罪と救いと、拒絶
僅かに聞こえた草を踏み分ける音は、プリムラの防衛本能に鳴る警鐘としては充分な役割を果たしていた。
少しずつ擦り合わせる音は大きくなってきている。
しゃかしゃかと本来なら童心に帰らせる小気味よいリズムも、今だけは気持ちいいものには聞こえず、
まるで草葉を掻き分け獲物を狙う、無色透明・不可視のエッグベアでもやって来るような気分だった。いや、多分実際そうだ。
物語の一幕を体験している気分でもあった。
推理小説で逃げて逃げて逃げまくって追い詰められた被害者の気分。
こんな感じなのかな、と彼女は考えてみたが、こんな静かなもんじゃないだろうと自分で一蹴した。
「今正に追い詰められ始めようとしている被害者」だと更に訂正した。
そうなるかもしれない。
相手自ら危険を知らしてくれるのなら願ったりである――鳴らない方がいいのは確かだが。
少しずつ、擦り合わせる音は大きくなってきている。
そもそもここで問題なのは、自分に戦う力はないことである。
持っているのはおよそ料理道具とは思えない、金で作られたフライパンと、あの血濡れの忌まわしき短剣だけだ。
正直もう刃物なんて持ちたくない。
かと言って本音ではフライパンで立ち向かうのも何だか情けない。
(けれどもかつてはこれで戦った、今は亡き赤髪の戦士がいたことをここに記しておく)
縋るように彼女は傍にいる牛人間、もといトーマの方に顔を向ける。
彼は別の方向、はっきり言えば彼女の背後の方を見ている。プリムラの視線には気付いていない。彼は「何か」を見ている。
ねぇちょっと、誰か来るわよ! そんなことを言われる以前に、彼はエマージェンシーに気付いていた。
それはガジュマならではの野生の勘から、という訳では決してなく、
ある程度近くにいなければ感じられない、精神と生命のパワーこと「フォルス」。
彼が感知したものは特に強力なフォルスだった。
全身の細胞が氷に覆われ、寒さで締め上げられ、震える感覚。
間違いない。このフォルスの能力者は――彼は目を尚も強く見据える。
少しずつ擦り合わせる音は大きくなってきている。
しゃかしゃかと本来なら童心に帰らせる小気味よいリズムも、今だけは気持ちいいものには聞こえず、
まるで草葉を掻き分け獲物を狙う、無色透明・不可視のエッグベアでもやって来るような気分だった。いや、多分実際そうだ。
物語の一幕を体験している気分でもあった。
推理小説で逃げて逃げて逃げまくって追い詰められた被害者の気分。
こんな感じなのかな、と彼女は考えてみたが、こんな静かなもんじゃないだろうと自分で一蹴した。
「今正に追い詰められ始めようとしている被害者」だと更に訂正した。
そうなるかもしれない。
相手自ら危険を知らしてくれるのなら願ったりである――鳴らない方がいいのは確かだが。
少しずつ、擦り合わせる音は大きくなってきている。
そもそもここで問題なのは、自分に戦う力はないことである。
持っているのはおよそ料理道具とは思えない、金で作られたフライパンと、あの血濡れの忌まわしき短剣だけだ。
正直もう刃物なんて持ちたくない。
かと言って本音ではフライパンで立ち向かうのも何だか情けない。
(けれどもかつてはこれで戦った、今は亡き赤髪の戦士がいたことをここに記しておく)
縋るように彼女は傍にいる牛人間、もといトーマの方に顔を向ける。
彼は別の方向、はっきり言えば彼女の背後の方を見ている。プリムラの視線には気付いていない。彼は「何か」を見ている。
ねぇちょっと、誰か来るわよ! そんなことを言われる以前に、彼はエマージェンシーに気付いていた。
それはガジュマならではの野生の勘から、という訳では決してなく、
ある程度近くにいなければ感じられない、精神と生命のパワーこと「フォルス」。
彼が感知したものは特に強力なフォルスだった。
全身の細胞が氷に覆われ、寒さで締め上げられ、震える感覚。
間違いない。このフォルスの能力者は――彼は目を尚も強く見据える。
「やはりお前か、ヴェイグ……!」
頭1つ抜きん出た、草原の緑に似合わぬ銀色と紺色。
全身がやや暗めの配色であることが、逆にくっきりとした輪郭を作り出している。
その先にいるのは、長身の青年だった。彼は驚愕に支配されている。
一瞬の静寂の間にも爽やかな風は吹き抜け、停止しているのは彼らだけだった。
さながら自然に作られた一種のオブジェのようだった。
え、と間抜けに言わんばかりの顔をして、プリムラはトーマの視線の先を追う。
彼女もまた同じように顔に驚愕が張り付き、引きつってそれ以上は動かなかった。
見間違うはずがない。記憶に残る姿はおぼろげでしかないのだが、罪を認める自分が小さく囁き告げる。
間違いない、今目の前にいるのは紛れもなく自分が刺したヴェイグ・リュングベルよ、と。
「あなた」なんて他人行儀な言い方はしてくれない。あくまで「自分」だ。
自分と同じ声質を持つ言葉と共に、血を吐き、手を差し出し崩れ落ちる青年の姿がフラッシュバックされる。
とてもスローモーションな残影だった。
