天使よ、悪夢に舞え
ねえ、ロイド。
私のこと、感じてる?
私、ロイドを感じてるよ。
とうとう使ったんだね、天使の力。
ロイドらしい、すごく真っ直ぐで綺麗な力。
離れていたって、分かるよ。ロイドだ、ってすぐ分かるよ。
ロイドは、私のところに来たいよね。私も、ロイドのところに行きたいよ。
私の霊魂(きもち)は、ずっとロイドの方を向いてる。今すぐにでも、会いに行きたい。
でも、駄目。
私の精神(こころ)と肉体(からだ)、自由が利かない。
この羽も、この足も、今はロイドのためには動かせない。
お願い、ロイド。私を助けに来て。私達を助けて。
そうしないと、ミントさんが危ないから。ミントさんが、このままじゃ保たないから。
ミントさんの目の奥は、だって、もう――。
私のこと、感じてる?
私、ロイドを感じてるよ。
とうとう使ったんだね、天使の力。
ロイドらしい、すごく真っ直ぐで綺麗な力。
離れていたって、分かるよ。ロイドだ、ってすぐ分かるよ。
ロイドは、私のところに来たいよね。私も、ロイドのところに行きたいよ。
私の霊魂(きもち)は、ずっとロイドの方を向いてる。今すぐにでも、会いに行きたい。
でも、駄目。
私の精神(こころ)と肉体(からだ)、自由が利かない。
この羽も、この足も、今はロイドのためには動かせない。
お願い、ロイド。私を助けに来て。私達を助けて。
そうしないと、ミントさんが危ないから。ミントさんが、このままじゃ保たないから。
ミントさんの目の奥は、だって、もう――。
ミント・アドネードは、息を弾ませていた。
すでに白い法衣はあちこちが赤く染まり、ところどころはもう茶色に変色している。
一歩地面を蹴るごとに、傷口からぶしぶしと血が搾り出される。
もはや、傷口から内臓が飛び出しても、何らおかしくないほどの重傷。
激痛と出血を押さえるため、傷口に当てられた手には鮮血がべっとりと付着している。
すでに手袋を浸透して、血が手袋の中の手を汚すぐらいに。
脳が沸騰しそうなほど熱い。生気を求めて喉と肺がぜいぜいと鳴る。
だが、その必死の逃避行も、ようやくのことで終わりが見えてきた。
「絶望」という名の終わりが。
どん、とミントの体が何かに弾かれる。体を支え切れず、地面に倒れ込む。
とっさに両手で体をかばい、尻餅を突くミント。焦点を目の前の人物に合わせる。もう、誰だか分かっている。分かってしまう。
げたげたと狂笑を浮かべる、白銀の鎧をまとった男。年頃は、少年と青年の境目ぐらい。
クレス・アルベイン。ミントの最大のパートナーにして、共に150年余の時を駆け巡った無二の仲間。
その手には、白刃が握られていた。ミント自身の鮮血でまだらに染まった、殺意渦巻く刀身が光る。
ぼず。
ミントの腹部に、白刃が埋まった。ミントの視界が、一瞬白くなった。
ハアハアというあえぎ声が降る。飛び散る赤の雫と、剣にこびり付く肉片。
クレスは血への欲情そのままに、恍惚の笑みをを浮かべる。
次の刹那、ミントの体内(なか)が全て血の色に染まった。そう感じるほどの激痛。
視覚と痛覚が混信を起こすほどの痛み。肉を抉り出され、かき回され、掘り出される感覚。
クレスはミントの背にまで抜けた凶刃を、そのまま腹を切り開く要領でミントの上に滑らせる。
肌が裂け、腸(はらわた)が分かたれる感触だけが、妙に現実味を帯びていた。ごりごりという音は、肋骨を砕き切る音。
胸まで剣が走った時、クレスは剣を寝かせた。
梃子の原理そのままに、胸から血霧と共に赤いものと白いものの混じり合ったオブジェがミントの胸から現れる。
彼女は耐え切れず、そのまま意識を闇に沈めた。
すでに白い法衣はあちこちが赤く染まり、ところどころはもう茶色に変色している。
一歩地面を蹴るごとに、傷口からぶしぶしと血が搾り出される。
もはや、傷口から内臓が飛び出しても、何らおかしくないほどの重傷。
