紅の朧は紫を以て
“お前の意思はあるのか?”
よく聞こえなかったが、確かあの時空剣士が言った言葉だ。俺は剣だ。剣なんだ。
だから無くていいんだ。
――いいんだよ、な?
“お前は、何のためにその力を得る?”
わからない。貴方が言ってる意味が、分からない。
守るべきもの?そんなもの俺にはないさ。
僕にはあるかもしれないけどね。少なくとも俺はそんな下らないものは忘れてしまった。
――それでいいんだよな?ミント?
よく聞こえなかったが、確かあの時空剣士が言った言葉だ。俺は剣だ。剣なんだ。
だから無くていいんだ。
――いいんだよ、な?
“お前は、何のためにその力を得る?”
わからない。貴方が言ってる意味が、分からない。
守るべきもの?そんなもの俺にはないさ。
僕にはあるかもしれないけどね。少なくとも俺はそんな下らないものは忘れてしまった。
――それでいいんだよな?ミント?
口からは涎と血をだらだらと流し、腹からは内蔵と内蔵では無いモノが顔を出し。
その目で紫の剣を見た闘神は、その口を裂けんばかりに横に広げてにやりと笑った。
三日月を彷彿とさせるその口は、漆黒の中でよく映えた。
その目で紫の剣を見た闘神は、その口を裂けんばかりに横に広げてにやりと笑った。
三日月を彷彿とさせるその口は、漆黒の中でよく映えた。
―――――――――――――
ああああぁああああああああぁああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああぁぁあああぁぁAあAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaa
違う違う僕は違ちがうチガウ違違うちがチガ負けうちがちが僕は負け違う負けてな負けてない僕は負けてない違う違違うチガウ負けてナイ負ケテナイまけてチガウ僕はない違負け僕ない違負う負けてない違ウ僕ハ負ケテNaい違ウ
違う違う僕は違ちがうチガウ違違うちがチガ負けうちがちが僕は負け違う負けてな負けてない僕は負けてない違う違違うチガウ負けてナイ負ケテナイまけてチガウ僕はない違負け僕ない違負う負けてない違ウ僕ハ負ケテNaい違ウ
脳内に狂ったようにひたすら文字が羅列される。
壊れた闘神、クレス=アルベインは森の中を歩いていた。
いや、“歩いていた”と言うよりは“進んでいた”。
クレスは右往左往しながらひたすらに足を動かしていた。それはとても歩行という行為を名付けられるに値しているとは言えない哀れな姿だった。
目は既に焦点が合っていない。その手で黒くなった血がべっとりと付く髪を滅茶苦茶に掻き毟りながら、クレスは誰に向けてでもなく意味を失った文字をただ叫ぶ。
壊れた闘神、クレス=アルベインは森の中を歩いていた。
いや、“歩いていた”と言うよりは“進んでいた”。
クレスは右往左往しながらひたすらに足を動かしていた。それはとても歩行という行為を名付けられるに値しているとは言えない哀れな姿だった。
目は既に焦点が合っていない。その手で黒くなった血がべっとりと付く髪を滅茶苦茶に掻き毟りながら、クレスは誰に向けてでもなく意味を失った文字をただ叫ぶ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああAAAAAAAAAAAAAAA!!」
信じない。僕は認めない。負けてない。死なない。何かの間違いだ。有り得ない。違う。嘘だ。違う。あんな奴なんかに。違う違う。これはきっと白昼夢だ。
違う違う違う。そうに決まってる。違う違う違う違う。この僕が負ける訳が無い。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
次は殺してやる。チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ。
次?次ってなんだよ僕は負けて無いこれは夢なんだから。これから起きてあいつを。
チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチg
信じない。僕は認めない。負けてない。死なない。何かの間違いだ。有り得ない。違う。嘘だ。違う。あんな奴なんかに。違う違う。これはきっと白昼夢だ。
違う違う違う。そうに決まってる。違う違う違う違う。この僕が負ける訳が無い。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
次は殺してやる。チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ。
次?次ってなんだよ僕は負けて無いこれは夢なんだから。これから起きてあいつを。
チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチg
クレスははっとする。髪を毟るのをやめ、剣に手をかける。
その手は彼の髪と皮膚と鮮血のお陰で生きている人間のとは思えない醜いものへと変貌していた。
皮膚が付着しているという事は髪だけでなく頭皮まで毟っていたらしいが、クレスにはそれに気付く余裕すらなかった。
しかしその証拠に、クレスの頭からは髪を伝って血が滴っている。
腹からも血をぼたぼたと垂れ流しながら、その痛みすら忘れて後ろを振り向き叫ぶ。
「はぁ…はァ…!!サっきカらコソコソと…ッ!!」
その手は彼の髪と皮膚と鮮血のお陰で生きている人間のとは思えない醜いものへと変貌していた。