彼女は苦痛に顔を歪めた。
フラッシュバックは時間をも逆行し、手に力を篭める感覚が再生し、加えて若干の嘔吐感に襲われる。
そして何より、その場にいたのは彼だけではない。ヴェイグの背後には、「彼」がいる。
全身がやや暗めの配色であることが、逆にくっきりとした輪郭を作り出している。
その先にいるのは、長身の青年だった。彼は驚愕に支配されている。
一瞬の静寂の間にも爽やかな風は吹き抜け、停止しているのは彼らだけだった。
さながら自然に作られた一種のオブジェのようだった。
え、と間抜けに言わんばかりの顔をして、プリムラはトーマの視線の先を追う。
彼女もまた同じように顔に驚愕が張り付き、引きつってそれ以上は動かなかった。
見間違うはずがない。記憶に残る姿はおぼろげでしかないのだが、罪を認める自分が小さく囁き告げる。
間違いない、今目の前にいるのは紛れもなく自分が刺したヴェイグ・リュングベルよ、と。
「あなた」なんて他人行儀な言い方はしてくれない。あくまで「自分」だ。
自分と同じ声質を持つ言葉と共に、血を吐き、手を差し出し崩れ落ちる青年の姿がフラッシュバックされる。
とてもスローモーションな残影だった。
彼女は苦痛に顔を歪めた。
フラッシュバックは時間をも逆行し、手に力を篭める感覚が再生し、加えて若干の嘔吐感に襲われる。
そして何より、その場にいたのは彼だけではない。ヴェイグの背後には、「彼」がいる。
「プリムラ!?」
「――っ、……グリッド……」
「――っ、……グリッド……」
両手を胸元前に持ち上げ、少したじろぐ。それでもお構いなしに彼ことグリッドはずかずかと近付いてきた。
「無事だったのか! どんなに心配したことか……」
しかし、てんでデリカシーの無い行動を、誰かの腕が遮る。
陽が落ちた後の空の色に似た、暗めの青い着物がグリッドの目にも入った。
言っておくと、これはグリッドのデリカシーの無さについて阻止したのではもちろんなく、その相手が問題だったのである。
何せ自分を刺した女(無論、その点で腕の主が彼女を蔑むなど決して出来はしないのを、先に触れておく)で、
E2にいた時に挙がった6人のマーダーの内の1人だ。
グリッドの考えがあり、気持ちは分かるとしても、みすみす彼女の元に行かせるなど言語道断、
自分のように油断を突かれ刺されたらどうするのか。
それこそ彼が信じていたものの根底を打ち崩されることになる。
それがまあ、よくもノコノコと。
陽が落ちた後の空の色に似た、暗めの青い着物がグリッドの目にも入った。
言っておくと、これはグリッドのデリカシーの無さについて阻止したのではもちろんなく、その相手が問題だったのである。
何せ自分を刺した女(無論、その点で腕の主が彼女を蔑むなど決して出来はしないのを、先に触れておく)で、
E2にいた時に挙がった6人のマーダーの内の1人だ。
グリッドの考えがあり、気持ちは分かるとしても、みすみす彼女の元に行かせるなど言語道断、
自分のように油断を突かれ刺されたらどうするのか。
それこそ彼が信じていたものの根底を打ち崩されることになる。
それがまあ、よくもノコノコと。
「トーマ、何故その女と一緒にいる?」彼は問うた。「そいつはマーダーだぞ」
「こいつはもう元マーダーだ。俺はハロルドに、後悔しているこいつを追えと言われた」
「こいつはもう元マーダーだ。俺はハロルドに、後悔しているこいつを追えと言われた」
元マーダー、とヴェイグは心中で疑問の音を持って反復する。
彼はトーマより前方にいるプリムラに視線を移した。彼女の身体はびくりと1度震えた。
彼はトーマより前方にいるプリムラに視線を移した。彼女の身体はびくりと1度震えた。
「ほ、本当よ! 私はもうマーダーなんかじゃない。あの時、私はどうかしてた……」
プリムラの瞳に映るヴェイグの視線はひどく冷たく、それは針の鋭さを持って無数に降り注ぐ強雨のように
幾度も彼女の身体を突き刺した。
けれでも彼女は怖じずに言い返した。それにどれだけの勇気を有したかは分からないが、ヴェイグの視線に変化はなかった。
彼はプリムラの言葉を推していた。
幾度も彼女の身体を突き刺した。
けれでも彼女は怖じずに言い返した。それにどれだけの勇気を有したかは分からないが、ヴェイグの視線に変化はなかった。
彼はプリムラの言葉を推していた。
『その手の芝居を打った上で、油断した相手の背中を刺すのは、悪党の常套手段と相場は決まっています』
この言葉が引っかかっていたのだ。
仮にD5で初めてプリムラに会った時、あのふらふらとした抱擁が演技だとしたら、嫌なほどに符合している。
刺されたのが背中か腹部かの些細な違いだ。
そしてこのジェイの言葉を否定したのは、あくまでティトレイが嘘をつくのが下手と言うか嫌いだという
見知った関係からの前提であり、それ以外の参加者にはこのルールは適用されるのである。
ましてや彼女とはバトル・ロワイアルで、しかもつい半日ほど前、2日目の夕方に初めて出会ったのだ。
ヴェイグは初見の他人をすぐに信用するほど、易しい男ではない。
