全て集う場所で-attackers-
息を荒くしろ。体内の酸素を筋肉へ、血を呼び覚ませ!
汗をかけ。脈を高鳴らせろ。乳酸を出しやがれ!
そんな人間なら当たり前のことすら、既にこの身には遠い過去。
そう思うと、吐く息も既に冷たい気がする。
汗をかけ。脈を高鳴らせろ。乳酸を出しやがれ!
そんな人間なら当たり前のことすら、既にこの身には遠い過去。
そう思うと、吐く息も既に冷たい気がする。
振り返りそうになる首を、ロイドは必死に固定する。
メルディに一方的に後を任せて一人で北に向かっている。これはどう考えても独断専行だ。
この行為の結果如何に関わらず、確実に残り五人に迷惑がかかる。
キール辺りは血管を切っているかもしれない。
(みんな…本当にゴメン。でも、もうこの機会を逃したら絶対に、俺が間に合わない……!!)
草を散らしてロイドは草原を、高台の脇を飛ぶように駆けていく。
感覚の無いはず背中を伝うのは未来への悔悟と、踏みにじった信頼。
それら全てを先ずは犠牲に。そうして得た対価となる時間は今のロイドには何よりも代え難い。
必死にそれを見ないようにしてロイドは走る。立ち止まったらもう絶対に動けないだろう、メルディと同じように。
走っているという自覚はあるのに、走っているという実感の無い。そんな浮遊感が彼を焦がす。
もし立ち止まったら、立ち止まってしまったら、もう走っているのか座っているのかすら確証を持てなくなるだろう。
耳も聞こえて、ヴェイグのように目を失った訳じゃないのに、分厚いガラス一枚を隔てたような孤立。
(ああ、これがきっと)
境界だ。死者と生者の狭間なんだ。死の側から生きている世界を見ている。
死人に意識があるとしたら、きっとこんな感じなのだろうか。
メルディに一方的に後を任せて一人で北に向かっている。これはどう考えても独断専行だ。
この行為の結果如何に関わらず、確実に残り五人に迷惑がかかる。
キール辺りは血管を切っているかもしれない。
(みんな…本当にゴメン。でも、もうこの機会を逃したら絶対に、俺が間に合わない……!!)
草を散らしてロイドは草原を、高台の脇を飛ぶように駆けていく。
感覚の無いはず背中を伝うのは未来への悔悟と、踏みにじった信頼。
それら全てを先ずは犠牲に。そうして得た対価となる時間は今のロイドには何よりも代え難い。
必死にそれを見ないようにしてロイドは走る。立ち止まったらもう絶対に動けないだろう、メルディと同じように。
走っているという自覚はあるのに、走っているという実感の無い。そんな浮遊感が彼を焦がす。
もし立ち止まったら、立ち止まってしまったら、もう走っているのか座っているのかすら確証を持てなくなるだろう。
耳も聞こえて、ヴェイグのように目を失った訳じゃないのに、分厚いガラス一枚を隔てたような孤立。
(ああ、これがきっと)
境界だ。死者と生者の狭間なんだ。死の側から生きている世界を見ている。
死人に意識があるとしたら、きっとこんな感じなのだろうか。
「……だからって、死んでるからって、諦められるか!!」
ロイドは走りながら立ち止まろうとする自分を鼓舞する。
生きている世界に指をかけてなんとか留まっている。そんなロイドに訪れた最後の機会が今ここにある。
ミトスからの誘い。クレスと魔剣、そしてミトスとコレットが一同に揃うかもしれない奇跡の瞬間が目の前に現れた。
罠だと思わない訳がない。クレスが来るかも分らない。そもそも機会が来ただけで勝目は塵に等しい。
それでも、それでもたった一枚のコインしか無い今、選べない二つを掻っ攫う奇跡の札が出たのだ。
乗っても破滅、乗らなくても破滅ならば、相手の札が何だろうと乗るしかない。
たとえ仲間に止められようと。諦めるという選択肢だけは、誓いに懸けて選ぶ訳にはいかない。
ロイドは走りながら立ち止まろうとする自分を鼓舞する。
生きている世界に指をかけてなんとか留まっている。そんなロイドに訪れた最後の機会が今ここにある。
ミトスからの誘い。クレスと魔剣、そしてミトスとコレットが一同に揃うかもしれない奇跡の瞬間が目の前に現れた。
罠だと思わない訳がない。クレスが来るかも分らない。そもそも機会が来ただけで勝目は塵に等しい。
それでも、それでもたった一枚のコインしか無い今、選べない二つを掻っ攫う奇跡の札が出たのだ。
乗っても破滅、乗らなくても破滅ならば、相手の札が何だろうと乗るしかない。
たとえ仲間に止められようと。諦めるという選択肢だけは、誓いに懸けて選ぶ訳にはいかない。
(それに、あの声。……何か引っかかる。知らない声なのに……あいつを思い出した……)
違和感でも既視感でもない、胸のざわつきが内側にひり付くのを感じながら、
ロイドは遂に招待状に記された場所に近付いているのを認識した。
違和感でも既視感でもない、胸のざわつきが内側にひり付くのを感じながら、
ロイドは遂に招待状に記された場所に近付いているのを認識した。
「そろそろ、C3が――――――って、何だありゃ」
剣を抜こうかとした手を止めて、ロイドは立ち止まる。
彼が知っているこの村は、もっと明るくて太陽の光に満ちていた。
少なくともここから再出発した時はこんな様ではなかった筈だ。
剣を抜こうかとした手を止めて、ロイドは立ち止まる。
彼が知っているこの村は、もっと明るくて太陽の光に満ちていた。
少なくともここから再出発した時はこんな様ではなかった筈だ。
「……村が…霧に、埋っている……?」
ロイドは変わり果てたその村の惨状――――と呼べるかどうかも分らない――――を、そう見たままに言うしかなかった。
ロイドは変わり果てたその村の惨状――――と呼べるかどうかも分らない――――を、そう見たままに言うしかなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
