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  • そこに陽の光がある限り

テイルズオブバトルロワイアル@wiki

そこに陽の光がある限り

最終更新:2019年10月13日 18:30

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そこに陽の光がある限り



「……誘い込まれた? どういうことだ?」
突然のディムロスの言動に、ヴェイグは普段動じぬ顔を強張らせた。
彼の傍にいるカイルは何も言わず黙ったまま、手に握るソーディアン、ディムロスを見つめている。
困惑そうな表情は同じくディムロスの発言の意図が掴めないからのようだった。
『話は後だ。2人が生きているのなら、間違いなくシャーリィと接触している。
 トーマがいるとはいえ、一般人のグリッドを庇いながらの戦闘は明らかに不利だ』
軍人の毅然とした声で答えるディムロス。
コアクリスタルの輝きは雪原に反射する光の中でもはっきりと見てとれた。
「待て、それじゃあ何で一時的とはいえ、二手に別れた?」
『言っただろう。敵はこの状況に“誘い込まれた”と。
 もし全員が固まっていたら、今頃我らはあの青い砲撃で瞬殺されていたのだぞ?』
それでカイルは、全容はまだいまいち把握出来ずにいるようだが、「瞬殺」という単語で紙一重の展開を理解し得た。
ヴェイグも言葉の意味に気付いたのか、もしもの結果に身震いする。
恐らく、塵一つ残さず――状況から何から理解する前に死んでいた筈だ。
カイルは胸に手を当てた。その行為はただ自分の心音を確かめるためだったのだろう、喉が渇きを潤すかのようにごくりと鳴る。
大きな息を1つゆっくりとつき、カイルは真剣な目つきでディムロスを見やる。
「行こう。2人を助けなきゃいけない。ディムロス、俺達はどうすればいい?」
『相手はショート、ミドル、ロング、全てのレンジ攻撃が可能だ。
 しかし大砲を使っての攻撃は当然ながら装填時間の関係で不可能。
 奴のメルネスとしてのポテンシャル、魔杖の増幅力も恐ろしいが、どうやら杖自体に集束率を高め
 詠唱を速める力はないと見ていい。
 術には詠唱が伴う。阻止するには詠唱させなければいい。
 おのずと導き出される結論は……単純だろう?』
返された頷きは力強かった。
「接近戦で畳み掛ける!」
装填、詠唱の隙を奪い、相手に接近戦を強いさせる。
いくらあのシャーリィとはいえ3人がかりでは分が悪く、おまけにあの華奢な身体で接近戦ができるとはあまり思えなかった。
カイルの答えに声にこそ出さないものの、ディムロスも人間の身体を持っていれば満足げな表情をしているのだろう。
けれども唯一、彼、ヴェイグだけはまだカイルの意思に納得がいったようではなかった。
カイル、という小さな呟きにも少年は首を縦に振って答える。
「俺は大丈夫です」
ニュアンス的には首を横に振る方が正しいのだろうが、その力強い首肯だけで、ヴェイグの続きを言わせる気を失せさせていた。
どうしようもない決意がその短い句に籠められていたのだ。
踏み入ることさえ許さぬ、心の領域が成した力、とでも言えばいいのだろうか。
この少年の決意を踏みにじる方がよっぽど下卑だとヴェイグは思ってしまった。
カイルは晶術を発動させた際に一度落としたビシャスコアを拾い上げ、紐にぶら下がり弱々しく光る赤の宝玉を見つめる。
先程ほどではないが、振動している音叉を耳元に近づけた時の、波のように連続的に押し寄せるあの音も発せられている。
そして青い光が発せられた方角、グリッド達の向かったケイオスハートの落下地点の方を向く。
カイルの手の中のビシャスコアは微かに音を高めた気がした。


「シャーリィって人は、もう魔杖を持ってるんですよね」
カイルは視線を変えずに尋ねる。
「そう考えるに越したことはないだろう」
ヴェイグはカイルを視界に入れ答える。
その言葉を噛み締めるように、カイルは悪魔の玩具を強く握り締める。アームグローブに皺が一層走った。
視線は太陽に反射し白く眩い一面の銀世界を見るでもなく、取って付けられたような青空を見るでもなく、
その先にいるだろう仲間と敵に向いていた。
あまりにも不自然に靄が立ち込めている。
むしろこの晴天の中で雪原があり、靄があるという疑わしい環境から、理不尽と言った方が間違いがないかもしれない。
とにかく、異常なのだ。
――決断するや否や、カイルは走り出した。
さく、ざくと雪を踏み締める、吸い込まれていくような鈍い音が間髪なく鳴る。
「待て、カイル!!」
「これが反応してる! こっちにいるんだ!」
カイルは走ったまま、後ろに振り向いて答えた。
ヴェイグは腕を差し出すも誰を引き止めることもできず、所在なさげに浮いたまま、手の奥で少年の後ろ姿が消えていく。
時は有限でいつまでも引き伸ばしてくれはしない。あっという間に見えなくなってしまった。
1つ舌打ちをして、彼は肩に掛けている剣に手を伸ばす。
アイスコフィン。ジューダスとリオン、彼は預かり知らぬが殺した人間の弟が持っていた、青い刀身が冴え冴えと光る氷刃。
あの時武器は渡さないと言っていたのに、その剣が巡り巡ってこうして己の手にあることを皮肉に思う。
それも、離別は東なのに再会は西だ。姿さえも同じだった。
それが意味することは何なのか。意味など求める方がおかしいのかもしれないが、考えずにはいられなかった。
自分の存在と守らなくてはならない存在を思う。
自分に近付いた人間は、例外なく消えてきた。
それはこの殺し合いのルールを考慮すれば、殆どはいつかは死ぬのだから自然なことだ。
だが、それは彼にとってどれほどの苦痛であっただろうか。
人を殺し、償おうと思っても、手を差し伸べた相手が消えていく。贖罪とは真逆の結果。捻じ曲がっているのである。
もちろん、生きている人物だっている。しかしグリッドやトーマさえ今の状況では新たな死人に成り得ない。
そして自分はそれでも罪滅ぼしと称してあの少年を助けなければならないのである。
何という矛盾。
消えるのに、守るのだ。死に行く者を、守らねばならないのだ。
自らに課された宿命のようなものを、自分の手で破り、切り開かなくてはならない、この不条理さ。
償いでも何でもない。ただの、罰。
「……それでも……」
彼は少年の真似をして、首を縦に振ってみた。
追いかけない理由もなく、慣れた雪の上を駆け出した。


「……罪を許す?」
15歳の可憐な少女は、大人2人を相手に、引きつった笑みを浮かべた。
靄の中でも確かに見える、傍から見れば愛想笑いに見える歪に上がった口角は、
少なくとも相手を同等とは見ていないことを明確にしていた。
2人を見上げる姿は少女そのものでも、無垢な可愛さというものは微塵も感じさせず、細められた目は弱肉強食を掲げ
獲物を啄ばむ鷹のようで、奥でぎらつく碧眼には蔑みの色が見える。
そして、ただ浮かべられていた笑みはやがて音を伴い、ひっ、ひっ、と押し殺された笑声は、
2人を小馬鹿にするかのように静かに響いた。
グリッドとトーマは黙りこくって相手の次の行動を見定めている。
「許される理由も、筋合いもありません……あなた達なんかに」
無駄に凛とした響きを言葉に持たせ、少女、シャーリィ・フェンネスは片手に持った短機関銃を2人に向ける。
奥まで見透かせない銃口はどこまでも深く黒かった。
「私は3人も殺してきた……尊い命をね……」
憂い気な表情を浮かべ目を伏せ、空いた方の手を胸元に寄せる。風でプリーツのかかった裾がひらひらと舞う。
表情を二転三転変える姿はさながら舞台上の女優のようで。
きゅっと締められた手が緑色に光っていた。
グリッドはそれを見て訝しげな表情を浮かべた、が、
「でも、だから何なの?」
――何の躊躇いもなく、撃鉄は引かれた。
銃口が火を吹く。薬莢が飛び散る。細かい音が一瞬だけ鳴り、発せられた9ミリ弾は平等に2人に襲い掛かった。
伏せろ、という口の動きだけが先走って、トーマは沈黙のまま力ずくでグリッドを地面に押し付ける。
「だって仕方ないじゃない! お兄ちゃんに逢わなきゃいけないんだもん!!
 お兄ちゃんに会って、『いい子だな』って頭を撫でてもらうの!」
弾幕の伴奏に乗ったシャーリィの叫びは不思議な調和を作り出していた。
幾つものの弾が2人の頭上を通り抜ける。
グリッドは後から出てきた声に、もう伏せてる、と答えるタイミングを見失った。