激痛と出血を押さえるため、傷口に当てられた手には鮮血がべっとりと付着している。
すでに手袋を浸透して、血が手袋の中の手を汚すぐらいに。
脳が沸騰しそうなほど熱い。生気を求めて喉と肺がぜいぜいと鳴る。
だが、その必死の逃避行も、ようやくのことで終わりが見えてきた。
「絶望」という名の終わりが。
どん、とミントの体が何かに弾かれる。体を支え切れず、地面に倒れ込む。
とっさに両手で体をかばい、尻餅を突くミント。焦点を目の前の人物に合わせる。もう、誰だか分かっている。分かってしまう。
げたげたと狂笑を浮かべる、白銀の鎧をまとった男。年頃は、少年と青年の境目ぐらい。
クレス・アルベイン。ミントの最大のパートナーにして、共に150年余の時を駆け巡った無二の仲間。
その手には、白刃が握られていた。ミント自身の鮮血でまだらに染まった、殺意渦巻く刀身が光る。
ぼず。
ミントの腹部に、白刃が埋まった。ミントの視界が、一瞬白くなった。
ハアハアというあえぎ声が降る。飛び散る赤の雫と、剣にこびり付く肉片。
クレスは血への欲情そのままに、恍惚の笑みをを浮かべる。
次の刹那、ミントの体内(なか)が全て血の色に染まった。そう感じるほどの激痛。
視覚と痛覚が混信を起こすほどの痛み。肉を抉り出され、かき回され、掘り出される感覚。
クレスはミントの背にまで抜けた凶刃を、そのまま腹を切り開く要領でミントの上に滑らせる。
肌が裂け、腸(はらわた)が分かたれる感触だけが、妙に現実味を帯びていた。ごりごりという音は、肋骨を砕き切る音。
胸まで剣が走った時、クレスは剣を寝かせた。
梃子の原理そのままに、胸から血霧と共に赤いものと白いものの混じり合ったオブジェがミントの胸から現れる。
彼女は耐え切れず、そのまま意識を闇に沈めた。
「いやあぁぁぁあああぁぁぁああぐぶ!!!」
ミント・アドネードは、腹の底からこみ上がる不快感に、絶叫さえも途中で掻き曇った。
たまらず横を向いて、体内の未消化物を派手に吐き散らす。鼻腔からさえ、汚物が吹き出る。
げぼげぼという濁った呼吸音。一度嘔吐した汚物を、全て咽喉から吐き出そうとする、生理的な反応。
この部屋に酸っぱい臭気が充満する。胸の悪くなるような、凄絶な臭い。
その原因となっている彼女は、しかしながら心はここになかった。
部屋の東の窓から差し込む、曙光の橙が彼女の瞳を愛撫しようとも。
ミントの青い瞳の奥は、そのまま永劫の悪夢の世界に通じていたから。
悪夢の世界で、ひたすらに求めても空しい救いを求め続けるしか、出来ることはなかったから。
両手両足を荒縄で縛られ、そしてその縄はこの民家の柱に結び付けられ、あまつさえこの部屋に刻まれしは、沈黙の方陣。
どれ程もがこうとも、荒縄はほどけない。女の力ではおろか、頑健な男ですら千切ることは不可能。
そして、部屋の床に刻まれた方陣は、彼女の一切の法術の行使を禁じていた。永続性の「サイレンス」。
たとえ意識が戻ろうと、ミント・アドネードに抵抗の手段はない。
意識が戻ろうとも、戻らずとも、もはや彼女に救いの道は残されていない。
永劫の悪夢の世界から、絶望しか残されていない現世に帰還できようとも、それを救いと言う者はいないだろうから。
再び彼女が身を捩じらせ、恐怖のあまり絶叫したのと、「彼」がここに帰って来たのは、ほとんど同時だった。
「…無力だな、劣悪種よ」
その言葉を放った者は、白の衣に身を包む男。流れるような金の長髪。無機質ながら透徹した、恐ろしく美しい青の瞳。
そして何より目を引くは、虹色に輝く12の光翼。一歩ごとに、金色の粒子が虚空に散る。
「まだ恐怖のあまり絶叫できるほどに余力を残しているとはな。劣悪種ながらに、大した精神力の持ち主のようだ」
この部屋そのものに「サイレンス」を施しておいたのは正解。少なくとも今は、絶叫が戸外に漏れれば不都合になる。
この絶叫を餌にして獲物を釣るにしても、まだそれは時期尚早。
