DとDの戦争
「お前達は、手出し無用だ」
流れるような金髪の半分を、すでにしわがれた銀髪に変えた偉人は、その左手ごと金の刺繍の外套を翻した。
「この私自ら、デミテルを葬る。この戦いに手を出すつもりなら、私はお前達を敵とみなし、まとめて排除する」
金色の偉人ダオスの右手からは、未だにわずかながら血が滴る。ぽたり、ぽたりと、地面に紅い斑点を作る。
「我が部下デミテルのこれまでの狼藉は、上官たるこの私が裁く。お前達の手は煩わせん」
ずい、とダオスは一歩を踏み込む。睨みつけるは、一房赤のメッシュを入れた、青髪のハーフエルフ。
「貴様をこの場で、断罪してくれる…デミテル!!!」
ダオスは、怒り狂う金獅子のごとく吼えていた。
流れるような金髪の半分を、すでにしわがれた銀髪に変えた偉人は、その左手ごと金の刺繍の外套を翻した。
「この私自ら、デミテルを葬る。この戦いに手を出すつもりなら、私はお前達を敵とみなし、まとめて排除する」
金色の偉人ダオスの右手からは、未だにわずかながら血が滴る。ぽたり、ぽたりと、地面に紅い斑点を作る。
「我が部下デミテルのこれまでの狼藉は、上官たるこの私が裁く。お前達の手は煩わせん」
ずい、とダオスは一歩を踏み込む。睨みつけるは、一房赤のメッシュを入れた、青髪のハーフエルフ。
「貴様をこの場で、断罪してくれる…デミテル!!!」
ダオスは、怒り狂う金獅子のごとく吼えていた。
時は、数分ほど遡る。
ジェイは、即座にデミテルとの戦端を開いていた。
意識の明瞭なヴェイグとグリッドは、二者の戦いをその瞳に焼き付ける事となった。
まずは、遠巻きにデミテルの戦法を観察。
血にまみれた右手に握られた、魔術師の杖。左手に握られるは、棘だらけの植物の茎をそのまま用いた鞭。
おそらく鞭は、例の木遁の術の産物。
そして右手の杖こそ、あの破滅の大雷電をもたらした忌まわしき杖。
ジェイはその様子を観察し、デミテルの戦闘流儀をおおよそ伺うことが出来た。鞭と杖の二刀流。
接近戦もある程度こなせる魔術師。ジェイの遺跡船の仲間、ウィル・レイナードに近いと思えば、間違いはあるまい。
だが、ジェイはその分析をすかさず脳の片隅に追いやり、先入観をかき消す努力をする。
デミテルはつい先ほど、ジェイの分析を上回る一手を打ってきたのだ。
あの雷電の雨を生き延びたのは、ネレイドという不確定要素がもたらした僥倖と言ってよい。
この男は、どこに何枚切り札を隠し持っているのか。どれほど警戒しても、警戒のし過ぎにはなり得まい。
「残念でしたね、デミテルさんとやら。この夜の帳の中で、忍者を敵に回すなんてね」
口上と共に、ジェイは手持ちの苦無を投げつけた。
無論、この一撃はアーツ系爪術。滄我の力のこもった一射。ジェイは投げつけたまま固まった右手を、そのまま握り込む。
苦無は、デミテルに当たる前にその力を炸裂させた。
爆裂。
たちまち濃密な煙が、月夜の丘を煙らせる。忍法「火遁の術」。
ジェイはデミテルがハーフエルフであることを知っている。星明りの元でもまっとうな視界を得られる瞳を知っている。
たとえ夜とは言え、この煙霧で視界を潰すのは無意味な布石ではない。むしろ、不可欠の処置。
ジェイは直ちに、煙の中に突っ込む。無視界であろうと問題はない。
わずかな呼吸の音や鼓動の音。殺気。かすかな体臭。これらがあれば、ジェイは十分デミテルの所在を知ることが出来る。
ジェイはソロンのもと、目隠しをしたまま組み手を行う訓練を行ったことを思い出していた。
無視界のもと戦う訓練を積んでいたジェイは、この中でならば優位に立てる。
ジェイは、即座にデミテルとの戦端を開いていた。
意識の明瞭なヴェイグとグリッドは、二者の戦いをその瞳に焼き付ける事となった。
まずは、遠巻きにデミテルの戦法を観察。
血にまみれた右手に握られた、魔術師の杖。左手に握られるは、棘だらけの植物の茎をそのまま用いた鞭。
おそらく鞭は、例の木遁の術の産物。
そして右手の杖こそ、あの破滅の大雷電をもたらした忌まわしき杖。
ジェイはその様子を観察し、デミテルの戦闘流儀をおおよそ伺うことが出来た。鞭と杖の二刀流。
接近戦もある程度こなせる魔術師。ジェイの遺跡船の仲間、ウィル・レイナードに近いと思えば、間違いはあるまい。
だが、ジェイはその分析をすかさず脳の片隅に追いやり、先入観をかき消す努力をする。
デミテルはつい先ほど、ジェイの分析を上回る一手を打ってきたのだ。
あの雷電の雨を生き延びたのは、ネレイドという不確定要素がもたらした僥倖と言ってよい。
この男は、どこに何枚切り札を隠し持っているのか。どれほど警戒しても、警戒のし過ぎにはなり得まい。
「残念でしたね、デミテルさんとやら。この夜の帳の中で、忍者を敵に回すなんてね」
口上と共に、ジェイは手持ちの苦無を投げつけた。
無論、この一撃はアーツ系爪術。滄我の力のこもった一射。ジェイは投げつけたまま固まった右手を、そのまま握り込む。
苦無は、デミテルに当たる前にその力を炸裂させた。
爆裂。
たちまち濃密な煙が、月夜の丘を煙らせる。忍法「火遁の術」。
ジェイはデミテルがハーフエルフであることを知っている。星明りの元でもまっとうな視界を得られる瞳を知っている。
たとえ夜とは言え、この煙霧で視界を潰すのは無意味な布石ではない。むしろ、不可欠の処置。
ジェイは直ちに、煙の中に突っ込む。無視界であろうと問題はない。
わずかな呼吸の音や鼓動の音。殺気。かすかな体臭。これらがあれば、ジェイは十分デミテルの所在を知ることが出来る。
ジェイはソロンのもと、目隠しをしたまま組み手を行う訓練を行ったことを思い出していた。
無視界のもと戦う訓練を積んでいたジェイは、この中でならば優位に立てる。
聴覚、嗅覚、第六感。三つの感覚を複合させて割り出した、デミテルの位置は明瞭。
ジェイは忍刀・紫電を振るう。繰り出すは、奥義「影走破」。
(この一撃で…!)
決まればいいが。ジェイは期待しないで、そう願った。
そして、その願いは結局適わずじまい。
地面から聞こえた、「ぼこり」という音。ジェイはすかさず「影走破」を強引に中断し、後方宙返り。
ジェイの靴の裏を、何かが叩く。直撃ならば、足を砕かれていたかもしれない、十二分の手応え。
ジェイは晴れゆく煙霧の中、「それ」の正体を知った。
魔術「グレイブ」。突き出た土の槍が、ジェイの足元から彼を狙っていたのだ。
(あの時間内で冷静に魔術を用いてきたか…)
なるほど、デミテルには並みのハッタリや揺さぶりは通じない。
ジェイは改めて、デミテルを蛇の道を行く蛇だと認識させられる。
何より恐るべきは、その威力。あれだけの時間のうちに詠唱可能な魔術は、初級魔術くらい。
だがジェイは、足をわずかに掠めたぐらいで、痺れるような手応えが残るあの一撃で、威力は十分中級魔術並みと認識できる。
(あの杖か!)
ジェイはその理由に、すぐさま目星はつく。
デミテルの右手に握られた杖。ダオスの証言にあった、「元はモリスンの持っていた魔杖」に間違いない。
やはりあれは、「木遁の術」によって回収され、デミテルの手の内にあったのか。
ジェイは自分の推理が次々証明されてゆくことを感じながら、再び間合いを詰める。
あの杖により増幅されて放たれる魔術の威力は凄まじい。
逆に言えば、あの杖による魔力の増幅があるからこそ、デミテルは体力を節約できたと言えよう。
十二分過ぎるほどの過剰殲滅を行いうるだけの威力を秘めた、先ほどの大魔術を撃った直後でも、これほどの動きが出来るのだ。
たとえ神の力を手にしたグリューネや、メルネスと化したシャーリィですら、あれほどの力を行使したら、しばらくは立てまい。
(それにしてもこの威力…!)
ジェイは足の裏に残ったわずかな衝撃だけで、背筋が寒くなる。
初級魔術でさえ、直撃なら致命打。上級魔術なら、かすっただけでも即死できるだろう。
防魔の障壁を張っても、どれほどダメージを減殺できるか保障はない。
ジェイは忍刀・紫電を振るう。繰り出すは、奥義「影走破」。
(この一撃で…!)
決まればいいが。ジェイは期待しないで、そう願った。
そして、その願いは結局適わずじまい。
地面から聞こえた、「ぼこり」という音。ジェイはすかさず「影走破」を強引に中断し、後方宙返り。
ジェイの靴の裏を、何かが叩く。直撃ならば、足を砕かれていたかもしれない、十二分の手応え。
ジェイは晴れゆく煙霧の中、「それ」の正体を知った。
魔術「グレイブ」。突き出た土の槍が、ジェイの足元から彼を狙っていたのだ。
(あの時間内で冷静に魔術を用いてきたか…)
なるほど、デミテルには並みのハッタリや揺さぶりは通じない。
ジェイは改めて、デミテルを蛇の道を行く蛇だと認識させられる。
何より恐るべきは、その威力。あれだけの時間のうちに詠唱可能な魔術は、初級魔術くらい。
だがジェイは、足をわずかに掠めたぐらいで、痺れるような手応えが残るあの一撃で、威力は十分中級魔術並みと認識できる。
(あの杖か!)
ジェイはその理由に、すぐさま目星はつく。
デミテルの右手に握られた杖。ダオスの証言にあった、「元はモリスンの持っていた魔杖」に間違いない。
やはりあれは、「木遁の術」によって回収され、デミテルの手の内にあったのか。
ジェイは自分の推理が次々証明されてゆくことを感じながら、再び間合いを詰める。
あの杖により増幅されて放たれる魔術の威力は凄まじい。
逆に言えば、あの杖による魔力の増幅があるからこそ、デミテルは体力を節約できたと言えよう。
十二分過ぎるほどの過剰殲滅を行いうるだけの威力を秘めた、先ほどの大魔術を撃った直後でも、これほどの動きが出来るのだ。
たとえ神の力を手にしたグリューネや、メルネスと化したシャーリィですら、あれほどの力を行使したら、しばらくは立てまい。
(それにしてもこの威力…!)