白い霧の中に影が二つ、蕩ける様にしてそこにあった。
輪郭は掴めないが辛うじてそれが人影であることは分かる。
輪郭は掴めないが辛うじてそれが人影であることは分かる。
しかし、その影の中に本当に人がいるのだろうか。そう思うほど、その影には生気が感じられない。
「もう1時か…それでも人がいないってのは、少し早すぎたか」
その一人、ティトレイが左手の弓を確かめながら他人事のように言った。
首をパリパリ鳴らして視界の広がらない空間を、その胡乱な瞳で眺める。
その横で、もう一人の剣士クレスが眼を閉じたまま無言で腕を組んでいた。
「なーるほど。クレスのことはどうであれ……組む気は更々無いって訳かい」
ティトレイはバックを下して中身を確認しながら溜息を吐いた。
村を丸ごと使ったこの大掛りな仕掛は狙う対象を選べるような代物ではない。
何時かは晴れるだろうが、そのタイミングが分らない以上今は一方的なミトスの手番である。
そしてなにより、とティトレイは後ろを振り向いた。
「これはやりすぎだろ。ここで皆殺しにするつもりかっての」
目を凝らせば霧が下に流れようとしている箇所が幾つかあり、その全てが落とし穴だった。
それがミトスの仕業であることは、疑わない余地はあっても疑わない理由はない。
ティトレイがサックから5、6本程矢を取り出して出鱈目に正面の地面に向けて射抜く。
白の中に茶色い土煙が少し混じって、それが収まったころには先ほどの穴と同じようなものが1個できていた。
「だいたいサイコロ一回分、ってところか」
ティトレイは目を細めて結果を確かめながらいった。
ビクビクしながら歩くには情けなくて、油断して走るには危険な割合が実に鬱陶しかった。
その一人、ティトレイが左手の弓を確かめながら他人事のように言った。
首をパリパリ鳴らして視界の広がらない空間を、その胡乱な瞳で眺める。
その横で、もう一人の剣士クレスが眼を閉じたまま無言で腕を組んでいた。
「なーるほど。クレスのことはどうであれ……組む気は更々無いって訳かい」
ティトレイはバックを下して中身を確認しながら溜息を吐いた。
村を丸ごと使ったこの大掛りな仕掛は狙う対象を選べるような代物ではない。
何時かは晴れるだろうが、そのタイミングが分らない以上今は一方的なミトスの手番である。
そしてなにより、とティトレイは後ろを振り向いた。
「これはやりすぎだろ。ここで皆殺しにするつもりかっての」
目を凝らせば霧が下に流れようとしている箇所が幾つかあり、その全てが落とし穴だった。
それがミトスの仕業であることは、疑わない余地はあっても疑わない理由はない。
ティトレイがサックから5、6本程矢を取り出して出鱈目に正面の地面に向けて射抜く。
白の中に茶色い土煙が少し混じって、それが収まったころには先ほどの穴と同じようなものが1個できていた。
「だいたいサイコロ一回分、ってところか」
ティトレイは目を細めて結果を確かめながらいった。
ビクビクしながら歩くには情けなくて、油断して走るには危険な割合が実に鬱陶しかった。
さてどうしたか、と言わんばかりに顎に親指を当てたティトレイに向けてクレスが一瞥した。
ティトレイを検定するかの様な目付きの奥に殺気が押し留められている。
「ま、しかたねえよ。どうやら俺らが一番乗りだし、他はもう少し後じゃねえの?」
「……探せないのか」
「無理無理。ここの土は大分ミトスに荒らされたみたいだし、さっき見た針金――だよなやっぱ――とかも合わさって、
ここの土と繋ぐのはちと時間がかからーな。面倒だからパス」
ティトレイはヘラヘラとしながらクレスを挑発するように答える。
今のクレスならこの程度で殺す理由になるだろう。
そんなことさえ楽しむかのような笑いを前にして、クレスは何もせずにぼそりと呟いた。
「――――‘本当か?’」
どるり、という音が聞こえた気がした。クレスの殺気がほんの少し漏れ出す。
白い霧の中に黒い殺気が混じって、更に粘性を増したような中で沈黙が続く。
「――――ああ、マジだ」
ティトレイは即答のように答えた。
ティトレイを検定するかの様な目付きの奥に殺気が押し留められている。
「ま、しかたねえよ。どうやら俺らが一番乗りだし、他はもう少し後じゃねえの?」
「……探せないのか」
「無理無理。ここの土は大分ミトスに荒らされたみたいだし、さっき見た針金――だよなやっぱ――とかも合わさって、
ここの土と繋ぐのはちと時間がかからーな。面倒だからパス」
ティトレイはヘラヘラとしながらクレスを挑発するように答える。
今のクレスならこの程度で殺す理由になるだろう。
そんなことさえ楽しむかのような笑いを前にして、クレスは何もせずにぼそりと呟いた。
「――――‘本当か?’」
どるり、という音が聞こえた気がした。クレスの殺気がほんの少し漏れ出す。
白い霧の中に黒い殺気が混じって、更に粘性を増したような中で沈黙が続く。
「――――ああ、マジだ」
ティトレイは即答のように答えた。
「…ならいい。少なくとも誰かを殺せるなら、何でも構わない。」
周囲の粘性が若干和らいで、ティトレイは肩を意図的にすくめた。
「さてま、じゃあご期待に応えてどこに行けばいいか考えるっかね」
そういいながら、頭を捻るが元が元故、大した案は出てこない。
待てば誰か来る以上、必要なのは知識ではなく時間なのだ。ましてや少なくとも
この村に霧を巻いている一人がいることだけは確かなのだから殺す相手そのものには困らない。
無い知恵を絞る理由はなく、どうやって時間を潰すかという思考が専らだった。
(どうすっかな。適当に散策ってのもこの霧じゃ無理だしな…どこに行けばいいんだろうな)