12の翼を担う金髪の天使は、自らの判断に狂いがないことを確かめていた。
「だが、この私が…
ミトス・ユグドラシルがかつて、貴様ら劣悪種に舐めさせられた辛酸は、これほど生温いものではなかったぞ?」
くつくつと嗜虐の笑みを浮かべる長身の天使。ユグドラシルはささやくように言う。
ミント・アドネードは、腹の底からこみ上がる不快感に、絶叫さえも途中で掻き曇った。
たまらず横を向いて、体内の未消化物を派手に吐き散らす。鼻腔からさえ、汚物が吹き出る。
げぼげぼという濁った呼吸音。一度嘔吐した汚物を、全て咽喉から吐き出そうとする、生理的な反応。
この部屋に酸っぱい臭気が充満する。胸の悪くなるような、凄絶な臭い。
その原因となっている彼女は、しかしながら心はここになかった。
部屋の東の窓から差し込む、曙光の橙が彼女の瞳を愛撫しようとも。
ミントの青い瞳の奥は、そのまま永劫の悪夢の世界に通じていたから。
悪夢の世界で、ひたすらに求めても空しい救いを求め続けるしか、出来ることはなかったから。
両手両足を荒縄で縛られ、そしてその縄はこの民家の柱に結び付けられ、あまつさえこの部屋に刻まれしは、沈黙の方陣。
どれ程もがこうとも、荒縄はほどけない。女の力ではおろか、頑健な男ですら千切ることは不可能。
そして、部屋の床に刻まれた方陣は、彼女の一切の法術の行使を禁じていた。永続性の「サイレンス」。
たとえ意識が戻ろうと、ミント・アドネードに抵抗の手段はない。
意識が戻ろうとも、戻らずとも、もはや彼女に救いの道は残されていない。
永劫の悪夢の世界から、絶望しか残されていない現世に帰還できようとも、それを救いと言う者はいないだろうから。
再び彼女が身を捩じらせ、恐怖のあまり絶叫したのと、「彼」がここに帰って来たのは、ほとんど同時だった。
「…無力だな、劣悪種よ」
その言葉を放った者は、白の衣に身を包む男。流れるような金の長髪。無機質ながら透徹した、恐ろしく美しい青の瞳。
そして何より目を引くは、虹色に輝く12の光翼。一歩ごとに、金色の粒子が虚空に散る。
「まだ恐怖のあまり絶叫できるほどに余力を残しているとはな。劣悪種ながらに、大した精神力の持ち主のようだ」
この部屋そのものに「サイレンス」を施しておいたのは正解。少なくとも今は、絶叫が戸外に漏れれば不都合になる。
この絶叫を餌にして獲物を釣るにしても、まだそれは時期尚早。
12の翼を担う金髪の天使は、自らの判断に狂いがないことを確かめていた。
「だが、この私が…
ミトス・ユグドラシルがかつて、貴様ら劣悪種に舐めさせられた辛酸は、これほど生温いものではなかったぞ?」
くつくつと嗜虐の笑みを浮かべる長身の天使。ユグドラシルはささやくように言う。
彼女に施した呪は、「ナイトメア」。一説によると異界より伝わったとされる、ガーラーン大戦で失われたはずの禁呪。
「ナイトメア」は対象を強制的に眠りにつかせ、そしてその眠りの中で強烈な悪夢の思念を送り込む。
その悪夢の思念で、対象の精神に直接打撃を与える外法。
ユグドラシルもしばしば、クルシスの長年の統治のもとでこの呪を用いてきた。
捕縛した捕虜を傷付けずに、恐怖で精神を疲弊させ、自白を誘うために。肉体的拷問では屈服しない者を屈させるにもまた有効。
そしてユグドラシルは、ミトスとして過ごしたカーラーン大戦時代、人間がおよそ生み出しうるあらゆる邪悪を見てきた。
その際の記憶をもとに、ユグドラシルはミントに悪夢を送り続けている。
(…常人なら、すでに三度は廃人になるほどの悪夢を見せてやっても、まだこの劣悪種は屈せぬか)
カーラーン大戦時代に吹き荒れた「魔女狩り」の嵐。その際魔女と吊るし上げられた者に加えられた、激烈な拷問。
戦争の極貧状態が生む、明日をも知れぬ身に堕ちた人間の行う、鬼畜の所業。
集団と化した人間の、理由も原因もない、狂気に満ちた暴走。