ジェイは足の裏に残ったわずかな衝撃だけで、背筋が寒くなる。
初級魔術でさえ、直撃なら致命打。上級魔術なら、かすっただけでも即死できるだろう。
防魔の障壁を張っても、どれほどダメージを減殺できるか保障はない。
ならば、ブレス系爪術を操る敵との戦いにおける定石を、絶対に外すわけには行かない。
すなわち、呪文詠唱を行わせる暇がないほどの圧倒的な手数で、相手を圧倒する。
相手が「鋼体」を…すなわち、ダメージを受けてもある程度なら耐えて、呪文詠唱を続行できる特性を持っている可能性もある。
それを考えると、この戦いには是非とも連撃技を得意とする、セネルやクロエの力が欲しかったか。
「鋼体」による呪文詠唱の続行を崩すには、「連牙弾」や「秋沙雨」のような連撃技が最も向いているのだ。
さもなくば、ノーマのブレス系爪術「サイレンス」。モーゼスの我流奥義による、爪術の力の封印。
だがどれも、今のジェイにはない力。今ある手持ちの技でデミテルを潰すしか、ジェイに打てる手はないのだ。
ジェイは超前傾姿勢のまま、デミテルの懐に飛び込む。
地面に着いた両手を軸に、飛び込み前転。頂点で両足を開き、ジェイは一陣の竜巻と化す。
ソロン直伝、「鐘音」…改め!
「『鈴鳴』ッ!!!」
ジェイの数少ない連撃技。逆立ちのまま開いた両足に爪術の力をみなぎらせ、風車のごとく回転。
滄我の渦潮が、デミテルに襲い掛かった。
すなわち、呪文詠唱を行わせる暇がないほどの圧倒的な手数で、相手を圧倒する。
相手が「鋼体」を…すなわち、ダメージを受けてもある程度なら耐えて、呪文詠唱を続行できる特性を持っている可能性もある。
それを考えると、この戦いには是非とも連撃技を得意とする、セネルやクロエの力が欲しかったか。
「鋼体」による呪文詠唱の続行を崩すには、「連牙弾」や「秋沙雨」のような連撃技が最も向いているのだ。
さもなくば、ノーマのブレス系爪術「サイレンス」。モーゼスの我流奥義による、爪術の力の封印。
だがどれも、今のジェイにはない力。今ある手持ちの技でデミテルを潰すしか、ジェイに打てる手はないのだ。
ジェイは超前傾姿勢のまま、デミテルの懐に飛び込む。
地面に着いた両手を軸に、飛び込み前転。頂点で両足を開き、ジェイは一陣の竜巻と化す。
ソロン直伝、「鐘音」…改め!
「『鈴鳴』ッ!!!」
ジェイの数少ない連撃技。逆立ちのまま開いた両足に爪術の力をみなぎらせ、風車のごとく回転。
滄我の渦潮が、デミテルに襲い掛かった。
「よく分からないが…」
グリッドは地に伏せったまま、ぽつねんと呟く。
「俺達は…助かったのか?」
淡い希望。またもきわどい所で、命を拾えたのか。
「油断は出来ない」
氷のように冷徹に、突然の戦いを始めた二者を眺めるは、アイスブルーの髪の男、ヴェイグ。
左手を右肩に。右手を腹部に。氷のフォルスを、両手に集中させる。
ぴきぴきという氷の成長の音。ヴェイグの患部を、氷が覆う。
患部を凍結させての止血、固定。フォルスの制御が不十分の今、自分のフォルスで自身が凍傷を受ける可能性もある。
だが、こうでもして傷口を処置しておかねば、普段の力の七割も出せない。
ひとまずここで待機して様子を見るが、逃走のためにも応戦のためにも、念のため下準備はしておく。
今は緊急事態なのだ。若干の無茶な処置も止むを得まい。
凍らせた傷の様子を見るように、ごく軽く患部を動かし、ほぐすヴェイグ。
未だ意識の戻らぬティトレイを抱えながら、語りだす。
「俺の戦士の勘が告げている。あのティトレイを配下にしていたあの青髪の男、まだ何か隠し玉を持っている気がしてならない。
E2の城への『サウザンド・ブレイバー』…
あの砲撃の際張っていた樹のフォルスの罠は、俺のちょっとしたフォルス程度で無化できていた。
いくらフォルスやそれに順ずる能力を持っていなければ破れなかったとは言え、あれがまともな罠とは俺には思えない。
砲撃の際の隙をカバーするためのものだとすると、いくらなんでも仕込みがずさん過ぎる」
四星の一角に数え上げられる男サレ、そしてワルトゥ。
ヴェイグはあの青髪の男から、彼らに似た臭いを感じる。策士の臭い、とでも言うべきか。
「奴は二重に罠を仕掛けていたのかも知れない」
「二重の罠?」
「つまり、こういうことだ」
口は動かしたまま、ヴェイグはチンクエディアを皮袋から取り出し、応戦用意を整えながら続ける。フォルスを臨界点まで凝縮。
グリッドは地に伏せったまま、ぽつねんと呟く。
「俺達は…助かったのか?」
淡い希望。またもきわどい所で、命を拾えたのか。
「油断は出来ない」
氷のように冷徹に、突然の戦いを始めた二者を眺めるは、アイスブルーの髪の男、ヴェイグ。
左手を右肩に。右手を腹部に。氷のフォルスを、両手に集中させる。
ぴきぴきという氷の成長の音。ヴェイグの患部を、氷が覆う。
患部を凍結させての止血、固定。フォルスの制御が不十分の今、自分のフォルスで自身が凍傷を受ける可能性もある。
だが、こうでもして傷口を処置しておかねば、普段の力の七割も出せない。
ひとまずここで待機して様子を見るが、逃走のためにも応戦のためにも、念のため下準備はしておく。
今は緊急事態なのだ。若干の無茶な処置も止むを得まい。
凍らせた傷の様子を見るように、ごく軽く患部を動かし、ほぐすヴェイグ。
未だ意識の戻らぬティトレイを抱えながら、語りだす。
「俺の戦士の勘が告げている。あのティトレイを配下にしていたあの青髪の男、まだ何か隠し玉を持っている気がしてならない。
E2の城への『サウザンド・ブレイバー』…
あの砲撃の際張っていた樹のフォルスの罠は、俺のちょっとしたフォルス程度で無化できていた。
いくらフォルスやそれに順ずる能力を持っていなければ破れなかったとは言え、あれがまともな罠とは俺には思えない。
砲撃の際の隙をカバーするためのものだとすると、いくらなんでも仕込みがずさん過ぎる」
四星の一角に数え上げられる男サレ、そしてワルトゥ。
ヴェイグはあの青髪の男から、彼らに似た臭いを感じる。策士の臭い、とでも言うべきか。
「奴は二重に罠を仕掛けていたのかも知れない」
「二重の罠?」
「つまり、こういうことだ」
口は動かしたまま、ヴェイグはチンクエディアを皮袋から取り出し、応戦用意を整えながら続ける。フォルスを臨界点まで凝縮。
「俺もユージーンという軍の特務部隊の元隊長に聞いたことがある。
野戦では時おり、罠を発動させるための縄を、二本張っておくことがあるらしい。
一本はあえて見つかりやすいように工夫した太めの縄、そしてもう一本は偽装や保護色を施した細めの縄だ。
太めの縄はそれほど巧妙に偽装されているわけではないから、発見は容易。無力化するのも簡単だ」
「…細い縄の方は?」
「そう、その細い縄の方が本番だ。並の人間では、太い縄を切った時点で、罠を無効化したと考えるだろう。
ここで油断すると、偽装した細い縄の方には気付かない。気の緩んだ相手はその細い罠の方にかかり、罠が発動。
罠を解除したと一旦は思わせ、油断する人間心理を突いた卑劣な罠だ」
チンクエディアを核に、フォルスを結実。氷のフォルスにより、元々彼の得意とする大剣を生成。
黒髪の女を殺した時にも、使った手。とりあえず得物さえあれば、応戦は出来る。傷口が開く危険を、度外視すれば。
「ということは…!」
「ああ。俺達はすでに奴の術中にはまっているのかも知れん。くれぐれも油断する…
!!」
ヴェイグの嫌な予感は、的中した。口にした瞬間的中してしまった。
傍らを見やる。ティトレイの生気を失った頬に、血のしぶき。
そのしぶきの発生源が、グリッドの喀血によるものだと知ったとき、ヴェイグもまた喉の奥に耐え難い灼熱感を覚えていた。
喉の奥から、熱い塊が込み上がる。鼻腔が焼け付き、悲しくもないのに涙がぼろぼろと湧いてくる。
(しまった! …これが奴の『細い縄』だったのか!?)
ヴェイグがそう認識したとき、すでに自体は手遅れだった。無色透明の瘴気。
ヴェイグはフォルスを練り、空気中の瘴気を凍りつかせようと、涙に曇る瞳を空に向ける。
だが、右手を宙に差し出した時点で、もとより生命力の弱っていたヴェイグには、限界が訪れた。
ヴェイグは口から紅い塊を吐き出した。
肺を焼かれ、目に棘が刺さるような激痛。舌は口内で張り付き、まともな呼吸が出来るかどうかも、そろそろ怪しくなる。
たまらずグリッドは、地面に突っ伏した。
とうとうヴェイグは、うつ伏せに地面に倒れこんだ。
野戦では時おり、罠を発動させるための縄を、二本張っておくことがあるらしい。
一本はあえて見つかりやすいように工夫した太めの縄、そしてもう一本は偽装や保護色を施した細めの縄だ。
太めの縄はそれほど巧妙に偽装されているわけではないから、発見は容易。無力化するのも簡単だ」
「…細い縄の方は?」
「そう、その細い縄の方が本番だ。並の人間では、太い縄を切った時点で、罠を無効化したと考えるだろう。
ここで油断すると、偽装した細い縄の方には気付かない。気の緩んだ相手はその細い罠の方にかかり、罠が発動。
罠を解除したと一旦は思わせ、油断する人間心理を突いた卑劣な罠だ」
チンクエディアを核に、フォルスを結実。氷のフォルスにより、元々彼の得意とする大剣を生成。
黒髪の女を殺した時にも、使った手。とりあえず得物さえあれば、応戦は出来る。傷口が開く危険を、度外視すれば。
「ということは…!」
「ああ。俺達はすでに奴の術中にはまっているのかも知れん。くれぐれも油断する…
!!」
ヴェイグの嫌な予感は、的中した。口にした瞬間的中してしまった。
傍らを見やる。ティトレイの生気を失った頬に、血のしぶき。
そのしぶきの発生源が、グリッドの喀血によるものだと知ったとき、ヴェイグもまた喉の奥に耐え難い灼熱感を覚えていた。
喉の奥から、熱い塊が込み上がる。鼻腔が焼け付き、悲しくもないのに涙がぼろぼろと湧いてくる。
(しまった! …これが奴の『細い縄』だったのか!?)
