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  • Ace Combat -Hearts on the shattered sky-

テイルズオブバトルロワイアル@wiki

Ace Combat -Hearts on the shattered sky-

最終更新:2019年10月13日 21:45

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Ace Combat -Hearts on the shattered sky-


『セット。大気中の水分確保。アイスニードル・氷針凝縮』
彼の手に握られた短剣が蒼く輝き、彼の周りに青白い何かが収束した。
氷とも水ともつかぬ、強いて言うならば液状化した氷の玉がミトスの肩辺りに浮かぶ。
『陣容設定。第一節・アイスニードル、二節・アイスニードル、三節・アイスニードル、四節・アイスニードル』
追加される呪文とともに、更に3つの同体が現出する。先の一と合わせ、その数“4”。
いずれ復讐するはずだったダオスを破るために彼が着想した連続魔術。
その骨子は、複数の属性を一の術に纏めて唱えるダオスのそれとは異なる。
『晶魔混淆<ユニゾン>』
彼と彼女のそれは、異なる言語式を異なる周波数帯域にて同列平行で唱えることによる高速四連詠唱。
それは一つの術というよりはソーディアンと一級の魔術師による変則ユニゾンアタックに他ならない。
『解凍―――――テトラスペル・アイスニードル“×4”!!』
氷球が刺激されたハリネズミのようにその身より針を尖らせて吐き出す。
一つの球より射出される針は5本。その4倍である20の氷針が、鳥を狙った。

『掴まっていろ、舌を噛むなよ!』
彼の右手の大剣が紅く輝き、狙われた鳥はその翼を大きく広げて煽ぐ。
左手で彼が握りしめる箒を中心として、周囲の空気が赤みがかかったように濁る。
『断熱圧縮良し! 等圧吸熱良し! 断熱膨張・等圧放熱・再生機その他含めて内燃サイクル掌握!!』
その尾翼代わりなブラシの後ろの大気が特に酷く歪んでいる。飴の様にとろとろとうねるそれは数秒先の熱の具現だ。
今やこの箒は持ち手からブラシの毛先に至るまでこの大剣、ソーディアン・ディムロスの手であり足であった。
その箒を浮かせているのは純粋な箒としての機能であるが、推進力は今までのそれと異なる。
『燃焼開始!』
司る火属を熱に換え、風を取り込み燃やしてブラシに高密度に集めたそれを噴射する。
心の限りを燃やしつくすように、今彼の身体は最小の戦闘機と化していた。
『来るがいい。追い縋ってこれるものならばな――――――――噴射ッ!!』
引き絞られた矢が戒めを解かれるように、火鳥はその速度を最大近くまで跳ね上げて飛翔した。



『……速い、でも』
『ホーミングかッ、味な真似を!!』
本来ならば射出するだけで済ませるアイスニードルに神経を注ぎながらアトワイトは唸った。
火を熱と見立てた即席のジェットエンジン。この世界で無力を経て次の段階を欲したのは彼女だけではないのだろう。
だがそれでも易々と享受はできない。もう4、5本を潰してでも更なる速度を得ようと力を込める。
襲いかかる驚異に怯むことなく燃え盛る鳥の軌道を沿うようにして、ウェーキが空に稜線を描いた。
その線を啄ばむかのように後方より氷針が追い縋ってくる。
5本が操作に対する応答を誤り見当違いのほうへ飛び、4本が寄り過ぎたために互いに衝突して粉砕した。
だが残り11本は完全にディムロスの後方に食いついていた。
幾ら逃げ回られても、時間さえあれば確実に食らいつけるだろうという確信が彼女にはある。そしてそれはディムロス側も同意見だった。
速度では僅かに上回っているためこのままなら当たりはしないが、曲がるなり止まるなりすれば即座に穿たれかねない。
「ディムロス、行く!」
次の一手に悩むより早く彼から放たれた言葉に、ディムロスは少しばかり面を食らった。
何処へなどと聞くまでもなく了解しているディムロスは、若干の性急さを感じつつも彼の要望に応ずる。
正攻法に持ち込まれれば地力の差が如実に表れてしまう。その前にこの高さの利を生かし先制するのもなくはない。
“敵”へ、ただその場所へと方向を定めて彼らは降下に入る。
「倒すんだ――――倒して、生きて……俺は、約束をッ!!」
赤と緑溢れる地面の中に目立つ黄金を見据えた彼の握りは、初霜のような硬さが僅かにあった。
「来るよ、アトワイト」
アトワイトが敵の一辺倒な攻撃に意表を突かれるよりも前に、その刀身が持ち上げられる。
彼女は驚いたように自らを持つ彼を見た。釘付けにされかれない緊張が和らぐ。
それは僅かな緩和であったが、速度に惑わされかけた思考を維持するには十分だった。
何も驚くに値はしない。自分たちが知りて識る彼者は、いつまでも逃げに回れるほど器用ではない。
空中と地上、遥か遠きに在って目まぐるしく位置を絶えずかえながらも、互いが一点を只管に捉えている。