その際にミトスらは、常に踏み台になる側の人間であった。
姉共々泥水をすするような生活を送り、魔女狩りの対象にされぬかと戦々恐々の放浪の日々を過ごした。
その際の苦痛や恐怖を、ユグドラシルはそのままミントに送り込んでいる。
ミントの男であるクレスが、彼女を徹底的に痛めつけ、犯し、壊し、挙句の果てにはミントの死体を文字通り喰らう。
延々それの繰り返し。夢の中で意識を失おうと、また別の悪夢の中で目覚める。
そして、ミントに夢の中でそれほどの仕打ちを見舞うのは、ミントの最愛の仲間であるクレス。
この「バトル・ロワイアル」さえ天国と思えるほどの、永劫回帰の無間地獄がそこにあった。
しかも今回は、何らかの情報の自白を強要しているわけではない。ただ痛めつけることが目的。遠慮も仮借もない。
(この女がどこまで悪夢の思念に耐えられるか、実験するのも悪くなかろう。
心が壊れてしまったなら、この女を予備の『器』に据えるのもまた一興か)
何故この女に、愛する姉の影を見てしまったのか。
ユグドラシルはこの村に戻るまでの道すがら、沈思に黙考を重ね、ようやくそのわけが分かった。
「ナイトメア」は対象を強制的に眠りにつかせ、そしてその眠りの中で強烈な悪夢の思念を送り込む。
その悪夢の思念で、対象の精神に直接打撃を与える外法。
ユグドラシルもしばしば、クルシスの長年の統治のもとでこの呪を用いてきた。
捕縛した捕虜を傷付けずに、恐怖で精神を疲弊させ、自白を誘うために。肉体的拷問では屈服しない者を屈させるにもまた有効。
そしてユグドラシルは、ミトスとして過ごしたカーラーン大戦時代、人間がおよそ生み出しうるあらゆる邪悪を見てきた。
その際の記憶をもとに、ユグドラシルはミントに悪夢を送り続けている。
(…常人なら、すでに三度は廃人になるほどの悪夢を見せてやっても、まだこの劣悪種は屈せぬか)
カーラーン大戦時代に吹き荒れた「魔女狩り」の嵐。その際魔女と吊るし上げられた者に加えられた、激烈な拷問。
戦争の極貧状態が生む、明日をも知れぬ身に堕ちた人間の行う、鬼畜の所業。
集団と化した人間の、理由も原因もない、狂気に満ちた暴走。
その際にミトスらは、常に踏み台になる側の人間であった。
姉共々泥水をすするような生活を送り、魔女狩りの対象にされぬかと戦々恐々の放浪の日々を過ごした。
その際の苦痛や恐怖を、ユグドラシルはそのままミントに送り込んでいる。
ミントの男であるクレスが、彼女を徹底的に痛めつけ、犯し、壊し、挙句の果てにはミントの死体を文字通り喰らう。
延々それの繰り返し。夢の中で意識を失おうと、また別の悪夢の中で目覚める。
そして、ミントに夢の中でそれほどの仕打ちを見舞うのは、ミントの最愛の仲間であるクレス。
この「バトル・ロワイアル」さえ天国と思えるほどの、永劫回帰の無間地獄がそこにあった。
しかも今回は、何らかの情報の自白を強要しているわけではない。ただ痛めつけることが目的。遠慮も仮借もない。
(この女がどこまで悪夢の思念に耐えられるか、実験するのも悪くなかろう。
心が壊れてしまったなら、この女を予備の『器』に据えるのもまた一興か)
何故この女に、愛する姉の影を見てしまったのか。
ユグドラシルはこの村に戻るまでの道すがら、沈思に黙考を重ね、ようやくそのわけが分かった。
この劣悪種の女の固有マナは、よく調べてみればコレットに…『器』によく似ている。すなわちマーテルの固有マナに。
否。下手をすれば、固有マナの同調率は本来の『器』のそれをも上回るかも知れない。
僥倖。まさに強運の賜物。『器』を発見して以降、運命の女神は彼に追い風を吹かせ続けている。
自らの疑問が氷解するや否や、ユグドラシルは笑いが止まらなくなりそうな愉悦に浸った。
(…この私の力の前には、運命でさえもかしずくということだな)
何から何まで、順風満帆。目障りな劣悪種どもは、E2の城において互いに潰し合いをしてくれている。