周囲の粘性が若干和らいで、ティトレイは肩を意図的にすくめた。
「さてま、じゃあご期待に応えてどこに行けばいいか考えるっかね」
そういいながら、頭を捻るが元が元故、大した案は出てこない。
待てば誰か来る以上、必要なのは知識ではなく時間なのだ。ましてや少なくとも
この村に霧を巻いている一人がいることだけは確かなのだから殺す相手そのものには困らない。
無い知恵を絞る理由はなく、どうやって時間を潰すかという思考が専らだった。
(どうすっかな。適当に散策ってのもこの霧じゃ無理だしな…どこに行けばいいんだろうな)
何処に行けばいい。その問いに、ティトレイの内側が鳴動する。
噛み砕くような焦燥感が懐かしい。
(帰りたいか。なら、私の言うことを聞いてもらおう。そうすれば)
何も見えなかったあの頃。何もなくとも、願いだけはあった。
(帰りたい。出口を。帰りたい。何処に。帰りたい)
手を突き出して彼は霧を掴もうとするが、霧は逃げるようにして外に押し出され握り拳は空手のまま。
その願いがどれだけ破綻しているのか、今ならよく分かる。
いや、あの頃の彼には分らなかったし、彼自身分かりたくなかった。
それが分かってしまったから、彼はこうしてここにいる。
噛み砕くような焦燥感が懐かしい。
(帰りたいか。なら、私の言うことを聞いてもらおう。そうすれば)
何も見えなかったあの頃。何もなくとも、願いだけはあった。
(帰りたい。出口を。帰りたい。何処に。帰りたい)
手を突き出して彼は霧を掴もうとするが、霧は逃げるようにして外に押し出され握り拳は空手のまま。
その願いがどれだけ破綻しているのか、今ならよく分かる。
いや、あの頃の彼には分らなかったし、彼自身分かりたくなかった。
それが分かってしまったから、彼はこうしてここにいる。
「ここらへん、まっしろ。でくちは―――――もう無くなっちまいました、とさ」
ティトレイは突き出した手を、まるで何かを手放すように広げて笑った。
何時ものフェイクのような笑顔とは違う、若干の寂しさが混じった笑顔だった。
何時ものフェイクのような笑顔とは違う、若干の寂しさが混じった笑顔だった。
「なんの話だ」
「なんも、ただ、どこから手遅れだったん―――ん?」
「なんも、ただ、どこから手遅れだったん―――ん?」
そんな折に、ティトレイは一本の筋のようなものを「嗅いだ」。
意識を澄ませて、鼻の内側の神経に一つに束ねる。
(霧の湿り気で気がつきにくいが、確かに…焦げた、いや、焼いた臭いか…)
大分空気と混じって辿り難いが、その筋は連綿と続いている。
意識を澄ませて、鼻の内側の神経に一つに束ねる。
(霧の湿り気で気がつきにくいが、確かに…焦げた、いや、焼いた臭いか…)
大分空気と混じって辿り難いが、その筋は連綿と続いている。
「クレス。行き場を決めた。向かうは罠の中の罠だ。レートをあげるぜ」
ティトレイは突き出した手の人差し指をその更に先に射した。
ティトレイは突き出した手の人差し指をその更に先に射した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うあ!」
力強く踏み込もうとしたロイドの片足が地面に沈む。
前傾姿勢は更に前に傾き、のめり込む様な形のロイドはその落とし穴に飲まれようとしていた。
「つっ…何度も何度も、引っかかるか!!」
ロイドは落ちようとする自分の体を守るために使うべき両手を重ねる。
(セット、イベイションからストレングス!)
中指から小指までの三指を巧みに駆動させて一秒に満たない速度で構成を変更する。
感覚の無い肉体に力が巡ったことを期待して、ロイドは咄嗟に穴の縁に指をかけた。
ロイドの視界は土の壁で埋まっている。
「…あっぶねー。ギリギリだった、な」
指をかけた瞬間の、ガクンという振動だけが目を通してギリギリの所で間に合ったことを伝えていた。
力強く踏み込もうとしたロイドの片足が地面に沈む。
前傾姿勢は更に前に傾き、のめり込む様な形のロイドはその落とし穴に飲まれようとしていた。
「つっ…何度も何度も、引っかかるか!!」
ロイドは落ちようとする自分の体を守るために使うべき両手を重ねる。
(セット、イベイションからストレングス!)
中指から小指までの三指を巧みに駆動させて一秒に満たない速度で構成を変更する。
感覚の無い肉体に力が巡ったことを期待して、ロイドは咄嗟に穴の縁に指をかけた。
ロイドの視界は土の壁で埋まっている。
「…あっぶねー。ギリギリだった、な」
指をかけた瞬間の、ガクンという振動だけが目を通してギリギリの所で間に合ったことを伝えていた。
大きく力を込めて、腕力だけで穴から飛び出る。
抜け出たロイドの前には村に入って以降変哲の無い白が相変わらず溜まっていた。
既にこれに類似した状況を数度繰り返して、十数分は経過している。
「くっそ……時間が足んねえってのに、ミトスのやつ何考えてやがる」
ロイドは数秒とは言え全体重を支えた指を擦りながら、焦れる心を何とか抑えようとしていた。
経験者である彼にしてみればこの罠の仕掛け人を解く必要は無い。
時間さえあれば霧も落とし穴も全て解決するのに、ロイドには時間が無いという理不尽だけがロイドの焦燥の基だった。
「ミトス!来てやったぞ。出てきやがれ!!」
ロイドは大きく息を吸って吼えた。
この暗中模索の状況下で下手に自分の居場所を曝すような真似が如何に危険かは分かっているが、
今の彼にとってはその危険すら踏み越えても時間という千金が惜しかった。
しかしロイドの淡い期待を踏みにじるかのように霧はその流動を失わず、術者であるだろうミトスの不動を謳っていた。
(くっそ…ミトスの奴、何を考えて…いや、何を狙ってやがる…?)
