。両肩へ。二の腕へ。肘へ。前腕部へ。
そして、両手の手のひらへ。手のひらへ達した瞬間、ネルフェス・エクスフィアのもたらした青の輝きは、閃光と共に弾ける。
一瞬、目をつぶりたくなるほどの強い光。だが、それが大気を焼いたのは僅かな間。
目をつぶりながら顔を背けていたシャーリィが、そこに見たものは。
自らの手の甲から翼を生やした、双子のテルクェス。右手と左手に宿った、二対の翼。
そして手のひらに刻み込まれしは。
水平に両断された菱形の中央に、ぽつりと打たれた1つの点。
古刻語で「海」「青」「祈り」などを表し、またシャーリィの誠名にも用いられる文字…「Fes」の紋章。
大気を弾けさせ、光は虚空に帰す。テルクェスも、「Fes」の紋章も、共に消える。
「!?」
シャーリィの組まれた腕の隙間から、光が漏れ出す。
青い光。穏やかに波打つ、優しい光。
(滄我の…光?)
シャーリィは、即座に気付いた。こんな輝きをもたらすものは、シャーリィの知る限りそれしかあり得ない。
大いなる海の意志、滄我。
シャーリィは服を透かして輝く、胸の宝石を見た。
胸元を開け、覗き込む。胸に埋まるそれが、服の中を満たしている。
エクスフィア…否。後もう一歩のところでハイエクスフィアになり損ねた、未完の輝石。
まったき球であったはずのそれは、ユアンにより砕かれたからだろうか、変形して菱形に変わっている。
滄我の力を満たしたエクスフィア。本来の紅き輝きを得る間もなく、外界に放り出されたエクスフィア。
紅き輝きの代わりに、輝石がまとうは滄我の青。
さしずめ「ネルフェス・エクスフィア」とでも銘打つべき、更なる高位の姿へと脱皮を終えた宝珠は。
こうしてシャーリィの腕の中、産声のように光を放っていたのだ。
その光は、脈動しながらシャーリィの腕に染み渡る。両肩へ。二の腕へ。肘へ。前腕部へ。
そして、両手の手のひらへ。手のひらへ達した瞬間、ネルフェス・エクスフィアのもたらした青の輝きは、閃光と共に弾ける。
一瞬、目をつぶりたくなるほどの強い光。だが、それが大気を焼いたのは僅かな間。
目をつぶりながら顔を背けていたシャーリィが、そこに見たものは。
自らの手の甲から翼を生やした、双子のテルクェス。右手と左手に宿った、二対の翼。
そして手のひらに刻み込まれしは。
水平に両断された菱形の中央に、ぽつりと打たれた1つの点。
古刻語で「海」「青」「祈り」などを表し、またシャーリィの誠名にも用いられる文字…「Fes」の紋章。
大気を弾けさせ、光は虚空に帰す。テルクェスも、「Fes」の紋章も、共に消える。
だが。シャーリィには分かる。分かってしまう。
ネルフェス・エクスフィアが、自分自身に更なる力を付与したことを。
その力が、己の愛する兄の力であることを。
兄へ寄せる想いをネルフェス・エクスフィアが受け、シャーリィの無意識の大海からアーツ系爪術の力を引き出したことを。
極限状態で掴み取った、アーツ系爪術の秘儀。それがなければ、シャーリィは先ほどの墜落で息絶えていた。
「…………」
シャーリィは息を吸い、そして呼気で大気を震わせる。古代のブレス系爪術、「ファイアボール」の呪文を紡ぐ。
ウェルテスの闘技場や、そしてこの島でも実戦で鍛えた、ブレス系爪術の高速詠唱。
シャーリィは詠唱の言葉、そして身振りにも淀みなく。「ファイアボール」は完成。
シャーリィの手元から、3発の紫色の火球が放たれる。
だがその紫色の火球は、星空の彼方に飛び立つことはなく。ある程度シャーリィから離れた時点で、軌道を反転。
火球はシャーリィ自身を強襲!
だが、もとより指定していた照準は、自分自身。シャーリィはうろたえることなく、深呼吸。
滄我の青が、彼女の両の手に再び生まれた。双子のテルクェスと「Fes」の紋章が、浮かび上がる。
降り注ぐ火球から、一歩も退くことなく。シャーリィは裂帛の気合を上げながら、右手を繰り出す。
「てやぁぁぁっ!!」
その光景は、セネル・クーリッジがこの島に降り立って、初めて交戦した相手の攻撃を防いだ光景を髣髴とさせるものだった。
右手で一発。左手で一発。
あろうことか彼女は、テルクェスをまとっているとは言え、素手で「ファイアボール」を叩き落したのだ!
