支度の完了
殺風景な空と無機質な粘性を帯びた海。モノクロームな空間で2人の女性が居た。
女は云う。
どうして、目を閉じているの?
少女は答えた。
見たくないから。
どうして、耳を塞いでいるの?
聞きたくないから。
波紋が縦に拡散する。美しい正弦波を象っていた。
要らないなら、その目を頂戴。
どうぞ。
使わないなら、その耳を頂戴。
はい。
なら、全部、一切合切全部を頂戴。
いいですよ。
複数の波紋が、互いに揺らぎながら空間を揺らしていく。
全部要らないなら、貴方は何のために生きてるの?
待って居るんです。
1人殺して、そしてまた1人見殺しにしようとしているのに?
ええ、本当は、逃げ出したい。でも、私は待たなきゃいけないんです。だって
神性を剥奪された神子、即ち巫女をなんて云うか知ってる?―――――――――――貴方は唯の端女よ。
私はお姫様にはもう成れないけど、王子様が帰る場所が無くなっちゃう。
少女は泡となって霧散していく。そうなのだろうか。
女は揺らがない。
女は揺らがない。
揺らいでなるものか。女は力を手に入れた。
女は女であることを捨てたかった。絶対的な力の前には女も男もないから、暴力的なまでの力に縋った。
女は女であることを捨てたかった。絶対的な力の前には女も男もないから、暴力的なまでの力に縋った。
女は云った。増幅された振幅と相殺する。女を結ぶ像がぐにゃりと歪んだ。
「駆けつけてくれる王子様が居るだけ、貴方はマシよ。私の下には来なかった」
小春日和のような暖かさ、晴れ晴れとした蒼天。
長閑な村に、絶叫が響き渡った。
錯乱しているようにも聞こえる。しかし、たった1つの単語だけが明確な意志を載せて響いていた。
長閑な村に、絶叫が響き渡った。
錯乱しているようにも聞こえる。しかし、たった1つの単語だけが明確な意志を載せて響いていた。
クレスさん。Cless. クレス。拉げた悲鳴の中で叫ばれる声。
まったく、忌々しいにも程がある。
手水場のミトスは洗った顔を上げて、自分の表情を見ようとした。
しかし。鏡が無いことに気付く。ああ、全部配置済みか。
たいした問題ではないと認識した。どうせ酷い貌をしているに決まっている。
濡らした指で耳の穴を穿ってみる。
あの声が鼓膜に残響しているのは拡声器に依って増幅された音量だけが原因だと、ミトスは信じたがっていた。
手水場のミトスは洗った顔を上げて、自分の表情を見ようとした。
しかし。鏡が無いことに気付く。ああ、全部配置済みか。
たいした問題ではないと認識した。どうせ酷い貌をしているに決まっている。
濡らした指で耳の穴を穿ってみる。
あの声が鼓膜に残響しているのは拡声器に依って増幅された音量だけが原因だと、ミトスは信じたがっていた。
「マスタ」
ミトスは後ろを向いた。目の前にはコレットのからだが有った。
「状況報告」
「既ニサイレンスを展開シテいた家屋は破壊済みでス。羽再しタ山GUYは跡血に一纏めにしてありマス」
「…その声何とかならないのか?ああ、こっちでいい」
ミトスは自分の輝石を指で二回叩いた。どこぞの木偶を思い出して更に気分が悪くなったのを面に出さないようにするので限界だった。
『はい、マスタ。残念ながら元の素体の発声機構が機能していない為これが限界です』
「…続きを、ああ、もう一度最初から」
『既にサイレンスを展開していた家屋は破壊済みです。破砕した残骸は跡地に一纏めにしてあります。
残った家々から箪笥、テーブルetcの大型の家財を鐘楼台一階、二階の入り口内側に集めて置きました。
命令あり次第直ぐにでもバリケード作成にかかれます。
後はご命令通り、焼け跡にあった植物の残骸を手に入れましたが?』
「ご苦労。植物の残骸を置き、ミントを連れて二階に向かえ。置いたらバリケード作成を始めろ。一階を優先…ミントの状態は?」
『その前に1ついいですか?』
「許可する」
『この後の具体的な行動内容に関して、以降も指示は無いのでしょうか』
そこで漸くミトスは気付いた。今まで行動そのものの指示は山ほど与えたが、具体的な意図をまだ伝えていない。
ミトスはくくくと喉で笑った。何とも脳内が麻痺している。
「いや、お前を個別に使う以上は知っておいて貰わなければならない。向こうで伝える」
ミトスは顎で本来の報告を促した。さて、此奴には何と云おうか。考えなければならない。
『口内、体外の失血は外科的な応急処置で収まりました。エクスフィアに関してはおそらく』
「お前の推量はいい。了解した。現状の精神状況」
ミトスは訝しんだ。治癒晶術に特化したアトワイトが外科処置と云うことは、成程。陣容の変更は急務だ。
『現在、意識支配は極めて順調です。ステージからの排除確認後、素体の意志の存在は確認されておりません』
「つまりは消滅していないわけだ」
ミトスは羊皮紙を取り出す。
『はい。申し訳ありません。ですが』
「踏み込み過ぎて、自分が消えそうになった?」
ミトスはペンを取り出して頭を掻いた。
『はい。残念ながらマスタが提案なさった手法は、浸食効率が極めて高いですが』
アトワイトの言葉を手で遮った。書く文面に少し悩んだ。
「分かってるよ。逆に喰われる、っていうか溶けるだろうなという予感はしていた。
それに関しても後で説明・対処する。で、コレットの戦力確認」
『素体コレットの肉体、無機化による超視覚と聴覚。これはそのまま運用できます。
特技は…専用武器が要らない物に関しては問題ありません。
ただ、術は不可能です。コアからソーディアンが乖離した以上晶術の運用は出来ませんし、
天使術が使用可能な段階までの浸食には未だ時間がかかります。実際的な運用は無理でしょう』
ミトスはコレットの姿をしたアトワイトの報告に多少の満足を覚えた。
内容にでは無く、要点を掴んでいる辺りに好感を持った。
少なくとも中に溜まった黒い暴力的なモノは鳴りを潜めたのを感じたのだった。
