blue or blue
「だって、科学者でも、私軍人だし」
「それにね、私のせいで誰かが死ぬなんて、もうごめんなの」
「それにね、私のせいで誰かが死ぬなんて、もうごめんなの」
振り返るな。振り返るな。
四星の一角、トーマは駆ける。
呼吸が荒い。酸素不足と中々な量の失血が災いして、意識がたまに朦朧とする。
それでも止まらない。トーマは、止まってはいけないのだ。
彼は「王の盾」、と言ってもその盾をリンドブロム家の為に使ってきたのか、と聞かれれば疑問だが。
守るとすれば、自分、もしくはガジュマという種族自体だろう。そして此処では相反する、ミミー・ブレッドという名のヒューマだった。
そして言われた、新たに2人のヒューマを守れ、と。それを言ったのもまたヒューマだ。
このたった2日間で、随分彼らに対する考えが変わったと思う。
忌み嫌っていたのが遥か昔のことのように思えるのは、このゲームの性質故だろうか。
否、違う。ミミーのお蔭だ。彼女がくれた優しさのお蔭だ。
その温かい感情、ヒトの心の光を胸に、彼は駆ける。
前方に2人組の影が見えた。やはり徒歩と走行なら後者の方が速い。
四星の一角、トーマは駆ける。
呼吸が荒い。酸素不足と中々な量の失血が災いして、意識がたまに朦朧とする。
それでも止まらない。トーマは、止まってはいけないのだ。
彼は「王の盾」、と言ってもその盾をリンドブロム家の為に使ってきたのか、と聞かれれば疑問だが。
守るとすれば、自分、もしくはガジュマという種族自体だろう。そして此処では相反する、ミミー・ブレッドという名のヒューマだった。
そして言われた、新たに2人のヒューマを守れ、と。それを言ったのもまたヒューマだ。
このたった2日間で、随分彼らに対する考えが変わったと思う。
忌み嫌っていたのが遥か昔のことのように思えるのは、このゲームの性質故だろうか。
否、違う。ミミーのお蔭だ。彼女がくれた優しさのお蔭だ。
その温かい感情、ヒトの心の光を胸に、彼は駆ける。
前方に2人組の影が見えた。やはり徒歩と走行なら後者の方が速い。
「さ、何処から来る?」
天地戦争の天才科学者は、たまたま生えていた2本の木のうち、片方に身を隠す。
無垢な少女は何処から現れるか。またあの砲撃をしてくるか、それとも…。
しかし、あのレベルの砲撃を短時間の間に連発するのは考えにくい。
第一、あの青い蝶が索敵に使われているなら、その蝶が今は無いのだから、心配はないだろう。幸い先程の場所とは少し離れている。
耳を澄ませる。葉が擦れる自然の音だけが聞こえる。そこに余計な音はない。
…必要な術はあと3つ、いや、現状を考えれば2つ。
内1つは既に詠唱を終えている。勿論、TP節約のため許容範囲内で威力は押さえて。
必要なのはマナ、純粋なマナ。
微かに身を木から食み出させ、前方に見据える。
「…来た来たぁ」
薄気味悪い2つの月をバックに、少女のシルエットが目に映った。
天地戦争の天才科学者は、たまたま生えていた2本の木のうち、片方に身を隠す。
無垢な少女は何処から現れるか。またあの砲撃をしてくるか、それとも…。
しかし、あのレベルの砲撃を短時間の間に連発するのは考えにくい。
第一、あの青い蝶が索敵に使われているなら、その蝶が今は無いのだから、心配はないだろう。幸い先程の場所とは少し離れている。
耳を澄ませる。葉が擦れる自然の音だけが聞こえる。そこに余計な音はない。
…必要な術はあと3つ、いや、現状を考えれば2つ。
内1つは既に詠唱を終えている。勿論、TP節約のため許容範囲内で威力は押さえて。
必要なのはマナ、純粋なマナ。
微かに身を木から食み出させ、前方に見据える。
「…来た来たぁ」
薄気味悪い2つの月をバックに、少女のシルエットが目に映った。
「…何処にいるの?」
南下してきた滄我の代行者は、人影の無い草原を見渡す。
月光に照らされた緑達は風に踊り、静かな声を立てている。それしか音のない状況が、自然と空気を張り詰めさせる。