ヴェイグがそう認識したとき、すでに自体は手遅れだった。無色透明の瘴気。
ヴェイグはフォルスを練り、空気中の瘴気を凍りつかせようと、涙に曇る瞳を空に向ける。
だが、右手を宙に差し出した時点で、もとより生命力の弱っていたヴェイグには、限界が訪れた。
ヴェイグは口から紅い塊を吐き出した。
肺を焼かれ、目に棘が刺さるような激痛。舌は口内で張り付き、まともな呼吸が出来るかどうかも、そろそろ怪しくなる。
たまらずグリッドは、地面に突っ伏した。
とうとうヴェイグは、うつ伏せに地面に倒れこんだ。
「…ぁ…あ…あぁあ……」
辛うじて、ジェイはまた立っていた。辛うじて、ではあるが。
忍者はその訓練と併せ、食事には特別な混ぜ物をしている。微量の毒を食事ごとにとり、毒に対する耐性を身に着けている。
この訓練がなければ、ジェイはヴェイグやグリッドともども、喀血を起こし倒れ込んでいただろう。
「残念だったな、ジェイとやら。この島の中で、ダオス軍随一の智将を敵に回すとはな」
デミテルは暗記した名簿から、目の前の少年の顔と名を照合し、苦しむジェイが先ほど発した言葉を、そのまま返していた。
「あれほど大仕掛けの砲撃を仕掛けていたのだ。この私が第三者からの不意打ちを予期していないとでも思ったか?」
「くそ…『春花の術』…か……」
「ジャポン族は、毒の霧を撒く術をそう呼ぶようだな」
事実半分、虚勢半分。デミテルの足元にて砕けるは、陶製の入れ物。
それはかつて、遺跡船の仲間ノーマの用いていた毒入りのシャボン液を入れていた容器であるとジェイは気付いた。
恐らくはあのシャボン液に、デミテルは錬金術を用いて何らかの変成を起こさせたのだろう。
かつてノーマが使っていたシャボン液には、ここまで強烈な毒性はない。
一吸いで粘膜を激しく侵し、内出血を引き起こさせるような、蒸発性と即効性を兼ね備えた強烈な毒は。
そして「春花の術」使いの当然の作法として、予め術者は自分の撒く毒に対する解毒剤を飲む。ゆえに彼は無傷なのだろう。
だが、解毒剤を飲んでいないジェイにしてみれば、この「春花の術」はたまらない。
口元から一筋、血を垂らす。催涙作用には何とか耐えているが、鼻の奥がつんと痛い。
「やれやれ、先ほどの砲撃で貴様ら全員まとめて葬るつもりだったが、こうして一匹厄介な獲物が釣れたのならばよしとしよう。
見たところ、貴様もどうやら頭はそれなりに回るらしいな。…この私ほどではないが」
尊大。傲岸。慢心。鼻の曲がりそうなほどの自己陶酔の臭い。
こいつは、小物だ。
一流ぶっているつもりなのだろうが、所詮は肥大した過剰なまでの自信にあぐらをかいている二流。
分不相応な力を得て、全能感に酔っている三下。
ジェイはそう断じたが、自分はその小物の手のひらの上で、まんまと今まで踊らされ、そして今も踊った。
魔術ばかりを警戒して、毒という悪党の大好きな、そして有効な手段が来ることを見落としていた。
錬金術の知識をこの男が持っていると知っていた。ならば、毒物の調合は十分想定できていたはずなのに。
またも自身は、この男の奇策に…いや、陽動にしてやられたのだ。
辛うじて、ジェイはまた立っていた。辛うじて、ではあるが。
忍者はその訓練と併せ、食事には特別な混ぜ物をしている。微量の毒を食事ごとにとり、毒に対する耐性を身に着けている。
この訓練がなければ、ジェイはヴェイグやグリッドともども、喀血を起こし倒れ込んでいただろう。
「残念だったな、ジェイとやら。この島の中で、ダオス軍随一の智将を敵に回すとはな」
デミテルは暗記した名簿から、目の前の少年の顔と名を照合し、苦しむジェイが先ほど発した言葉を、そのまま返していた。
「あれほど大仕掛けの砲撃を仕掛けていたのだ。この私が第三者からの不意打ちを予期していないとでも思ったか?」
「くそ…『春花の術』…か……」
「ジャポン族は、毒の霧を撒く術をそう呼ぶようだな」
事実半分、虚勢半分。デミテルの足元にて砕けるは、陶製の入れ物。
それはかつて、遺跡船の仲間ノーマの用いていた毒入りのシャボン液を入れていた容器であるとジェイは気付いた。
恐らくはあのシャボン液に、デミテルは錬金術を用いて何らかの変成を起こさせたのだろう。
かつてノーマが使っていたシャボン液には、ここまで強烈な毒性はない。
一吸いで粘膜を激しく侵し、内出血を引き起こさせるような、蒸発性と即効性を兼ね備えた強烈な毒は。
そして「春花の術」使いの当然の作法として、予め術者は自分の撒く毒に対する解毒剤を飲む。ゆえに彼は無傷なのだろう。
だが、解毒剤を飲んでいないジェイにしてみれば、この「春花の術」はたまらない。
口元から一筋、血を垂らす。催涙作用には何とか耐えているが、鼻の奥がつんと痛い。
「やれやれ、先ほどの砲撃で貴様ら全員まとめて葬るつもりだったが、こうして一匹厄介な獲物が釣れたのならばよしとしよう。
見たところ、貴様もどうやら頭はそれなりに回るらしいな。…この私ほどではないが」
尊大。傲岸。慢心。鼻の曲がりそうなほどの自己陶酔の臭い。
こいつは、小物だ。
一流ぶっているつもりなのだろうが、所詮は肥大した過剰なまでの自信にあぐらをかいている二流。
分不相応な力を得て、全能感に酔っている三下。
ジェイはそう断じたが、自分はその小物の手のひらの上で、まんまと今まで踊らされ、そして今も踊った。
魔術ばかりを警戒して、毒という悪党の大好きな、そして有効な手段が来ることを見落としていた。
錬金術の知識をこの男が持っていると知っていた。ならば、毒物の調合は十分想定できていたはずなのに。
またも自身は、この男の奇策に…いや、陽動にしてやられたのだ。
デミテルは口元を押さえるジェイの横っ面を蹴り倒し、地面に転がせる。
瘴気に耐えるだけで精一杯のジェイは、あえなく地面に転がる。ヴェイグが、グリッドが、ティトレイが、突っ伏す方へ。
「せっかく私の顔を直に拝見するところまで行ったのだ。遠慮なく報酬を受け取るといい。
あの世で貴様らの仲間達に、自慢できるぞ? この私に、ここまで肉薄できたのだからな」
(だっ…誰が……ッ!!!)
こんな小物ごときに殺されて、あの世の仲間に自慢出来ようものか。犬死にもいいところだ。
ジェイは蹴りをしたたかもらった頬と肺と。両方から血を吐きながら、涙に濁りかけた視界越しに青髪の男を睨みつける。
見れば彼は、禍々しい響きを伴った詠唱と共に、杖を振る。
暗黒の気がデミテルの周りに渦巻き、その中からにじみ出るようにして姿を現出させるは。
魔宴(サバト)の主たる魔神、バフォメット。善男善女を堕落させんと常にもくろむ、背徳の王。
デミテルの最大の黒魔術。魔界より高位の魔神を召喚し、その力でもって絶大な破壊をもたらす滅殺の禁呪。
先ほども述べたように、デミテルの異常なまでに増幅された魔術の威力では、上級魔術がかすりでもしたら即死。
直撃ならば、髪の毛一本、肉片ひとかけらも残さず、4人の体はこの世から消滅する。
(くそっ! こうなったら…!!)
使うしかない。クライマックスモードを。
この島に潜むマーダーは、何もデミテルのみではない。可能ならば、これを使わずして勝ちたかった。
何より、この身に余る力に陶酔する三下ごときに、こんな切り札を切るとは。
今まで自分達をさんざん踊らせた相手が、こんな小物だったとは。
だが、使うと決めた以上、殺(と)る。殺らねば、殺られる。
ジェイは自らの精神の中で、クライマックスモードの「引き金」に手をかけた。
あと数瞬で、デミテルの黒魔術は完成する。だが、その数瞬さえあれば、デミテルに死を贈るには十二分。
ジェイがクライマックスモードの「引き金」にを引こうとした、まさにその瞬間。
一同の頭上に、赤い火球が発生した。
「!?」
ジェイが、「それ」を認識した瞬間であった。
なんだかんだで、結局この島では自らと因縁の浅からぬ仲となってしまったあの男…金色の偉人が、割って入ってきた。
その事実を、認識した瞬間。
「エクスプロォォォォォォォォゥドッ!!!」
世界は、赤一色に包まれた。
そして物語は、冒頭の言葉に繋がる――。
瘴気に耐えるだけで精一杯のジェイは、あえなく地面に転がる。ヴェイグが、グリッドが、ティトレイが、突っ伏す方へ。
「せっかく私の顔を直に拝見するところまで行ったのだ。遠慮なく報酬を受け取るといい。
あの世で貴様らの仲間達に、自慢できるぞ? この私に、ここまで肉薄できたのだからな」
(だっ…誰が……ッ!!!)
こんな小物ごときに殺されて、あの世の仲間に自慢出来ようものか。犬死にもいいところだ。
ジェイは蹴りをしたたかもらった頬と肺と。両方から血を吐きながら、涙に濁りかけた視界越しに青髪の男を睨みつける。
見れば彼は、禍々しい響きを伴った詠唱と共に、杖を振る。
暗黒の気がデミテルの周りに渦巻き、その中からにじみ出るようにして姿を現出させるは。
魔宴(サバト)の主たる魔神、バフォメット。善男善女を堕落させんと常にもくろむ、背徳の王。
デミテルの最大の黒魔術。魔界より高位の魔神を召喚し、その力でもって絶大な破壊をもたらす滅殺の禁呪。
先ほども述べたように、デミテルの異常なまでに増幅された魔術の威力では、上級魔術がかすりでもしたら即死。
直撃ならば、髪の毛一本、肉片ひとかけらも残さず、4人の体はこの世から消滅する。
(くそっ! こうなったら…!!)