皮膚が付着しているという事は髪だけでなく頭皮まで毟っていたらしいが、クレスにはそれに気付く余裕すらなかった。
しかしその証拠に、クレスの頭からは髪を伝って血が滴っている。
腹からも血をぼたぼたと垂れ流しながら、その痛みすら忘れて後ろを振り向き叫ぶ。
「はぁ…はァ…!!サっきカらコソコソと…ッ!!」
狂気に染まった目で“そいつ”を睨み付け、垂れた涎を四方に飛び散らせながら震える手で剣を抜き、構える。
「お、僕が気付かナイとでも思ッたのかいッ!!ええ!?僕がッ!!!……僕をッ!!」
クレスはその言葉と違い、実は今の瞬間までその気配に気付かなかった。
それだけに余計と腹が立った。この自分がこれだけ近くにいる奴の気配に気付かなかった。
それはクレスをこの上なく不快にさせるに十分過ぎる理由だった。
クレスは走る。剣を持たない左手を痙攣させ、木の根に足を取られながらも走る。走る。走る。
「僕をッ!!見るなアアァァああAあぁaaaaああッッ!!」
胸を斬り付ける。斬る。斬る。斬る。赤く濡れた白い骨が隙間から見えるまで。
「死ね!死ね!!死ねッ!!!」
腹を刺す。刺す。刺す。
刺した後、剣をひねる。傷に空気を入れる。ぷちゅ、と血管から不快な音がする。
次に腎臓を破裂させる。
肝臓を引きずり出す。
胃を切り裂く。
腸を引き千切る。千切る。千切る。本来出る筈が無い段階である出来損ないの排泄物を無理矢理ブチ撒ける。
「……その顔をやめろッ!!」
胸を抉る。抉る。抉る。肋骨を砕く。砕く。砕く。肺を抉り出す。
大動脈を斬る。
心臓を滅多刺しにする。
鮮血を全身に浴びる。
「あああぁあぁぁァッ!“出来損ないの時空剣士のくせに”ッ!!」
顔を剣で薙払う。
最初の一撃で、鼻を消し飛ばす。次の一撃で、口に剣を刺し一気に顎から下を千切る。みぢ、と音がして頬が裂ける。
更に耳を殺ぎ落とす。
続いて髪を頭皮ごと毟る。
ありとあらゆる神経を、肉に素手を捩じ込ませ千切る。
「はぁ、ハアッ!それだ!それを、それが僕を苛々させるッ!!その目が、その目をッ、やめろッ!!!」
「お、僕が気付かナイとでも思ッたのかいッ!!ええ!?僕がッ!!!……僕をッ!!」
クレスはその言葉と違い、実は今の瞬間までその気配に気付かなかった。
それだけに余計と腹が立った。この自分がこれだけ近くにいる奴の気配に気付かなかった。
それはクレスをこの上なく不快にさせるに十分過ぎる理由だった。
クレスは走る。剣を持たない左手を痙攣させ、木の根に足を取られながらも走る。走る。走る。
「僕をッ!!見るなアアァァああAあぁaaaaああッッ!!」
胸を斬り付ける。斬る。斬る。斬る。赤く濡れた白い骨が隙間から見えるまで。
「死ね!死ね!!死ねッ!!!」
腹を刺す。刺す。刺す。
刺した後、剣をひねる。傷に空気を入れる。ぷちゅ、と血管から不快な音がする。
次に腎臓を破裂させる。
肝臓を引きずり出す。
胃を切り裂く。
腸を引き千切る。千切る。千切る。本来出る筈が無い段階である出来損ないの排泄物を無理矢理ブチ撒ける。
「……その顔をやめろッ!!」
胸を抉る。抉る。抉る。肋骨を砕く。砕く。砕く。肺を抉り出す。
大動脈を斬る。
心臓を滅多刺しにする。
鮮血を全身に浴びる。
「あああぁあぁぁァッ!“出来損ないの時空剣士のくせに”ッ!!」
顔を剣で薙払う。
最初の一撃で、鼻を消し飛ばす。次の一撃で、口に剣を刺し一気に顎から下を千切る。みぢ、と音がして頬が裂ける。
更に耳を殺ぎ落とす。
続いて髪を頭皮ごと毟る。
ありとあらゆる神経を、肉に素手を捩じ込ませ千切る。
「はぁ、ハアッ!それだ!それを、それが僕を苛々させるッ!!その目が、その目をッ、やめろッ!!!」
気に食わない。
右の眼球に向けて剣を刺す。
刺す。刺す。刺す。刺す。
最初にぷちゅん、と音を立てながら透明な液体を散らせて目が弾ける。
二撃目からはぐちょ、ぐちゃ、と音がして脳が飛び出る。
剣を抜くと脳漿が顔に掛かった。
気に食わない。
感じるは不快感。
気に食わない。
その温度、その感覚、その量その色その形、お前の存在全てが。
気に食わない。
気に食わない気に食わない気に食わない。
気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない。
左の眼球に向かって剣を深く刺す。剣は当然、頭を貫通して地面へ橋を渡す。
「お前が、お前のせいでッ!“ミント”が死んだ!彼女を返せ!返せ!返せッ!」
ミント?あれ?誰それ?
クレスは自分で叫んでおいて一瞬不思議に思ったが、すぐに目の前の肉の解体作業に意識を向ける。
腕が気に食わない。
足が気に食わない。
翼が気に食わない。
髪が気に食わない。
お前の全てが、キニクワナイ。
右の眼球に向けて剣を刺す。
刺す。刺す。刺す。刺す。
最初にぷちゅん、と音を立てながら透明な液体を散らせて目が弾ける。
二撃目からはぐちょ、ぐちゃ、と音がして脳が飛び出る。
剣を抜くと脳漿が顔に掛かった。
気に食わない。
感じるは不快感。
気に食わない。
その温度、その感覚、その量その色その形、お前の存在全てが。
気に食わない。
気に食わない気に食わない気に食わない。
気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない。
左の眼球に向かって剣を深く刺す。剣は当然、頭を貫通して地面へ橋を渡す。
「お前が、お前のせいでッ!“ミント”が死んだ!彼女を返せ!返せ!返せッ!」
ミント?あれ?誰それ?
