The Saber
太陽は慈愛の暖かさを訳隔てなく大地に注ぎ込む。
木片の山と化した二件の家が、やけにこの平和な村の中で冗談のように浮いている。
その気味の悪い空間に気後れすることなく、小さな指がその血を掬い取る。
小さく均整な白い指が、その黒ずんだ赤に不躾に進入していく様が、その対比故に空間を更に不気味なものにする。
木片の山と化した二件の家が、やけにこの平和な村の中で冗談のように浮いている。
その気味の悪い空間に気後れすることなく、小さな指がその血を掬い取る。
小さく均整な白い指が、その黒ずんだ赤に不躾に進入していく様が、その対比故に空間を更に不気味なものにする。
指の使用者―――ソーディアン・アトワイトは手を握らせてその純白の手袋に血を擦り付けさせながら、
苦々しげにその状況を一瞥した。
『最悪ね……入れ違いになった、か』
2人の時空剣士が激戦を繰り広げた現場に初めて足を近づけた彼女は、そう言いながら周囲を見渡す。
自身にすら驚異的と思わせるその仮の肉体、コレット=ブルーネルの天使化によって強化された視力と聴力が仇となってしまった。
出来る限り巻き込まれないようにと有効捕捉範囲ギリギリの位置から戦いを観測していた為、
激戦の中心点、ロイド=アーヴィングがいると思しき位置までの距離が遠すぎた。
それだけの距離ですら彼女の存在を察知し、近接する殺人鬼相手ではその間合い取りも徒労ではあったが、
そこを苦労無く詰めてくるのは短距離転移能力を保有するクレスと、自身のマスターであるミトスぐらいのものだろう。
クレスの知覚を掻い潜る為に、最短距離で直行することも叶わないアトワイトにとってはこの距離は少し長い。
隠密能力の無い中ようやくの思いで近づいて、さて動けないロイドの様子を確認しようかと民家の影から顔を出してみれば、
当のターゲットは居らず、後に残されたのは遠目に見ても傍目に見ても相も変らず無茶苦茶な惨状である。
『やっぱり、あの怪物はミトスの障害ね。ここで何とかしなければならない……のだけれど』
クレスへの認識を確認した彼女は、同時にロイドの不在に思案を働かせる。
遠くからとはいえ、見る限りでは彼は相当の手傷を負ったはずだ。肉体的にも、精神的にも。
このダメージでは動けるはずも無いと判断して、神経をクレスへの哨戒に注いだのが裏目に出たか。
『ないとは思うけど……この村から逃げたとしたら、不味いわね』
アトワイト自身が理解するこの天使の身体なら、傷みこそすれ痛むことは無い。
クレスを直接相手取ったロイドの恐怖は、直後に同じ目に逢ったアトワイトにも理解できる。
傷もなにもかなぐり捨てて逃げ出すことも、可能性としては有りうるのではないだろうか。
その最悪の事態を想定した軌道修正案を練り上げようとした時、
苦々しげにその状況を一瞥した。
『最悪ね……入れ違いになった、か』
2人の時空剣士が激戦を繰り広げた現場に初めて足を近づけた彼女は、そう言いながら周囲を見渡す。
自身にすら驚異的と思わせるその仮の肉体、コレット=ブルーネルの天使化によって強化された視力と聴力が仇となってしまった。
出来る限り巻き込まれないようにと有効捕捉範囲ギリギリの位置から戦いを観測していた為、
激戦の中心点、ロイド=アーヴィングがいると思しき位置までの距離が遠すぎた。
それだけの距離ですら彼女の存在を察知し、近接する殺人鬼相手ではその間合い取りも徒労ではあったが、
そこを苦労無く詰めてくるのは短距離転移能力を保有するクレスと、自身のマスターであるミトスぐらいのものだろう。
クレスの知覚を掻い潜る為に、最短距離で直行することも叶わないアトワイトにとってはこの距離は少し長い。
隠密能力の無い中ようやくの思いで近づいて、さて動けないロイドの様子を確認しようかと民家の影から顔を出してみれば、
当のターゲットは居らず、後に残されたのは遠目に見ても傍目に見ても相も変らず無茶苦茶な惨状である。
『やっぱり、あの怪物はミトスの障害ね。ここで何とかしなければならない……のだけれど』
クレスへの認識を確認した彼女は、同時にロイドの不在に思案を働かせる。
遠くからとはいえ、見る限りでは彼は相当の手傷を負ったはずだ。肉体的にも、精神的にも。
このダメージでは動けるはずも無いと判断して、神経をクレスへの哨戒に注いだのが裏目に出たか。
『ないとは思うけど……この村から逃げたとしたら、不味いわね』
アトワイト自身が理解するこの天使の身体なら、傷みこそすれ痛むことは無い。
クレスを直接相手取ったロイドの恐怖は、直後に同じ目に逢ったアトワイトにも理解できる。
傷もなにもかなぐり捨てて逃げ出すことも、可能性としては有りうるのではないだろうか。
その最悪の事態を想定した軌道修正案を練り上げようとした時、
「クレス!お前だけは、お前だけは許さねえ!!」
全く正反対の事態を告げる声が、空を轟かせた。
その咆哮が止んだ後、先程の闘いと同種の空気が、そこから立ち上るのを、アトワイトは感じる。
間違いなく2人のターゲットは其処にいるという、確信するのに十分な材料だった。
『まあ、逃げるなんてことは考えないだろうとは思ったけど……』
ロイドは逃げなかった。これで最悪の事態は回避されたと言ってもいいだろう。
しかしその事実に手放しで喜べるほど、アトワイトは楽天家ではなかった。
コレットの拳を彼女の額に当てながら、頭痛を堪えるように目を瞑るアトワイトはボソリと力無く呟く。
『……あの橋で初めて見たときもバカだと思ったけど、真逆ここまでバカだとは思わなかったわ』
昨日の出来事から自動的に検索されるロイドの非合理極まりない行動の数々を振り返りながら、
更に深く、拳に顔を埋めさせてしまう。状況はロイドを愚かと嘲笑っている暇すら許さない。
少なくとも最後に確認した時点でのダメージは相当なものだった。
この短時間にどんなマジックを使えば、こんな無鉄砲、もといアグレッシブな行動に出られるのだろうか。
回復が自力で出来るとは考えにくいし、
手を差し伸べるような第三者の存在は、鐘楼台にいた時にアトワイト自身が調べて、いない事が確認されている。
ハッキリしているのは、ロイド=アーヴィングは碌な回復もせずにあのクレスに突撃していったということだ。
『貴方の男は大した人ね。それだけは保障してあげる』
誰に聞かせるともなく、皮肉っぽい言葉が内側に漏れる。
『せめて、無策の万歳突撃じゃないことを祈りましょう。私達の行うべきことは大して変わらないわ』
思考をブロック単位で入れ替えて、アトワイトは辺りを見渡す。
元々ロイド=アーヴィングを再度クレス=アルベインにぶつけるという計画だったのだから、
今の状況は決して彼女の計画から逸脱しているわけではない。
ただロイドに然るべき支援を与えた上で焚き付けるはずが、向こうが勝手に自然発火してしまい順序が逆になってしまった訳だが。
こうなってしまってはこちらが急ぐ他ない。
漁夫の利を狙うにしても、今のロイド単体ではアレに勝てないのは先程の戦闘で証明されている。
その戦闘を思い出しながら、アトワイトはその先程の戦闘跡を見回して、一つのものを発見する。
魔剣という圧倒的な強さによってウッドブレードという弱者が捻じ伏せられた、
その象徴として木刀の柄が一対、骸を残していた。
アトワイトはそれを拾いながら、この残骸がここにあることの意味を考えて、また頭を押さえる。
『それにしても、真逆丸腰で挑んだ訳じゃないでしょうね…』
それは流石に無いだろう、とアトワイトは一人で結論付ける。
そこまでクレスに過信を持つような人物なら、とっくに先程殺されていただろうからだ。
だがこんな短時間では大した武器の調達もままならないだろうし、普通に棒切れ2本位と想定した方がいいかもしれない。
ロイドの思惑が何にせよ、状況は楽観を許さない。
『念の為に持って行きましょうか。これほどの材質の木材、何処で見つけたかは知らないけれど、
もし彼が丸腰だった場合に使えるかもしれないわ』
アトワイトは柄をコレットの懐に仕舞い込むと、再び彼女が出来うる限りの範囲で気配を殺して走り出した。
支配する彼女にとっても支配される彼女にとっても、運命の時へと向かって。
その咆哮が止んだ後、先程の闘いと同種の空気が、そこから立ち上るのを、アトワイトは感じる。
間違いなく2人のターゲットは其処にいるという、確信するのに十分な材料だった。
『まあ、逃げるなんてことは考えないだろうとは思ったけど……』
ロイドは逃げなかった。これで最悪の事態は回避されたと言ってもいいだろう。
しかしその事実に手放しで喜べるほど、アトワイトは楽天家ではなかった。
コレットの拳を彼女の額に当てながら、頭痛を堪えるように目を瞑るアトワイトはボソリと力無く呟く。
『……あの橋で初めて見たときもバカだと思ったけど、真逆ここまでバカだとは思わなかったわ』
昨日の出来事から自動的に検索されるロイドの非合理極まりない行動の数々を振り返りながら、
更に深く、拳に顔を埋めさせてしまう。状況はロイドを愚かと嘲笑っている暇すら許さない。
少なくとも最後に確認した時点でのダメージは相当なものだった。
この短時間にどんなマジックを使えば、こんな無鉄砲、もといアグレッシブな行動に出られるのだろうか。
回復が自力で出来るとは考えにくいし、
手を差し伸べるような第三者の存在は、鐘楼台にいた時にアトワイト自身が調べて、いない事が確認されている。
ハッキリしているのは、ロイド=アーヴィングは碌な回復もせずにあのクレスに突撃していったということだ。
『貴方の男は大した人ね。それだけは保障してあげる』
誰に聞かせるともなく、皮肉っぽい言葉が内側に漏れる。
『せめて、無策の万歳突撃じゃないことを祈りましょう。私達の行うべきことは大して変わらないわ』
思考をブロック単位で入れ替えて、アトワイトは辺りを見渡す。
元々ロイド=アーヴィングを再度クレス=アルベインにぶつけるという計画だったのだから、
今の状況は決して彼女の計画から逸脱しているわけではない。
ただロイドに然るべき支援を与えた上で焚き付けるはずが、向こうが勝手に自然発火してしまい順序が逆になってしまった訳だが。
こうなってしまってはこちらが急ぐ他ない。
漁夫の利を狙うにしても、今のロイド単体ではアレに勝てないのは先程の戦闘で証明されている。
その戦闘を思い出しながら、アトワイトはその先程の戦闘跡を見回して、一つのものを発見する。
魔剣という圧倒的な強さによってウッドブレードという弱者が捻じ伏せられた、
その象徴として木刀の柄が一対、骸を残していた。
アトワイトはそれを拾いながら、この残骸がここにあることの意味を考えて、また頭を押さえる。
『それにしても、真逆丸腰で挑んだ訳じゃないでしょうね…』
それは流石に無いだろう、とアトワイトは一人で結論付ける。
そこまでクレスに過信を持つような人物なら、とっくに先程殺されていただろうからだ。
だがこんな短時間では大した武器の調達もままならないだろうし、普通に棒切れ2本位と想定した方がいいかもしれない。
ロイドの思惑が何にせよ、状況は楽観を許さない。
『念の為に持って行きましょうか。これほどの材質の木材、何処で見つけたかは知らないけれど、
もし彼が丸腰だった場合に使えるかもしれないわ』
アトワイトは柄をコレットの懐に仕舞い込むと、再び彼女が出来うる限りの範囲で気配を殺して走り出した。
支配する彼女にとっても支配される彼女にとっても、運命の時へと向かって。
目の前を高速で後ろに流れていく家々の景色は、既に輪郭が定まっていない。
自らの動体視力さえ追いつかない速度で、ロイド=アーヴィングはその身体に鞭を打って走らせていた。
それほど急いで走って心臓は大丈夫なのかと心配したくなるほどの疾駆に、
ロイドの前面を覆う赤黒く汚れた白い布が風に巻かれて乾いた血ごと剥ぎ取ってしまう。
その胸には向こう側まで覗けるほどの穴が開いており、心配するべき内臓が存在しなかった
虎牙破斬の際に身体に巻きつけていた布は背中ごと一刀の下に寸断され、その下から現れた、
彼が人間という生命として大事なものを欠落してしまったという烙印がまざまざと刻まれている。
痛みも疲れも感じないことは、彼にとってはとっくに慣れてしまったこととはいえ、
