フェータル・スパイラル
僕の術は例え7割であろうと中々の効果を出しているようだ。
全身に荷物を背負わせられているような倦怠感の中で、僕は盤面をリセットできたことを実感する。
別に見た見ていないは関係ない。できた、と決め付けるのが1番精神に負担がかからないだけの話。
焦げた大地に穴の開いた家。辛うじて村という1つの集合体の単位を留めている程度だ。
これぐらいで丁度よかったと割り切ることにする。
光の帯は全方位に放たれた。下手すれば鐘楼台を燃やしてしまっていたかもしれない。
結果オーライという奴だ――そう思って、さっき思い出したミスが心に浮かび上がってきた。
そして一気に影を落とす。これは本当に成功なのか。
僕は、真に流れを取り戻したのか。
鐘楼台までの帰路がとても長く思えた。単に足取りが重いことだけが原因ではない。
全身に荷物を背負わせられているような倦怠感の中で、僕は盤面をリセットできたことを実感する。
別に見た見ていないは関係ない。できた、と決め付けるのが1番精神に負担がかからないだけの話。
焦げた大地に穴の開いた家。辛うじて村という1つの集合体の単位を留めている程度だ。
これぐらいで丁度よかったと割り切ることにする。
光の帯は全方位に放たれた。下手すれば鐘楼台を燃やしてしまっていたかもしれない。
結果オーライという奴だ――そう思って、さっき思い出したミスが心に浮かび上がってきた。
そして一気に影を落とす。これは本当に成功なのか。
僕は、真に流れを取り戻したのか。
鐘楼台までの帰路がとても長く思えた。単に足取りが重いことだけが原因ではない。
姉さまが、ミントに手を貸したのではないかという推測が僕の足に枷を掛ける。
認めたくはない。だが、そうでなければあの鐘で声を出せた人物は他に誰がいる。
クレスを村に呼び込むこと自体は僕の計画の内だ。名前を呼んだことは何の問題もない。
何の問題もない、が問うべきことはある。
「助けて」といった直接的なワードではなく、クレスの名を連呼したことが、
あいつの想い人であるクレスを呼び寄せようとしていることが、ミントに肩入れしていることを証明している。
どうして姉さまがあいつに入れ込むのか。
何よりも、それ以上に殺した張本人の名が姉さまの口から出るのが許せない。
クレスを村に呼び込むこと自体は僕の計画の内だ。名前を呼んだことは何の問題もない。
何の問題もない、が問うべきことはある。
「助けて」といった直接的なワードではなく、クレスの名を連呼したことが、
あいつの想い人であるクレスを呼び寄せようとしていることが、ミントに肩入れしていることを証明している。
どうして姉さまがあいつに入れ込むのか。
何よりも、それ以上に殺した張本人の名が姉さまの口から出るのが許せない。
詰まる所、払拭できない最悪の妄想は確実に、階段を上るように僕に近付きつつあるのだろう。
ミントを人質にしたことで僕の頭にはノイズが生じ、姉さまはミントに肩入れし、
僕は何度もミスを犯し、流れを手離してしまう。
その結末にあるのが最悪の妄想だ。この負の連鎖を断ち切れない内は、僕はまた1歩終焉へと進んでしまう。
さっきのジャッジメントで流れを変えられたのか。1つでも切れれば僕の結末は変わると確信している。
しかし、落ちた影はどうにも僕を懐疑的にさせた。
ミントを人質にしたことで僕の頭にはノイズが生じ、姉さまはミントに肩入れし、
僕は何度もミスを犯し、流れを手離してしまう。
その結末にあるのが最悪の妄想だ。この負の連鎖を断ち切れない内は、僕はまた1歩終焉へと進んでしまう。
さっきのジャッジメントで流れを変えられたのか。1つでも切れれば僕の結末は変わると確信している。
しかし、落ちた影はどうにも僕を懐疑的にさせた。
そしてやっと鐘楼台に到着する。僕の眼は偽物だっていうのか。
この壁の穴は何だ。ジャッジメントで開通したものとは思えない。
別にあること自体が解せないんじゃない。もっとその先の、何者かが来たという事実が僕の頭を惑わせる。
外に向かって壁の残骸が散らばっていることを考えても、壊したのは内からだ。
誰が壊す。中にいたのは、ミントだけじゃないか。
僕には笑う余裕などなかった。
僕の流れを断った忌まわしき奇跡の存在が脳裏に影を落としていた。
