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テイルズオブバトルロワイアル@wiki

勇者の涙

最終更新:2019年10月13日 20:33

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勇者の涙



白堊に囲まれている世界をひたすらに走っていた。だが、白堊に見えるだけで実際に壁では無い事は脳で理解している。
よって、グリッドは臆する事無くがむしゃらに足を動かす事が出来た。
音速とまでは行かずとも、その速さは折り紙付きだ。名前に恥じない走りっぷり、もとい逃げっぷり。その様には箔すら押せる。
「畜生、畜生……!」
グリッドは腹の底から唸った。左手に作られた何よりも硬い拳からは、一筋の血が滴っている。
自分は凡人だし、戦いに慣れてもいない。だからその痛みは激痛に値した。
無意識の内に奥歯がギリギリと軋む音を奏でていた。
痛みに堪える為なのか、それとも、自分が赦せないのか。グリッドにすらそれは分かり兼ねていた。自分が軋ませたにも関わらず、だ。
やり場と理由を失った自分の絡み合う数千の思考は、生憎と足を動かし拳を強く握る事以外の捌け口を持ち合わせていなかった。
「ち……がう……!」
ああ、そうだ……矛盾しているんだ。とっくの昔からそうなんだ。
もう、俺達凡人と呼ばれる人間に残されている道はアレしか無いんだ。力を使わなければ、もうどうしようもない―――それが現実であり、真実。
真実。
シンジツ。
シンジツ!
シンジツ!?
「違うッ!」
ああ、なんてチープな存在なんだろうか。
反論も持って無くて、理由も無くて根拠も無くて、挙句こうしてあいつに論破されるのが怖くて逃げ出して。
これを……俺を、チープと言わずに何と言うか。ああ、笑ってくれよ。
三、四拍程瞼を強く閉じ、誰も笑ってくれない事を確認すると、グリッドは何かで霞んだ目で自らに埋まるエクスフィアを見た。
……何の為に、こいつを拾ったんだっけ?
畜生、分かってるさ。それ今更問うかよグリッド。イドでは、答えは多分出てるんだ。
もう、道は残されていないって。
あいつはそれを認めてた。偉いとすら思う。凡人なりの、答えを見つけたって訳だ。
どうせ誰も笑ってくれない。グリッドは自嘲する様に口の片側を歪めた。
酸素不足の為出来損ないの笑いが漏れる。それすらもチープに感じる自分が嫌になる。
天秤は未だに不安定に揺れている。この右手の刃と、自分の足と。この力の魔石と、自分の拳。
一体どちらが重い?
今は多分、拮抗している。
俺が見つける答えは、どっちだ?
教えてくれ、誰でもいい。(今更甘えるな!)
どの道、乗せられる分銅はあと一つ。
それが自分の決断。


それが、自分の、辿着いた、真実。
そうさ。真実はいつも一つ! とかなんとかどっかの名探偵が言ってたが、それとは違う。人によって真実の形は違うんだ。
だってそうだろう?
殺人を引き合いに出そうか。
AがBを殺して、Bの親友Cと知り合いDが居たと仮定しよう。
それぞれの真実はこうだ。
Aは『Bを殺した』。
Bは『Aに殺された』。
Cは『Bが殺された』。
Dは『Bが死んだ』。
確かにBが死体になったという事実に直結するが、それは“恐らく”結果に過ぎない。
そこに至るまではそれぞれの価値観や見解、立場に依存する。
だから“きっと”真実の形も変わって来るという事。
でもあいつはそれを認めない。凡人が至る真実は一つだと決め付けているんだ。
“多分”、違うんだ。凡人にだって才人にだって、苦悩し、選択し、行動する権利はある“筈”なんだ。
……ああそうさ五月蠅いなぁ! 根拠なんてねぇよ!
何が正しくて何が駄目なのかなんて分からねぇよ! 俺馬鹿だからよォ!!
ラーニングディスアビリティーだぁ!? 上等だよ何とでも言えッ!
だって、だってよ。そうだろうッ!? 俺も、あいつも、ロイドだってシャーリィだってユアンだってッ! 皆、皆、皆! 万能じゃない! 只の人間じゃないかッ!
分からなくて、悩んで、矛盾が生じて、納得して! それの何が悪いんだよッ!
だから俺は見つける。巡り巡って手に入れる!
俺だけの、真実を!
その真実だけは、誰にも否定出来ない“筈”だろうッ!?
「――――ッ!?」
思考に更けっていた彼はここでようやく視界の変化に気付く。
いや、“有り得ない”。第一、あんな高い場所あったっけ?
いや、酸欠で頭がおかしくなっただけかも知れない。
そういえば心無しか、頭に靄が掛かった様な気がしないでもなかった。
……酸素を脳に供給しよう。話はそれからでも遅くない。
グリッドは一旦足を休め、膝に左手を付き呼吸を何とか整えた。……とは言っても、肩で息をしている状態だ。
「んッ」
唾を飲み込もうとするが、カラカラに乾ききった喉とコールタールの様になった唾は最高に相性が悪く、喉からは間抜けな音が飛び出した。
グリッドは唾を吐き捨てると、新しい唾で喉を潤す。
発音準備OK。その酸欠に歪んだ顔を上げる。
……矢張り。見間違えなんかじゃ、無い。
「な、んだ、よ、アレ、は」
荒い呼吸の間で何とか発音に成功。