「弱いのがいけないのよ! 力がないから死んでくの!
 私が今まで殺してきたのは皆弱かった! だから死んでも仕方ないのよ、弱いんだもん!!」
硝煙の匂いが立ち込める。火を吹く音が消えたのを合図に、トーマは立ち上がり左手に榴弾砲を携えシャーリィに突撃する。
そこには無心であった新兵の後ろ姿はない。かつて拳を交えた敵を恐れる必要など何もない。
「ならテメェの兄ちゃんも弱かったんだなッ!!」
片腕の、まるで腕全体を覆っているかのような巨砲。指はもう何も発射されないトリガーに掛かっている。
先端に刃が取り付けられたそれをトーマは振るう。
しかし彼女は片手にウージーサブマシンガンを持ったまま後ろへと飛ぶ。地にどしんと大きな衝撃と騒音が走る。
「お兄ちゃんを……侮辱するなぁぁぁぁァァァァァァァァ!!!」
再び短機関銃が動き出す。弾が飛び出る気味のいいリズムが鼓膜を刺激する。それだけで心が高鳴る気がシャーリィにはした。
迫り来る弾丸。トーマは目を見開く。榴弾砲を盾にしてフォルスが展開、瞬間的な磁力の反作用が弾をはじき返す。
「それより、一般人を庇って戦えるの? 牛さん!」
だが相殺しきれない、決してトーマの方に向かったのではない弾はただ空を走る。
その矛先は、紛れもなくグリッド。
当人は危険を察知したのか、ごろごろと荒野の上を転がり何とか避けてはいる。服が砂塵にまみれる。
その姿が滑稽だと言わんばかりにシャーリィは高笑いを上げ、尚もグリッドを照準に定める。機関銃が唸る。
これが隙だと確信したトーマは雄叫びを伴って突撃する。
「貴様がその名で呼ぶなぁぁぁぁァァァァァァァァッ!!!」
当然それにはシャーリィも気付き、一度止めて銃口をトーマへと向き直す。
血走った青い目とトーマの目が合う。少女の可愛らしい顔から笑みは消え、向けられているのは憎悪のみ。
彼女の方がよっぽど獣らしい目だった。
「何だっていうのよ! あんたも同じくせに! 私と……同類のくせにいぃぃぃィィィィィィッ!!!」
繰り返される絶叫の応酬。それをかき消すように炸裂音が鳴る。しかし、数瞬の間。
手を伝う振動はすぐに止まってしまった。
もともとそれはハロルドと戦ってきた時から1つのマガジンを使用してきたのだ。僅かしか残っていないのも道理だった。
こんな時に、そんな恨めしい声を上げても弾はもちろん戻ってこない。
トリガーをもう2回引いてみても、カチッ、カチッと不発の音だけが聞こえてきた。
はっと前方を見遣る。発動したフォルスが、球状の磁力シールドがトーマを包み込んでいた。
弾はトーマに襲い掛かることなく――球に突き刺さったままその強靭な壁を突き抜けることなく止まっていた。
シールドが消えるのと同時に、空中で止まっていたかのような弾がぱらぱらと落ちる。
トーマの顔には自信過剰ないやらしい笑みを浮かんでいた。


「……ムカつく」
眉頭がひくひくと動くのを感じる。そこにある血管が確かに稼動しているのを感じ取る。
「ムカつくのよ、その態度ッ!!!」
だが威勢とは裏腹に、今のシャーリィに攻撃の手立てはない。
せめてそのぶら下がった左腕にテルクェスでも撃ち込んでやろうか――と。
(……あれ)
テルクェスが出ない。
どうして? その少ない思考の間に、それ以前に滄我との波長が符合せぬと思い出す前に、いやそれすら与えまいと、
敵は迫る、迫るチェックメイト。
「言っとくがな」
大砲の突端がぎらりと光る。
その光が全身を走ったような気がして、それが危機を伝える電気信号として身体を左に捻らせ、紙一重で避ける。
だが、微かに遅れた右の素足がグラディウスで裂かれ、うっすらと血が浮かぶ。
のっしのっしとトーマは重く、死の宣告でも告げるかのようにシャーリィに近付いていく。口は笑っていても目は笑っていない。
右手の榴弾砲がどこかの世界の最終兵器よろしく異様な存在感を誇示していた。
「貴様と俺を同じにするな」
トーマは静かな最後通告とは真逆に、思いっ切り振り上げて、下ろした。
何故か落とされるそれは、クライマックスモードを発動した時のように遅く見えた。
近くで見るといつになく巨大に見え、非情に細やかな構造になっていることが分かった。
何故こんなに冷静でいられるのか、彼女自身よく分からなかった。
そんなことはどうでもいい筈だ。駄目だ、避けなきゃ――その思考が身体を支配してもおかしくない筈なのだ。
けれども、身体はぴくりとも動かない。恐怖で竦んでいるからではない。
もっと別の、逆の何かが思考に横槍を入れ、足を絡め捕っていた。
振り落としたトーマは見た。見てしまった。
彼女の歓悦の笑み。何かを確信したような笑みを。
青い糸。1本、2本、不可視の糸が身体と結ばれていく。5本、100本、1万、数え切れぬ意思がシャーリィになだれ込んでいく。
その感覚を即刻理解したシャーリィは、避けようともせずに空の銃を構えた。
狙うは振り下ろされた右手。使い勝手はあの青緑の化け物になった時から覚えている。
繋がった力を、滄我の力を銃身へと。
時間にしてたった3秒の間の出来事だった。
「――まだ、死ねないっ!!」
銃口から、両手の爪から緑の光が漏れ、光の双翼が発射される。
それはトーマの右手首に命中し、衝撃で手は弾かれ、重量のある榴弾砲が小さく飛ぶ。
トーマに驚愕の表情が出るのとガシャンガシャンと落下音が鳴ったのはほぼ同時、その間にシャーリィは相手の懐へと潜り込む。
「ウレル・セス……セル、ウレン!!」
彼女の民族が使っていた古の言葉、「古刻語」。今の言葉を常用語に変換するとすれば――「獅子戦吼」。
聖爪術の光を纏った両の掌底が、トーマの鍛えられた腹筋へと添えられる。それ自体はとてもささやかだ。
しかし、咆哮のようなうねる音を伴い、そこから生じた青い獅子の闘気は全身を呑み込んでいく。
突き飛ばされる巨躯。
その威力は少女が放ったとはとても思えぬほどの一撃。重い。鉛の塊を打ち込んだような。
目の前の、同じく拳で戦うパワーファイターのトーマにも引けを取らない。
威力増長も、普通なら転向不可能なアーツ系の爪術を使えることも、全てはこの胸のエクスフィアの賜物か。
38歳のガジュマの巨体は弱冠15歳の少女によって軽く吹き飛ばされてしまった。