クレスは自分で叫んでおいて一瞬不思議に思ったが、すぐに目の前の肉の解体作業に意識を向ける。
腕が気に食わない。
足が気に食わない。
翼が気に食わない。
髪が気に食わない。
お前の全てが、キニクワナイ。
クレスは数分に渡りそいつを苛め抜くと、息を荒げながら満足そうに口を歪ませ笑った。
「あははは…どうだ、俺の勝ちだ」
ただの肉片になったそれを見つめながら滴る唾液と共に吐き捨てる。
「なんとか言ってみろよ」
肉片が何かを喋る筈も無く。
「何か言えって言ってんだよ」
従って彼の期待に添える筈が無く。
「何か言ってみろよッ!」
よって彼の怒りは治まる筈が無く。
しかし怒りは、次の展開により驚愕に消される羽目になった。
「あははは…どうだ、俺の勝ちだ」
ただの肉片になったそれを見つめながら滴る唾液と共に吐き捨てる。
「なんとか言ってみろよ」
肉片が何かを喋る筈も無く。
「何か言えって言ってんだよ」
従って彼の期待に添える筈が無く。
「何か言ってみろよッ!」
よって彼の怒りは治まる筈が無く。
しかし怒りは、次の展開により驚愕に消される羽目になった。
「よおクレス。俺を呼んだか?」
背後から唐突に声がした。
刹那、クレスの顔に怒りと殺意の色に驚愕の色が上書きされた。
反射的にそいつの方へ振り返る。
刹那、クレスの顔に怒りと殺意の色に驚愕の色が上書きされた。
反射的にそいつの方へ振り返る。
「…あ、」
……嘘だ。
「……あああ」
だって。
今。
目の前で。
こいつを。
僕が。
この剣で。
斬って。
刺して。
薙払って。
抉って。
潰して。
砕いて。
削いで。
千切って。
……嘘だ。
「……あああ」
だって。
今。
目の前で。
こいつを。
僕が。
この剣で。
斬って。
刺して。
薙払って。
抉って。
潰して。
砕いて。
削いで。
千切って。
“殺したのに”
「あ…ああ……ああああ…」
クレスの全身が震え出す。握られた剣を地面に落とし、後ずさる。
なんで、まだ生きてる。こいつ。
「それがあれだけ饒舌だったあんたの末路かよ、クレス=アルベイン。俺に負けた事実を認めたくなくて逃げたあんたにはお似合いだな」
違う違う違う違う違う違う。
「あんたは、結局何がしたかったんだ?人を殺して何に、どこに近付きたかったんだ?」
五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ
「“剣”としての存在理由は確かに斬る事だ。だけどよ、お前はクレス=アルベインだ」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う僕は違う僕は僕は僕は僕は違うチガウぼくはちが僕違う僕はあああああああああああああああぁぁああぁあああああああああああAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
「なあ、クレス。そこに、」
五月蠅い黙れ負けて無い俺は僕は負けてないまけてないまけてない負けてないまけてない僕はm
クレスの全身が震え出す。握られた剣を地面に落とし、後ずさる。
なんで、まだ生きてる。こいつ。
「それがあれだけ饒舌だったあんたの末路かよ、クレス=アルベイン。俺に負けた事実を認めたくなくて逃げたあんたにはお似合いだな」
違う違う違う違う違う違う。
「あんたは、結局何がしたかったんだ?人を殺して何に、どこに近付きたかったんだ?」
五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ
「“剣”としての存在理由は確かに斬る事だ。だけどよ、お前はクレス=アルベインだ」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う僕は違う僕は僕は僕は僕は違うチガウぼくはちが僕違う僕はあああああああああああああああぁぁああぁあああああああああああAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
「なあ、クレス。そこに、」
五月蠅い黙れ負けて無い俺は僕は負けてないまけてないまけてない負けてないまけてない僕はm
「 ?」
……え?こいつ今何て?
「聞こえなかったのか?まあそれならいいさ」
え?
「ああそうそう。後ろ見てみろよ、クレス」
え?
「お前が今まで必死で殺してたの、」
え?
「聞こえなかったのか?まあそれならいいさ」
え?
「ああそうそう。後ろ見てみろよ、クレス」
え?
「お前が今まで必死で殺してたの、」
え?
「ただの木だぜ」
え。
クレスはその言葉へ一瞬理解する時間を要した。
理解した瞬間に目を一気に見開き振り返る。
「……ほらな?」
そこには滅茶苦茶に砕けた木片と掘り起こされた地面があった。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああAAAAAAA
「嘘だッ!!」
クレスは俯き、首を振った。
「嘘を付くなッ!僕はお前に勝った!勝ったんだッ!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…あ?」
俯いた彼の目に赤が写る。
それは自らの腹から出た夥しい量の血液。奥に見える損傷したズタズタの臓器。
――惨敗を否定する自分に刻まれた、否定のしようのない唯一の負けの証拠だった。
「ち……違うっ……違う違う違う!」
震える声を上擦らせ、両手で頭を抱えながら必死に否定する。
クレスはその証拠を消す為に自らの腹を掻き毟る。
こんなの違う。違う違う違う。折角、あと少しだったのに。あいつに勝ったらもっともっと近付けて、手に入れられる筈だったのに。
それなのに、今まで築き上げたものをあいつは崩した。
僕が負けたなんて信じない。信じない信じない。
……掻き毟るうちに当然、腸が姿を現す。
無数の突きにより裂傷を負った腸から、赤と黄色が混じった液体が溢れる。
(あれ?この色は何処かで見た)
お世辞にも綺麗とは言い難い色を見て砂漠で遊んだ赤髪の女のそれを思い出した途端、クレスは腹の中で蠢く何かを感じる。
確かめようと手を腹に伸ばした瞬間にざざあ、とクレスの腸を破り出て来たのは、黒く光る虫。
