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テイルズオブバトルロワイアル@wiki

Answer

最終更新:2019年10月13日 20:41

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

Answer


それは、たった一人の中に閉じ込められた物語。


ハロルド=ベルセリオスは彼の腹から噴出し続ける血を止めながら、微かにそちらを向いた。
「…………頼むわよ。貴方が何をするのかは分からないけど、それはきっと未来を変えうる要素よ」

天を見上げれば、重厚な黒と爽快な藍を同時に備えたかのような闇が浮かんでいる。
そこに座すかのような綺羅星の輝きが、その在り処ここにあると叫んでいた。
星々の中央には巨大な双月が、夜の支配者として優雅に君臨している。
それは彼らだけが見ていた、意味も無く語られなかった物語。


トーマはその大きな尻を地面に据えた。草の潰れる音が冷たい夜気に好く通る。
顎に手を当てて大きく鼻を鳴らすその姿は、本来の威容を大幅に削いでいた。
いや、最早意気消沈しているといってもいい。それほどにこの状況は“トーマの出鼻を挫いて”いた。
―――――――――― 一体、何がどうなっているのやら。
トーマはもう一度鼻を鳴らした後、横で気絶している男を見た。
ノビているという表現が見事に正しい、大の字で白目を剥きながら間抜けが気絶している。
そして首を上げて少し遠くを見た。その先でハロルドという女が有らん限りの速度でヴェイグに外科処置を行っている。
この距離でも分かる程の殺気を発しながら、殺すように癒していく。
いや、実際このガキを殺したくてしかたないのかもしれない。
そう考えれば俺をいきなり顎で扱き使いながらこいつの見張り番などさせるのも納得がいく。
トーマは目を閉じて、先ほど起こった事象を脳裏に再現する。
神速と言っていい程、鮮やかな出来事だった。
「ミミーの仇予定雑魚その一」の女があのヴェイグに抱きついたと思ったらすぐにそのヴェイグは血を垂れ流しながら崩れ落ちたと来た。
赤髪の女はすぐに逃げ去り、反応が間に合ったはずの桃髪の女の導術はここで寝ている馬鹿の体を張った行為で水泡に帰る。
介入する機会など与えないかのような不可思の一瞬の間に、その一幕は閉じられた。
総時間僅か一分にも満たない寸劇。
文字通りの死線を抜けてその一息をついたばかりだったその時のトーマには、それは地に足の着かないフィクションのような出来事だった。
―――――――――― 漸く筋が掴めて来たが、今一つしっくり来ねえなあ。
耳を小指で穿りながらトーマは目を細める。
発狂の後即殺実行。「雑魚その二」の遺体を見るにそれしか考えようが無い。
自慢するつもりはないがあの戦闘は四星たるこの自分でも睾丸が縮み上がる程の“極限”だった。普通の、なんの心得も無いヒューマが触れていい世界ではない。
最上で衰弱、良くて発狂、悪くて頓死。最悪ならば“捕食される”だろう。
断言できる。まだ逃げる理性があっただけあの女は“幸せ”だ。最上の目が出続ければ、戻ってくることも夢ではない。
もっとも、あの殺意十全のハロルドとやらの気でも変わらなければそれも望み薄だが。


トーマはごそごそと懐から何かを取り出す。
それは何かの装飾品のようだった。中央の石が、月の光を受けて寂しげに輝いた。
―――――――――― どうよ、お前が守ろうとしたもの全部台無しになっちまったぜ?
あれだけの策略とコンビネーションで自分とミミーをこんな有様にした彼ら4人組は、見事なまでに瓦解した。
ざまあみろ、ざまをみろ。俺とミミーのように、お前らも粉々に砕けてしまった。
俺がついさっきまで壊してしまいたかったお前たちは俺が何をするまでもなく木っ端微塵と成り果てた。
あれだけの奮戦の結果がコレだ。あの化け物がやらなければ俺がやっていた結果だ。
なのにどうしてだ――――― これっぽちも笑えはしない。

“貴様らと私では残念ながら年季が違う。 素人が気安く愛を語るな”

ああ、大体の理由は分かっている。負けた気がしたのだ。自分には無い何かを持つお前に。
内臓を失って腕を失って骨を砕きながらなお満たされて戦場にあったあの男に。
ミミーへの愛が他の誰にも負けているとは思わない。だが、怖かった。
俺の愛の行く先があの化け物と同じ所なんじゃないかと思うと、それだけで怖かった。
もしあの時この無力なヒューマどもを殺していたら、化物の役は俺のほうだったのかもしれない。