ミトスは後ろを向いた。目の前にはコレットのからだが有った。
「状況報告」
「既ニサイレンスを展開シテいた家屋は破壊済みでス。羽再しタ山GUYは跡血に一纏めにしてありマス」
「…その声何とかならないのか?ああ、こっちでいい」
ミトスは自分の輝石を指で二回叩いた。どこぞの木偶を思い出して更に気分が悪くなったのを面に出さないようにするので限界だった。
『はい、マスタ。残念ながら元の素体の発声機構が機能していない為これが限界です』
「…続きを、ああ、もう一度最初から」
『既にサイレンスを展開していた家屋は破壊済みです。破砕した残骸は跡地に一纏めにしてあります。
残った家々から箪笥、テーブルetcの大型の家財を鐘楼台一階、二階の入り口内側に集めて置きました。
命令あり次第直ぐにでもバリケード作成にかかれます。
後はご命令通り、焼け跡にあった植物の残骸を手に入れましたが?』
「ご苦労。植物の残骸を置き、ミントを連れて二階に向かえ。置いたらバリケード作成を始めろ。一階を優先…ミントの状態は?」
『その前に1ついいですか?』
「許可する」
『この後の具体的な行動内容に関して、以降も指示は無いのでしょうか』
そこで漸くミトスは気付いた。今まで行動そのものの指示は山ほど与えたが、具体的な意図をまだ伝えていない。
ミトスはくくくと喉で笑った。何とも脳内が麻痺している。
「いや、お前を個別に使う以上は知っておいて貰わなければならない。向こうで伝える」
ミトスは顎で本来の報告を促した。さて、此奴には何と云おうか。考えなければならない。
『口内、体外の失血は外科的な応急処置で収まりました。エクスフィアに関してはおそらく』
「お前の推量はいい。了解した。現状の精神状況」
ミトスは訝しんだ。治癒晶術に特化したアトワイトが外科処置と云うことは、成程。陣容の変更は急務だ。
『現在、意識支配は極めて順調です。ステージからの排除確認後、素体の意志の存在は確認されておりません』
「つまりは消滅していないわけだ」
ミトスは羊皮紙を取り出す。
『はい。申し訳ありません。ですが』
「踏み込み過ぎて、自分が消えそうになった?」
ミトスはペンを取り出して頭を掻いた。
『はい。残念ながらマスタが提案なさった手法は、浸食効率が極めて高いですが』
アトワイトの言葉を手で遮った。書く文面に少し悩んだ。
「分かってるよ。逆に喰われる、っていうか溶けるだろうなという予感はしていた。
それに関しても後で説明・対処する。で、コレットの戦力確認」
『素体コレットの肉体、無機化による超視覚と聴覚。これはそのまま運用できます。
特技は…専用武器が要らない物に関しては問題ありません。
ただ、術は不可能です。コアからソーディアンが乖離した以上晶術の運用は出来ませんし、
天使術が使用可能な段階までの浸食には未だ時間がかかります。実際的な運用は無理でしょう』
ミトスはコレットの姿をしたアトワイトの報告に多少の満足を覚えた。
内容にでは無く、要点を掴んでいる辺りに好感を持った。
少なくとも中に溜まった黒い暴力的なモノは鳴りを潜めたのを感じたのだった。
次の行動の為動いたアトワイトを見送り、結局適当に悪意を散らした手紙を地面に置いた。
重しとして、植物の残骸を使う。ミトスはこれに覚えがあったから、これを火種とすることを決めた。
コレットの膂力によって適度に粉砕された家屋の中に残りの植物を贅沢に入れた。
ミトスは低級の魔術で火種に着火した。
酸素濃度を操らなくても、燃やすだけならこれで十二分だった。
重しとして、植物の残骸を使う。ミトスはこれに覚えがあったから、これを火種とすることを決めた。
コレットの膂力によって適度に粉砕された家屋の中に残りの植物を贅沢に入れた。
ミトスは低級の魔術で火種に着火した。
酸素濃度を操らなくても、燃やすだけならこれで十二分だった。
鼻歌でも歌いたい、そんな高揚感があった。
クレスの名を賢明に呼んでくれたのなら、それも使わねば勿体ない。それだけの浅ましさだった。
クレスの名を賢明に呼んでくれたのなら、それも使わねば勿体ない。それだけの浅ましさだった。
この村で一番の高さを誇る鐘楼の構造は比較的簡単だ。
5,6m四方のこぢんまりした、高さだけは四方よりほんの少しだけ長い簡素な部屋が階段で3つ縦に連結しており、
三階の屋根には大鐘がその偉容を誇示していた。
成人男性が寄りかかるのに適した高さより上は屋根を支える四方の柱しかない、実質的な屋上だった。
三階の床には、黒い血が死、それ以外の全ての規則性を捨ててこびり付いていた。
5,6m四方のこぢんまりした、高さだけは四方よりほんの少しだけ長い簡素な部屋が階段で3つ縦に連結しており、
三階の屋根には大鐘がその偉容を誇示していた。
成人男性が寄りかかるのに適した高さより上は屋根を支える四方の柱しかない、実質的な屋上だった。
三階の床には、黒い血が死、それ以外の全ての規則性を捨ててこびり付いていた。
一階の入り口、唯一の進入口は既にベッドやら食器棚やらが大挙して積まれている。
一階、二階の階段以外の壁から1m以内も同様だった。一階のバリケードに支えられる形で、二階が重みに耐えていた。
一階、二階の階段以外の壁から1m以内も同様だった。一階のバリケードに支えられる形で、二階が重みに耐えていた。
三階の手摺から、ミトスは遠くの山がくっきり見えたのを嬉しがる子供のようにもうもうと煙を上げる嘗ての拠点を眺めた。
「ほ~~良く燃えてる。まるで煉獄」
ユグドラシルのような男性的な笑みを浮かべていた。
ミントの舌を切ってから30分、丁度正午。手際としては悪くない。
これほど良く燃えるならさぞ僕たちを焼くのは容易かっただろうな。ティトレイめ、あの男。
用が済んだらお前にも返礼はしてやる。それまで精々クレスを守ってろ。
「ほ~~良く燃えてる。まるで煉獄」