掌握していた筈の絶対的優位は崩れ去ってしまっている。そして苛々としながら戻ってみてば、この壁の穴。
僕はまた、認識していない第5の失策を犯してしまったというのか。
当然かと自嘲する。あの女は、ミントは存在こそが『決定的な何か』なのだから。
どうやら負の連鎖は未だ断たれていないらしい。
別にあること自体が解せないんじゃない。もっとその先の、何者かが来たという事実が僕の頭を惑わせる。
外に向かって壁の残骸が散らばっていることを考えても、壊したのは内からだ。
誰が壊す。中にいたのは、ミントだけじゃないか。
僕には笑う余裕などなかった。
僕の流れを断った忌まわしき奇跡の存在が脳裏に影を落としていた。
掌握していた筈の絶対的優位は崩れ去ってしまっている。そして苛々としながら戻ってみてば、この壁の穴。
僕はまた、認識していない第5の失策を犯してしまったというのか。
当然かと自嘲する。あの女は、ミントは存在こそが『決定的な何か』なのだから。
どうやら負の連鎖は未だ断たれていないらしい。
壁の穴から鐘楼台へと入る。疲労も心労も気にせず僕は急いだ。
階段を言葉の通り“昇り”――地に足を付けていても1段か2段は飛ばす勢いだと思う――早急に2階へと殴り込んだ。
目に入ってくる光源の乏しい薄闇の部屋。
階段を言葉の通り“昇り”――地に足を付けていても1段か2段は飛ばす勢いだと思う――早急に2階へと殴り込んだ。
目に入ってくる光源の乏しい薄闇の部屋。
一目で見て違和感が分かる。あいつが、いない。
家具でしか影の濃淡が表れていない部屋に、人影などなかった。
僕はぴたりと止まった。開いた口は中途半端なまま洞を作っている。
意味もなく流れ込んでくる無味無臭の空気が、焦りと共に肺に詰め込まれていく。
10%、何故ミントがいない。
30%、あの傷で動けるのか。
50%、そんな筈がない。僕が徹底的に痛めつけた。
70%、本当に? だってあいつは姉さまの影を――90%、ひいて、僕は――――100%、姉さまはどこ?
僕はぴたりと止まった。開いた口は中途半端なまま洞を作っている。
意味もなく流れ込んでくる無味無臭の空気が、焦りと共に肺に詰め込まれていく。
10%、何故ミントがいない。
30%、あの傷で動けるのか。
50%、そんな筈がない。僕が徹底的に痛めつけた。
70%、本当に? だってあいつは姉さまの影を――90%、ひいて、僕は――――100%、姉さまはどこ?
おかしい。残していった筈の大いなる実りのマナを感じない。
実りから溢れ出る姉さまのマナの匂い、それで部屋が満たされていない。
あるのは、霞のように薄く敷かれた残り香だけだ。
「姉さま!」
僕とアトワイトが置いていったサックへと駆け寄る。
案の定、というよりはあろうことか、サックの位置は変わっているし封も開けられている。
腕を内部へとねじ込み、中を弄りかき混ぜる。
それでも実りには当らない。当らないというのは中に必ずあるという前提から導き出される言葉で、頭の片隅で僕は嘲った。
焦りは最高潮になって、遂に僕はサックを逆さまにして中身をぶちまかした。
コンパスやら島の地図やらランタンやら色々出てくる。
なのに、それでも姉さまの影は見えない。間違い探しのように1つだけ絶対的に抜け落ちていた。
実りから溢れ出る姉さまのマナの匂い、それで部屋が満たされていない。
あるのは、霞のように薄く敷かれた残り香だけだ。
「姉さま!」
僕とアトワイトが置いていったサックへと駆け寄る。
案の定、というよりはあろうことか、サックの位置は変わっているし封も開けられている。
腕を内部へとねじ込み、中を弄りかき混ぜる。
それでも実りには当らない。当らないというのは中に必ずあるという前提から導き出される言葉で、頭の片隅で僕は嘲った。
焦りは最高潮になって、遂に僕はサックを逆さまにして中身をぶちまかした。
コンパスやら島の地図やらランタンやら色々出てくる。
なのに、それでも姉さまの影は見えない。間違い探しのように1つだけ絶対的に抜け落ちていた。
しばらく呆然として、部屋が本当に静まり返った頃に僕は思い切りテーブルを蹴飛ばした。
あの劣悪種と姉さまが消えた。最悪の展開が頭を過ぎる。
まさか、まさか本当に姉さまがあの女に手を貸したっていうのか?