―――――――――― でもなあ、だったらなんでお前はこいつらを守ろうとしたんだよ。
そこだけがトーマには分からなかった。あれだけの愛を語った男が守る価値が、この三人にはあったのか。
お前一人ならば逃げ切れたはずだ。そしてこいつらはお前の死とともに直ぐに瓦解するような連中だ。
もう一度トーマは気絶した男の方を向いた。自称、四人組のリーダーらしい。
―――――――――― 多少の才能は認めるけどよ、その前に死ぬぜこいつ。
トーマのなかでハロルドの術を食らったグリッドの姿が思い起こされる。
あの時のハロルドの頭の回転は最高速だったはずだ。プリムラという敵を認識し、最短手順で呪文を編み狙い打つ。
トーマが指の一本も動かせなかったあの異常事態で一番最初に適応を見せたのがハロルドだった。
“だが、グリッドの無鉄砲はその速度を上回った”
しかも体が勝手に動いたというレベルではない。明確にハロルドとの間に立ってプリムラを守ろうとしたのだ。
ハロルドが何をプリムラにしようとしていたのかを察せなければ有り得ない行為。これが意味するのはたった一つ。
異常なまでのハロルドの計算力を凌駕する、“もっと”異常なまでのグリッドの直観力。
―――――――――― つってもこいつは才能というよりは病気だろ、戦場で真っ先に死ぬタイプだ。
おそらく無自覚なのだろう。後先の考えが無さ過ぎる。
誰かを庇って撃たれるのはいいが、現実はフィクションじゃない。
人は空を飛べないし撃たれても胸にドッグダグなんてない。
本当の戦場で戦争ごっこをするようなもの、現実に気づかなければいずれ現実に食い殺される。
そんな道化に、一体何を貴様は見たって言うんだよ。



夜空に投げた宝石を、トーマは鮮やかに掴んだ。
“…私の胸元の石を壊せ、手が無いから自分で出来ん”
少しだけ、興味が沸く。
あの愛を知る漢がそれを置いて尚護ろうとしたモノ、その中心に在る男の価値は一体何なのか。
「悪ィが他人の、ましてや野郎のケツを拭く趣味はねえよ」
その中身を知ることが、彼女に通じる“想い”への近道かもしれない。
気絶したグリッドのサック、その空いた横ポケットに宝石を滑り込ませる。
彼らの世界では宝石は守護と力の装飾だ。ならば、お守りにはなるだろう。

「せめて形見くらいは遺してやれよ。こいつは少しばかり“面白かったんだから”よ」
それは、たったそれだけの物語。
「だからお前も付き合え。もしかすると、もっと面白いものが見られるかもしれないぞ?」
そういった牛は鼻で笑う。ミミーが死んだときは、まさかもう一度笑うことがあるとは思わなかった。
もう天使も牛も化物も、愛を歌うものは居ない。だからこれは無意味な物語。
「俺をここまで虚仮にしたんだ。勝手に舞台を降りるんじゃねぇよ」
でも、きっと大切な物語。

「最後まで見届けてやんな、仲間なんだろ?」

彼の幕はとっくに下りた。だけど耳を澄ませば喝采はまだ鳴っている。
それではどうぞ舞台へ。最後にもう一度、カーテンコールを。




『このまま死んでいるつもりだったのだがな』
狭いようで存外広い、その深く掘り下げられた縦穴は実に涼しかった。腹から突き出た槍を構成する土が血の熱を微かに奪う。
『馬鹿な牛男は末期の願いすらをも聞き入れんし、何処かの誰かはギャアギャアみっともなく泣き喚く。
 まったく、五月蠅くておちおち死んでも居られない』
太腿から滲む血が土砂を微かに凝固させる。命が溢れ出すということを実感する。
細胞の一つ一つが絶叫を上げている。阿鼻と拍手、叫喚と喝采が混交した哮る遠吠えが内より響く。
それをみっともないと言われるのならば甘んじて、否、堂々と誇って泣いてやろうと彼は思った。
血を出して、腹を穿ち胸を裂かれて、それでも尚立ち上がることの尊さを彼は知っている。
ありとあらゆる全てを失って尚失われない誇りという物を知っている。

『黙れと怒鳴りつけようかと思ってみれば、そんな気も失せるほどになんとも酷い有様だ。なあ、グリッド』

向こうの土壁の色が分かるほどに透けた目の前の男はそういって口の端を軽く歪めた。
「……お前、ほ、本当に、お前なのか……ユアン……」
声を震わせながら、しどろもどろに問いかける。だが問うなどせずとも、グリッドには分かっていた。
自分がよく知る彼らしい諧謔味に満ちた心地よい笑みだった。疑う気など端から微塵もない。
『さあな。厳密に言えば私であって私ではないのだろうが……お前相手に説明するのは面倒だ。
 お前達と一緒にいた記憶もこの石に刻まれていることだし、ここは素直に“私”ということにしよう』
遠い目をしながらクククっと笑うユアンに、グリッドは眉をしかめて不満を表す。
「ちっとも分からねえが、バカにされたのは分かったぞこの野郎」
しかし、その口元から漏れ出す嬉しさは止め処なく、どうしようもない。
理由なんて聞かされてもきっと意味はない。夢でも、幻でも、グリッドは唯々肯定しただろう。
「で、何しに来た?」
『冷やかしに、だったらどうする?』
「帰れ」
グリッドは即答する。何処か遠い昔に置いてきた旋律を、ふと思い出すような感覚を覚える。
『随分強気だな。そんな有様になっているのに、どの口がほざく』
腹に溜まった血が喉を駆け回った。どくりどくりと心臓の鼓動が強まり、流れ出る血が微かに増える。
無言のまま、時間と共にゆっくりと血液が流れ落ちる。そう多くない時間の後に、ユアンが口を開いた。
『蓋を、開けてしまったのだな』
グリッドが目を見開いて仰ぎ見た先で、ユアンがまるで予定されていたかのように悲しそうな顔をしていた。
「そうか…………流石だな……はは、やっぱ分かってたのか」
まるで母親に自分のちんけな隠し事が最初からバレていたことに気付くかのように、曖昧な笑いが顔に張り付く。
無様な格好よりも無様な自分をせせら笑うかのようにグリッドは言った。