位置としてはプリムラが前、そのすぐ後ろに図体の大きいトーマがいるという図式になっているため、
後ろからトーマを不意打ちするということはないだろうが、立ち位置だけでシロかクロかは決められない。
ただ自分達がこの方向からやって来たまでの話だ。
更にファーストコンタクトは刺殺未遂、という実に最悪のケースが、疑念に拍車をかけている。
(ちなみに、)この彼の行動はグリッドにとっては不愉快極まりない行為だろうが、
先に述べたように彼が刺されては全く意味がないのだから仕方がない。
グリッドの「どうもしない」というルールはプリムラだからこそ成立するのと同じように、
ヴェイグの「どうもしない」ルールはティトレイにしか成立しないのである。
気にかけてやる義理はない。彼女は、ヴェイグにとって自分を刺したマーダーでしかない。
仮にD5で初めてプリムラに会った時、あのふらふらとした抱擁が演技だとしたら、嫌なほどに符合している。
刺されたのが背中か腹部かの些細な違いだ。
そしてこのジェイの言葉を否定したのは、あくまでティトレイが嘘をつくのが下手と言うか嫌いだという
見知った関係からの前提であり、それ以外の参加者にはこのルールは適用されるのである。
ましてや彼女とはバトル・ロワイアルで、しかもつい半日ほど前、2日目の夕方に初めて出会ったのだ。
ヴェイグは初見の他人をすぐに信用するほど、易しい男ではない。
位置としてはプリムラが前、そのすぐ後ろに図体の大きいトーマがいるという図式になっているため、
後ろからトーマを不意打ちするということはないだろうが、立ち位置だけでシロかクロかは決められない。
ただ自分達がこの方向からやって来たまでの話だ。
更にファーストコンタクトは刺殺未遂、という実に最悪のケースが、疑念に拍車をかけている。
(ちなみに、)この彼の行動はグリッドにとっては不愉快極まりない行為だろうが、
先に述べたように彼が刺されては全く意味がないのだから仕方がない。
グリッドの「どうもしない」というルールはプリムラだからこそ成立するのと同じように、
ヴェイグの「どうもしない」ルールはティトレイにしか成立しないのである。
気にかけてやる義理はない。彼女は、ヴェイグにとって自分を刺したマーダーでしかない。
どうかしてた、か。便利な言葉である。そんなもので全てが解決するのなら、世界はこんなに難しくはないだろう。
もしミクトランが「どうかしてました」と言ったら許せるのか? それと同じことだ。答えは当然のごとくノー。
ここでヴェイグは彼女が本当にどうかしていた可能性を考えてみた。
シャーリィの襲来により、一時的な混乱に陥ってしまった可能性は充分にある。
どうかしてしまっていただけで仲間の女性を殺し、無関係の自分を刺したのならば、後悔も一層深いものであろう。
そして自らの場合も考えてみる。
自分もどうかしていたからルーティを殺しました――合っている気がする。やはり便利な言葉だ。
もしミクトランが「どうかしてました」と言ったら許せるのか? それと同じことだ。答えは当然のごとくノー。
ここでヴェイグは彼女が本当にどうかしていた可能性を考えてみた。
シャーリィの襲来により、一時的な混乱に陥ってしまった可能性は充分にある。
どうかしてしまっていただけで仲間の女性を殺し、無関係の自分を刺したのならば、後悔も一層深いものであろう。
そして自らの場合も考えてみる。
自分もどうかしていたからルーティを殺しました――合っている気がする。やはり便利な言葉だ。
「……そいつの武器を全部渡せ。話はそれからだ」
食って掛かるようにプリムラは身を乗り出す。「信じてくれないの!?」
「黙っていろ」
「ぎゃふっ」
「ぎゃふっ」
トーマの手から黒がかった紫の光が発せられ、プリムラの身体は脚から膝、腹、胸、頭の順に崩れ落ち、
支えようとした手も左右に広がり、不自然な大の字(むしろY字に近い)になり大地にキスをした。
心臓麻痺でもないのに、そのまま起き上がろうともしない。磁のフォルスが働いているのは火を見るより明らかであった。
支えようとした手も左右に広がり、不自然な大の字(むしろY字に近い)になり大地にキスをした。
心臓麻痺でもないのに、そのまま起き上がろうともしない。磁のフォルスが働いているのは火を見るより明らかであった。
「プリムラ!?」
遮っていた腕の壁を無理矢理にでも押し退け、グリッドはプリムラの元に駆け寄ろうとする。
ヴェイグは「馬鹿」、と腕を伸ばし阻止しようとするも、相手は仮にも音速の貴公子、間に合わない。足だけはお墨付きだ。
ちなみに彼が止めようとしたのは、決してマーダーの可能性がある彼女の元に行かせぬためではなく、
ヴェイグは「馬鹿」、と腕を伸ばし阻止しようとするも、相手は仮にも音速の貴公子、間に合わない。足だけはお墨付きだ。
ちなみに彼が止めようとしたのは、決してマーダーの可能性がある彼女の元に行かせぬためではなく、
「ぬおっ!!?」
恐らく空間に発動しているであろう磁のフォルスの効果を受けさせないためである。