使うしかない。クライマックスモードを。
この島に潜むマーダーは、何もデミテルのみではない。可能ならば、これを使わずして勝ちたかった。
何より、この身に余る力に陶酔する三下ごときに、こんな切り札を切るとは。
今まで自分達をさんざん踊らせた相手が、こんな小物だったとは。
だが、使うと決めた以上、殺(と)る。殺らねば、殺られる。
ジェイは自らの精神の中で、クライマックスモードの「引き金」に手をかけた。
あと数瞬で、デミテルの黒魔術は完成する。だが、その数瞬さえあれば、デミテルに死を贈るには十二分。
ジェイがクライマックスモードの「引き金」にを引こうとした、まさにその瞬間。
一同の頭上に、赤い火球が発生した。
「!?」
ジェイが、「それ」を認識した瞬間であった。
なんだかんだで、結局この島では自らと因縁の浅からぬ仲となってしまったあの男…金色の偉人が、割って入ってきた。
その事実を、認識した瞬間。
「エクスプロォォォォォォォォゥドッ!!!」
世界は、赤一色に包まれた。
そして物語は、冒頭の言葉に繋がる――。
「ダ…ダオス…さん…!?」
突然の出来事に、あと少しのところでクライマックスモードをキャンセルしたジェイ。茫然と、ダオスを見る。
すでに瘴気は、払われていた。
デミテルの所在地へと歩を進めたダオスは、その途中、気付くことができたのだ。
デミテルが周囲に撒き散らかした、毒の霧の存在に。風に運ばれ混じった、かすかな刺激臭で。
結果、彼は毒の霧に冒されない境界線に踏みとどまり、その場で魔術「エクスプロード」を詠唱。
そして一同の上空で威力を絞って「エクスプロード」を発動。発生した高温の爆風で、毒の霧を強引に払い去っていたのだ。
「お…お前は!?」
石化の秘孔を突き、一度は自らを下した男。ヴェイグは、目を瞠りながら、ダオスを見る。
「確か最初ミクトランの野郎に立ち向かった……えーと…ダオスとかいう奴!!」
そして彼とは大した因縁もないグリッドは、そうとしか彼を呼べなかった。
驚き、気色ばむ一同。ダオスは未だに血の滴る右手をかざし、冒頭の言葉で一同を制した。
「あの男は私の仇敵…私がきっちり引導を渡してくれる」
「…何をわけの分からないことを!!」
「命が惜しくば、下がっていろ」
激しかけたヴェイグ。
だがダオスは、ヴェイグの凍気すら生ぬるい、絶対零度の氷を含めたかのような、冷徹な言葉を彼に浴びせる。
「お前達は…ヴェイグ、グリッド、それからティトレイだな」
名簿からの記憶を元に、ダオスは3人の名前をぴたりと言い当てていた。
「私にこの場で刃向かうつもりがなければ、私はお前達を傷付けたりはしない。
そこに寝ているティトレイにはのちのち聞きたいこともあるが、今はそれはさておこう。
またお前達3人が、そこにいるジェイという青い衣の小僧に協力してくれるというのであれば、私はお前達を命に代えて守る」
「…ど…どういうことだ?」
思わず言葉がよどむグリッド。だがグリッドのことなど意にも介さず、ダオスは話を続ける。
「詳しい話はジェイに聞け。さて、ジェイ」
「…はい?」
突然の出来事に、あと少しのところでクライマックスモードをキャンセルしたジェイ。茫然と、ダオスを見る。
すでに瘴気は、払われていた。
デミテルの所在地へと歩を進めたダオスは、その途中、気付くことができたのだ。
デミテルが周囲に撒き散らかした、毒の霧の存在に。風に運ばれ混じった、かすかな刺激臭で。
結果、彼は毒の霧に冒されない境界線に踏みとどまり、その場で魔術「エクスプロード」を詠唱。
そして一同の上空で威力を絞って「エクスプロード」を発動。発生した高温の爆風で、毒の霧を強引に払い去っていたのだ。
「お…お前は!?」
石化の秘孔を突き、一度は自らを下した男。ヴェイグは、目を瞠りながら、ダオスを見る。
「確か最初ミクトランの野郎に立ち向かった……えーと…ダオスとかいう奴!!」
そして彼とは大した因縁もないグリッドは、そうとしか彼を呼べなかった。
驚き、気色ばむ一同。ダオスは未だに血の滴る右手をかざし、冒頭の言葉で一同を制した。
「あの男は私の仇敵…私がきっちり引導を渡してくれる」
「…何をわけの分からないことを!!」
「命が惜しくば、下がっていろ」
激しかけたヴェイグ。
だがダオスは、ヴェイグの凍気すら生ぬるい、絶対零度の氷を含めたかのような、冷徹な言葉を彼に浴びせる。
「お前達は…ヴェイグ、グリッド、それからティトレイだな」
名簿からの記憶を元に、ダオスは3人の名前をぴたりと言い当てていた。
「私にこの場で刃向かうつもりがなければ、私はお前達を傷付けたりはしない。
そこに寝ているティトレイにはのちのち聞きたいこともあるが、今はそれはさておこう。
またお前達3人が、そこにいるジェイという青い衣の小僧に協力してくれるというのであれば、私はお前達を命に代えて守る」
「…ど…どういうことだ?」
思わず言葉がよどむグリッド。だがグリッドのことなど意にも介さず、ダオスは話を続ける。
「詳しい話はジェイに聞け。さて、ジェイ」
「…はい?」
夕方には殴り倒され、先ほどは乱戦の中敵とも味方ともつかぬ中でのあわただしいやり取り。
微妙な立ち位置にあったダオスにとってのジェイ、ジェイにとってのダオスであったが、その彼から名を呼ばれ、ジェイは困惑。
それでもダオスはジェイの困惑ぶりなど知ってか知らずか、腰から皮袋を外し、ジェイに投げて渡した。
「その荷物は戦いに邪魔だ。私が戻るまでの間、しっかり持っておけ」
「一体それはどういう…?」
「あ! デミテルとか言う奴が逃げたぞ!!」
そして状況は、ジェイの疑問を解く暇もなく、急転直下。
ダオスは、デミテルのいた側に振り向く。
確かに彼の姿は忽然と消えていた。
だが、これくらいダオスにとっては想定の範囲内。
話を終えたら、すぐさま彼の方に向かう予定だったし、その時多少の「鬼ごっこ」の必要もあるだろうと、見越してはいた。
ダオスは、4人に背を向け、歩み出す。
「ジェイ、いいな。その皮袋は決して無くすな」
「ダオスさん! さっきからあなたは…!?」
「返事はどうした?」
「…仕方ありませんね」
いくらなんでも強引過ぎるダオスの仕切り。ジェイもさすがに反駁したくなる。
だが、この場で不毛な論議を仕掛けても、時間の無駄だ。デミテルは、何としてでも討たねばならない。
ジェイは、夕暮れの草原でのダオスの瞳を思い出し、沈黙した。
確かにこの戦いは、二人の間に起こるべくして起こった決闘。
一騎打ちなどという選択は、戦術的に見れば次善、次々善の選択肢。
それでも、ジェイにだって心はある。ダオスの心の中に煮えたぎる、激しい感情だって理解出来る。
この一戦、邪魔立てをしてはならない。
(こんなセンチメンタルな選択を許すなんて、ぼくも随分変わりましたね)
そう心中呟くジェイ。ダオスは、歩み出した。
微妙な立ち位置にあったダオスにとってのジェイ、ジェイにとってのダオスであったが、その彼から名を呼ばれ、ジェイは困惑。
それでもダオスはジェイの困惑ぶりなど知ってか知らずか、腰から皮袋を外し、ジェイに投げて渡した。
「その荷物は戦いに邪魔だ。私が戻るまでの間、しっかり持っておけ」
「一体それはどういう…?」
「あ! デミテルとか言う奴が逃げたぞ!!」
そして状況は、ジェイの疑問を解く暇もなく、急転直下。
ダオスは、デミテルのいた側に振り向く。
確かに彼の姿は忽然と消えていた。
だが、これくらいダオスにとっては想定の範囲内。
話を終えたら、すぐさま彼の方に向かう予定だったし、その時多少の「鬼ごっこ」の必要もあるだろうと、見越してはいた。
ダオスは、4人に背を向け、歩み出す。
「ジェイ、いいな。その皮袋は決して無くすな」
「ダオスさん! さっきからあなたは…!?」
「返事はどうした?」
「…仕方ありませんね」
いくらなんでも強引過ぎるダオスの仕切り。ジェイもさすがに反駁したくなる。
だが、この場で不毛な論議を仕掛けても、時間の無駄だ。デミテルは、何としてでも討たねばならない。
ジェイは、夕暮れの草原でのダオスの瞳を思い出し、沈黙した。
確かにこの戦いは、二人の間に起こるべくして起こった決闘。
一騎打ちなどという選択は、戦術的に見れば次善、次々善の選択肢。
それでも、ジェイにだって心はある。ダオスの心の中に煮えたぎる、激しい感情だって理解出来る。
この一戦、邪魔立てをしてはならない。
(こんなセンチメンタルな選択を許すなんて、ぼくも随分変わりましたね)
そう心中呟くジェイ。ダオスは、歩み出した。
(覚悟しろ…デミテル!)