時間が経てば無効化されるトラップは、まるでロイドの足を止めるようにして効果を発揮している。
今なら霧に紛れて敵対する戦力を各個撃破できる。その絶好のチャンスをミトスは放棄し続けている。
(何が狙いだミトス……何を待ってやがる?)
そこまで考えていたところで、ロイドは不意に擦っていた指を見つめた。
一度舌打ちをして、グローブを外す。中指の爪が一枚割れていた。
手をグローブに入れ直しながらロイドは知恵を絞る。
ミトスの目的はマーテルの復活。これはミトスが見せ付けるようにして残したメッセージから分かっている。
その為に必要なのは、器であるコレット、マーテルのエクスフィア、そして、
「エターナルソード!!!」
抜け出たロイドの前には村に入って以降変哲の無い白が相変わらず溜まっていた。
既にこれに類似した状況を数度繰り返して、十数分は経過している。
「くっそ……時間が足んねえってのに、ミトスのやつ何考えてやがる」
ロイドは数秒とは言え全体重を支えた指を擦りながら、焦れる心を何とか抑えようとしていた。
経験者である彼にしてみればこの罠の仕掛け人を解く必要は無い。
時間さえあれば霧も落とし穴も全て解決するのに、ロイドには時間が無いという理不尽だけがロイドの焦燥の基だった。
「ミトス!来てやったぞ。出てきやがれ!!」
ロイドは大きく息を吸って吼えた。
この暗中模索の状況下で下手に自分の居場所を曝すような真似が如何に危険かは分かっているが、
今の彼にとってはその危険すら踏み越えても時間という千金が惜しかった。
しかしロイドの淡い期待を踏みにじるかのように霧はその流動を失わず、術者であるだろうミトスの不動を謳っていた。
(くっそ…ミトスの奴、何を考えて…いや、何を狙ってやがる…?)
時間が経てば無効化されるトラップは、まるでロイドの足を止めるようにして効果を発揮している。
今なら霧に紛れて敵対する戦力を各個撃破できる。その絶好のチャンスをミトスは放棄し続けている。
(何が狙いだミトス……何を待ってやがる?)
そこまで考えていたところで、ロイドは不意に擦っていた指を見つめた。
一度舌打ちをして、グローブを外す。中指の爪が一枚割れていた。
手をグローブに入れ直しながらロイドは知恵を絞る。
ミトスの目的はマーテルの復活。これはミトスが見せ付けるようにして残したメッセージから分かっている。
その為に必要なのは、器であるコレット、マーテルのエクスフィア、そして、
「エターナルソード!!!」
ロイドがそこに気付くと同時に、彼の右横3メートルほどの位置を矢が通り過ぎた。
「……待っていたのは、こいつらか…!!」
ロイドは霧の中、矢の軌跡を遡って走った。
ロイドは霧の中、矢の軌跡を遡って走った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
村の手前で、青年と少年が息を切らせながらも呆然としていた。
「凄い…初めて来たけど、この村ってこんな霧に覆われていたんですか?」
少年――カイルはホバリングする箒を両手で安定させながらも、目を見開いて村を凝視している。
普通に考えれば少年にも青年がここに来たことは無いと分かるはずだ。
それを指摘されても文句はいえず、青年もそれを指摘するだろうと思えたが、
「いや。俺も来たことは無い。しかし、これはまるでバルカ……」
目の前で進行しているその異様さに、青年、ヴェイグも余裕を奪われていた。
「あ、そうですよね。すいません…で、バルカって?」
カイルが尋ねると、ようやく今の立ち位置に気付いたのかヴェイグは二度頭を振った。
「俺の世界の王都だ。霧が蔓延している小大陸の中で蒸気が働いているものだから常に町が白く覆われている」
「そうですか…俺の居た世界だと白雲の尾根ってのが一番近いかな。
霧に覆われて迷いやすい山道なんですが…でも、これは」
自分達の知る項目に結びつけることで、2人はその異様さを処理する。
しかし、どうしてもその二つの地域と目の前の現象の相違なる要素だけはそれが出来ない。
「ああ、これは自然現象の類じゃない。明らかに作為的なものを感じる」
今まで走って来た路の天気の良さにせよ、既に昼を過ぎたこの時間帯にせよ、霧を構成する要素は一片も無い。
「間違いなく誰かいるってことですよね。心当たりは?ヴェイグさん」
「一番近い現象は雨のフォルスだが…ここにアニーは居ない。少なくともフォルスじゃない」
ヴェイグはチンクエディアにフォルスを込めて氷剣を生成する。
「…じゃあ、やっぱりアイツが……待ち構えていたってことか…ミトス!」
カイルは片手で箒を強く握り、開いた片手で武器の位置を確かめた。
それに呼応して、カイルの強力な力であるソーディアン・ディムロスは
「凄い…初めて来たけど、この村ってこんな霧に覆われていたんですか?」
少年――カイルはホバリングする箒を両手で安定させながらも、目を見開いて村を凝視している。
普通に考えれば少年にも青年がここに来たことは無いと分かるはずだ。
それを指摘されても文句はいえず、青年もそれを指摘するだろうと思えたが、
「いや。俺も来たことは無い。しかし、これはまるでバルカ……」
目の前で進行しているその異様さに、青年、ヴェイグも余裕を奪われていた。
「あ、そうですよね。すいません…で、バルカって?」
カイルが尋ねると、ようやく今の立ち位置に気付いたのかヴェイグは二度頭を振った。
「俺の世界の王都だ。霧が蔓延している小大陸の中で蒸気が働いているものだから常に町が白く覆われている」
「そうですか…俺の居た世界だと白雲の尾根ってのが一番近いかな。
霧に覆われて迷いやすい山道なんですが…でも、これは」
自分達の知る項目に結びつけることで、2人はその異様さを処理する。
しかし、どうしてもその二つの地域と目の前の現象の相違なる要素だけはそれが出来ない。