そして見つめる、音源の1つである2本の木。誰かが隠れているなら、間違いなくそこ。
2本、つまり、確率は2分の1。50パーセント。面倒臭い。
「悠遠を支えし偉大なる王よ…地に伏す愚かな贄を喰らい尽くせ!」
簡単な話だ、50を100にすればいい。
シャーリィが持つ地属性古代魔法・グランドダッシャー。大地の力が母なる御身を伝い、木の元で解放される。
2本は地割れにより倒れる。根本は粉砕していた。辛うじて残った部分は豪快な音と共に大地に臥せ、土煙を上げる。
それに紛れ、1つの影が駆け抜けていく。月夜の朧な明かりの下、光に反射する黄色い煙の中で、黒が走る。
間違いない、敵だ。
ウージーサブマシンガンを素早く抜き、影が走っていく方向に合わせて発射する。
ぱらららら、というタイプライター音が深夜の静謐を打ち破る。
しかし、瞬時に感じる滄我の集束、マナの結合。
言いようのない、素を織る術士にしか分かりようのない感覚と力を感じ、即座に座標から離れる。
「エンシェントノヴァ!!」
直後、頭上から降るは巨大な炎塊。
着弾した場所を中心に、円形の焼け野が出来ている。草の後影もない。その場に留まっていたら直撃、今頃真っ黒焦げだっただろう。
熱波が顔にかかり、髪が風に揺れた。無条件反射に息を吐く。
似たような上級術(というより同名だ)を知っている。それを使用するということは、結構な術士ということ。
必然的に接近戦には弱い筈だ。
遺跡船の仲間の1人、ウィルのようにハンマーを振り回すような人物ならば話は別だが、声を聞く限りは女のよう。
今の自分にはアーツ系爪術がある。接近戦は、こちらに分がある。
だが、煙が立ち込め視界は不明瞭、威嚇で弾を放つも相手の位置は確認出来ない。
南下してきた滄我の代行者は、人影の無い草原を見渡す。
月光に照らされた緑達は風に踊り、静かな声を立てている。それしか音のない状況が、自然と空気を張り詰めさせる。
そして見つめる、音源の1つである2本の木。誰かが隠れているなら、間違いなくそこ。
2本、つまり、確率は2分の1。50パーセント。面倒臭い。
「悠遠を支えし偉大なる王よ…地に伏す愚かな贄を喰らい尽くせ!」
簡単な話だ、50を100にすればいい。
シャーリィが持つ地属性古代魔法・グランドダッシャー。大地の力が母なる御身を伝い、木の元で解放される。
2本は地割れにより倒れる。根本は粉砕していた。辛うじて残った部分は豪快な音と共に大地に臥せ、土煙を上げる。
それに紛れ、1つの影が駆け抜けていく。月夜の朧な明かりの下、光に反射する黄色い煙の中で、黒が走る。
間違いない、敵だ。
ウージーサブマシンガンを素早く抜き、影が走っていく方向に合わせて発射する。
ぱらららら、というタイプライター音が深夜の静謐を打ち破る。
しかし、瞬時に感じる滄我の集束、マナの結合。
言いようのない、素を織る術士にしか分かりようのない感覚と力を感じ、即座に座標から離れる。
「エンシェントノヴァ!!」
直後、頭上から降るは巨大な炎塊。
着弾した場所を中心に、円形の焼け野が出来ている。草の後影もない。その場に留まっていたら直撃、今頃真っ黒焦げだっただろう。
熱波が顔にかかり、髪が風に揺れた。無条件反射に息を吐く。
似たような上級術(というより同名だ)を知っている。それを使用するということは、結構な術士ということ。
必然的に接近戦には弱い筈だ。
遺跡船の仲間の1人、ウィルのようにハンマーを振り回すような人物ならば話は別だが、声を聞く限りは女のよう。
今の自分にはアーツ系爪術がある。接近戦は、こちらに分がある。
だが、煙が立ち込め視界は不明瞭、威嚇で弾を放つも相手の位置は確認出来ない。
「裁きの時来たりし…」
そしてまた感じる、マナの高まり。
接近戦に持ち込みたくとも、相手の姿を確認出来なければ無理な話。ジェイとは違って六感で相手を察知することは不可能なのだから。
テルクェスも視覚や聴覚がない以上、ここでは何の意味もない。…こんな煙を使って隠れるなんて!