凄絶な闘気が渦を巻き、わななくように震える周囲のマナ。
確かに自身は今、デリス・カーラーンの守護は受けられない。自らの力で戦わねばならない。
ならば、この一戦で、残る全ての時間を燃やし尽くす。命を代価として支払えば、力は手に入る。
こうまで時間が迫っているならば、もはやマーダーの一網打尽は期待できない。
おまけに、これから己の合する相手はデミテル。この島の裏で暗躍し、悪意をばら撒き、そしてクレスをけしかけ。
マーテルを…デリス・カーラーンの救いの道を閉ざした張本人。
滅する。「殺す」などという生易しい処遇では済まさない。この世からデミテルを…デミテルの血一滴さえ残さず、消滅させる。
偉大なるカーラーンの父祖よ、我に力を。
ダオスはこの島でわずかばかり行動を共にした、金髪の少年のことを思い浮かべた。
体内のチャクラを全解放。
ムーラダーラを起動。そこから伸びる気脈を、一気にサハスラーラまで繋ぐ。体内の霊的器官に、残る全ての活力を集約させる。
短いながらも「彼」と話を交わし、一時は互いの力を認め合い、連携さえも行えたあの少年。
(ミトスよ…お前の技を真似させてもらうぞ)
全身に流れるマナを煮えたぎらせ、ダオスはその力を行使する。
第三者からすれば、この術はミトスのあの技に酷似して見えるだろう。
残った左手で、その術を紡ぐ。普段の詠唱時の数倍、十数倍の速度で、マナが編み上がる。
刹那、ダオスの体は白い光に包まれた。
閃光のように、一瞬ばかり輝き、そして一瞬で闇に呑まれる。
白い光が消え去った時、そこには誰も存在していなかった。
ただひとひら、マナで編まれた輝く羽根が、丘に吹いた風に乗り、舞い上がった。
白い羽は、溶けるようにこの島の空に消えていった。
凄絶な闘気が渦を巻き、わななくように震える周囲のマナ。
確かに自身は今、デリス・カーラーンの守護は受けられない。自らの力で戦わねばならない。
ならば、この一戦で、残る全ての時間を燃やし尽くす。命を代価として支払えば、力は手に入る。
こうまで時間が迫っているならば、もはやマーダーの一網打尽は期待できない。
おまけに、これから己の合する相手はデミテル。この島の裏で暗躍し、悪意をばら撒き、そしてクレスをけしかけ。
マーテルを…デリス・カーラーンの救いの道を閉ざした張本人。
滅する。「殺す」などという生易しい処遇では済まさない。この世からデミテルを…デミテルの血一滴さえ残さず、消滅させる。
偉大なるカーラーンの父祖よ、我に力を。
ダオスはこの島でわずかばかり行動を共にした、金髪の少年のことを思い浮かべた。
体内のチャクラを全解放。
ムーラダーラを起動。そこから伸びる気脈を、一気にサハスラーラまで繋ぐ。体内の霊的器官に、残る全ての活力を集約させる。
短いながらも「彼」と話を交わし、一時は互いの力を認め合い、連携さえも行えたあの少年。
(ミトスよ…お前の技を真似させてもらうぞ)
全身に流れるマナを煮えたぎらせ、ダオスはその力を行使する。
第三者からすれば、この術はミトスのあの技に酷似して見えるだろう。
残った左手で、その術を紡ぐ。普段の詠唱時の数倍、十数倍の速度で、マナが編み上がる。
刹那、ダオスの体は白い光に包まれた。
閃光のように、一瞬ばかり輝き、そして一瞬で闇に呑まれる。
白い光が消え去った時、そこには誰も存在していなかった。
ただひとひら、マナで編まれた輝く羽根が、丘に吹いた風に乗り、舞い上がった。
白い羽は、溶けるようにこの島の空に消えていった。
駆けるデミテル。デミテルは内心で、汚らしい悪罵を撒き散らしていた。
この島における随一の智将である己が、どうして今やこうも無様に、敵に背を向け逃げねばならないのか。
「サウザンド・ブレイバー」で敵の裏の裏までかいて、直接愚鈍な参加者どもを一網打尽にするはずだった。
何故だ。何故「サウザンド・ブレイバー」という神の力さえ手にした自身が、最高に無様な結末を迎える羽目になったのだ。
私の「サウザンド・ブレイバー」による一撃。あれを力技で粉砕するような化け物が、この島に残っていたのか。
私の完璧な計算のどこに誤りがあった。何故だ、何故だ、何故だ、何故だ!?
悔やみながらも走るデミテル。ミスティシンボルによる詠唱加速。魔術「ウインドカッター」を紡ぐ。
「ウインドカッター」を用いた、魔法陣の遠隔作成。先刻まんまとダオスを騙しおおせた、あの手段だ。
今回発動させる魔術は「アースクエイク」。
「ケイオスハート」による増幅を込めた、「アースクエイク」を込めている。
今回の魔法陣は特別なもの。追跡者達の予想針路上に、大量に魔法陣を作成していることは同じ。
だが今回、実際に魔力を込めたのは、核となる魔法陣ただ1つ。他には、何者かが魔法陣を踏むと発動する警報を込めたのみ。
そして核である魔法陣に込めた「アースクエイク」の魔力は、警報が発された瞬間、警報発動地点に一瞬で流れ込む。
つまり、今回デミテルが残したものは、魔力を最大限に節約して形成した、魔術の地雷原。
「サウザンド・ブレイバー」で大量に消費した魔力と、自身がおかれた現状をすり合わせて編み出した、苦肉の策。
だが苦肉の策にしても、この策は有効であることもまた事実。
下手な追跡をかければ、追跡者は「地雷原」に引っかかり、「アースクエイク」で岩盤に叩きつけられ、ぺしゃんこになる。
あの4人の誰が追いかけてきても問題はない。「アースクエイク」の威力は、全員の致命傷を優に上回るだけに設定した。
ここは逃げて、態勢を立て直す。
その後はティトレイ・クロウを覚醒させた男、ヴェイグ・リュングベルを始末する。
「サウザンド・ブレイバー」を無化した者を、草の根を分けてでも探し出し葬る。
私の編み出した完璧な策を、完全にひっくり返してくれた愚か者達に、この智将デミテルに刃向かった罰を与える。
もちろん、死という名の罰を――。
現状の脅威を、排除してから。
デミテルは、目の前の光景に釘付けになった。
この島における随一の智将である己が、どうして今やこうも無様に、敵に背を向け逃げねばならないのか。
「サウザンド・ブレイバー」で敵の裏の裏までかいて、直接愚鈍な参加者どもを一網打尽にするはずだった。
何故だ。何故「サウザンド・ブレイバー」という神の力さえ手にした自身が、最高に無様な結末を迎える羽目になったのだ。
私の「サウザンド・ブレイバー」による一撃。あれを力技で粉砕するような化け物が、この島に残っていたのか。
私の完璧な計算のどこに誤りがあった。何故だ、何故だ、何故だ、何故だ!?
悔やみながらも走るデミテル。ミスティシンボルによる詠唱加速。魔術「ウインドカッター」を紡ぐ。
「ウインドカッター」を用いた、魔法陣の遠隔作成。先刻まんまとダオスを騙しおおせた、あの手段だ。
今回発動させる魔術は「アースクエイク」。
「ケイオスハート」による増幅を込めた、「アースクエイク」を込めている。
今回の魔法陣は特別なもの。追跡者達の予想針路上に、大量に魔法陣を作成していることは同じ。
だが今回、実際に魔力を込めたのは、核となる魔法陣ただ1つ。他には、何者かが魔法陣を踏むと発動する警報を込めたのみ。
そして核である魔法陣に込めた「アースクエイク」の魔力は、警報が発された瞬間、警報発動地点に一瞬で流れ込む。
つまり、今回デミテルが残したものは、魔力を最大限に節約して形成した、魔術の地雷原。
「サウザンド・ブレイバー」で大量に消費した魔力と、自身がおかれた現状をすり合わせて編み出した、苦肉の策。
だが苦肉の策にしても、この策は有効であることもまた事実。
下手な追跡をかければ、追跡者は「地雷原」に引っかかり、「アースクエイク」で岩盤に叩きつけられ、ぺしゃんこになる。
あの4人の誰が追いかけてきても問題はない。「アースクエイク」の威力は、全員の致命傷を優に上回るだけに設定した。
ここは逃げて、態勢を立て直す。
その後はティトレイ・クロウを覚醒させた男、ヴェイグ・リュングベルを始末する。
「サウザンド・ブレイバー」を無化した者を、草の根を分けてでも探し出し葬る。
私の編み出した完璧な策を、完全にひっくり返してくれた愚か者達に、この智将デミテルに刃向かった罰を与える。
もちろん、死という名の罰を――。
現状の脅威を、排除してから。
デミテルは、目の前の光景に釘付けになった。
丘の向こうにいたはずのダオスが、そこに立っていた。悠然と腕を組み、仁王立ちして。
「おやおやデミテル。久方ぶりに己が主に見せる顔が、それか?」
ダオスは能面のような表情の向こうで、地獄の業火もかくやというほどの怒りを燃やし、デミテルに声をかけた。
デミテルは今度こそ、驚愕と、そしてかすかな恐怖に表情を凍り付かせた。
何をどう言い繕うと、ダオスはここにいる。
デミテルの策は、またもや成らなかったのだ。
自分の手のひらの中で踊っていただけのはずの、ダオス自身が…!
ダオスは残る左手で、デミテルの右手を掴み上げた。
即座に、マナを左手に収束させるダオス。
放つは、零距離のダオスレーザー。本来なら不可能なはずの、ダオスレーザーの片手撃ち。
デミテルの右手を、途端にマナの激流が飲み込んだ。
肉が炭化し、骨が砕ける。人間が耐えるには、あまりに苛烈。
渦巻くマナは、デミテルの右手ごと魔杖を地平の彼方まで吹き飛ばしていた。
「おやおやデミテル。久方ぶりに己が主に見せる顔が、それか?」
ダオスは能面のような表情の向こうで、地獄の業火もかくやというほどの怒りを燃やし、デミテルに声をかけた。
デミテルは今度こそ、驚愕と、そしてかすかな恐怖に表情を凍り付かせた。
何をどう言い繕うと、ダオスはここにいる。
デミテルの策は、またもや成らなかったのだ。
自分の手のひらの中で踊っていただけのはずの、ダオス自身が…!
