The last battle-黄泉の門開く処-
溶けている。そういう自覚だけが其処にあった。
煮込めば煮込むほど、原形をとどめすに崩れ名前を失っていく野菜のように。
嘗てはあった皮膚一枚を境界とする此方の彼方の区別が上手く付かない。
境界面がないから個を確定できない。だから、其処はもう立方体の部屋はおろか立方晶構造を維持した物体ですらなかった。
かつて、其処は「何か」であったはずだ。だが、既に記憶は砂粒ほどにまで分解され、
過去は弾性も剛性も、復元性すら失い、「個性」は実に“溶けやすく”なった。
意識に直接伝わるノイズは、数が多すぎてもはや無音の域に達している。
其処が小刻みに震える。嗤いを噛みしめているような震えだった。
何が“溶けやすい”だ。元からしてユルユルじゃ無いか。
吹けば飛ぶような自意識、役割を演じ続けなければ立っていられない惰弱。
日曜大工でももう少しマシなモノが拵えられるだろう出来合いだ。
震えれば震えるほど其処は他と混じっていく。「他」は今陽気を振りまいて振りまいて、酷く楽しそうに笑っていた。
眼という区別が無いから何がどうなっているか判別の仕様もないが、溶けていく末端から飛びそうなほどの愉悦が伝わっている。
さぞやお楽しみなのだろう。
そう皮肉気な波を揺らす其処は、「他」とは対称的な気配と言っても差し支えなかった。
溶けてしまう事も厭わずに賽を振った「何か」であった頃の悲願を達成した今、他である彼女のように、いや、それ以上に高らかに笑っても良かった筈だ。
だが、其処には笑いは無かった。手向けのような嘲笑の一つさえ無かった。
理由は其処にはとっくに分かっていた。そして、それを解ってしまうことがどういう意味を内包しているのかも。
煮込めば煮込むほど、原形をとどめすに崩れ名前を失っていく野菜のように。
嘗てはあった皮膚一枚を境界とする此方の彼方の区別が上手く付かない。
境界面がないから個を確定できない。だから、其処はもう立方体の部屋はおろか立方晶構造を維持した物体ですらなかった。
かつて、其処は「何か」であったはずだ。だが、既に記憶は砂粒ほどにまで分解され、
過去は弾性も剛性も、復元性すら失い、「個性」は実に“溶けやすく”なった。
意識に直接伝わるノイズは、数が多すぎてもはや無音の域に達している。
其処が小刻みに震える。嗤いを噛みしめているような震えだった。
何が“溶けやすい”だ。元からしてユルユルじゃ無いか。
吹けば飛ぶような自意識、役割を演じ続けなければ立っていられない惰弱。
日曜大工でももう少しマシなモノが拵えられるだろう出来合いだ。
震えれば震えるほど其処は他と混じっていく。「他」は今陽気を振りまいて振りまいて、酷く楽しそうに笑っていた。
眼という区別が無いから何がどうなっているか判別の仕様もないが、溶けていく末端から飛びそうなほどの愉悦が伝わっている。
さぞやお楽しみなのだろう。
そう皮肉気な波を揺らす其処は、「他」とは対称的な気配と言っても差し支えなかった。
溶けてしまう事も厭わずに賽を振った「何か」であった頃の悲願を達成した今、他である彼女のように、いや、それ以上に高らかに笑っても良かった筈だ。
だが、其処には笑いは無かった。手向けのような嘲笑の一つさえ無かった。
理由は其処にはとっくに分かっていた。そして、それを解ってしまうことがどういう意味を内包しているのかも。
簡潔に云ってしまえば、“やることが無くなった”のだ。
裏切り者に制裁を与え、無念に散った者の仇は知る限りに討った。
その先にあったのは、達成の歓喜でもこうなってしまった事への後悔でもなく、
ただ「何か」だった頃にやらなければならなかったことを全てやり終えてしまった虚無感だけだった。
やるべきことを終えてしまった。それは、彼が必死に取り繕おうとしていた殻の完全な破綻を意味していた。
そこに至り其処は漸く自覚する。
自らを完全に否定し、自らの目の前で裏切った男をこう成り果てるまで執拗に追い求め続けた理由が、
私憤でも義憤でもなく、ただの“裏切り者を許してはいけない”という義務だったことに。
もし、怒りやら悲しみやら――いっそ狂いでもいい――を原動力としていたのなら、まだまだその感情のままに殺し尽くせばいいのだ。
それが無い。内側から沸き立つ物がない。俺が俺として立つ理由がない。
なんて、なんてユルユルなんだろう。ユルユルすぎて固が、個が無い。
その先にあったのは、達成の歓喜でもこうなってしまった事への後悔でもなく、
ただ「何か」だった頃にやらなければならなかったことを全てやり終えてしまった虚無感だけだった。
やるべきことを終えてしまった。それは、彼が必死に取り繕おうとしていた殻の完全な破綻を意味していた。
そこに至り其処は漸く自覚する。
自らを完全に否定し、自らの目の前で裏切った男をこう成り果てるまで執拗に追い求め続けた理由が、
私憤でも義憤でもなく、ただの“裏切り者を許してはいけない”という義務だったことに。
もし、怒りやら悲しみやら――いっそ狂いでもいい――を原動力としていたのなら、まだまだその感情のままに殺し尽くせばいいのだ。
それが無い。内側から沸き立つ物がない。俺が俺として立つ理由がない。
なんて、なんてユルユルなんだろう。ユルユルすぎて固が、個が無い。
俺はただ、壊れかかった俺を維持する為だけに、復讐鬼の役割を演じていただけなのか。
あれだけ殺せと叫んでいたのに、あれも偽物。死の淵にでさえ、固める思いも無かったのか。
あれだけ殺せと叫んでいたのに、あれも偽物。死の淵にでさえ、固める思いも無かったのか。
その結論に至ったとき、其処にとって酷くしっくりした気がした。
こうしてシャーリィ=フェンネスに溶けているのも、アレに触れてドロドロに成ってるわけじゃない。
“元からドロドロだっただけ”じゃんか。
そして同時に、其処に猛烈な恐れを思い起こさせた。「何か」だった頃に比肩する感情と呼べるほどの高ぶりだった。
何もない。俺には中身がない。殻が割れたらそこで終わってしまう。
罅割れから漏れる中身を漏らすまいと手で押さえるように、吹き付ける寒波に凍えないように自らを抱きしめるように、
強く強く震えた。振動だけが流体にとっての表現方法だった。
嫌だ。死ぬのも嫌だけど、俺が消えるなんて、嫌だ。死すら俺にはない。
だれか、誰か理由をくれ。