そして最後の一発は。
引き戻された右手が、再び空を裂き迎撃。紫の光と青の光が同時に夜空を焼く。
火球は、シャーリィの右手に鷲掴みにされていた。
「ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああああっ!」
シャーリィは右手に渾身の握力と魔力を集中させ、火球をぎりぎりと握り潰しにかかる。
ネルフェス・エクスフィアが、自分自身に更なる力を付与したことを。
その力が、己の愛する兄の力であることを。
兄へ寄せる想いをネルフェス・エクスフィアが受け、シャーリィの無意識の大海からアーツ系爪術の力を引き出したことを。
極限状態で掴み取った、アーツ系爪術の秘儀。それがなければ、シャーリィは先ほどの墜落で息絶えていた。
「…………」
シャーリィは息を吸い、そして呼気で大気を震わせる。古代のブレス系爪術、「ファイアボール」の呪文を紡ぐ。
ウェルテスの闘技場や、そしてこの島でも実戦で鍛えた、ブレス系爪術の高速詠唱。
シャーリィは詠唱の言葉、そして身振りにも淀みなく。「ファイアボール」は完成。
シャーリィの手元から、3発の紫色の火球が放たれる。
だがその紫色の火球は、星空の彼方に飛び立つことはなく。ある程度シャーリィから離れた時点で、軌道を反転。
火球はシャーリィ自身を強襲!
だが、もとより指定していた照準は、自分自身。シャーリィはうろたえることなく、深呼吸。
滄我の青が、彼女の両の手に再び生まれた。双子のテルクェスと「Fes」の紋章が、浮かび上がる。
降り注ぐ火球から、一歩も退くことなく。シャーリィは裂帛の気合を上げながら、右手を繰り出す。
「てやぁぁぁっ!!」
その光景は、セネル・クーリッジがこの島に降り立って、初めて交戦した相手の攻撃を防いだ光景を髣髴とさせるものだった。
右手で一発。左手で一発。
あろうことか彼女は、テルクェスをまとっているとは言え、素手で「ファイアボール」を叩き落したのだ!
そして最後の一発は。
引き戻された右手が、再び空を裂き迎撃。紫の光と青の光が同時に夜空を焼く。
火球は、シャーリィの右手に鷲掴みにされていた。
「ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああああっ!」
シャーリィは右手に渾身の握力と魔力を集中させ、火球をぎりぎりと握り潰しにかかる。
ぐぐぐぐ、という音と共に火球は引き絞られ、その身をじわじわと縮める。
シャーリィは右手手首に、更に自身の左手を添えた。本来1つであった双子のテルクェスは、再び力を合わせるべく重なり合う。
右手の手首を握り締めた左手の手のひら。手首を介して、双子のテルクェスが寄り添う。互いの羽根で、互いを支える。
左手のテルクェスが、右手のテルクェスと完全に折り重なった時。シャーリィはとっさに、右手を地面に向ける。
テルクェスを基軸に体内の闘気を練り上げる。体内の闘気は、シャーリィの右手に集約される。
シャーリィの手が、光って唸る。敵を倒せと。勝利を掴めと。魔力が轟き叫び、闘気が爆熱する。
臨界点を超えるエネルギー。待ち受けるは、灼熱の終焉。
「はあっ!!!」
輝ける青の怒涛が、シャーリィの右手から迸る。
シャーリィの青き力は、火球を内側から食い破る。爆裂し四散する、紫の炎。
滄我の波動は、「ファイアボール」の火球を、軽々と吹き散らしたのだ――。
シャーリィは右手手首に、更に自身の左手を添えた。本来1つであった双子のテルクェスは、再び力を合わせるべく重なり合う。
右手の手首を握り締めた左手の手のひら。手首を介して、双子のテルクェスが寄り添う。互いの羽根で、互いを支える。
左手のテルクェスが、右手のテルクェスと完全に折り重なった時。シャーリィはとっさに、右手を地面に向ける。
テルクェスを基軸に体内の闘気を練り上げる。体内の闘気は、シャーリィの右手に集約される。
シャーリィの手が、光って唸る。敵を倒せと。勝利を掴めと。魔力が轟き叫び、闘気が爆熱する。
臨界点を超えるエネルギー。待ち受けるは、灼熱の終焉。
「はあっ!!!」
輝ける青の怒涛が、シャーリィの右手から迸る。