「ああ、これは自然現象の類じゃない。明らかに作為的なものを感じる」
今まで走って来た路の天気の良さにせよ、既に昼を過ぎたこの時間帯にせよ、霧を構成する要素は一片も無い。
「間違いなく誰かいるってことですよね。心当たりは?ヴェイグさん」
「一番近い現象は雨のフォルスだが…ここにアニーは居ない。少なくともフォルスじゃない」
ヴェイグはチンクエディアにフォルスを込めて氷剣を生成する。
「…じゃあ、やっぱりアイツが……待ち構えていたってことか…ミトス!」
カイルは片手で箒を強く握り、開いた片手で武器の位置を確かめた。
それに呼応して、カイルの強力な力であるソーディアン・ディムロスは
『――――――』
息を詰まらせたかのように沈黙していた。
「ディムロス?」
『――っ……どうした、カイル?』
ディムロスらしからぬ間の抜けたテンポに、カイルは二の句をスムーズに出せなかった。
「あ、えーっと…そうだ、そう。ここからどうする?ロイドは多分…」
カイルがディムロスからヴェイグの方へ視線を向ける。
「ああ、流石に間に合わなかった。十中八九、ロイドはこの霧の中だ」
ヴェイグが腰の後ろを確認しながら言った。
「これだけの仕掛けをしておいてミトスが何もしないはずが無い。突入するしか無いと俺は思います」
「その点には同意する。霧が晴れた頃には既に手遅れだ。問題は」
「ミントさんとロイド…どっちから手を打つか、ですね。二手に分かれるのは、やっぱり」
「ああ、ロイドもその女性もどこに居るか、それどころか無事なのかも分からない以上二手に別れても意味が無い。
この霧では最悪、俺達が二次遭難する危険がある。それでは向こうの思惑の上だ。それに……」
2人の話し合いの中、ディムロスはそれに関わらずにいた。
彼は議論に参加せずに、正しくは参加できずに一つの思考に没頭している。
息を詰まらせたかのように沈黙していた。
「ディムロス?」
『――っ……どうした、カイル?』
ディムロスらしからぬ間の抜けたテンポに、カイルは二の句をスムーズに出せなかった。
「あ、えーっと…そうだ、そう。ここからどうする?ロイドは多分…」
カイルがディムロスからヴェイグの方へ視線を向ける。
「ああ、流石に間に合わなかった。十中八九、ロイドはこの霧の中だ」
ヴェイグが腰の後ろを確認しながら言った。
「これだけの仕掛けをしておいてミトスが何もしないはずが無い。突入するしか無いと俺は思います」
「その点には同意する。霧が晴れた頃には既に手遅れだ。問題は」
「ミントさんとロイド…どっちから手を打つか、ですね。二手に分かれるのは、やっぱり」
「ああ、ロイドもその女性もどこに居るか、それどころか無事なのかも分からない以上二手に別れても意味が無い。
この霧では最悪、俺達が二次遭難する危険がある。それでは向こうの思惑の上だ。それに……」
2人の話し合いの中、ディムロスはそれに関わらずにいた。
彼は議論に参加せずに、正しくは参加できずに一つの思考に没頭している。
(この霧…晶術であることには間違いない。それは直ぐに分かることだ。
彼女がミトスに運用されていることは既にこの私が直に確認している)
だから、この状況は理解できる。理解できるはずだ。これは予測されうる出来事。
驚愕には値しない。理解しろ嚥下しろ整理しろ把握しろ理解理解理解納得出来ない。
彼女がミトスに運用されていることは既にこの私が直に確認している)
だから、この状況は理解できる。理解できるはずだ。これは予測されうる出来事。
驚愕には値しない。理解しろ嚥下しろ整理しろ把握しろ理解理解理解納得出来ない。
(だが…ソーディアンがマスターとの意思疎通無しでここまでの規模の術行使が可能なのか…?)
村一つ埋め尽くすようなディープミスト。ただのそれならば兎も角、ここまで拡張すればそれは最早上級術の行使に匹敵する。
それはつまり、ソーディアンの意思を無視してなお余りあるほどにミトスの能力が高いということになる。
決して、もう一つの可能性は有り得ない。有り得ないはずだ。
だがこの霧はディムロスに、その可能性よりも最悪な予感を与え続けている。
ソーディアンだからこと、よく理解した晶術だからこそ分かる。
この霧にミトスの意図はあっても意思は無い。‘術者は別’だ。
村一つ埋め尽くすようなディープミスト。ただのそれならば兎も角、ここまで拡張すればそれは最早上級術の行使に匹敵する。
それはつまり、ソーディアンの意思を無視してなお余りあるほどにミトスの能力が高いということになる。
決して、もう一つの可能性は有り得ない。有り得ないはずだ。
だがこの霧はディムロスに、その可能性よりも最悪な予感を与え続けている。
ソーディアンだからこと、よく理解した晶術だからこそ分かる。
この霧にミトスの意図はあっても意思は無い。‘術者は別’だ。
(真逆、真逆、そんなことがある訳が、いや、有り得ている訳が)
原理は分からない。根拠も無い。彼女がそうする理由が無い。
あるのは、予測の中に潜んだ一欠の予想。
霧の向こうに薄っすらと見え隠れする人の影。ディムロスはそれを良く知っている。
紫の髪と白い服、背中を向けた彼女が立っていた。
彼女が、アトワイトがゆっくりと振り向いて
あるのは、予測の中に潜んだ一欠の予想。
霧の向こうに薄っすらと見え隠れする人の影。ディムロスはそれを良く知っている。
紫の髪と白い服、背中を向けた彼女が立っていた。
彼女が、アトワイトがゆっくりと振り向いて
「ディムロス!!」
カイルの声に、ディムロスはようやく意識を固定した。
『…ああ、すまない。話は聞いていた。続けてくれ』
間違い無く聞いてなかっただろうなと判断したが、
かつては有ったであろう彼の顔を立てるためにそこには触れないことにした。
「とりあえず、中に入ってみようと思うんだけど、ディムロスはどう思う?」