グリッドは勢いもあって見事につんのめり、彼こそ本当に大の字になって地に伏した。ヴェイグは呆れた溜息をつく。
男女が揃って倒れている様、こうして見るとこの会場では覚悟と決意の末に情死したように見えなくはないが、当然そんな訳はない
グリッドは勢いもあって見事につんのめり、彼こそ本当に大の字になって地に伏した。ヴェイグは呆れた溜息をつく。
男女が揃って倒れている様、こうして見るとこの会場では覚悟と決意の末に情死したように見えなくはないが、当然そんな訳はない
。
2人は生きているし、そもそも共に心中するような間柄ではない、筈だ。
グリッドが倒れていることにも気付いていないのか、ぴくりとも藻掻けない代わりにプリムラは、
夕方のカラスの群れのようにぎゃあぎゃあと騒ぎ立てているようだが、それも気にせずトーマは背のサックを外していく。
どうやらフォルスが作用しているのは厳密にはヒトの身体のみで、デイパックには何ら異常はない。器用なものである。
2人は生きているし、そもそも共に心中するような間柄ではない、筈だ。
グリッドが倒れていることにも気付いていないのか、ぴくりとも藻掻けない代わりにプリムラは、
夕方のカラスの群れのようにぎゃあぎゃあと騒ぎ立てているようだが、それも気にせずトーマは背のサックを外していく。
どうやらフォルスが作用しているのは厳密にはヒトの身体のみで、デイパックには何ら異常はない。器用なものである。
「戦意がないことを証明するのが1番手っ取り早い。悪く思うな」
彼はヴェイグにデイパックを放り投げた。
この手法にはサックを奪い去るということ以外に、疑惑をかけられているプリムラの動きを封縛する狙いも当然ながらある。
それは彼には不本意であるのだが。
この手法にはサックを奪い去るということ以外に、疑惑をかけられているプリムラの動きを封縛する狙いも当然ながらある。
それは彼には不本意であるのだが。
「これで全部か?」
「そうだ。何なら俺のも渡せばいいか?」
「そうだ。何なら俺のも渡せばいいか?」
いや、いい、とヴェイグは少しの後小さく首を振りながら答えた。
中身で武器になりそうな物は絞殺用のロープといつかのバルカ博物館で見たようなフライパン、
元々は自分の支給品である短剣だけだ。
「離してやってくれ」、と彼は改めて言った。
トーマの大きく粗野な手から光が消える。それがフォルスの制約からプリムラが解放された証拠だった。
彼女は上体を起こし、草むらであることなど忘れてその場にぺたりと座りこむ。
ヴェイグに罵声の1つでも浴びせてやろうとでも思い、彼の方を向いた。
だが、彼の変わらぬ冷たい視線に射抜かれ、今更そんな資格が自分にはないことを思い出した。
疑われて当然――今目の前である程度ぴんぴんしている人間を刺したのだ。普通そうな姿に罪が鈍ってしまった。
失われた信用を取り戻すのは非常に難儀であるのだ。信じてくれないの、なんて厚かましいセリフだ。
彼女には口を開き弁明の言葉を語る権利さえなかった。
立ち上がろうとは思わなかった。動けなかった。
私は彼らに謝らなくてはいけない、そう思っているのに、どこかにそれを避ける自分がいる。
中身で武器になりそうな物は絞殺用のロープといつかのバルカ博物館で見たようなフライパン、
元々は自分の支給品である短剣だけだ。
「離してやってくれ」、と彼は改めて言った。
トーマの大きく粗野な手から光が消える。それがフォルスの制約からプリムラが解放された証拠だった。
彼女は上体を起こし、草むらであることなど忘れてその場にぺたりと座りこむ。
ヴェイグに罵声の1つでも浴びせてやろうとでも思い、彼の方を向いた。
だが、彼の変わらぬ冷たい視線に射抜かれ、今更そんな資格が自分にはないことを思い出した。
疑われて当然――今目の前である程度ぴんぴんしている人間を刺したのだ。普通そうな姿に罪が鈍ってしまった。
失われた信用を取り戻すのは非常に難儀であるのだ。信じてくれないの、なんて厚かましいセリフだ。
彼女には口を開き弁明の言葉を語る権利さえなかった。
立ち上がろうとは思わなかった。動けなかった。
私は彼らに謝らなくてはいけない、そう思っているのに、どこかにそれを避ける自分がいる。
――私は、許されるのだろうか?
ふと、俯いていた彼女の視界でも、誰かの影が映る。
「プリムラ」、とその影は声を掛けた。
「プリムラ」、とその影は声を掛けた。
「……グリッド」
空を男の形に切り取った部分に影はいた。表情は燃え尽きた灰を塗りたくったようになっていて窺えない。
それでもプリムラは目を逸らした。自分の顔を見られたくなかった。
それでもプリムラは目を逸らした。自分の顔を見られたくなかった。
「私、カトリーヌを疑って、殺した……
そこの男の人も、刺して殺そうとした……わ、たし……ご、めんな、さい……!!
わ、わた、し……もう……仲間、なんて……言えない……!」
そこの男の人も、刺して殺そうとした……わ、たし……ご、めんな、さい……!!