シャーリィの青き力は、火球を内側から食い破る。爆裂し四散する、紫の炎。
滄我の波動は、「ファイアボール」の火球を、軽々と吹き散らしたのだ――。
シャーリィは双子のテルクェスを再び体内に眠らせた。
本来アーツ系爪術の使い手ではないシャーリィに、この演武はやはり違和感がある。力を十分には使い切れない。
この一撃の威力は、はっきり言って大したことはなかろう。
セネルの「魔神拳」を若干上回る、という程度だ。「獅子戦吼」や「魔神拳・竜牙」には、とてもではないが及ばない。
だが。
シャーリィは地面に刻まれた、先ほどの演武の痕跡を見て、思う。
大地に刻まれたその幾何学的紋様は、水平に両断された菱形と、そしてその中央の小さな丸。
シャーリィの手のひらの紋章、古刻語の「Fes」の文字の形に、浅くとは言え地面は抉られていた。
手のひらから紋章の形に放たれる闘気は、戦闘に十分使えるだけの威力はあるだろう。シャーリィはそう結論した。
本来アーツ系爪術の使い手ではないシャーリィに、この演武はやはり違和感がある。力を十分には使い切れない。
この一撃の威力は、はっきり言って大したことはなかろう。
セネルの「魔神拳」を若干上回る、という程度だ。「獅子戦吼」や「魔神拳・竜牙」には、とてもではないが及ばない。
だが。
シャーリィは地面に刻まれた、先ほどの演武の痕跡を見て、思う。
大地に刻まれたその幾何学的紋様は、水平に両断された菱形と、そしてその中央の小さな丸。
シャーリィの手のひらの紋章、古刻語の「Fes」の文字の形に、浅くとは言え地面は抉られていた。
手のひらから紋章の形に放たれる闘気は、戦闘に十分使えるだけの威力はあるだろう。シャーリィはそう結論した。
手のひらを密着させた状態でこの一撃を…シャーリィ流の「魔神拳」を放てば。
生命維持には欠かせない三大器官である、脳、心臓、脊椎のいずれかを直撃出来る位置から、密着状態でこれを放てば。
よほど頑強な人間でなければ、一撃で致命傷か即死級の大打撃になる。しかもこれに必要な溜めの時間は、一瞬。
セネルの「魔神拳」ほどの射程はないが、問題はない。
遠距離の敵にはメガグランチャーから放たれる滄我砲、中距離の敵にはもとより強大なブレス系爪術。
そして、近距離の敵には「魔神拳」。今やあらゆる間合いにおいても、シャーリィは必殺の威力を持つ攻撃を保有しているのだ。
怪物の姿を脱し、もとの少女の姿を取り戻したシャーリィなら、面の割れていない相手は油断してくれるだろう。
「足をくじいた」などと言って、誰かの背にでも負ってもらえれば、もはやそいつは殺(と)ったも同然。
追われた背の上からそっと後頭部に手を添え、彼女流の「魔神拳」を放てば。
眼窩から眼球をはみ出させ。口から舌がもげ落ち。鼻からは脳漿混じりの鼻血を吹き。脳天をざくろのように弾けさせ。
力なく絶命する犠牲者の姿が、ありありと想像できる。
無論、か弱い少女を演じて相手の油断を誘うには、いくらでも言い訳できるとは言えメガグランチャーとウージーが邪魔になる。
だが、それは荷物袋に放り込んでおけば問題はあるまい。メガグランチャーは、事実上狙撃専用の武器として運用する。
メガグランチャーの砲身は重厚で、剛性に富んだ金属を用いている。
殴打用の武器としてももちろん使えるが、シャーリィに接近戦用の武器はもう要らない。
テルクェスは、肉体のどこからでも発現させる事が出来る。両手の拳からはもちろんのこと、両足からも、肘からも、膝からも。
その気になれば額から発現させて頭突きにも使えるし、歯から発現させて噛み付きに使うことだって出来る。
テルクェスを武器として格闘に用いれば、破壊力は十分。
ならばもとより重くスピードで劣り、かつスタミナを食うメガグランチャーを、接近戦用の武器として使う必要はどこにあろう。
またメガグランチャーに比べれば銃身の軽いウージーも、普段は皮袋に収納して問題あるまい。
今のシャーリィの腕力なら、皮袋のつけ方とちょっとした練習で、瞬間的に抜き放ち掃射を行うくらい、それほど困難ではない。
生命維持には欠かせない三大器官である、脳、心臓、脊椎のいずれかを直撃出来る位置から、密着状態でこれを放てば。