2人でこの鐘楼台を脱出したっていうのか?
否、有り得ない。
いくら姉さまの力を借りたって――例えあの男のように天使化したって――目も見えないのだから1人で動ける訳がない。
じゃあミント1人で行ったのかと言えばもっと有り得ない。
傷塗れの状態で動ける訳がないし、壁を破壊するような力も残っていない。矛盾している。
一体どうやってミントはここを出た?
まさか、まさか本当に姉さまがあの女に手を貸したっていうのか?
2人でこの鐘楼台を脱出したっていうのか?
否、有り得ない。
いくら姉さまの力を借りたって――例えあの男のように天使化したって――目も見えないのだから1人で動ける訳がない。
じゃあミント1人で行ったのかと言えばもっと有り得ない。
傷塗れの状態で動ける訳がないし、壁を破壊するような力も残っていない。矛盾している。
一体どうやってミントはここを出た?
協力者がいるとして、西の連中は来れる筈がない。
クレスを相手にしている上にアトワイトが制圧へ向かった。西の陣営は固まり、動きたくとも動けない。
それがジャッジメントによる先導権奪取の目的なのだから。よってロイド、カイル、ヴェイグは除外。
第2の可能性として、遅れてやって来たロイドの仲間達。
だがこれも限りなくゼロだ。
何せ、そいつはカイルとヴェイグを先行させ、自分だけ遅れて来て、あのグリッドを僕にぶつけて来たのだから。
そう、これは相手にとっても誤算の筈だ。
本来なら、ティトレイの気紛れの一手さえなければ、僕は南に向かって然るべきだった。
自分の障害となる連中をわざわざ先遣隊として送ったそいつの目的は僕とコンタクトを取る、ひいては『裏切り』だからだ。
出迎えじゃあないが、僕には相手の言い分を聞き入れる権利がある。
そんな奴がわざわざミントを救うという、僕に歯向かうような真似をするか? 答えはノーだ。
もっとも、そもそも裏切るつもりなどなかったというケースも考えられるが、それならそれで東ではなく戦地の西へ向かう筈だ。
クレスを相手にしている上にアトワイトが制圧へ向かった。西の陣営は固まり、動きたくとも動けない。
それがジャッジメントによる先導権奪取の目的なのだから。よってロイド、カイル、ヴェイグは除外。
第2の可能性として、遅れてやって来たロイドの仲間達。
だがこれも限りなくゼロだ。
何せ、そいつはカイルとヴェイグを先行させ、自分だけ遅れて来て、あのグリッドを僕にぶつけて来たのだから。
そう、これは相手にとっても誤算の筈だ。
本来なら、ティトレイの気紛れの一手さえなければ、僕は南に向かって然るべきだった。
自分の障害となる連中をわざわざ先遣隊として送ったそいつの目的は僕とコンタクトを取る、ひいては『裏切り』だからだ。
出迎えじゃあないが、僕には相手の言い分を聞き入れる権利がある。
そんな奴がわざわざミントを救うという、僕に歯向かうような真似をするか? 答えはノーだ。
もっとも、そもそも裏切るつもりなどなかったというケースも考えられるが、それならそれで東ではなく戦地の西へ向かう筈だ。
こうなると考えられるのはアンノウン――不確定要素と定めたシャーリィやリオン、トーマ、プリムラだ。
もっとも化け物になったシャーリィが人を救うなんて真似は考えられないが。
とはいえ、それ以外の3人は十分考え得る。僕はその3人の人となりまでは詳しく知っていない。
リオンはマーダーだという情報があるが、今の状況では鵜呑みにすることはできない。
あの悲鳴を聞いて助けに来た可能性はある。
戦端にも加わらず、ロイド達とは何の関わりもないことを考えると、そいつらは東から来たか。
単純に遅れて南から来たのなら、鐘楼台なんかより物音のする西へ向かう筈だ。
あいにくC5が封鎖されるのは15時だ。そこを抜けて直接東地区に入ってきた可能性はあながち否定できない。
しかし、仮に助けたとしても、そいつはどこへ行く? まさか怪我人を抱えて戦場に行く訳がない。