ユグドラシルのような男性的な笑みを浮かべていた。
ミントの舌を切ってから30分、丁度正午。手際としては悪くない。
これほど良く燃えるならさぞ僕たちを焼くのは容易かっただろうな。ティトレイめ、あの男。
用が済んだらお前にも返礼はしてやる。それまで精々クレスを守ってろ。
『マスタ』
ミトスは彼女の言葉にはっとした。そう言えば説明すると云ったのだった。
「聞きたいことから聞いてみろ」
『何故あの家を焼いたのですか?』
「ミントが散々、クレスの名前を連呼したからな。拡声器からの声を聞いて暫くしてから同じ方向から煙が上がった。
さて何を思い浮かべる?」
『罠の可能性が有りますが、戦闘が始まったと推測します』
「そう。しかも、昨日を思い出すだろうな」
昨日の光景を既視感として叩き込む。最低で擾乱、最高でクレスがC3に入ったと思わせることができる。
燃やしておくのは悪くない。ミトスはそう思っていた。
『罠の敷設をもっと重点的に行う必要が有ったのではないですか?』
「使える魔力には限界があるし擾乱以上の効果は期待していない。戦略的な意味がないからな。
人質を取って、城に来いと魔王が云った。お前は丸腰で来るか?」
『はい。罠・危険の可能性を考慮します』
「拠点を使って、市街戦を仕掛ける以上、奇襲・罠は実害以上の効果が殆ど無い。
例え引っかかったとしても、それ以上の効果は期待できない。第一、英雄は罠には引っかからないって特性がある」
向こうだって甘くはあっても馬鹿ではない。来る以上は罠の可能性は想定してくるだろうから、
心理的な圧迫感が無い。‘やっぱりあった罠’なんて誰も恐れない。
しかも、此方は向こうの英雄としての立場を組んで計画を立てている。
罠なんかでは絶対死なない。ミトスにとってそれは経験則だった。
だからこれで期待するべきは、敵の注意が地面に向くことだろう。鐘楼から目を逸らすことが出来ればそれでいい。
ミトスは彼女の言葉にはっとした。そう言えば説明すると云ったのだった。
「聞きたいことから聞いてみろ」
『何故あの家を焼いたのですか?』
「ミントが散々、クレスの名前を連呼したからな。拡声器からの声を聞いて暫くしてから同じ方向から煙が上がった。
さて何を思い浮かべる?」
『罠の可能性が有りますが、戦闘が始まったと推測します』
「そう。しかも、昨日を思い出すだろうな」
昨日の光景を既視感として叩き込む。最低で擾乱、最高でクレスがC3に入ったと思わせることができる。
燃やしておくのは悪くない。ミトスはそう思っていた。
『罠の敷設をもっと重点的に行う必要が有ったのではないですか?』
「使える魔力には限界があるし擾乱以上の効果は期待していない。戦略的な意味がないからな。
人質を取って、城に来いと魔王が云った。お前は丸腰で来るか?」
『はい。罠・危険の可能性を考慮します』
「拠点を使って、市街戦を仕掛ける以上、奇襲・罠は実害以上の効果が殆ど無い。
例え引っかかったとしても、それ以上の効果は期待できない。第一、英雄は罠には引っかからないって特性がある」
向こうだって甘くはあっても馬鹿ではない。来る以上は罠の可能性は想定してくるだろうから、
心理的な圧迫感が無い。‘やっぱりあった罠’なんて誰も恐れない。
しかも、此方は向こうの英雄としての立場を組んで計画を立てている。
罠なんかでは絶対死なない。ミトスにとってそれは経験則だった。
だからこれで期待するべきは、敵の注意が地面に向くことだろう。鐘楼から目を逸らすことが出来ればそれでいい。
『何故、私の案を別の手法でコレットに憑依させたのですか?』
今までの問いとは異なり、少しだけ感情が籠もっていたような気がした。
「理由は2つある。まずはコアクリスタルをエクスフィアと見立てて、
‘エクスフィアによる精神支配ができるかどうか’を確かめたかった」
ミトスもその気になれば、輝石単体で誰かに寄生する事ができる。
しかし、自分がもし参加者の能力を把握していたなら輝石による精神支配など許すか?
許さない。それが可能なら、天使の連中は全員参加者を移り歩いて優勝者に憑依すればいいからだ。
「結果はお前が体験した通り、深入りすれば即意識消滅だ。
そもそもコレットのような特殊な献体でもなければ、制限下のこの空間で輝石憑依が出来るとは端から思っていないが」
(今の彼は)試したことは無いが、強靱な精神相手では憑依すれば此方が保たない。
元の世界ですらそうなのだから、特殊な制限のかかったここでは憑依すら出来ないだろう。
アトワイトにやらせたように、コレットのような生きながら死んでいるような抜け殻を使うか、
抵抗が限りなく0になる程に献体と輝石が完全な同調をするかでもしない限りは。
まあ仮に出来たとて、10分保てば奇跡といった所だろうし戦略としても戦術としても使い物にならない。
まあ人は分かり合えないのだから後者は有り得ない。前者の手段を取れただけ幸運と言える。
『では私は使い捨てですか?』
「拗ねるなよ。でもお前が提唱した案、ミクトランが行ったという
ソーディアンを介しての精神支配…これでは少々時間が掛かりすぎる。これがもう一つの理由だ」
ミクトランがS・ベルセリオスを介して、ヒューゴ・ジルクリフトを操った手法。
これがアトワイトの提唱した案であった。しかし、ミクトランが彼の洗脳にかけた時間は莫大である。
幾らコレットが実質的な抜け殻とはいえ同じ手法を踏襲する時間がない。
ミトスが取ったのは、2つの併用法だ。
今までの問いとは異なり、少しだけ感情が籠もっていたような気がした。
「理由は2つある。まずはコアクリスタルをエクスフィアと見立てて、
‘エクスフィアによる精神支配ができるかどうか’を確かめたかった」
ミトスもその気になれば、輝石単体で誰かに寄生する事ができる。
しかし、自分がもし参加者の能力を把握していたなら輝石による精神支配など許すか?