よほど頑強な人間でなければ、一撃で致命傷か即死級の大打撃になる。しかもこれに必要な溜めの時間は、一瞬。
セネルの「魔神拳」ほどの射程はないが、問題はない。
遠距離の敵にはメガグランチャーから放たれる滄我砲、中距離の敵にはもとより強大なブレス系爪術。
そして、近距離の敵には「魔神拳」。今やあらゆる間合いにおいても、シャーリィは必殺の威力を持つ攻撃を保有しているのだ。
怪物の姿を脱し、もとの少女の姿を取り戻したシャーリィなら、面の割れていない相手は油断してくれるだろう。
「足をくじいた」などと言って、誰かの背にでも負ってもらえれば、もはやそいつは殺(と)ったも同然。
追われた背の上からそっと後頭部に手を添え、彼女流の「魔神拳」を放てば。
眼窩から眼球をはみ出させ。口から舌がもげ落ち。鼻からは脳漿混じりの鼻血を吹き。脳天をざくろのように弾けさせ。
力なく絶命する犠牲者の姿が、ありありと想像できる。
無論、か弱い少女を演じて相手の油断を誘うには、いくらでも言い訳できるとは言えメガグランチャーとウージーが邪魔になる。
だが、それは荷物袋に放り込んでおけば問題はあるまい。メガグランチャーは、事実上狙撃専用の武器として運用する。
メガグランチャーの砲身は重厚で、剛性に富んだ金属を用いている。
殴打用の武器としてももちろん使えるが、シャーリィに接近戦用の武器はもう要らない。
テルクェスは、肉体のどこからでも発現させる事が出来る。両手の拳からはもちろんのこと、両足からも、肘からも、膝からも。
その気になれば額から発現させて頭突きにも使えるし、歯から発現させて噛み付きに使うことだって出来る。
テルクェスを武器として格闘に用いれば、破壊力は十分。
ならばもとより重くスピードで劣り、かつスタミナを食うメガグランチャーを、接近戦用の武器として使う必要はどこにあろう。
またメガグランチャーに比べれば銃身の軽いウージーも、普段は皮袋に収納して問題あるまい。
今のシャーリィの腕力なら、皮袋のつけ方とちょっとした練習で、瞬間的に抜き放ち掃射を行うくらい、それほど困難ではない。
(でも、戦う相手がいないんじゃ、どうしようもないわね)
そう。直接戦闘力は全く問題ないとは言え、問題はそこである。
シャーリィはその場に座し、普段に比べればろくに効かない「キュア」の詠唱を行いながら、一枚の羊皮紙を広げる。
この島の地図。これ以降の禁止エリアを含めれば、すでに12箇所に赤い×印が書き込まれた、「バトル・ロワイアル」の舞台。
(今まではひたすらに暴れていたけれど…)
冷静に考えれば、あれは上策ではなかった、とシャーリィは内心反省する。
この島で生き残り、勝ち残るには、情報が必要。そんなことくらい、戦術や戦略に疎いシャーリィにだって分かる。
だが、自分は今、ほとんどこの島の情勢を把握していないのだ。
今まで見聞きしたあらゆる情報を、シャーリィはひっくり返してみたが、情勢は見えてこない。
彼女はもとより、いきなりこの島に放り込まれ、混乱も抜けやらぬうちに兄の死を聞かされ、つい先ほどまで狂乱していた。
この体では、情勢を把握できなくとも当然と言えば当然。だが、それを悔やんでも始まらない。
この12の赤い×印から、この島の何が見えてくるか。
まず、この島の北西部はほぼ「死にエリア」と化している、という見解が1つ。
B2が禁止エリアに指定されたことによる影響は、B2の塔に出入りできなくなっただけではない。
A1、A2、B1、それからC1も、進入は困難なエリアと化した。
こんな逃げ場もないような袋小路に好き好んで移動する人間はいるまい。
今後の禁止エリアの指定いかんでは、避難が遅れれば不可視の牢に閉じ込められる、という最悪の事態も考えうるのだ。
恐らく、参加者の集合率が高いのは町や城などの拠点であろうことはシャーリィにも見当が付いたが、よって北西部は除外。
現在のところ進入可能な拠点は、C3の村、C6の城、E2の城、G3の洞窟、G7の教会。
位置取り的には、ここからは最もC6の城が近い。
最後にダオスらと出会った位置から考えると、ここにダオスらが篭城している可能性も否定は出来まい。