力はもう手に入れたから、漆黒の翼として揮う正義はここにあるから。
後は理由だけだから。
こうしてシャーリィ=フェンネスに溶けているのも、アレに触れてドロドロに成ってるわけじゃない。
“元からドロドロだっただけ”じゃんか。
そして同時に、其処に猛烈な恐れを思い起こさせた。「何か」だった頃に比肩する感情と呼べるほどの高ぶりだった。
何もない。俺には中身がない。殻が割れたらそこで終わってしまう。
罅割れから漏れる中身を漏らすまいと手で押さえるように、吹き付ける寒波に凍えないように自らを抱きしめるように、
強く強く震えた。振動だけが流体にとっての表現方法だった。
嫌だ。死ぬのも嫌だけど、俺が消えるなんて、嫌だ。死すら俺にはない。
だれか、誰か理由をくれ。
力はもう手に入れたから、漆黒の翼として揮う正義はここにあるから。
後は理由だけだから。
だから俺が立っていい理由を下さい。
何でも良いから、理由を、動機を下さい。
俺が呼吸する権利を下さい。義務を履行しますから。
何でも良いから、理由を、動機を下さい。
俺が呼吸する権利を下さい。義務を履行しますから。
俺を舞台に立たせて下さい。お願いします。
其処に、ボトンという間の抜けた音を立てて、波紋が渡った。
水面に石を投じるように、それが浸透していく。
それは、今しがた外界からここに食われたモノだった。
破損した脳細胞が其れと知り、其処に攪拌される。
古いモノから新しいモノの順に。断章でこれとは几帳面としかいえない。
水面に石を投じるように、それが浸透していく。
それは、今しがた外界からここに食われたモノだった。
破損した脳細胞が其れと知り、其処に攪拌される。
古いモノから新しいモノの順に。断章でこれとは几帳面としかいえない。
ミトス=ユグドラシルが鐘楼を発ったのは、十数分前の話だった。
鐘楼には上らなかった。自らが拠点とした場所が死と闘争で満たされた現状を確認した時点で、上る必要性は無くなっていた。
打ち抜かれた壁に、汚れた雪原。
腕のない死体に、微かな微笑をみせる。
胸を弾き飛ばした死体を睥睨し、少し、詰まらなさそうな顔をする。
正しく戦争の具現を閲覧する中で、彼は三番目に目当ての死体を見つけた。
無言のまま、屈んでその金髪を引いて顔を起こす。そのまま二階の穴を見据え、顔面の半分が拉げた過程を想像した。
血肉が混ざった土は汚泥と呼ぶになんら違和感がない。
指を開いて、指に絡まった髪を解く。陥没した顎に静かに手を添え、俯せのまま死んだ彼女を仰向けにした。
鐘楼の頂を向いて眼を細めた。日は大分落ち、遠からずの夜を教えている。
ミトスが地平に眼を向けた時、地面に出来た穴に―――正確には穴に通じるタップリの血の河に、だが―――気がついた。
この場には不似合いな、蟻一つ踏み潰さないと思える程、優雅な足取りで、ミトスはそこに近づいた。
首は振らず、視線だけで穴の中を見下す。轢る歯の音が、彼自らの耳にまでたっぷりと届いた。
金の髪を払い、後ろを振り返る。
三つの死体は、それぞれの定位置で平等に死んでいた。
ミスティシンボルをクルクルと回し、二言三言の文句の後、殺人鬼を包んだ穴に火が点った。
首を上げて、天を仰ぐ。赤み掛かった鐘楼は鎮魂の鐘一つすら鳴らさない。
鐘楼には上らなかった。自らが拠点とした場所が死と闘争で満たされた現状を確認した時点で、上る必要性は無くなっていた。
打ち抜かれた壁に、汚れた雪原。
腕のない死体に、微かな微笑をみせる。
胸を弾き飛ばした死体を睥睨し、少し、詰まらなさそうな顔をする。
正しく戦争の具現を閲覧する中で、彼は三番目に目当ての死体を見つけた。
無言のまま、屈んでその金髪を引いて顔を起こす。そのまま二階の穴を見据え、顔面の半分が拉げた過程を想像した。
血肉が混ざった土は汚泥と呼ぶになんら違和感がない。
指を開いて、指に絡まった髪を解く。陥没した顎に静かに手を添え、俯せのまま死んだ彼女を仰向けにした。
鐘楼の頂を向いて眼を細めた。日は大分落ち、遠からずの夜を教えている。
ミトスが地平に眼を向けた時、地面に出来た穴に―――正確には穴に通じるタップリの血の河に、だが―――気がついた。
この場には不似合いな、蟻一つ踏み潰さないと思える程、優雅な足取りで、ミトスはそこに近づいた。
首は振らず、視線だけで穴の中を見下す。轢る歯の音が、彼自らの耳にまでたっぷりと届いた。
金の髪を払い、後ろを振り返る。
三つの死体は、それぞれの定位置で平等に死んでいた。
ミスティシンボルをクルクルと回し、二言三言の文句の後、殺人鬼を包んだ穴に火が点った。
首を上げて、天を仰ぐ。赤み掛かった鐘楼は鎮魂の鐘一つすら鳴らさない。
同上の作業を、あと三度繰り返してから、ミトスはこの気の利かぬ墓標を去ることになる。
帰路にあって、ユグドラシルの足取りは重い。並木道を歩く―――実際には、
浮く、に近いが―――様は非常に鈍重で、その理由は決して能力的制限にのみ因るものではなかった。
一体あの場で何が起こったのだろうか。
いや、それ自体の答えはとっくに得ている。銀髪の剣士ヴェイグが自ら宣誓したのだ。三人は自分が殺したのだと。
ミントもその死に方から墜落死なのは容易に想像が付く。ミントの死体に作られた外傷と呼べるものの殆どをユグドラシルは鮮明に覚えていた。
その舌の切断跡も、刻んだ肉も、精細を欠いた瞳孔の色も、幾らでも思い出すことが出来る。
無論ヴェイグの言葉を鵜呑みにする気はない。
一人が3人を同じ場所で殺す手管としてはあまりにも雑、というより統一感が欠如しているし、
何より一人に至っては、その死を知らなかったとしか思えない。綻びが多すぎる。
かといって、ユグドラシルはその真実を知ろうとも思わなかった。
あまりにも不透明で推測の仕様も無い。なにより、もう詳細な話は彼にとってどうでも良かった。
死んでしまった。その結果だけで、彼の気分、その何もかもを無意味にするには充分だった。
浮く、に近いが―――様は非常に鈍重で、その理由は決して能力的制限にのみ因るものではなかった。
一体あの場で何が起こったのだろうか。
いや、それ自体の答えはとっくに得ている。銀髪の剣士ヴェイグが自ら宣誓したのだ。三人は自分が殺したのだと。
ミントもその死に方から墜落死なのは容易に想像が付く。ミントの死体に作られた外傷と呼べるものの殆どをユグドラシルは鮮明に覚えていた。