それは七色の光だった。白のフィルターが掛かり少し認めにくいが、圧倒的な存在感だ。間違いない。
グリッドは大きく空気を飲み込んだ。状況を理解しろ。
あれは何だ、誰だ、何処だ、何故あんな場所に居る。何の為だ対処出来るのは俺だけだ!
身体中の産毛がチリチリする。チリチリ。チリチリチリチリ。
立ち止まってから汗が滝の様に溢れていた。毛穴の一つ一つから、玉の汗が吹き出すのが手に取る様に理解出来た。
何の汗だろうか。冷や汗か、只の汗か。それすらも分からない―――否。冷や汗に相違無い。
だって間違ない、アレからだ。アレから、こう“ぞわ”っとする。
アレは止めないときっと、いや必ず不味い状況になる。
あの光の主は、絶対に何かヤバい事をするつもりだ。

じわあ、と更に汗が吹き出す。汗は顎へと導かれ、小さな滴を作っている。……心臓が、いつもより三割増で内側から跳ねている気がする。実に五月蠅い。
グリッドは一度頭を整理する為に目を閉じた。
状況はお世辞にも芳しいとは言えない。それは言わずもがな。
そして自分の脳は、あの光の主におおよその検討を付けている。消去法でいけば恐らく……。
ああ糞、糞糞ッ。夢じゃねぇよこれは現実だよグリッドよォ!
グリッドは瞼を開くと左手の爪を膝に思い切り食い込ませた。―――痛い。
その痛さがこれが現実であるというこの上無い咆哮になった。
「行けって、言う、のかよ、えぇ!?」
右手に握られたダブルセイバーが七色の光を映して妖しく輝く。
“何も出来ないのはやっぱり、嫌だよ”
「凡人、だからって、出来る事は、あるんだ、よな?」
醜い、それでもなけなしの笑顔をダブルセイバーに投げ付ける。
半ば自問自答に近いその疑問の回答者は、遂に現れる事は無かった。
グリッドは顎を上げ光を見据える。
限界まで顎に張り付いていた汗の滴が地面に吸収された時、汗の主は疾うにその場から離れた後だった。




(鼠が一匹、気付いたか)
ミトス=ユグドラシルは術式編みに集中しつつも唇を噛んだ。
こっちはなけなしの精神力を削って集中したいというのに。先程から、確かに一匹の足音が近付いている事に間違いは無いのだ。
一体誰だ?
この如何にも警戒心の欠片も無い常人臭い目茶苦茶な走り方……剣士の線は消えた。
術士ならば術を仕掛けてくる筈だが、それも無い。同じ理由で弓士の線も消える。
成程。つまり消去法でいくとこいつは―――

「おいッ!」


気が付いたら、何故かそいつに叫んでいた。自分の位置をみすみす敵に知らせてどうしようと言うのか?
いや、どの道ばれていた。ならば名乗り出た方がまだ利口かもしれないのだ。
グリッドはミトスを一瞥すると、震える右手を左手で握った。
足が崩れてしまいそうになる感覚……全身の生気が吸い取られてしまい、霞む視界。今にも逃げ出したくなるような、相手の威圧感。
ありとあらゆる究極にネガティブな感情―――人はそれを“恐怖”と呼ぶ。
……ダブルセイバーを握っている右手が汗に濡れて最高に気持ち悪い。
グリッドは一度服で右手の汗を拭うと、再びダブルセイバーを握った。落としてしまわぬ様に、しっかりと。
天使は、そこに居た。高い民家の屋根の上に居た。こちらの声を無視して、額に汗を浮かべて術を唱えている。
目に見える程の集中っぷり。真逆、集中し過ぎて聞こえなかったのだろうか? 天使の耳は良いと聞いた気がするのだが、気のせいだったか。
グリッドはもう一度息を大きく吸う。
「……おいッ! お前、そこで何をしてる!」
ミトスはそれにも無反応だった。
脳の内側にふつふつと水滴が結露して行く。その水滴の名は怒り。
ああ、そうか。
自分は、無視されているのか。
グリッドは理解した。同時にぐつぐつと怒りが二倍増しで沸き上がる。
こいつは、俺をそこら中に落ちてる石ころや屑と同等にしか見ていない。俺に何も出来ないと思ってるんだ。
どいつもこいつも、凡人だから凡人だから凡人だから!
そんなに俺から権利を奪いたいのかよ! 歯牙にすら掛けてくれないのかよ!
そんなの、あんまりだろう……?
「こっちを、見ろよ……!」
自然と叫びに憎悪と憤怒の着色が施されて行く。恐怖なんて感情は疾うに霧のまどろみの彼方に失せていた。
……俺は、石ころじゃない。屑じゃない。人間だ。人間なんだよ。お前の敵だ。こっちを見ろよ。
「こ、こっちを見ろよこの野郎ああぁぁあぁぁぁッ!」
声は意図せずとも上擦っていた。
自分で言っていてよく意味が分からなかった。
何時の間にか、吐き出す呪いの言葉には懇願の色すらも交ざっている事に気付く。
……自分を障害として、いや存在している事すら認めて貰えない。これ以上の屈辱があるだろうか?
「何だよ、び、びびってんのかよッ! 俺一人殺せねぇってのかッ!!?」
グリッドは更に畳み掛けた。
こうなれば意地だ。