しかし、ダオスらが自らより大切に守っていたマーテルという女性は、すでにこのゲームからは脱落している。
ダオスらの輪に加わっていた女性…マリアンもまた同じく。
そう。直接戦闘力は全く問題ないとは言え、問題はそこである。
シャーリィはその場に座し、普段に比べればろくに効かない「キュア」の詠唱を行いながら、一枚の羊皮紙を広げる。
この島の地図。これ以降の禁止エリアを含めれば、すでに12箇所に赤い×印が書き込まれた、「バトル・ロワイアル」の舞台。
(今まではひたすらに暴れていたけれど…)
冷静に考えれば、あれは上策ではなかった、とシャーリィは内心反省する。
この島で生き残り、勝ち残るには、情報が必要。そんなことくらい、戦術や戦略に疎いシャーリィにだって分かる。
だが、自分は今、ほとんどこの島の情勢を把握していないのだ。
今まで見聞きしたあらゆる情報を、シャーリィはひっくり返してみたが、情勢は見えてこない。
彼女はもとより、いきなりこの島に放り込まれ、混乱も抜けやらぬうちに兄の死を聞かされ、つい先ほどまで狂乱していた。
この体では、情勢を把握できなくとも当然と言えば当然。だが、それを悔やんでも始まらない。
この12の赤い×印から、この島の何が見えてくるか。
まず、この島の北西部はほぼ「死にエリア」と化している、という見解が1つ。
B2が禁止エリアに指定されたことによる影響は、B2の塔に出入りできなくなっただけではない。
A1、A2、B1、それからC1も、進入は困難なエリアと化した。
こんな逃げ場もないような袋小路に好き好んで移動する人間はいるまい。
今後の禁止エリアの指定いかんでは、避難が遅れれば不可視の牢に閉じ込められる、という最悪の事態も考えうるのだ。
恐らく、参加者の集合率が高いのは町や城などの拠点であろうことはシャーリィにも見当が付いたが、よって北西部は除外。
現在のところ進入可能な拠点は、C3の村、C6の城、E2の城、G3の洞窟、G7の教会。
位置取り的には、ここからは最もC6の城が近い。
最後にダオスらと出会った位置から考えると、ここにダオスらが篭城している可能性も否定は出来まい。
しかし、ダオスらが自らより大切に守っていたマーテルという女性は、すでにこのゲームからは脱落している。
ダオスらの輪に加わっていた女性…マリアンもまた同じく。
ダオスとミトスの戦闘力は、直接戦ったことのあるシャーリィ自身、良く理解している。
あの2人が手を組み、本気を出したら。
おそらくシャーリィが遺跡船で出会った仲間たち全員がかりでかかっても、苦戦は免れまい。
それほどの力を持った2人を以ってしても、マーテルやマリアンは守れなかったのだ。
マリアンの死因は首輪の爆発と明白であるから横に置くとしても、問題はマーテル。
ダオスとミトスに正面攻撃を挑んで、2人の防衛線を突破して何者かがマーテルを殺したとは、とてもシャーリィには思えない。
とすると、今朝死亡が発表されたソロンのような手合いが、不意を打って側面攻撃などで暗殺したと考えるのが妥当だろう。
すると、次の理由から、ダオスらがC6の城で篭城しているとは考えにくい。
シャーリィは旅のさなか、ジェイから少し城の構造を聞いたことがある。
その時聞いた知識からするに、城は暗殺には向かない場所だ。
城には密室などいくらでもあるし、壁や天井も厚く進入口も限定される。よって本気で一同が篭城していたなら。
おまけにダオスやミトスの防衛がある状態では、いかな手練の暗殺者でも、マーテルを葬るなど困難至難もいいところである。
すなわち、マーテルは何らかの積極的行動に出て、その結果何者かに暗殺されたとみて良い。
となると、一同が向かった先はどこか。これは、はっきり言って推理など出来ようものか。
憶測でものを言うにも、不確かな憶測さえ出来ないほど、シャーリィの手元には情報がないのだ。
ならばやはり、ここはジェイと合流できれば、一番ありがたいか。
ジェイは今のところ、生きてこの島で戦いを繰り広げている。
彼に接触できれば、かつての仲間のよしみもあるだろう。いろいろな情報をもらえるはずだ。
ジェイから情報をもらって、この島の情勢を把握する。その後は?