「おい牛さん! 大丈夫か!?」
「テメェ俺の話聞いてたのか! 呼んでいいのはミミーだけだっつってんだろ!!」
「おお、大丈夫そうだな! 流石我が『漆黒の翼』の団員!」
匍匐前進の途中のように地面に伏せたままのグリッドは、目の前に倒れ込んできたトーマに尋ねた。
そして首だけを向けて勢いよく答える姿を見て、グリッドは空気も読まずに喝采を博した。
頭の中で一瞬、白い蒸気が視界を覆った。
シャーリィは身体が自然とわなわな震えていることに気が付いた。
半ば薄ら笑いを浮かべながら、あまり意味を為さないサブマシンガンを袋へとしまい込んだ。
目を閉じ右の拳を左手に打ち付ける。空気が寒いのはシューティングスターを唱えた後だからか。そうであることを願った。
両手全体を翡翠色の光が包み込む。
「くっだらない掛け合いしてんじゃねぇよ、塵のくせにッッ!!!」
額に青筋を浮かべんばかりにして、シャーリィは捷足で駆け出した。
「き、来たぞトーマ!」
分かってるから離れろ、それだけ言ってトーマは失血で重い身体に鞭を打ち立ち上がる。言葉通りグリッドは後方に走り下がった。
シャーリィはアッパーカットの要領で、下から上へ抉り取るように拳を振るう。
狙うは……顎!
空気が重く唸る。
トーマは身体を横に逸らし、赤手の直撃を免れる。しかし、足元から闘気が間欠泉のように空へ向けて立ち昇った。
滄我の激流、「噴竜撃」。
ガジュマの巨体が宙に舞い上がる。予期せぬ一撃にぎあ、と小さく呻きが上がった。
中空で視線だけが合う。
手を彼女に翳す。黒い力が掌で渦巻く。
危険を察する前に、ぐい、と少女の身体は歪むように捩れ、天に導かれるように何もなしに宙に浮かんでいった。
手繰り寄せる糸の持ち主は磁のフォルス能力者、トーマ。
何が起きたかも分からない彼女が二足歩行の牛の前に到着した時、にやり、とトーマは下卑な笑みを湛えた。
もう少しで首がもげると言わんまでに首を後方へ引き、そして、前の少女に振るった。
炸裂。
トーマ渾身の、しかもイクストリームで異常強化された頭突きは見事にシャーリィの頭部を捉え、
違うベクトル、マイナス150度で落下していく。
甲高い痛みの悲鳴を怒号に変え、身体を無理にでも回転させサマーソルトをお見舞いする。少女の爪先が顎を捉える。
顔が思いっ切り持ち上がったのを見届け、子供らしく舌を出しながら落下。
しかしずきずきと頭が痛む。角で一突きされなかったのはまだ幸いだ。
空で手を触れると、ぱっくりと割れた額から血が流出していた。
べたべたした液体が掌全体を覆い、それを見て、何となく心臓の血が一気に沸騰した気がした。
牛風情が血を流させた――。
互いは体勢を整え着地。同時に、彼女は弾丸の如く激走を開始した。
額の血が少し目に入り痛みを発していたが、そんなの彼女にはどうでもよくて気にもならなかった。
些細なことは些細なのだから気にしなくていいのだ。
距離は思ったよりも短い。身体を屈め姿勢を低くし、待ち受ける相手を見据える。相手の輪郭はもう明瞭になっている。
右手の甲がぷらぷらと光っている。同じだ、と確信。
トーマは左手を地面に打ち付けた。同時に右手が一瞬眩い光を発する。
地系導術「ストーンブレイク」。手元から亀裂が走り、地割れが生じ、岩が隆起する。
術であれど、トーマとの距離は既にそこまでない。シャーリィは構わず突進を続けた。
地走りが目の前に迫った、その時。
彼女は瞬間的に速度を上げ、岩間をすり抜けてトーマの背後へと回り込む。「パッシングスルー」。
な、とトーマが振り向き立ち上がろうとする数瞬の間に、シャーリィの爪術は完成していた。


「クェン・ディス・エレス!」
跳躍、同刻に右足が頬にめり込み、次いで左が額を打ち、右、そして踵落としと脚の連撃――「飛燕連脚」。
初手と二波が直撃し少しふらついて、後を無理矢理どうにか腕で捌いているトーマだが、流石に1本で続けられるものではない。
現に腕でガードするが故に、腹部はがらんどうになっていた。
着地一拍置いてシャーリィの右手を橙色の光が包む。
狙いは当然、露出した腹。
「ツェル・リェス!!」
闘気纏う空拳、「迫撃掌」がトーマの腹にめり込み、肉ごと貰っていくように、下方へと抉る。
トーマの口元から透明の飛沫が飛び出る。声にならない吃音が空気と共に漏れた。
汚らしいものから避けるように、シャーリィは輝石に侵食された腕で顔を覆う。
身体ごと拳を地面に叩きつけ、トーマの図体は衝撃音を伴って地に伏した。
げほげほと仰向けのままトーマは咳き込む。蹴られた顔は内出血で少し腫れていた。
丁度後方に位置取っていたグリッドは名を呼び近寄ろうとするけれども。
「教えてあげる」
魔杖ケイオスハートが取り出され、2人に突きつけられていた。
「これがこの世界のルールなの。私は何も間違ってない。正しいのよ」
ひひっ、という小さな笑い声が空に行き渡った。赤い顔は口元が裂けそうなほど歪んでいた。
輝石化した左手でリズムを取り、滄我の波長を合わせる。
彼女の素養とケイオスハート、両々相まって今なら初級魔法でも殺せる自信がある。
挽肉にするのも捨て難いが、姿焼きもまたボリュームとインパクトがあっていいかもしれない。とりあえず肉汁はたっぷりだ。
唱えますはファイアボール、お召し上がりはヴェルダン風味で。早い、安い、美味いがモットーの牛の丸焼きです。
添え物として粋がってる奴の丸焼きでもどうぞ。
半ば生き生きとして、シャーリィは心の中で唱えた。
爪の緑の光が赤へと変貌していく。
彼女は2人を見据える。
グリッドは何故かその場に留まっていた。そしてゆっくりと首を横に振った。
は、と意味の分からない響きを言葉に持たせて、トーマは気だるそうに身体を更にグリッドの方に向けている。
だがトーマの緩慢とした行動など、彼女の気にはならなかった。
グリッドのしかと開いた目が無駄に印象的で、何もしなくとも目に入ってくる。諦めの眼差しでは決してない。
諦めた目というのはもっと暗く揺れて、死んだ魚のように光を失って濁っていくものなのだ。
そう、確か山岳で仲間を助けようと石を投げつけてきた時もこんな目じゃなかったかと、シャーリィは思った。
忌々しい。すっごく忌々しい。
「さよなら」
左手をケイオスハートに添える。心臓を思わせる赤い宝玉が気味悪く点滅する。
トーマは重い身体を起こしグリッドを吹き飛ばそうと動き出す。
にやり、とシャーリィは絶対の勝利を信じ笑みを浮かべた。もう術は発動1歩手前。避けきれる訳がない。爪が更に強く光る。
あまりにも純粋で綺麗で、彼女によく似合っていた。