最後まで自分自身に隠しておきたかった事実を露出させることには流石に苦しみを覚えた。
彼自身の中で、砂時計がその微かな砂すらもその穴から溢していく様なイメージが、
布を取りに戻って塞げと自らを誘う。
しかし、彼はそんな感情すら脳裏から落として棄てていく。
そんなことよりもそんな思いよりも大切なものを守るために、奪われないために走る足を休めない。
自らの動体視力さえ追いつかない速度で、ロイド=アーヴィングはその身体に鞭を打って走らせていた。
それほど急いで走って心臓は大丈夫なのかと心配したくなるほどの疾駆に、
ロイドの前面を覆う赤黒く汚れた白い布が風に巻かれて乾いた血ごと剥ぎ取ってしまう。
その胸には向こう側まで覗けるほどの穴が開いており、心配するべき内臓が存在しなかった
虎牙破斬の際に身体に巻きつけていた布は背中ごと一刀の下に寸断され、その下から現れた、
彼が人間という生命として大事なものを欠落してしまったという烙印がまざまざと刻まれている。
痛みも疲れも感じないことは、彼にとってはとっくに慣れてしまったこととはいえ、
最後まで自分自身に隠しておきたかった事実を露出させることには流石に苦しみを覚えた。
彼自身の中で、砂時計がその微かな砂すらもその穴から溢していく様なイメージが、
布を取りに戻って塞げと自らを誘う。
しかし、彼はそんな感情すら脳裏から落として棄てていく。
そんなことよりもそんな思いよりも大切なものを守るために、奪われないために走る足を休めない。
流れていく景色が、チャクラムが投げられたと思しき場所が近いと告げたその時に、景色の“色”が変わった。
「――――ッ!!」
ロイドが踵から力強く大地を踏んで、自らを減速させる。
地面と足の摩擦が熱と少しばかりの土煙を生んだ。
分泌されない唾を飲み込むフリをしながらロイドは卸し立ての二刀を腰から引き抜く。
村特有の生活感の溢れる色から、生き生きとした輝きが砂漠の水の様に失われていく。
仕込んだ忍刀と宝石を確認して、属性がしっかりと発動するだろうことを確認する。
人間が人形に変わってしまいそうな殺気が、臭いそうなほどに漂っているのを感じる。
左手に仕込んだイクストリームを確認しながらロイドは前方を凝視した。
二軒向こうの家の影から、爪先が軟体動物のような生々しさで出てくる。
常人なら捉えられぬ変化を見極めて、ロイドは確信した。
その爪先を更に進めて現れる人影の名前を。
「――――ッ!!」
ロイドが踵から力強く大地を踏んで、自らを減速させる。
地面と足の摩擦が熱と少しばかりの土煙を生んだ。
分泌されない唾を飲み込むフリをしながらロイドは卸し立ての二刀を腰から引き抜く。
村特有の生活感の溢れる色から、生き生きとした輝きが砂漠の水の様に失われていく。
仕込んだ忍刀と宝石を確認して、属性がしっかりと発動するだろうことを確認する。
人間が人形に変わってしまいそうな殺気が、臭いそうなほどに漂っているのを感じる。
左手に仕込んだイクストリームを確認しながらロイドは前方を凝視した。
二軒向こうの家の影から、爪先が軟体動物のような生々しさで出てくる。
常人なら捉えられぬ変化を見極めて、ロイドは確信した。
その爪先を更に進めて現れる人影の名前を。
付随して煌めく紫の魔剣を駆る、最悪の殺人鬼の名前を。
「クレス……こんな所に、居やがったか……!」
ロイドは直様自分の下を去っていった男と、目の前にいる男の差異を認識する。
左肩に付いていた傷もロイドを驚かせるのに十分だったが、
それよりも直接的な顔の変化にロイドの意識は否応にも集中してしまう。
あの狂った双眸は、片方は相変わらず降りた前髪の中に隠れてその様子を窺うことは出来ないが、
前髪の切り落ちたもう片方の瞳は瞼から落ちる血に塗れながら赤く染まっている。
その眼窩から滴り落ちる様はまるで、血の涙を流しているかのようだった。
そんな状態でも眼としての機能を発揮できているのか、その血眼がロイドを捕らえた。
ロイドが右の剣を突きつける形で構える。
感覚を失った肌に感じるその殺気は先程戦っていた時のような鮮烈さは失われていたが、混沌さが増して粘り気を強めていた。
ゆっくりとしかし淀みなく歩を進めてくるクレスに対してロイドは全神経を注ぐ。
しかし、クレスはロイドから直に眼の焦点を外してしまった。
眼中に無いというよりは、眼中に入れる余裕が無いという外し方だった。
「……待ちな」
ロイドの剣が横に突き出され、傍を無言で通り過ぎようとしたクレスの足が止まる。
その剣先は揺らぎこそ無いものの、目の前で交戦の意思を見せて尚路傍の石扱いされたことに対する怒りに今にも震えそうだった。
このすでに確定してしまった戦いを前にして、ロイドが怒りを抑える必要は無い。
だが、戦端を再び開く前にロイドはどうしても確認しなければならないことがあった。
「コレットを……コレットをどうした?」
ロイドの瞼は眼球の裏まで乾きそうなほどに大きく開いたままで、静かに問う。
地面に刺さったあのチャクラムに近いこの場所で、最悪の予感を裏付けるように現れた殺人鬼。
この男がコレットと無関係だとはロイドには思えなかった。
しかし、ならばどうしてコレットはここにいないのか。当然の疑問がロイドを巡る。
脳裏に去来するのは最悪の未来。
コレットは誰かと戦っていた。そして殺人鬼はその場所から離れようとしている。
つまり離れるということはこの男は何かを終えてしまったということで、
つまり殺人鬼が終える何かとはつまりそういうことで。
つまり、つまり、つまり。
クレスの剣がゆっくり抜かれていくのをロイドは黙って見ているしかなかった。
臆したわけでも思考に絡め取られたわけでもなく、唯その刀身を凝視せざるを得なかった。
紫に妖しく輝く刃の半分がその輝きを失い、上塗りされるようにして赤色がこびり付いている。
クレスの口が少しだけ開いて、言葉を紡ぐための最低限の息を吸い込む。
ロイドの剣先が、決壊寸前の震えを見せる。
「クレス……こんな所に、居やがったか……!」
ロイドは直様自分の下を去っていった男と、目の前にいる男の差異を認識する。
左肩に付いていた傷もロイドを驚かせるのに十分だったが、
それよりも直接的な顔の変化にロイドの意識は否応にも集中してしまう。
あの狂った双眸は、片方は相変わらず降りた前髪の中に隠れてその様子を窺うことは出来ないが、
前髪の切り落ちたもう片方の瞳は瞼から落ちる血に塗れながら赤く染まっている。
その眼窩から滴り落ちる様はまるで、血の涙を流しているかのようだった。
そんな状態でも眼としての機能を発揮できているのか、その血眼がロイドを捕らえた。
ロイドが右の剣を突きつける形で構える。
感覚を失った肌に感じるその殺気は先程戦っていた時のような鮮烈さは失われていたが、混沌さが増して粘り気を強めていた。
ゆっくりとしかし淀みなく歩を進めてくるクレスに対してロイドは全神経を注ぐ。
しかし、クレスはロイドから直に眼の焦点を外してしまった。
眼中に無いというよりは、眼中に入れる余裕が無いという外し方だった。
「……待ちな」
ロイドの剣が横に突き出され、傍を無言で通り過ぎようとしたクレスの足が止まる。
その剣先は揺らぎこそ無いものの、目の前で交戦の意思を見せて尚路傍の石扱いされたことに対する怒りに今にも震えそうだった。
このすでに確定してしまった戦いを前にして、ロイドが怒りを抑える必要は無い。
だが、戦端を再び開く前にロイドはどうしても確認しなければならないことがあった。
「コレットを……コレットをどうした?」
ロイドの瞼は眼球の裏まで乾きそうなほどに大きく開いたままで、静かに問う。
地面に刺さったあのチャクラムに近いこの場所で、最悪の予感を裏付けるように現れた殺人鬼。
この男がコレットと無関係だとはロイドには思えなかった。
しかし、ならばどうしてコレットはここにいないのか。当然の疑問がロイドを巡る。
脳裏に去来するのは最悪の未来。
コレットは誰かと戦っていた。そして殺人鬼はその場所から離れようとしている。
つまり離れるということはこの男は何かを終えてしまったということで、
つまり殺人鬼が終える何かとはつまりそういうことで。
つまり、つまり、つまり。
クレスの剣がゆっくり抜かれていくのをロイドは黙って見ているしかなかった。
臆したわけでも思考に絡め取られたわけでもなく、唯その刀身を凝視せざるを得なかった。
紫に妖しく輝く刃の半分がその輝きを失い、上塗りされるようにして赤色がこびり付いている。
クレスの口が少しだけ開いて、言葉を紡ぐための最低限の息を吸い込む。
ロイドの剣先が、決壊寸前の震えを見せる。
「コレット? “誰だそれは?”」
まだ乾いていない血がベッタリ付いた魔剣を垂らしながら、目の前の殺し手はそう言った。
本気で心当たりが無さそうに、心底興味無さそうに、真実確かにそう言った。
彼女の血でその剣を穢しておいて、ぬけぬけと。
その激昂でロイドの中のブレーカーが一気に落ちる。
その手でコレットを殺しておいて、知らないと。
まだ乾いていない血がベッタリ付いた魔剣を垂らしながら、目の前の殺し手はそう言った。
本気で心当たりが無さそうに、心底興味無さそうに、真実確かにそう言った。
彼女の血でその剣を穢しておいて、ぬけぬけと。
その激昂でロイドの中のブレーカーが一気に落ちる。
その手でコレットを殺しておいて、知らないと。
「クレス!お前だけはッ!お前だけは許さねえッッ!!」
一対と一振併せて三本の刃が交錯し、戦場が再び鳴動する。
抜き撃ちのような一合目を互いに裁き、二人は二メートルほどの距離を空ける。
膠着が生まれるかと思えた距離を先に踏み込んだのは、クレスだった。
先程のロイドとの戦いで見せた特有の驕りは顔から消えて、そのギャップが無表情を焦燥にすら感じさせる。
「消えろ羽虫。両断するぞ」
クレスがロイドの頭の先を目掛けて、魔剣を真正面から振り下ろす。
唯の振り下ろしだが、それを振るう人間がクレスならばそれだけで速さの乗った必殺の一撃となる。
先の戦いの速さを踏まえて、この速度ならば確実に斬り落とせるという絶妙な剣速だった。
しかし、ロイドの髪に触れてからコンマ一秒で魔剣が頭蓋を割るその瞬間にそれは起きる。
ロイドの身体が半歩斜め前に出る。ロイドが起こしたことは、ただそれだけだった。
断頭台の一撃は横に流れた髪を斜めに切るだけで、斬るべき首を見失って後は虚しく地面を浅く切り分けるのみ。
「消えるのは手前だ、クレス!」
神速の回避を前にしてクレスの眼はその情報の処理に一瞬の空白を要した。
その一瞬にもう半歩ロイドが踏み込み、木剣を振り切る。
「グッ……」
左の剣がクレスの左肩の傷を叩くと、ぶしゅりと傷に溜まった血が吹き出た。
殺人鬼の口が苦悶に微かな歪みを見せながらも、
右腕には無関係とばかりに横薙ぎの反撃が半ば自動的に繰り出されるが、
後ろに飛退いたロイドの目の前で魔剣が通り過ぎるだけだった。
「……何をした」
剣を左手に持ち、クレスは右手で悪化した傷に手を乗せる。
その眼光は更に鋭くなり、殺意のボルテージが登っていっているのがロイドにも感じられた。
「別に。避けながら当てただけだ」
険しい面構えながらロイドは少しだけ皮肉そうに笑う。しかしそこには皮肉以上に確かな歓喜があった。
(避けた。避けられた!)
ロイドは心臓があれば高鳴ってしまいそうな、そんな確かな手応えを剣に握りしめた。
ジェットブーツと肉体のリミットカットによる無理矢理の加速でしか反応できなかったクレスの一撃を、確実に回避した。
それが得るところは天使化した身体すら限界まで軋むロイドにとって、非常に大きなウエイトを持っている。
ロイドの速力は実際の所ほとんど先の戦いと変わっていない。
イクストリームは速度を司る紋章ではないからだ。
ロイドが今まで失っていたのは回避は回避でも「見切り」の属性としての回避である。
故にロイドは先程の戦いで、紙一重の避けをせずに、
強引な運動制御と加速……即ちマクロ、大雑把な速さだけでクレスの攻撃を捌き続けていた。
だが、その代償は結果が示す通り反動によるダメージの蓄積、速さの無駄遣いである。
際どい一撃を背中に貰ってしまったロイドには、すでに先程までのような強引な回避はそれだけで危険なものになっていた。
(身体もそんなに痛くない。これなら、これならまだ続けられる!!)