「ああ……見ちまったさ…………中に、俺はいなかった。俺は、ただのヘタレだ」



漆黒の翼の団長、ただそれだけの肩書きを演じるだけの無銘の男。
がむしゃらに足掻くのも、巨大な悪に相対するのも、リーダーとして当然のことだった。
そこに疑問すら抱いたこともないし抱けない。抱いてしまえば全部終わる。
終わってしまえば、ただのグリッドとしてこのバトルロワイアルという現実と相対しなければならなくなる。
逃げようにもミリーもジョンもいない。漆黒の翼はその現実に存在しない。
その現実が与える仕打ちにただのグリッドでは耐え切れなかった。
『だからお前はカトリーヌを巻き込んで漆黒の翼という“仮初の世界を現実の中に構築した”。
 現実から目を背けるために、他のありとあらゆるものを利用して作り上げた……否定できるか?』
「……出来ない。ああ認める。俺は、俺の勝手な我侭で、俺の嘘に巻き込んだ!!」
グリッドはまるで痛みを堪え膿を掻き出すかのようにその意識が朦朧としたなかで明瞭な声で言った。
考えたくなかった。何も考えたくなかった。
目を開けたらいきなり見知らぬ世界に連れられて、訳の分からない金髪男はゲームをしろという。
言うことを聞かなければ死ぬ首輪。それが爆発するエリア。八日後には確実に死ぬ。
そして、現実を認めず必死に抗おうとした男は、首を、頸をこきゃりと折られて。
それを見せられた。見せ付けられてしまった。
「力こそ正義であり全て……俺の弱い心はその現実に絶対に耐えられない。だってよ、だってよう……
 そいつは“力どころか何も無い俺は最初からここにいちゃいけない”ってことだろ?」
グリッドは餓鬼の様に泣きじゃくる一歩手前で戦慄く。しかし、先程までの涙は目元からすうっと引いていた。
「腕っ節も無いから殺せない。頭も無いから誰も騙せない。要領もよくないから勝ち組に乗ることも出来ない。
 勝てない。俺はこのゲームで絶対に勝てない。それどころか、存在を認めてもらえない。俺は要らないんだ」
力が全てなら、グリッドの居場所は何処にも無い。
たとえこのゲームに乗ろうが、否定しようが、“盤の上にすら乗せてもらえない”。歩兵(ポーン)以下の塵芥。
盤上に於いて影響を及ぼすことが出来ない。ただ蹂躙され、踏み潰される。首を折られたあの村人のように。

 嫌だ。俺はあんな風に死にたくない。俺はあんなのとは違う。俺はグリッドって名前がある。
 俺はあんな無様には死なない。じゃあ俺はアイツと何が違う? 
 俺と同じように力が無くて、俺と同じように取り柄が無くて、俺と同じようなアイツと何が違う?
 ……俺は“漆黒の翼”だからだ。それ以外に違いは、無い。

そんな安っぽい自尊心だけがグリッドの寄る辺だった。
それを演じてこそようやくグリッドはグリッドでいられた。それが無ければただのコキャ男だ。
漆黒の翼のグリッドである限りは、強いフリが出来た。ヒーローごっこをやっている限りは、グリッドは本物の英雄だった。
怯えながらもモンスターに立ち向かえるし、強く生きることも出来る。ごっこ遊びの中ではなんでもできる英雄だった。