しかし、今度は危機を察しても離脱はしない。
「天翔ける閃光の道標よ…」
二律背反する力、相殺は可能だ。直ぐさまシャーリィも詠唱を開始する。
「還れ、虚無の彼方! エクセキューション!!」
「汝が咆哮により万象を薙ぎ払え! インディグネイション!!」
夜に広がる闇の空間と、天より下りし裁きの雷。相反し合う闇と海の力。
しかし力を弱めていた分、神の雷に軍配が上がった。せめぎ合う二力は破裂。闇は消去され、雷は拡散する。
煙が晴れる。しかし何たることか、今度は破裂した際の雷の残滓による白光が目をくらまし、行く手を拒む。
「…何回も何回も!」
目くらましを多用してくる相手に、思わず声を荒げる。
こんなに近いのに、相手の姿が見つからないなんて。
白くかかった靄のようなものが、深夜に似つかわしくなく、もう朝方ではないのかという錯覚に陥らせる。
「…聖なる意思よ!」
耳は確かに聞いた。今度ははっきりと声がした。大きい、近い、逃さない。
シャーリィは駆ける。ネルフェス・エクスフィアの助力もあり、走力は以前と比べ上昇している。
場所さえ分かればしめたもの。先手を打てれば、勝つのは私。
声量からして距離はあと──突如眼前に現れる人物。
(フェイク──!?)
詠唱をダミーに、中断してわざわざ接近戦に持ち込むなんて…!
こんなに近くては、今からウージーを撃つことも出来ない。かと言って、擦れ違い際にアーツ系爪術を使うのも難しい。
迫るナイフ。考えている暇などない。何とか体を逸らすものの、左腕を掠める。鈍い痛覚が腕を伝う。
テルクェスを展開、飛翔出来れば、簡単に避けれるのに。それが出来ないのは、先程上空に飛ばされた時に知っている。
体を捻らせ反転し、その勢いを利用し裏拳を後頭部へと殴り込む。手甲には痛みと確かな手応え。
振り返る。見事に相手は地へ倒れ込んでいた。
「やっと見つけた」
そしてまた感じる、マナの高まり。
接近戦に持ち込みたくとも、相手の姿を確認出来なければ無理な話。ジェイとは違って六感で相手を察知することは不可能なのだから。
テルクェスも視覚や聴覚がない以上、ここでは何の意味もない。…こんな煙を使って隠れるなんて!
しかし、今度は危機を察しても離脱はしない。
「天翔ける閃光の道標よ…」
二律背反する力、相殺は可能だ。直ぐさまシャーリィも詠唱を開始する。
「還れ、虚無の彼方! エクセキューション!!」
「汝が咆哮により万象を薙ぎ払え! インディグネイション!!」
夜に広がる闇の空間と、天より下りし裁きの雷。相反し合う闇と海の力。
しかし力を弱めていた分、神の雷に軍配が上がった。せめぎ合う二力は破裂。闇は消去され、雷は拡散する。
煙が晴れる。しかし何たることか、今度は破裂した際の雷の残滓による白光が目をくらまし、行く手を拒む。
「…何回も何回も!」
目くらましを多用してくる相手に、思わず声を荒げる。
こんなに近いのに、相手の姿が見つからないなんて。
白くかかった靄のようなものが、深夜に似つかわしくなく、もう朝方ではないのかという錯覚に陥らせる。
「…聖なる意思よ!」
耳は確かに聞いた。今度ははっきりと声がした。大きい、近い、逃さない。
シャーリィは駆ける。ネルフェス・エクスフィアの助力もあり、走力は以前と比べ上昇している。
場所さえ分かればしめたもの。先手を打てれば、勝つのは私。
声量からして距離はあと──突如眼前に現れる人物。
(フェイク──!?)