「中途半端な悪人面して本当は人一人殺せねぇんじゃねぇのかッ!? ええ!!?」

ミトスは霧の彼方を見ていた。戯言が下から聞こえてくるが、聴いてはいない。
鼠一匹、放っておいてもこの作戦になんら支障は無い。
術式は七割方完成している。今更こんな雑魚相手に構ってられるものか。
こっちはなけなしの神経を使っているんだ。
……ああ、五月蠅い五月蠅い。集中出来ない。
全くエクスフィアすら装備していない脆い劣悪凡人の癖に、
「聞けよ“      ”ッ!!!」
天使が携える七色の翼が少しばかり揺れる。風のせいでは無い。
ミトスは、珍しくその言葉の理解に間を要した。
……今、コイツハ何テ言ッタ?
私ノ間違イデ無ケレバ、
「……この……シスコン野郎おぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
言った。今言った。また言った。確かに言った絶対言った間違無く言ったッ!
ミトスの目に写る視界の色彩が反転する。心無しか足がふらついた気がした。
立っているのは頑丈なコンクリートの上だと理解していたのに、綿飴の様にふわふわした地面の様に感じる。
ぐるり、とミトスの瞳孔が開いた碧眼の瞳だけが地上を、グリッドを捉える。足がふらついたのはどうやら自分の錯覚で、目線以外は微塵の変化も無いようだった。
見下した視線のまま、術式を編んでいた手を下げミスティシンボルを握る。同時に詠唱を意味する光は虚空に消えた。
キープスペル、発動。と小さく呟いた二拍後、ミトスは初めてグリッドに当てた言葉を発した。
「路傍の石と同等な分際の癖に、口上だけは得意みたいだね。……そんなに死にたくて堪らないか?」
ミトスは驚いた。自分の声はこれ程低く、震えていたのか。
「……ッ」
グリッドは息を飲んだ。
やっちまったよやっちまった。絶対怒ってるよアレ、さっきの絶対失言だったって!
何やってんだよ俺、わざわざ歯牙に掛かりについつい御宅訪問~……って馬っ鹿じゃねぇのかッ!?
ああでもさっきまで俺は歯牙にすら掛けてくれない事を嘆いてたんじゃなかったっけ!? ああそれ最高だよ素敵過ぎる矛盾だぜッ!?
ああ、俺終わったな。どうするよ誤魔化すか? ……どうやって!?
『WAWAWA、忘れ物~』とか言うのかッ!?
無理無理無理無理絶対無理!
……ああ、今更逃げられないよな無理だよなあ。だって絶対鶏冠にキテるよあの顔はよ!


畜生、畜生畜生! 逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……!
「……貴様に質問をしている。“そんなに死にたくて堪らないか?”」
その言葉に意味の無い文字の連続思考は止められる。
ごくり、と喉がはっきりと音を立てた。
……心臓の音が三割増しだって? 馬鹿かよそんな陳腐なレヴェルじゃねぇよ。多分余裕で765割増しくらいはいってる。
グリッドは左手を左胸に添えた。相手に心臓の音まで聞こえていないか心配になったからだ。
「か……かか返り討ちに、してやりますよ」
意図せず敬語になってしまった。グリッドは自分の口をこれでもかと呪う。
今此所に自分の名が刻まれた藁人形があるならば、迷わず最初に口を縫い付けてしまうだろう。
ミトスの表情が更に険しくなる。額に青筋まで浮かんでいるのはどうかこのおめでたい脳の錯覚だと思いたい。
ああ糞、こんな時どうすればいいんだろうか。“笑えばいいと思うよ”―――超音速で却下。
「余程、死にたいらしいな」
……なんて下らない事を考えている間にミトスはそう呟き、その細い体を光のベールに包む。
瞬きを終える頃には既にそこにミトスの姿は無かった。
「こ、これは―――」
“空間転移!?”そう口は紡いでくれる予定だったが、どうやらそれは中止されたらしい。自分では言ったつもりだったのだが。
そう脳内補完した時には、グリッドの体はダブルセイバーと共に情けなく空中を旋回していた。
自分の鳩尾と、その奥に走る形容し難い激痛。横隔膜が胃を圧迫し、堪らず胃液が込み上がる不快極まった感覚。
殴られたのか蹴られたのか、それとも斬られたのか。それすら判断出来なかったし、脳は一種のパニックに陥りその思考すら決して許そうとはしなかった。
成程、これは勝てない。
グリッドは何の感動も無い初体験に鼻で笑った。
「あぐッ……う」
口から出来損ないの唸りと共に逆流した胃液が吐き出される。
異様な熱さを喉に感じると同時に、グリッドの体は盛大に地面に叩き付けられた。
……覚悟と準備がまだだったので、唐突な衝撃は一般人の体にはとても堪える。
視界はどこか朧気で、とても自分の目とは思えない。元々、視力は良い方だ。
ああ、こりゃあ不味い。
不味いな。勝てっこねぇよ。負ける、負けちまう。