しかしイクストリームを外し、紙一重での見切り…つまりミクロ、微細な速さを取り戻した今ならばその負荷は最小限で済む。
そしてそれは同時に、その驚異的な速度を十全に発揮できるということを意味する。
最大速度を最大効率で駆使し回避できる今のロイドは、防御面でならば先程の戦いとは別人の領域になっていた。
膠着が生まれるかと思えた距離を先に踏み込んだのは、クレスだった。
先程のロイドとの戦いで見せた特有の驕りは顔から消えて、そのギャップが無表情を焦燥にすら感じさせる。
「消えろ羽虫。両断するぞ」
クレスがロイドの頭の先を目掛けて、魔剣を真正面から振り下ろす。
唯の振り下ろしだが、それを振るう人間がクレスならばそれだけで速さの乗った必殺の一撃となる。
先の戦いの速さを踏まえて、この速度ならば確実に斬り落とせるという絶妙な剣速だった。
しかし、ロイドの髪に触れてからコンマ一秒で魔剣が頭蓋を割るその瞬間にそれは起きる。
ロイドの身体が半歩斜め前に出る。ロイドが起こしたことは、ただそれだけだった。
断頭台の一撃は横に流れた髪を斜めに切るだけで、斬るべき首を見失って後は虚しく地面を浅く切り分けるのみ。
「消えるのは手前だ、クレス!」
神速の回避を前にしてクレスの眼はその情報の処理に一瞬の空白を要した。
その一瞬にもう半歩ロイドが踏み込み、木剣を振り切る。
「グッ……」
左の剣がクレスの左肩の傷を叩くと、ぶしゅりと傷に溜まった血が吹き出た。
殺人鬼の口が苦悶に微かな歪みを見せながらも、
右腕には無関係とばかりに横薙ぎの反撃が半ば自動的に繰り出されるが、
後ろに飛退いたロイドの目の前で魔剣が通り過ぎるだけだった。
「……何をした」
剣を左手に持ち、クレスは右手で悪化した傷に手を乗せる。
その眼光は更に鋭くなり、殺意のボルテージが登っていっているのがロイドにも感じられた。
「別に。避けながら当てただけだ」
険しい面構えながらロイドは少しだけ皮肉そうに笑う。しかしそこには皮肉以上に確かな歓喜があった。
(避けた。避けられた!)
ロイドは心臓があれば高鳴ってしまいそうな、そんな確かな手応えを剣に握りしめた。
ジェットブーツと肉体のリミットカットによる無理矢理の加速でしか反応できなかったクレスの一撃を、確実に回避した。
それが得るところは天使化した身体すら限界まで軋むロイドにとって、非常に大きなウエイトを持っている。
ロイドの速力は実際の所ほとんど先の戦いと変わっていない。
イクストリームは速度を司る紋章ではないからだ。
ロイドが今まで失っていたのは回避は回避でも「見切り」の属性としての回避である。
故にロイドは先程の戦いで、紙一重の避けをせずに、
強引な運動制御と加速……即ちマクロ、大雑把な速さだけでクレスの攻撃を捌き続けていた。
だが、その代償は結果が示す通り反動によるダメージの蓄積、速さの無駄遣いである。
際どい一撃を背中に貰ってしまったロイドには、すでに先程までのような強引な回避はそれだけで危険なものになっていた。
(身体もそんなに痛くない。これなら、これならまだ続けられる!!)
しかしイクストリームを外し、紙一重での見切り…つまりミクロ、微細な速さを取り戻した今ならばその負荷は最小限で済む。
そしてそれは同時に、その驚異的な速度を十全に発揮できるということを意味する。
最大速度を最大効率で駆使し回避できる今のロイドは、防御面でならば先程の戦いとは別人の領域になっていた。
だが、決してそれは事態の好転を意味しない。
「だが、こんな蚊ほどの威力で僕の足を止める気か……時間の出血、お前の血で贖って貰うぞ」
構えられた魔剣には覆うようにして陽炎の様な歪みが漂っていた。
クレスが時空剣技を放つ所作にロイドの昂りは一気に引き締められる。
作戦とは万能ではない。防御面を強化したということは、その代償として破壊力を失ってしまったということだ。
先程は必死の抵抗を試みたコレットが付けたであろう傷にロイドが怒りを覚え、
感情のまま剣を当てた結果ダメージのようなものがクレスに生まれたに過ぎない。
ロイドは確信する。イクストリーム無しの威力では目の前の殺人鬼は倒せない。
そして幾ら回避できるとはいえ、一瞬でも気を途切れさせれば一撃で確実に斬り落とされるこの実力差の前では、
よほどの隙が生まれなければイクストリームやEXジェムセットし直して攻撃するなんて暇は与えられないだろう。
(つまり、クレスが呪いでダウンするまで、俺は避け続けるしかない)
持久戦に持ち込むのではなく、持久戦をせざるを得ない状況に持ち込まされてしまった。
どれだけ走ればゴールに辿り着けるか分からないマラソンゲームに、いつ朽ちるか分からないその肉体。
ロイドが再び立ちはだかった場所は、やはり絶望一色の景色だった。
しかし、自身を絶望に染め上げるにはまだ早過ぎる。
まだ、まだ終わりじゃない。少なくとも今はまだ終われない。
自分を染め上げるべきは、絶望の黒ではなく憎悪の赤。
「例え、例えもう間に合わないとしても……お前を潰すまで終われるか!!」
クレスがひとまず出血の収まった左肩から手を離し、再び戦闘態勢を取る。
それを見たロイドは剣を振りかざし、彼女の仇に向かって怒髪の如く真っ直ぐに突撃した。
その瞳に彼女を穢した殺人鬼へのクッキリとした憎悪を並々と湛えながら。
「だが、こんな蚊ほどの威力で僕の足を止める気か……時間の出血、お前の血で贖って貰うぞ」
構えられた魔剣には覆うようにして陽炎の様な歪みが漂っていた。
クレスが時空剣技を放つ所作にロイドの昂りは一気に引き締められる。
作戦とは万能ではない。防御面を強化したということは、その代償として破壊力を失ってしまったということだ。
先程は必死の抵抗を試みたコレットが付けたであろう傷にロイドが怒りを覚え、
感情のまま剣を当てた結果ダメージのようなものがクレスに生まれたに過ぎない。
ロイドは確信する。イクストリーム無しの威力では目の前の殺人鬼は倒せない。
そして幾ら回避できるとはいえ、一瞬でも気を途切れさせれば一撃で確実に斬り落とされるこの実力差の前では、
よほどの隙が生まれなければイクストリームやEXジェムセットし直して攻撃するなんて暇は与えられないだろう。
(つまり、クレスが呪いでダウンするまで、俺は避け続けるしかない)
持久戦に持ち込むのではなく、持久戦をせざるを得ない状況に持ち込まされてしまった。
どれだけ走ればゴールに辿り着けるか分からないマラソンゲームに、いつ朽ちるか分からないその肉体。
ロイドが再び立ちはだかった場所は、やはり絶望一色の景色だった。
しかし、自身を絶望に染め上げるにはまだ早過ぎる。
まだ、まだ終わりじゃない。少なくとも今はまだ終われない。
自分を染め上げるべきは、絶望の黒ではなく憎悪の赤。
「例え、例えもう間に合わないとしても……お前を潰すまで終われるか!!」
クレスがひとまず出血の収まった左肩から手を離し、再び戦闘態勢を取る。
それを見たロイドは剣を振りかざし、彼女の仇に向かって怒髪の如く真っ直ぐに突撃した。
その瞳に彼女を穢した殺人鬼へのクッキリとした憎悪を並々と湛えながら。
何者にも侵されぬはずの空間を、餓えに飢えた獣達の唸りのように震える響きが満たしていく。
夜明けの直前に、空が一気に白んでいくような様だった。
「……近いわね。隠そうともしない力の奔流がこんな場所にまで届くなんて。
肉眼でターゲットを捉えたわ。じきに貴方の体はあの戦場の特等席に辿り着く」
天地定まらぬその場所で、アトワイトは上を見上げた。
未だ眠ったフリを続ける少女に、目覚ましを鳴らし朝を告げる為に。
「驚いたわね。あの化物の剣を悉く交し切っている……あの怪我で、どうやって?」
コレットの身体から得られる情報を汲み取りながら、アトワイトは聞かせるように驚嘆を示した。
防戦一方とはいえ、あの魔剣から繰り出される一撃一撃を確実に丁寧に捌いていくその様は、
見ようによれば美しいと評してもいいだろう。
一体どんな手品があるのか。剣を見る限り新しい木刀をこの短時間で拵えた様だが、何かそこにカラクリがあるのだろうか。
ロイドそのものへの疑問は尽きぬが、アトワイトは直に思考を切り替える。
任務遂行を踏まえれば、どんな手品であれ状況が最悪一歩手前で留まってくれた事実だけで十分である。
そして今尚最悪に限りなく近い状況である以上、そんな無意味な思索に付き合う時間も彼女にとっては惜しい。
「でも、ここまで良い様に避けられてもまだ手加減をするような奴だったかしら?
少なくとも……先程のロイドとの交戦記録よりは……落ちている気がするわ」
ロイドの回避に対応するように、クレスの剣は僅か、ほんの僅かだが確かに精細さを欠いていく。
一度克明に見ていなければ気付き得ない程の微細な差では有るが、明確な劣化がそこに見て取られた。
ロイド=アーヴィングはこれを狙っていたのだろうか。そう考えれば辻褄が合わないことも無い。
「それでもこの2人の戦力差は絶大。アレが弱りきる前に彼が死んでしまっては元も子もない、か」
一撃当てれば殺せるクレスと、何度当てても倒せないロイドでは、
幾らロイドが攻撃を回避できて、なおかつクレスが時間と共に弱体化しているとしてもその差はあまりに大きすぎる。
今この瞬間もロイドが死ぬ可能性は離れない上、何よりこの評価はあくまで現状での総合的評価であり、
クレスがまだ手札を隠していた場合この均衡は何時崩れても不思議では無いのだ。
やはり、死人だけに任せていては事態の打開は期待できないだろう。
夜明けの直前に、空が一気に白んでいくような様だった。
「……近いわね。隠そうともしない力の奔流がこんな場所にまで届くなんて。
肉眼でターゲットを捉えたわ。じきに貴方の体はあの戦場の特等席に辿り着く」
天地定まらぬその場所で、アトワイトは上を見上げた。
未だ眠ったフリを続ける少女に、目覚ましを鳴らし朝を告げる為に。
「驚いたわね。あの化物の剣を悉く交し切っている……あの怪我で、どうやって?」
コレットの身体から得られる情報を汲み取りながら、アトワイトは聞かせるように驚嘆を示した。
防戦一方とはいえ、あの魔剣から繰り出される一撃一撃を確実に丁寧に捌いていくその様は、
見ようによれば美しいと評してもいいだろう。
一体どんな手品があるのか。剣を見る限り新しい木刀をこの短時間で拵えた様だが、何かそこにカラクリがあるのだろうか。
ロイドそのものへの疑問は尽きぬが、アトワイトは直に思考を切り替える。
任務遂行を踏まえれば、どんな手品であれ状況が最悪一歩手前で留まってくれた事実だけで十分である。
そして今尚最悪に限りなく近い状況である以上、そんな無意味な思索に付き合う時間も彼女にとっては惜しい。
「でも、ここまで良い様に避けられてもまだ手加減をするような奴だったかしら?