「ファイアボール!!」
威力を高めた火球が襲い掛かる。
トーマは胸部と手首から血を流したまま急停止し、声の方に振り返った。まだ血の伝う腕はグリッドに届いていない。
ただ、ごおっという音と赤い光が辺りを満たし――。
「いぎゃあぁぁっ!!?」
とても女とは思えない声が、響いた。
グリッドはその光景を見る。
巨体越しに、シャーリィが身体を丸めうずくまっていた。地に落ちたケイオスハートの光は消えてはいない。
ただ、それは決して爪術の詠唱待機をしているからではなく。場違いな高周波音が耳鳴りとして代わりに襲い掛かってきた。
「トーマさん! グリッドさん!」
その声の主に2人は目を大きくした。
小さな英雄、カイル・デュミナス。
少年は左手にソーディアン・ディムロス、右手に剣玉、それらを掴む両手には籠手という何とも奇妙な姿で現れた。
位置は若干離れてはいるが、切っ先は紛うことなくシャーリィに向けられ、
大振りの剣に嵌められたコアクリスタルは光の残滓を点している。
右手の剣玉、魔玩ビシャスコアの玉は点滅を繰り返し、その周期はシャーリィの横に転がっているケイオスハートと同じだった。
時間を稼いだ甲斐があった。そう言い合わんばかりに2人は顔を見合わせる。
「テメ、未来予知でも出来んのか」
「いや、全くと言っていいほど」
何というか、どうでもいい掛け合いだったが、安堵した瞬間に言葉は零れていた。
さっき弾丸が数本の髪の先端をかすめたような気がして、それだけなのに実はまだ背筋にはその時の寒気が残っている。
ファイアボールだってそうだ。今頃もしかしたら燃え滓にでもなっていたのではないかと思うと、身体が凍り付く。
しかし、ふっと出た他愛無いやり取りは、ほんの少しだけ心を軽くした。
幸いまだ彼はろくな傷もないが、いつどれが致命傷になるなど分かりっこない。
目の前のトーマは左手首に傷、胸部に多くの裂傷、顔や全身の所々に打撲と、いわばグリッドの身代わりに受けた傷が大量だった。
それを目にして申し訳なさが彼の心中を漂う。
「大丈夫ですか!? 治療は……」
「いらねェ! こんなの怪我の内にも入るか!」
カイルが向こう側から声を掛けてきた。トーマの全身の創痍を見たからか、心配げな声だった。
それにトーマは蛮声を上げて答える。
拒絶反応を示すかのように、ミラクルグミの入ったサックを手で押さえつけた。
「ヴェイグは!?」
グリッドはその場に見当たらない、もう1人の人物のことを尋ねる。カイルは後ろに振り返った。
「大丈夫です。すぐに……来てくれます!」
後ろ姿で顔は見えなかったが、おかしな二刀流の両手はぐっと強く握られていた。
きっと少年にはそう信じる確かな理由があるのだろう。
「グリッド」
前方のトーマの呼び掛けに、彼は声の方へと首を動かす。
「近接戦闘が出来ない負傷兵はどうやって前線を援護するか知っているか」
質問の意図が分からなかった。
トーマは左手に俯いたまま、痛んだ腕は何かを確かめるように、括り付けられたシャルティエのコアクリスタルに触れていた。
「バトンタッチだ。奴は来る。今は機を見計らえ」


一方、シャーリィの背中はファイアボールにより再び火傷を与えられていた。
服が頼りなくも障壁となったおかげで大した怪我ではない。
しかし赤々しく腫れた背は誰だろうと目を背けたくなるほどに悲惨で、少しの焦げ目と肉がぐちぐちと水気を伴って黒く歪み爛れている。
まだこの程度で済んだのはカイルの持つビシャスコアの魔力低下も関係しているが、もちろん誰も知る由はない。
ソーディアンによる真の晶術の威力はそれを霞ませるほどの威力だった。
シャーリィは痛みを堪えるというよりは憎悪をめいっぱい込めたような酷い形相で、まだ人間の手を保つ右手で
何とかケイオスハートを掴み取ろうとする――が。
ぱき、ぱきぱき。
雪原ではなく荒れた大地の上なのに、氷のラインが走り、ケイオスハートまで行き着いた時、杖は氷に閉ざされていく。
シャーリィは目をかっとし、更に酷い形相でその光景を見つめる。
逆にカイルは線を辿っていって、表情を緩めた。
地面から氷は広がり、両端から小さな氷山を形成していく。
ぺたぺたと這って氷漬けのケイオスハートに近付き、しかし奪い取るよりも速く、氷は魔杖をその腹の中に入れてしまった。
「あ、ああ」
泣きそうな顔をして、欲しい物のあるショーケースにするように顔を氷にくっつくほど近付け、両手で触れる。
冷たさなど感覚にも及ばないようだった。
「やだ、やだやだやだぁ」
ばんばんと叩いても当然割れない。尖鋭な氷が手を傷付ける。
氷には何枚もの鏡が嵌め込まれたように、シャーリィの震える姿が幾つも映り込んでいる。
そのどれもが同じ表情をして少女を哀れに見返していた。
「返して、返しなさい、返しなさい返しなさいよ返せよ虫ケラ風情があああぁぁァァァ―――ッ!!」
ばん、と地を蹴る。
カイルの横を何者かが通り抜けていく。
拳を振るおうとするも、瞬時に剣の閃きが首の横を走り、はらりと煌髪人の証である金髪が一房落ちた。
びくりと反動を伴って動きを止める。
首元に青い刀身が添えられ、冷え冷えとした空気が喉下で不穏に漂っていた。
黒の手套が嵌められた手はそれ以上動く気配はない。その手の主、ヴェイグは、目を細めたまま何も言わず静止していた。
シャーリィは僅かに首を動かして、ゆっくりと背後に振り返る。
彼は思わず瞠った――中途半端に丸く開いた口と、眼窩から飛び出さんばかりに見開かれ血走った目。
にたあ、と少女の口元が上向きに歪む。
海色の瞳に、それこそ深海のように深い得体の知れない何かをヴェイグは感じ取った、こいつは真に敵だと思った、が。
それよりも早くシャーリィの肘が炸裂していた。
小さな呻き声が上がる。
剣をするりとしゃがんで避け、屈んだ姿勢のまま氷でカバーされた腹部に、勢いよくブーツを突き出す。
その俊敏な動きには火傷の影響など微塵も感じさせない。