ダオスは残る左手で、デミテルの右手を掴み上げた。
即座に、マナを左手に収束させるダオス。
放つは、零距離のダオスレーザー。本来なら不可能なはずの、ダオスレーザーの片手撃ち。
デミテルの右手を、途端にマナの激流が飲み込んだ。
肉が炭化し、骨が砕ける。人間が耐えるには、あまりに苛烈。
渦巻くマナは、デミテルの右手ごと魔杖を地平の彼方まで吹き飛ばしていた。
「………ッ…!!」
右手を丸ごと消失した激痛と、そしてまたしても完璧だったはずの策を破られた衝撃と。
デミテルはそれらゆえにうめきながら、ダオスを睨みつけた。
「私にここまで切り札を切らせるとは、今までさんざんてこずらせてくれたな、デミテル?」
ダオスのこのありえないはずのデミテルへの追跡劇。それを可能としたのは、ダオスの持つ最高位の魔術にあった。
「タイムストップ」。
この魔術は戦闘において、究極の利便性と究極の代償を包含する、大魔術。
ひとたび発動すれば、術者はその戦闘を制したも同然。止まった時の中で、術者は敵に一方的な攻撃を試みることが出来る。
ましてやダオスのような手合いがこれを用いれば、敵に何十回と止めを刺せるだろう。
だがしかし、この究極の利便性に求められる代償は、大量の魔力とそして長過ぎる詠唱時間。
ひとたび敵がこれの発動を察すれば、全力で阻止にかかる。
術者単体では、まず術を編む前に確実に妨害される。あまりに長過ぎる詠唱時間という、究極の欠点により。
術者が戦士達に防護されていようと、発動の確証はない。
だがそれは、並みの術者が用いたなら。だがそれは、戦意を持つ敵に用いたなら。
ダオスは、マナのそのものの大地、デリス・カーラーンで育った、かの星の王。
この島に降り立った者達の中では、最大級の魔力を体内に秘める。人間やハーフエルフでは決して持ち得ない、強大な魔力を。
そして、倒すべき敵が逃げるのであれば、「タイムストップ」の詠唱を阻む者は存在しない。
デミテルは「エクスプロード」で毒の霧を払われ、ダオスの姿を認めた瞬間、ジェイら4人の殺害を諦め即座に逃走した。
これは、戦術的判断としては決して誤りではあるまい。
戦いに勝つための定石の1つには、自分より強い相手と戦わないこと。強い相手からは逃げ出すこと。
だが、結果としてデミテルの打った「定石」は、ダオスの「タイムストップ」による追跡を阻む機会を、永久に失わしめた。
たとえ定石に忠実に戦いを進めたとしても、戦いは結果論がまかり通る世界。
戦いに負ければそれは「負け」に他ならない。
そしてどんな愚かしい戦術を用いても、戦いに勝てばそれは「勝ち」になる。
すなわち、後者の方が優れた選択として、他者には評価されるのだ。
右手を丸ごと消失した激痛と、そしてまたしても完璧だったはずの策を破られた衝撃と。
デミテルはそれらゆえにうめきながら、ダオスを睨みつけた。
「私にここまで切り札を切らせるとは、今までさんざんてこずらせてくれたな、デミテル?」
ダオスのこのありえないはずのデミテルへの追跡劇。それを可能としたのは、ダオスの持つ最高位の魔術にあった。
「タイムストップ」。
この魔術は戦闘において、究極の利便性と究極の代償を包含する、大魔術。
ひとたび発動すれば、術者はその戦闘を制したも同然。止まった時の中で、術者は敵に一方的な攻撃を試みることが出来る。
ましてやダオスのような手合いがこれを用いれば、敵に何十回と止めを刺せるだろう。
だがしかし、この究極の利便性に求められる代償は、大量の魔力とそして長過ぎる詠唱時間。
ひとたび敵がこれの発動を察すれば、全力で阻止にかかる。
術者単体では、まず術を編む前に確実に妨害される。あまりに長過ぎる詠唱時間という、究極の欠点により。
術者が戦士達に防護されていようと、発動の確証はない。
だがそれは、並みの術者が用いたなら。だがそれは、戦意を持つ敵に用いたなら。
ダオスは、マナのそのものの大地、デリス・カーラーンで育った、かの星の王。
この島に降り立った者達の中では、最大級の魔力を体内に秘める。人間やハーフエルフでは決して持ち得ない、強大な魔力を。
そして、倒すべき敵が逃げるのであれば、「タイムストップ」の詠唱を阻む者は存在しない。
デミテルは「エクスプロード」で毒の霧を払われ、ダオスの姿を認めた瞬間、ジェイら4人の殺害を諦め即座に逃走した。
これは、戦術的判断としては決して誤りではあるまい。
戦いに勝つための定石の1つには、自分より強い相手と戦わないこと。強い相手からは逃げ出すこと。
だが、結果としてデミテルの打った「定石」は、ダオスの「タイムストップ」による追跡を阻む機会を、永久に失わしめた。
たとえ定石に忠実に戦いを進めたとしても、戦いは結果論がまかり通る世界。
戦いに負ければそれは「負け」に他ならない。
そしてどんな愚かしい戦術を用いても、戦いに勝てばそれは「勝ち」になる。
すなわち、後者の方が優れた選択として、他者には評価されるのだ。
「なぜ…あなたが……ここに…?」
「貴様に答える義務はない。…ああ、先ほどの『地雷原』を無事に抜けた理由を聞いているのか?」
デミテルの想定を上回る、「タイムストップ」による追跡劇。
だが、「タイムストップ」の詠唱による時間のロスや、「タイムストップ」の制限時間を考えれば、推測と疑問が自然と浮かぶ。
ダオスはここまで一直線にデミテルを追いかけてきたことは想像に難くない。
すなわち、止まった時の中で、ダオスはデミテルの仕掛けた「地雷原」を中央突破したのだ。
だがそれならば、何故ダオスは「地雷原」を五体満足なまま抜けてこれたのか。
その答えは、至極簡単だった。ダオスは答えて曰く、
「貴様は常日頃から私に進言していただろう? 『相手は同じ手は二度食わないと思った方がいい』、と。
貴様は、数刻前にも私を同じ手でたばかったのを忘れたのか? 魔法陣を地面に直接描き、それによる牽制を仕掛けたことを」
「!!!」
デミテルは、表情の凍結の度合いをますます進める。彼の内で、何かががらがらと崩れてゆく。
「どうせ貴様のことだ。逃げる先で何か罠を仕掛けてあることは見当は付いた。
あの軍用攻撃魔法の砲撃の前に仕掛けた罠か、それとも逃げながらばらまいた罠か、までは分からなかったがな。
結果として、あれほど稚拙な罠だったと気付いた時には拍子抜けしたな。
一瞬あの罠自体がフェイクでないかとさえ思ってしまったぐらいだ」
だが、ダオスは「地雷原」がフェイクである可能性を、一瞬にして却下していた。
あの「地雷原」に仕掛けられた魔力は、十分過ぎたからだ。
いくらあの魔杖の増幅があったからとは言え、デミテルは「サウザンド・ブレイバー」を撃った直後。
体内のマナのほとんどが空になっている状態で、たかがフェイクの魔法陣ごときにあれほどの魔力を注ぎ込むものではない。
ただの牽制ごときに、無駄に大量のマナを注ぎ込むのがどれほど愚かしい選択かは、言及には及ぶまい。
ましてや、青息吐息の現状では、裏の裏をかくにしても、リスクがあまりに大き過ぎる。
「貴様に答える義務はない。…ああ、先ほどの『地雷原』を無事に抜けた理由を聞いているのか?」
デミテルの想定を上回る、「タイムストップ」による追跡劇。
だが、「タイムストップ」の詠唱による時間のロスや、「タイムストップ」の制限時間を考えれば、推測と疑問が自然と浮かぶ。
ダオスはここまで一直線にデミテルを追いかけてきたことは想像に難くない。
すなわち、止まった時の中で、ダオスはデミテルの仕掛けた「地雷原」を中央突破したのだ。
だがそれならば、何故ダオスは「地雷原」を五体満足なまま抜けてこれたのか。
その答えは、至極簡単だった。ダオスは答えて曰く、
「貴様は常日頃から私に進言していただろう? 『相手は同じ手は二度食わないと思った方がいい』、と。
貴様は、数刻前にも私を同じ手でたばかったのを忘れたのか? 魔法陣を地面に直接描き、それによる牽制を仕掛けたことを」
「!!!」
デミテルは、表情の凍結の度合いをますます進める。彼の内で、何かががらがらと崩れてゆく。
「どうせ貴様のことだ。逃げる先で何か罠を仕掛けてあることは見当は付いた。
あの軍用攻撃魔法の砲撃の前に仕掛けた罠か、それとも逃げながらばらまいた罠か、までは分からなかったがな。
結果として、あれほど稚拙な罠だったと気付いた時には拍子抜けしたな。
一瞬あの罠自体がフェイクでないかとさえ思ってしまったぐらいだ」
だが、ダオスは「地雷原」がフェイクである可能性を、一瞬にして却下していた。
あの「地雷原」に仕掛けられた魔力は、十分過ぎたからだ。
いくらあの魔杖の増幅があったからとは言え、デミテルは「サウザンド・ブレイバー」を撃った直後。
体内のマナのほとんどが空になっている状態で、たかがフェイクの魔法陣ごときにあれほどの魔力を注ぎ込むものではない。
ただの牽制ごときに、無駄に大量のマナを注ぎ込むのがどれほど愚かしい選択かは、言及には及ぶまい。
ましてや、青息吐息の現状では、裏の裏をかくにしても、リスクがあまりに大き過ぎる。
「例の魔法陣の中に『アイスニードル』を一発撃ち込んだら、何やら地面が凄まじい振動を起こして、
あっという間に辺り一面が荒地になった。なけなしの魔力を、随分と盛大に無駄遣いしたようだな、デミテルよ」
そして、「タイムストップ」の効果が切れた瞬間、ダオスはデミテルの前に立ちはだかり、腕ごと魔杖を吹き飛ばした。
これが、この逃走劇の間に起こった両者の駆け引きの全貌である。
「タイムストップ」を用いた相手にも有効な罠を張ったところまでは、結果的にデミテルの判断が勝っていた。
デミテルが唯一にして最大の失策を犯していなければ、この駆け引きの勝者はデミテルであったことは間違いない。
ただ1つ、ダオスには先刻、同じ手段を用いていたことを失念していたこと。
ダオスも同じ手に二度引っかかるほどの愚か者ではないことを、忘れ去っていたこと。
普段の彼ならば考えられないような失策ゆえに、彼は逃走に失敗したのだ。