少なくとも……先程のロイドとの交戦記録よりは……落ちている気がするわ」
ロイドの回避に対応するように、クレスの剣は僅か、ほんの僅かだが確かに精細さを欠いていく。
一度克明に見ていなければ気付き得ない程の微細な差では有るが、明確な劣化がそこに見て取られた。
ロイド=アーヴィングはこれを狙っていたのだろうか。そう考えれば辻褄が合わないことも無い。
「それでもこの2人の戦力差は絶大。アレが弱りきる前に彼が死んでしまっては元も子もない、か」
一撃当てれば殺せるクレスと、何度当てても倒せないロイドでは、
幾らロイドが攻撃を回避できて、なおかつクレスが時間と共に弱体化しているとしてもその差はあまりに大きすぎる。
今この瞬間もロイドが死ぬ可能性は離れない上、何よりこの評価はあくまで現状での総合的評価であり、
クレスがまだ手札を隠していた場合この均衡は何時崩れても不思議では無いのだ。
やはり、死人だけに任せていては事態の打開は期待できないだろう。
「で、そろそろ覚悟は決まったかしら? コレット」
アトワイトが促すと、少女は艶を失った金髪を力無く垂らしながら立った。
その瞳は酷く歪んだ青で満たされ、少女の心中を悲痛なほどに物語っている。
一度だけ溜息をついた後アトワイトは言葉を切り出し、契約の内容を改めて語りだした。
「もう一度確認するわ。
貴方がリアラに使おうとしたあの術……彼がいうリヴァヴィウサーでロイドを可能な限り回復させる。
話が本当ならばその際に貴方の意識は潰えるでしょう。
余った肉体は器にミトスの姉の意識が入るまで私が完全に貰い受ける。認識に齟齬は無いわね?」
リヴァヴィウサーによる死を逆説的に利用するという一点を除いて、それはシンプルといえばシンプルな取引だった。
この天使術は自己犠牲の回復術であり、対価として術者一人の命を贄と差し出すいわば禁じ手である。
現にミトスもこの術が洞窟で使用されようとした際に止めた程だ。
魂が死んでしまえば肉体の滅びは止められず、ひいては器が砕けることを意味する故。
そう、あの時点では生かすしか手段が無かったのだ。アトワイトが覚悟を決めていなかったあの時点では。
今のコレットの肉体には二つの魂といって差し支えない意識が内包されている。
例えコレットの魂が失われても、バックアップが存在するならば話は全く変わってくるのだ。
「神子の意識は死に、その身体はマーテルに捧げられ生まれ変わる……
ミトスの言うことが事実ならば、器さえ維持できれば貴方の意識そのものは死んでも問題は無いということ」
そしてそのバックアップの意識を内包する剣は、この世界屈指の「癒し手」である。
この二つの要素を絡めれば、器を完全に確保した上で任務を遂行する目が出てくるのだ。
無論コレットの死はマーテルの器としては問題は無くとも、
マスターの支配に問題が出てしまう可能性が大いにあるとも、アトワイトは考えていた。
しかし現状の維持が既に望めないものならば、例え自らにリスクを負おうが手を打つしかないとも考えていた。
「回復後のロイドの安全は、私の裁量が及ぶ限りには保障してあげる。……確認すべき内容はこんなところね」
ミトスの命令次第ではどうなるかは分からないけど、と脳裏に浮かぶ二の句を仕舞い込みアトワイトはコレットに確認を促す。
アトワイトが促すと、少女は艶を失った金髪を力無く垂らしながら立った。
その瞳は酷く歪んだ青で満たされ、少女の心中を悲痛なほどに物語っている。
一度だけ溜息をついた後アトワイトは言葉を切り出し、契約の内容を改めて語りだした。
「もう一度確認するわ。
貴方がリアラに使おうとしたあの術……彼がいうリヴァヴィウサーでロイドを可能な限り回復させる。
話が本当ならばその際に貴方の意識は潰えるでしょう。
余った肉体は器にミトスの姉の意識が入るまで私が完全に貰い受ける。認識に齟齬は無いわね?」
リヴァヴィウサーによる死を逆説的に利用するという一点を除いて、それはシンプルといえばシンプルな取引だった。
この天使術は自己犠牲の回復術であり、対価として術者一人の命を贄と差し出すいわば禁じ手である。
現にミトスもこの術が洞窟で使用されようとした際に止めた程だ。
魂が死んでしまえば肉体の滅びは止められず、ひいては器が砕けることを意味する故。
そう、あの時点では生かすしか手段が無かったのだ。アトワイトが覚悟を決めていなかったあの時点では。
今のコレットの肉体には二つの魂といって差し支えない意識が内包されている。
例えコレットの魂が失われても、バックアップが存在するならば話は全く変わってくるのだ。
「神子の意識は死に、その身体はマーテルに捧げられ生まれ変わる……
ミトスの言うことが事実ならば、器さえ維持できれば貴方の意識そのものは死んでも問題は無いということ」
そしてそのバックアップの意識を内包する剣は、この世界屈指の「癒し手」である。
この二つの要素を絡めれば、器を完全に確保した上で任務を遂行する目が出てくるのだ。
無論コレットの死はマーテルの器としては問題は無くとも、
マスターの支配に問題が出てしまう可能性が大いにあるとも、アトワイトは考えていた。
しかし現状の維持が既に望めないものならば、例え自らにリスクを負おうが手を打つしかないとも考えていた。
「回復後のロイドの安全は、私の裁量が及ぶ限りには保障してあげる。……確認すべき内容はこんなところね」
ミトスの命令次第ではどうなるかは分からないけど、と脳裏に浮かぶ二の句を仕舞い込みアトワイトはコレットに確認を促す。
コレットは黙ったまま、俯きがちに頷く。
「……いいの?多分あのロイドというのは、きっと貴方の期待に添えられないわよ」
そう言い終わった後で、アトワイトは自分の発言に疑問を持った。
どうしてこんなことを言ってしまったのだろう。もしここでコレットが足を退いてしまえば計画は水に帰るというのに。
最後の最後まで飴で誑かして、自己犠牲に酔わせて突き落としてしまえばいいのに。
「いいんです」
乾いた声でコレットがポツリと返す。
「王子様を待つ資格なんて、私には無かったんです」
諦めたような、悟ったような、そんな寂しさに包まれた少女を見てアトワイトは思う。
「全部、“全部私のせい”なのに、それが分かってたのに私は何も出来なくて。
ううん、私は何もしなかった。バカみたいに助けを待つことしかしなかったから、こうなっちゃった」
ああ、この少女は王子様に愛されなくても、愛することが出来るお姫様なのだと。
だから自分を救えぬ無能な馬鹿王子を今この瞬間も案じている。
「だから、だから……仕方ないんです。これはきっと、報いだから」
震える少女の肩を、アトワイトはそっと抱いた。
彼女が何に悔やんでいるのかは判らなかったが、
少なくとも何故最後の最後まで自分がこの少女を支配し切れなかったのか、判った気がした。
「……いいの?多分あのロイドというのは、きっと貴方の期待に添えられないわよ」
そう言い終わった後で、アトワイトは自分の発言に疑問を持った。
どうしてこんなことを言ってしまったのだろう。もしここでコレットが足を退いてしまえば計画は水に帰るというのに。
最後の最後まで飴で誑かして、自己犠牲に酔わせて突き落としてしまえばいいのに。
「いいんです」
乾いた声でコレットがポツリと返す。
「王子様を待つ資格なんて、私には無かったんです」
諦めたような、悟ったような、そんな寂しさに包まれた少女を見てアトワイトは思う。
「全部、“全部私のせい”なのに、それが分かってたのに私は何も出来なくて。
ううん、私は何もしなかった。バカみたいに助けを待つことしかしなかったから、こうなっちゃった」
ああ、この少女は王子様に愛されなくても、愛することが出来るお姫様なのだと。
だから自分を救えぬ無能な馬鹿王子を今この瞬間も案じている。
「だから、だから……仕方ないんです。これはきっと、報いだから」
震える少女の肩を、アトワイトはそっと抱いた。
彼女が何に悔やんでいるのかは判らなかったが、
少なくとも何故最後の最後まで自分がこの少女を支配し切れなかったのか、判った気がした。
『じゃあ、行きましょうか。アイスニードル…刀身氷装』
剣風が強く強く巻き荒れる中、二人の剣士が己の体を回していく。
一つは全てを飲み込む台風として、一つは全てを受け流す風車として、闘いを回していく。
「調子に、乗るな……次元斬!!」
苛々とした語勢を強めながらクレスは飛翔して斬撃をロイドへと飛ばす。
しかし、ロイドは飛んだクレスを見てそれを次元斬の予備動作と確認し、一足飛びで射程圏から離脱する。
打ち下ろされた蒼い刃が地面に衝突した瞬間、その中心で殺意の波濤が大地からの反力を受けて半円状に膨張、
衝撃波となって拡散し直撃を避けた者を引き裂こうと爪を伸ばすが、
EXジェムとブーツで自らを速力に特化させたロイドには半歩届かない。
「一体何度見てきたと思ってやがる。そんな技二度と喰らうか!」
「ほざけ、殺すぞ」
気勢を吐くロイドの背後から殺気と呪詛が具現する。
翔転移してきたクレスの刃は、その時点で既に背骨ごとロイドの腸を引き摺り出せる位置にあった。
既に加速を蓄えてから転移した一刀が横一文字に払われる。
「ほざいてんのは……」
だが、ロイドは確かに認識した。二拍、今までよりも遅いと。刀が届く位置まで毒は回りきったと。
ロイドはバックステップもせずに剣を横に伸ばすとなめらかに木刀は魔剣の下に滑り込む。
二つの刀身の腹と腹が擦れ合い、その瞬間ロイドの瞳が爛と怒りに輝く。
「手前だろッ!!」
振り向きざまにロイドの蹴りが木刀の峰を上の魔剣ごとかち上げる。
加速する剣は別方向からの力に無防備で、クレスの腕ごと魔剣は大きく浮いた。
発生位置さえ読み切ったロイドは紙一重で捌いて、無防備な間隙を縫いにかかる。
ロイドが完全に体を向けたその先には、一瞬のものとはいえクレスの無防備な真正面が開いていた。
「…………喰い殺す。転移蒼破斬!!」
蒼い闘気によって編まれる最終防壁がクレスの前方に巻き上がり、
翔転移から蒼破斬への隙間のない連携はロイドの斬撃が届く前に守備を完成させてしまう。
それでもロイドは一歩殺人鬼へ踏み込み、左の剣に力を込める。
そして右手は、その力を込めた左手に手を添えた。
セット―――やっぱり、蒼破斬が薄い―――『スピリッツ』、
セット―――俺の打撃の弱さからこの程度で十分だと思いやがった―――『コンボプラス』、
セット―――それとも剣無しで編むのはそれが限界か…なんでもいいや。とにかく―――『ワンモア』、
セット―――この薄さなら、合わせりゃ行ける―――『キャンセラー』。
一つは全てを飲み込む台風として、一つは全てを受け流す風車として、闘いを回していく。
「調子に、乗るな……次元斬!!」
苛々とした語勢を強めながらクレスは飛翔して斬撃をロイドへと飛ばす。
しかし、ロイドは飛んだクレスを見てそれを次元斬の予備動作と確認し、一足飛びで射程圏から離脱する。
打ち下ろされた蒼い刃が地面に衝突した瞬間、その中心で殺意の波濤が大地からの反力を受けて半円状に膨張、
衝撃波となって拡散し直撃を避けた者を引き裂こうと爪を伸ばすが、
EXジェムとブーツで自らを速力に特化させたロイドには半歩届かない。
「一体何度見てきたと思ってやがる。そんな技二度と喰らうか!」
「ほざけ、殺すぞ」
気勢を吐くロイドの背後から殺気と呪詛が具現する。
翔転移してきたクレスの刃は、その時点で既に背骨ごとロイドの腸を引き摺り出せる位置にあった。
既に加速を蓄えてから転移した一刀が横一文字に払われる。
「ほざいてんのは……」
だが、ロイドは確かに認識した。二拍、今までよりも遅いと。刀が届く位置まで毒は回りきったと。
ロイドはバックステップもせずに剣を横に伸ばすとなめらかに木刀は魔剣の下に滑り込む。
二つの刀身の腹と腹が擦れ合い、その瞬間ロイドの瞳が爛と怒りに輝く。
「手前だろッ!!」
振り向きざまにロイドの蹴りが木刀の峰を上の魔剣ごとかち上げる。
加速する剣は別方向からの力に無防備で、クレスの腕ごと魔剣は大きく浮いた。
発生位置さえ読み切ったロイドは紙一重で捌いて、無防備な間隙を縫いにかかる。
ロイドが完全に体を向けたその先には、一瞬のものとはいえクレスの無防備な真正面が開いていた。
「…………喰い殺す。転移蒼破斬!!」
蒼い闘気によって編まれる最終防壁がクレスの前方に巻き上がり、
翔転移から蒼破斬への隙間のない連携はロイドの斬撃が届く前に守備を完成させてしまう。
それでもロイドは一歩殺人鬼へ踏み込み、左の剣に力を込める。
そして右手は、その力を込めた左手に手を添えた。
セット―――やっぱり、蒼破斬が薄い―――『スピリッツ』、
セット―――俺の打撃の弱さからこの程度で十分だと思いやがった―――『コンボプラス』、
セット―――それとも剣無しで編むのはそれが限界か…なんでもいいや。とにかく―――『ワンモア』、
セット―――この薄さなら、合わせりゃ行ける―――『キャンセラー』。
クロスセット――――――ここまで鈍ってるなら……持久戦は俺の勝ちだ――――――『テクニカル』。
セット――――――これでどん底の穴ぶち抜いて、堕ちやがれ!!――――――イクストリーム・オン。
セット――――――これでどん底の穴ぶち抜いて、堕ちやがれ!!――――――イクストリーム・オン。