詠唱をダミーに、中断してわざわざ接近戦に持ち込むなんて…!
こんなに近くては、今からウージーを撃つことも出来ない。かと言って、擦れ違い際にアーツ系爪術を使うのも難しい。
迫るナイフ。考えている暇などない。何とか体を逸らすものの、左腕を掠める。鈍い痛覚が腕を伝う。
テルクェスを展開、飛翔出来れば、簡単に避けれるのに。それが出来ないのは、先程上空に飛ばされた時に知っている。
体を捻らせ反転し、その勢いを利用し裏拳を後頭部へと殴り込む。手甲には痛みと確かな手応え。
振り返る。見事に相手は地へ倒れ込んでいた。
「やっと見つけた」
光の粒子が分散していき、再び元の深夜に戻る。
背に片足が乗せられているのが分かる。拘束された訳だ。
しかも思いっ切りだから動くにも動けない。せいぜい動かせるのは顔と腕だけ。頭は常に動かせるが。
月光が逆光となっているのだろう、影に影が落ちる。
「…あらら、見つかっちゃったわね」
ハロルドは白旗を上げたような緩い笑みを浮かべた。と言ってもそれは拘束する側、シャーリィには見えない。
冷たい何かがずきずきする後頭部へと突き立てられている。熱さの中で尚更金属のような冷たさがはっきりと感じる。
これは確実に言える、ピンチだ。
「ごめんなさい、さようなら。私、お兄ちゃんに会わなきゃいけないの」
「…お兄ちゃん、ねぇ」
やっぱり純粋無垢なのね、といった感じに、ハロルドは息をつく。
それなら自分は純粋無垢じゃないのか、と思ったが、15歳の少女と23歳の自分を比べる方がおかしいと思った。
今更ながらこんな状況で冷静な自分もおかしいと思った。人は窮地に立つと逆に冷静になるっても聞くけど。
この少女は瞼の向こうに愛しい兄の姿を映しているのだろう。自分も真似して目を伏せてみる。
「私だって兄貴、亡くしてるわよ。悲しかったわよ」
シャーリィはぴくりと反応した。
闇にまだ兄さんはいる。銃はまだ火を吹かない。
「でも、生き返らせたいなんて思わなかったわ。だって、歴史は変えられないもの」
自分でもどんな表情をしているか分からない。恐らく笑っているか悲しんでいるかだろう。
手に握っていた短剣を地に突き立てる。
「変えようと思えば変えられたけど、ね。私はそこまでエゴイストじゃないって訳」
ハロルドは沈黙する。シャーリィは体の異変に感付く。
ぴくりとも体が動かない。向けたウージーのトリガーを引くことも叶わない。
今頃どうして、どうして!? と、隠そうともせず表情に焦燥を押し出して、心の中でwhyの疑問詞を繰り返しているのだろう。
そう考えて、ハロルドは口元ににやり笑みを乗せた。
背に片足が乗せられているのが分かる。拘束された訳だ。
しかも思いっ切りだから動くにも動けない。せいぜい動かせるのは顔と腕だけ。頭は常に動かせるが。
月光が逆光となっているのだろう、影に影が落ちる。
「…あらら、見つかっちゃったわね」
ハロルドは白旗を上げたような緩い笑みを浮かべた。と言ってもそれは拘束する側、シャーリィには見えない。
冷たい何かがずきずきする後頭部へと突き立てられている。熱さの中で尚更金属のような冷たさがはっきりと感じる。
これは確実に言える、ピンチだ。
「ごめんなさい、さようなら。私、お兄ちゃんに会わなきゃいけないの」
「…お兄ちゃん、ねぇ」
やっぱり純粋無垢なのね、といった感じに、ハロルドは息をつく。
それなら自分は純粋無垢じゃないのか、と思ったが、15歳の少女と23歳の自分を比べる方がおかしいと思った。
今更ながらこんな状況で冷静な自分もおかしいと思った。人は窮地に立つと逆に冷静になるっても聞くけど。
この少女は瞼の向こうに愛しい兄の姿を映しているのだろう。自分も真似して目を伏せてみる。
「私だって兄貴、亡くしてるわよ。悲しかったわよ」
シャーリィはぴくりと反応した。
闇にまだ兄さんはいる。銃はまだ火を吹かない。
「でも、生き返らせたいなんて思わなかったわ。だって、歴史は変えられないもの」
自分でもどんな表情をしているか分からない。恐らく笑っているか悲しんでいるかだろう。
手に握っていた短剣を地に突き立てる。
「変えようと思えば変えられたけど、ね。私はそこまでエゴイストじゃないって訳」