許さない。それが可能なら、天使の連中は全員参加者を移り歩いて優勝者に憑依すればいいからだ。
「結果はお前が体験した通り、深入りすれば即意識消滅だ。
そもそもコレットのような特殊な献体でもなければ、制限下のこの空間で輝石憑依が出来るとは端から思っていないが」
(今の彼は)試したことは無いが、強靱な精神相手では憑依すれば此方が保たない。
元の世界ですらそうなのだから、特殊な制限のかかったここでは憑依すら出来ないだろう。
アトワイトにやらせたように、コレットのような生きながら死んでいるような抜け殻を使うか、
抵抗が限りなく0になる程に献体と輝石が完全な同調をするかでもしない限りは。
まあ仮に出来たとて、10分保てば奇跡といった所だろうし戦略としても戦術としても使い物にならない。
まあ人は分かり合えないのだから後者は有り得ない。前者の手段を取れただけ幸運と言える。
『では私は使い捨てですか?』
「拗ねるなよ。でもお前が提唱した案、ミクトランが行ったという
ソーディアンを介しての精神支配…これでは少々時間が掛かりすぎる。これがもう一つの理由だ」
ミクトランがS・ベルセリオスを介して、ヒューゴ・ジルクリフトを操った手法。
これがアトワイトの提唱した案であった。しかし、ミクトランが彼の洗脳にかけた時間は莫大である。
幾らコレットが実質的な抜け殻とはいえ同じ手法を踏襲する時間がない。
ミトスが取ったのは、2つの併用法だ。
「大体だな」
ミトスはコレットの輝石に手を付けた。コアクリスタルの方が大きいため、輝石に入り込んだというよりは
輝石が入り込んだコアがコレットに接合しているという、少々間の抜けたバランスのアクセサリになっていた。
「こんな変な輝石ぶらさげてたら騙せる物も騙せない」
まるでこうなった原因は胸のコアのせいです。取ってください、と言っている様なものだ。
音もなく、再び輝石とコアが乖離した、素早くミトスはコアを元の鞘に収め、コレットの左手にソーディアンを握らせる。
「このまま、ソーディアンの同調を利用しじっくりと絞っていけ」
エクスフィアとしての運用による強制的な支配で一気に器の精神を蹴散らし、
確実な運用を期待できるレベルまで支配してからソーディアンとしての運用に切り替えて不安要素を無くす。
ミントに関わらない限りは、彼の知性は一定の能力を発揮していた。
「運用、それと晶術の使用は?」
『はい。晶術含め運用はそのまま可能です。但し、エクスフィアを失ったためこの素体では暫く上級晶術は使用が出来ません。
それに、あの立案はエクスフィアによる強化を前提としていましたので』
ミトスは静かに舌打ちをし、分かったと云って発言を遮った。そう言えば自分も最初はそうだったか。
ミトス本人はもうエクスフィアに頼る必要が無い程度には晶術の扱いに練達したし、
アトワイトの忠誠はほぼ疑いのない所まで来ている為必要が無い、そう高を括っていたツケだった。
しかし困った。
アトワイトに晶術の支援を任せるつもりだったが上級術が使えなければ少々不安が残る。
ミトスがアトワイトを独立させて運用する手段を選んだのは、ロイドに対する奇襲も無論だが、
何よりも戦闘においての利を得る為だ。
コレットが天使化した情報は予定通り伝わっているだろうから、正気に戻った振りも一度は通じるだろう。
だが、ミトスは楽観はしていない。良くて先制を取れれば儲け物と云ったところだ。(これは罠に関してと同じ理由に基づいている)
ロイド本人は信じても、最悪此方の手を読み切られた場合。アトワイトとマーテルの器を両方奪われる可能性もあるのだ。
ロイドはスペアの時空剣士としての人柱でもあるし、この虚撃はあまり旨味がない。
ミトスはコレットの輝石に手を付けた。コアクリスタルの方が大きいため、輝石に入り込んだというよりは
輝石が入り込んだコアがコレットに接合しているという、少々間の抜けたバランスのアクセサリになっていた。
「こんな変な輝石ぶらさげてたら騙せる物も騙せない」
まるでこうなった原因は胸のコアのせいです。取ってください、と言っている様なものだ。
音もなく、再び輝石とコアが乖離した、素早くミトスはコアを元の鞘に収め、コレットの左手にソーディアンを握らせる。
「このまま、ソーディアンの同調を利用しじっくりと絞っていけ」
エクスフィアとしての運用による強制的な支配で一気に器の精神を蹴散らし、
確実な運用を期待できるレベルまで支配してからソーディアンとしての運用に切り替えて不安要素を無くす。
ミントに関わらない限りは、彼の知性は一定の能力を発揮していた。
「運用、それと晶術の使用は?」
『はい。晶術含め運用はそのまま可能です。但し、エクスフィアを失ったためこの素体では暫く上級晶術は使用が出来ません。
それに、あの立案はエクスフィアによる強化を前提としていましたので』
ミトスは静かに舌打ちをし、分かったと云って発言を遮った。そう言えば自分も最初はそうだったか。
ミトス本人はもうエクスフィアに頼る必要が無い程度には晶術の扱いに練達したし、
アトワイトの忠誠はほぼ疑いのない所まで来ている為必要が無い、そう高を括っていたツケだった。
しかし困った。
アトワイトに晶術の支援を任せるつもりだったが上級術が使えなければ少々不安が残る。
ミトスがアトワイトを独立させて運用する手段を選んだのは、ロイドに対する奇襲も無論だが、
何よりも戦闘においての利を得る為だ。
コレットが天使化した情報は予定通り伝わっているだろうから、正気に戻った振りも一度は通じるだろう。
だが、ミトスは楽観はしていない。良くて先制を取れれば儲け物と云ったところだ。(これは罠に関してと同じ理由に基づいている)
ロイド本人は信じても、最悪此方の手を読み切られた場合。アトワイトとマーテルの器を両方奪われる可能性もあるのだ。
ロイドはスペアの時空剣士としての人柱でもあるし、この虚撃はあまり旨味がない。
余程の好機でもなければリスクばかりが目立つ浸透突破よりは、コレットが敵対する事による戦意低下を狙った方が確実だ。
クラトスに聞いたと云っても。子供がいると云うことしか知らない。