「C3の村での放火による、リッド・ハーシェルやロイド・アーヴィングらの殺人未遂。
E2の城での私を巻き込んだ大量殺人未遂。それ以外にも貴様のことだ。何人もの参加者を殺してきたのだろう?」
「…………」
仁王立ちしたまま、ダオスはデミテルを睥睨し、彼の罪状を読み上げる。
「貴様に今までの罪を吐けなどとは言わん。今は貴様に拷問を行う時間も惜しい。
それに、先ほどE2の城へ放った、私を巻き込んでの砲撃の現行犯だけでも十分。
上官殺害を意図したものは、私の軍の中では例外なく死刑を執行するのは、貴様も良く分かっているだろう。
…だが!!」
うずくまるデミテルの胸倉を掴み上げ、ダオスは強引にデミテルを立ち上がらせる。デミテルは、苦痛のうめきを漏らした。
「私が何よりも許せんのは、貴様がクレス・アルベインをそそのかして行った、マーテル・ユグドラシルの殺害だ!!!」
「…………」
「『マーテルを殺したのはクレスであって、私は何もしていない』、などという下らん屁理屈には耳を貸さん。
私はかねてより貴様がクレスを操っていた首魁ではないかと疑ってはいたが、先ほどのE2の一件で私は確信した。
クレスをあの状況下に放り込み、E2の戦況を混乱させ、一同をE2の城に釘付けにし、
そこに先ほどの一射を撃ち込み、クレスを捨て駒とした一網打尽を試みた。…貴様の書いた筋書きはそんなところだろう?」
「…………」
あっという間に辺り一面が荒地になった。なけなしの魔力を、随分と盛大に無駄遣いしたようだな、デミテルよ」
そして、「タイムストップ」の効果が切れた瞬間、ダオスはデミテルの前に立ちはだかり、腕ごと魔杖を吹き飛ばした。
これが、この逃走劇の間に起こった両者の駆け引きの全貌である。
「タイムストップ」を用いた相手にも有効な罠を張ったところまでは、結果的にデミテルの判断が勝っていた。
デミテルが唯一にして最大の失策を犯していなければ、この駆け引きの勝者はデミテルであったことは間違いない。
ただ1つ、ダオスには先刻、同じ手段を用いていたことを失念していたこと。
ダオスも同じ手に二度引っかかるほどの愚か者ではないことを、忘れ去っていたこと。
普段の彼ならば考えられないような失策ゆえに、彼は逃走に失敗したのだ。
「C3の村での放火による、リッド・ハーシェルやロイド・アーヴィングらの殺人未遂。
E2の城での私を巻き込んだ大量殺人未遂。それ以外にも貴様のことだ。何人もの参加者を殺してきたのだろう?」
「…………」
仁王立ちしたまま、ダオスはデミテルを睥睨し、彼の罪状を読み上げる。
「貴様に今までの罪を吐けなどとは言わん。今は貴様に拷問を行う時間も惜しい。
それに、先ほどE2の城へ放った、私を巻き込んでの砲撃の現行犯だけでも十分。
上官殺害を意図したものは、私の軍の中では例外なく死刑を執行するのは、貴様も良く分かっているだろう。
…だが!!」
うずくまるデミテルの胸倉を掴み上げ、ダオスは強引にデミテルを立ち上がらせる。デミテルは、苦痛のうめきを漏らした。
「私が何よりも許せんのは、貴様がクレス・アルベインをそそのかして行った、マーテル・ユグドラシルの殺害だ!!!」
「…………」
「『マーテルを殺したのはクレスであって、私は何もしていない』、などという下らん屁理屈には耳を貸さん。
私はかねてより貴様がクレスを操っていた首魁ではないかと疑ってはいたが、先ほどのE2の一件で私は確信した。
クレスをあの状況下に放り込み、E2の戦況を混乱させ、一同をE2の城に釘付けにし、
そこに先ほどの一射を撃ち込み、クレスを捨て駒とした一網打尽を試みた。…貴様の書いた筋書きはそんなところだろう?」
「…………」
デミテルは黙して、語らない。
「…沈黙は肯定とみなす。
どれほど泣き叫ぼうが、どれほど卑屈に許しを請おうが、マーテルを殺した罪だけは絶対に許さん。
デミテル…貴様のマーテル殺害の罪は万死に…否! 億死に値する!!!」
「……ふん、下らないたわ言を」
そこで、デミテルは始めて口を開いた。
「!?」
「…やれやれ、ダオス様ともあろう方が、何故たかがハーフエルフの下女1人ごときにご執心なさるのですかな?」
一言一言が、ダオスの神経を逆撫でする。ダオスの顔に、一気に朱が散る。
「もしダオス様があの女を慰み者にでもするつもりだったのでしたら、私はあれより上玉の女をいくらでも知っております。
まあ、死んだ女の事は忘れて、気持ちをお切り替えになっては…?」
刹那、ダオスの左拳が、デミテルの顔面をしたたか強打した。
既視感。ダオスの脳裏に、わずかによぎる。
だが、今のダオスの脳裏には、そんなわずかな雑念などあっさり焼き尽くす、真紅の激昂に駆られていた。
「デミテル…ッ! 貴様ァァァァァァァァッ!!!」
デリス・カーラーンの唯一の救世主、マーテル。
その女を自らの手を汚さずして殺し、あまつさえ侮辱するつもりか、デミテルは。
(この男は、どこまで性根が腐っている!!?)
ダオスの一撃で高々と宙を舞い、そして数十歩ほどの距離を吹き飛んだデミテルは、したたか大地に叩きつけられた。
「…沈黙は肯定とみなす。
どれほど泣き叫ぼうが、どれほど卑屈に許しを請おうが、マーテルを殺した罪だけは絶対に許さん。
デミテル…貴様のマーテル殺害の罪は万死に…否! 億死に値する!!!」
「……ふん、下らないたわ言を」
そこで、デミテルは始めて口を開いた。
「!?」
「…やれやれ、ダオス様ともあろう方が、何故たかがハーフエルフの下女1人ごときにご執心なさるのですかな?」
一言一言が、ダオスの神経を逆撫でする。ダオスの顔に、一気に朱が散る。
「もしダオス様があの女を慰み者にでもするつもりだったのでしたら、私はあれより上玉の女をいくらでも知っております。
まあ、死んだ女の事は忘れて、気持ちをお切り替えになっては…?」
刹那、ダオスの左拳が、デミテルの顔面をしたたか強打した。
既視感。ダオスの脳裏に、わずかによぎる。
だが、今のダオスの脳裏には、そんなわずかな雑念などあっさり焼き尽くす、真紅の激昂に駆られていた。
「デミテル…ッ! 貴様ァァァァァァァァッ!!!」
デリス・カーラーンの唯一の救世主、マーテル。
その女を自らの手を汚さずして殺し、あまつさえ侮辱するつもりか、デミテルは。
(この男は、どこまで性根が腐っている!!?)
ダオスの一撃で高々と宙を舞い、そして数十歩ほどの距離を吹き飛んだデミテルは、したたか大地に叩きつけられた。
デミテルは混濁しそうになる意識を必死に繋ぎとめ、自らの策が今度こそ成功したことを確信した。
「豚もおだてれば木に登る」ではないが、やはり自らの主たる男、ダオスには挑発がよく効く。
ダオスの1人語りを聞きながら、デミテルはその事実に気付いた。
ダオスは、マーテルという女に、とてつもなく大きな尊敬の念を抱いていることに。
ならば、その女をあえて侮辱して、ダオスの神経を逆撫でして、挑発してやろうと即座に思いついた。
どこまでも性根の腐った外道、などと今頃ダオスは思っているだろう。
だが、ダオスは…己の主たる男は、その外道の手によりこれから命を奪われるのだ。
デミテルの服の下に揺れる首飾り、ミスティシンボル。
これこそ、ダオスに対しては伏せ札となっている、自身の持つ最後の切り札。
デミテルは、迷わず呪文の詠唱を開始した。
今頃自分の顔面はガマガエルのように醜くひしゃげているだろう。だが、それでこれだけの間合いを稼げたなら安いもの。
デミテルには分かる。ダオスはもはや、満身創痍であることを。本来ならば、もはや立っていることさえ辛い傷であることを。
己の体内に残るマナは、もはや底を着こうとしている。多分次の一撃を放てば、もう後はない。
だがその一撃があれば、ダオスを葬るには十分。モリスンをそそのかせて、ダオスの強大な体力を削った甲斐があった。
この魔術の一撃が当たれば。ダオスが迫る前に術が完成すれば。デミテルがこの限定戦争の中での勝者になる。
必殺を見越すダオスも、これほどの遠距離からダオスレーザーを放っては来るまい。
ダオスレーザーは強大ではあるが、所詮は飛び道具。離れた目標に対する必中は見込めない。
必殺を期するため、ダオスは必ず間合いを詰める。その時間のうちに、この魔術を完成させ、放つ!
デミテルの口から、再び呪文が漏れ始めた。
「豚もおだてれば木に登る」ではないが、やはり自らの主たる男、ダオスには挑発がよく効く。
ダオスの1人語りを聞きながら、デミテルはその事実に気付いた。
ダオスは、マーテルという女に、とてつもなく大きな尊敬の念を抱いていることに。
ならば、その女をあえて侮辱して、ダオスの神経を逆撫でして、挑発してやろうと即座に思いついた。
どこまでも性根の腐った外道、などと今頃ダオスは思っているだろう。
だが、ダオスは…己の主たる男は、その外道の手によりこれから命を奪われるのだ。
デミテルの服の下に揺れる首飾り、ミスティシンボル。
これこそ、ダオスに対しては伏せ札となっている、自身の持つ最後の切り札。
デミテルは、迷わず呪文の詠唱を開始した。
今頃自分の顔面はガマガエルのように醜くひしゃげているだろう。だが、それでこれだけの間合いを稼げたなら安いもの。
デミテルには分かる。ダオスはもはや、満身創痍であることを。本来ならば、もはや立っていることさえ辛い傷であることを。
己の体内に残るマナは、もはや底を着こうとしている。多分次の一撃を放てば、もう後はない。
だがその一撃があれば、ダオスを葬るには十分。モリスンをそそのかせて、ダオスの強大な体力を削った甲斐があった。
この魔術の一撃が当たれば。ダオスが迫る前に術が完成すれば。デミテルがこの限定戦争の中での勝者になる。
必殺を見越すダオスも、これほどの遠距離からダオスレーザーを放っては来るまい。
ダオスレーザーは強大ではあるが、所詮は飛び道具。離れた目標に対する必中は見込めない。
必殺を期するため、ダオスは必ず間合いを詰める。その時間のうちに、この魔術を完成させ、放つ!