土台凡人が挑むには無謀だったんだ。この舞台に立っている事すら奇跡なんだ、そりゃ当然か。はは。
結局俺は殺される……嫌だ、死ぬのは嫌、死ぬのは嫌だ。いやだ厭だ。
俺は生きたいよ。生きるにはどうすればいい? 生きるには、何がいる?
……くそ。逃げる、逃げたい、逃げなきゃ。このままじゃ本気で殺されるってッ!
グリッドは必死に腕を伸ばした。―――体が言う事を聞かない。立ち上がりたいのにそれすらガタが来ている体は認めてくれない。
それに、追い討ちを駆ける様な事実も今知った。情けない事に自分の腰は抜けている。
「……死にたく、ねぇよ……」
少しばかり冷静になったグリッドの耳にひゅんひゅん、という音が入る。
凡人に似合わぬ禍々しい両刃の武器は、使われる事無く空を裂く。
はっきりしない視界がダブルセイバーと思しき物体を捕捉した。
畜生。駄目なんだよやっぱり。生きるには、それしか無いんだ。
俺には力が……必要で。
仕方無いんだよ……だって、それがバトルロアイヤルなんだよ。
地面に刃が刺さる音がした。グリッドはそれを肴にネガティブ極まりない酒を飲む。
こうやって絶望に心を委ねる事の、どれ程気持ちが良い事か。……だが絶望に酔うなんて、実に笑えない。
巡り巡って、自分が天秤に置こうとしている分銅が、あいつと同じなんで皮肉にも程があるじゃないか。
なあ? しかも満身創痍になってからそれに気付くんだぜ? 全く、やってくれるよなぁ。
グリッドは鼻水を垂らしながら自嘲した。
あいつの言う通りだった。仕方無いんだよ、ホント。
今更心が揺れるなんて愚行の極みだ。

“凡人には、選択権なんて最初から無かった”。

ガリ、と口から音がした。土の味がする。何処と無く塩の風味があり不快な味で、不意に吐気を覚えた。
地面にキスする感覚も、実に不快だった。ファーストキスの相手が地面だなんて話、生憎今の自分には笑いたくとも笑えない。土産話にでもしておこう。
今度は足音がした。……ミトスが自分の方へ近付いている事実は想像に難くない。
瞼の裏が、異様に熱かった。
「……ちっぐ、じょお……ッ」
悔しかった。この現実が悔しかった。そっちの選択肢しか無い事をひたすら呪う。


……視界の歪みが未だに直らなくて気持ち悪い。―――歪み? あれ? いつから歪みになってんだ?
あれ、あれ、あれ?
おかしいな。頬が濡れてるぞ。血なんか出てたっけ?
あれ、あれ?
口の中がしょっぱいぞ。土ってこんなに塩気があったっけ?
あれ?


    何で俺、泣いてんだ?


何で、最後の分銅を乗せる手が、こんなにも震えてるんだ?
この感情は何だ? ―――俺の本心って、何なんだ?
「俺には……力が……必要、なんだろう……?」
喉から搾り出した言葉は何を今更、と思える実に陳腐な文字の羅列だった。
涙はぼろぼろと溢れてきて、一向に枯れそうにはない。
塩分と水分が永遠に放出され続け、ナトリウムポンプに異常を来たして自分は死んでしまうのでは、なんて馬鹿な考えが浮かんだ。実に下らない。
次から次へと滴は流れ、制限無く地に吸い込まれてゆく。……多分、バケツ三杯はいけるだろうな。
だがいつまでも泣いていても仕方が無い。足音はすぐそこまで来ているのだから。
グリッドは体中の赤血球が溶血している妄想から無理矢理覚め、我に返った。……そうだ、どちらにしろ武器を取らないと。
そう思うや否や涙を腕で拭き、ダブルセイバーに手を伸ばす。
あと数cmという時だった。手に何かが乱暴に覆い被さる。
いや、覆い被さるという言い回しは少々不適切かもしれない。少なくともそんな生易しいものではなかった。
ダブルセイバーを掴む事無く、自らの手は押さえ付けられた。石が食い込んで痛い。
「……ッ!」
押さえ付けているのは、足だった。
自分の眼球がぐるりとその足の主を見上げる。絶対的な力を持つ、天使を。
その天使は驚く程冷たい視線を自分に浴びせていた。その奥に隠された感情は一目で分かった。
こいつは、俺を見下している。
見下す事に一種の必然性すら感じさせる視線だった。
恐らくこいつは、見下す事で快感に浸るタイプだろう。
「……ダブルセイバーか。凡人には少々荷が勝ち過ぎる玩具だな」
ミトスはダブルセイバーに視線を移すと、ゆっくりと諭す様に呟いた。
「黙れ、それは、ユアンの……ッあああぁぁ!」
誰が貴様に発言を許可した、と言わんばかりに目の前の天使は手を踏み付ける足に力を入れた。
形容し難い音が中から響き、激痛が小指に走る。
一斉に脂汗が吹き出た。必死に体を捩らせ奥歯を軋ませるが、とてもそんな事では堪えられる痛みでは無い。