邪魔者同士が自滅し合ってくれるなら、これほどありがたい話はあるだろうか。
ますます、計画の進行が容易になってくれる。事態は好転し続けている、
(だが、これで慢心するほど私の底は浅くない)
口の端に狂気じみた笑みを浮かべながら、ユグドラシルは手に握り締めたそれを傍らの机に置いた。
曙光に染まる東の空。その色を受けて輝くは、鈍色の光沢を持つ細いものの束。
すなわち、針金。この村の民家の倉庫から、ありったけ失敬してきたものである。
ユグドラシルはミントを悪夢の思念で苦しめている間、これを村のあちこちに埋設していたのだ。
そして、その針金が集まる先はここ。ユグドラシルが根城と定めた、この家。
侵入者がやってきたなら、この針金に『ヴォルトアロー』や『インディグネイション』あたりで高圧電流を流す。
この村の地面に網の目のように張り巡らされた針金を、誰かが踏めばどうなるか。結果は明白。
足の裏から、針金を踏んだ犠牲者は感電する羽目になる。
もっとも裸足で戸外を歩き回る人間も少なかろうし、電流はすぐさま地面に逃げてしまうだろう。
『ヴォルトアロー』の高電圧の直撃は期待出来ない。
それでも針金を踏めば、受ける電撃症は洒落にならない。最悪の場合、牽制に終わっても十分。
それ以外にも、まだ罠は用意してある。
針金の埋設と並行して、『グランドダッシャー』を用いた落とし穴もいくつか作っておいた。
もちろん、落とし穴の底には『アイスニードル』で作った氷柱の槍ぶすまも抜かりなく用意してある。
落とし穴の深さもそれなりのもの。氷柱の槍ぶすまに落ちれば、まず助かるまい。
否。下手をすれば、固有マナの同調率は本来の『器』のそれをも上回るかも知れない。
僥倖。まさに強運の賜物。『器』を発見して以降、運命の女神は彼に追い風を吹かせ続けている。
自らの疑問が氷解するや否や、ユグドラシルは笑いが止まらなくなりそうな愉悦に浸った。
(…この私の力の前には、運命でさえもかしずくということだな)
何から何まで、順風満帆。目障りな劣悪種どもは、E2の城において互いに潰し合いをしてくれている。
邪魔者同士が自滅し合ってくれるなら、これほどありがたい話はあるだろうか。
ますます、計画の進行が容易になってくれる。事態は好転し続けている、
(だが、これで慢心するほど私の底は浅くない)
口の端に狂気じみた笑みを浮かべながら、ユグドラシルは手に握り締めたそれを傍らの机に置いた。
曙光に染まる東の空。その色を受けて輝くは、鈍色の光沢を持つ細いものの束。
すなわち、針金。この村の民家の倉庫から、ありったけ失敬してきたものである。
ユグドラシルはミントを悪夢の思念で苦しめている間、これを村のあちこちに埋設していたのだ。
そして、その針金が集まる先はここ。ユグドラシルが根城と定めた、この家。
侵入者がやってきたなら、この針金に『ヴォルトアロー』や『インディグネイション』あたりで高圧電流を流す。
この村の地面に網の目のように張り巡らされた針金を、誰かが踏めばどうなるか。結果は明白。
足の裏から、針金を踏んだ犠牲者は感電する羽目になる。
もっとも裸足で戸外を歩き回る人間も少なかろうし、電流はすぐさま地面に逃げてしまうだろう。
『ヴォルトアロー』の高電圧の直撃は期待出来ない。
それでも針金を踏めば、受ける電撃症は洒落にならない。最悪の場合、牽制に終わっても十分。
それ以外にも、まだ罠は用意してある。
針金の埋設と並行して、『グランドダッシャー』を用いた落とし穴もいくつか作っておいた。
もちろん、落とし穴の底には『アイスニードル』で作った氷柱の槍ぶすまも抜かりなく用意してある。
落とし穴の深さもそれなりのもの。氷柱の槍ぶすまに落ちれば、まず助かるまい。
(さて、次はいかなる手を打ってくれようか)
E2の生き残りが来るまでに、可能な限り大量の罠を敷設しておきたい。