決まっている。ジェイを殺す。
もちろん、正気を取り戻したシャーリィは、ジェイも大切な仲間であることをしかと認識している。
だが、その大切さは所詮は有限のもの。
100万ガルドの入った皮袋と、自分の命。両方を秤に載せたなら、どちらかに秤が傾くかは自明の理。
あの2人が手を組み、本気を出したら。
おそらくシャーリィが遺跡船で出会った仲間たち全員がかりでかかっても、苦戦は免れまい。
それほどの力を持った2人を以ってしても、マーテルやマリアンは守れなかったのだ。
マリアンの死因は首輪の爆発と明白であるから横に置くとしても、問題はマーテル。
ダオスとミトスに正面攻撃を挑んで、2人の防衛線を突破して何者かがマーテルを殺したとは、とてもシャーリィには思えない。
とすると、今朝死亡が発表されたソロンのような手合いが、不意を打って側面攻撃などで暗殺したと考えるのが妥当だろう。
すると、次の理由から、ダオスらがC6の城で篭城しているとは考えにくい。
シャーリィは旅のさなか、ジェイから少し城の構造を聞いたことがある。
その時聞いた知識からするに、城は暗殺には向かない場所だ。
城には密室などいくらでもあるし、壁や天井も厚く進入口も限定される。よって本気で一同が篭城していたなら。
おまけにダオスやミトスの防衛がある状態では、いかな手練の暗殺者でも、マーテルを葬るなど困難至難もいいところである。
すなわち、マーテルは何らかの積極的行動に出て、その結果何者かに暗殺されたとみて良い。
となると、一同が向かった先はどこか。これは、はっきり言って推理など出来ようものか。
憶測でものを言うにも、不確かな憶測さえ出来ないほど、シャーリィの手元には情報がないのだ。
ならばやはり、ここはジェイと合流できれば、一番ありがたいか。
ジェイは今のところ、生きてこの島で戦いを繰り広げている。
彼に接触できれば、かつての仲間のよしみもあるだろう。いろいろな情報をもらえるはずだ。
ジェイから情報をもらって、この島の情勢を把握する。その後は?
決まっている。ジェイを殺す。
もちろん、正気を取り戻したシャーリィは、ジェイも大切な仲間であることをしかと認識している。
だが、その大切さは所詮は有限のもの。
100万ガルドの入った皮袋と、自分の命。両方を秤に載せたなら、どちらかに秤が傾くかは自明の理。
ジェイの命など、シャーリィにとっては100万ガルド入りの皮袋の価値。
セネルの命と比べたなら、シャーリィは間違いなくセネルの命を取る。
そして、セネルの命を拾うには、代わりにジェイの命を放り捨てねばならないなら、シャーリィは迷わない。
ミクトランが言った「死者をも蘇生させる」という約束は、無論参加者をゲームに駆り立てるための出まかせともとれる。
それでも、セネルの命を拾える可能性は、今やそこにしか存在しないなら。
その向こうに見るものは、結果的に絶望にしか過ぎなかったとしても。
シャーリィは、たとえ仲間であれ切り捨てる。踏みつける。目的を達するための道具にする。
上っ面だけの正義感や、偽善者じみた良心の呵責など、この島においてはいかほどの価値があろうか。
どんな言葉で飾ろうと、どんな論理を展開しようと。
自分が生きたければ、優勝したければ、自分以外を全て殺さねばならないことは、不動の真理なのだ。
無論、その真理から逃れるために、忌まわしい首輪の束縛を解くことも一瞬考えた。
だが、首輪の処理にしくじった時の代価が自分の命では、あまりにこれは危険過ぎる選択だ。
せめて、他の参加者の首輪を手に入れるなどして、保険を作らないと危険で仕方がない。
(駄目ね…何をするにも、今は情報が不足しているわ)
やはり何度考え直しても、帰着する先はその結論だ。
シャーリィは地図を畳み、懐に入れ直す。とりあえずの行動方針は、これでいく。
まず、これから先ほどユアン達と交戦した山岳地帯に舞い戻る。
シャーリィが脳震盪で気絶していた時間がどれほどかは分からない。
だが何らかの理由があれば、あそこにまだ一同が残留している可能性も否定は出来まい。
もしそこに残っている人間がいたなら、水中から滄我砲やブレス系爪術で狙撃。一撃で葬り去る。
あえて姿を見せて相手を挑発し、水中に引き込むのも上策。
水中戦に持ち込めれば、水の民にしてメルネスである彼女に勝てる人間は、ほぼ絶無と見てよい。
もし一同がすでに撤収していたならば、それはそれで上等。その時はD5山岳地帯の水源深くに潜り込み、そこで休息する。
セネルの命と比べたなら、シャーリィは間違いなくセネルの命を取る。
そして、セネルの命を拾うには、代わりにジェイの命を放り捨てねばならないなら、シャーリィは迷わない。