……ゴキブリだった。
え。
クレスはその言葉へ一瞬理解する時間を要した。
理解した瞬間に目を一気に見開き振り返る。
「……ほらな?」
そこには滅茶苦茶に砕けた木片と掘り起こされた地面があった。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああAAAAAAA
「嘘だッ!!」
クレスは俯き、首を振った。
「嘘を付くなッ!僕はお前に勝った!勝ったんだッ!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…あ?」
俯いた彼の目に赤が写る。
それは自らの腹から出た夥しい量の血液。奥に見える損傷したズタズタの臓器。
――惨敗を否定する自分に刻まれた、否定のしようのない唯一の負けの証拠だった。
「ち……違うっ……違う違う違う!」
震える声を上擦らせ、両手で頭を抱えながら必死に否定する。
クレスはその証拠を消す為に自らの腹を掻き毟る。
こんなの違う。違う違う違う。折角、あと少しだったのに。あいつに勝ったらもっともっと近付けて、手に入れられる筈だったのに。
それなのに、今まで築き上げたものをあいつは崩した。
僕が負けたなんて信じない。信じない信じない。
……掻き毟るうちに当然、腸が姿を現す。
無数の突きにより裂傷を負った腸から、赤と黄色が混じった液体が溢れる。
(あれ?この色は何処かで見た)
お世辞にも綺麗とは言い難い色を見て砂漠で遊んだ赤髪の女のそれを思い出した途端、クレスは腹の中で蠢く何かを感じる。
確かめようと手を腹に伸ばした瞬間にざざあ、とクレスの腸を破り出て来たのは、黒く光る虫。
……ゴキブリだった。
「う…おええええっ!」
口から今朝食べた木の実の破片が溢れる。
本来胃にあるべき酸が逆流し喉を焼く。
クレスは体を襲う不快感と恐怖に、足を崩し腰を地に落とす。
「い……嫌だ……もう嫌だ……」
震える喉でやっと口にした言葉は、掠れ過ぎて既に闘神としての覇気を失っていた。
肩で息をしながら、クレスはある音に気付き耳を傾ける。足音だ。
その足音は前から次第に近付く。どうやら相手は前方のようだ。
ごくり。
クレスは唾を飲むと剣を掴み前方を見つめる。
――強い。
気配でそれが分かったからだ。
ぽん。
何の前触れも無く前方から聞こえていた足音が止み、後方から右肩に手が置かれる。
当然、クレスは何が起きたかも分からず、動けない。
後ろの人物はその口を呼吸の音が五月蠅く聞こえる距離まで右耳に近付け、子猫をあやすように優しく、それでいて全身を覆い尽くしてしまうような生温い小声で言った。
口から今朝食べた木の実の破片が溢れる。
本来胃にあるべき酸が逆流し喉を焼く。
クレスは体を襲う不快感と恐怖に、足を崩し腰を地に落とす。
「い……嫌だ……もう嫌だ……」
震える喉でやっと口にした言葉は、掠れ過ぎて既に闘神としての覇気を失っていた。
肩で息をしながら、クレスはある音に気付き耳を傾ける。足音だ。
その足音は前から次第に近付く。どうやら相手は前方のようだ。
ごくり。
クレスは唾を飲むと剣を掴み前方を見つめる。
――強い。
気配でそれが分かったからだ。
ぽん。
何の前触れも無く前方から聞こえていた足音が止み、後方から右肩に手が置かれる。
当然、クレスは何が起きたかも分からず、動けない。
後ろの人物はその口を呼吸の音が五月蠅く聞こえる距離まで右耳に近付け、子猫をあやすように優しく、それでいて全身を覆い尽くしてしまうような生温い小声で言った。
「やあ、“僕”」
クレスはゆっくりと目を右に移動させる。ついでに首も少し。
「……で」
全身から汗が吹き出て血の気が引くのが分かった。
視界に入ったそいつは、聞き慣れた声で。
赤いバンダナをしてエターナルソードを持って鎧を身に着けて金の髪をしていて
「……んで」
時空剣士で繰り出す技は多分アルベイン流と時空剣技で。
しかしそいつは、そっくりのくせに自分には出来ないような顔でにっこりと笑った。
「なんで」
そいつの名前を知らない筈が無い。
当たり前だ。だってそこに居たのは、
「……で」
全身から汗が吹き出て血の気が引くのが分かった。
視界に入ったそいつは、聞き慣れた声で。
赤いバンダナをしてエターナルソードを持って鎧を身に着けて金の髪をしていて
「……んで」
時空剣士で繰り出す技は多分アルベイン流と時空剣技で。
しかしそいつは、そっくりのくせに自分には出来ないような顔でにっこりと笑った。
「なんで」
そいつの名前を知らない筈が無い。
当たり前だ。だってそこに居たのは、
「なんで居るんだよ。“僕”」
クレス=アルベインだったのだから。
クレス=アルベインだったのだから。
「はじめまして。偽者のクレス君」
偽者?僕が?何を言っている。偽者はお前だ。消えろ、まやかしめ。
「何を言って」
肩に置かれた手を除け忘れる事すら忘れる程、クレスは混乱していた。
一体どうなってる。
いきなり、“僕”が現れて僕の存在を否定した。なんなんだこいつ。
「君は、誰だい?」
え?
(僕は、クレス。クレス=アルベイン)
そこまで言葉を考えてさて放とうと考えたが、ある疑問が湧いた。
(クレス=アルベインって誰だ)
「君はクレス=アルベインじゃないのかい?」
そうだ、僕はクレスだ。クレス=アルベインだ。
だけど、それだけ。“クレス=アルベイン”という薄っぺらいレッテルが貼ってあるだけ。僕は、誰だ?
ああ、そうか。分かったよ。理解出来た。
――僕は、空っぽだ。
「……クレスって、誰なんだ?」
教授を乞うような声で、一言呟く。
「……。いいよ。教えてあげるさ。
クレス=アルベインはトーティス村の生まれで駄洒落が大好きで、チェスター=バークライトとアミィ=バークライトと仲がよくて、後に知り合ったミント=アドネード、クラース・F・レスター、アーチェ=クライン、藤林すずらと共にダオスを倒した張本人だ。」
……わからない。
理解出来ない。何なんだ、それ。それがクレスなら、僕は一体何者なんだ。
「解せないと言った面持だね。そんな哀れな“僕”に一つヒントをあげよう」
目の前のクレスが喋る。
「僕は君が作り出したもう一人の僕だ。君が思えばその通りになる。だから僕が意思を持つ事は出来ない」
え?