その舌の切断跡も、刻んだ肉も、精細を欠いた瞳孔の色も、幾らでも思い出すことが出来る。
無論ヴェイグの言葉を鵜呑みにする気はない。
一人が3人を同じ場所で殺す手管としてはあまりにも雑、というより統一感が欠如しているし、
何より一人に至っては、その死を知らなかったとしか思えない。綻びが多すぎる。
かといって、ユグドラシルはその真実を知ろうとも思わなかった。
あまりにも不透明で推測の仕様も無い。なにより、もう詳細な話は彼にとってどうでも良かった。
死んでしまった。その結果だけで、彼の気分、その何もかもを無意味にするには充分だった。
ティトレイ、何処か自分と似通っている見所を見せながらも、僕の誘いを謀った男。
頭蓋を引き出して、あの砂浜で出会ったことを後悔させながら殺してやりたかった。
頭蓋を引き出して、あの砂浜で出会ったことを後悔させながら殺してやりたかった。
クレス、姉様を、僕の世界を笑いながら殺した男。
殺して殺して、顔を潰しても解るほどに苦悶を叩き込んで活きたまま捌いてしまいたかった。
殺して殺して、顔を潰しても解るほどに苦悶を叩き込んで活きたまま捌いてしまいたかった。
カイル、僕は、あの幼い英雄に何を苛ついていたのだろうか。
なぜ、既に英雄たることを棄てた僕が、「英雄」なんて言葉を玩んでしまったのか。
足掻きながら絶望に塗りつぶされるその様を見れば、それも晴れると思っていたのに。
なぜ、既に英雄たることを棄てた僕が、「英雄」なんて言葉を玩んでしまったのか。
足掻きながら絶望に塗りつぶされるその様を見れば、それも晴れると思っていたのに。
そして、ミント。
どこまでも姉様の影を惹き、それ故に許し難い存在。
アレの全てを粉砕し、蹂躙し、醜さを余すところ無く引き出して、抉り出して、
それでこそ、僕の中にあった矮小な何かを棄てられると思っていたのに。
どこまでも姉様の影を惹き、それ故に許し難い存在。
アレの全てを粉砕し、蹂躙し、醜さを余すところ無く引き出して、抉り出して、
それでこそ、僕の中にあった矮小な何かを棄てられると思っていたのに。
どいつもこいつも僕の手で殺してやりたかった。
この手で、この力で、暴力の渦中で引き千切られる様を見たかった。
さもなくばせめて、僕の望むような死を見たかったのに。
なのに、何奴も此奴も満足とはほど遠い形で死んでしまった。
胸に手を当て、心臓を握りつぶすように指に力を込める。やり場の無い、名を知らぬ感情が胸の中で澱んでいた。
この鬱屈した無銘の感情を破棄できるのならば、心臓ごとでも構わないような気がした。
全ては上手く機能しているはずだ。姉様を蘇らせるのに憂いなど一切無い。
ならば、この不快はどこから来ているのだろうか。木枯らしのような寒風が頬を撫でるが、彼の身体には伝わらない。
彼ら彼女の死で、その源流を知る前に忘れられると思っていたのに。
何が、何が僕を此処までイラつかせる。フラストレーションばかりが溜まって仕方が無い。
幾度考えても、答えは出ようはずもなく、それを晴らせるかと期待した者達は皆火葬してしまった。
死人は何も応えない。
この手で、この力で、暴力の渦中で引き千切られる様を見たかった。
さもなくばせめて、僕の望むような死を見たかったのに。
なのに、何奴も此奴も満足とはほど遠い形で死んでしまった。
胸に手を当て、心臓を握りつぶすように指に力を込める。やり場の無い、名を知らぬ感情が胸の中で澱んでいた。
この鬱屈した無銘の感情を破棄できるのならば、心臓ごとでも構わないような気がした。
全ては上手く機能しているはずだ。姉様を蘇らせるのに憂いなど一切無い。
ならば、この不快はどこから来ているのだろうか。木枯らしのような寒風が頬を撫でるが、彼の身体には伝わらない。
彼ら彼女の死で、その源流を知る前に忘れられると思っていたのに。
何が、何が僕を此処までイラつかせる。フラストレーションばかりが溜まって仕方が無い。
幾度考えても、答えは出ようはずもなく、それを晴らせるかと期待した者達は皆火葬してしまった。
死人は何も応えない。
ユグドラシルは鼻で笑おうとしたが顔が引き攣って寧ろ不愉快を露わにしたような顔になってしまった。
首に巻いたスカーフを鼻まで深く巻いた。万願が成就する直前の顔としては面白くない。
姉様さえこの手に取り戻せば、こんな瑣末な引っ掛かりなど忘れてしまえるだろうに。
天を見上げる。空は暗雲に被われて、陽光一つ届かせる隙間を許さない。
ミトスはもう一度笑った。今度は上手く作ることが出来た、素直に卑屈な嗤いだった。
この僕が天を仰ぐなど、気でも触れたか。まるでどうにもならないモノを神に縋っているみたいじゃないか。
何を死人に後ろ髪を惹かれる必要がある。ましてや劣悪種の命など。はは、アハハ。
姉様はここにいる。死人は応えないが、姉様は下等な劣悪種なんかと根本から違う。
姉様は肉体の死を超えて蘇る。あんなペテン師の手など借りなくとも。
現に僕はその行程を最終段まで着手して居るではないか。何の憂いもない。既に向こうの決着も付いているだろう。
そこまで考えれば、もう全ては終わってしまったようなモノだ。
姉様さえ、姉様さえ取り戻せば、きっとこの腐ったようなものも澄み変わる。いや全く、何を呆れる理由がある。
首に巻いたスカーフを鼻まで深く巻いた。万願が成就する直前の顔としては面白くない。
姉様さえこの手に取り戻せば、こんな瑣末な引っ掛かりなど忘れてしまえるだろうに。
天を見上げる。空は暗雲に被われて、陽光一つ届かせる隙間を許さない。
ミトスはもう一度笑った。今度は上手く作ることが出来た、素直に卑屈な嗤いだった。
この僕が天を仰ぐなど、気でも触れたか。まるでどうにもならないモノを神に縋っているみたいじゃないか。
何を死人に後ろ髪を惹かれる必要がある。ましてや劣悪種の命など。はは、アハハ。
姉様はここにいる。死人は応えないが、姉様は下等な劣悪種なんかと根本から違う。
姉様は肉体の死を超えて蘇る。あんなペテン師の手など借りなくとも。
現に僕はその行程を最終段まで着手して居るではないか。何の憂いもない。既に向こうの決着も付いているだろう。
そこまで考えれば、もう全ては終わってしまったようなモノだ。
姉様さえ、姉様さえ取り戻せば、きっとこの腐ったようなものも澄み変わる。いや全く、何を呆れる理由がある。
一拍を於いて、ミトスは理解した。どうやら僕の脳は最後まで腐っていたらしい。