「血の匂いがするのに甘っちょろい……どうせ、どうせ中途半端な覚悟で人でも殺して目を背けてきたんでしょ?」
ヴェイグは倒れ込むのだけは免れたものの、よろけ、再び傷が痛み始めた。口の中では少し鉄の味がする。
鈍化した動きはシャーリィを接近させるのには充分だった。
「私はあんたの敵なんでしょぉ? まさかもう敵すら殺せないとか聖人気取ってる訳?
 何よそれ。殺すなら殺して開き直るぐらいの気持ちでいなさいよ!! 惨めじゃない!!!
 あんた殺した奴に失礼よ。何のために殺したのよ。
 一瞬の気の迷いで殺したの? それとも確固たる意思を持って? 馬鹿みたい。最っ高に馬鹿よあんた。
 そうだよ。だって何の目的もない奴に殺されたんだよ? 無駄死に。これほど悲しいことなんてない。正当防衛より酷いわ!
 止めちゃうなら最初から殺さなければよかったじゃない! そうすれば相手は助かってたのにね!! 
 誰も殺せない奴こそ死ぬべきなの! 最初からあんたが死んでた方がよかったの! そう、死になさいよ!! 今すぐここで!!
 ねぇ、あんたがお兄ちゃんを殺したの!!?」
右からの殴打、左振り上げの蹴撃、飛燕連脚、連牙弾。絶え間ない連撃にヴェイグは防戦一方になる。
剣を盾に両腕で防ぐも、傷みが蓄積し、腕の内部で血が滲み出している。
何よりもこの少女の打撃、まともに受け続ければ内出血で腕が駄目になる前に骨が折れる。
攻撃が止んだ一瞬の隙を突き、彼は攻撃に転じようとした。
――瞬間、その青い剣鋩に躊躇う。
回し蹴りが側頭部を捉えた。
視界が青くなり星がちらついた。耳がおかしい。意識が混濁する。
地に倒れ込んだことだけは辛うじて理解した。耳鳴りの中で微かに誰かが彼の名を呼んだことも。
「ムカつく。銀髪もムカつくし、2回も躊躇した。こういういけ好かない奴こそなぶり殺したいけど」
ぱし、ぱしと拳を手のひらに打ち合わせる音が聞こえる。続いて聞こえたのは骨を鳴らす音だった。
少女はまるで体躯の違うヴェイグの襟元を掴み、無理矢理起こす。
やっと視界がまともになってきた。
「まぁ、お兄ちゃんを生き返らせるために人を減らしてくれたってことは、褒めるべきかもね!」
感謝の言葉の後とは思えぬほどの憫笑を浮かべて、突き飛ばした。
渾身の後ろ回し蹴り、「輪舞旋風」。唸り声にも似た重い風切り音が、骨を砕こうとする勢いで鳴る。
だが、それは作り出した間合いに駆け込んできた少年によって阻まれた。
がしゃあ、と金属音が鳴る。
攻撃を受け止めた右腕にはガントレットが嵌められているのみで、魔玩は既に手にはない。
カイルは少し下唇を噛んで耐えてはいるが、その籠手はドワーフの名工に鍛えられたお墨付き、大したダメージは見受けられない。
一瞬、脚と腕が交差したまま、状況は止まる。
「……殺しても」
俯きがちで表情は金髪と影に覆われ見えない。
しかしシャーリィは左手の剣が黄色い光を纏っていることに気付くと、脚を引っ込め後方へと跳ぶ。
同時にディムロスは横に薙がれた。
「俺は、例え誰かを殺しても、後悔するより何も悪くないってへらへら笑ってる奴の方が大っ嫌いだっ!!」
剣は空振りでも、纏った光は前方に立ち昇る光の奔流、「閃光衝」となって発生した。
生まれた風がカイルの髪をなびかせ、解き、隠れた瞳を露わにさせた。
――恐ろしくも突き抜けた碧眼。かといって幼さゆえの真っ直ぐではない瞳。
それが、シャーリィを射抜く。
つい先刻の似たような瞳を思い出したのか、忌々しげに視線を返した。
光の柱の一部が腕と肩を切り裂く。
微かに舞い散る血を眺めて、痛みなど感じてないように声を短く漏らした。


「チアリング」
爪が一瞬輝きを発し、赤い光のベールがシャーリィを包み込む。
そして彼に向かって突撃を開始し、道中に落ちていた榴弾砲を拾い上げる。
疾駆する姿。小柄な身体にその巨砲はあまりに仰々しい。
それを彼の宿敵、バルバトス・ゲーティアが所持していたなどとはまさか分かる訳もない。
先端で金属光沢を放つグラディウスだけが、転々と変わる全てを写してきていた。
取手を右手に、トリガーを左手に、少女は胸を張り大きく振りかぶる。
肘が伸び切り、そして内側に曲がって行く。
カイルは右手をディムロスの刃に添え顔の前に翻す。
先端の銃剣と大剣は交わり合い、火花を散らす。同時に武器を相手の得物から離し、攻撃の形を変えて再び交差。
そして双方が相手から離れ間合いを取り、激突せんと走り寄る。
シャーリィは両腕を後方に引き寄せ引きつらせ、そこから大きく水平に振る。
カイルは1歩バックステップを取って薙ぎる銃剣から逃れる。
勢いそのままにシャーリィは榴弾砲を突き出す。後方へ跳躍したリーチが埋まっていく。
カイルの身体が沈む。
鼻先を刃が掠める。刃は虚空をスライドして何もない奥へ。
全身が斜めになり、地と榴弾砲の間を身体がすり抜けていく。形成される角度30度。
ずざざざざと地を擦る音と共に上がる少しの土煙。
スライディングでシャーリィの背後を取ったカイルは地に剣ごと着けた左手を軸にして左向きに反転、
その瞬時にディムロスを右手に持ち変え、回転の反動を利用し大剣を振るう。
空を裂く疾風の波、振るわれた衝撃波「蒼破刃」は振り向いたシャーリィの右腕に命中、
波は霧散し空気に気化するも少女は榴弾砲を取り落とした。
ふと合う視線。それぞれに伏在する光の色は違う。
隙を見逃す理由はない。
籠手の嵌った右手から再びグローブの嵌った左手にディムロスを持ち替え、彼は風を突き抜けていくように詰め寄る。
繰り出すは刺突。剣の間合いは至近距離でなければならない格闘と比べれば遥かに広い。
容赦なく顔面に狙いを定める。肘を思いっ切り伸ばし、剣先は眼に迫る。抉る、もうすぐで抉る。
見える表情。相手は微笑を浮かべていた。
突きってのは、まあ危ないストレートと同じだよね? そんな余裕ぶったことでも言わんばかりに、
少女は可愛らしくすいと首を傾ける。
止め切れぬ動作。剣は首の横を突き抜けて、身体は自然とシャーリィに近付く。
しっかりと締められた拳が、カイルの右頬を打ち抜いた。
軽く身体が飛ぶ。口が切れて鉄の味がする。彼は地に身体を預け、少女を見た。
頬に帯びた熱が籠手の冷たさで尚更顕わになる。


「あんただって血の匂いがするわ。あはっ、なのにそうやって御高説垂れるの? そいつと同類でしょ?
 偽善ね。偽善だわ。あんたは死体の山の上に立って生きてるのよ?」
シャーリィは呆れたように頬に手を添える。大きく吐き出された息は嘲りが混じっていた。
「……分かってるよ、そんなの!」
ふらりと俯いたまま立ち上がる。
カイルの大声はシャーリィ、ヴェイグ、誰しもの視線を奪っていた。
「そうだ。俺は皆のおかげで、皆がいたから生きてこられた。俺1人じゃ何も出来なかった。
 だから俺は決めた。皆のために……皆のために生きるって決めたんだ!!
 もう正義も悪もそんなの俺には関係ない。そんな考え方してたら誰が正しかったのかなんて分からない。
 俺は俺が信じてきた人を信じ続ける。自分を信じて自分の道を進む!!」
きっと顔を上げ間合いの開いた相手を見つめ、カイルはディムロスの鉾先を突き付けた。握り締められた拳は固い。
真っ向からの否定を言い渡されたシャーリィは反発的な態度のまま、向き合ったカイルを見返す。
何がおかしいのか、くつくつと小さな笑声を上げる。やがて堪え切れなくなったのか、呵呵大笑のごとく笑い転げ始めた。
「……自分の道を進む? 皆のために生きるゥ? ふふ、あァっはははははは!! とんだ詭弁ね!!
 だったらあんたの言う大っ嫌いのカテゴリに自分が入るじゃない!
 覚悟を決めるってことは人を斬り捨てるってことと同じなのよ! あんただって平然とした顔してるのよ!!
 なのにね」
シャーリィは般若のような顔から一転少女の顔に戻り、
「あなたは少しだけ戸惑いも持ってる……そういう格好付けの覚悟だけ決めてるとこが偽善だって言ってんのよッ!!」
カイルは視線を右下に流す。
「……そうだ、俺はまだあの人が分からない……でも俺は、戦うべき時からは逃げないって決めた!
 俺が戦うのは、生きて帰るのに障害になる奴だけだッ!!」
ディムロスを手に、速度を上げ突撃するカイル。
「あんたが皆のためだって言うなら、私はお兄ちゃんのために生きてるの!!」
両手に光を宿し、同じく突撃するシャーリィ。
「お兄ちゃんがいれば、友達も仲間も陸の民も水の民もいらない!」
その距離を徐々に縮めていく2人。勃発せんとする第2戦。
レンジは互いの領域であるショートへと変化した。
「誰も必要ない! 世界に1人、お兄ちゃんだけでいい!!」
少年は剣を地に擦り振り上げる。
「ううん、世界だって!! 滄我だっていらないわ!!」
少女は加速度的に走行速度を上げ、少年を擦り抜け背後へと回る。
帯びた摩擦熱を発火させ剣を振り落とす。「爆炎剣」。
些か体躯に合わぬその大剣は猛き炎を纏い、爆音だけが厳かに鳴り響いた。
まだ時間は残されている。互いに互いの行動を予想外と驚く様子はない。
「私はお兄ちゃんさえいればいいの!! お兄ちやん以外は何もいらない!!」
瞬間的に詰め寄る反動を威力転換する爪術、「幻竜拳」。
力を篭めれば内臓さえ破裂させられる。少女は間合いを見計らい、左手を振るう。
少年は背後の相手を見遣る。体を捻らせ突きを繰り出す。
「――お兄ちゃん以外全部、全部、全部なくなっちゃえばいいのよ!!!」
両の手は、それぞれが衝突の形を持って、接近し、交錯し合おうとしていた。
同じ年齢、15歳という不思議な共通点を2人は持っているのに、2人の道はこれほどまでに違っていた。