わ、わた、し……もう……仲間、なんて……言えない……!」
たっぷりと間を置いて、懺悔はプリムラの口から語られた。
肩に手が置かれる。彼女は身体を震わせて、はっと正面に向き直った。
陽光が潤んだ瞳に反射し、無垢な光を発している。
肩に手が置かれる。彼女は身体を震わせて、はっと正面に向き直った。
陽光が潤んだ瞳に反射し、無垢な光を発している。
「お前は仲間だ。マーダーだろうと元だろうと関係ない。お前は我が漆黒の翼、『迷探偵』のプリムラなのだ」
一瞬、太陽に雲がかかり、逆光が薄らいでいく。絵の具を水で溶かしていくように、すうっと黒い陰影がその濃さを失くしていく。
そこにはいつものグリッドがいた。格段慈愛に満ちた表情ではなく、いつもの馬鹿っぽい真っ直ぐなグリッドがいた。
あの「理由もない」自信げな笑みを浮かべて、そこにいたのだ。
途端、プリムラの目から涙が滲み出してきた。
最大限まで水を入れた杯に更に水を注いだように、零れ出さんとしていた潤みは一塊となってて頬を伝い、
今まで塞き止めていた感情と共に流れていく。
鼻を何度もすすり、涙で前は揺らぎ、顔がぐしゃぐしゃになってなお、プリムラは泣き続ける。
どんなに不細工な顔になってようと、見られようと、そんなもの関係なかった。
何故涙というものを流しているのか、その根底にあるものは何か――それすらも意味を成さないように思えてくる。
ただ、泣いている。よく分からないが、泣いている。それで今の自分には充分立派な勲章に思えた。
その涙が、自分は心無いマーダーではない、という唯一無地の証明だと。
そこにはいつものグリッドがいた。格段慈愛に満ちた表情ではなく、いつもの馬鹿っぽい真っ直ぐなグリッドがいた。
あの「理由もない」自信げな笑みを浮かべて、そこにいたのだ。
途端、プリムラの目から涙が滲み出してきた。
最大限まで水を入れた杯に更に水を注いだように、零れ出さんとしていた潤みは一塊となってて頬を伝い、
今まで塞き止めていた感情と共に流れていく。
鼻を何度もすすり、涙で前は揺らぎ、顔がぐしゃぐしゃになってなお、プリムラは泣き続ける。
どんなに不細工な顔になってようと、見られようと、そんなもの関係なかった。
何故涙というものを流しているのか、その根底にあるものは何か――それすらも意味を成さないように思えてくる。
ただ、泣いている。よく分からないが、泣いている。それで今の自分には充分立派な勲章に思えた。
その涙が、自分は心無いマーダーではない、という唯一無地の証明だと。
「ひっ……く、う……ぅ……ぁああぁぁぁぁあっっ!!!」
彼女はそして駆け出した。
夢魔の靴が彼女を闇へと誘った。
夢魔の靴が彼女を闇へと誘った。
「な……プリムラっ!?」
巨大な魔物の口のように開く洞穴に、彼女の影は吸い込まれていく。
いくら座っていたとはいえ、突然過ぎる行動に近くにいたグリッドも止めることは叶わなかった。
ナイトメアブーツの加護による敏捷性の上昇もその要因の1つに入っていた。
一刹那で消えた彼女を、唖然として見えない姿を見つめる。
いくら座っていたとはいえ、突然過ぎる行動に近くにいたグリッドも止めることは叶わなかった。
ナイトメアブーツの加護による敏捷性の上昇もその要因の1つに入っていた。
一刹那で消えた彼女を、唖然として見えない姿を見つめる。
「……逃げた!?」
ヴェイグの声にトーマは振り向く。
「違う!」
「じゃあどうして逃げる!?」
「奴は本当に後悔していた! 逃げたのではない!!」
「根拠はどこだ! あの涙だって嘘に……!」
「じゃあどうして逃げる!?」
「奴は本当に後悔していた! 逃げたのではない!!」
「根拠はどこだ! あの涙だって嘘に……!」
唯一空いた左腕で、トーマはヴェイグの胸倉を掴んだ。本当はリアルスマッシュでもかましてやりたい気分だった。
長躯である彼すら宙に持ち上げてしまいそうな怪力で掴んでいたが、それにも怯まずヴェイグは睨み返した。
長躯である彼すら宙に持ち上げてしまいそうな怪力で掴んでいたが、それにも怯まずヴェイグは睨み返した。
「ハロルドに聞いたぞ。お前も人を殺したと」
思いもよらなかった言葉に思わず目を瞠る。
「後悔してようがしてまいが、どうでもいい。人を殺すなど呆気ないものだ。だが、貴様に奴を罵る権利など微塵もない」
返した答えは、無言だった。
トーマはふん、と1度鼻を鳴らし、無造作に突き飛ばした。
トーマはふん、と1度鼻を鳴らし、無造作に突き飛ばした。
「俺にもないがな」
彼もまた同じなのだ。人は殺していないにしても、マーダーとして殺そうとはした。しかも、プリムラを。
しかしその立場にいた者として、それを自覚していただけ、現時点のヴェイグより上等だろう。無知とは罪である。
彼がプリムラのことを異様に擁護しているのは、そこから来る後悔と、その時聞こえた太陽の少女の声によるのかもしれない。
そしてまた、プリムラもマーダーであったのだ。
寧ろトーマが及ぼした影響――恐怖心が彼女をそれに駆り立たせたのも、一概に否定できないだろう。
しかし後に仲間の1人を殺したことを非常に悔やんでいるのはトーマも知っているし、謝りたいとも思っていた。
マーダーであった彼女は仲間の認可によって救済されたはずなのだ。逃げるような理由などどこにも見当たらない。
よもやこのような状況で発狂するとは――考えにくい。
だが、彼女は去っていった。まるで一刻も早く姿を消したかったかのように、仄暗い闇へと逃げ込んでいったのだ。
ヴェイグは動揺に瞳を揺らしながら、洞窟を見やる。