 俺は妄想の中の、いやはっきり言おう。漆黒の翼のグリッドは、俺の中に作った嘘の中の英雄だ。



「なあ……ユアンは、分かってたんだろ? 俺のやってることが、どうしようもなくごっこ遊びで意味の無いことだって。
 どうして、どうして教えてくれなかったんだ?」
グリッドの問いにユアンは腕を組んだまま沈黙する。考え込むというよりは、グリッドの心が落ち着く呼吸を計っているかのようだった。
しばらくして、漸くユアンは口を開いた。
『敢えて聞くか? 妄想や夢の中で戯れるのは子供の特権だ。だがネバーランドは存在しない。
 人はいつまでも子供ではいられない。いずれ大人になり、“現実”を知るときが必ず来る。いや、現実を知って大人になるのか。
 どちらにせよそれは必然だ。絶対に変えられない不可避の理。グリッド 嘘から始まったお前の正義は最初から滅びが定められていた。
 遅いか早いかの違いだ。ならばこそ、せめて遅くあれと願うのが人情だろう』
そうやって滅んだ子供を、彼は一人知っている。
ユアンは上を見上げた。穴で区切られた空が高く見え、そこにちらちらと魔力を帯びた光があった。
純粋なまでの理想を掲げて戦い、そしてその一切合財に裏切られて、大人になる前に時を止めた一人の餓鬼がいた。
それは今天使として、この村全てに滅びの光を下そうとしている。
「だから、何も言わなかったのか……ずっと黙っていたのか……? プリムラが、死んだときも…?」
グリッドは息も絶え絶えながらも明確な怒気を乗せながらユアンに言い返す。
俺のサックはずっと俺が持っていた。だから、ユアンはきっとヴェイグを背負ったときから俺のことを見ていたはずだ。
それはつまり、あの洞窟での顛末も黙って見ていた事を意味する。
『ああ、見ていた。…正確には聞いていた、が正しいだろうがな。否定はせんよ』
グリッドは衝動的に湧き出た何かを言おうとして、それを言うことは間違いなのだと悟り口をつぐんだ。
『そうだ、グリッド。幽霊のような今の私がいたところで何もならん。あの場でプリムラを救えたのはお前しかいない。
 そしてあの青年が言ったことは紛れもなく現実だ。“嘘で出来たお前が、プリムラを救えるはずが無い”……認めるか?』
ユアンの死刑宣告にも近い詰問の後に、静寂が混じった。暗い穴は何処までも深い闇のように、グリッドの心を沈めていく。
沈みたくなければ否定をしなければならない。否定をしなければグリッドを保てない。
だが、“それでは駄目な事を今のグリッドは知っている”。

「認める。認めるよ、ユアン。俺はプリムラを救えなかった。力があっても無くてもあの時の俺には救えなかった。
 俺は、『団長』と呼ばれて、躊躇した。あの時、一瞬だけ思っちまった。
 『団長』として、プリムラを生かすことを迷っちまった。いや、そんな生温いもんじゃない。
 “望み通りに死なせてやる方が、漆黒の翼として正しいのか”と疑った!! あいつは漆黒の翼に、俺の嘘に殺されたんだ!!


ミクトラン? 正義の使徒? 漆黒の翼? 
一体それの何に意味があった。あの場所でそんなものにどんな価値があった。何の関係があった。
意味は無く価値も無く関係は無縁。現実と乖離する嘘にして正しく虚構。
そんなものをプリムラは信じた。信じてグミを使うなといった。信じて仲間を殺したことを悔やんだ。信じて団長に後を託した。
それがどれほど、心地よかったか!! プリムラの死という圧倒的な現実から目を逸らす嘘を、プリムラ本人が口にしてくれたのだ。
目を背けていいよ、無かったことにしていいよと。茶番に逃げ込んでもいいよ。
その甘い誘惑からグリッドは逃げ切れなかった。一時の嘘では、現実からは逃げ切れないというのに。
『……私が何も言わなかったのはな。お前がここで現実を知るべきだと思ったからだ。
 はっきり言おう。お前の卓越した才能は紛い物だ。だからこそ現実を知り、中身を埋めて本物になるべきだと思った』
ごっこ遊びの中で培われたとはいえ、その才は紛れも無く本物。だから、現実に適応さえ出来ればグリッドは本当の指導者になれるとユアンは思っていた。
団員の死を経て漆黒の翼を捨て、残った参加者を併呑し強固な組織を作り上げ敵対勢力を完膚なきまでに屠りミクトランを誅殺する。
恐ろしく期待値は低いが、それも有り得ただろう。
『だがお前は現実を認めることから逃げた。最後の一人になっても漆黒の翼であろうとしてしまった。
 だから、お前は最悪の形で現実に相対することになった。まったく、実に的を得ていたと感心したよ。射殺された、と思ったほどだ』
キールの言ったことは、グリッドの嘘を的確に突いてしまった。
一番最悪の形で嘘を暴かれたグリッドに為す術があるはずもない。

嘘や妄想に幻想。逃げて逃れて足掻いてグリッドはここに逃げ込む領地を全て失い、チェックメイトと相成った。
そして、その左腕に現実を宿さざるを得ない。力という現実を。

『だが、お前はそれでもそれを善しとしていない。既に身体が現実に屈した最後の最後、今この刹那に於いてなお、それを認めていない。
 骨折裂傷出血多量。もはやお前が人として生きる道は塞がれた。お前が生きる術は、その要の紋を外し全てをあの化生に委ねる事のみだ。
 この状況を打開するには力しかない。その現実すら拒むなら、お前に待つのは絶対の現実―――“死”だ』