もう一度、今度は漫然とした眼を切り替えて天を凝視した。
文字通りの意味として、何故暗雲が立ちこめているのか。
先ほどまでは夕日が赤みを出していたはずだ。それすら届かないとは、尋常な天候変化ではない。
見上げるユグドラシルはいち早く、空を舞うモノに気付いた。白い粒が一つ落ちてくる。
手を前に出して、それを受け止めた。
その手の中に収まるのは氷の結晶だと認識した瞬間、もう一度空を見上げる。
灰色の雲に対比または同化するようにして、純白の雪が無数に降り注ぐ。
溶けぬ雪は地熱を無視してあっさりと薄く広場を白く被った。
そして、そこに存在する、一つの巨大な化け物を漸く知った。
もう一度、今度は漫然とした眼を切り替えて天を凝視した。
文字通りの意味として、何故暗雲が立ちこめているのか。
先ほどまでは夕日が赤みを出していたはずだ。それすら届かないとは、尋常な天候変化ではない。
見上げるユグドラシルはいち早く、空を舞うモノに気付いた。白い粒が一つ落ちてくる。
手を前に出して、それを受け止めた。
その手の中に収まるのは氷の結晶だと認識した瞬間、もう一度空を見上げる。
灰色の雲に対比または同化するようにして、純白の雪が無数に降り注ぐ。
溶けぬ雪は地熱を無視してあっさりと薄く広場を白く被った。
そして、そこに存在する、一つの巨大な化け物を漸く知った。
一分だろうか、一秒だろうか。天使と化物は、互いを凝視し合っていた。呆気に取られたという方がニュアンスとしては正しいか。
敵を目の前にして呆然とするなど彼らの性格上互いに有り得ない。
しかし、理由はあった。今この瞬間に於いて、彼らはその特異性により敵ですらなかったのだ。
敵を目の前にして呆然とするなど彼らの性格上互いに有り得ない。
しかし、理由はあった。今この瞬間に於いて、彼らはその特異性により敵ですらなかったのだ。
触れた先からその魔力を帯びた熱量に雪が溶けゆく化け物の中で、シャーリィはある種茫然自失とも言える気分を覚えていた。
“誰?コレ”
あまりにも率直すぎて、先程受けた傷への恨みも雪への驚きもない。
視野狭窄気味の彼女は複数の感情と思考を同時に楽しむには幼すぎた。
いや、それよりも、純粋な疑問の方が強かっただろうか。
それほど、彼女は素直に“名簿に存在しない56人目”に驚いていた。
長くきめ細やかな金糸の髪、穢れ纏わぬ純白の衣。そして、それを皮肉るかのように相反する薄汚れた首巻き。
そして、人形のように端正な顔立ち。
放送を碌に聞いていない彼女でも、こんな人間は参加者に居ないと知っている。
今の自分と同様、目の前に存在するのは明確なイレギュラーだ。
幾らでも想像する余地があった故に、シャーリィは微かな思考時間を余儀なくされた。
“誰?コレ”
あまりにも率直すぎて、先程受けた傷への恨みも雪への驚きもない。
視野狭窄気味の彼女は複数の感情と思考を同時に楽しむには幼すぎた。
いや、それよりも、純粋な疑問の方が強かっただろうか。
それほど、彼女は素直に“名簿に存在しない56人目”に驚いていた。
長くきめ細やかな金糸の髪、穢れ纏わぬ純白の衣。そして、それを皮肉るかのように相反する薄汚れた首巻き。
そして、人形のように端正な顔立ち。
放送を碌に聞いていない彼女でも、こんな人間は参加者に居ないと知っている。
今の自分と同様、目の前に存在するのは明確なイレギュラーだ。
幾らでも想像する余地があった故に、シャーリィは微かな思考時間を余儀なくされた。
ユグドラシルは、喉を鳴らすことすら忘れた。ここが既に中央広場だと気付かなかった。
この僕が歩く速度にすら気が回らないとは、ええい、畜生。
そして、目の前に現れたのは、魔剣を携えたキール達でもなく、三人をねじ伏せたヴェイグでもない、知覚しない第三要素。
不意に、股間に激痛を覚えた。
手で押さえたい誘惑を堪えるように、拳を握りしめた。今更幻痛で教えてくれなくとも了解している。
アレは、つまりそういうことだ。アレが僕の目の前に現れた。それはいい。
だが、ミトスはその立ち位置上、そこからシャーリィとの戦闘以外の要素を思考する必要があった。
即ち、その存在が、戦略的にどういう意味を持っているのかを。
本来ならここで一度思考を中断するべきだった。撃滅してから考えても結論に変化は見られそうになかったからだ。
しかし、エクスフィギュアの肉に埋め込まれたキール=ツァイベルの残骸は、生理的嫌悪感を差し引いたミトスにも一息の思考を強要した。
“何がここであったのか”を考えざるを得なかった。
だが、そこ一息こそが彼に思考する余裕を与えた。
この僕が歩く速度にすら気が回らないとは、ええい、畜生。
そして、目の前に現れたのは、魔剣を携えたキール達でもなく、三人をねじ伏せたヴェイグでもない、知覚しない第三要素。
不意に、股間に激痛を覚えた。
手で押さえたい誘惑を堪えるように、拳を握りしめた。今更幻痛で教えてくれなくとも了解している。
アレは、つまりそういうことだ。アレが僕の目の前に現れた。それはいい。
だが、ミトスはその立ち位置上、そこからシャーリィとの戦闘以外の要素を思考する必要があった。
即ち、その存在が、戦略的にどういう意味を持っているのかを。
本来ならここで一度思考を中断するべきだった。撃滅してから考えても結論に変化は見られそうになかったからだ。
しかし、エクスフィギュアの肉に埋め込まれたキール=ツァイベルの残骸は、生理的嫌悪感を差し引いたミトスにも一息の思考を強要した。
“何がここであったのか”を考えざるを得なかった。
だが、そこ一息こそが彼に思考する余裕を与えた。
“まァ、いいや”
硬直状態を打ち破り、先手を取ったのは化け物だった。
彼女の性格、そして彼女の目的が酷くシンプルであったことが幸いした。
“全員殺すんだから、一人増えたところでたいした問題じゃない”
そう思った時点で、既に右足が動いていた。
従来のエクスフィギュアでは考えられない速度で巨躯が動く様は、実速度よりも速さを遠近誤差で錯覚させる。
対象を目標に定めると、付随して色々な憤懣が彼に向けられる。
傷を負ったこと、小娘に邪魔をされたこと、果ては目の前の男に似た人物に苦汁を舐めさせられたことに至るまでが渾然し、その捌け口を彼に定めた。
毒々しい色合いの爪が、ユグドラシルに振り降ろされた。
爪が彼を無惨に引き裂くかと思った寸間、ユグドラシルの姿が光に包まれた。