ハロルドは沈黙する。シャーリィは体の異変に感付く。
ぴくりとも体が動かない。向けたウージーのトリガーを引くことも叶わない。
今頃どうして、どうして!? と、隠そうともせず表情に焦燥を押し出して、心の中でwhyの疑問詞を繰り返しているのだろう。
そう考えて、ハロルドは口元ににやり笑みを乗せた。
短剣により相手の「影」を縫い止め動きを封殺する、数少ないハロルドの特技「鏡影槍」。
永久ではないが、時間稼ぎをするには充分だ。
揃っているエネルギーは5つ。
水気、光気、陽気、土気、闇気。
あとは、開放の門。始まりの太陽はクレイジーコメットで代用出来る。
足りなかったのは地の力。属性を行使出来ない以上、仕方がない。
あのジューダスに似た奴がいたらと思い、直ぐに振り払った。わざわざトーマを向かわせたのに、引き戻されてたまるものか。
いざとなればミックスマスターぐらいまで発動してやるつもりだった。
けれども、予想外のことが起きた。あの少女が地属性、それも上位晶術に匹敵する術を放った。
結果、土気は集束。内心笑わずにはいられなかった。
そして陽気、闇気と術を発動。更にはエクセキューションを相殺しようと光気を放ってくれたものだから、大助かりである。
尤もそれも計算していた節が彼女にはあったようだが。
とにかく、準備は揃った。
紡ぐ、暴虐の星。
この禁術の特徴は、詠唱と引き替えに、長い集中を要することである。逆に言えば、詠唱はない。
TPは正直、足りない。これだけはどうしようもない。だが、それなら己の命を燃やしてでも発動させる。
目的のため命を賭けて戦うのがこのゲーム、ルールには反してはいないでしょう?
「…クレイジーコメット!!」
ハロルドの声が高らかに響く。
それと共に周囲は暗転し、空には会場の星をも越える、数多の星が散らばる。宇宙という光の海に漂っているような気さえした。
そして──無数の流星が煌めきシャーリィへと降り注ぐ!
似たような術を知っている、だが瞬時にこの禁術の危険さに感づくも、光速に避けることは叶わない。
せめてものか、悪あがきか、シャーリィは対術防御壁を発動させる。
それでも、禁術の威力は凄まじい。星々は容赦なくシャーリィの体を傷つける。小さく悲鳴が緑色の膜の中で聞こえる。
集う、5つの気。
「…更に!」
まだ足りない。門は開いていない。
「トゥインクル・スターっ!!」
夜空に輝く一際大きな星。そこに一筋の流れ星が駆け抜ける。星と星は衝突し、発生した光が包み込む。
あまりの眩さに目を開けることが出来ない程に、その波は光り輝く。それはまるで全てを抱擁する母の手のようで。
その光の中で、シャーリィは僅かに見る。終焉へと導く、七色の光を。
ハロルドを取り巻き渦を作り上げるそれは、急速に速度を上げると、深くも鮮麗な青へと姿を変える。
そして全ては1つとなる。
「…──更にっ!」
それは、ブルー・アースという名のプリンセス・オブ・マーメイド。
大地が、蒼い光に包まれる──。
永久ではないが、時間稼ぎをするには充分だ。
揃っているエネルギーは5つ。
水気、光気、陽気、土気、闇気。
あとは、開放の門。始まりの太陽はクレイジーコメットで代用出来る。
足りなかったのは地の力。属性を行使出来ない以上、仕方がない。
あのジューダスに似た奴がいたらと思い、直ぐに振り払った。わざわざトーマを向かわせたのに、引き戻されてたまるものか。
いざとなればミックスマスターぐらいまで発動してやるつもりだった。
けれども、予想外のことが起きた。あの少女が地属性、それも上位晶術に匹敵する術を放った。
結果、土気は集束。内心笑わずにはいられなかった。
そして陽気、闇気と術を発動。更にはエクセキューションを相殺しようと光気を放ってくれたものだから、大助かりである。
尤もそれも計算していた節が彼女にはあったようだが。
とにかく、準備は揃った。
紡ぐ、暴虐の星。
この禁術の特徴は、詠唱と引き替えに、長い集中を要することである。逆に言えば、詠唱はない。
TPは正直、足りない。これだけはどうしようもない。だが、それなら己の命を燃やしてでも発動させる。
目的のため命を賭けて戦うのがこのゲーム、ルールには反してはいないでしょう?