決着の間は刹那。
光は、消えた。


「なんで」
少年は剣を突き出したまま少女の顔を見る。
「なんで……なんで、なんで?」
飛び散り左頬に付着した血が鮮やかな赤色をしていた。
よく映えているのは気のせいだろうか。
「なんで爪術が出ないのよ!!? なんで、なんでよっ!!!??」


少女の左腕は、肘から先が身体から断裂していた。


欠けた左腕が中途半端に前に出され、それは確かに拳を振るおうとしていたことが窺える。
腕と存在しない何かを隔てるように鋒刃が突き出され、炎のレリーフを隠すように血の雫が滴っている。
しかしシャーリィは痛みに悲鳴を上げることはなかった。
むしろ、腕が抉り落とされたことなど気付いていないようにも見えた。
地に転がる手と下膊。断面から流血しているものの、手や服から僅かに見える皮膚が石のように硬く、
何よりもエメラルド色をしている。
断面の肉はしっかり桃色を保っているところが逆に薄気味悪い。
だが、カイルにとってはシャーリィが別の意味で平然としていることの方がずっと気持ち悪かった。
分からないが、何かが違うと彼は帖伏していく波の中で思った。
模範的行動――この場合なら痛覚に訴えるという――から逸脱した言動は、明らかな違和感を伴って、彼の心の隅で巣食っていた。
否、それよりは今までの、ただ自分の正義を貫き信念を語る少女の姿が雲散霧消し、この姿こそが根源、真の姿だと思ったのだ。
手に触れがたい黒い感情が内包された皮を剥いだような、それらは全て、真っ黒な形でどっと噴出し、
今の少女を象っているように思えたのだ。
その中で、暗闇の中の猫のように瞳だけがぎらぎらと輝いているのだ。
「どうして……どうして出ないの!? どうして滄我が応えてくれないの!?」
シャーリィは滄我の脈動を合致させようと腕を振るう。何度も、何度も、腕を振るう。
それでも聖爪術の緑色の光は右腕の爪、もちろん左腕にも宿らない。
「なんで、どうして!? 私はメルネスなのよ! 滄我の代行者!! 滄我の声を聞くことができるメルネスなのよ!?
 殺してるじゃない!! あなたの願ってたように、私、殺してるじゃない!!?」
空しい手の動きだけが続く。シャーリィの顔には明らかに悲痛の色が浮かんでいる。
一向に滄我の光が戻る気配はない。恩恵を受け、綺麗な金の髪が青く光輝く様子もない。
先程唱えたチアリングの赤いベールもその影をなくしている。
この世界の滄我、マナは代行者にすら加護を与えなくなってしまった。
カイルもヴェイグも、グリッドもトーマも黙して様子を見つめている。
「ねぇ、教えてよ!! どうして爪術が使えないの!?
 どうしてお兄ちゃんの力が使えないの!!? 教えて、教えてよ!! ねぇ!!!」
シャーリィは心底困り果てた表情に悲哀をエッセンスした顔をして、目の前のカイルに掴み掛かり、激しく身体を揺らす。
まだある左腕が見えない手で襟を握るかのようにぴくぴくと動いている。
カイルはまるで冷や水を頭から被ったように、先の闘志はぱたりと消え失せ、ただ、相手の行動にどう対応すればいいのかと、
揺れる視界の中で立ちすくんでいるだけだった。
例え揺れようが空の色は決して変わらず、ただ空に浮かぶ巨大な雲だけが上下した。
風の匂いも同じだ。いつの間にか硝煙の香りはかき消され、澄んだ空気の匂いが、少し鉄の臭いを混じらせて鼻を刺激する。
何も変哲もない景色の中で、目前の手のない少女だけが異質に思えた。


手の動きが止まる。
俯首した少女の頬をゆっくり、ゆっくりと涙が伝い、時間をかけ軌跡を残しながら顎まで行き着いて、骨の境目で一滴は止まり、
下へ下へと形を伸張し、出来立ての果実のような瑞々しさをもって、涙はぷつりと千切れ落ちた。
小さくお兄ちゃん、お兄ちゃんという子供の泣き声が聞こえてくる。
涙は跡を道のようにして通り、何度も流れ落ちている。
彼はもうどうしていいのか分からなかった。
目前の少女が何人も凶手に掛けてきたとしても、今その剣で一突きに殺すなどという行動は起こせなかった。
しくしくと泣く少女に対する哀れみの情も若干は混じっていたのかもしれないが、それよりはもっと別のものからだった。
ましてや腕を奪った事実とは程遠い。
一言で言えば、理解が追い着いていない。そしてそこには、少しの畏怖がある。
どうして少女は泣いているのか。
手が小刻みに揺れ出した。
窺えない表情の外で、溢れ出る涙だけが頬で瞬いてみせた。
「レルネルフェス……所詮は箱の中の滄我……」
ぽつり、シャーリィは耳を澄まさねば聞き取れないようなか細い声で呟く。やけに静かな声だった。
もちろん至近距離にいるカイルには、その言葉は届いた。呆然としていた意識が現実へと引き戻される。
気付けばすすり泣く音さえ聞こえなくなっている。
カイルは視線を少女の表情に移して、愕然――慄然とした。
その恐れ冷え切る心を更に圧迫するように、胸を思いっ切り押され、突き飛ばされる。
僅かに地から足が離れた間も、目はシャーリィの表情に捕らわれたままだった。
「ふふッ……はは、あはははひひっひひひひあははははははははははははははは!!!」
ぺたり、と尻餅をつく。
カイルはふるふると横に首を振る。違う、分からない、おかしい、拒絶、恐怖、全てが混ざり合ったような行為。
見上げる先の少女は、目を剥いて笑っていた。高々とした哄笑だけが、静かな空に響き渡った。
見かけと声質は確かにまだ思春期の子供のものなのに、まるで修羅か何かが乗り移っているのではないかと思わせるまでに、
その笑いは悪意に満ちていた。
「ひどいよね。もう爪晶術も爪体術も使えない」
シャーリィは疲れたように緩慢と首を振った。
「力が必要なの。力がなければ、負けてしまう」
残った右腕を胸元に当てる。その動きには何の躊躇もない。
「だから、あの姿に戻ってでも殺してやる」
服に隠れた胸元の石から、波紋のように、円状の青い光が広がる。
発生源は、紛れもなくネルフェス・エクスフィア。
あの惨劇の場にいた2人、グリッドとトーマは直感的に何かを悟ったのか、身体を跳ね上がらせた。
1人はスティレットを取り出し、もう1人は丁度足元に落ちていた榴弾砲を拾い上げ、左手首の痛みを抑して突撃する。