自らの体に強大な力と得も言われぬ鈍さが充つるのを感じたロイドは再び、死と隣り合わせの極限へ突入した。
威力増加と次元斬を纏った切り上げが殺人鬼の障壁を切り裂く。
ロイドはもう一本の剣を大きく振り上げた。
「虎牙破斬……僕の転移式を見て尚その技が。よほど死にたいらしいな」
続く斬り下ろしをクレスは籠手で受け止めようと頭上に左手を翳す。
タイミングを見切ったクレスの甲が木刀をはじき飛ばそうとぶつかって、
威力増加と次元斬を纏った切り上げが殺人鬼の障壁を切り裂く。
ロイドはもう一本の剣を大きく振り上げた。
「虎牙破斬……僕の転移式を見て尚その技が。よほど死にたいらしいな」
続く斬り下ろしをクレスは籠手で受け止めようと頭上に左手を翳す。
タイミングを見切ったクレスの甲が木刀をはじき飛ばそうとぶつかって、
「獲った――――――雷破斬!!!」
「雷……だと?」
木刀に忍んだ刃から伝う雷撃が、クレスの肉体の中の体液を駆けめぐった。
微かな焦げ臭さと共にクレスの体が一瞬止まり、次いで膝が折れそうになる。
「寝させるか……楽になんか、させるかッ!!」
しかし、ロイドの斬撃がクレスに倒れることを許さない。
上段から振り払い、昇るような刺突、大きく横薙ぎ。
そして回転しながらの二連撃でクレスの体が後ろに下げられていく。
クレスの背後一メートル先には民家がじわりと迫っていた。
「散沙雨!!」
ロイドの乱れ突きがクレスの腹を貫きこそしないが、抉りかき乱す。
技の使用と同時に、ロイドの景色に砂嵐が走る。
何かが削げ落ちる感覚を前にロイドは立ち止まらず納得した。
限界を超えた駆動が、もう碌に残っていない精神を削っているのだろう。
技の使用と同時に自分が涸れていくのが体感できてしまう。
この連撃の終わりには、欠片も残らないかもしれないという予感がして……ロイドは笑った。
「ああああああああああ! 虎牙破斬ッ!!」
切り上げと切り下ろしにクレスの体が上下に揺さぶられる。
クレスに貫かれたマーテルの死に顔が脳から落ちた。例え全部削げ落ちても怒りはここにある。
「吹き飛んで楽になれると思うな!秋沙雨ェ!!」
再び撃ち込まれる五連撃を民家の壁に打ち付けられながらクレスはまともに食らう。
体に覚えさせた技巧が、締めに繰り出されるはずの切上を止めて更なる連撃に繋ぐ。
守れなかったスタンの表情を何処かに亡くした。尽きぬ怒りが、このポンコツに最後の油を差してくれる。
クレスに殺された人への無念が、殺人鬼への怒りが、そしてなにより湧き出るその思いが、未だこの身の滅びを許さない。
「コレットを……返しやがれェェェェェェ! 驟雨ッ双破斬!!」
木刀に忍んだ刃から伝う雷撃が、クレスの肉体の中の体液を駆けめぐった。
微かな焦げ臭さと共にクレスの体が一瞬止まり、次いで膝が折れそうになる。
「寝させるか……楽になんか、させるかッ!!」
しかし、ロイドの斬撃がクレスに倒れることを許さない。
上段から振り払い、昇るような刺突、大きく横薙ぎ。
そして回転しながらの二連撃でクレスの体が後ろに下げられていく。
クレスの背後一メートル先には民家がじわりと迫っていた。
「散沙雨!!」
ロイドの乱れ突きがクレスの腹を貫きこそしないが、抉りかき乱す。
技の使用と同時に、ロイドの景色に砂嵐が走る。
何かが削げ落ちる感覚を前にロイドは立ち止まらず納得した。
限界を超えた駆動が、もう碌に残っていない精神を削っているのだろう。
技の使用と同時に自分が涸れていくのが体感できてしまう。
この連撃の終わりには、欠片も残らないかもしれないという予感がして……ロイドは笑った。
「ああああああああああ! 虎牙破斬ッ!!」
切り上げと切り下ろしにクレスの体が上下に揺さぶられる。
クレスに貫かれたマーテルの死に顔が脳から落ちた。例え全部削げ落ちても怒りはここにある。
「吹き飛んで楽になれると思うな!秋沙雨ェ!!」
再び撃ち込まれる五連撃を民家の壁に打ち付けられながらクレスはまともに食らう。
体に覚えさせた技巧が、締めに繰り出されるはずの切上を止めて更なる連撃に繋ぐ。
守れなかったスタンの表情を何処かに亡くした。尽きぬ怒りが、このポンコツに最後の油を差してくれる。
クレスに殺された人への無念が、殺人鬼への怒りが、そしてなにより湧き出るその思いが、未だこの身の滅びを許さない。
「コレットを……返しやがれェェェェェェ! 驟雨ッ双破斬!!」
雷撃含めた怒濤の乱撃合わせておよそ三十の怒りがクレスを大きく吹き飛ばし、
殺人鬼を叩き付けられた大地は砂塵を巻き上げた。
殺人鬼を叩き付けられた大地は砂塵を巻き上げた。
崩れ落ちる体を、ロイドは木刀で支える。その両足は生まれたての子鹿のように震えていた。
「……死にきってない。俺、まだ死にきってなかった…」
ロイドは、破顔一笑と言うには些か気の抜けた笑いを見せた。
『テクニカル』『スピリッツ』、そしてフェアリィリングの三重式によって、
切り札を切ってしまったロイドに残された最大武装の単独大連撃を繰り出して尚その意識をかろうじて此岸に残している。
「もうちょい、余裕があったら……ダウン追い打ち魔神剣も絡められたのになあ……畜生」
悔やみの言葉を吐きながら、その顔は笑顔で、同時に泣いていた。
クレスによって殺された人達の仇を討ったという感慨と、仇を討ったところで失ったものは帰ってこないのだという失意。
その二つが纏めてロイドの表面に露出した結果だった。
「クソ……まだ……諦めるな。後は、ミトスさえ倒せば、エターナルソードで…全部リセットすれば…」
コレットを失ってしまった言葉に弱さが滲み出る。
「メルディ……ゴメン……そうでも思わなきゃ、俺、もう生きられない……」
零れない涙を瞳に湛えながら、悔しさを垂れ流す。
誰も、もう誰もいない。そんな世界は、この羽根では飛ぶことも適わないのだ。
例え欺瞞と虚構に満ちた希望だとしても、光がなければ闇を飛べない。
「……死にきってない。俺、まだ死にきってなかった…」
ロイドは、破顔一笑と言うには些か気の抜けた笑いを見せた。
『テクニカル』『スピリッツ』、そしてフェアリィリングの三重式によって、
切り札を切ってしまったロイドに残された最大武装の単独大連撃を繰り出して尚その意識をかろうじて此岸に残している。
「もうちょい、余裕があったら……ダウン追い打ち魔神剣も絡められたのになあ……畜生」
悔やみの言葉を吐きながら、その顔は笑顔で、同時に泣いていた。
クレスによって殺された人達の仇を討ったという感慨と、仇を討ったところで失ったものは帰ってこないのだという失意。
その二つが纏めてロイドの表面に露出した結果だった。
「クソ……まだ……諦めるな。後は、ミトスさえ倒せば、エターナルソードで…全部リセットすれば…」
コレットを失ってしまった言葉に弱さが滲み出る。
「メルディ……ゴメン……そうでも思わなきゃ、俺、もう生きられない……」
零れない涙を瞳に湛えながら、悔しさを垂れ流す。
誰も、もう誰もいない。そんな世界は、この羽根では飛ぶことも適わないのだ。
例え欺瞞と虚構に満ちた希望だとしても、光がなければ闇を飛べない。
そう、闇を生きられない。闇を、此の目の前に広がる、剣の闇を。
「直撃で、これか……参ったな……」
王の前に恭しく道を空けるように、砂塵がロイドの視界から失せて晴れる。
そこ輝く紫の刃にこびり付いた血は、既に黒くなっていた。
黒い刃を握った殺人鬼、否、闘神がその二本の足でしっかりと大地を貫いていた。
「随分、ひでえザマだな。王様みたいなさっきまでの余裕はどうしたよ。“こんなものか青二才”って吐いてみやがれ」
ロイドは震えた手で木刀を握り、五メートル程離れた敵に突きつける。
決壊寸前の疲労を抱えたロイドには片方の剣は未だ支えとして必要だった。
しかし、クレスの姿はロイドの攻撃が確実に決まったことを物語っていた。
白い鎧は所々ひび割れて、肌に密着した黒地の布は所々が裂けてその中から青い痣が深く彫り込まれている。
そして、髪が覆った顔の中で唯一露出した鼻と口から血が流れていた。
口からの血はめった打ちに突かれた腹は口腔から血を逆流させ、
鼻の血は切り上げと切り落としは、顎や顔面を確実に打ち貫いていた証だった。
表情からはダメージを図りようもないが、確実に体内にはダメージが蓄積されていると判断するのに十分だった。
「俺は王じゃない。王を殺す側だ」
その言葉に、ロイドは少し面を喰らった。
その理解できない内容にではなく、その今までのような嗜虐的な音がなく、
嫌悪を感じさせない、まるで別人のようなその語調に。
クレスが魔剣を持ち上げる。その所作はスムーズで、ダメージをほとんど感じさせない。
「木偶の坊と言った非礼は詫びる。だが、お前は邪魔だ。
お前が道を塞ぐとなれば、今度こそ此の一撃で屠る。今ならもう一度見逃そう」
魔剣がクレスの両手に握られる。
「態度が改まってもそのスカした余裕は変わらないってか……ふざけるなよ、クレス。通すと思ってるのか」
これまでには無かった両手持ちに、ロイドの全身は総毛立つ。
自身の全てが首肯し、ロイドはイクストリームをオフにした。
確信する―――今から繰り出される一撃はクレスの奥の手だと。
「そうか……お前、“アレの手下か”。ならば俺に立ちふさがるのも納得できる」
クレスが両手で握った魔剣を腰溜に構えた。
「ならば、出し惜しみは無しだ。お前には酷かも知れないが、とっておきの一刀で殺す」
ロイドが杖代わりの剣を抜いて、ジェムをセットし直し
『パーソナル』『ダッシュ』『イベイション』を配置。自身を回避に特化する。
「秘奥義かよ……確かにそんだけ強けりゃ、さぞや自信たっぷりに振舞えるよな」
自然体で剣を垂らし、ロイドは動きの自由性を重視した構えを取った。
「勘違いするなよ。そんな大層なモノを持っているほど、俺は強くはない」
魔剣に蒼破斬が纏う。クレス自身に纏うべき闘気を剣に回し、
今までとは比べものにならないほどに重厚な闘気がまるで鞘のように魔剣を包んだ。
それに包まれるようにして、滾々と湧き出るクレスの殺意が止んだ。
「ただ、絶対に負けられないだけだ」
そう言った瞬間、クレスが正面の敵を目掛けて駆け上がった。
王の前に恭しく道を空けるように、砂塵がロイドの視界から失せて晴れる。
そこ輝く紫の刃にこびり付いた血は、既に黒くなっていた。
黒い刃を握った殺人鬼、否、闘神がその二本の足でしっかりと大地を貫いていた。
「随分、ひでえザマだな。王様みたいなさっきまでの余裕はどうしたよ。“こんなものか青二才”って吐いてみやがれ」
ロイドは震えた手で木刀を握り、五メートル程離れた敵に突きつける。
決壊寸前の疲労を抱えたロイドには片方の剣は未だ支えとして必要だった。
しかし、クレスの姿はロイドの攻撃が確実に決まったことを物語っていた。
白い鎧は所々ひび割れて、肌に密着した黒地の布は所々が裂けてその中から青い痣が深く彫り込まれている。
そして、髪が覆った顔の中で唯一露出した鼻と口から血が流れていた。
口からの血はめった打ちに突かれた腹は口腔から血を逆流させ、
鼻の血は切り上げと切り落としは、顎や顔面を確実に打ち貫いていた証だった。
表情からはダメージを図りようもないが、確実に体内にはダメージが蓄積されていると判断するのに十分だった。
「俺は王じゃない。王を殺す側だ」
その言葉に、ロイドは少し面を喰らった。
その理解できない内容にではなく、その今までのような嗜虐的な音がなく、
嫌悪を感じさせない、まるで別人のようなその語調に。
クレスが魔剣を持ち上げる。その所作はスムーズで、ダメージをほとんど感じさせない。
「木偶の坊と言った非礼は詫びる。だが、お前は邪魔だ。
お前が道を塞ぐとなれば、今度こそ此の一撃で屠る。今ならもう一度見逃そう」
魔剣がクレスの両手に握られる。
「態度が改まってもそのスカした余裕は変わらないってか……ふざけるなよ、クレス。通すと思ってるのか」
これまでには無かった両手持ちに、ロイドの全身は総毛立つ。
自身の全てが首肯し、ロイドはイクストリームをオフにした。
確信する―――今から繰り出される一撃はクレスの奥の手だと。
「そうか……お前、“アレの手下か”。ならば俺に立ちふさがるのも納得できる」
クレスが両手で握った魔剣を腰溜に構えた。
「ならば、出し惜しみは無しだ。お前には酷かも知れないが、とっておきの一刀で殺す」
ロイドが杖代わりの剣を抜いて、ジェムをセットし直し
『パーソナル』『ダッシュ』『イベイション』を配置。自身を回避に特化する。
「秘奥義かよ……確かにそんだけ強けりゃ、さぞや自信たっぷりに振舞えるよな」
自然体で剣を垂らし、ロイドは動きの自由性を重視した構えを取った。
「勘違いするなよ。そんな大層なモノを持っているほど、俺は強くはない」
魔剣に蒼破斬が纏う。クレス自身に纏うべき闘気を剣に回し、
今までとは比べものにならないほどに重厚な闘気がまるで鞘のように魔剣を包んだ。
それに包まれるようにして、滾々と湧き出るクレスの殺意が止んだ。
「ただ、絶対に負けられないだけだ」
そう言った瞬間、クレスが正面の敵を目掛けて駆け上がった。
ロイドが剣を前に出す。
(こっちに突進ってことは次元斬じゃない。何だ、何で来る?)