ミクトランが言った「死者をも蘇生させる」という約束は、無論参加者をゲームに駆り立てるための出まかせともとれる。
それでも、セネルの命を拾える可能性は、今やそこにしか存在しないなら。
その向こうに見るものは、結果的に絶望にしか過ぎなかったとしても。
シャーリィは、たとえ仲間であれ切り捨てる。踏みつける。目的を達するための道具にする。
上っ面だけの正義感や、偽善者じみた良心の呵責など、この島においてはいかほどの価値があろうか。
どんな言葉で飾ろうと、どんな論理を展開しようと。
自分が生きたければ、優勝したければ、自分以外を全て殺さねばならないことは、不動の真理なのだ。
無論、その真理から逃れるために、忌まわしい首輪の束縛を解くことも一瞬考えた。
だが、首輪の処理にしくじった時の代価が自分の命では、あまりにこれは危険過ぎる選択だ。
せめて、他の参加者の首輪を手に入れるなどして、保険を作らないと危険で仕方がない。
(駄目ね…何をするにも、今は情報が不足しているわ)
やはり何度考え直しても、帰着する先はその結論だ。
シャーリィは地図を畳み、懐に入れ直す。とりあえずの行動方針は、これでいく。
まず、これから先ほどユアン達と交戦した山岳地帯に舞い戻る。
シャーリィが脳震盪で気絶していた時間がどれほどかは分からない。
だが何らかの理由があれば、あそこにまだ一同が残留している可能性も否定は出来まい。
もしそこに残っている人間がいたなら、水中から滄我砲やブレス系爪術で狙撃。一撃で葬り去る。
あえて姿を見せて相手を挑発し、水中に引き込むのも上策。
水中戦に持ち込めれば、水の民にしてメルネスである彼女に勝てる人間は、ほぼ絶無と見てよい。
もし一同がすでに撤収していたならば、それはそれで上等。その時はD5山岳地帯の水源深くに潜り込み、そこで休息する。
D5を水源とするこの島唯一の川は、上流においてもエクスフィギュアであった彼女の身が沈みきるほどの深さがあったのだ。
水中深くで休めば、まず何者からかの不意打ちを受ける心配はない。水中は、彼女専用のベッドのようなものだ。
そこで体力と精神力を回復させたのちはどうするか。テルクェスを用いて、周囲を探索する。
テルクェスによる探知はそこまで精度的に優れてはいない。もともとテルクェスは偵察用の能力ではないからだ。
せいぜいが、「近くに人がいそう」と漠然と感じ取れる程度。ジェイのように気配を消せる人間は、感知できまい。
おまけに偵察に使えるレベルにまでテルクェスの感度を上げるには、シャーリィは深い集中状態に入らねばならない。
その間は、もちろん隙だらけになる。
だが安全に周囲を偵察できる手段があるということは、この「バトル・ロワイアル」においては強力な生存手段だ。
おまけに、テルクェスによる偵察の有効範囲はは、実質上この島内では無限。
シャーリィの姉であったステラはかつて、ウェルテス近くの断崖から落下するセネルを、テルクェスで助けたこともある。
その時ステラがいた場所は、雪花の遺跡。
直線距離にしても健脚の徒歩でまる2日の行程になるほどの遠距離まで、テルクェスは届くのだ。
そしてこの島の最長距離は、どれほど長く見積もっても、遺跡船の半分ほどもあるまい。
つまり、シャーリィは島のどこにいようと、テルクェスは島のどこにでも届く。
もっとも、テルクェスを飛ばすには時間も精神力もいる行為であることを考えれば、実際の有効偵察範囲は狭まるだろう。
それでも、シャーリィの偵察網から逃れ行動するのは、かなりの困難を伴うのは事実。
偵察中は深い集中状態にならねばならないという欠点も、水中に潜めば問題なくカバーできるだろう。
そしてシャーリィは獲物を見つけ次第、そこに殺しに行く。
シャーリィは、皮袋を背負い、歩き出した。
シャーリィは、一歩一歩と歩を進める。南へ。自分が先ほどまでいた、あの山へ。
エクスフィアの忌まわしい毒素から逃れたとは言え。こうして再び正気を取り戻したとは言え。
正気のまま、彼女はダオスの言うところの、「狂気という名の猛毒」の盃を呷ったのだ。
水中深くで休めば、まず何者からかの不意打ちを受ける心配はない。水中は、彼女専用のベッドのようなものだ。
そこで体力と精神力を回復させたのちはどうするか。テルクェスを用いて、周囲を探索する。
テルクェスによる探知はそこまで精度的に優れてはいない。もともとテルクェスは偵察用の能力ではないからだ。
せいぜいが、「近くに人がいそう」と漠然と感じ取れる程度。ジェイのように気配を消せる人間は、感知できまい。
おまけに偵察に使えるレベルにまでテルクェスの感度を上げるには、シャーリィは深い集中状態に入らねばならない。
その間は、もちろん隙だらけになる。