「…クレイジーコメット!!」
ハロルドの声が高らかに響く。
それと共に周囲は暗転し、空には会場の星をも越える、数多の星が散らばる。宇宙という光の海に漂っているような気さえした。
そして──無数の流星が煌めきシャーリィへと降り注ぐ!
似たような術を知っている、だが瞬時にこの禁術の危険さに感づくも、光速に避けることは叶わない。
せめてものか、悪あがきか、シャーリィは対術防御壁を発動させる。
それでも、禁術の威力は凄まじい。星々は容赦なくシャーリィの体を傷つける。小さく悲鳴が緑色の膜の中で聞こえる。
集う、5つの気。
「…更に!」
まだ足りない。門は開いていない。
「トゥインクル・スターっ!!」
夜空に輝く一際大きな星。そこに一筋の流れ星が駆け抜ける。星と星は衝突し、発生した光が包み込む。
あまりの眩さに目を開けることが出来ない程に、その波は光り輝く。それはまるで全てを抱擁する母の手のようで。
その光の中で、シャーリィは僅かに見る。終焉へと導く、七色の光を。
ハロルドを取り巻き渦を作り上げるそれは、急速に速度を上げると、深くも鮮麗な青へと姿を変える。
そして全ては1つとなる。
「…──更にっ!」
それは、ブルー・アースという名のプリンセス・オブ・マーメイド。
大地が、蒼い光に包まれる──。
嘘よ。
何なの、これ。
視界に、金が流れ煌めく。
両手から、翼が生えている。
手が、胸に添えられて。
輝ける青の中に、深紅が散った。
何なの、これ。
視界に、金が流れ煌めく。
両手から、翼が生えている。
手が、胸に添えられて。
輝ける青の中に、深紅が散った。
蒼い世界が晴れる。
2人の体は崩れ落ちる。
片方は血に塗れ、片方も血に塗れ。
しかし決定的な違いは、その片方は予期せぬ疲労感も倒れる要因に含まれていたこと。片方は、動かないこと。
シャーリィのアーツ系爪術は、ハロルドの胸部を裂き、おびただしい程の血を噴出させた。
ハロルドのクレイジーコメット、追加晶術トゥインクル・スターは、シャーリィに多大な傷を負わせた。
ただ、ネルフェス・エクスフィアで強化された体と、防御壁の力が、シャーリィを僅かに生き永らえさせた。
それに対し、ハロルドは心臓部への直接攻撃。致命傷だ。
危なかった。
連続して3つも術を放とうとするなんて…しかも、最後の術はこれまでの術より遥かに強いもの。
クライマックスモードを使わなければ、最後の術まで発動されていた。そして確実に死んでいた。
シャーリィは流れるように、重心を後ろにかけ倒れ込んだ。
そして笑う。
これでお兄ちゃんにまた1歩近付いた。好きな人を復活させようとするのは、エゴなんかじゃない。
ハロルドの言葉が思い出され、胸に留まり、まるで自分のしていることが間違っていると言われたようで、何だか気分が悪かった。
好きな人に会いたいと思うことの、何処がいけないの?