「つまり僕の発言は君の記憶を元に造られている。つまり」
え?という事はさっきのは?
「何を言って」
肩に置かれた手を除け忘れる事すら忘れる程、クレスは混乱していた。
一体どうなってる。
いきなり、“僕”が現れて僕の存在を否定した。なんなんだこいつ。
「君は、誰だい?」
え?
(僕は、クレス。クレス=アルベイン)
そこまで言葉を考えてさて放とうと考えたが、ある疑問が湧いた。
(クレス=アルベインって誰だ)
「君はクレス=アルベインじゃないのかい?」
そうだ、僕はクレスだ。クレス=アルベインだ。
だけど、それだけ。“クレス=アルベイン”という薄っぺらいレッテルが貼ってあるだけ。僕は、誰だ?
ああ、そうか。分かったよ。理解出来た。
――僕は、空っぽだ。
「……クレスって、誰なんだ?」
教授を乞うような声で、一言呟く。
「……。いいよ。教えてあげるさ。
クレス=アルベインはトーティス村の生まれで駄洒落が大好きで、チェスター=バークライトとアミィ=バークライトと仲がよくて、後に知り合ったミント=アドネード、クラース・F・レスター、アーチェ=クライン、藤林すずらと共にダオスを倒した張本人だ。」
……わからない。
理解出来ない。何なんだ、それ。それがクレスなら、僕は一体何者なんだ。
「解せないと言った面持だね。そんな哀れな“僕”に一つヒントをあげよう」
目の前のクレスが喋る。
「僕は君が作り出したもう一人の僕だ。君が思えばその通りになる。だから僕が意思を持つ事は出来ない」
え?
「つまり僕の発言は君の記憶を元に造られている。つまり」
え?という事はさっきのは?
「……僕のヒントはここまで。僕にとっても君にとっても最後のチャンスだよ、クレス=アルベイン。君が死んだら連動して僕も死ぬからね。」
紫の剣に手を掛け、目の前の僕……いや、クレス=アルベインという出来上がった人は続けた。
「さあ、もう一度問うよ。“君は、誰だい?”」
ああ。なるほど、そうか。簡単じゃないか。
確かに、偽者だ。
クレス?誰それ?馬鹿馬鹿しい。
これは命令だ。俺の障害になるお前は消えろ、クレス=アルベイン。邪魔なんだよ。
「ふ…はは。あはははははは…!随分簡単な問題だね、クレス」
立ち上がり、紫の剣に手を掛けながらクレス=アルベインに言の葉を向ける。
「俺は、クレス=アルベインなんかじゃない」
僕、いや俺はにやりと笑って、剣を抜いて自信たっぷりに言ってやった。
「答えは“剣”だ」
クレスは答えを聞いて一瞬悲しそうな顔をした。
「……残念だよ。こんな結末になるなんて」
クレスは剣を抜き、蒼い炎でそれを光らせる。
剣も自らの刃を同じように蒼い炎で光らせる。
「俺が俺である為に、偽者のお前は死ね。クレス=アルベイン」
これは命令だ。大人しく自害するか、俺に殺されるか、選べ。
「ただの剣が僕に勝てると?剣は人が持つものだ。驕るなよ、“僕”」
違う!
ぎり、と歯を軋ませる。
この後に及んでまだ俺を“僕”だと?ふざけるな。虫酸が走る。
嫌悪なんて生易しいものじゃない。お前と同じ空気を吸っているだけで不愉快だ。
「お前は、俺が殺す」
俺はお前じゃない。一緒にするな、クレス。
「無理だね。自分を僕だと認めない、弱い“僕”には」
二人は同時にバックステップで御互いの距離を取る。
一本の枝から、一枚の枯れ葉が離れた。
それを合図に二人は雄叫びを上げて走る。
一人は殺す為に。一人は認めさせる為に。
紫の剣に手を掛け、目の前の僕……いや、クレス=アルベインという出来上がった人は続けた。
「さあ、もう一度問うよ。“君は、誰だい?”」
ああ。なるほど、そうか。簡単じゃないか。
確かに、偽者だ。
クレス?誰それ?馬鹿馬鹿しい。
これは命令だ。俺の障害になるお前は消えろ、クレス=アルベイン。邪魔なんだよ。
「ふ…はは。あはははははは…!随分簡単な問題だね、クレス」
立ち上がり、紫の剣に手を掛けながらクレス=アルベインに言の葉を向ける。
「俺は、クレス=アルベインなんかじゃない」
僕、いや俺はにやりと笑って、剣を抜いて自信たっぷりに言ってやった。
「答えは“剣”だ」
クレスは答えを聞いて一瞬悲しそうな顔をした。
「……残念だよ。こんな結末になるなんて」
クレスは剣を抜き、蒼い炎でそれを光らせる。
剣も自らの刃を同じように蒼い炎で光らせる。
「俺が俺である為に、偽者のお前は死ね。クレス=アルベイン」
これは命令だ。大人しく自害するか、俺に殺されるか、選べ。
「ただの剣が僕に勝てると?剣は人が持つものだ。驕るなよ、“僕”」
違う!