まあ交渉次第では上手く事を運べるかも知れない。戦闘は最後の最後まで厳禁だ。
今のミトスに己の趣味を満たす余裕は無い。趣味に走るのは姉が還ってきた後にすると決めていた。
「戦闘に入った場合、お前は後方支援を任せる。いいか、お前も、その体も後々必要になってくる。
無駄遣いはこれを厳に禁ずる。詠唱以外は喋るな。タバサのような腐った発音では露見が早まる」
『Yes,Sir』
クラトスに聞いたと云っても。子供がいると云うことしか知らない。
まあ交渉次第では上手く事を運べるかも知れない。戦闘は最後の最後まで厳禁だ。
今のミトスに己の趣味を満たす余裕は無い。趣味に走るのは姉が還ってきた後にすると決めていた。
「戦闘に入った場合、お前は後方支援を任せる。いいか、お前も、その体も後々必要になってくる。
無駄遣いはこれを厳に禁ずる。詠唱以外は喋るな。タバサのような腐った発音では露見が早まる」
『Yes,Sir』
さて、問題はエクスフィアか。ミトスは横目で厭そうに横たわるミントを見た。
オリジナルが軍医であるアトワイトの治療は極めて適切で、術による治癒以外で凡そ考えられる最上の処置になっている。
ミトスはため息を付いた。付いてから、それが何の感情から出た物であるかを考えるのを止める為、必死にカードの配置を考えた。
コレットと違い、ミントはもう使い捨てて構わない。
だからエクスフィギュアに仕立ててけしかけるのは非常に効果的な戦術のように思える。リスクが殆ど無いからだ。
しかし、効果に関しては少々疑問が残る。なにか忘れているような気がする。マーテルと彼奴の顔が重なった。
吐き気を感じながら理屈を捏造する。
まず、シャーリィが出現したら、効果が無くなってしまう。何と云っても凶悪さではマシンガンや鋭剣を吸収し
独自の進化を遂げた奴の方が上だ。これも心理的効果が薄い。
エクスフィギュアがミントであることが簡単に連想できては騙し討ちも何もない。
しかしそれよりもっと深刻な問題が有ったような気がする。何だったか、ええい。
兎も角問題はエクスフィアだ。今から取ってしまおうか、駄目だ。もうバリケードは組んでしまった。
この際エクスフィギュアは諦めるか?もうエクスフィアは付けてしまった。
なあに、此方にはアトワイトがいるから……
オリジナルが軍医であるアトワイトの治療は極めて適切で、術による治癒以外で凡そ考えられる最上の処置になっている。
ミトスはため息を付いた。付いてから、それが何の感情から出た物であるかを考えるのを止める為、必死にカードの配置を考えた。
コレットと違い、ミントはもう使い捨てて構わない。
だからエクスフィギュアに仕立ててけしかけるのは非常に効果的な戦術のように思える。リスクが殆ど無いからだ。
しかし、効果に関しては少々疑問が残る。なにか忘れているような気がする。マーテルと彼奴の顔が重なった。
吐き気を感じながら理屈を捏造する。
まず、シャーリィが出現したら、効果が無くなってしまう。何と云っても凶悪さではマシンガンや鋭剣を吸収し
独自の進化を遂げた奴の方が上だ。これも心理的効果が薄い。
エクスフィギュアがミントであることが簡単に連想できては騙し討ちも何もない。
しかしそれよりもっと深刻な問題が有ったような気がする。何だったか、ええい。
兎も角問題はエクスフィアだ。今から取ってしまおうか、駄目だ。もうバリケードは組んでしまった。
この際エクスフィギュアは諦めるか?もうエクスフィアは付けてしまった。
なあに、此方にはアトワイトがいるから……
ミトスは血の気が引く思いがした。駄目だ。意味がない。
ミトスはつかつかと歩き、ミントの顎を持ち上げた。
『何を?』
アトワイトは訝しんだ。
質問には答えず、傷だらけになって尚艶めかしいうなじを見るように、首の後ろのエクスフィアを見据えた。
躊躇いもなく、それを外す。
『マスタ』
ミトスは不機嫌極まりない凶相で、アトワイトを奪い再びそのコアにエクスフィアを埋め込んだ。
畜生、矢張り無茶な合成も限界だな。また天使術が使えなくなっては堪らない。
ミントの体が泡立つように変色していく。体がびくりと震える。
『マスタ。排除します』
「不要だ。晶術準備、目標化物。使用術は」
意図が分からぬまま、アトワイトは言われたとおりに呪文を準備する。
服が伸縮率の限界に到達していた。化け物が、再び誕生を
コレットの手にあったアトワイトが呪文を放つ。
ミントを辞めようとしていた生き物が、時間が逆行するように収縮していく。
光の先には、ミントが何一つ変わらぬままそこにあった。
「レイズデッド……ボルトマン術書、か。再生の儀式をやったならアレを見ている可能性大だな」
『蘇生術が有効だったのですか。早く気付くべきでした』
「非は僕にある。あの時点でこのことを知っていたのは僕だけだ。もっと早く気付いていたらな」
ミトスは悪態をついた。あの時点でシャーリィを倒せたと云う後悔と、それで救えたかも知れない命への懺悔が混濁した表情だった。
どうしてこんな簡単なことにも気付かなかったのか。
となると、クレス相手なら兎も角、ロイド達にはまったく意味がない。対処法があるのだ。
今回は完全に変態の出会い頭を狙って撃ったからレイズデッド一発で済んだが、
連発すればどんなフィギュアも直せるだろう。これでは絶望を与えられない。
寧ろ希望を与える公算大だ。愉しくない。全然愉しくない。
『マスタ。彼女のバイタルが安定しません』
ミトスは知ったことかと云わんばかりに発言を黙殺しようとしたが、
レイズデッドによる治癒が不完全で、後で予期せぬタイミングでフィギュア化というのも詰まらないと思い直した。
ミトスはつかつかと歩き、ミントの顎を持ち上げた。
『何を?』
アトワイトは訝しんだ。
質問には答えず、傷だらけになって尚艶めかしいうなじを見るように、首の後ろのエクスフィアを見据えた。
躊躇いもなく、それを外す。
『マスタ』
ミトスは不機嫌極まりない凶相で、アトワイトを奪い再びそのコアにエクスフィアを埋め込んだ。
畜生、矢張り無茶な合成も限界だな。また天使術が使えなくなっては堪らない。
ミントの体が泡立つように変色していく。体がびくりと震える。