人ならざる単眼は光に眩むと言うことは無かったが、光と共に敵が消失したことに驚く。
背後に現れたミトスの掌が輝いた。
「私に媚を売ってきた者も、私が知らない者も、私に逆らう者も、皆消え失せたか。リアリティ溢れる話だ」
収束する粒子が加速を始め凶器へと変貌する。シャーリィはその攻撃に覚えがあった。
「そこにお前が現れるとはね。シャーリィ。翼まで生やすとは随分と愉快な見てくれになったけど、まあ、いいや」
突如変わった子供のような語調に、シャーリィは確信した。
“あのクソガキだ”
「漸く分かった。お前がまだ生きているからこの気分も晴れないんだな――――――気分転換に死んでよ」
このままユグドラシルレーザーで射抜いて蒸発させる。ユグドラシルの顔がどす黒い喜悦に染まった。
絶対、絶命の境地で、シャーリィ=フェンネスの怪物は、
“相変わらずうぜーんだよ、ばーか”
真黒に笑った。
背中から、ぞるりと何かが飛び出るように生える。ユグドラシルはそれを間髪で避けた。身体が空を泳ぐ。
同時に、そのぞるりと飛び出た“何か”に生首以上の強烈な意識を植え付けられた。
怒りとも驚愕とも判断付かぬ震えた声が、ユグドラシルから放たれた。
「エターナルソード、だと?」
怪物の爪が縦に振りかぶられる。驚愕の一言に尽きるユグドラシルの顔に薄く影がかかる。
その驚愕の意味は、単に虚を突くだけの理由で内側から引き出したシャーリィには理解できなかったが、
ただ驚く顔を見ることが出来ただけで笑うには充分だった。
“さっさと死ねよ”
あの時と全く変わらぬ感想を抱きながら、豪速のインパクトハンマーが墜ちる。
土と雪が混じって飛び、この場所に極小のクレーターを作った。
硬直状態を打ち破り、先手を取ったのは化け物だった。
彼女の性格、そして彼女の目的が酷くシンプルであったことが幸いした。
“全員殺すんだから、一人増えたところでたいした問題じゃない”
そう思った時点で、既に右足が動いていた。
従来のエクスフィギュアでは考えられない速度で巨躯が動く様は、実速度よりも速さを遠近誤差で錯覚させる。
対象を目標に定めると、付随して色々な憤懣が彼に向けられる。
傷を負ったこと、小娘に邪魔をされたこと、果ては目の前の男に似た人物に苦汁を舐めさせられたことに至るまでが渾然し、その捌け口を彼に定めた。
毒々しい色合いの爪が、ユグドラシルに振り降ろされた。
爪が彼を無惨に引き裂くかと思った寸間、ユグドラシルの姿が光に包まれた。
人ならざる単眼は光に眩むと言うことは無かったが、光と共に敵が消失したことに驚く。
背後に現れたミトスの掌が輝いた。
「私に媚を売ってきた者も、私が知らない者も、私に逆らう者も、皆消え失せたか。リアリティ溢れる話だ」
収束する粒子が加速を始め凶器へと変貌する。シャーリィはその攻撃に覚えがあった。
「そこにお前が現れるとはね。シャーリィ。翼まで生やすとは随分と愉快な見てくれになったけど、まあ、いいや」
突如変わった子供のような語調に、シャーリィは確信した。
“あのクソガキだ”
「漸く分かった。お前がまだ生きているからこの気分も晴れないんだな――――――気分転換に死んでよ」
このままユグドラシルレーザーで射抜いて蒸発させる。ユグドラシルの顔がどす黒い喜悦に染まった。
絶対、絶命の境地で、シャーリィ=フェンネスの怪物は、
“相変わらずうぜーんだよ、ばーか”
真黒に笑った。
背中から、ぞるりと何かが飛び出るように生える。ユグドラシルはそれを間髪で避けた。身体が空を泳ぐ。
同時に、そのぞるりと飛び出た“何か”に生首以上の強烈な意識を植え付けられた。
怒りとも驚愕とも判断付かぬ震えた声が、ユグドラシルから放たれた。
「エターナルソード、だと?」
怪物の爪が縦に振りかぶられる。驚愕の一言に尽きるユグドラシルの顔に薄く影がかかる。
その驚愕の意味は、単に虚を突くだけの理由で内側から引き出したシャーリィには理解できなかったが、
ただ驚く顔を見ることが出来ただけで笑うには充分だった。
“さっさと死ねよ”
あの時と全く変わらぬ感想を抱きながら、豪速のインパクトハンマーが墜ちる。
土と雪が混じって飛び、この場所に極小のクレーターを作った。
ドォンと、合戦の幕開けの大鼓のような音を聞きながら、ヴェイグは民家の屋根からそちらを向いた。
『始まったようだな』
ディムロスが淡々と言った。
ヴェイグは無言のまま、適当な民家の屋根上に伏して雪の制御をしている。
既に数メートル先の視界も怪しい中、片目で認識できる限界線だった。
『始まったようだな』
ディムロスが淡々と言った。
ヴェイグは無言のまま、適当な民家の屋根上に伏して雪の制御をしている。
既に数メートル先の視界も怪しい中、片目で認識できる限界線だった。
アトワイトが、微かな音を聞く。
それが戦闘音だと確信して振り向くが、眼前には白に被われた壁のような空間しかない。
「ミトス……」
微かな音の方向だけを頼りに、再び走り始めた。
それが戦闘音だと確信して振り向くが、眼前には白に被われた壁のような空間しかない。
「ミトス……」
微かな音の方向だけを頼りに、再び走り始めた。
風圧で吹き飛ばされた粉雪がようやく舞い落ちるだけ舞い落ち、新しい降雪だけになった。
視界が気休め程度に復活する中から、ユグドラシルの姿が現れる。
転移によって出現したであろう移動距離であり、怪物の攻撃を完璧に避け―――否。
ユグドラシルが面を上げる。その頬には大きな傷がジュウジュウと泡を立てていた。
指で拭い、その黒い液体を嫌そうに見つめた。
「毒か。しかも、血管を巡って致死に落とすと言うよりはその場で確実に壊すことに特化したようだな。天使殺しの毒とは」
全く、正しい戦争だなとミトスは思った。天使然り、エクスフィア然り、技術が促進するのは何時だって闘争本能がその倫理観を上回る時だ。
怪物が足に力を溜めた。
ユグドラシルが掌に意識を通す。大きく深呼吸を一度。外気の冷たさが温く茹だった脳を冷やす。
確認できるのはキールの死のみ。ならばアトワイトは生きているだろう。
しかし、エターナルソードとは、僕のいない間に少なからず面白くない事態にはなっていたようだな。
魔剣が向こうの体内にある以上纏めて吹き飛ばすという訳にも行かなかった。それでは闘う意味すらない。
目線だけで一、二度辺りを見回し、舌打ちをしてユグドラシルは怪物に目を向け直した。