骨が折れた事実は、指を見るまでも無く分かった。
「ほう? ユアン、か。思わぬ所で名を聞いたな。
 ……ああ。そう言えば“アレ”も、未来で私を裏切るらしいな」
……“アレ”だと?
激痛に唸りながらもグリッドの脳内に怒りが堪る。
だが痛みにより怒りの言葉は喉で止まる。……畜生、エンドルフィンをもっと放出しやがれッ!
こいつ、ユアンの事を“アレ”だと!?
漆黒の翼のメンバーに何たる冒涜を……ッ! 万死に、いや億死に値するッ!
グリッドは憎悪に満ちた目線をミトスに浴びせた。こいつを許す訳にはいかない。
「ゆ、ユアンの名を、気安く、呼ぶな……ッ!」
どむ。
鈍い音が脇腹から響き、目の前が一瞬真っ暗になる。
……ああ、星って本当に頭に浮かぶんだな。漫画の中だけだと思ってたよ。
数メートル吹き飛ばされ、グリッドは砂埃を上げながら沈黙した。
既に身体は擦り傷だらけで目茶苦茶だ。
「畜生…畜生ッ……!」
なんて、無力。
グリッドはどうしようも出来ずに、ただひたすら泣いた。涙を流す事だけが自分に出来る唯一の抵抗に感じたからだ。
既にボロ雑巾の様な身体に鞭を打って立ち上がろうとする気力すら無かった。ボロ雑巾ならボロ雑巾らしくしている方がまだマシだ。
手で顔を覆い、ひたすらに涙を流す。とても片手で隠しきれない。
そうさ。自分はこんなにもちっぽけな存在で、こんなにも無力だ。
だから嘆いてるんだろう?
俺は路傍の石ころなんかじゃない、と心の中で叫んでいながら、この様は何だろうか?
地面に落ちているゴミと何がどう違うと言うんだろう?
……なあ、グリッドよぉ。もう認めちまえよ。答えはもう握ってんだろ?
今更何を躊躇するんだよ、オイ!
お前に埋まってるその石は形骸かよッ!

どむ。

激痛が走り、吸い掛けた酸素が無理矢理吐き出された。再び意識が飛び掛ける。
こうして身を任せて地面を転がっていると、段々とどうでもいい気がしてきた。
怒りや憎悪、恐怖すら拉げた。……なあ、もう、いいだろう?
ここは何処だよ。バトルロアイヤルだろうッ!?

どむ。

何に、迷うってんだよ。

どむ。

何を、否定したいんだよ……。

どむ。

何が、俺をこうさせてんだよ……!

どむ。

何で、涙が止まらねぇんだよおぉぉぉおおぉおぉぉぉぉおおぉぉぉッ!!


「俺には……力が、必要、なんだろう……?」
情けない声が掠れて喉から飛び出す。
いい加減にしろよ。何回目だよこの言葉。
ミトスにその声が届いたのだろうか。等間隔の衝撃が止み、すっと視界に黒い影が差す。ぐしゃりと不快な音楽が鳴り、今度は腹では無く、顔面に上から衝撃。
グリッドはそれを庇う事すらしなかった。もう、どうでもよかった。

「良く分かってるじゃないか劣悪種……そう、この世界は力で全てが廻っている」
やっぱり、そうだよなぁ。
俺って馬鹿だから、教えて貰うまで決断出来なかったんだよ。アハハハ。
「力さえあれば、全ての与奪さえ自由」
そうだよ。
俺がこうなってんのが何よりの証拠だろ?
「人の、生命さえもだ」
そう……かもしれない。
でも、そうするとユアンは、プリムラは、カトリーヌは?
弱かったから死んだ? 馬鹿言えよ。あいつらは正義じゃないってのか……?
正義って、何なんだよ?
「例えば貴様の命、だ。今の貴様には少々笑えない冗談か?」
そう……だろうか?
俺の死はこいつの手中にあるんだろうか。
俺は何をしても無駄だとでも言うのか。力が無いから?
「即ち、力こそが正義という事だ」
違う……かもしれない。
だって、死ぬか生きるかなんて、俺の権利だろ。例えこの状況でも、義務じゃねぇよ。
弱さは罪や悪じゃない。でも、強さだって罪や悪じゃない。そんなの、当たり前の事。
例え此所がバトルロアイヤルだとしてもだ。
「……何を、している?」
やっぱり、違うんじゃねぇのか?
グリッドはゆっくりと、自らの片手を天使の足に絡ませる。
だって俺は路傍の石ころじゃない。こうして抗う事が出来る事実が何よりの証拠だろう?
此所で抵抗するかしないかで、未来の運命が変わるかもしれない。……もしかすると俺は、別の世界では絶望に負け力を求め、破滅の道を歩んでいたのかもしれない。
それは即ち、“バトルロアイヤル”という土壌に負けた事。妥協してしまった事。
ならばこうして抗う事がどれだけ尊い!?
あいつは言った。僕たちには道は残されていないんだと。選択する余地すら無いと。
それは運命に抗う事を諦めた事を意味する。
……運命。そんなの知った事か。
俺は運命を変えてやる。運命なんて、こんなにも軽く覆せるってのを見せてやる。
指を咥えて悔しがりやがれ、未来の世界に居たかもしれない哀れな俺。
この俺がお前を鼻で笑ってやるぜ、はん、ヴァーカ!


無力? 凡人? 結果論? バトルロアイヤル? あっそ。つーかだから何?
それって御飯にかけるとおいしいの? そんなに大事なの?
だって今の俺はこんなにも自由だ。運命を変える権利がある。
勘違いもいいとこだ!