この「バトル・ロワイアル」において、「過剰殲滅」の四文字は存在しない。
最悪ここにいる3人以外の参加者全てが、大挙してこの村に攻め込んできたら――
それくらいの事態を想定すれば、罠はどれほど大量に敷設してもやり過ぎにはならないのだ。
床に転がり、苦悶の絶叫を上げ続ける金髪の女を、何の感情もこもらぬ瞳で見下ろす1人の天使。
四角く切り取られ、部屋の中に侵入する夜明けの光。それを見て、ユグドラシルははたと思い出した。
ちょうど、時間は放送直前。あと数分もしない内に、今晩の死者が発表される。
(可能な限り多くの参加者が死んでいれば良いのだがな)
ユグドラシルは金の髪をかき上げながら、傍らのベッドに歩み寄る。
臀部を落ち着かせ、懐から名簿と地図と、そして羽ペンを取り出す。
12時間おきに勝手に反転し、時を刻み続ける砂時計を見る。
もはや、砂時計の上部には、わずかばかりしか砂は残ったいなかった。
(このクルシスの主である私を、こうまで踊らせてくれるとはな…ミクトランとやら)
砂時計の向こうに見えた気がした、このゲームの主催者。天上王を名乗る、ミクトランなる男。
いままで硝子玉のようだったユグドラシルの瞳に、わずかばかりの殺意が燃える。
(この私を劣悪種どもと同じ薄汚い地べたで這いずり回らせ、玩具のように弄んでくれた礼は、
貴様への用が済み次第きっちりと返してくれよう…それまでに精々、首を洗って待っていることだな)
髪をいじり回していたユグドラシルの手は、いつの間にか震えるほど強く握り締められていた。
孤高の天使を見やる心無き少女は、ただその怒りの発露を静かに見守っていた。
わずか一筋ばかり、赤い光を宿した双眸から涙を流しながら。
かすかに口元を動かし、声にすることもかなわぬ想いの丈に耐えながら。
精神(こころ)を失った霊魂(きもち)は、ただひたすらに救いを求めさまよっていた。
E2の生き残りが来るまでに、可能な限り大量の罠を敷設しておきたい。
この「バトル・ロワイアル」において、「過剰殲滅」の四文字は存在しない。
最悪ここにいる3人以外の参加者全てが、大挙してこの村に攻め込んできたら――
それくらいの事態を想定すれば、罠はどれほど大量に敷設してもやり過ぎにはならないのだ。
床に転がり、苦悶の絶叫を上げ続ける金髪の女を、何の感情もこもらぬ瞳で見下ろす1人の天使。
四角く切り取られ、部屋の中に侵入する夜明けの光。それを見て、ユグドラシルははたと思い出した。
ちょうど、時間は放送直前。あと数分もしない内に、今晩の死者が発表される。
(可能な限り多くの参加者が死んでいれば良いのだがな)
ユグドラシルは金の髪をかき上げながら、傍らのベッドに歩み寄る。
臀部を落ち着かせ、懐から名簿と地図と、そして羽ペンを取り出す。
12時間おきに勝手に反転し、時を刻み続ける砂時計を見る。
もはや、砂時計の上部には、わずかばかりしか砂は残ったいなかった。
(このクルシスの主である私を、こうまで踊らせてくれるとはな…ミクトランとやら)
砂時計の向こうに見えた気がした、このゲームの主催者。天上王を名乗る、ミクトランなる男。
いままで硝子玉のようだったユグドラシルの瞳に、わずかばかりの殺意が燃える。
(この私を劣悪種どもと同じ薄汚い地べたで這いずり回らせ、玩具のように弄んでくれた礼は、
貴様への用が済み次第きっちりと返してくれよう…それまでに精々、首を洗って待っていることだな)
髪をいじり回していたユグドラシルの手は、いつの間にか震えるほど強く握り締められていた。
孤高の天使を見やる心無き少女は、ただその怒りの発露を静かに見守っていた。
わずか一筋ばかり、赤い光を宿した双眸から涙を流しながら。
かすかに口元を動かし、声にすることもかなわぬ想いの丈に耐えながら。
精神(こころ)を失った霊魂(きもち)は、ただひたすらに救いを求めさまよっていた。