だが安全に周囲を偵察できる手段があるということは、この「バトル・ロワイアル」においては強力な生存手段だ。
おまけに、テルクェスによる偵察の有効範囲はは、実質上この島内では無限。
シャーリィの姉であったステラはかつて、ウェルテス近くの断崖から落下するセネルを、テルクェスで助けたこともある。
その時ステラがいた場所は、雪花の遺跡。
直線距離にしても健脚の徒歩でまる2日の行程になるほどの遠距離まで、テルクェスは届くのだ。
そしてこの島の最長距離は、どれほど長く見積もっても、遺跡船の半分ほどもあるまい。
つまり、シャーリィは島のどこにいようと、テルクェスは島のどこにでも届く。
もっとも、テルクェスを飛ばすには時間も精神力もいる行為であることを考えれば、実際の有効偵察範囲は狭まるだろう。
それでも、シャーリィの偵察網から逃れ行動するのは、かなりの困難を伴うのは事実。
偵察中は深い集中状態にならねばならないという欠点も、水中に潜めば問題なくカバーできるだろう。
そしてシャーリィは獲物を見つけ次第、そこに殺しに行く。
シャーリィは、皮袋を背負い、歩き出した。
シャーリィは、一歩一歩と歩を進める。南へ。自分が先ほどまでいた、あの山へ。
エクスフィアの忌まわしい毒素から逃れたとは言え。こうして再び正気を取り戻したとは言え。
正気のまま、彼女はダオスの言うところの、「狂気という名の猛毒」の盃を呷ったのだ。
愛しい兄に逢いたいという正気を貫くために、仲間を殺すことさえいとわぬという狂気を受け入れる。
シャーリィは、正気のまま狂気を受け入れた。
この境地こそ、この島において生と勝利を掴む秘訣の1つと言えば、確かにそうなのかもしれない。
だがそれは、シャーリィが今まで生きてきて築いた、全ての倫理観を根底から覆すことに他ならない。
しかしそれも、愛しい兄のためなら些事に過ぎない。信条も理念も倫理も、全て振り捨てる。
その境地に至った彼女は、後戻りの利かぬ道へと、踏み出そうとしていた。
シャーリィは、正気のまま狂気を受け入れた。
この境地こそ、この島において生と勝利を掴む秘訣の1つと言えば、確かにそうなのかもしれない。
だがそれは、シャーリィが今まで生きてきて築いた、全ての倫理観を根底から覆すことに他ならない。
しかしそれも、愛しい兄のためなら些事に過ぎない。信条も理念も倫理も、全て振り捨てる。
その境地に至った彼女は、後戻りの利かぬ道へと、踏み出そうとしていた。
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品: メガグランチャー(自身を中継して略式滄我砲を発射可能。普段は皮袋に収納)
ネルフェス・エクスフィア(セネルのアーツ系爪術を、限定的ながら使用可能)
フェアリィリング
UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
状態:TP残り40% HP残り80% 背中と胸に火傷(治療中) 冷徹 ハイエクスフィア強化 クライマックスモード発動可能
基本行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
第一行動方針:か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動。自分以外の参加者は皆殺し
第二行動方針:D5に残る面々を追撃
第三行動方針:D5の水中で休息後、テルクェスで島内を偵察
第四行動方針:可能ならばジェイと接触し情報を得る。そののちジェイの不意を打ち殺害
現在地:D5北部の草原地帯 →D5の山岳地帯
所持品: メガグランチャー(自身を中継して略式滄我砲を発射可能。普段は皮袋に収納)
ネルフェス・エクスフィア(セネルのアーツ系爪術を、限定的ながら使用可能)
フェアリィリング
UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
状態:TP残り40% HP残り80% 背中と胸に火傷(治療中) 冷徹 ハイエクスフィア強化 クライマックスモード発動可能
基本行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
第一行動方針:か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動。自分以外の参加者は皆殺し
第二行動方針:D5に残る面々を追撃
第三行動方針:D5の水中で休息後、テルクェスで島内を偵察
第四行動方針:可能ならばジェイと接触し情報を得る。そののちジェイの不意を打ち殺害
現在地:D5北部の草原地帯 →D5の山岳地帯