再び東に戻ったとしても、西に人間がいると分かっている以上、それは自殺行為だ。24時間ルールを容認することになる。
考えられるのは――――村を抜けて南下することだけだ。
もっとも化け物になったシャーリィが人を救うなんて真似は考えられないが。
とはいえ、それ以外の3人は十分考え得る。僕はその3人の人となりまでは詳しく知っていない。
リオンはマーダーだという情報があるが、今の状況では鵜呑みにすることはできない。
あの悲鳴を聞いて助けに来た可能性はある。
戦端にも加わらず、ロイド達とは何の関わりもないことを考えると、そいつらは東から来たか。
単純に遅れて南から来たのなら、鐘楼台なんかより物音のする西へ向かう筈だ。
あいにくC5が封鎖されるのは15時だ。そこを抜けて直接東地区に入ってきた可能性はあながち否定できない。
しかし、仮に助けたとしても、そいつはどこへ行く? まさか怪我人を抱えて戦場に行く訳がない。
再び東に戻ったとしても、西に人間がいると分かっている以上、それは自殺行為だ。24時間ルールを容認することになる。
考えられるのは――――村を抜けて南下することだけだ。
僕は急いで3階へ向かった。霧がジャッジメントによって散った今なら、鐘楼台からの見通しは回復しているだろう。
天使の視力も合わせれば遠くの影も見えるかもしれない。
再び階段を昇り、柔らかさを帯びてきた光を浴びながら、僕は鐘の吊るされた3階へと出た。
澄み切った青空に白い雲、そして太陽は燦々と照っている。ピクニック日和の晴天だった。
殺し合いの世界だというなら、もっと暗雲なり雷なりおどろおどろしくなればいいんだ。
いつもと変わらない晴れ間が、何の支障もなく順調に動く世界が憎たらしかった。
村の全景は見える。今頃西は混乱している頃だろう。無事にアトワイトがエターナルソードを手にしてればいいんだけど。
縁に近寄り、身を乗り出して景色を見渡す。目を見開き、血眼になっているだろうと思う。
しかしこうしても人物の影は見当たらない。
ジャッジメントで村は荒れていた。命中した木からは火と煙が上がっている。
火の中に見える黒い影が朽ちていく。ゆらゆらと揺れる影は人がよろけながら歩き、倒れる姿を想像させる。
僕は何だかそれから目を離せなかった。
天使の視力も合わせれば遠くの影も見えるかもしれない。
再び階段を昇り、柔らかさを帯びてきた光を浴びながら、僕は鐘の吊るされた3階へと出た。
澄み切った青空に白い雲、そして太陽は燦々と照っている。ピクニック日和の晴天だった。
殺し合いの世界だというなら、もっと暗雲なり雷なりおどろおどろしくなればいいんだ。
いつもと変わらない晴れ間が、何の支障もなく順調に動く世界が憎たらしかった。
村の全景は見える。今頃西は混乱している頃だろう。無事にアトワイトがエターナルソードを手にしてればいいんだけど。
縁に近寄り、身を乗り出して景色を見渡す。目を見開き、血眼になっているだろうと思う。
しかしこうしても人物の影は見当たらない。
ジャッジメントで村は荒れていた。命中した木からは火と煙が上がっている。
火の中に見える黒い影が朽ちていく。ゆらゆらと揺れる影は人がよろけながら歩き、倒れる姿を想像させる。
僕は何だかそれから目を離せなかった。
もし、もしあいつに……違う、姉さまにジャッジメントが当ってしまっていたとしたら。
それこそ僕がやってきたことは水泡に帰す。他の誰かの手によってではなく、僕自身の手で全てを台無しにしてしまう。
あの女と出会ってから僕が犯してきたミス、それらが頭を過ぎる。
同時に、負の連鎖が今現在にも繋がっているんじゃないかと邪推する。姉さまが跡形もなく消え去ってしまったのを想像する。
ある訳がない、と即断できないことが我ながら腹立たしかった。
それこそ僕がやってきたことは水泡に帰す。他の誰かの手によってではなく、僕自身の手で全てを台無しにしてしまう。
あの女と出会ってから僕が犯してきたミス、それらが頭を過ぎる。