【ミトス・ユグドラシル 生存確認】
状態:TP残り35% 天使能力解禁 ユグドラシル化(TP中消費でチェンジ可能)
ミント殺害への拒絶反応(ミントの中にマーテルを見てしまって殺せない)
所持品:エクスフィア強化S・アトワイト(全晶術解放) ミスティシンボル
大いなる実り 邪剣ファフニール ボロボロのダオスのマント
ミントの荷物一式(ホーリィスタッフ サンダーマント ジェイのメモ)
基本行動方針:マーテルの蘇生(手段は問わない)
第一行動方針:放送を聞き情報を整理
第二行動方針:休息後、C3の村に可能な限り大量の罠を敷設
第三行動方針:ミントの精神を悪夢の思念で壊す。可能ならば予備の「器」に利用する
第四行動方針:C3村にやってきた連中を一網打尽にし、魔剣を回収する
第五行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し
現在位置:C3の村の民家
状態:TP残り35% 天使能力解禁 ユグドラシル化(TP中消費でチェンジ可能)
ミント殺害への拒絶反応(ミントの中にマーテルを見てしまって殺せない)
所持品:エクスフィア強化S・アトワイト(全晶術解放) ミスティシンボル
大いなる実り 邪剣ファフニール ボロボロのダオスのマント
ミントの荷物一式(ホーリィスタッフ サンダーマント ジェイのメモ)
基本行動方針:マーテルの蘇生(手段は問わない)
第一行動方針:放送を聞き情報を整理
第二行動方針:休息後、C3の村に可能な限り大量の罠を敷設
第三行動方針:ミントの精神を悪夢の思念で壊す。可能ならば予備の「器」に利用する
第四行動方針:C3村にやってきた連中を一網打尽にし、魔剣を回収する
第五行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し
現在位置:C3の村の民家
【ミント・アドネード 生存確認】
状態:TP全快 失明(酸素不足で部分脳死) 帽子なし 意識混濁(悪夢による極度の心神耗弱) 法術封印状態
両手両足を縛られている
所持品:なし。全てユグドラシルにより武装解除された
第一行動方針:????
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:C3の村の民家
状態:TP全快 失明(酸素不足で部分脳死) 帽子なし 意識混濁(悪夢による極度の心神耗弱) 法術封印状態
両手両足を縛られている
所持品:なし。全てユグドラシルにより武装解除された
第一行動方針:????
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:C3の村の民家
【コレット・ブルーネル 生存確認】
状態: 無機生命体化 (疲労感・精神力磨耗無視)
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック
基本行動方針:防衛本能(自己及びミトスへの危機排除。若干プログラムにエラーあり)
第一行動方針:ユグドラシルの言うことを聞く
現在位置:C3の村の民家
状態: 無機生命体化 (疲労感・精神力磨耗無視)
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック
基本行動方針:防衛本能(自己及びミトスへの危機排除。若干プログラムにエラーあり)
第一行動方針:ユグドラシルの言うことを聞く
現在位置:C3の村の民家
※現在C3の村には針金による電流金網トラップおよび、針山付きの落とし穴を敷設済み(落とし穴は複数ある可能性あり)
※ユグドラシルらのいる部屋は、現在部屋そのものに「サイレンス」がかかっている。魔法の使用は不可能
※ユグドラシルらのいる部屋は、現在部屋そのものに「サイレンス」がかかっている。魔法の使用は不可能