一時的な憎しみは永き罪を忘れさせる。直情的な心情は深層心理を上書きする。心などそんな簡単なメカニズムで作られているのだ
しかしその立場にいた者として、それを自覚していただけ、現時点のヴェイグより上等だろう。無知とは罪である。
彼がプリムラのことを異様に擁護しているのは、そこから来る後悔と、その時聞こえた太陽の少女の声によるのかもしれない。
そしてまた、プリムラもマーダーであったのだ。
寧ろトーマが及ぼした影響――恐怖心が彼女をそれに駆り立たせたのも、一概に否定できないだろう。
しかし後に仲間の1人を殺したことを非常に悔やんでいるのはトーマも知っているし、謝りたいとも思っていた。
マーダーであった彼女は仲間の認可によって救済されたはずなのだ。逃げるような理由などどこにも見当たらない。
よもやこのような状況で発狂するとは――考えにくい。
だが、彼女は去っていった。まるで一刻も早く姿を消したかったかのように、仄暗い闇へと逃げ込んでいったのだ。
ヴェイグは動揺に瞳を揺らしながら、洞窟を見やる。
一時的な憎しみは永き罪を忘れさせる。直情的な心情は深層心理を上書きする。心などそんな簡単なメカニズムで作られているのだ
。
それを失念していたヴェイグは、再度深く反省した。
それを失念していたヴェイグは、再度深く反省した。
何かが足りない。
何かが、この場に欠落している――
何かが、この場に欠落している――
「――グリッド?」
ヴェイグは辺りを見渡す。グリッドがいない。髪の毛1本の影もない。はっとして再び洞窟の方へと向く。
そうだ。漆黒の翼のリーダーたるグリッドが、逃げるプリムラをそのままにしておく筈がない。
やっとのことで会え、彼女の償いの意志を確認した彼が、それでお終いにする訳がない。
グリッドは、プリムラを追いかけていったのだ。感情に囚われ彼をしっかり見張っていなかったこともヴェイグは悔やんだ。
そうだ。漆黒の翼のリーダーたるグリッドが、逃げるプリムラをそのままにしておく筈がない。
やっとのことで会え、彼女の償いの意志を確認した彼が、それでお終いにする訳がない。
グリッドは、プリムラを追いかけていったのだ。感情に囚われ彼をしっかり見張っていなかったこともヴェイグは悔やんだ。
「まあ……大丈夫だろう。中にリオンがい」
「リオン!?」
「リオン!?」
トーマの考え込んだ唸りを彼は遮った。
「リオンが、中にいるのか!?」
ヴェイグの只ならぬ様子を見て、トーマは口ではなく、ただ失敗したと思いながら頷いて答えた。
「どういうことだ! 何故、マーダーの奴と一緒に行動している!?」
「……あいつはプリムラと一緒に来た。奴もマーダーであったが、止めたらしい」
「……あいつはプリムラと一緒に来た。奴もマーダーであったが、止めたらしい」
具体的な事実を知らないトーマは、こんな簡単で他人事な言葉でしか言いようがなかった。
事実、彼はリオンがどのような行いをしてきたかは全く知らない。当人の口から多く語られることもなかった。
それならば、どんなに共に動いていないとしても、ジューダスという特定の人物を殺す姿が想像できるヴェイグの方が
マーダーの彼を知っているだろう。
ヴェイグは二の足を踏んでいた。騙しているのはプリムラかリオンか、両方か、どちらも違うのか。
事実、彼はリオンがどのような行いをしてきたかは全く知らない。当人の口から多く語られることもなかった。
それならば、どんなに共に動いていないとしても、ジューダスという特定の人物を殺す姿が想像できるヴェイグの方が
マーダーの彼を知っているだろう。
ヴェイグは二の足を踏んでいた。騙しているのはプリムラかリオンか、両方か、どちらも違うのか。
「……くそっ!」
体を起こし、ランタンを取り出し洞窟へと駆けて行く。プリムラとグリッドは頭の隅にもないだろうが、洞窟は暗闇なのである。
そんな自分の行動に、まだ少し冷静さが残されていると安堵した。
内部はやはり真っ暗だ。ヴェイグは火を点す。天井から氷柱のように吊り下がった鍾乳石が、炎の光を受け微かに照らされている。
全くもって戦えないグリッドと、殺人容疑の男女2人が、この本来なら一寸先も見えない洞窟にいる。状況はかなり危険だ。
仮にどちらかがマーダーなら――全身に寒気が襲い掛かり、冷汗が浮かび上がる。
呼吸が荒々しくなっていることが自分でも分かった。
彼が恐れていることは、己の死ではない。グリッドの死、ひいては自分に近付いた者が死ぬという、拒絶の再発である。
信じることの難しさを再認識する。信じていればこんな焦ることもないのだ。
しかし疑念という時に正しき負の感情が、彼の足を速めさせる。砂の土台では築き上げるものはいとも容易く崩れてしまうのだ。
特に、マーダーであった人間は――
そんな自分の行動に、まだ少し冷静さが残されていると安堵した。
内部はやはり真っ暗だ。ヴェイグは火を点す。天井から氷柱のように吊り下がった鍾乳石が、炎の光を受け微かに照らされている。
全くもって戦えないグリッドと、殺人容疑の男女2人が、この本来なら一寸先も見えない洞窟にいる。状況はかなり危険だ。
仮にどちらかがマーダーなら――全身に寒気が襲い掛かり、冷汗が浮かび上がる。
呼吸が荒々しくなっていることが自分でも分かった。
彼が恐れていることは、己の死ではない。グリッドの死、ひいては自分に近付いた者が死ぬという、拒絶の再発である。
信じることの難しさを再認識する。信じていればこんな焦ることもないのだ。
しかし疑念という時に正しき負の感情が、彼の足を速めさせる。砂の土台では築き上げるものはいとも容易く崩れてしまうのだ。
特に、マーダーであった人間は――