『……ィル、カイル!!』
ディムロスでさえ、類似した時のことを思い出してか、荒い声を上げた。しかし彼の耳に入ってはいない。
『そいつから離れろ! 危険過ぎる!』
必死のディムロスの呼び掛けも届かず、空しい余韻だけが頭の中で残る。
カイルの目は震えていた。
どろり、と長袖の中の肉が崩れる。ねっとりとした、油の浮かんだ桃色の液体が袖口から滴り落ちる。
内部では白骨も微かに曝け出されていた。
ただ、どのような原理を以てか、大半の肉は溶けたまま腕に留まり続け、まるでその肉自体が1つの生物として独立しているような――
色素が薄まった無数のヒルが蠢き吸い付いているような不気味さが、そこにはあった。
肉が五指にまで溶け落ち、掌を覆う。だらりと1本の太い棒がぶら下がっている状態だ。
そして更に下まで、地面すれすれまで肉が垂れ落ちた時、シャーリィの身体が痙攣を起こし、右の袖がぶちぶちと破けていく。
先端は三叉に裂けていく。指に相当する部分なのだろうが掌は殆どなく、
一指の長さは地面に触れ丸めている部分を含めても、人間の時より2倍近くに伸びている。
肉が下から走り抜けていくように緑へ変色し、肥大化する緑色の右腕が千切れた布の合間から覗いた。
それに伴い、半液体状だった肉が固定化される。ごつごつとしていて且つ硬く、人間のように柔らかく滑らかな肌の面影はまるでない。
無造作に地面に転がったままの腕ともまた違う色と形だった。
爪までも緑に変色し、喉笛を容易に裂けそうな、蜘蛛の足を思わせる長さと鋭利さを持っている。
はらはらと布切れが舞い落ちる。
袖というものが消え、現れた右腕は、――恐怖の権化だった。
息を呑む。もちろん感嘆ではない。
人は理解の及ばぬ埒外の対象を目の前にした時、ふっと出た黒く凍える靄にどうしようもなく頭を空白にされ、四肢を侵されるのだ。
「化け物」
凍結した思考の中で、静かに動いた口が語ったのはたった4文字。しかし、充分過ぎる形容だった。
何故ならそれは恐らく真実だろうから。
「何とでも言えばいいのよ。あんたの言葉なんて私には何も関係ないんだから」
ぴしぴし、と乾いた音が鳴る。
左足の僅かに残っていた素肌はエクスフィアに侵され、人間ではない色になっていた。
現在進行形でシャーリィの身体は輝石化が進行している。
輝石は首に掛かり――顔面にまで侵食し始めていた。
右頬に1つ付いた青緑色の宝石の奇妙さが、カイルの恐怖に拍車を掛けた。
「だってもう、私の気持ちなんて、どうせ……」
もう1つの奇妙、エクスフィギュア化した右手がカイルに伸ばされる。
伸びた影がカイルの身体を覆う。太陽の光が目から消える。
少女の華奢な身体は、逆光のせいで真っ黒、そう、真っ黒に見えた。
そしてたった154センチメートルの身長も、今だけは遥かに大きく見えて。
足は、動かなかった。
「どうせ……誰も分かってくれないもんねッ!?」
肉を抉ろうと振り落とされた手。
誰かの雄叫びが、空気を震えさせる。
それはカイルではなく、突き飛ばした青年が発したものだった。
背中に3本、裂傷が走る。
飛び散った血の一滴一滴が少年の顔にかかる。
生温い温度が気持ち悪い。
それでやっと我に返るのだから、人は愚かだと思う。


誰かの雄叫びが合図だった。
震える空気を引き裂いていくように、ナイフが空を直進する。
少女は遂に悲鳴を上げた。
投擲したナイフが少女の肩に深々と突き刺さっている。
つう、と血が流れる。
ぴし、ぴし。
少女は振り向く。
グリッドが投球を終えたフォームのまま止まっている。歯を食い縛り、額や頬に汗を浮かばせて。
その前を巨漢が榴弾砲を手に迫ってくる。
何故だか少女はそちらに既視感を覚える。
右手の方向を変え、手を背に回しナイフを抜く。
青年は背中の痛みを堪え立ち上がり、ガジュマを一瞥して、少年を少女から引き離そうとする。
理由も分からず、ないのかもしれない、少年は嫌だ嫌だと叫んだ。
瞳に涙を浮かべ、伝う液体はその質量ですぐに落ちた。
ぴし、ぴし。
刃が緋色に煌き滴る。
長いリーチを存分に生かし、振るった。
にたりと少女に不確かな笑みが浮かぶ。

「何であんたは腕付いてるのよお」

見事にすぱぁっと左腕は斬れた。
ただでさえ失血気味の血が存分に宙を舞った。
ごとりと榴弾砲が矮小な腕ごと落ちる。
咆哮。
ガジュマは止まらない。
少女は、シャーリィは動かない。
そして相手の右手が輝いていることに気が付いた。
決して動きはしない右手。
何故だろう、彼は反射的に手の方を見た。


光の糸が風になびきながら煌く。伏せられていた瞳が持ち上がる。
外に丸まった金髪の少女が、強く手を握り、太陽のように眩しく、眩しく笑いかけた。


風の流れる静かな音だけが世界を形成する素だった。それ以外は今は何もなかった。
瞳が揺れている気がした。
情けない顔だけは見せたくはなかったが、今だけはそんな顔で、子供のような顔だと思う。
五体満足、ただコック帽だけが欠けていて。それはあの無残な姿ではなくて。またあの笑顔を。
彼の頭はいっぱいいっぱいだった。混乱やら込み上げてきたものやら何から何まで分からない。
いつの間にか口が動いて言葉が出ていた。恐らく「ミミー」だったろうと思う。
丁度風さえも消える。何もない。時すらも今はない。
そのせいで声は音を伴わないで、不恰好で怠けた口の動きだけが少女に届いた。
少女ははにかんで、もう1度強く手を握る。
小さな手が大きな掌に包まれる。手の温もりを感じる。
彼はまた同じ口の動きを繰り返し、もう2度と離すまいと、手を握った。


それはただの幻だったのかもしれない。
金髪の少女は目の前にしかいない上に、彼の右手はぴくりとも動いていなかった。


極限まで高められたフォルスが具象化する。
引力と斥力が同時に発生し、交わり合う。有り得ぬ事象は周囲を歪め捩れさせ、黒いフォルスのフィールドを足元から形成していく。
断じて暴走ではない。確固たる意思の下に発動した強い力。
宙が、空間を塗り替えていく。
足場は消え、原理も分からず、地に足を付ける感触も落下する感覚もないのにその場に留まる。
ただ青黒い視界の中で幾つかの光点が散らばり、不安定なうねりは目に見えるほど具現されていた。
方向感覚が乱される。そもそも方向という概念があるのかすら疑わしかった。
ヴェイグもカイルもグリッドもシャーリィも、この異常な世界に巻き込まれた。
その内の1人、ヴェイグはこの状況を、トーマが何を為そうとしているか理解した。
そしてシャーリィは似た感覚を思い出す。つい昨晩のことだ。
駆ける。
発動させてはいけない。シャーリィの全ての細胞が、「それ」を発動させることを否としている。
絶叫。
異形と化した右腕を振り上げて少女は迫る。
走る、一条の光。
彼は心の底から、世界を震撼させる咆哮を上げた。