患部に触れようと、重い手を動かす。
そして回復系古代魔法、キュアを唱える。傷付いたって、効きづらくたって、ゆっくり癒していけば傷は治る。
でも、もう力がない…水のベッドで休んで、癒して…。
ああ、その前に、あの欝陶しい奴に止めを刺さなきゃ…。
2人の体は崩れ落ちる。
片方は血に塗れ、片方も血に塗れ。
しかし決定的な違いは、その片方は予期せぬ疲労感も倒れる要因に含まれていたこと。片方は、動かないこと。
シャーリィのアーツ系爪術は、ハロルドの胸部を裂き、おびただしい程の血を噴出させた。
ハロルドのクレイジーコメット、追加晶術トゥインクル・スターは、シャーリィに多大な傷を負わせた。
ただ、ネルフェス・エクスフィアで強化された体と、防御壁の力が、シャーリィを僅かに生き永らえさせた。
それに対し、ハロルドは心臓部への直接攻撃。致命傷だ。
危なかった。
連続して3つも術を放とうとするなんて…しかも、最後の術はこれまでの術より遥かに強いもの。
クライマックスモードを使わなければ、最後の術まで発動されていた。そして確実に死んでいた。
シャーリィは流れるように、重心を後ろにかけ倒れ込んだ。
そして笑う。
これでお兄ちゃんにまた1歩近付いた。好きな人を復活させようとするのは、エゴなんかじゃない。
ハロルドの言葉が思い出され、胸に留まり、まるで自分のしていることが間違っていると言われたようで、何だか気分が悪かった。
好きな人に会いたいと思うことの、何処がいけないの?
患部に触れようと、重い手を動かす。
そして回復系古代魔法、キュアを唱える。傷付いたって、効きづらくたって、ゆっくり癒していけば傷は治る。
でも、もう力がない…水のベッドで休んで、癒して…。
ああ、その前に、あの欝陶しい奴に止めを刺さなきゃ…。
痛い。けど痛いを通り越して、何も感じない。
人は死んでも動くっていうけど、本当なのね。どうだっていいけど。
真っ暗で何も見えない。頭まで空気が行き渡っている感じがしない。
死ぬのね、私。ヘマしちゃったわ。
兄さん…死ぬのって、こういう感じなの? 案外苦しくないもんね、それとも苦し過ぎんのかしら。
これなら死ぬのも別に辛くないって思えるわ。
うわ、何か頭に色々流れてる。これが走馬燈ってヤツ?
だけど何でか、頭に浮かんでくる奴は馬鹿ばっかり。私がいなくて大丈夫なの?
大丈夫よね。馬鹿ってのはいっつも天才の考えることを無駄にしてくれるんだから。
悲しいかな、馬鹿は自然と天才をも越える頭を持ってるって訳。
人は死んでも動くっていうけど、本当なのね。どうだっていいけど。
真っ暗で何も見えない。頭まで空気が行き渡っている感じがしない。
死ぬのね、私。ヘマしちゃったわ。
兄さん…死ぬのって、こういう感じなの? 案外苦しくないもんね、それとも苦し過ぎんのかしら。
これなら死ぬのも別に辛くないって思えるわ。
うわ、何か頭に色々流れてる。これが走馬燈ってヤツ?
だけど何でか、頭に浮かんでくる奴は馬鹿ばっかり。私がいなくて大丈夫なの?
大丈夫よね。馬鹿ってのはいっつも天才の考えることを無駄にしてくれるんだから。
悲しいかな、馬鹿は自然と天才をも越える頭を持ってるって訳。
…でも、これでいいの。
私は私に勝てない。ミクトランには勝てても、ソーディアン・ベルセリオスには勝てない。
遥か未来のハイデルベルクって土地で知った。
スタン達四英雄が戦った時、ミクトランはベルセリオスを持っていた。
スタンにも聞いたから確実。あっちにも「私」はいる。
最初から思っていた。何故、ミクトランが天才であるこの私をこのゲームに呼んだのか?
明らかに脅威となりうる私を呼ぶなんて、いくらボケた頭でも考えないでしょ。
私に何をさせようとしたの? ミクトラン…。
案外、本当に道楽で呼んだとか? それなら勝てる可能性は充分あるわ。楽しむしか能がない奴に誰が負けるもんですか。
そう…負けちゃダメよ、アンタ達。私が死んじゃう意味ないじゃない。
稀代の天才の頭脳を潰すんだから、有り余る対価は払って貰わないとねぇ?