同時に、負の連鎖が今現在にも繋がっているんじゃないかと邪推する。姉さまが跡形もなく消え去ってしまったのを想像する。
ある訳がない、と即断できないことが我ながら腹立たしかった。
手を縁に置いたまま膝を折る。僕の脳を蝕むネガティブな仮定は、僕の意志をへし折りかねないほどに肥大化していた。
ごめんなさい、ごめんなさいと呟きながら頭を俯かせる。
謝ったところで何になる? 姉さまは帰って来ないし僕が4000年の間にしてきたことが報われる訳でもない。
それでもやっぱり、僕は姉さまを殺して平然としていられるほど、ふてぶてしくはない。
この高さなら落ちれば死ねるだろうか。そんなことを夢想して僕は縁から頭を出して下を眺めた。
その瞬間に僕は刮眼した。
ごめんなさい、ごめんなさいと呟きながら頭を俯かせる。
謝ったところで何になる? 姉さまは帰って来ないし僕が4000年の間にしてきたことが報われる訳でもない。
それでもやっぱり、僕は姉さまを殺して平然としていられるほど、ふてぶてしくはない。
この高さなら落ちれば死ねるだろうか。そんなことを夢想して僕は縁から頭を出して下を眺めた。
その瞬間に僕は刮眼した。
――――何だ、コレは。
不自然に壁の一面に繁茂した蔦。その内の1本は、屋根を支える柱へと伸びている。
あまりの焦心に視界に入っていなかった。
気付けば僕の口元は上向きに強張り、笑声が空いた口腔から零れ出ていた。
さっきまでの感情を考えれば、どうにも可笑しいことだった。
胸が熱く滾り、血流が巡り出すような感覚を覚える。それは、胸に炎が燈ったようなものだった。
僕は、僕はまたミスを犯すところだった。
1人まだいるじゃないか。何故、考えもせずに除外されていたのか。
希望の炎はやがて青ざめて、こうこうと青白く燃え上がる。僕はぎりりと歯を鳴らした。
「ことごとく僕を謀る劣悪種め……ティトレイ」
昨夜、浜辺で植物を操る異能を見せびらかしたあいつ。
アトワイトの報告なら睡眠中だった筈だが、上手く合間をすり抜けてきた可能性は十分ある。
いや、そうとしか最早考えられなかった。
あまりの焦心に視界に入っていなかった。
気付けば僕の口元は上向きに強張り、笑声が空いた口腔から零れ出ていた。
さっきまでの感情を考えれば、どうにも可笑しいことだった。
胸が熱く滾り、血流が巡り出すような感覚を覚える。それは、胸に炎が燈ったようなものだった。
僕は、僕はまたミスを犯すところだった。
1人まだいるじゃないか。何故、考えもせずに除外されていたのか。
希望の炎はやがて青ざめて、こうこうと青白く燃え上がる。僕はぎりりと歯を鳴らした。
「ことごとく僕を謀る劣悪種め……ティトレイ」
昨夜、浜辺で植物を操る異能を見せびらかしたあいつ。
アトワイトの報告なら睡眠中だった筈だが、上手く合間をすり抜けてきた可能性は十分ある。
いや、そうとしか最早考えられなかった。
僕の中で積み重なっていた沈殿物が削げ落ちていく。
負の連鎖の切れ目を、ようやく僕は見つける。
そうだ、僕が姉さまを殺すものか。全ては姉さまの為だ。それが姉さま自体を殺すものか。
クレスが姉さまを殺せば仲間のあいつは姉さまを攫う。類は友を呼ぶとはこのことか。
僕を2度ならず3度も欺いたその罪、極刑に値する。
わざわざ証拠を残していくなんて余程抜けているか、それとも怪盗は敢えて盗み出した証明を残していくものなのか?
ふざけるな。姉さまも、姉さまに似た紛い物も、お前なんかに渡すものか。
そうだ、ティトレイが攫ったんだ。だから姉さまが手を貸した訳がない。悪いのは全部お前だ。
負の連鎖の切れ目を、ようやく僕は見つける。
そうだ、僕が姉さまを殺すものか。全ては姉さまの為だ。それが姉さま自体を殺すものか。
クレスが姉さまを殺せば仲間のあいつは姉さまを攫う。類は友を呼ぶとはこのことか。
僕を2度ならず3度も欺いたその罪、極刑に値する。
わざわざ証拠を残していくなんて余程抜けているか、それとも怪盗は敢えて盗み出した証明を残していくものなのか?