グリッドは沈黙する。その俯いた表情は、ユアンからは窺うことが出来ない。
それは蝋細工の翼。現実という太陽は容赦なく翼を溶かす。
“それでは太陽に届かない”。その現実から目を背けグリッドはここまで飛んできた。
どれだけ羽が落ちようとも、どれだけそれは違うと言われても、たとえ自分自身がその間違いに気づいても飛んできた。
だからグリッドはここで死ぬ。もう、やり直すにはグリッドは高みに上りすぎた。
それが当然。それが現実。いくら足掻こうとも、何れ終わりはやってくる。
おしまいだ。終点だ。終焉だ。現実には絶対に勝てない。
理由など無用。思索など要らぬ。解に至る過程は知らずともいい。
答えを問うまでもなく世界はそういう風に出来ているのだから。

だが敢えてユアンは言った。誘うように、挑発するように、否、それよりももっと信ずる何かに期待するように。

『お前はここまでだグリッド―――――――――さあ、認めるか?』




一秒が無限に近似できる、そんな錯覚をグリッドは覚えた。
その感覚を忘れぬようにとゆっくり目を閉じる。
  希望、「殺せ」、憎悪、「殺せ」、絶望、「殺せ」、最善
  偽善者、「殺せ」、理想、「殺せ」、夢、「殺せ」、現実
  制裁、「殺せ」、殺人、「殺せ」、「殺せ」、憤怒、「殺せ」、正義
  恐怖、「殺せ」、「殺せ」、聖人君子、「殺せ」、「殺せ」、「殺せ」、自己愛
  「殺せ」、虚栄心、「殺せ」、「殺せ」、「殺せ」、利己的、人間性「殺せ」、「殺せ」、
  「殺せ」、「殺せ」、「殺せ」、「殺せ」、欠落、「殺せ」、幸福、「殺せ」、平凡、感情、「殺せ」、
  優勝、「殺せ」、「殺せ」、「殺せ」、「殺せ」、欲望、「殺せ」、破壊、「殺せ」、「殺せ」、殺戮、「殺せ」、
  「殺せ」、「殺せ」、脆弱、「殺せ」、地獄、「殺せ」、「殺せ」、存在、「殺せ」、「殺せ」、選択 「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」ミクトラン、「殺せ」「殺せ」バトルロワイヤル「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  唯我独尊、「殺せ」「殺せ」仲間、「殺せ」「殺せ」馴れ合い
  意味、「殺せ」「殺せ」罰、「殺せ」「殺せ」罪、信念、ミトス
  ヴェイグ、「殺せ」「殺せ」作戦、「殺せ」「殺せ」嘘、凡人
  形骸、「殺せ」「殺せ」リーダー、「殺せ」「殺せ」過ち、力「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  疑心、血、悪、責任、犠牲、「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」、自己満足、自分、トーマ
  バッジ、否定、価値、意義、「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」、生、我執、我儘、自分らしさ
  カイル、メルディ、ロイド、「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
  「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
ああ、またこの部屋だ。
赤い文字と黒い部屋。結局、行き着く先はこの二文字に収束する。
震えているだけでは、何もしないのでは、目を背けているだけでは、何も変わらない。
それこそが現実<バトルロワイアル>なのだと―――


“鬱陶しいぜ。少し黙ってな”


グリッドは暗黒たる箱の内側で大きく笑った。一切の唾棄を打ち捨てた、曇り無い笑い。
否、これは嘲笑だ。グリッドは心底からこれを下らないと思っている。

そうして外側のグリッドはその笑みのまま眼を開く。焦点をかっきり合わせてユアンを見据えた。
猛る心に火が付く。燻っていた物が動き始める。止まっていたのはいつからだろうか。
否―――――――――“そんなことは、もう関係ない”。





           「真逆――――――現実<バトルロワイアル>如きに俺を止められるかよ」








グリッドは笑った。呵々大笑とユアンに答えを告げる。
「俺としてはもう疲れて疲れて、もう負けてもいいかって思ってた。何度も思った。
 ハロルドに、シャーリィに、トーマに、キールに、そしてお前に何度も言われて俺の信念はもうスッカラカンだ」
最初からスッカラカンだったけど、とグリッドは懐かしむようにへへらと顔を渋くした。
「でもなあ、何でか、何でか俺は厭なんだよ。納得できないんだ。俺を譲りたくないんだ。
 価値がない俺を手放したくないと思ってる。俺の中でまだ何かが叫んでるんだよ」
血を失い、肉体が寒さを嘆く。しかし、その心はかつて失った熱を取り戻そうと足掻いている。
「“まだだ”“まだ終わってない”“ここからだ”“面白くなってきた”って、“俺はこれからだ”って。どうしようもなく聞こえるんだよ。
 そいつにとって、どうやら俺はそう言うモノらしいんだよ。不屈の男で、いつでも前向きで、バカで、無鉄砲だって」
口が大きく歪む。笑おうとしているというよりはそれは最早獣の威嚇だった。