転移の兆候も無い。突進しては距離を要する次元斬は撃てない。
ならば、クレスの最終段階、時空剣技と流派の合わせ技で勝負するのだろうか。だがいったい何を―――
疑問を抱いた刹那、クレスが構えを維持したまま剣を振るうことなくロイドの懐に入る。
微かな転移反応。転移先は、クレスが今いる位置からコンマ二桁正面。
「祈れ。せめて塵一つ、この世に残せることを」
転移した刹那、蒼破斬は消失し魔剣の中から黒にまで煮詰められた紫の光が放たれる。
ロイドは半ば反射的に飛び退く。直感的な理解が脳を支配した。
(蒼破斬という鞘を、翔転移という抜刀で振り抜く。これは)
クレスの神速の振り抜きがロイドの木刀を掠める。ロイドは一切の躊躇なく木刀を棄てた。
(こっちに突進ってことは次元斬じゃない。何だ、何で来る?)
転移の兆候も無い。突進しては距離を要する次元斬は撃てない。
ならば、クレスの最終段階、時空剣技と流派の合わせ技で勝負するのだろうか。だがいったい何を―――
疑問を抱いた刹那、クレスが構えを維持したまま剣を振るうことなくロイドの懐に入る。
微かな転移反応。転移先は、クレスが今いる位置からコンマ二桁正面。
「祈れ。せめて塵一つ、この世に残せることを」
転移した刹那、蒼破斬は消失し魔剣の中から黒にまで煮詰められた紫の光が放たれる。
ロイドは半ば反射的に飛び退く。直感的な理解が脳を支配した。
(蒼破斬という鞘を、翔転移という抜刀で振り抜く。これは)
クレスの神速の振り抜きがロイドの木刀を掠める。ロイドは一切の躊躇なく木刀を棄てた。
(拡散するはずの力の全てを鞘に凝縮した、零距離次元斬……!!)
振り抜かれた両腕に込められた力が魔剣を伝う。
飛び退きながら両腕を交差させてせめてもの防御を作るロイド。
魔剣に黒い衝動に惹かれた光が収束する。
ロイドは戦慄に目を見開く。
クレスは笑いながら叫んだ。
振り抜かれた両腕に込められた力が魔剣を伝う。
飛び退きながら両腕を交差させてせめてもの防御を作るロイド。
魔剣に黒い衝動に惹かれた光が収束する。
ロイドは戦慄に目を見開く。
クレスは笑いながら叫んだ。
「――――――零次元斬」
全ての殺意を練り上げるようにして、巨大な光の弾が二人の眼前に生み落とされ、回りの世界ごと空間を惨殺する。
数秒後に残ったのは、まるで世界をアイスのようにくり抜いてその半径一メートルほどの球形空間が異質に抉れた跡だけだった。
ロイドはオマケ程度の衝撃波で別の家屋に叩き付けられながら、全身の感覚が麻痺したように思えた。
上下が反転した世界で、鏡を見なくとも自分が恐怖の色が浮かべているのが分かった。
次いで、クレスの顔が瞳に入った。その表情は、不気味に微笑んでいる。
そうしてロイドは地面に墜落した。
数秒後に残ったのは、まるで世界をアイスのようにくり抜いてその半径一メートルほどの球形空間が異質に抉れた跡だけだった。
ロイドはオマケ程度の衝撃波で別の家屋に叩き付けられながら、全身の感覚が麻痺したように思えた。
上下が反転した世界で、鏡を見なくとも自分が恐怖の色が浮かべているのが分かった。
次いで、クレスの顔が瞳に入った。その表情は、不気味に微笑んでいる。
そうしてロイドは地面に墜落した。
羽根による制御も虚しく地面に墜落したロイドは、力なく地面に横たわった。
自力で立ち上がろうとするが、回避に最後の心もすり減らした体はその身じろぎすらも緩慢になっている。
やっとのことで立ち上がろうとして、ロイドが顔を上げたその先には剣を突きつける殺人鬼。
その両目は、目の前の存在を嫌でも捉える構図となった。
殺人鬼でもない、神でもない、その血に穢れた瞳に深い何かを湛えたその顔にロイドは
かつてこの島で一時の道を共に歩いた男の憂いた表情をダブらせる。
その強大な力そのもの。まさしく魔王・クレス=アルベインの顔に。
「見事だ。繰り出すのはこれが初めてとはいえ、俺の全力をよくぞ避けた」
魔剣がロイドの眉間に触れる。呪術の反動か、微かな震えがロイドの額に血を垂らした。
ロイドの瞳は理不尽と狂気と絶望、そして始まった枯渇に急速に生気を失っていく。
(ここまで……ここまでやっても、こいつには勝てないって言うのか?)
蓋を開けたクレスの本気は、ロイドには理解できないものだった。
理屈は分かる。次元斬の最大の弱点である小回りの利かなさと広すぎる範囲による威力の霧散。
それを補うために虚空蒼破斬の闘気で次元斬を“圧縮”した。
常続的なコーティングと似て非なる納刀は、虎牙破斬の合間にすら放てる超短距離の転移によって抜刀され、
一切の欠損なく開放されるエネルギーは、地面すら削り殺してドーム上の半球ですらない“球”を解放する。
次元斬よりも狭い範囲ではあるが、威力は……文字通り消失だ。直撃すれば空間ごと何も残らない。
(あんな技……もう、剣技ですらないじゃないか……何でそんなものがあるんだよ)
虎牙破斬と翔転移の組み合わせのような、そんなレベルの話ではない。
少なくともロイドの知る原型の剣技との複合ですらない、言わば「異端」の技だ。
クレスの強さの延長線上にある第三段階とはまったく別種の零番目のリミット。これこそが、クレスの切り札……?
(ちきしょう……何をどうすれば、こんなふざけた力を持てるっていうんだ……!?)
ロイドの眼には敵意の炎を上らせるほどの薪はもうなかった。
クレスの濁った眼光は、文字通りに腑抜けたロイドに失意することもなくただ殺意を向けている。
(努力とか鍛錬で得られる力じゃない…かといって才能だけで閃く様な輝かしいもんでもない……お前は、お前はいったい何なんだ?)
有り得ないクレスへの疑問を湧き上がらせながらも、ロイドの中の灯りを付けるスイッチが次々にオフになっていく。
ロイドの視界が、ボロボロと崩れて暗転する。
もう壊れた映像機のような視界の中でクレスの魔剣が、大きく振りあがった。
「手を下さずとも死にそうではあるが……敬意を払おう。せめて俺の強さの糧となるよう、ここで殺す」
全身から、急激に力が失われたロイドの手が、力なく落ちてぶらりと垂れた。
光の翼は羽根を散らすように 小さく果てていく。
自力で立ち上がろうとするが、回避に最後の心もすり減らした体はその身じろぎすらも緩慢になっている。
やっとのことで立ち上がろうとして、ロイドが顔を上げたその先には剣を突きつける殺人鬼。
その両目は、目の前の存在を嫌でも捉える構図となった。
殺人鬼でもない、神でもない、その血に穢れた瞳に深い何かを湛えたその顔にロイドは
かつてこの島で一時の道を共に歩いた男の憂いた表情をダブらせる。
その強大な力そのもの。まさしく魔王・クレス=アルベインの顔に。
「見事だ。繰り出すのはこれが初めてとはいえ、俺の全力をよくぞ避けた」
魔剣がロイドの眉間に触れる。呪術の反動か、微かな震えがロイドの額に血を垂らした。
ロイドの瞳は理不尽と狂気と絶望、そして始まった枯渇に急速に生気を失っていく。
(ここまで……ここまでやっても、こいつには勝てないって言うのか?)
蓋を開けたクレスの本気は、ロイドには理解できないものだった。
理屈は分かる。次元斬の最大の弱点である小回りの利かなさと広すぎる範囲による威力の霧散。
それを補うために虚空蒼破斬の闘気で次元斬を“圧縮”した。
常続的なコーティングと似て非なる納刀は、虎牙破斬の合間にすら放てる超短距離の転移によって抜刀され、
一切の欠損なく開放されるエネルギーは、地面すら削り殺してドーム上の半球ですらない“球”を解放する。
次元斬よりも狭い範囲ではあるが、威力は……文字通り消失だ。直撃すれば空間ごと何も残らない。
(あんな技……もう、剣技ですらないじゃないか……何でそんなものがあるんだよ)
虎牙破斬と翔転移の組み合わせのような、そんなレベルの話ではない。
少なくともロイドの知る原型の剣技との複合ですらない、言わば「異端」の技だ。
クレスの強さの延長線上にある第三段階とはまったく別種の零番目のリミット。これこそが、クレスの切り札……?
(ちきしょう……何をどうすれば、こんなふざけた力を持てるっていうんだ……!?)
ロイドの眼には敵意の炎を上らせるほどの薪はもうなかった。
クレスの濁った眼光は、文字通りに腑抜けたロイドに失意することもなくただ殺意を向けている。
(努力とか鍛錬で得られる力じゃない…かといって才能だけで閃く様な輝かしいもんでもない……お前は、お前はいったい何なんだ?)
有り得ないクレスへの疑問を湧き上がらせながらも、ロイドの中の灯りを付けるスイッチが次々にオフになっていく。
ロイドの視界が、ボロボロと崩れて暗転する。
もう壊れた映像機のような視界の中でクレスの魔剣が、大きく振りあがった。
「手を下さずとも死にそうではあるが……敬意を払おう。せめて俺の強さの糧となるよう、ここで殺す」
全身から、急激に力が失われたロイドの手が、力なく落ちてぶらりと垂れた。
光の翼は羽根を散らすように 小さく果てていく。
(あー、ここまでか……ちくしょう、何も出来ずに、こうしてここで終わるのか)
クレスの剣を握る手が硬くなる。
(ゴメン、コレット……俺……何も出来なかった……コレット、コレ…?)
白濁する意識の中で最後のブレーカーを落とす瞬間、ロイドはそれを見た。
クレスの背中の向こう、一つの家の屋根の上。太陽の光を受けても月の如く冷徹に輝く金色の髪を。
そこでロイドの意識は断絶した。
クレスの剣を握る手が硬くなる。
(ゴメン、コレット……俺……何も出来なかった……コレット、コレ…?)