血の色と砂で汚れた手は、非力ながらも天使の足に抵抗を試みる。その手は震えていた。
ミトスはその汚ならしい手を一瞥すると舌打ちをし、ダブルセイバーを構える。
が、何かをミトスは発見しダブルセイバーを降ろした。
「……貴様、それはよもやエクスフィア、か?」
土に汚れていて実に分かりにくいが、確かに目が認めたそれはエクスフィアそのものだった。
だが見た事が無い歪な形状だ。色も何処か毒々しい。
ミトスはエクスフィアを暫く観察していたが、不意に笑い声を上げ始めた。
……こいつはいい。
「お前、力が欲しいと言っていたな?」
一通り笑い声を上げると、ミトスは口元を歪めたまま小さく呟いた。
顔面の足を退け、伸ばされた手を踏み付ける。グリッドが小さく呻いた。
ミトスは膝を折ると、そいつの耳元で囁いてやる。
「力を、やるよ」
一瞬グリッドの身体がビクンと痙攣するが、直ぐに抵抗は無くなった。
ミトスは白い顔に弧を浮かべると、極上の黒い嗤いを発した。
そしてゆっくりと、その手をエクスフィアへ―――。




“力を、やるよ”
そう呟かれた。
なあオイ、違うだろ?
これが、本当に俺が望んだ結末な訳ねぇよな?
だって他人に俺の天秤勝手に動かされようとしてるんだぜ?
いいのかよ、グリッド。それでいいのかよグリッドッ!
凡人だからって、俺に考える権利は、迷う権利は、選択する権利は本当に無いってのか? 違うよな、さっき違うって気付けたよな!?
力こそ正義という曲がった理論を認めるしか無いってのかッ!?
“仕方無いじゃん、ここがバトルロアイヤルという舞台だから”!?
そんなの本当に関係あんのかよッ!? 違うだろう? ああ違うね、何か、違うんだよ!
“違わないわよ”
五月蠅ぇよ……大体誰なんだよ、お前!


“あはっ! 聞こえた聞こえた! 私を知らないの? 知ってる筈でしょ?”
真逆。冗談だろう……?
し、シャーリィ=フェンネス……どうしてお前が此所に……。
“一々うっさいわね。黙ってそのままにしときゃいいのよ”
……シャーリィ=フェンネス。力こそが正義と認めた存在。俺がそれと一緒になる?
嫌だよ馬鹿、冗っ談じゃねえぇぇ! 違うだろ。俺が求めるのは、そうじゃないだろう?
“違わないって言ってんでしょ、バーカ。アンタに力が無いから、だから皆死んだ。その事実は今更覆らない”
あぁそうだな確かにお前の言う通りだよ。自分が不甲斐ねぇ。
でもな、“だからなんだってんだ”!
“ハァ? 何意味不明な事言っちゃってる訳ぇ? まだ分からない?
 弱さは罪なの……悪なのよッ!!”
いやだから、それが違うんだよお前は。間違ってるんだ、根本的に。
違ぇんだよ。
“あんただって分かってる癖に! 何を根拠に言ってる訳ぇ!? お兄ちゃんと私の邪魔をしないでよッ!”
それだよ。お前の兄貴の、セネル。
だってさ、よく考えろよ。力が正義だったらさ。

“お前の兄貴は、何で死んだんだよ?”

……なあ、お前はお兄ちゃんお兄ちゃんって五月蠅いけどよ。お前自信は何をしたかったんだ? お兄ちゃんが生きてたら、どうしたんだ?
“五月蠅いッ!
 だって仕方無かった! お兄ちゃんを助けるには仕方無かったッ! お前だって―――”
何か戯言が聞こえる。多分シャーリィだろう。黙れよ馬鹿女、否定出来なかった時点でお前の負けだ。
お前の言う“力こそ正義”には穴がある。セネルという存在の。
お前も、ここに居たかもしれない未来の俺と一緒だ。簡単な事を見落として、“バトルロアイヤルだから”という魔力に知らず知らずに酔っちまう。
でも今、ここの俺は今のお前とは違う。
大体お前は力こそ正義とか宣って、ユアンを殺したトーマを殺したプリムラを悪く変えたカトリーヌも死んだ!
それの何処に、“正義”の欠片があるってんだ?
正義のせの字もねぇよッ!
俺は、違うからな。
今なら自信を持って言える、言ってやる!
さあ天秤を傾ける準備は出来たかグリッド? 右手の分銅を捨てろ。左手の分銅を乗せろ。
……はあ? 分銅はピンセットで持てだぁ?
ああ残念だったな、俺は器用じゃねぇんだ。ピンセットなんてちまちましたもんやってられっかよバーカ!
男なら黙って素手だろうがああぁぁぁッ!!


よーし、準備はいいぜ。後はこの糞天使の汚い分銅をどかしちまうだけだ。
理屈なんて知らん。バトルロアイヤルなんて知らん。
これが俺の真実だ。見てるか? キール。
凡人にだって、道は選べる。
それは簡単な事だったんだ。変に斜に構えず、“バトルロアイヤルだから仕方無い”なんて妥協しない。
自分の思いに素直になる。たったそれだけ。
……理論とかじゃないぞ。
だって、理屈じゃないんだ。
ただ、バトルロアイヤルとか凡人とか理屈とか結果論とか全部抜きにして考えた時、俺が力=正義を否定していたから。
理由はそれだけでいいんじゃねぇのか?
あははは。
なあんだ、なんて事ねぇや。
俺は最初から運命の変え方を知ってたんだ。