『マスタ。排除します』
「不要だ。晶術準備、目標化物。使用術は」
意図が分からぬまま、アトワイトは言われたとおりに呪文を準備する。
服が伸縮率の限界に到達していた。化け物が、再び誕生を
コレットの手にあったアトワイトが呪文を放つ。
ミントを辞めようとしていた生き物が、時間が逆行するように収縮していく。
光の先には、ミントが何一つ変わらぬままそこにあった。
「レイズデッド……ボルトマン術書、か。再生の儀式をやったならアレを見ている可能性大だな」
『蘇生術が有効だったのですか。早く気付くべきでした』
「非は僕にある。あの時点でこのことを知っていたのは僕だけだ。もっと早く気付いていたらな」
ミトスは悪態をついた。あの時点でシャーリィを倒せたと云う後悔と、それで救えたかも知れない命への懺悔が混濁した表情だった。
どうしてこんな簡単なことにも気付かなかったのか。
となると、クレス相手なら兎も角、ロイド達にはまったく意味がない。対処法があるのだ。
今回は完全に変態の出会い頭を狙って撃ったからレイズデッド一発で済んだが、
連発すればどんなフィギュアも直せるだろう。これでは絶望を与えられない。
寧ろ希望を与える公算大だ。愉しくない。全然愉しくない。
『マスタ。彼女のバイタルが安定しません』
ミトスは知ったことかと云わんばかりに発言を黙殺しようとしたが、
レイズデッドによる治癒が不完全で、後で予期せぬタイミングでフィギュア化というのも詰まらないと思い直した。
そして酷く、とても酷く詰まらないことを思いついてしまった。
ミトスは自分のサックを漁り、1つの物を取り出す。
「何処でもいい。これをミントに装備させろ。外した後に効く物では無いが、気休め程度にはなるだろ」
『これは何ですか?』
「僕は既に命令を達した」
『Yes,Sir』
ミントに可能な限りの選択を与え、奴は死を選んだ。
だが、それを阻止することが出来た。結果的に、とはいえ僕は賭に勝った。
対価として得たのは迷いの果てに砕けた心とクレスに対する最高の餌。
ならば次のギャンブルを再び此奴でやってやろうじゃないか。コレットは使えないから仕方ない。
姉様の要の紋はどれだけお前に似合うかな?ルーンクレストまで付いた特注だぞ?
賞金はクレスの命と絶望だ。もしかしたら、それ以上のおまけが付くかもな?
虚も実も際限なく混ざって、ミントに限って云えば、ミトスの真意は無くなっていた。
ミントには丁重に手足に拘束がかけられた。アトワイトの発案だった。
ミトスはサンダーマントを装備させておくように厳命しただけだった。
どの属性に耐性があるのかが分かっていれば、簡易的な識別装置になるからだった。
ミトスは自分のサックを漁り、1つの物を取り出す。
「何処でもいい。これをミントに装備させろ。外した後に効く物では無いが、気休め程度にはなるだろ」
『これは何ですか?』
「僕は既に命令を達した」
『Yes,Sir』
ミントに可能な限りの選択を与え、奴は死を選んだ。
だが、それを阻止することが出来た。結果的に、とはいえ僕は賭に勝った。
対価として得たのは迷いの果てに砕けた心とクレスに対する最高の餌。
ならば次のギャンブルを再び此奴でやってやろうじゃないか。コレットは使えないから仕方ない。
姉様の要の紋はどれだけお前に似合うかな?ルーンクレストまで付いた特注だぞ?
賞金はクレスの命と絶望だ。もしかしたら、それ以上のおまけが付くかもな?
虚も実も際限なく混ざって、ミントに限って云えば、ミトスの真意は無くなっていた。
ミントには丁重に手足に拘束がかけられた。アトワイトの発案だった。
ミトスはサンダーマントを装備させておくように厳命しただけだった。
どの属性に耐性があるのかが分かっていれば、簡易的な識別装置になるからだった。
鐘楼を中心にC3に霧が立ちこめた。コレットの精神力を喰らって、アトワイトは白霧を生産していく。
依然として元家屋からは灰色の煙が噴出している。
『五分も有れば、全域に散布できます。6割の魔力を当てますので有効時間は90分誤差30分前後と云ったところでしょうか』
「散布後は二階に籠もる。この状況下では目視による索敵は無理だ。互いに」
『先ほど手水場で何を書いて居たのですか?』
「別に。D2からの伏撃で敵前衛後衛を分断させるから、仕掛けた罠を利用しつつ先にC3に来た剣士連中の相手を頼む、って」
追伸として、魔剣とその剣士を宜しく頼んである。ティトレイ達へのメッセージだった。
ミトスは恐らくこの場所に一番に来るのはティトレイだと踏んでいる。
与えた情報を鵜呑みするような馬鹿ではないだろうが、向こうはクレスに関して何か焦っている。
もし好機として使えるようならば使うべくC3に近い位置で警戒しているだろう、という読みだった。
ティトレイ達には暫く此処で待機して貰わねばならない。まあ多分率先して猪が来るだろうから強ち嘘ではない。
テルクェスによって位置が割れているとはいえ、予想ではシャーリィの位置は島の中央。先着は目に見えている。
「とりあえず、ティトレイを泳がせて情報収集に専念する。
目下重要なのはネレイドとシャーリィの戦力・情報だ。それが分かるまでは徹底してここに潜伏、戦闘を回避」
『ですが、それでは先の先が取れませんが。騙し討ちも』
「拠点に固執する時点で僕たちはそれを実質放棄している。騙し討ちが有効なのは戦術までだ。それでは戦略を覆せない」
『ですが、先制してタイムストップを仕掛けられれば』
「だから、僕は壁にバリケードを準備した。幾らタイムストップが発動しても出来ないことが幾つかある。
おい、姿の見えない敵にどうやって術を当てる?」
アトワイトは得心したような声を上げた。コレットには余り反応がなかった。
幾ら時を止めようが、居ると分からない目標に術を当てるほどの時間的猶予はない。
偶然この場所に外側から攻撃が当たったとしても、それはバリケードが防ぎ且つ存在は露見しない。
バリケードが損耗すれば余裕のある壁から資材を補填すればいい。
「僕たちは敵とは戦わない。徹底して情報収集に努める。クレスの魔剣や術士の魔術は僕が警戒するから、物理的な情報はお前に任せる」