あー駄目だ。ぼーっとしてきた。目の前が真っ暗なのに、霧がかかったみたいに霞んでるのが分かる。
私は私に勝てない。ミクトランには勝てても、ソーディアン・ベルセリオスには勝てない。
遥か未来のハイデルベルクって土地で知った。
スタン達四英雄が戦った時、ミクトランはベルセリオスを持っていた。
スタンにも聞いたから確実。あっちにも「私」はいる。
最初から思っていた。何故、ミクトランが天才であるこの私をこのゲームに呼んだのか?
明らかに脅威となりうる私を呼ぶなんて、いくらボケた頭でも考えないでしょ。
私に何をさせようとしたの? ミクトラン…。
案外、本当に道楽で呼んだとか? それなら勝てる可能性は充分あるわ。楽しむしか能がない奴に誰が負けるもんですか。
そう…負けちゃダメよ、アンタ達。私が死んじゃう意味ないじゃない。
稀代の天才の頭脳を潰すんだから、有り余る対価は払って貰わないとねぇ?
あー駄目だ。ぼーっとしてきた。目の前が真っ暗なのに、霧がかかったみたいに霞んでるのが分かる。
ふと、懐かしい面影達が視界に収まったような気がした。
あれ、どうしたの? 皆揃って…迎えにでも来てくれたの?
ああ、待って、先に行かないでよ、皆、兄さん。今、私もそっち行くから。
あれ、どうしたの? 皆揃って…迎えにでも来てくれたの?
ああ、待って、先に行かないでよ、皆、兄さん。今、私もそっち行くから。
髪が、力なく揺れる。眠る顔はどこか安らかだった。
止めを刺そうとして、止めた。
胸から流れる血が、とても冷たいことに気付いたからだ。
止めを刺そうとして、止めた。
胸から流れる血が、とても冷たいことに気付いたからだ。
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品: メガグランチャー
ネルフェス・エクスフィア(セネルのアーツ系爪術を、限定的ながら使用可能)
フェアリィリング
UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
状態:TP残り10% HP残り20% 背中と胸に火傷(治療中)左腕に軽い切り傷 全身に打撲 冷徹
ハイエクスフィア強化クライマックスモード発動不可能
基本行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない) か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動
第一行動方針:D5の水中で休息後、傷を癒しテルクェスで島内を偵察
第二行動方針:可能ならばジェイと接触し情報を得る。そののちジェイの不意を打ち殺害
現在地:E5北→D5
所持品: メガグランチャー
ネルフェス・エクスフィア(セネルのアーツ系爪術を、限定的ながら使用可能)
フェアリィリング
UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
状態:TP残り10% HP残り20% 背中と胸に火傷(治療中)左腕に軽い切り傷 全身に打撲 冷徹
ハイエクスフィア強化クライマックスモード発動不可能
基本行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない) か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動
第一行動方針:D5の水中で休息後、傷を癒しテルクェスで島内を偵察
第二行動方針:可能ならばジェイと接触し情報を得る。そののちジェイの不意を打ち殺害
現在地:E5北→D5
※短剣はその場に放置してあります。
【トーマ 生存確認】
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 軽い火傷 TP残り55% 決意 中度失血 疾走による疲労
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、 ウィングパック ハロルドメモ2(現状のレーダー解析結果+α)
イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり)
金のフライパン 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明)
基本行動方針:漆黒を生かす
第一行動方針:リオン達と合流後、撤退?
第二行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
現在位置:F5
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 軽い火傷 TP残り55% 決意 中度失血 疾走による疲労
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、 ウィングパック ハロルドメモ2(現状のレーダー解析結果+α)
イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり)
金のフライパン 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明)
基本行動方針:漆黒を生かす
第一行動方針:リオン達と合流後、撤退?
第二行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
現在位置:F5
【ハロルド 死亡】
【残り16人】
【残り16人】