『ヴェイグ、カイル。現状の戦力分析を』
「戦闘は可能だが…非連続とはいえここに来るまで錬術をそれなりに使ったからな。
状況にも寄るがあまり術技の乱発は出来ないだろう。カイル、お前は?」
そう語るヴェイグの息は既に整えられているが、ブーツによって節約はしたといえ残りの力は万全とは言い難い。
「俺は…力の消耗とかはヴェイグさんほどじゃないけど…正直厳しいですね。
ディムロスのサポート付きだし、箒を操るのは大分慣れたけど…
箒に乗ったままの戦闘は練習しようが無かったですし。術でのサポートならまだしも、直接戦闘に関して断言はできません」
カイルは淡々と言った。そういう風に言わなければ自分でも情けなさ過ぎる自己採点だったからだ。
しかし、背伸びはできない。身の丈に合わない強がりを通して、
自分のことを気にかけるこの青年にまた失望され、無理をさせる情けなさに比べればそんな評価すら受け止めるしかない。
節目がちに俯くカイルに向かってヴェイグはペルシャブーツを渡し、自分の身が自分で守れるなら十分だ、と言った。
『…ああ、すまない。話は聞いていた。続けてくれ』
間違い無く聞いてなかっただろうなと判断したが、
かつては有ったであろう彼の顔を立てるためにそこには触れないことにした。
「とりあえず、中に入ってみようと思うんだけど、ディムロスはどう思う?」
『ヴェイグ、カイル。現状の戦力分析を』
「戦闘は可能だが…非連続とはいえここに来るまで錬術をそれなりに使ったからな。
状況にも寄るがあまり術技の乱発は出来ないだろう。カイル、お前は?」
そう語るヴェイグの息は既に整えられているが、ブーツによって節約はしたといえ残りの力は万全とは言い難い。
「俺は…力の消耗とかはヴェイグさんほどじゃないけど…正直厳しいですね。
ディムロスのサポート付きだし、箒を操るのは大分慣れたけど…
箒に乗ったままの戦闘は練習しようが無かったですし。術でのサポートならまだしも、直接戦闘に関して断言はできません」
カイルは淡々と言った。そういう風に言わなければ自分でも情けなさ過ぎる自己採点だったからだ。
しかし、背伸びはできない。身の丈に合わない強がりを通して、
自分のことを気にかけるこの青年にまた失望され、無理をさせる情けなさに比べればそんな評価すら受け止めるしかない。
節目がちに俯くカイルに向かってヴェイグはペルシャブーツを渡し、自分の身が自分で守れるなら十分だ、と言った。
『……向こうの思惑は分からんが、この霧は我らの目的にとってはある意味好機だ。
霧に紛れて誰にも見つからずに奪還を遂行できるかも知れん』
逆も然りだが、と付け加えてディムロスは警戒を促す。
『目的に変更は無い。あくまでもロイド、ミント両名の確保が優先だ』
ディムロスは自分に言い聞かせるように再確認の事項を口にした。
霧に紛れて誰にも見つからずに奪還を遂行できるかも知れん』
逆も然りだが、と付け加えてディムロスは警戒を促す。
『目的に変更は無い。あくまでもロイド、ミント両名の確保が優先だ』
ディムロスは自分に言い聞かせるように再確認の事項を口にした。
「この霧だ。一度逸れれば安全に合流するのはコトになる。カイル、離れるなよ」
ヴェイグが一歩を踏み出して、霧の中へ入っていく。
「分かりました。俺達も行こうディムロス……ディムロス?」
カイルの呼びかけから2秒強の後、ディムロスは誰でもない誰かに声を掛けるように、呟いた。
『カイル……もしだ、悪夢が現』
ヴェイグが一歩を踏み出して、霧の中へ入っていく。
「分かりました。俺達も行こうディムロス……ディムロス?」
カイルの呼びかけから2秒強の後、ディムロスは誰でもない誰かに声を掛けるように、呟いた。
『カイル……もしだ、悪夢が現』
ディムロスの問いは、空間が揺れたかと錯覚するほどの大きな剣戟音によって寸断された。
「!?話は後だ。ヴェイグさん!!」
カイルはスイッチを入れたかのように素早くヴェイグの方を向いた。箒に力を込める。
「ああ、どうやら状況が動き始めた。行くぞ。遅れるな!」
2人はそれぞれの持てる力で霧の村へ突入する。
カイルはスイッチを入れたかのように素早くヴェイグの方を向いた。箒に力を込める。
「ああ、どうやら状況が動き始めた。行くぞ。遅れるな!」
2人はそれぞれの持てる力で霧の村へ突入する。
ディムロスはカイルの傍で箒を制御しながら黙している。
今は目の前の任務に全力を注ぐべきだ。他の事に、況してや唯の妄想などに気を取られている場合ではない。
だから忘れろ。忘れてしまえ。そうしなければトーマの言った通りに、根拠の無い悪夢が現実に成ってしまう。
今は目の前の任務に全力を注ぐべきだ。他の事に、況してや唯の妄想などに気を取られている場合ではない。
だから忘れろ。忘れてしまえ。そうしなければトーマの言った通りに、根拠の無い悪夢が現実に成ってしまう。
それなのに、霧の向こうで氷のような微笑を湛えた彼女の顔だけが忘れられない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ロイドは立ち止まった。乱れるはずの無い呼吸の拍が高ぶるのを感じる。
「叫び声が二度もしたから試しに撃ってみたんだけどよ、まさかお前一人だとは思わなかったぜ」
目の前には人ならざる人影が二つ。その奥には、彼らの仕業だろうか、黒い煙が一本立ち込めた焼け跡があった。
「なんだよ。まだ切り札隠してやがったとはな」
言葉とは裏腹に、ティトレイには驚いた様子は微塵も無い。
「なあ―――前にお前に言ったこと、覚えてるか?」
小指からの二指でスキルを設定。残りの三指で剣を抜く。
「…どうやら、本気らしいな。そういうの、多分嫌いじゃなかったぜ」
ティトレイが一歩下がると同時に、後ろにいたクレスが一歩前に出る。