確かに、彼の右手は動かない。
しかし――それでも確かに繋がれた手が、その中心で、光り輝く。

ただ少女は光に呑まれて行った。


「マックスウェルッッ!! ロアァァァァァァァァァァァァァァァァーッッ!!!」


少年と青年、そして団長は遠くからその波濤を見つめるだけだった。


土煙が世界を覆う。全てを遮り、不明瞭な世界を作り出す。
トーマは荒く息をつく。フォルスの過剰消費は彼に多大な疲労を与えていた。
膝を折って座ろうとしたが、両腕がないに等しいことを思い出し、何とか仁王立ちを続ける。
手を握る感触はない。ミミーは、もういなくなってしまった。
何を言う、とトーマは心の中で悪態をつく。元々ミミーはこの場にいないではないか。いる訳がない。ミミーは死んだのだから。
手も、元から熱を帯びていたのか、後からなのか、もう分からない。
しかし何故か感じる空しさ。
この手を離し、もう2度と会えなくなったような、そんな感覚。
そして同時に覚える心の熱。
あの笑顔を、もう1度見せてくれた笑顔を――忘れはしない。

煙の奥で、黒い影がうっすらと現れた。どこにあるかも分からない第六感が、あのヤバさが、波打つ。

「グリッドォォォォォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
どうして今度はその名を呼んだのかが分からなかった。理解の埒外だ。
振り向きはしない。しかし、呼んだ名の男が後ろに佇み、立ち竦んでいることは何となく分かった。
叫び過ぎて声が掠れている。しばらくは声が出せないだろう。
その前に伝えねば気が済まない。

「テメェ、自分が自分で言ったこと忘れんじゃねぇぞ!!!
 どんなに甘かろうと、自分の言葉を偽るな!! 自分に嘘をつくなッ!! テメェは、テメェ自身の理想を成せッ!!!
 テメェは! テメェは、お前には――――」



――――
何故、脆弱なヒューマと共に歩んでいるのだろう。
自分はミミーの存在をこれほどまでに大きく感じているのだろう。
復讐の対象であったヒューマに、自分はいつの間に気を許したのだろう。
ミミーの命を奪った相手と普通に接していたのだろう。
今まで己に投げかけてこなかった謎。今更過ぎる問い、既に過ぎ去った問い。
それは厳密には命を奪った相手ではないからなのかもしれない。ミミーの声が聞こえたからなのかもしれない。
考えればもっともっと理由は出てくる。
けれども、答えは既に見つけている。もっと単純な理由がある。

きっと「心」とはそういう物なのだ。
知らない間に溶け出して、その溶けた水は他の誰かのと混ざり合い、暖まって、気付かない内に笑みを零させていく。
何故かも分からず、いつの間にか水は涙として共に流れ、時に頭が真っ白になるまで激しく波打ち、
時に暗い影で鬱陶しく滴り落ち、ある時また溶ける。
そのくせ惹かれているということすら覚えない。そしてふと自覚した時に、人は更に惹かれる。
疑惑や利害、憎悪を超えた所、何もない所で感じるもの、それがその人間の本質であり、自分の本当の心。
気付いたら出ている言葉と同じようなものだ。
自分の奥底が相手を肯定していればそれが全て。それが真。
例え壁が立ち塞がろうが鳥籠に入れられようが、その心の叫びは耳を塞いでも聞こえてくる。


ただ言えることは1つだけ。紛れもなく2人は「光」だったのだと。



煙のカーテンが開いて、世界を照らし、切り開くように目に差し込んでくるのは、やはり陽の光だったなんて。


どつん、と鈍い音が響いた。
煙の中で影が小さく揺れる。身体が後ろに倒れ込んでくる。
グリッドは見る。
ゆっくり、ゆっくりと倒れ込む姿を。それはとても自然で、穏やかで、静かだ。
煙を切り、トーマの姿が現れる。
グリッドは見る。訳も分からなく見る。
突如長く太い棒が登場し、縄に引かれ立てられる像のように、それはどんどん垂直になっていく。
そして身体が地面に到着した時、彼は全てを見た。
顔面にダーツのように突き刺さった、しかし余りに存在を誇示している、大きな榴弾砲を。


言葉は、既にそこで終りを迎えていた。

絶叫が、伝播した。


「私はお兄ちゃんと会う。好きな人とあっちで会えるといいね」


【グリッド 生存確認】
状態:更に強まった正義感 悲痛 混乱 プリムラ・ユアンのサック所持
所持品:マジックミスト 占いの本 ハロルドメモ プリムラの遺髪 ミスティブルーム ロープ数本
    C・ケイジ@I ソーサラーリング ナイトメアブーツ ハロルドレシピ
基本行動方針:漆黒の翼のリーダーとして生き延びる
第一行動方針:?
第二行動方針:シャーリィを倒す
第三行動方針:マーダー排除に協力する
現在位置:E3の丘陵地帯・滄我砲発射地点

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP30% TP50% 他人の死への拒絶 リオンのサック所持
   両腕内出血(動かすことは可能) 側頭部打撲 背中に3箇所裂傷
所持品:チンクエディア アイスコフィン 忍刀桔梗 ミトスの手紙
    「ジューダス」のダイイングメッセージ 45ACP弾7発マガジン×3
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:シャーリィを倒す
第二行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第三行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:E3の丘陵地帯・滄我砲発射地点

【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP45% TP55% 悲しみ 静かな反発 過失に対するショック シャーリィに対する恐怖
所持品:鍋の蓋 フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 要の紋
    蝙蝠の首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ ミントの帽子
    S・D 魔玩ビシャスコア アビシオン人形
基本行動方針:生きる
第一行動方針:シャーリィを倒す
第二行動方針:守られる側から守る側に成長する
SD基本行動方針:グリッド・ヴェイグ・カイルを指揮
現在位置:E3の丘陵地帯・滄我砲発射地点

【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
状態:HP40~?% TP10% 「力こそ正義」の信念 狂気
   右足に軽い切り傷 額に傷 背中に火傷 左前腕・左手欠落 右腕エクスフィギュア化
   ハイエクスフィア強化 爪術・クライマックスモード使用不可
   永続天使性無機結晶症(肉体が徐々にエクスフィア化。現在左半身+胸部+首がエクスフィア化。
   末期症状発症まではペナルティなし?)
   (備考:マクスウェル・ロアーのダメージは不明)
所持品:メガグランチャー ネルフェス・エクスフィア フェアリィリング ハロルドの首輪
    UZI SMG(マガジンは空) スティレット
基本行動方針:セネルと再会するべく、か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動し、優勝を目指す
第一行動方針:?
第ニ行動方針:E3→E2→C3の順で島を巡り、参加者を殺しまくる
第三行動方針:病気を回復させる方法・首輪を解除する方法を探す
現在位置:E3の丘陵地帯・滄我砲発射地点


※以下のアイテムがサックの中に入ったまま放置されています。
  イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり) パイングミ
  ジェットブーツ 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 首輪×2 ミラクルグミ
  ウィングパック(食料が色々入っている)  金のフライパン ウグイスブエ(故障)
  ハロルドメモ2(現状のレーダー解析結果+α) ペルシャブーツ
※レンズ片、銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲はトーマの身体に着けられたままです。
※魔杖ケイオスハートは氷漬けにされており現状では回収不可です。
 ヴェイグの力で凍結状態を解除、もしくは闘気や魔術に順ずるもので破壊する必要があります。


【トーマ 死亡】
【残り12人】

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