「ミリーはたまに冷めた目線で一歩退いていたけど、それでも俺についてきてくれた。
 ジョンは俺よりもバカで仕方ないけど、だからこそ俺を俺として扱ってくれた。
 世界最高にふざけた俺に、いつまでも付き合ってくれた、最高に誉れたヤツらだった。
 カトリーヌはこんなイカレた島に連れてこられていきなりなのに変なことを抜かす俺に着いてきてくれた。
 プリムラは死に際でも、俺を信じて命を賭けようとした。
 二人ともコングマンから逃げた後に、そのままバックれても良いのに、戻ってきてくれた。
 俺が考え無しにお前を助けに行くと言ったときも、着いてきてくれた。
 どっちが良いか何て比べる気も起きないくらいに、最高に愛すべき奴らだった

 ――――そんな最高に、心底最ッ高な莫迦共が嘘塗れの俺の中でそうあれと信じてくれているんだよ」

俺の中に俺は居ない。俺という箱の中には何もない。
だがなあ、俺の箱の外にはあるんだよ。“俺を漆黒の翼のグリッドだと信じている奴等がいるんだよ”。
俺が漆黒の翼を疑い、放棄してるのにそいつらがまだ信じてるんだよ。
それは絶対に否定できない。否、否定なんてさせない。嘘の俺を俺たらしめてくれた彼奴等を穢させない。

それこそが俺の真実。今ハッキリと宣言する。
今までの容認を、そして決別を。
俺の中に何もない? ああ、何一つ正しいモノなんてなかったよ。

だって、俺はこんなにも貴い嘘で満たされている。

「俺は嘘だ。だが、その嘘を信じてくれた奴がいる。なら俺が俺の嘘を疑う理由は微塵もない。
 結果論、力による正義、弱肉強食、正当防衛――――ありとあらゆる現実を、俺の嘘が否定する。
 俺はこの嘘を最後まで徹す!! お前達が認めてくれた俺の嘘が、現実如きに負けるはずがない!!」

果ての果てでようやく見つけたものが此処にある。
現実なんかいくらでもくれてやる。だがこの答えだけは、この真実だけは譲らない。


「生憎と中身の無い貧弱な俺サマだ。一回でも負けを認めたら俺は俺じゃなくなる。“だからこの生き方と在り方しか出来ない”んだよ。
 どうだユアン? 期待に添えられなくて悪いが負けを認めて手に入れるホンモノなんざ、この俺には必要ないッ!!」

一人の青年、いや、最早その心は少年に等しい男の宣誓が大喝一斉にて締められる。
ありったけの命を賭けたようなその勝負宣言の後に訪れた静寂は、尋常ならざるものだった。
重圧は桁をこえ、荒く霞むグリッドの吐息は今にも死に掛けた人間とはとても思えないほどますますと鬼気を迫る。
『どうやら私の見込み違いだったようだ。最後の最後で、そんな答えを聞くことになろうとはな』
ユアンが重苦しそうに、脅すように言った。
だが、グリッドの表情はその外傷からはありえないほどに、穏やかな笑みを湛えた。
笑みも浮かぶだろう。声に混じって笑いを抑える息が、これほどに鮮明に聞こえるのだから。

『フフフ…ハハハハ……お前はあの時から何も変わっていないな。グリッド』
ふっ、とユアンが笑いを漏らした。
あの失禁の時とまったく変わらぬ、何かを夢見てしまう笑みを。
『どうしようもない馬鹿だ』
だからこそお前には期待をしてしまう。塵芥の様な夢を見てしまう。
こんな有様になっても、見届けてみたいという欲が出る。
『だが、“お前は紛れも無いリーダーだよ”。私も保証してやろう』
笑えグリッド。そしていつものように私達を騙すがいい。
お前にとって嘘かもしれないが、騙される私達にとってお前は“ホンモノ”であったのだ。
その稚拙な嘘に、私達は何故か騙されたくなってしまうのだから。

グリッドは鼻を指で擦りこそばゆい感覚を隠す。それを悟られないようにグリッドは“いつものように”隠そうとした。
腹の痛みも忘れて、大声で気分を変えようとする。
「へへへ…………当然だ。何しろ俺は漆黒の翼の団長! 音速の貴公子! しかしてその名は―――『ところで』
しかし、その口上は最後まで言い切られる前に塞がれた。ユアンのほうを向く。
『そこまで啖呵を切ったからには何か手を考えているんだろうな?』


サイレンス発動。視覚化した「…………………………」が見えるほどの静寂が縦穴を襲う。

『…………………………………………………………………………………………………………おい、リーダー。こっちを向け』
「…………………………………………………………………………………………………………ハイ」
『…………………………………………………………………………………………………………無いのか。もしかして何も無いのか』
「…………………………………………………………………………………………………………無いって言うか、これから考えるっていうか」
『…………………………………………………………………………………………………………答えを見つけたんだな?自力で、私の出る前には』
「…………………………………………………………………………………………………………ウン」
『…………………………………………………………………………………………………………私が来なかったらどうするつもりだったんだ?』
「…………………………………………………………………………………………………………いや、なんていうか、その……………………」