この雪を仕掛けた人間が少なからず居る。アトワイトは僕の命令無くこんな大掛かりな仕掛けを行う余裕はない。
手堅く漁夫の利を取ってくるならば暫くは放置せざるを得ない。
アレは第三の伏兵を気にして闘えるような生やさしい相手ではない。
アトワイトの援護は…飛べない奴に雪は少し厳しいか。期待はしない方が良い。
直轄援護を諦めたユグドラシルの眼球が鋭さを増した。
ああ、この感覚だ。世界に僕一人しか居ない。居場所がない。
そして、眼下にあるは、姉様への最後の鍵。ならば僕がこの手で奪わねば締まらないか。
怪物が駆けた。ユグドラシルが大きく唇を歪める。
シャーリィ同様、ミトスの曖昧な苛立ちも、その全てが一つの怪物へと向けられた。
視界が気休め程度に復活する中から、ユグドラシルの姿が現れる。
転移によって出現したであろう移動距離であり、怪物の攻撃を完璧に避け―――否。
ユグドラシルが面を上げる。その頬には大きな傷がジュウジュウと泡を立てていた。
指で拭い、その黒い液体を嫌そうに見つめた。
「毒か。しかも、血管を巡って致死に落とすと言うよりはその場で確実に壊すことに特化したようだな。天使殺しの毒とは」
全く、正しい戦争だなとミトスは思った。天使然り、エクスフィア然り、技術が促進するのは何時だって闘争本能がその倫理観を上回る時だ。
怪物が足に力を溜めた。
ユグドラシルが掌に意識を通す。大きく深呼吸を一度。外気の冷たさが温く茹だった脳を冷やす。
確認できるのはキールの死のみ。ならばアトワイトは生きているだろう。
しかし、エターナルソードとは、僕のいない間に少なからず面白くない事態にはなっていたようだな。
魔剣が向こうの体内にある以上纏めて吹き飛ばすという訳にも行かなかった。それでは闘う意味すらない。
目線だけで一、二度辺りを見回し、舌打ちをしてユグドラシルは怪物に目を向け直した。
この雪を仕掛けた人間が少なからず居る。アトワイトは僕の命令無くこんな大掛かりな仕掛けを行う余裕はない。
手堅く漁夫の利を取ってくるならば暫くは放置せざるを得ない。
アレは第三の伏兵を気にして闘えるような生やさしい相手ではない。
アトワイトの援護は…飛べない奴に雪は少し厳しいか。期待はしない方が良い。
直轄援護を諦めたユグドラシルの眼球が鋭さを増した。
ああ、この感覚だ。世界に僕一人しか居ない。居場所がない。
そして、眼下にあるは、姉様への最後の鍵。ならば僕がこの手で奪わねば締まらないか。
怪物が駆けた。ユグドラシルが大きく唇を歪める。
シャーリィ同様、ミトスの曖昧な苛立ちも、その全てが一つの怪物へと向けられた。
さて、戦争は終わり、これより戦闘の時間か。そう自嘲するミトスは四千年前の大戦に還っていた。
股間の痛みは疾うに失せていた。
股間の痛みは疾うに失せていた。
その雪原にぼこりと穴が開いた。主の居ないデイバックの蓋が開く。
「………ッキー」
ブルブルブルと雪を払う。
大きな雪は落ちても粉雪は付着したままで、水色の下地に付いた白の斑は消えそうも無い。
「クィッキィィィィィィィィィィィィィィィィ」
そんな小動物の瞳は、いまや野生とは対極の狂気を写していた。
「………ッキー」
ブルブルブルと雪を払う。
大きな雪は落ちても粉雪は付着したままで、水色の下地に付いた白の斑は消えそうも無い。
「クィッキィィィィィィィィィィィィィィィィ」
そんな小動物の瞳は、いまや野生とは対極の狂気を写していた。
『愛だ』『愛なんだ』『愛』『愛』『僕の愛』『愛』『愛』『愛』
『汚辱に塗れ』『偽悪』『LOVE』『下の下の下の下の下の下の下の下策』『この状況を打開する奇跡を』
『否』『譲らない』『アイツならこの場を奇跡で乗り切っただろうか』『譲れない』『彼女のために』
『そんなのは許されない』『奇跡なんか認めない』『愛』『接吻を』『解に至る真理だけが真実』
『僕』『今更奇跡なんか起こさせない』『最後の仕掛け』『愛して』
『厭だ』『死ぬのは厭だ』『好きで好きで仕方がない』『存在しない手札を場に』『“唯”死ぬのは厭だ』
『何も成していない』『何も叶えてはいない』『僕の罪に見合う対価を受領してはいない』
『彼女を』『未だ気付かれてない』『愛』『愚かな僕に善なる退路は無い』『ラヴ』『僕の友を見捨てた奇跡など』
『僕を殺さなかった奇跡なんて』『愛』『だから』『一瞬の間隙を突く』『彼女を愛し抜く』『最後まで最後まで』
『首輪に油断している』『嫌だ』『愛を』『架空の人質』『したくない』『凡人のまま奇跡に至る』『どうか信頼で応えて』
『最後の刃は使わせないで』『愛』『それしかない』『勝利など要らない』『愛で』『愛する』
『エラー。通常フェイズはこれ以上執行できません。アプリケーション終了』
『まだ手を汚さなければ彼女に足りないか』
『最終フェイズを発動しますか? 注意!)復活シークエンスを先に起動してください』
『いいだろう、上等だ』
『ならば全ての罪を高く高く積み上げて天に昇ろう』
『汚辱に塗れ』『偽悪』『LOVE』『下の下の下の下の下の下の下の下策』『この状況を打開する奇跡を』
『否』『譲らない』『アイツならこの場を奇跡で乗り切っただろうか』『譲れない』『彼女のために』
『そんなのは許されない』『奇跡なんか認めない』『愛』『接吻を』『解に至る真理だけが真実』
『僕』『今更奇跡なんか起こさせない』『最後の仕掛け』『愛して』
『厭だ』『死ぬのは厭だ』『好きで好きで仕方がない』『存在しない手札を場に』『“唯”死ぬのは厭だ』
『何も成していない』『何も叶えてはいない』『僕の罪に見合う対価を受領してはいない』
『彼女を』『未だ気付かれてない』『愛』『愚かな僕に善なる退路は無い』『ラヴ』『僕の友を見捨てた奇跡など』
『僕を殺さなかった奇跡なんて』『愛』『だから』『一瞬の間隙を突く』『彼女を愛し抜く』『最後まで最後まで』
『首輪に油断している』『嫌だ』『愛を』『架空の人質』『したくない』『凡人のまま奇跡に至る』『どうか信頼で応えて』
『最後の刃は使わせないで』『愛』『それしかない』『勝利など要らない』『愛で』『愛する』
『エラー。通常フェイズはこれ以上執行できません。アプリケーション終了』
『まだ手を汚さなければ彼女に足りないか』
『最終フェイズを発動しますか? 注意!)復活シークエンスを先に起動してください』