ぎり、と歯を軋ませる。
この後に及んでまだ俺を“僕”だと?ふざけるな。虫酸が走る。
嫌悪なんて生易しいものじゃない。お前と同じ空気を吸っているだけで不愉快だ。
「お前は、俺が殺す」
俺はお前じゃない。一緒にするな、クレス。
「無理だね。自分を僕だと認めない、弱い“僕”には」
二人は同時にバックステップで御互いの距離を取る。
一本の枝から、一枚の枯れ葉が離れた。
それを合図に二人は雄叫びを上げて走る。
一人は殺す為に。一人は認めさせる為に。
今、彼等の戦いは始まった。
「「次元斬!」」
剣とクレスは蒼の衝撃波を持ち激突する。
二人は互角に見えたが、勝負は枯れ葉が地面に落ちるまでの一瞬の出来事だった。
「あああ鳳凰天駆っ!」
剣は炎を纏い天を駆けながら降下する。鳳凰が狙う獲物はただ一人、クレス=アルベイン。
「守護法陣!」
クレスはそれを攻撃と一体化した防御で防がんとする。
剣は蒼を迸らせる法陣を見ると、突っ込む前に時空剣技を発動させる。
それを予測していたかのように、クレスも同じ技を使う。
二人は蒼い光に包まれる。
「「空間翔転移!」」
剣はクレスの背後へ転移し、クレスは転移した剣の背後へ転移する。
剣の背中を蒼の炎を纏う剣を貫かせ、素早くそれを抜くはクレス=アルベイン。
その瞬間に木の葉が一枚、地に降りた。
剣とクレスは蒼の衝撃波を持ち激突する。
二人は互角に見えたが、勝負は枯れ葉が地面に落ちるまでの一瞬の出来事だった。
「あああ鳳凰天駆っ!」
剣は炎を纏い天を駆けながら降下する。鳳凰が狙う獲物はただ一人、クレス=アルベイン。
「守護法陣!」
クレスはそれを攻撃と一体化した防御で防がんとする。
剣は蒼を迸らせる法陣を見ると、突っ込む前に時空剣技を発動させる。
それを予測していたかのように、クレスも同じ技を使う。
二人は蒼い光に包まれる。
「「空間翔転移!」」
剣はクレスの背後へ転移し、クレスは転移した剣の背後へ転移する。
剣の背中を蒼の炎を纏う剣を貫かせ、素早くそれを抜くはクレス=アルベイン。
その瞬間に木の葉が一枚、地に降りた。
「う……嘘だ……」
蒼を以て赤が流れ出す。
剣はぽかん、と空を仰ぎ再び壊れ出す。
「嘘だ俺は負けない僕はクレスに負けて違う負けない為に嘘クレス違う俺違う負けクレスに負け嘘違俺はクレスに負けてああああ……」
剣を地面に伏させないは、体力では無く精神力。
その時背後から足音が聞こえた。あろう事か段々遠ざかっている音。
クレスは剣に背中を向け、無機質な声でたった、たった一言呟いた。
その一言は剣にとって何もかもを奪い尽くす無慈悲な断罪の炎だった。
蒼を以て赤が流れ出す。
剣はぽかん、と空を仰ぎ再び壊れ出す。
「嘘だ俺は負けない僕はクレスに負けて違う負けない為に嘘クレス違う俺違う負けクレスに負け嘘違俺はクレスに負けてああああ……」
剣を地面に伏させないは、体力では無く精神力。
その時背後から足音が聞こえた。あろう事か段々遠ざかっている音。
クレスは剣に背中を向け、無機質な声でたった、たった一言呟いた。
その一言は剣にとって何もかもを奪い尽くす無慈悲な断罪の炎だった。
「お前の負けだ、“僕”」
剣は振り返ると、クレスの背中へと怒鳴り散らす為に空気を吸った。
許せない。許せない許さない。まだ俺を“僕”と言うのか、こいつ。しかも俺の負けだと? 俺を舐めてるのか?
俺に背中を向けるな。まだだ。まだ終わらない。
俺は生きてるじゃないか!
馬鹿め!死なない限り負けはないんだ!
だからッ!まだ負けてないんだよおおおオオオオ!!
許せない。許せない許さない。まだ俺を“僕”と言うのか、こいつ。しかも俺の負けだと? 俺を舐めてるのか?
俺に背中を向けるな。まだだ。まだ終わらない。
俺は生きてるじゃないか!
馬鹿め!死なない限り負けはないんだ!
だからッ!まだ負けてないんだよおおおオオオオ!!
「違う違う違うチガウチガウ、違あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああうッ!死ね!しね!シネ!ぼ、俺はッ!負ける訳にはいかないんだッ!うおおおあああAAA!」
だがクレスはこちらを見向きもせず手をこちらにひらひらと泳がせている。
「じゃあね」
……じゃあね、だと?
「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」
剣は走る。気に食わない。殺してやる。
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。
俺と同じ顔のくせに。俺と同じ技のくせに。俺と同じ武器のくせに。俺と同じ技量のくせに。どうして俺が負けよう。
自らが人を滅する剣となった、この俺が。
「これでッ!終わりだあああぁぁぁぁぁ!!」
紫を大きく振りかぶる。その構えは、アルベイン流最終奥義の構え。
クレスはこちらを向き、にやりと笑う。
「……なんだ。クレスを否定しておいてまだ使うんだね。“アルベイン流”」
彼の持つ紫は、同じように構えられていた。
だがクレスはこちらを見向きもせず手をこちらにひらひらと泳がせている。
「じゃあね」
……じゃあね、だと?