『はいな。助けられる人、メルディ助けたかったよ』
『やってしまったことはどうしようもないけど、これからのことならなんとかなるんじゃないか?』
『お前が罪を背負ったままただ死んでも何も残りはしないが、お前が生きて他の者を助けることでできる何かはあるはずだ』
『やってしまったことはどうしようもないけど、これからのことならなんとかなるんじゃないか?』
『お前が罪を背負ったままただ死んでも何も残りはしないが、お前が生きて他の者を助けることでできる何かはあるはずだ』
信じて、やれるのだろうか。
今洞窟にいる2人は、かつての自分だ。今度は自分がロイドやメルディやジューダスになる番なのだろう。
しかし、まだその気持ちまでは至れていない。
体の震えがその証拠である。彼は自らの手が失わせることを恐れている。
命を奪うのはマーダーなのに、まるで自分が死神となり奪ったかのような錯覚に陥ることを。
それを今は、頭の本当に隅のミクロ単位の小部屋に追いやろうとする。
今必要なのは、信じることでも疑うことでもなく、グリッドが追いかけたから自分も追うという設定。
見定めるのは自分の眼と心であり、相手に対面し事実を確認してからでも、多分遅くはないだろう。遅くない。
彼は頬の汗を拭い取った。
しかし、まだその気持ちまでは至れていない。
体の震えがその証拠である。彼は自らの手が失わせることを恐れている。
命を奪うのはマーダーなのに、まるで自分が死神となり奪ったかのような錯覚に陥ることを。
それを今は、頭の本当に隅のミクロ単位の小部屋に追いやろうとする。
今必要なのは、信じることでも疑うことでもなく、グリッドが追いかけたから自分も追うという設定。
見定めるのは自分の眼と心であり、相手に対面し事実を確認してからでも、多分遅くはないだろう。遅くない。
彼は頬の汗を拭い取った。
トーマもまた、プリムラ、グリッド、そしてヴェイグを追おうとしていた。
全ては自分の失言が原因である。彼ら彼女らが改心したのは、ハロルド亡き今、恐らく自分しかいないのだ。
そんな彼の目に、嫌な青が映る。ふらふらと酒に酔っているかのような不安定な動きが、不吉さを相乗している。
彼の脳裏にあの青の光線が思い出される。
最早動きはしない右腕が疼いたような気がした。
何故か耳にタイプライター音が反響する。
死んでという少女の声が耳の奥で聞こえる。
あの時の言い様のないヤバさ。その片鱗を僅かながらに感じる。間違いない、奴だ。あいつだ。
全ては自分の失言が原因である。彼ら彼女らが改心したのは、ハロルド亡き今、恐らく自分しかいないのだ。
そんな彼の目に、嫌な青が映る。ふらふらと酒に酔っているかのような不安定な動きが、不吉さを相乗している。
彼の脳裏にあの青の光線が思い出される。
最早動きはしない右腕が疼いたような気がした。
何故か耳にタイプライター音が反響する。
死んでという少女の声が耳の奥で聞こえる。
あの時の言い様のないヤバさ。その片鱗を僅かながらに感じる。間違いない、奴だ。あいつだ。
「こんな時に……ッ!」
近くにいる? いや、戦場ではわざわざ自分がいるような証明はしない。
それを明かすということは、いや明かさざるを得ないということは、これはつまり偵察だ。
分かれば話は早い。トーマもまた、暗闇の洞窟へと走っていった。
逆に彼は明かりを点けなかった。もし追って来るのなら暗闇の方が断然撒きやすい。それに、ヒューマよりは視力は優れている。
トリのガジュマなら話は別だが。奴らはどちらかと言うと夜は苦手な方らしい。
願わくば、あの忌まわしい蝶が入り込んでこないことを、神でない何かに祈った。彼は信心深くないのだ。
メルネスやら海の意志やら、そんな宗教めいたものは信じないのだ。
それを明かすということは、いや明かさざるを得ないということは、これはつまり偵察だ。
分かれば話は早い。トーマもまた、暗闇の洞窟へと走っていった。
逆に彼は明かりを点けなかった。もし追って来るのなら暗闇の方が断然撒きやすい。それに、ヒューマよりは視力は優れている。
トリのガジュマなら話は別だが。奴らはどちらかと言うと夜は苦手な方らしい。
願わくば、あの忌まわしい蝶が入り込んでこないことを、神でない何かに祈った。彼は信心深くないのだ。
メルネスやら海の意志やら、そんな宗教めいたものは信じないのだ。
暗中を走るプリムラは、溢れ出る涙を右手で押さえながら、何故逃げてしまったのか思案した。
分からない。何故今洞窟を走っているのかも分からない。
ひょっとしてここは洞窟の中ではなく、せめぎ合う自分の混濁した心の中ではないかと彼女は考えた。
どちらにせよ出口も光も見えてこない。五里霧中ならぬ五里暗中の中を、彼女はひたすら走っていた。
違う、と彼女は思った。光を探して走っているのではない。光から逃げているのだ。
普通を失った者にとって、普通というものはあまりに眩し過ぎて届かない存在なのである。
分からない。何故今洞窟を走っているのかも分からない。
ひょっとしてここは洞窟の中ではなく、せめぎ合う自分の混濁した心の中ではないかと彼女は考えた。
どちらにせよ出口も光も見えてこない。五里霧中ならぬ五里暗中の中を、彼女はひたすら走っていた。
違う、と彼女は思った。光を探して走っているのではない。光から逃げているのだ。
普通を失った者にとって、普通というものはあまりに眩し過ぎて届かない存在なのである。
(ごめんなさい、グリッド……
私、嬉しかった……許してもらえて、嬉しかった。
でも……どうしてそんな笑ってくれるの? どうしていつも通り接してくれるの?