『いいだろう、上等だ』
『ならば全ての罪を高く高く積み上げて天に昇ろう』
『それが、否、それこそが僕の“愛”だ』
それは、誰かが誰かに当てた、最後のラブレターだった。
驚愕と、悲しみと、微かな笑いの揺らぎが、其処に偏在している。
絶対悪の愛と偽善の正義がこれほど溶け合う場所は個性のシチュウと化した其処にしかない。
驚愕と、悲しみと、微かな笑いの揺らぎが、其処に偏在している。
絶対悪の愛と偽善の正義がこれほど溶け合う場所は個性のシチュウと化した其処にしかない。
風圧で吹き飛ばされた粉雪がようやく舞い落ちるだけ舞い落ち、新しい降雪だけになった。
視界が気休め程度に復活する中から、ユグドラシルの姿が現れる。
転移によって出現したであろう移動距離であり、怪物の攻撃を完璧に避け―――否。
ユグドラシルが面を上げる。その頬には大きな傷がジュウジュウと泡を立てていた。
指で拭い、その黒い液体を嫌そうに見つめた。
「毒か。しかも、血管を巡って致死に落とすと言うよりはその場で確実に壊すことに特化したようだな。天使殺しの毒とは」
全く、正しい戦争だなとミトスは思った。天使然り、エクスフィア然り、技術が促進するのは何時だって闘争本能がその倫理観を上回る時だ。
怪物が足に力を溜めた。
ユグドラシルが掌に意識を通す。大きく深呼吸を一度。外気の冷たさが温く茹だった脳を冷やす。
確認できるのはキールの死のみ。ならばアトワイトは生きているだろう。
しかし、エターナルソードとは、僕のいない間に少なからず面白くない事態にはなっていたようだな。
魔剣が向こうの体内にある以上纏めて吹き飛ばすという訳にも行かなかった。それでは闘う意味すらない。
目線だけで一、二度辺りを見回し、舌打ちをしてユグドラシルは怪物に目を向け直した。
この雪を仕掛けた人間が少なからず居る。アトワイトは僕の命令無くこんな大掛かりな仕掛けを行う余裕はない。
手堅く漁夫の利を取ってくるならば暫くは放置せざるを得ない。
アレは第三の伏兵を気にして闘えるような生やさしい相手ではない。
アトワイトの援護は…飛べない奴に雪は少し厳しいか。期待はしない方が良い。
直轄援護を諦めたユグドラシルの眼球が鋭さを増した。
ああ、この感覚だ。世界に僕一人しか居ない。居場所がない。
そして、眼下にあるは、姉様への最後の鍵。ならば僕がこの手で奪わねば締まらないか。
怪物が駆けた。ユグドラシルが大きく唇を歪める。
シャーリィ同様、ミトスの曖昧な苛立ちも、その全てが一つの怪物へと向けられた。
視界が気休め程度に復活する中から、ユグドラシルの姿が現れる。
転移によって出現したであろう移動距離であり、怪物の攻撃を完璧に避け―――否。
ユグドラシルが面を上げる。その頬には大きな傷がジュウジュウと泡を立てていた。
指で拭い、その黒い液体を嫌そうに見つめた。
「毒か。しかも、血管を巡って致死に落とすと言うよりはその場で確実に壊すことに特化したようだな。天使殺しの毒とは」
全く、正しい戦争だなとミトスは思った。天使然り、エクスフィア然り、技術が促進するのは何時だって闘争本能がその倫理観を上回る時だ。
怪物が足に力を溜めた。
ユグドラシルが掌に意識を通す。大きく深呼吸を一度。外気の冷たさが温く茹だった脳を冷やす。
確認できるのはキールの死のみ。ならばアトワイトは生きているだろう。
しかし、エターナルソードとは、僕のいない間に少なからず面白くない事態にはなっていたようだな。
魔剣が向こうの体内にある以上纏めて吹き飛ばすという訳にも行かなかった。それでは闘う意味すらない。
目線だけで一、二度辺りを見回し、舌打ちをしてユグドラシルは怪物に目を向け直した。
この雪を仕掛けた人間が少なからず居る。アトワイトは僕の命令無くこんな大掛かりな仕掛けを行う余裕はない。
手堅く漁夫の利を取ってくるならば暫くは放置せざるを得ない。
アレは第三の伏兵を気にして闘えるような生やさしい相手ではない。
アトワイトの援護は…飛べない奴に雪は少し厳しいか。期待はしない方が良い。
直轄援護を諦めたユグドラシルの眼球が鋭さを増した。
ああ、この感覚だ。世界に僕一人しか居ない。居場所がない。
そして、眼下にあるは、姉様への最後の鍵。ならば僕がこの手で奪わねば締まらないか。
怪物が駆けた。ユグドラシルが大きく唇を歪める。
シャーリィ同様、ミトスの曖昧な苛立ちも、その全てが一つの怪物へと向けられた。
さて、戦争は終わり、これより戦闘の時間か。そう自嘲するミトスは四千年前の大戦に還っていた。
股間の痛みは疾うに失せていた。
股間の痛みは疾うに失せていた。
その雪原にぼこりと穴が開いた。主の居ないデイバックの蓋が開く。
「………ッキー」
ブルブルブルと雪を払う。
大きな雪は落ちても粉雪は付着したままで、水色の下地に付いた白の斑は消えそうも無い。
「クィッキィィィィィィィィィィィィィィィィ」
そんな小動物の瞳は、いまや野生とは対極の狂気を写していた。
主を無惨に殺した者への報復を。紛う事なき復讐装置としての色彩を。
この世で三番以内に無意味で詰まらない色を写していた。
「………ッキー」
ブルブルブルと雪を払う。
大きな雪は落ちても粉雪は付着したままで、水色の下地に付いた白の斑は消えそうも無い。
「クィッキィィィィィィィィィィィィィィィィ」
そんな小動物の瞳は、いまや野生とは対極の狂気を写していた。
主を無惨に殺した者への報復を。紛う事なき復讐装置としての色彩を。
この世で三番以内に無意味で詰まらない色を写していた。
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP45% TP30% リオンのサック所持 左腕重度火傷 絶望 深い怒り 極めて冷静
両腕内出血 背中に3箇所裂傷 中度疲労 左眼失明 胸甲無し 半暴走
エクスフィギュアの正体を誤解 キールの惨たらしい死に動揺
所持品:ミトスの手紙 メンタルバングル 45ACP弾7発マガジン×3 ナイトメアブーツ ホーリィリング
エメラルドリング クローナシンボル フィートシンボル
基本行動方針:優勝してミクトランを殺す
第一行動方針:見つからないよう観戦
第二行動方針:漁夫の利を狙う
現在位置:C3村中央広場・民家屋根上
備考:フォルスによる雪は自然には溶けません