「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」
剣は走る。気に食わない。殺してやる。
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。
俺と同じ顔のくせに。俺と同じ技のくせに。俺と同じ武器のくせに。俺と同じ技量のくせに。どうして俺が負けよう。
自らが人を滅する剣となった、この俺が。
「これでッ!終わりだあああぁぁぁぁぁ!!」
紫を大きく振りかぶる。その構えは、アルベイン流最終奥義の構え。
クレスはこちらを向き、にやりと笑う。
「……なんだ。クレスを否定しておいてまだ使うんだね。“アルベイン流”」
彼の持つ紫は、同じように構えられていた。
「「冥!」」
――紫は御互いを殺す為に再び衝突する。
――紫は御互いを殺す為に再び衝突する。
「「空!」」
――御互いに全力の剣激は、辺り一面を粉砕でもなく、“消滅”させる。
――御互いに全力の剣激は、辺り一面を粉砕でもなく、“消滅”させる。
「「斬!」」
――蒼き炎は密度を増し、黒き炎に変貌していた。紫に纏われた黒き炎は空間をも焼き、激しい雷を散らす。
――蒼き炎は密度を増し、黒き炎に変貌していた。紫に纏われた黒き炎は空間をも焼き、激しい雷を散らす。
「「翔!」」
――一方の紫が弾かれた。
雷と漆黒の炎を相殺するべき媒介は空へと飛翔する。
相殺されるべき媒介を失ったそれらは、当然残された媒介へと矛先を移行する。即ち紫を失った者へと。
――一方の紫が弾かれた。
雷と漆黒の炎を相殺するべき媒介は空へと飛翔する。
相殺されるべき媒介を失ったそれらは、当然残された媒介へと矛先を移行する。即ち紫を失った者へと。
「剣っ!!」
――最後の天空への一撃を放ったのはただ一人。
よって“剣”の文字を紡いだのはその者だけであった。
――最後の天空への一撃を放ったのはただ一人。
よって“剣”の文字を紡いだのはその者だけであった。
「あああああああああッ!!」
剣は、クレスから全身に最後の一撃を浴びると膝を崩した。
“敗北”
必然的にその二文字が剣に叩き付けられる。
弾かれた紫は地面へと墜ち、刺さった。
「い……痛い……い……や、だ」
クレスは敗北した者へと剣を向けて歩み寄る。
その剣で引導を渡す為に。
「さよなうなら、“僕”」
剣は、クレスから全身に最後の一撃を浴びると膝を崩した。
“敗北”
必然的にその二文字が剣に叩き付けられる。
弾かれた紫は地面へと墜ち、刺さった。
「い……痛い……い……や、だ」
クレスは敗北した者へと剣を向けて歩み寄る。
その剣で引導を渡す為に。
「さよなうなら、“僕”」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたk
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたk
「……ひぃあああああぁぁッ!死にたくないいいいいッ!」
剣は紫を引き抜くと、ひたすらクレスから逃げた。
しかしその姿は正常では無い。手も、足も、目も、口も、耳も、鼻も、脳も、心も。全てをボロボロにしても尚、足を動かす。
剣は紫を引き抜くと、ひたすらクレスから逃げた。
しかしその姿は正常では無い。手も、足も、目も、口も、耳も、鼻も、脳も、心も。全てをボロボロにしても尚、足を動かす。
手は振らずだらりと下げ、足跡を結ぶと到底直線とはいえないらくがきのような線が記されるだろう走り方。
全てが擦り切れた彼を動かすのは
“死への恐怖”
それだけだった。
「敗北の末に叩き出した答えがそれかい? 残念だよ、“僕”」
俺は剣だ。
クレスはお前だ。
俺はクレスじゃない。
クレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃない
クレスの資格は無い
――お、僕は、クレスじゃないんだよ、な?ミント?
「い……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!死にたくない!来るな!来るなよお!!!来るなあぁあアァァあぁぁァあAAAAAaaa」
嫌だ。痛い。怖い。死にたくない。俺に近付くな。いやだいやだいやだ来るな。認めたくない。来るな来るな。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許して下さい許して下さい。
全てが擦り切れた彼を動かすのは
“死への恐怖”
それだけだった。
「敗北の末に叩き出した答えがそれかい? 残念だよ、“僕”」
俺は剣だ。
クレスはお前だ。
俺はクレスじゃない。
クレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃないクレスじゃない
クレスの資格は無い
――お、僕は、クレスじゃないんだよ、な?ミント?
「い……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!死にたくない!来るな!来るなよお!!!来るなあぁあアァァあぁぁァあAAAAAaaa」
嫌だ。痛い。怖い。死にたくない。俺に近付くな。いやだいやだいやだ来るな。認めたくない。来るな来るな。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許して下さい許して下さい。
―――僕は思うんだ。世界はifで生め尽くされている。
どちらかの最果ての道の先に存在している事象を考えてもどうにもならないけど、それでも人はもう一つの可能性を考える。
もし、彼がコングマンに殺されていたら。
もし、彼の支給品にバクショウダケが無かったなら。
もし、彼がコレットと出会わなかったら。
もし、……
どちらかの最果ての道の先に存在している事象を考えてもどうにもならないけど、それでも人はもう一つの可能性を考える。
もし、彼がコングマンに殺されていたら。
もし、彼の支給品にバクショウダケが無かったなら。
もし、彼がコレットと出会わなかったら。
もし、……
……何度転んだかは分からない。
体は擦り傷だらけ、全身は血まみれ。
目に映る世界は有り得ない色彩で。
見るもの全てが死体と剣に見えた。