白濁する意識の中で最後のブレーカーを落とす瞬間、ロイドはそれを見た。
クレスの背中の向こう、一つの家の屋根の上。太陽の光を受けても月の如く冷徹に輝く金色の髪を。
そこでロイドの意識は断絶した。
『パラライパルティータ!!』
アトワイトが手にした四つの雷球が地面をバウンドしながらクレスの背中を目掛けて高速で襲い掛かる。
二つはクレスに当たらなかったが、一つはクレスの脇を掠め、一つはクレスの腰に直撃し雷撃を落とす。
クレスはよろめき体を止める。
『これなら……リミュエレイヤー!!』
その隙を突かんとばかりに、アトワイトは氷の戦輪を三つ取り出しクレスに向かって投擲するが、
クレスにとっては二度目となった雷撃では、当てきるまでの痺れを維持できなかった。
跳躍し、ロイドから離れるクレス。チャクラムは獲物を切り刻むことなく維持のための晶力を失い蒸発した。
アトワイトはその屋根から降り立ち、全力で走りながらクレスに向かって再度チャクラムを投げる。
クレスは一つを魔剣で粉砕するが、回転しながら曲線の軌道を描くチャクラムに堪らずもう一度飛びのく。
「逃げていなかったのか……ならば返すか殺されるか選べ」
剣を払って一喝する魔王を前にして、アトワイトはロイドの傍にふわりと立った。
鬼気迫る形相ではあるが、その刃には先ほどの交戦と同様次元斬を纏ってはいない。
それでも十分に恐怖の対象たるクレスを前にして、コレットの顔をしたアトワイトは無表情のまま内側の彼女に伝えた。
『七割詠唱完了。私の時間稼ぎはここまで。後は貴方の仕事よ、コレット』
二つはクレスに当たらなかったが、一つはクレスの脇を掠め、一つはクレスの腰に直撃し雷撃を落とす。
クレスはよろめき体を止める。
『これなら……リミュエレイヤー!!』
その隙を突かんとばかりに、アトワイトは氷の戦輪を三つ取り出しクレスに向かって投擲するが、
クレスにとっては二度目となった雷撃では、当てきるまでの痺れを維持できなかった。
跳躍し、ロイドから離れるクレス。チャクラムは獲物を切り刻むことなく維持のための晶力を失い蒸発した。
アトワイトはその屋根から降り立ち、全力で走りながらクレスに向かって再度チャクラムを投げる。
クレスは一つを魔剣で粉砕するが、回転しながら曲線の軌道を描くチャクラムに堪らずもう一度飛びのく。
「逃げていなかったのか……ならば返すか殺されるか選べ」
剣を払って一喝する魔王を前にして、アトワイトはロイドの傍にふわりと立った。
鬼気迫る形相ではあるが、その刃には先ほどの交戦と同様次元斬を纏ってはいない。
それでも十分に恐怖の対象たるクレスを前にして、コレットの顔をしたアトワイトは無表情のまま内側の彼女に伝えた。
『七割詠唱完了。私の時間稼ぎはここまで。後は貴方の仕事よ、コレット』
アトワイトが瞳を閉じる。そしてもう一度眼を開いた時、そこには混じり気のない真紅の双眸が現れる。
無機生命体としての彼女の瞳。魔剣がカランと落ちた。
同時に彼女の羽が輝き、世界が神の光で満たされる。
それはネレイドが用い、ミトスが模倣した簡単な手品。
アトワイトが表層に出て、技だけで時間を稼いだ間に可能な限り編まれた彼女の詠唱は既に最終節にまで入っている。
無機生命体としての彼女の瞳。魔剣がカランと落ちた。
同時に彼女の羽が輝き、世界が神の光で満たされる。
それはネレイドが用い、ミトスが模倣した簡単な手品。
アトワイトが表層に出て、技だけで時間を稼いだ間に可能な限り編まれた彼女の詠唱は既に最終節にまで入っている。
――――――その力、穢れなく澄み渡り流るる――――――
その紅の瞳がクレスと向かい合った瞬間、クレスのの体に痙攣が走る。
「やめろ……やめなければ殺す。殺すぞ!」
尋常でない汗を流しながらもクレスは、かろうじて呟きながら剣を拾い直し彼女の下へ走るが、
無言の歌を紡ぐ彼女の口が、詠唱とは無関係の口を紡ぐ。声にはならなかったが唇の動きからして、短い一言だろう。
それだけでクレスの魔剣が一瞬止まる。猛獣が、調教師にだけは従うような従順さだった。
その刹那に彼女の片目が青く輝き、剣を持つ方の手がクレスを指し示した。
『近づけさせないわ……待機終了・アイスニードル!!』
光の中から五本の刃が生まれ、動かないクレスの体にぶつかっては消えていく。
「やめろ……やめなければ殺す。殺すぞ!」
尋常でない汗を流しながらもクレスは、かろうじて呟きながら剣を拾い直し彼女の下へ走るが、
無言の歌を紡ぐ彼女の口が、詠唱とは無関係の口を紡ぐ。声にはならなかったが唇の動きからして、短い一言だろう。
それだけでクレスの魔剣が一瞬止まる。猛獣が、調教師にだけは従うような従順さだった。
その刹那に彼女の片目が青く輝き、剣を持つ方の手がクレスを指し示した。
『近づけさせないわ……待機終了・アイスニードル!!』
光の中から五本の刃が生まれ、動かないクレスの体にぶつかっては消えていく。
鎧に更なる皹を生みながら、クレスは、消え入るように言った。
「どうして、どうしてそんなことを言うんだ。“ミント”」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――魂の輪廻に踏み入る事を赦し賜え。
彼女とロイドの周囲が高密度の光に包まれる。毒にのた打ち回るクレスは、魔方陣の外側でそれをただ眺めるしかなかった。
全てが暗黒で構成された場所で、ロイドは漂っている。
右も左も分からない。自分が何者なのかも、なぜここにいるのかも曖昧だ。
自分が砂のようにバラバラになっていくのが分かる。
ここで力尽きた自分は朽ちていくのだ。何も無い、誰も居ない、この場所で……
(……誰か、誰かいる。誰だろう……)
ロイドは確かな人の存在を認識する。
それは気配とかそういう曖昧なものでは無い、紛れも無い感覚だった。
(左手を、俺の左手を触ってるのか…?くすぐったいよ)
その手に触れる誰かの温もりが伝わってくる。掌の上を滑る指が、彼にはこそばゆかった。
(なんか、書いてる?……この文字……俺、知ってる……)
それは何処だっただろうか。記憶が撹拌されて上手く拾えない。
そんなロイドを尻目に左手の感覚は益々、言葉を伝えていた。
『……逢いたかったよ、ロイド』
それが、初めてロイドに伝わった言葉だった。
『いろいろあって、今の私に残った力じゃ……全部元通りって訳にはいかないから…ごめんなさい。
それに、私はロイドに逢わせる顔が無いから……コレが私のせいいっぱいなの』
なんでだよ。誰だろうと、見ても減るもんじゃないしいいだろ?
『あはは……そだね。そうだったら、いいね』
手に触れる指が震えている。彼女が泣いているのだと、ロイドにはなんとなく分かった。
泣くなよ。俺が何とかするからさ。なあ……
『おかしいね……いつもなら、とっても嬉しいのに。その気持ちも、今は辛いよ。
こんなにロイドが私のせいで苦しんでるのに、私にはどうすればいいか分からないから』
何でこの指が女だと思ったのだろう。決まっている。俺はこの指を知っているからだ。
泣くなよ。頼むから、なあ、頼むよ……お前のせいなんかじゃない。絶対にそれだけは譲らねえよ。
『……ありがとう。ロイド』
ロイドの手に、一滴が落ちた。
『ロイドはだいじょぶだから、生きて。私がなんとかするから。お願いだから…生きて』
何が大丈夫だよ。おい、ふざけんなよ。何する気だよオイ!ふざけんな!!!
動けよ。俺の体だったらさっさと動け!瞼ぐらい開かねえのかよ!あいつが、あいつがそこに居るんだよ!!
『ロイド。最後まで謝ってばかりだけど――――――――――――』
言うな言うな言うな言うな言うな、その先は言うな!!
止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ、止めろコレット!!
右も左も分からない。自分が何者なのかも、なぜここにいるのかも曖昧だ。
自分が砂のようにバラバラになっていくのが分かる。
ここで力尽きた自分は朽ちていくのだ。何も無い、誰も居ない、この場所で……
(……誰か、誰かいる。誰だろう……)
ロイドは確かな人の存在を認識する。
それは気配とかそういう曖昧なものでは無い、紛れも無い感覚だった。
(左手を、俺の左手を触ってるのか…?くすぐったいよ)
その手に触れる誰かの温もりが伝わってくる。掌の上を滑る指が、彼にはこそばゆかった。
(なんか、書いてる?……この文字……俺、知ってる……)
それは何処だっただろうか。記憶が撹拌されて上手く拾えない。
そんなロイドを尻目に左手の感覚は益々、言葉を伝えていた。
『……逢いたかったよ、ロイド』
それが、初めてロイドに伝わった言葉だった。
『いろいろあって、今の私に残った力じゃ……全部元通りって訳にはいかないから…ごめんなさい。
それに、私はロイドに逢わせる顔が無いから……コレが私のせいいっぱいなの』
なんでだよ。誰だろうと、見ても減るもんじゃないしいいだろ?
『あはは……そだね。そうだったら、いいね』
手に触れる指が震えている。彼女が泣いているのだと、ロイドにはなんとなく分かった。
泣くなよ。俺が何とかするからさ。なあ……
『おかしいね……いつもなら、とっても嬉しいのに。その気持ちも、今は辛いよ。
こんなにロイドが私のせいで苦しんでるのに、私にはどうすればいいか分からないから』
何でこの指が女だと思ったのだろう。決まっている。俺はこの指を知っているからだ。
泣くなよ。頼むから、なあ、頼むよ……お前のせいなんかじゃない。絶対にそれだけは譲らねえよ。
『……ありがとう。ロイド』
ロイドの手に、一滴が落ちた。
『ロイドはだいじょぶだから、生きて。私がなんとかするから。お願いだから…生きて』
何が大丈夫だよ。おい、ふざけんなよ。何する気だよオイ!ふざけんな!!!
動けよ。俺の体だったらさっさと動け!瞼ぐらい開かねえのかよ!あいつが、あいつがそこに居るんだよ!!
『ロイド。最後まで謝ってばかりだけど――――――――――――』
言うな言うな言うな言うな言うな、その先は言うな!!
止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ、止めろコレット!!
『ごめんね?』
ロイドの眼が開く。そこは夕日に輝く辺り一面の金色の麦畑。
そこに微笑むはずの少女はそこに居らず……指の感触の残った左手には、冷たい氷の刃が残されただけだった。
そこに微笑むはずの少女はそこに居らず……指の感触の残った左手には、冷たい氷の刃が残されただけだった。
世界が夕日の陽光に包まれたなかで、ロイドの瞳はここでしか流せぬ涙を流した。
ロイドは眼を覚まし、周囲を見渡す。
無人の家屋、相も変わらず村を照らす太陽。確かに回復している自身の肉体。
そのどれを取っても、ここが此岸であることを示している。
自分の左手が何かを握っている事実に気づきロイドはそこに眼を向けた。
あるのは、木刀の柄から生えたような氷の刀身を持った一本の剣。
そして、何も感じない膝にかかるようにして少女が、倒れていた。
多少土埃に塗れてはいるが、胸の深々とした一閃以外に外傷らしき外傷は無く、
それさえなければ、見様によってはまるでロイドに抱かれて眠っているようにも見える。
ただ、一切の呼吸がないだけだった。
無人の家屋、相も変わらず村を照らす太陽。確かに回復している自身の肉体。
そのどれを取っても、ここが此岸であることを示している。
自分の左手が何かを握っている事実に気づきロイドはそこに眼を向けた。
あるのは、木刀の柄から生えたような氷の刀身を持った一本の剣。
そして、何も感じない膝にかかるようにして少女が、倒れていた。
多少土埃に塗れてはいるが、胸の深々とした一閃以外に外傷らしき外傷は無く、
それさえなければ、見様によってはまるでロイドに抱かれて眠っているようにも見える。
ただ、一切の呼吸がないだけだった。
「コレット」
とっくにクレスに殺されてたんじゃないのか?などという疑問は既に頭から追い出されていた。
ロイドは揺すったら起きるんじゃないかと左手を出そうとするが、
その手にある刃が、あの夢は、現実の物で、彼の望むようなことは絶対に起こらないことを体が理解していて、つまるところ。
とっくにクレスに殺されてたんじゃないのか?などという疑問は既に頭から追い出されていた。
ロイドは揺すったら起きるんじゃないかと左手を出そうとするが、
その手にある刃が、あの夢は、現実の物で、彼の望むようなことは絶対に起こらないことを体が理解していて、つまるところ。
最後の最後まで、この手は届かなかった。
ロイドが彼女の名前を叫ぼうとした瞬間、その首筋に斬撃が疾走った。
半ば反射的に柄で受け流し、ロイドはその襲撃者から距離を空けた。
「……お前のせいで、彼女が、彼女が……!!」
クレスは振り抜いた剣を戻すことなく、その体勢のままロイドを睨み付ける。
その口元からは唾液が横から漏れ、眼は散大しかけている。
そこにあったのは今までのある意味平等だった殺意ではなく、怒りを大量に混ぜた怨念に近い物だった。
クレスの両手が魔剣を握る。紛れも無い必殺剣の証だった。
呼応するようにロイドがゆらりと剣を右手に持って突き出す。
歪に歪んでいた筈の右手はいつの間にか治り、そして新たな得物がそこにある。
「……ふざけんなよ?」
乱れた鳶色の髪はロイドの目元を覆い隠すが、全身の震えは隠し切れない。
「何言ってるか全ッ然分らねえけどよ…自分のことを棚にあげて、誰が知らないだ……あの胸の傷、やっぱお前が斬ったんじゃねえか」
風が止み音が失せて、大気が平伏する。
その中でただ一度きり。 今までとは別のブレーカーが切れるという音がした。
半ば反射的に柄で受け流し、ロイドはその襲撃者から距離を空けた。
「……お前のせいで、彼女が、彼女が……!!」