どうして? どうして? どうして!?)
私、嬉しかった……許してもらえて、嬉しかった。
でも……どうしてそんな笑ってくれるの? どうしていつも通り接してくれるの?
どうして? どうして? どうして!?)
何故なら、それは最早取り戻せぬ「幸せ」の形だからである。
(――私は、マーダーだったのに!!!)
彼女は、普通のままのグリッドを恐れたのだ。
『結局の所、私が許そうが許すまいが、彼女が自分を許せなければ意味がないの』
こんなことを言った天才科学者がいる。
『そしてそれを促せる外的要因は1つしかないわ』
彼女はその外的要因すら、自らの手で突き飛ばした。
彼女は自分を許すことは出来ない。手が首に食い込む感覚を、彼女は忘れない。
その外的要因はしつこいだろうが、それが彼女の心の鍵となるか、錠となるかはどこの誰にも分からないのだ。
彼は無自覚であり、許すのは自分自身なのであり、そして彼女は己の気持ちすら分かっていないからである。
彼女は自分を許すことは出来ない。手が首に食い込む感覚を、彼女は忘れない。
その外的要因はしつこいだろうが、それが彼女の心の鍵となるか、錠となるかはどこの誰にも分からないのだ。
彼は無自覚であり、許すのは自分自身なのであり、そして彼女は己の気持ちすら分かっていないからである。
それでも彼は言うのだろう。「お前は漆黒の翼の一員だ」、と。
無知とは罪である。
無知とは罪である。
【トーマ 生存確認】
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 軽い火傷 TP残り70% 決意 中度失血
所持品:イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり)
ジェットブーツ, 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明)
基本行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
第一行動方針:テルクェスを避けるのを兼ね、プリムラを追う
第二行動方針:漆黒を生かす
第三行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
現在位置:G3洞窟裏口付近
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 軽い火傷 TP残り70% 決意 中度失血
所持品:イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり)
ジェットブーツ, 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明)
基本行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
第一行動方針:テルクェスを避けるのを兼ね、プリムラを追う
第二行動方針:漆黒を生かす
第三行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
現在位置:G3洞窟裏口付近
【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:右ふくらはぎに銃創・出血(止血処置済み)切り傷多数(応急処置済み)
再出発への決意 体力消耗(中) グリッドへの恐れ
所持品:なし(ヴェイグが所持)
基本行動方針:主催をぶっ飛ばす
第一行動方針:逃げる
第二行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
第三行動方針:グリッドとヴェイグに謝る?
現在地:G3洞窟裏口内
状態:右ふくらはぎに銃創・出血(止血処置済み)切り傷多数(応急処置済み)
再出発への決意 体力消耗(中) グリッドへの恐れ
所持品:なし(ヴェイグが所持)
基本行動方針:主催をぶっ飛ばす
第一行動方針:逃げる
第二行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
第三行動方針:グリッドとヴェイグに謝る?
現在地:G3洞窟裏口内
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP40% TP50% シャオルーンの力を使用可能 他人の死への拒絶
所持品:チンクエディア ミトスの手紙 (ユアンのサック所持)
プリムラの荷物(ソーサラーリング、ナイトメアブーツ ミスティブルーム、ロープ数本
ウィングパック(食料が色々入っている) 金のフライパン
C・ケイジ スティレット グミセット(パイン、ミラクル) 首輪 )
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:グリッドとプリムラを追う
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:G3洞窟裏口内
状態:HP40% TP50% シャオルーンの力を使用可能 他人の死への拒絶
所持品:チンクエディア ミトスの手紙 (ユアンのサック所持)
プリムラの荷物(ソーサラーリング、ナイトメアブーツ ミスティブルーム、ロープ数本
ウィングパック(食料が色々入っている) 金のフライパン
C・ケイジ スティレット グミセット(パイン、ミラクル) 首輪 )
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:グリッドとプリムラを追う
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:G3洞窟裏口内
【グリッド 生存確認】
状態:不屈の正義感 ロイドの作るアイテムにwktk
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:プリムラを追う
第二行動方針:再度プリムラを説得する(出来ないなら拉致)
第三行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第四行動方針:マーダー排除に協力する
現在位置:G3洞窟裏口内
状態:不屈の正義感 ロイドの作るアイテムにwktk
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:プリムラを追う
第二行動方針:再度プリムラを説得する(出来ないなら拉致)
第三行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第四行動方針:マーダー排除に協力する
現在位置:G3洞窟裏口内