ふざけるな。姉さまも、姉さまに似た紛い物も、お前なんかに渡すものか。
そうだ、ティトレイが攫ったんだ。だから姉さまが手を貸した訳がない。悪いのは全部お前だ。
僕は勢いよく手摺を乗り越え3階から落下する。当然、自殺なんかする気は更々ない。
髪が気流によって大きくなびく。胸元の輝石に触れ、羽を広げる。
押し出された風が一気に羽に遮られて落下の勢いが落ち、自由に飛べない代わりに滑空で地表に着陸した。
すとん、と足の裏が地面を叩いて、僕は北を見据える。
ほんの僅かだが、姉さまのマナの匂いがする。
北は18時に禁止エリアと化す。そんな方向にわざわざ向かうとは、まさか北地区を経由して戦場に向かっているのか。
今更クレスに加勢するため――いや、まさかミントをあいつの所に連れて行こうとしているのか? あの木偶人形が?
わざわざ傷物にしかねない場所に連れて行こうとするなんて。益々腹を裂きたくなってくる。
「僕が逃がすなんて思ってないよね? ねえ?」
そもそも逃がさないけど、ね。そこまで僕は寛容じゃない。
あの何もない表情に絶望を叩き込んでやらなきゃ、僕のこの胸の炎は消えはしない。
まだ流れは完全に持っていかれていない。最悪の展開はまだ逃れることができる。
僕の手で、全て成し遂げてやる。
髪が気流によって大きくなびく。胸元の輝石に触れ、羽を広げる。
押し出された風が一気に羽に遮られて落下の勢いが落ち、自由に飛べない代わりに滑空で地表に着陸した。
すとん、と足の裏が地面を叩いて、僕は北を見据える。
ほんの僅かだが、姉さまのマナの匂いがする。
北は18時に禁止エリアと化す。そんな方向にわざわざ向かうとは、まさか北地区を経由して戦場に向かっているのか。
今更クレスに加勢するため――いや、まさかミントをあいつの所に連れて行こうとしているのか? あの木偶人形が?
わざわざ傷物にしかねない場所に連れて行こうとするなんて。益々腹を裂きたくなってくる。
「僕が逃がすなんて思ってないよね? ねえ?」
そもそも逃がさないけど、ね。そこまで僕は寛容じゃない。
あの何もない表情に絶望を叩き込んでやらなきゃ、僕のこの胸の炎は消えはしない。
まだ流れは完全に持っていかれていない。最悪の展開はまだ逃れることができる。
僕の手で、全て成し遂げてやる。
「待ってて姉さま、今行くからね」
そして僕は北へと、連鎖を断ち切る一手へと足を踏み出した。
そして僕は北へと、連鎖を断ち切る一手へと足を踏み出した。
【ミトス=ユグドラシル@ミトス 生存確認】
状態:HP95% TP40% 拡声器に関する推測への恐怖 状況が崩れた事への怒り 大きな不安
ミントの存在による思考のエラー グリッドが気に入らない 左頬に軽度火傷 精神的疲労
所持品(サック未所持):ミスティシンボル 邪剣ファフニール ダオスのマント 地図(鏡の位置が記述済み)
基本行動方針:マーテルを蘇生させる
第一行動方針:ティトレイから大いなる実りとミントを奪取する
第二行動方針:最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつけて魔剣を奪い儀式遂行
第三行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し(ただしミクトランの優勝賞品はあてにしない)
現在位置:C3村東地区・鐘楼台→北地区
状態:HP95% TP40% 拡声器に関する推測への恐怖 状況が崩れた事への怒り 大きな不安
ミントの存在による思考のエラー グリッドが気に入らない 左頬に軽度火傷 精神的疲労
所持品(サック未所持):ミスティシンボル 邪剣ファフニール ダオスのマント 地図(鏡の位置が記述済み)
基本行動方針:マーテルを蘇生させる
第一行動方針:ティトレイから大いなる実りとミントを奪取する
第二行動方針:最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつけて魔剣を奪い儀式遂行
第三行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し(ただしミクトランの優勝賞品はあてにしない)
現在位置:C3村東地区・鐘楼台→北地区