状態:HP45% TP30% リオンのサック所持 左腕重度火傷 絶望 深い怒り 極めて冷静
両腕内出血 背中に3箇所裂傷 中度疲労 左眼失明 胸甲無し 半暴走
エクスフィギュアの正体を誤解 キールの惨たらしい死に動揺
所持品:ミトスの手紙 メンタルバングル 45ACP弾7発マガジン×3 ナイトメアブーツ ホーリィリング
エメラルドリング クローナシンボル フィートシンボル
基本行動方針:優勝してミクトランを殺す
第一行動方針:見つからないよう観戦
第二行動方針:漁夫の利を狙う
現在位置:C3村中央広場・民家屋根上
備考:フォルスによる雪は自然には溶けません
【SD】
状態:自分への激しい失望及び憤慨 後悔 ヴェイグの感情に同調 感情希薄? エクスフィギュアの正体を誤解
基本行動方針:優勝してミクトランを殺す
第一行動方針:ヴェイグをサポートする
第二行動方針:シャーリィやミトスの戦力を見て分析する
第三行動方針:アトワイトが気になる
現在位置:C3村中央広場・民家屋根上
状態:自分への激しい失望及び憤慨 後悔 ヴェイグの感情に同調 感情希薄? エクスフィギュアの正体を誤解
基本行動方針:優勝してミクトランを殺す
第一行動方針:ヴェイグをサポートする
第二行動方針:シャーリィやミトスの戦力を見て分析する
第三行動方針:アトワイトが気になる
現在位置:C3村中央広場・民家屋根上
【アトワイト=エックス@コレット 生存確認】
状態:HP30% TP20% コレットの精神への介入 ミトスへの羨望と同情 エクスフィア侵食 “コレット”消失
思考を放棄したい 胸部に大裂傷(処置済) エクスフィギュアの正体を誤解
全身打撲 全身に擦り傷や切り傷
所持品:苦無×1
ピヨチェック ホーリィスタッフ エクスフィア強化S・A(エクスフィア侵食中)
基本行動方針:積極的にミトスに従う
第一行動方針:ミトスと合流したい
第二行動方針:エターナルソードを回収する
第三行動方針:可能であればヴェイグを懐柔する
現在位置:C3村内
特記事項:エクスフィア強化S・Aを装備解除した時点でコレット死亡
状態:HP30% TP20% コレットの精神への介入 ミトスへの羨望と同情 エクスフィア侵食 “コレット”消失
思考を放棄したい 胸部に大裂傷(処置済) エクスフィギュアの正体を誤解
全身打撲 全身に擦り傷や切り傷
所持品:苦無×1
ピヨチェック ホーリィスタッフ エクスフィア強化S・A(エクスフィア侵食中)
基本行動方針:積極的にミトスに従う
第一行動方針:ミトスと合流したい
第二行動方針:エターナルソードを回収する
第三行動方針:可能であればヴェイグを懐柔する
現在位置:C3村内
特記事項:エクスフィア強化S・Aを装備解除した時点でコレット死亡
【シャーリィ・フェンネス@グリッド 生存確認】
状態:エクスフィギュア化 シャーリィの干渉 ???
所持品:マジックミスト 占いの本 ロープ6本 ハロルドレシピ プリムラ・ユアンのサック
ネルフェス・エクスフィア リーダー用漆黒の翼バッジ メルディの漆黒の翼バッジ
ダブルセイバー エターナルソード 魔杖ケイオスハート ソーサラーリング ベレット セイファートキー ジェイのメモ ダオスの遺書 首輪×3
凍らせたロイドの左腕 邪剣ファフニール C・ケイジ@I(水・雷・闇・氷・火) マジカルポーチ 分解中のレーダー
実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) ハロルドメモ1・2 フェアリィリング
ハロルドの首輪 スティレット 金のフライパン ウィングパック(メガグランチャーとUZISMG入り)
基本行動方針(グリッド):???
基本行動方針(シャーリィ):全員殺してお兄ちゃんと会う
第一行動方針(シャーリィ):ミトスを殺す
第二行動方針(シャーリィ):生存者を見つければ殺す
第三行動方針(シャーリィ):グリッドを完全に乗っ取る
現在位置:C3村中央広場・雪原
状態:エクスフィギュア化 シャーリィの干渉 ???
所持品:マジックミスト 占いの本 ロープ6本 ハロルドレシピ プリムラ・ユアンのサック
ネルフェス・エクスフィア リーダー用漆黒の翼バッジ メルディの漆黒の翼バッジ
ダブルセイバー エターナルソード 魔杖ケイオスハート ソーサラーリング ベレット セイファートキー ジェイのメモ ダオスの遺書 首輪×3
凍らせたロイドの左腕 邪剣ファフニール C・ケイジ@I(水・雷・闇・氷・火) マジカルポーチ 分解中のレーダー
実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) ハロルドメモ1・2 フェアリィリング
ハロルドの首輪 スティレット 金のフライパン ウィングパック(メガグランチャーとUZISMG入り)
基本行動方針(グリッド):???
基本行動方針(シャーリィ):全員殺してお兄ちゃんと会う
第一行動方針(シャーリィ):ミトスを殺す
第二行動方針(シャーリィ):生存者を見つければ殺す
第三行動方針(シャーリィ):グリッドを完全に乗っ取る
現在位置:C3村中央広場・雪原
【ミトス=ユグドラシル@ユグドラシル 生存確認】
状態:HP95/95%(毒特性:最大HPカット) TP90% 良く分からない鬱屈 高揚 頬に傷
所持品:ミスティシンボル 大いなる実り ダオスのマント キールのレポート
基本行動方針:マーテルを蘇生させる
第一行動方針:シャーリィを殺害して魔剣を奪う
第二行動方針:状況の再整理
第三行動方針:蘇生失敗の時は皆殺しにシフト(但しミクトランの優勝賞品はあてにしない)
現在位置:C3村中央広場・雪原
状態:HP95/95%(毒特性:最大HPカット) TP90% 良く分からない鬱屈 高揚 頬に傷
所持品:ミスティシンボル 大いなる実り ダオスのマント キールのレポート
基本行動方針:マーテルを蘇生させる
第一行動方針:シャーリィを殺害して魔剣を奪う
第二行動方針:状況の再整理
第三行動方針:蘇生失敗の時は皆殺しにシフト(但しミクトランの優勝賞品はあてにしない)
現在位置:C3村中央広場・雪原
【クィッキー】
状態:憎悪
基本行動方針:メルディの仇を討つ
現在位置:C3村中央広場・雪原
状態:憎悪
基本行動方針:メルディの仇を討つ
現在位置:C3村中央広場・雪原