それでも剣は自らを追ってくるクレスから必死で逃げた。
いつの間にか彼の焦点が合わない目は森の木々では無く、家の連なりを眺めていた。
先程森を抜けたらしいのだが、クレスは恐怖でそれに気付かない。
気付いていた所で、彼の目に映るのは死体と剣だけなのだが。
体は擦り傷だらけ、全身は血まみれ。
目に映る世界は有り得ない色彩で。
見るもの全てが死体と剣に見えた。
それでも剣は自らを追ってくるクレスから必死で逃げた。
いつの間にか彼の焦点が合わない目は森の木々では無く、家の連なりを眺めていた。
先程森を抜けたらしいのだが、クレスは恐怖でそれに気付かない。
気付いていた所で、彼の目に映るのは死体と剣だけなのだが。
彼が走るのは囚われのお姫様が居る鐘楼台の裏。
そこに待ち人が居るなんて冷静さを欠いた彼が気付く訳が無く―――。
そこに待ち人が居るなんて冷静さを欠いた彼が気付く訳が無く―――。
ああ、そうそう。ここで僕が先程の話の続きをしようか。
途中やめしてしまったifの話だよ。実はあれにはまだ結構続きがあってね。
もし、
―――もし彼が森から抜けなければ。
これから起きる事象を回避出来ただろうに。
ぼす。
縺れる足が何かを踏んだ。
それは例えるなら、何かの“蓋”。
途中やめしてしまったifの話だよ。実はあれにはまだ結構続きがあってね。
もし、
―――もし彼が森から抜けなければ。
これから起きる事象を回避出来ただろうに。
ぼす。
縺れる足が何かを踏んだ。
それは例えるなら、何かの“蓋”。
―――もし彼が東に行かなかったら。
それを踏むことはなかっただろうに。
「…あっ…?」
不抜けた声は呆けた表情から発せられた。
がくん。
途端に彼の視界に映る死と剣のみで構成される世界が斜めになった。
ふわり。
同時に体が宙に浮く感覚。
それを踏むことはなかっただろうに。
「…あっ…?」
不抜けた声は呆けた表情から発せられた。
がくん。
途端に彼の視界に映る死と剣のみで構成される世界が斜めになった。
ふわり。
同時に体が宙に浮く感覚。
―――もし彼がもう少しだけ冷静でいられたなら。
空間転移で抜け出す方法を思い付いただろうに。
今度は視界が暗闇に包まれた。
クレスの声が聞こえた。
「残念。鬼ごっこもここまでだね」
空間転移で抜け出す方法を思い付いただろうに。
今度は視界が暗闇に包まれた。
クレスの声が聞こえた。
「残念。鬼ごっこもここまでだね」
―――もし彼の落ち方が仰向けでなかったなら。
自分に何が起きたか理解出来たかもしれないのに。
自分を追って墜ちてくるクレスを目が認めた。
「……掴まえた」
クレスは笑って言った。
ぶすり。
腹部と右胸、左ふくらはぎと右手から墓の名を持つ槍が生えた。
自分に何が起きたか理解出来たかもしれないのに。
自分を追って墜ちてくるクレスを目が認めた。
「……掴まえた」
クレスは笑って言った。
ぶすり。
腹部と右胸、左ふくらはぎと右手から墓の名を持つ槍が生えた。
―――もし彼が紫の大剣をもう少しだけ強く握っていたならば。
驚きをして大剣を天に向けて手放さなくて済んだのに。
ひゅん。
紫は空気を斬りながら虚しく回転する。
斬るべき人を失ったその剣は、当然重力に逆らえる筈も無く。
驚きをして大剣を天に向けて手放さなくて済んだのに。
ひゅん。
紫は空気を斬りながら虚しく回転する。
斬るべき人を失ったその剣は、当然重力に逆らえる筈も無く。
―――もし彼の紫の大剣がそのまま降下したならば。
柄が衝突するだけで済んだかもしれなかったのに。
がきん。
穴の端にそれの柄が当たる。再び空中に浮いたそれは、回転の速度を相殺され再び下降する。
柄が衝突するだけで済んだかもしれなかったのに。
がきん。
穴の端にそれの柄が当たる。再び空中に浮いたそれは、回転の速度を相殺され再び下降する。
―――もし剣の真下が地面だったなら。
月は、割られる事は無かっただろうに。
朧は、月を隠す事は無かっただろうに。
剣の重心は刀身にある。
回転を止めてしまった剣は、当然重心を無視出来る筈が無く。
月は、割られる事は無かっただろうに。
朧は、月を隠す事は無かっただろうに。
剣の重心は刀身にある。
回転を止めてしまった剣は、当然重心を無視出来る筈が無く。
―――もしもう少しだけ紫が月を割る時間が遅かったなら。
答えは僕にも聞こえただろうに。
答えは僕にも聞こえただろうに。
さて、僕が語れるのはここまで。ここからは僕も覚えてないから。
……遂に地獄に続く漆黒へ、紫は誘われた。
―――――――――――――
その目で紫の剣を見た闘神は、その口を裂けんばかりに横に広げにやりと笑った。
三日月を彷彿とさせるその口は、漆黒の中でよく映えた。……そうか。解ったよ。
全てを殺して俺が近付きたかったもの。
そして俺が遠ざかりたかったもの。
俺が、僕が、近付きたかったのは、
三日月を彷彿とさせるその口は、漆黒の中でよく映えた。……そうか。解ったよ。
全てを殺して俺が近付きたかったもの。
そして俺が遠ざかりたかったもの。
俺が、僕が、近付きたかったのは、
「来いよ、“僕”」
遠ざかりたかったのh
――紫の大剣は斬るべき人を失ってなどいなかった。最も近い人物を失念していた。
主が居た。その刀身を赤に染めてきた、主が居た。
因果応報という言葉がある。
これが報いなのか。
それとも狂った時空剣士がこれを望んだのか。
それは誰にも分からない。
しかし剣と一体化した強さを持ち、剣になりきる事で存在意義をこの世界に見出だしたこの剣士はこの瞬間に。
ざくり。
皮肉にも最後に剣と一体化し、“死”そのものになる。
――紫の大剣は斬るべき人を失ってなどいなかった。最も近い人物を失念していた。
主が居た。その刀身を赤に染めてきた、主が居た。
因果応報という言葉がある。
これが報いなのか。
それとも狂った時空剣士がこれを望んだのか。
それは誰にも分からない。
しかし剣と一体化した強さを持ち、剣になりきる事で存在意義をこの世界に見出だしたこの剣士はこの瞬間に。
ざくり。
皮肉にも最後に剣と一体化し、“死”そのものになる。
白昼の三日月は、中心を紫で割られて紅の朧で身を染めた事以外は、その姿を何も変える事無く固持した。
【クレス=アルベイン死亡】
【残り9人】
【残り9人】
※尚エターナルソードはC3村東地区鐘楼台裏の落とし穴の中