「………………………………………………………………考えたら負けかなって思ってる」

はい、効果時間終了。

ユアンが大声で怒った。精神体でなければ確実に血管を二三本切っていただろう。
『莫迦か貴様! 莫ッ迦じゃないのか!? それともアレか、または阿呆か!!??』
グリッドがムキになって否定する。嗚呼どんだけ馬鹿なのだお前は。
「しょうがねえだろ! ついさっき見つけたばかりだぞ答え!! 
 お前それでここからの打開策まで見つけてたらそれこそ何てご都合展開だよ!! 公式アンケートでボロクソ書かれるぞ」
『待て、公式アンケートあるのか!?』
「無いに決まってるだろ常識的に考えて」
『嘘か貴様!』
「ああ嘘だッ!!」
最悪だ。これは確実に最悪な「嘘の使い方」だ。間違っても良い噺家は使ってはいけない。
だがグリッドだからこそ、ともいえる。
『もういい。お前に少しでも期待した私が莫迦だった。私は寝る。もう溶けて曖昧に生きるから勝手にしろ』
「待てよ! いや、寧ろ待ってください!! なんかあるんだろ俺が生き延びる方法!?
 わざわざ来たんだもんな! ただの激励ってことは無いよな!?」
『無いな。あったとしてもお前には絶ッッ対に教えてやらん』
腕を組んだままそっぽを向いたユアンに、グリッドが世界が三回ぐらい割れたかのような顔をする。
「お前この期に及んでツンかよ……ヤンデレが今一つ食傷気味な昨今でそれは時代遅れにも程があるだろ……」
『人を勝手に群集共の薄弱な価値観を相互補完で増幅保護するために方便として作ったカテゴライズに当てはめるなと、言っているんだがな。

 ――――――――――――それに、ヤンデレならそこの左腕にいるだろう?』

“!?”「!?」


ユアンが振り向いて指を向けた先には、ネルフェス・エクスフィアが脈動といって差し支えないほどの生命感溢れる怪しい輝きを放っていた。
グリッドもそちらを慌てて振り向く。そう、まだ未来の地獄はおろか、目先の危機すら避けられていない。
『久しぶりと言うべきなのだろうか? 私もお前も、元の人物は既に存在しないのだから』
間合いを計るかのように剣呑な言葉に、沈黙を守っていた石がその口を開く。
“…………アンタ……何時から、気付いていたの?”
再会の祝杯とは間逆の忌々しげな音調に、ユアンは何処吹く風と流した。
『気づいていないと思うか小娘。それとも何か、真逆それが自分だけに与えられた奇跡とでも勘違いしたか?
 まだまだ青いな餓鬼。精神同様、碌にアストラル体を構成できぬ辺り、やはりまだそのエクスフィアを扱いかねていると見た』
徹底して上から物を見下ろすような言葉運びにシャーリィは怒りを覚えざるを得ない。
事実、あれほどの意思で運命に打ち勝ったという感慨に図星を突かれ水を差された。
私は勝ったはずだ。覚悟に対する対価を得てここに生き延びたはずだ。それを嘲笑うなんて許されるはずがない。
そして何より、その意思に刻まれた男の顔は、体中をナマス斬りされて最後まで彼女を鼻で笑っていたのだから。
“相変わらずそのスカした物言い、ムカツクわね……今すぐぶち殺したいわ”
『その割には先ほどまで黙ってくれていたようだが。私はてっきり気を利かせてくれたのだと思っていたぞ?』
“ハッ? グズが死ぬ前に少しだけ夢を見させてあげただけよ。今からアンタも纏めて壊すんだから”
そう言い張るシャーリィの言葉は微かに上擦っていた。
それはある種必然かもしれなかった。策謀の限りを尽くしたった一人で自分を嵌めかけたハロルドと圧倒的絶望下でもその心を折ることができなかったユアン。
単純に困難さや対抗戦力としてはあの七人やダオス・ミトスチームのほうが上だが、単体の存在としてならば少し事情が違う。
この島でもっとも“遣り難かった”二人のうち一人とこの局面で遭遇してしまう可能性など、
エクスフィアに触れて二日もたっていない彼女には想像すらできない。
『ほう? 豪く強気じゃないか。お前も私も所詮石ころ、虚勢など張っても仕方ないぞ?』
“やあっぱりオツムが茹ってるわね? 死んでもゴミは所詮ゴミよ。私とアンタじゃ決定的に立場が違うのよ?
 こいつに寄生している分、私とアンタには肉体という点で絶対的なアドバンテージがあるのに!!”
シャーリィは獰猛な感情を剥き出しにしてユアンに喰らいかかる。
そして、その瞬間にエクスフィアを埋め込んだ左手にビキリと異質な音が走った。
「ぐ、アアッ!!」
堪らず声を漏らすグリッド。その異質な管が左腕を走る様は、まさに“喰う”という表現が正しかった。
“どうせ外すだろうからと思って今まで待っていたけどもういいわ。こいつの自我も、その変なペンダントも纏めて奪ってやる!!”
要の紋が付いたまま、尚且つグリッドが自我をしっかりと保っている。しかし、シャーリィは無理にでも“略奪”にかかるしかなかった。
諦めを促すような発言だったから黙って聴いていれば、むしろこのクズは変にやる気を出してしまった。
これじゃ内からじわじわと食っていくには長すぎる。そして、その時間ではクズの体が保たない。宿主の死という現実が待っている。
一気に喰らって、エクスフィギュアの姿を取り戻す以外にシャーリィも打開の手段が無い。
王手を掛けられているのはシャーリィも同じなのだ。
正直、限りなく不利な条件。しかしシャーリィはそれでも勝てると確信していた。
左腕一本でも支配権を奪えればなんとかなる。あのネックレスだけでも外せば一気に押しつぶせる。
そして何より、今から奪うのはチンケなゴミの意識。誤って踏み潰すことはあっても、負けは絶対に有り得ない。そう思っていた。