「―――だが断るッ!!」
俺は腹の底から叫び、渾身の力を以て自由な方の手で砂を握り、天使の顔に投げ付けてやった。
そして目に入った砂に狼狽するそいつからダブルセイバーを取り上げ、身体に鞭を打ち思い切り腹を蹴り飛ばす。
……心臓が胸の内側で、まるで生簀から取り出したばかりの鮮魚のように飛び跳ねている。
やった、やったんだ、俺が一矢報いた! ざまぁねぇなぁシスコンスカシ野郎ッ!
「貴様ァ……覚悟は出来ているんだろうなッ!?」
ミトスが右目を押さえながら立ち上がる。……流石に目が! 目があぁ! とか言ってのた打ち回ったりはしない。
額にはこれでもかと言わんばかりの青筋。グリッドは本当に今更だが恐怖を覚えた。
常識的に考えて生き残れる確率は少ない。だがグリッドはある意味での爽快感をも覚えていた事に驚いた。
やっと自分を取り戻した、いや生まれ変わった。そんな気がした。
此所で死んでも多分、俺は後悔しない。……あ、いやぁ勿論死にたくはねえよ?
「じ、じゃあ覚悟をくれる時間をくれよ。三十二分くらい」
「……そんなに死にたければ殺してやるッ!」
ひいっ、と声を上げそうになる。
なんて威圧感! 間違なくこれだけで三回は死ねる!
覚悟は出来てるか聞かれたから答えただけだろ? 理不尽だって!
咆哮だけでシャーベット状の血液が脳内に侵入している錯覚に陥った。
目の前の天使が胸元から禍々しい短剣を取り出す。グリッドは知らないが、名を邪剣ファフニールと言う。
ミトスの目が鋭くなり、こちらへと足を踏み出した。
そこから一気にギアが入り加速するッ!
(畜生、覚悟する暇すらねぇよ!)


対するグリッドは踏み込みからダブルセイバーの一閃を繰り出した。
短剣よりはリーチがあり、奇跡的に決して太刀筋も悪くは無い。……だがどうにも相手が悪かった。
ミトスはグリッドの一閃を身を屈めてやり過ごし、素早く懐に入る。
ダブルセイバーの弱点は、格闘戦。懐に入られると魔力等で応戦しない限りどうしようも無いのだ。
ユアンは雷を巧みに使い弱点をカバーしたが、グリッドは魔力を使えない。
だがグリッドは諦めなかった。
限られた刹那に脳をフル回転させる。この危機的状況を打破する為に、自分は今何が出来るのか?
その瞬間、世界が凍り付いた。コンマ一秒の世界で、グリッドは手の位置を少しだけ動かす。ミトスの目がグリッドの手を、指を、装飾品を、捉えた。

指輪―――否、これは。

ミトスが理解すると同時に熱光線が放射される。
ジュウ、と皮膚が焼ける音。天使の白い頬に黒い焦げ跡はよく映える。
最後の一手は確かに届いた。だが所詮はソーサラーリング。時間稼ぎにすらなりはしない。
グリッドは目を見開く。怒り狂う天使の短剣が、血を求める様に妖しく蠢いていた。



それは初めての感覚。
思っていたより簡単に自分の肉が断たれ、めりめりっと繊維か何かを斬り進める音が中から響く。
その瞬間は想像していたより痛くは無く、驚いた。……数秒後猛烈に裏切られる羽目になるのだが。
脇腹はザック共々裂かれ、自らの血飛沫と肉は空中へ様々な軌跡を描きながら散る。
被害者の癖にそれに一種の芸術性すら感じるのは、異常だろうか?
……異常だよな。
グリッドは苦笑いを浮かべるとゆっくりと地へと崩れた。
天使はそれを一瞥すると、敗者へとゆっくり歩み寄る。
どうやら一回斬った程度では、その高貴な脳はお気に召さなかったらしい。
「そのまま、楽に死ねると思うなよ」
ミトスはグリッドが握るダブルセイバーを取り上げようと引っ張る。
だがグリッドは抵抗した。決して放そうとはしなかった。
それは譲れない執念。……ユアンを汚したこいつにだけは、渡すものか。
ミトスは舌打ちをし、グリッドの裂傷を踏み付けた。こいつは今更、私に逆らうか。
「ごぷっ」
鮮血を口から上げるグリッドを不快そうに睨むと、ミトスはその顔に似つかわしく無い下賤な笑い声を上げた。
「貴様に相応しい死に方を思い付いたぞ? 劣悪種」
天使は目線を直ぐ側の落とし穴に逸らした。


「……串刺しだ。どうだ? 悪くはないだろう? 楽に死ねない辺りが特にな。くくく」
偉そうにした天使は徐に自分の髪を握ると、落とし穴まで引摺り始めた。
……悔しかった。
力が足りない事? 違う。生まれ持つポテンシャルの違いを嘆いても仕方無いのは理解しているつもりだ。
それに俺はダブルセイバーを守り抜いた。ほんの小さな勝負に、勝ったんだ。それを誇りたい。
じゃあ何が悔しいかって?
こいつに、殺され方を決められる事だよッ!
「……を…な」
さあ、準備はいいか劣悪種? と聞こえた。多分、穴の入口まで来たのだろう。
だから俺はそう言ってやった。
「何だと?」
ミトスは聞き返す。今、こいつは何か言ったか?
「俺の、死に方を、お前が、決めるな……!」
下品な笑い声が響いた。
死に損ないが戯言を、そう笑い声が言っていた。
「とっとと死ね、劣悪種」
体に浮遊感。
ああ畜生……ここまでか。
くそ、くそ、くそォ……ッ!