デミテルの口から、再び呪文が漏れ始めた。
ダオスは、吹き飛ばしたデミテルに猛追撃をかけていた。
煮えたぎる怒り。とめどなく吹き上がる。
この男、マーテルを侮辱し、あまつさえ開き直るとは。
ダオスは雄叫びを上げながら、突き進んだ。
デミテルは、マーテルを殺した。マーテルを殺したことで、デリス・カーラーンの十億の民を、一瞬にして皆殺しにしたのだ。
可能であれば、デミテル捕らえ、文字通り億の死を味わわせてやりたい。
たかが女1人、とデミテルは高をくくっているのだろう。その女が、十億の民を救う力を持つことも知らずに。
そんなことも知らずに「智将」を自称するなど、冗談にしても笑えない。
デミテルは、せいぜいが「痴将」と言ったところか。
ダオスは、引きちぎった外套にくるまれた、己が右手を見やった。その手ごたえを見る。間違いない。
この右手は、まだ耐えられる。あと一度。一度限りなら、術技の行使に耐えられる。
ダオスは右手をかばって今まで動かしてはいなかった。
ゆえに、デミテルに対して、この右手からの攻撃は不意打ちになるはず。
右腕は完全に死んでいると、勘違いしている可能性は高い。
今のダオスならば、出来る。ダオスレーザーの片手撃ち。
魔力も十分。左右の手からダオスレーザーを同時に発射し、十字砲火さえも可能。
ミトスと放ったあの技、「ダブルカーラーン・レーザー」の単体での使用さえも。
一撃放てば、もう右手は粉微塵になる。魔力も底を尽きる。だが、どの道時間が進めば、それらは全て死神に奪われる。
ならばためらいはしない。右手も魔力も全てくれてやって、デミテルを葬り去る。
雄叫ぶダオス。
その髪の毛は、すでに大半が銀髪と化していた。
煮えたぎる怒り。とめどなく吹き上がる。
この男、マーテルを侮辱し、あまつさえ開き直るとは。
ダオスは雄叫びを上げながら、突き進んだ。
デミテルは、マーテルを殺した。マーテルを殺したことで、デリス・カーラーンの十億の民を、一瞬にして皆殺しにしたのだ。
可能であれば、デミテル捕らえ、文字通り億の死を味わわせてやりたい。
たかが女1人、とデミテルは高をくくっているのだろう。その女が、十億の民を救う力を持つことも知らずに。
そんなことも知らずに「智将」を自称するなど、冗談にしても笑えない。
デミテルは、せいぜいが「痴将」と言ったところか。
ダオスは、引きちぎった外套にくるまれた、己が右手を見やった。その手ごたえを見る。間違いない。
この右手は、まだ耐えられる。あと一度。一度限りなら、術技の行使に耐えられる。
ダオスは右手をかばって今まで動かしてはいなかった。
ゆえに、デミテルに対して、この右手からの攻撃は不意打ちになるはず。
右腕は完全に死んでいると、勘違いしている可能性は高い。
今のダオスならば、出来る。ダオスレーザーの片手撃ち。
魔力も十分。左右の手からダオスレーザーを同時に発射し、十字砲火さえも可能。
ミトスと放ったあの技、「ダブルカーラーン・レーザー」の単体での使用さえも。
一撃放てば、もう右手は粉微塵になる。魔力も底を尽きる。だが、どの道時間が進めば、それらは全て死神に奪われる。
ならばためらいはしない。右手も魔力も全てくれてやって、デミテルを葬り去る。
雄叫ぶダオス。
その髪の毛は、すでに大半が銀髪と化していた。
ダオスも。デミテルも。
満身創痍。疲労困憊。
次の一撃で、全てが決まる。
互いにこれ以上、打てる手はない。追撃の余力はない。ゆえに勝負は一瞬で決まる。
一撃必殺。乾坤一擲。
駒は転がりに転がって、とうとう王(キング)同士の直接対決にまでなった。
まともなチェスを打てば、ありえないような布陣。
だが、この「バトル・ロワイアル」という名のチェス盤は、そのありえないはずの布陣さえ、ありえてしまう魔の戦場。
まともに駒を動かそうとも、それをいつの間にかねじれさせる、歪みの空間。
ダオスもデミテルも、その歪みに、力でもって、知でもって立ち向かって来た。
歪みに歪みで望んだ結果が、この戦況。もはや小細工抜きの、真っ向勝負。歪みに歪みで応じて、結果生まれた正面対決。
あまりにも真っ直ぐ過ぎる戦局ゆえに、この戦いはあまりにも美し過ぎる、戦士と魔術師の対決の構図を呈していた。
戦士と魔術師の正面対決は、一瞬で決着がつく。
戦士の剣が魔術師に達するのが先か。魔術師の呪文が編み上がるのが先か。
戦士は魔術師の魔術には耐えられない。しかし魔術師は一度懐に入られれば、あとは戦士からの一方的な虐殺が待つのみ。
どちらが速いか。互いに互いを殺める武器があるゆえに、ただそれだけが、勝負の鍵となる。
戦士たるダオス。魔術師たるデミテル。
そしてこの勝負、互いに持ちうる伏せ札は一枚限り。
ダオスの持つ、一撃限り術技を放てる、仮死状態の右腕。
デミテルの持つ、魔術の高速詠唱の紋、ミスティシンボル。
互いの持つ余力と、互いの持つ一枚限りの伏せ札。
ただそれのみが、この勝負を決する。
ダオスの拳が、ダオスの閃光が、デミテルを先に殺めるか。
デミテルの呪文が、デミテルの編む魔術が、ダオスを先に殺めるか。
金の王と、青の王がぶつかる時。
金の王と、青の王の伏せ札が表となると時。
審判の瞬間は、今訪れる――。
満身創痍。疲労困憊。
次の一撃で、全てが決まる。
互いにこれ以上、打てる手はない。追撃の余力はない。ゆえに勝負は一瞬で決まる。
一撃必殺。乾坤一擲。
駒は転がりに転がって、とうとう王(キング)同士の直接対決にまでなった。
まともなチェスを打てば、ありえないような布陣。
だが、この「バトル・ロワイアル」という名のチェス盤は、そのありえないはずの布陣さえ、ありえてしまう魔の戦場。
まともに駒を動かそうとも、それをいつの間にかねじれさせる、歪みの空間。
ダオスもデミテルも、その歪みに、力でもって、知でもって立ち向かって来た。
歪みに歪みで望んだ結果が、この戦況。もはや小細工抜きの、真っ向勝負。歪みに歪みで応じて、結果生まれた正面対決。
あまりにも真っ直ぐ過ぎる戦局ゆえに、この戦いはあまりにも美し過ぎる、戦士と魔術師の対決の構図を呈していた。
戦士と魔術師の正面対決は、一瞬で決着がつく。
戦士の剣が魔術師に達するのが先か。魔術師の呪文が編み上がるのが先か。
戦士は魔術師の魔術には耐えられない。しかし魔術師は一度懐に入られれば、あとは戦士からの一方的な虐殺が待つのみ。
どちらが速いか。互いに互いを殺める武器があるゆえに、ただそれだけが、勝負の鍵となる。
戦士たるダオス。魔術師たるデミテル。
そしてこの勝負、互いに持ちうる伏せ札は一枚限り。
ダオスの持つ、一撃限り術技を放てる、仮死状態の右腕。
デミテルの持つ、魔術の高速詠唱の紋、ミスティシンボル。
互いの持つ余力と、互いの持つ一枚限りの伏せ札。
ただそれのみが、この勝負を決する。
ダオスの拳が、ダオスの閃光が、デミテルを先に殺めるか。
デミテルの呪文が、デミテルの編む魔術が、ダオスを先に殺めるか。
金の王と、青の王がぶつかる時。
金の王と、青の王の伏せ札が表となると時。
審判の瞬間は、今訪れる――。
【ジェイ 生存確認】
状態:毒による粘膜の炎症(軽度) 喀血(軽度) 顔面打撲 クライマックスモード発動可能
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(2枚)双眼鏡 エルヴンマント ダオスの皮袋(ダオスの遺書在中)
基本行動方針:脅威を排除しながら、脱出方法を模索する
第一行動方針:現状の把握、及び一同への説明
第二行動方針:ダオスとデミテルを追跡。ダオスが撃破されたなら、代わってデミテルを追撃する
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:シャーリィの救済策の模索
第五行動方針:ミトス・ユアンを発見する
現在位置:E3の丘
状態:毒による粘膜の炎症(軽度) 喀血(軽度) 顔面打撲 クライマックスモード発動可能
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(2枚)双眼鏡 エルヴンマント ダオスの皮袋(ダオスの遺書在中)
基本行動方針:脅威を排除しながら、脱出方法を模索する
第一行動方針:現状の把握、及び一同への説明
第二行動方針:ダオスとデミテルを追跡。ダオスが撃破されたなら、代わってデミテルを追撃する
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:シャーリィの救済策の模索
第五行動方針:ミトス・ユアンを発見する
現在位置:E3の丘
【グリッド 生存確認】
状態:毒による粘膜の炎症 喀血
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:ジェイの助けを借りて状況を把握する
第二行動方針:ヴェイグと共に行動する
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:E3の丘
状態:毒による粘膜の炎症 喀血
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:ジェイの助けを借りて状況を把握する
第二行動方針:ヴェイグと共に行動する
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:E3の丘
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP30% 身体・フォルス不安定 傷口を凍らせ応急処置 毒による粘膜の炎症 喀血
所持品:チンクエディア(氷のフォルスでコーティング)
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ジェイの助けを借りて状況を把握する
第ニ行動方針:ティトレイの説得
第三行動方針:ルーティのための償いをする。
第四行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:E3の丘
状態:HP30% 身体・フォルス不安定 傷口を凍らせ応急処置 毒による粘膜の炎症 喀血
所持品:チンクエディア(氷のフォルスでコーティング)
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ジェイの助けを借りて状況を把握する
第ニ行動方針:ティトレイの説得
第三行動方針:ルーティのための償いをする。
第四行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:E3の丘
【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態:意識不明(毒は吸っていない) TP残り15%
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック 短弓(腕に装着)
基本行動方針:???
第一行動方針:???
現在位置:E3の丘
状態:意識不明(毒は吸っていない) TP残り15%
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック 短弓(腕に装着)
基本行動方針:???
第一行動方針:???
現在位置:E3の丘
【デミテル 生存確認】
状態:HP60%(右腕損失 顔面強打 全身打撲) TP10% 狂気
所持品:ミスティシンボル、アザミの鞭
基本行動方針:漁夫の利を狙い立ち回る
第一行動方針:ダオスの始末後、逃走して態勢を立て直す
第二行動方針:自らの策を台無しにした者を全員始末する
現在位置:E3の丘の東部
状態:HP60%(右腕損失 顔面強打 全身打撲) TP10% 狂気
所持品:ミスティシンボル、アザミの鞭
基本行動方針:漁夫の利を狙い立ち回る
第一行動方針:ダオスの始末後、逃走して態勢を立て直す
第二行動方針:自らの策を台無しにした者を全員始末する
現在位置:E3の丘の東部
【ダオス 生存確認】
状態:TP残り25% HP1/8 死への秒読み(死期はすぐそこに迫っている)壮烈な覚悟 髪の毛の大半が銀髪化
左肩やや裂傷 全魔力解放 胴体やや出血 右腕重傷(一度限り術技の行使に耐えられる)
所持品:エメラルドリング(残る全ての荷物はジェイに譲渡)
基本行動方針:死ぬまでになるべく多くのマーダーを殺害する
第一行動方針:デミテルの殺害
第二行動方針:クレスの殺害
現在位置:E3の丘の東部
状態:TP残り25% HP1/8 死への秒読み(死期はすぐそこに迫っている)壮烈な覚悟 髪の毛の大半が銀髪化
左肩やや裂傷 全魔力解放 胴体やや出血 右腕重傷(一度限り術技の行使に耐えられる)
所持品:エメラルドリング(残る全ての荷物はジェイに譲渡)
基本行動方針:死ぬまでになるべく多くのマーダーを殺害する
第一行動方針:デミテルの殺害
第二行動方針:クレスの殺害
現在位置:E3の丘の東部
※ジェイのクナイは、E3の丘に転がっている。回収可能。
※魔杖ケイオスハートはE3のどこかに弾き飛ばされ所在不明。
※魔杖ケイオスハートはE3のどこかに弾き飛ばされ所在不明。