だが、一つだけ彼女は見落とした。
『さて、どうする? このままだと恐らく喰われるぞ。左腕は保って数分。あとはジリ貧だ』
なんとも複雑そうに困る振りをみせるユアンは静かに微笑んだ。その目は既にシャーリィを見ていない。
「お前が焚き付けたんだろ……で、どうすればいい?」
『私が答えるとでも?』
グリッドもユアンも既に心持は決まっている。それでもこの状況を楽しんでいた。
まるで、一秒毎に成長する才能を惜しむように。この千金を超える一秒を惜しむかのように。

「俺は答えを決めた。もう決めちまったんだ。意地を張ったまま死んでいっても多分俺は満足は出来るだろうけど、
 “お前らが満足しないだろ”? 生きるぜ、いや、生きて誰にでもわかる形で“負けてないことを先ずは証明する”!!」

シャーリィは、一つだけ見誤り一つだけ応手を誤った。
「さあ、俺は決めたぞ。したいことを決めた。後はお前の仕事だぜ、ウチのNo.2!!」
シャーリィはグリッドがキールに責められている内に手を打つべきだった。
仕損じたのはタイミングと盤の把握。グリッドが口に飛び込んでくるのを待つよりも率先して喰らいに行くべきだった。
『リーダーはあくまで方針を定めるのみ。あとは下の仕事か……よくも死人を扱使う気になる。
 勘違いするなよ。あくまで参謀としての責務だからな。仕方なくだ』
そして、シャーリィはグリッドの本質を見誤った。
その蝕まれた記憶から、フェロモンボンバーズ―――――真に空気の読めない連中の恐ろしさを引き出すべきだった。
『借り物の要の紋を外せ。それを外さねば前には進めん。先ずは真っ向勝負、餓鬼の意思一つ正面から捩じ伏せてみろ。
 篭城・防衛などの類ではない。正真正銘、お前の初陣だ』
外せばどうなるか、自分がどうなるかも分からないグリッドではない。
だが要の紋を躊躇い無く外す。それも至極当然。これは本当ならロイドに渡すべき、自らの穢れの証明なのだから。
ぼそりと何かを言って、グリッドの意識が一度完全に破砕する。
泡立つ左腕以外の全てが行動を取りやめた。



『ハッタリとはいえ随分と頼もしいことを言う。エンジェルス計画―――――これならば、もう一度届くかもしれん』

そういって幽かに笑うユアンの瞳は、ほんの少し先の未来を見据えた悲しみに満たされている。

『些細なことだ。たとえ何があってもお前は笑え。それで、いいんだ』


かつてそこは白亜の空間だった。いや、誰しも最初は真白い部屋だ。
人は背が伸び、歳月を重ね、人と出会い、愛を覚え、裏切られ、殺し、見捨て、絶望する。
そうやって経験によって部屋を自分色に染めて自らの王城とする。それが個性だ。
そして、今、この部屋は真っ黒に染め上げられている
たった一点を除き赤黒い文字列によって包囲された箱の内側。色を混ぜすぎて逆に個性がないとも言える。それがグリッドの世界だ。

「よう……こうして会うのもこれで三度目だ。いい加減マンネリ入ってるとは思わないか?」

どす黒い箱の中に怯むことなく目を覆うことなく、目の前の少女だけを見つめてグリッドはそこに立った。
もう一度、自分に言い聞かせるようにユアンに答えた言葉を言う。

「任せとけ。こんなのスグにブッ倒してきてやるよ」

そして彼女は思い出すべきだった。力を持たない者が弱いとは限らないことを。

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