ぼそり、とクレスの口が動いて、ティトレイがああ、とだけ返した。
ロイドが剣二つを構えた。
「叫び声が二度もしたから試しに撃ってみたんだけどよ、まさかお前一人だとは思わなかったぜ」
目の前には人ならざる人影が二つ。その奥には、彼らの仕業だろうか、黒い煙が一本立ち込めた焼け跡があった。
「なんだよ。まだ切り札隠してやがったとはな」
言葉とは裏腹に、ティトレイには驚いた様子は微塵も無い。
「なあ―――前にお前に言ったこと、覚えてるか?」
小指からの二指でスキルを設定。残りの三指で剣を抜く。
「…どうやら、本気らしいな。そういうの、多分嫌いじゃなかったぜ」
ティトレイが一歩下がると同時に、後ろにいたクレスが一歩前に出る。
ぼそり、とクレスの口が動いて、ティトレイがああ、とだけ返した。
ロイドが剣二つを構えた。
「アイツの連れでも二度目は無いぜ。精々最後の瞬間まで頑張って生きろよ?」
「……俺も言ったぞ。もう、諦めないってな」
「……俺も言ったぞ。もう、諦めないってな」
ロイドが疾駆した。今までの比ではない速度でクレスに肉薄する。
剣を抜く動作も、闘気を編むこともせずにクレスはロイドの一刀を半歩横に反れて避けた。
ロイドが前足を大きく地面に叩きつけようと力を入れる。それと同時にクレスが魔剣の柄に手を掛けた。
(終わったな…二の太刀要らずの精神かしらねえが、速く走ればいいってもんじゃねえだろ)
ティトレイは勝負ありの瞬間を見て、詰まらなそうに欠伸をした。
直進運動を円運動に急激に切り替えれば、その半径は速度に従って増加する。
早い話が、車は急には止まれないのだ。
必殺の一撃を避ければ、ターンして二撃目を繰り出そうにもロイドは自分の速さに縛られて僅かに隙ができる。
クレスはそこに合わせて攻撃を決めればいい。クレスの技量なら首一本楽に落とす。
剣を抜く動作も、闘気を編むこともせずにクレスはロイドの一刀を半歩横に反れて避けた。
ロイドが前足を大きく地面に叩きつけようと力を入れる。それと同時にクレスが魔剣の柄に手を掛けた。
(終わったな…二の太刀要らずの精神かしらねえが、速く走ればいいってもんじゃねえだろ)
ティトレイは勝負ありの瞬間を見て、詰まらなそうに欠伸をした。
直進運動を円運動に急激に切り替えれば、その半径は速度に従って増加する。
早い話が、車は急には止まれないのだ。
必殺の一撃を避ければ、ターンして二撃目を繰り出そうにもロイドは自分の速さに縛られて僅かに隙ができる。
クレスはそこに合わせて攻撃を決めればいい。クレスの技量なら首一本楽に落とす。
ティトレイの欠伸が頂点に達した瞬間、複雑な、しかし極大な剣戟音が彼の鼓膜を揺す振った。
頭を二三度小突いてティトレイは目の前の光景に目を細めた。
加速を付けすぎて防御も回避も間に合わないはずのロイドの剣が、クレスの魔剣の腹とぶつかっている。
いや、彼の目が間違ってなければ、ロイドが方向転換すると同時に‘更に加速’した。
有り得ない。加速をつけた物体が何らかの力で急激に停止すれば必ずその力が物体に跳ね返ってくる。
アレだけの加速をつけた上で急停止して、更に直後に加速を上乗せするなんてことは理屈に合わない。
いや、理屈以前に身体が保たない―――
「お前…まさか、そこまでするのかよ。バカじゃねえのか」
ティトレイは、考えうる中で一番現実的な答えを選び出し、そう言った。
加速を付けすぎて防御も回避も間に合わないはずのロイドの剣が、クレスの魔剣の腹とぶつかっている。
いや、彼の目が間違ってなければ、ロイドが方向転換すると同時に‘更に加速’した。
有り得ない。加速をつけた物体が何らかの力で急激に停止すれば必ずその力が物体に跳ね返ってくる。
アレだけの加速をつけた上で急停止して、更に直後に加速を上乗せするなんてことは理屈に合わない。
いや、理屈以前に身体が保たない―――
「お前…まさか、そこまでするのかよ。バカじゃねえのか」
ティトレイは、考えうる中で一番現実的な答えを選び出し、そう言った。
ロイドはティトレイのほうには何も答えずに、二刀でクレスの剣を止めている。
別にロイドは理屈に逆らった訳ではない。
おいそれと人間の限界を超えることは無いし、限界を超えた剣撃を繰り出せばその反動は公平に降り注ぐ。
別にロイドは理屈に逆らった訳ではない。
おいそれと人間の限界を超えることは無いし、限界を超えた剣撃を繰り出せばその反動は公平に降り注ぐ。
「バカは承知だ。だがな」
ただ、今のロイドには人間としての限界も、限界を超えた代償も、感覚として実感することが出来ないだけなのだ。
「これでようやく届いた。俺の意地、貫かせて貰うぜ、クレス」
「好きにしろ。僕は何でも構わない」
ロイドが睨んだ先で、クレスの無表情がぐるりと反転する。
ただ、今のロイドには人間としての限界も、限界を超えた代償も、感覚として実感することが出来ないだけなのだ。
「これでようやく届いた。俺の意地、貫かせて貰うぜ、クレス」
「好きにしろ。僕は何でも構わない」
ロイドが睨んだ先で、クレスの無表情がぐるりと反転する。
「だか言ったからには、せめて百回殺すまではその意地、貫いて貰う」
純然たる狂気と狂喜と凶器が、一つの混沌としてそこにいた。
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP35% TP20% 他人の死への拒絶 リオンのサック所持
両腕内出血 背中に3箇所裂傷 中度疲労 左眼失明(眼球破裂、眼窩を布で覆ってます) 胸甲を破砕された
所持品:チンクエディア アイスコフィン 忍刀桔梗 ミトスの手紙
45ACP弾7発マガジン×3 漆黒の翼のバッジ Eナイトメアブーツ ホーリィリング ペルシャブーツ
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:ヴェイグと共に剣戟音を追って村へ突入