クレスは振り抜いた剣を戻すことなく、その体勢のままロイドを睨み付ける。
その口元からは唾液が横から漏れ、眼は散大しかけている。
そこにあったのは今までのある意味平等だった殺意ではなく、怒りを大量に混ぜた怨念に近い物だった。
クレスの両手が魔剣を握る。紛れも無い必殺剣の証だった。
呼応するようにロイドがゆらりと剣を右手に持って突き出す。
歪に歪んでいた筈の右手はいつの間にか治り、そして新たな得物がそこにある。
「……ふざけんなよ?」
乱れた鳶色の髪はロイドの目元を覆い隠すが、全身の震えは隠し切れない。
「何言ってるか全ッ然分らねえけどよ…自分のことを棚にあげて、誰が知らないだ……あの胸の傷、やっぱお前が斬ったんじゃねえか」
風が止み音が失せて、大気が平伏する。
その中でただ一度きり。 今までとは別のブレーカーが切れるという音がした。
「「お前だけは殺す!!」」
立ち上る闘気に巨大な翼が閃く。神々しい、荒ぶる神の翼がはためき、大気が激震を起こす。
魔剣に先程とは比較にならない程の闘気が迸り、空間が歪む。
イクストリームを起動させたロイドは大きく跳躍し、その反動で大地に亀裂が走る。
襲爪雷斬の雷すら纏い、魔剣と共にクレスが加速する。剣が通った後は全て紫電に屠られて全てが分解する。
空がロイドの狂おしいほどの怒りに呼応して、軌道変更と共に彼を基点とした突風が吹き荒れる。
自身の加速によって鞘の中の刃に十二分のエネルギーが満たされ、それだけで世界が戦慄く。
剣の交わらないこの段階ですら、周囲の殆どの家屋が半壊し、雨風を凌ぐと言う家屋に於ける最低限の定義を失効していた。
魔剣に先程とは比較にならない程の闘気が迸り、空間が歪む。
イクストリームを起動させたロイドは大きく跳躍し、その反動で大地に亀裂が走る。
襲爪雷斬の雷すら纏い、魔剣と共にクレスが加速する。剣が通った後は全て紫電に屠られて全てが分解する。
空がロイドの狂おしいほどの怒りに呼応して、軌道変更と共に彼を基点とした突風が吹き荒れる。
自身の加速によって鞘の中の刃に十二分のエネルギーが満たされ、それだけで世界が戦慄く。
剣の交わらないこの段階ですら、周囲の殆どの家屋が半壊し、雨風を凌ぐと言う家屋に於ける最低限の定義を失効していた。
天使の奇跡にて死の淵より帰還を果たしたロイド、
禁断症状を発しながらも、殺意だけで技を紡ぐクレス。
今この瞬間に限ってのみ、二人の彼我戦力差は限り無く五分と五分に近づいていた。
ロイドの剣に次元斬が纏い、翼は一度力を蓄えた後、音速を超える矢の如き突撃を放つ。
襲い来る鳥を撃ち落そうとクレスが鞘より魔剣を、絶対の一撃を解き放つ。
「次元斬式・飛天翔駆――――――次元翔駆!!!!!!」
「零距離・次元斬――――――――零次元斬!!!!!!」
解放しきれば全てを飲み殺す零次元斬の発動の出会い頭に、ロイドは持てる力をたった一つの剣先のその更に一点に集中させる。
この一点で戦う限り、2人の技はまったくの互角だった。
禁断症状を発しながらも、殺意だけで技を紡ぐクレス。
今この瞬間に限ってのみ、二人の彼我戦力差は限り無く五分と五分に近づいていた。
ロイドの剣に次元斬が纏い、翼は一度力を蓄えた後、音速を超える矢の如き突撃を放つ。
襲い来る鳥を撃ち落そうとクレスが鞘より魔剣を、絶対の一撃を解き放つ。
「次元斬式・飛天翔駆――――――次元翔駆!!!!!!」
「零距離・次元斬――――――――零次元斬!!!!!!」
解放しきれば全てを飲み殺す零次元斬の発動の出会い頭に、ロイドは持てる力をたった一つの剣先のその更に一点に集中させる。
この一点で戦う限り、2人の技はまったくの互角だった。
「互角じゃねえ!! 俺は、俺達の刃が、お前なんざに…負けるかあああああああああ!!!!!!!!!!!」
ロイドは咽喉が潰れる事も辞さないほどに吼える。
この体を満たす癒しは、コレットの想い。ならば100が二つで200。武器も合作なら更に400。
それを本気で信じる一途さに氷の刃が大きく輝く。次元斬の紫と氷の銀が混ざり合い、鳥は更なる光となった。
「殺す。殺す!殺して殺して、殺してお前だけは殺して殺――――」
発症し始めた精神では集中を維持しきれずに形容を留めないエネルギーが魔剣より噴出する。
「貫けえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「があああああアああああAAAあああああアaあああ!!!!!!!!!」
その黒き汚泥を貫いて、クレスの光弾が縦真っ二つに裂ける。
閃光が黒を塗りつぶして、世界は真っ白になった。
ロイドは咽喉が潰れる事も辞さないほどに吼える。
この体を満たす癒しは、コレットの想い。ならば100が二つで200。武器も合作なら更に400。
それを本気で信じる一途さに氷の刃が大きく輝く。次元斬の紫と氷の銀が混ざり合い、鳥は更なる光となった。
「殺す。殺す!殺して殺して、殺してお前だけは殺して殺――――」
発症し始めた精神では集中を維持しきれずに形容を留めないエネルギーが魔剣より噴出する。
「貫けえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「があああああアああああAAAあああああアaあああ!!!!!!!!!」
その黒き汚泥を貫いて、クレスの光弾が縦真っ二つに裂ける。
閃光が黒を塗りつぶして、世界は真っ白になった。
閃光が収まり、周囲の造形が明瞭になっていく。思い出したように瓦や折れた柱が力尽きて落ちた。
その中から2人の姿が再び現れる。
一人はその翼を未だ煌々と輝かせ、一人はその腹からボタボタと血を流し続けている。
勝敗は、素人の目から見ても歴然だった。
その中から2人の姿が再び現れる。
一人はその翼を未だ煌々と輝かせ、一人はその腹からボタボタと血を流し続けている。
勝敗は、素人の目から見ても歴然だった。
「違う…違う違う違う違う!!!!!!!」
手にベッタリと付いた血が顔に付くことも厭わずクレスは掻き毟るように自分の頭を揺さぶる。
その眼はすでに正気と狂気が曖昧で、何かのタガが外れたことはハッキリしていた。
「負けない。負けない。負けない為に負けない為に負けないめけない俺は僕は負け負けああああああああ!!!!!」
脳を溶かしても尚真っ直ぐな剣筋で魔剣を振るう。クレスの姿が歪んで、その空間から消失する。
「待ちやがれ…お前は俺が殺して……絶対にこの剣で」
そう怨嗟の気を吐きながら剣を振るおうとして、ロイドはその刀身が無くなってしまっていたことに気づいた。
その事実に思わず手を離してしまい、カランコロンと木刀の柄が地面に転がる。
ロイドはクレスが東に逃げたことを仕舞い込み、コレットの傍に駆け寄る。
地面に投げ出されたコレットの下に、静かに歩み寄りながら。
ロイドは、コレットの元で一瞬だけ足を止め、そしてその場にしゃがみ込む。
「コレット……クレスは、倒した。逃がしちまったけど、間違いなく呪術は発動した……次は、確実に殺せる」
そういいながらロイドはコレットの頬を撫でる。
ロイドの眼に痛みが錯覚する。
ロイドはコレットの体に視線を移動させると、その何も変わらない姿がそこにあった。
チャクラムを握り締めていた手は変わりに剣を握っていたが、それでも十分綺麗で。
しょっちゅうもつれては、そのたびに自身や仲間に幸せを運んできた足は眼を離せば直ぐに歩き出しそうで。
そして、いつも愛らしく表情を変え豊かに感情を表していた顔は、今にも眼を覚まし微笑んでくれそうで。
手にベッタリと付いた血が顔に付くことも厭わずクレスは掻き毟るように自分の頭を揺さぶる。
その眼はすでに正気と狂気が曖昧で、何かのタガが外れたことはハッキリしていた。
「負けない。負けない。負けない為に負けない為に負けないめけない俺は僕は負け負けああああああああ!!!!!」
脳を溶かしても尚真っ直ぐな剣筋で魔剣を振るう。クレスの姿が歪んで、その空間から消失する。
「待ちやがれ…お前は俺が殺して……絶対にこの剣で」
そう怨嗟の気を吐きながら剣を振るおうとして、ロイドはその刀身が無くなってしまっていたことに気づいた。
その事実に思わず手を離してしまい、カランコロンと木刀の柄が地面に転がる。
ロイドはクレスが東に逃げたことを仕舞い込み、コレットの傍に駆け寄る。
地面に投げ出されたコレットの下に、静かに歩み寄りながら。
ロイドは、コレットの元で一瞬だけ足を止め、そしてその場にしゃがみ込む。
「コレット……クレスは、倒した。逃がしちまったけど、間違いなく呪術は発動した……次は、確実に殺せる」
そういいながらロイドはコレットの頬を撫でる。
ロイドの眼に痛みが錯覚する。
ロイドはコレットの体に視線を移動させると、その何も変わらない姿がそこにあった。
チャクラムを握り締めていた手は変わりに剣を握っていたが、それでも十分綺麗で。
しょっちゅうもつれては、そのたびに自身や仲間に幸せを運んできた足は眼を離せば直ぐに歩き出しそうで。
そして、いつも愛らしく表情を変え豊かに感情を表していた顔は、今にも眼を覚まし微笑んでくれそうで。
「クソ……どうにもならないのかよ……こんなに生きていそうなのに、死んでるなんて…嘘だろ?」
ロイドは両の拳を硬く握り締めながら天を見上げる。
誰か、誰かコレットを救ってくれ。今なら、こんなに生きてそうな今なら、
レイズデッドでもライフボトルでも、まだ何か手は在るんじゃないのか?
神様。神様。どうか、こいつを救ってくれよ。何でもするから……頼む。
ロイドは両の拳を硬く握り締めながら天を見上げる。
誰か、誰かコレットを救ってくれ。今なら、こんなに生きてそうな今なら、
レイズデッドでもライフボトルでも、まだ何か手は在るんじゃないのか?
神様。神様。どうか、こいつを救ってくれよ。何でもするから……頼む。
その願いに応えるようなタイミングで、ジャリという音がした。
断続的に音は続き、それが歩いている音だと分かる。
ロイドは一気に戦闘態勢に自分を切り替え、武器を失いながらも拳を固める。
例えクレスだろうと、殴り殺してやろうという意思を固めるように。
歩く音が止まる。
ロイドは意を決して振り返った。
途端、ロイドの顔が何とも言えない安堵に包まれる。ロイドは迷わず縋る様に言葉を紡いだ。
断続的に音は続き、それが歩いている音だと分かる。
ロイドは一気に戦闘態勢に自分を切り替え、武器を失いながらも拳を固める。
例えクレスだろうと、殴り殺してやろうという意思を固めるように。
歩く音が止まる。
ロイドは意を決して振り返った。
途端、ロイドの顔が何とも言えない安堵に包まれる。ロイドは迷わず縋る様に言葉を紡いだ。
「勝手に出て行ったのは悪いと思ってる。幾らでも後で謝るから…頼む、キール!
今はコレットを……コレットを何とかしてくれ!!」
今はコレットを……コレットを何とかしてくれ!!」
声をかけられたキールは思案するような素振りを見せた後、名状しがたい笑みと共に言った。
「なんだ。まだ生きていたとはな、ロイド」
【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:天使化 HP30% TP20% 背中に裂傷 心臓喪失 砕けた理想 右手首から右肩にかけて衣類喪失
無痛症(痛覚神経が死滅) コレットを失ったことへの喪失 クレスへの憎悪
所持品:エターナルリング イクストリーム ジェットブーツ フェアリィリング
基本行動方針:このゲームをリセットする
第一行動方針:コレットを助ける方法を模索する
第二行動方針:クレスに止めを刺す
現在位置:C3村・西地区ミトスの拠点跡付近
状態:天使化 HP30% TP20% 背中に裂傷 心臓喪失 砕けた理想 右手首から右肩にかけて衣類喪失
無痛症(痛覚神経が死滅) コレットを失ったことへの喪失 クレスへの憎悪
所持品:エターナルリング イクストリーム ジェットブーツ フェアリィリング
基本行動方針:このゲームをリセットする
第一行動方針:コレットを助ける方法を模索する
第二行動方針:クレスに止めを刺す
現在位置:C3村・西地区ミトスの拠点跡付近
※ロイドは自身のHPの正確な把握は不可能
【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:HP40% TP20% 薬物中毒 禁断症状発症 右の瞼に切傷・流血中 内臓にダメージ 腹部出血
戦闘狂 殺人狂 禁断症状が殺意を上回っている 左肩に傷・出血中 バンダナ喪失
所持品:エターナルソード クレスの荷物
基本行動方針:あああああああああああああ
第一行動方針:AAAAAAAAAAAAA
現在位置:C3村・西地区ミトスの拠点跡付近→東へ
状態:HP40% TP20% 薬物中毒 禁断症状発症 右の瞼に切傷・流血中 内臓にダメージ 腹部出血
戦闘狂 殺人狂 禁断症状が殺意を上回っている 左肩に傷・出血中 バンダナ喪失
所持品:エターナルソード クレスの荷物
基本行動方針:あああああああああああああ
第一行動方針:AAAAAAAAAAAAA
現在位置:C3村・西地区ミトスの拠点跡付近→東へ
【コレット=ブルーネル ???】
状態:HP??% TP0% 状態不明
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック ホーリィスタッフ エクスフィア強化S・A
基本行動方針:???
現在位置:C3村・西地区ミトスの拠点跡付近
状態:HP??% TP0% 状態不明
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック ホーリィスタッフ エクスフィア強化S・A
基本行動方針:???
現在位置:C3村・西地区ミトスの拠点跡付近