『ですが、霧が』
ミトスは笑った。年相応すぎて酷く場に合わない笑みだった。
「頼むぞ?お前はコレットなんだ。強化された所は有意義に使え」
ミトスは自分の耳を叩いた。コレットの聴覚ならC3村の全域を捉えることが出来る。
それをソーディアンとミトスの輝石を通じて音を立てることなく入手した情報を交換する。
無音のままの情報収集。三階に顔を出す必要すらなかった。
依然として元家屋からは灰色の煙が噴出している。
『五分も有れば、全域に散布できます。6割の魔力を当てますので有効時間は90分誤差30分前後と云ったところでしょうか』
「散布後は二階に籠もる。この状況下では目視による索敵は無理だ。互いに」
『先ほど手水場で何を書いて居たのですか?』
「別に。D2からの伏撃で敵前衛後衛を分断させるから、仕掛けた罠を利用しつつ先にC3に来た剣士連中の相手を頼む、って」
追伸として、魔剣とその剣士を宜しく頼んである。ティトレイ達へのメッセージだった。
ミトスは恐らくこの場所に一番に来るのはティトレイだと踏んでいる。
与えた情報を鵜呑みするような馬鹿ではないだろうが、向こうはクレスに関して何か焦っている。
もし好機として使えるようならば使うべくC3に近い位置で警戒しているだろう、という読みだった。
ティトレイ達には暫く此処で待機して貰わねばならない。まあ多分率先して猪が来るだろうから強ち嘘ではない。
テルクェスによって位置が割れているとはいえ、予想ではシャーリィの位置は島の中央。先着は目に見えている。
「とりあえず、ティトレイを泳がせて情報収集に専念する。
目下重要なのはネレイドとシャーリィの戦力・情報だ。それが分かるまでは徹底してここに潜伏、戦闘を回避」
『ですが、それでは先の先が取れませんが。騙し討ちも』
「拠点に固執する時点で僕たちはそれを実質放棄している。騙し討ちが有効なのは戦術までだ。それでは戦略を覆せない」
『ですが、先制してタイムストップを仕掛けられれば』
「だから、僕は壁にバリケードを準備した。幾らタイムストップが発動しても出来ないことが幾つかある。
おい、姿の見えない敵にどうやって術を当てる?」
アトワイトは得心したような声を上げた。コレットには余り反応がなかった。
幾ら時を止めようが、居ると分からない目標に術を当てるほどの時間的猶予はない。
偶然この場所に外側から攻撃が当たったとしても、それはバリケードが防ぎ且つ存在は露見しない。
バリケードが損耗すれば余裕のある壁から資材を補填すればいい。
「僕たちは敵とは戦わない。徹底して情報収集に努める。クレスの魔剣や術士の魔術は僕が警戒するから、物理的な情報はお前に任せる」
『ですが、霧が』
ミトスは笑った。年相応すぎて酷く場に合わない笑みだった。
「頼むぞ?お前はコレットなんだ。強化された所は有意義に使え」
ミトスは自分の耳を叩いた。コレットの聴覚ならC3村の全域を捉えることが出来る。
それをソーディアンとミトスの輝石を通じて音を立てることなく入手した情報を交換する。
無音のままの情報収集。三階に顔を出す必要すらなかった。
そして、シャーリィやネレイドに対して恐怖を覚えたミトスはタイムストップにすらその絶対性を疑っていた。
確かにあの術は絶対的だ。
しかし、その絶対性を余すことなく活用できるほどに勇気が有ると信仰できる程、ミトスは自分を信じられなかった。
ミントの無様な結果を見て、深くそう思った。
もし、時間停止を発動してもその間に敵を殺せるとは限らない。
そして、失敗した者に待っているのは容赦ない戮殺。もし、止めを刺せなかったら、
シャーリィの正面で、ネレイドの真正面で倒せないまま時間が解けたら。
考えるだに恐ろしい。そいつらじゃ無くても怖い。タイムストップを一度喰らえば誰だって二度目は御免だ。
生き残った全員が魔女狩りの如く殺しに来るだろう。気付かないまま死ぬなんて誰だって厭だから。
そして質の悪いことに、時間停止が解けた者はそれを自覚している。
こういう背景を考えた上で、このプレッシャーの中数秒で仕手を行うのは存外難しいのだ。
しかもこの戦いでは対象識別が出来ないから、術者しか動けない。
仕損じれば、全員から殺されるかもしれない。
そして、急所さえ外れれば、人間はそう簡単に死なないのだから。
此処までを踏まえて、ミトスはタイムストップによる優位性を捨ててでも
タイムストップから生き延びることに専念することを上策と考えている。
それにコレットやミント、或いは敵の仲間と混交してしまえば魔術師は魔術で殺せなくなる。
巻き添えを懸念するその数秒で、時間が戻るからだ。
幾らでもタイムストップは潰しようがある。少なくとも、この条件下なら。
確かにあの術は絶対的だ。
しかし、その絶対性を余すことなく活用できるほどに勇気が有ると信仰できる程、ミトスは自分を信じられなかった。
ミントの無様な結果を見て、深くそう思った。
もし、時間停止を発動してもその間に敵を殺せるとは限らない。
そして、失敗した者に待っているのは容赦ない戮殺。もし、止めを刺せなかったら、
シャーリィの正面で、ネレイドの真正面で倒せないまま時間が解けたら。
考えるだに恐ろしい。そいつらじゃ無くても怖い。タイムストップを一度喰らえば誰だって二度目は御免だ。
生き残った全員が魔女狩りの如く殺しに来るだろう。気付かないまま死ぬなんて誰だって厭だから。
そして質の悪いことに、時間停止が解けた者はそれを自覚している。
こういう背景を考えた上で、このプレッシャーの中数秒で仕手を行うのは存外難しいのだ。
しかもこの戦いでは対象識別が出来ないから、術者しか動けない。
仕損じれば、全員から殺されるかもしれない。
そして、急所さえ外れれば、人間はそう簡単に死なないのだから。
此処までを踏まえて、ミトスはタイムストップによる優位性を捨ててでも
タイムストップから生き延びることに専念することを上策と考えている。
それにコレットやミント、或いは敵の仲間と混交してしまえば魔術師は魔術で殺せなくなる。
巻き添えを懸念するその数秒で、時間が戻るからだ。
幾らでもタイムストップは潰しようがある。少なくとも、この条件下なら。