一気に世界が夜になる。
不鮮明な視界だが、確かに天使の顔を認めた。
逆光により確認し辛いが、奴は確かにこう呟いた。

“あの世で無力を呪うがいい”



―――数分、経っただろうか。
血が、限界を知らず溢れ続ける。この体の中にこれだけの血が入っているのは驚きだった。
最初は傷や全身が熱かった。今では逆に寒い気がする。
そう言えば血を流し過ぎたら逆に寒くなると聞いた事がある。
傷口が等間隔で痛んでいるが、間隔が随分開いてきた。
多分動いたらヤバいだろうな、と直感的に思う。動けば本来外気に触れる筈が無いモノが出てきそうな気がする。……つーか、動こうにも動けない。
だが、動かなくても間違無く死ぬ。
なんだよ、それ……。結局死ぬのかよ? 全然笑えないぜ。
グリッドは自分の太股と腹から飛び出した岩の槍を見る。
……岩か。墓標としては妥当だが、名前が彫られていないのは納得行かない。
せめて“グリッド、ここに眠る”程度は書いて欲しい。
これを作った気が利かない天使を鼻で笑うと、グリッドは穴の中を見渡した。
死ぬまでの暇潰し―――
……?
…………ん?
目の前の自分がブチ撒けた荷物が目に入る。ザックの裂け目から飛び出したのだろう。
その中に、覚えが無い支給品が交ざっていた。
グリッドは何かと目を凝らす。ここが闇の中だからだろうか? はたまた血を失ったからだろうか? 視力が微妙に落ちた気がした。


「エクス、フィア……?」
こんなもの、知らないぞ?
さては自分の目は血液不足でおかしくなったに違い無い。
思考は矛盾の果てにそう至るが、何度目を擦り何度見直してもそれは間違無くエクスフィアだった。
だが自分のでは無い。……そんな筈は無いだろう?
だが、だとすれば誰の? 誰かが此所に偶然落としたってのか? それは有り得ない。
グリッドは思考を整理する為に目を閉じる。
血液不足だろうか。さっきから変な音も聞こえる。
『……ド』
誰かに預かってたっけ?
最後にザックの中を確認したのはいつだっけ?
『グ…………ド』
最後に睡眠を取ったのはいつだっけ? ……いやこれは関係ねぇよ。
くそ、思い出せな―――

『……グリッド』

―――え?
グリッドは目を開く。誰かに呼ばれた気がしたからだ。
いやいや、有り得ない。遂に耳もやられたのだろうか?
幻聴か? ああ……やっぱり末期症状だな。
そのうちひたひた足音が余計に一つ聞こえ始めるに違いない。
まあ花畑が見えないのはまだ救いかも知れないな。

『グリッド』

ごくり。予想外の展開に喉が大きく音を立てた。
……流石に、幻聴もこれだけ連続すると笑えない。
だって、だってだって。
しかもこの声は有り得ない人のそれで。
『ここだ……目の前だ、グリッド』
あ、有り得ねぇよ。
目の前のエクスフィアから、声がするなんて。
その声が、あいつのだなんて。
嘘だろ? 神様の悪戯だったら怒るぞ?
グリッドから乾いた笑いが漏れる。……何の冗談だ。
遂に幻覚か。本当にヤバいかもな。
だってお前、目の前のこいつ、透けてるし。それを信じろって方がさ、どうかしてるぜ?
悪いが俺は幽霊とか祟りとか、怪談の類は信じないクチでな。他を当たってくれよ。
糞ッ……いよいよやばいぜ。視界が更にぼやけて来やがった。
頬に生暖かい液体が流れやがる。……気が利かない汗だ。
畜生、口の中がまた塩辛くなってきたじゃねぇか。
ああそうさ……分かってるよ。
俺、遂に答えを見つけたんだぜ? 誇って、いいんだよな?


力は、正義なんかじゃ、無かったぜ。


『久し振りだな、グリッド』

そいつは青い髪を束ねた男。我が漆黒の翼の参謀で、数々の苦難を一緒に乗り越えてくれた。
大食らいという二つ名を持つ。

『……それで? 死に際に何を泣いているんだ?』

グリッドはだらしない鼻水を啜り、くしゃくしゃな顔で再び小さく笑いを零した。

「泣いてなんかねぇよ、ユアン」





【グリッド 生存確認】
状態:HP30% プリムラ・ユアンのサック所持 エクスフィアを肉体に直接装備(要の紋セット)
   左脇腹から胸に掛けて中裂傷 右腹部貫通 左太股貫通 右手小指骨折 全身に裂傷及び打撲
    一時的にシャーリィの干渉を受けた 答えを手に入れた
所持品:リーダー用漆黒の翼のバッジ 要の紋 ダブルセイバー
    ネルフェス・エクスフィア ソーサラーリング
基本行動方針:ユアンと話す
第一行動方針:傷をなんとかしたい。生きたい
第二行動方針:ミトスを止める?
現在位置:C3村南東地区・落とし穴内

【ミトス=ユグドラシル@ユグドラシル 生存確認】
状態:TP90% 恐怖 状況が崩れた事への怒り 微かな不安? タイムロスが気になる
   ミントの存在による思考のエラー グリッドが気に入らない 左頬に軽度火傷
所持品(サック未所持):ミスティシンボル 邪剣ファフニール ダオスのマント 地図(鏡の位置が記述済み)
基本行動方針:マーテルを蘇生させる
第一行動方針:鏡による拡散ジャッジメントの術式を成功させる
第二行動方針:最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつけて魔剣を奪い儀式遂行
第三行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し(ただしミクトランの優勝賞品はあてにしない)
現在位置:C3村南東地区?


散乱アイテム:タール入りの瓶(リバヴィウス鉱入り。毒素を濃縮中) マジックミスト
       占いの本 ロープ数本 ハロルドレシピ ユアンのクルシスの輝石
※いずれも落とし穴の中に散乱しています

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