第二行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:C3村・南口
状態:HP35% TP20% 他人の死への拒絶 リオンのサック所持
両腕内出血 背中に3箇所裂傷 中度疲労 左眼失明(眼球破裂、眼窩を布で覆ってます) 胸甲を破砕された
所持品:チンクエディア アイスコフィン 忍刀桔梗 ミトスの手紙
45ACP弾7発マガジン×3 漆黒の翼のバッジ Eナイトメアブーツ ホーリィリング ペルシャブーツ
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:ヴェイグと共に剣戟音を追って村へ突入
第二行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:C3村・南口
【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP45% TP35% 処置済両足粉砕骨折 両睾丸破裂 飛行中
所持品:鍋の蓋 フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全
蝙蝠の首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ ミントの帽子
S・D 魔玩ビシャスコア アビシオン人形 ミスティブルーム 漆黒の翼のバッジ
基本行動方針:生きる
第一行動方針:ヴェイグと共に剣戟音を追って村へ突入
第二行動方針:守られる側から守る側に成長する
第三行動方針:ヴェイグの行動を見続ける
SD基本行動方針:一同を指揮・ロイド、ミントの確保
現在位置:C3村・南口
状態:HP45% TP35% 処置済両足粉砕骨折 両睾丸破裂 飛行中
所持品:鍋の蓋 フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全
蝙蝠の首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ ミントの帽子
S・D 魔玩ビシャスコア アビシオン人形 ミスティブルーム 漆黒の翼のバッジ
基本行動方針:生きる
第一行動方針:ヴェイグと共に剣戟音を追って村へ突入
第二行動方針:守られる側から守る側に成長する
第三行動方針:ヴェイグの行動を見続ける
SD基本行動方針:一同を指揮・ロイド、ミントの確保
現在位置:C3村・南口
【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:天使化 HP30% TP35% 右手甲損傷 心臓喪失 砕けた理想
所持品:ウッドブレード エターナルリング ガーネット 忍刀・紫電 イクストリーム ジェットブーツ
漆黒の翼のバッジ×5 フェアリィリング
基本行動方針:最後まで貫く
第一行動方針:エターナルソードの為にクレスを倒す
第二行動方針:コレットの為にミトスを倒す
現在位置:C3村・ミトスの拠点跡
状態:天使化 HP30% TP35% 右手甲損傷 心臓喪失 砕けた理想
所持品:ウッドブレード エターナルリング ガーネット 忍刀・紫電 イクストリーム ジェットブーツ
漆黒の翼のバッジ×5 フェアリィリング
基本行動方針:最後まで貫く
第一行動方針:エターナルソードの為にクレスを倒す
第二行動方針:コレットの為にミトスを倒す
現在位置:C3村・ミトスの拠点跡
【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:TP80% 善意及び判断能力の喪失 薬物中毒
戦闘狂 殺人狂 殺意が禁断症状を上回っている 放送を聞いていない
所持品:エターナルソード クレスの荷物
基本行動方針:力が欲しい
第一行動方針:ロイドを殺す
第二行動方針:ヴェイグは結果的に戦闘不能に出来た場合のみ放置
第三行動方針:ティトレイはまだ殺さない
現在位置:C3村・ミトスの拠点跡
状態:TP80% 善意及び判断能力の喪失 薬物中毒
戦闘狂 殺人狂 殺意が禁断症状を上回っている 放送を聞いていない
所持品:エターナルソード クレスの荷物
基本行動方針:力が欲しい
第一行動方針:ロイドを殺す
第二行動方針:ヴェイグは結果的に戦闘不能に出来た場合のみ放置
第三行動方針:ティトレイはまだ殺さない
現在位置:C3村・ミトスの拠点跡
【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態:HP50% TP60% 感情希薄 フォルスに異常 放送をまともに聞いていない
所持品:フィートシンボル メンタルバングル バトルブック(半分燃焼) オーガアクス
エメラルドリング 短弓 クローナシンボル
基本行動方針:命尽きるまでゲームに乗る
第一行動方針:ロイドとクレスの戦いを観戦
第二行動方針:状況にもよるが基本的にクレスの(直接戦闘以外の)サポートを行う。
第三行動方針:ヴェイグに関しては保留
第四行動方針:事が済めばクレスに自分を殺させる
現在位置:C3村・ミトスの拠点跡
状態:HP50% TP60% 感情希薄 フォルスに異常 放送をまともに聞いていない
所持品:フィートシンボル メンタルバングル バトルブック(半分燃焼) オーガアクス
エメラルドリング 短弓 クローナシンボル
基本行動方針:命尽きるまでゲームに乗る
第一行動方針:ロイドとクレスの戦いを観戦
第二行動方針:状況にもよるが基本的にクレスの(直接戦闘以外の)サポートを行う。
第三行動方針:ヴェイグに関しては保留
第四行動方針:事が済めばクレスに自分を殺させる
現在位置:C3村・ミトスの拠点跡