ミトスは輝石を弄った。アトワイトに剣一本を任せる以上この姿はさして意味がない。
何より、あの姿でも普通にタイムストップは使える。
ミトスの姿はたちどころにユグドラシルへと変成した。
向かうべき戦場は市街戦、いや、こんな小さな村では野戦となんら代わりもないか。
ここから先は一切の読みの意味が失われるだろう。どうせ裏切られる。
ならば、重視するべきは情報量と機動力と反応速度、そして詠唱すら要らぬ携行型圧倒的火力。
読みではなく、反射で勝負してやる。
何より、あの姿でも普通にタイムストップは使える。
ミトスの姿はたちどころにユグドラシルへと変成した。
向かうべき戦場は市街戦、いや、こんな小さな村では野戦となんら代わりもないか。
ここから先は一切の読みの意味が失われるだろう。どうせ裏切られる。
ならば、重視するべきは情報量と機動力と反応速度、そして詠唱すら要らぬ携行型圧倒的火力。
読みではなく、反射で勝負してやる。
『反応確認、入村します』
ユグドラシルは4時間の間に用意した村の白地図を広げた。ペンを走らせる。
さあ、事前の思いつきはこれで品切れだ。ここからの脚本はアドリブ。
まずは手並みを拝見。出来れば死の際まで踊ってくれ。
葬儀の準備はしてやるから。
さあ、事前の思いつきはこれで品切れだ。ここからの脚本はアドリブ。
まずは手並みを拝見。出来れば死の際まで踊ってくれ。
葬儀の準備はしてやるから。
【ミトス=ユグドラシル@ユグドラシル 生存確認】
状態:TP90% 恐怖 己の間抜けぶりへの怒り ミントの存在による思考のエラー
所持品:ミスティシンボル 大いなる実り 邪剣ファフニール ダオスのマント C3村の白地図
基本行動方針:マーテルを蘇生させる
第一行動方針:想定外の事態を警戒しながら、マナの変動に警戒しつつ情報の把握。クレス、シャーリィ、ネレイドを優先
第二行動方針:見に回ってティトレイの行動を軸に善後策検討
第三行動方針:最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつけて魔剣を奪い儀式遂行
第四行動方針:蘇生失敗の時は皆殺しにシフト(ただしミクトランの優勝賞品はあてにしない)
現在位置:C3村・鐘楼台二階
状態:TP90% 恐怖 己の間抜けぶりへの怒り ミントの存在による思考のエラー
所持品:ミスティシンボル 大いなる実り 邪剣ファフニール ダオスのマント C3村の白地図
基本行動方針:マーテルを蘇生させる
第一行動方針:想定外の事態を警戒しながら、マナの変動に警戒しつつ情報の把握。クレス、シャーリィ、ネレイドを優先
第二行動方針:見に回ってティトレイの行動を軸に善後策検討
第三行動方針:最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつけて魔剣を奪い儀式遂行
第四行動方針:蘇生失敗の時は皆殺しにシフト(ただしミクトランの優勝賞品はあてにしない)
現在位置:C3村・鐘楼台二階
【ミント=アドネード 生存確認】
状態:TP5% 失明 帽子なし 重度衰弱 左手負傷 左人差指に若干火傷 盆の窪にごく浅い刺し傷
舌を切除された 絶望と恐怖 歯を数本折られた 右手肘粉砕骨折+裂傷 全身に打撲傷 全て応急処置済み
所持品:サンダーマント ジェイのメモ 要の紋@マーテル
基本行動方針:なし。絶望感で無気力化
第一行動方針:…どうすれば…
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
現在位置:C3村・鐘楼台二階
状態:TP5% 失明 帽子なし 重度衰弱 左手負傷 左人差指に若干火傷 盆の窪にごく浅い刺し傷
舌を切除された 絶望と恐怖 歯を数本折られた 右手肘粉砕骨折+裂傷 全身に打撲傷 全て応急処置済み
所持品:サンダーマント ジェイのメモ 要の紋@マーテル
基本行動方針:なし。絶望感で無気力化
第一行動方針:…どうすれば…
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
現在位置:C3村・鐘楼台二階
【アトワイト=エックス@コレット 生存確認】
状態:TP40% コレットの精神への介入 ミトスへの隷属衝動 思考放棄
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック ホーリィスタッフ エクスフィア強化S・A
基本行動方針:積極的にミトスに従う
第一行動方針:聴覚を使い、情報収集。クレス、シャーリィ、ネレイドを優先
第二行動方針:ミトスの指示に従う
第三行動方針:コレットの魂を消化し、自らの力とする
現在位置:C3村・鐘楼台二階
状態:TP40% コレットの精神への介入 ミトスへの隷属衝動 思考放棄
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック ホーリィスタッフ エクスフィア強化S・A
基本行動方針:積極的にミトスに従う
第一行動方針:聴覚を使い、情報収集。クレス、シャーリィ、ネレイドを優先
第二行動方針:ミトスの指示に従う
第三行動方針:コレットの魂を消化し、自らの力とする
現在位置:C3村・鐘楼台二階
【コレット=ブルーネル 生存確認?】
状態:魂をアトワイトに占領されつつある 無機生命体化 外界との拒絶
所持品:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ
基本行動方針:待つ
現在位置:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ
状態:魂をアトワイトに占領されつつある 無機生命体化 外界との拒絶
所持品:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ
基本行動方針:待つ
現在位置:アトワイト・エックス@コレット・ブルーネルと同じ
※C3村に火災・ディープミスト発生(共に1時~2時までには終了)