互いが互いに狙いを定める。その金糸の夜叉に、若き金色の鬣に。
「ミトスァァァァァァァァッ!!」
宿敵の名を叫ぶその牙が大地ごと抉るかのように獲物を、ミトス=ユグドラシルを穿つ。
ミトスの斬り上げたアトワイトと彼が振り下ろしたディムロスが火花を散らして一瞬の内に交錯した。
光よりも速い時間の狭間で互いは互いに互いを認識する。
剋目せよ。眼前に在るこの敵は、最早昨日のそれとは別人なのだと。
その光に二人の顔が照らされて浮かぶ。喜悦と、狂気と、怒りと、憤慨が混然と刃重なる一点に収束する。
邪剣ファフニールとアトワイトの十字の交点に、ディムロスの一太刀が狂いなくぶつかる。
二刀の基本は守備の後の二の太刀による攻撃だ。だが、ミトスは一の太刀に反撃用のファフニールも重ねた。
剣二本で防がなければ、防ぎきるに届かないとまで思わしめたのだ。
そしてミトスは見誤った。“剣二本でさえも”今の彼は止められないということを。
「ぬゴッ!?」
がく、と膝が落ちてミトスの目は血の気が引いたかのように彼の蒼眼が引き絞られた。
膝だけではない、地面に足が僅かに減り込んでいる。剣を壊さぬように体全てを徹して大地に威力を逃がそうとした結果だった。
剣の守備さえも纏めて叩き切れそうなカイルの一撃を前に、重ねた双剣の守りが震えながら少しずつ崩れていく。
完全に流しに切り替えようにも、守りを解けばたちどころにそのまま斬られかねない。
引くも進むもままならない、鍔迫り合い以下の単純な圧し合い。
速度を乗せるだけ乗せて振り下ろされる彼の斬撃はもはやミトスに受けることさえ赦さなかった。守りごと潰されなけないほどに。
まるで、今から殺す相手の顔を見たくないかのような焦りと思えるほどに。
『ミトス!!』『させん!!』
交錯する十字剣の一つから声が張り上げられると6に減った、否、精度速度の為に減らされた氷針がミトスを脅かす彼の背後を狙う。
思い通りにはさせぬと、ディムロスが炊き上げた熱をブラシ部分から更に噴射する。
見る間もなく鋭利な氷の針は滴を垂らし、その雫さえも白き蒸発とともに無色透明の水蒸気へ爆発的に変化する。
大気が爆破したかのような大音とともに、箒が草に触れるかという程の低空を滑りながらディムロス達は現われた。
新しい血は未だ付いていないディムロスはいぶかしむ様に唸った。
『逃げただと? 一体何処に――――――――上ッ!?』
ディムロスと彼が空を見上げた先には紅い空。そして、その中で否応にも目を引く輝きがあった。
燦然と羽ばたく七虹の輝翅を携えて、天使がこの紅い空に躍っている。
「端から殺す気か! いいね、実にいいッ! この期に及んで僕を“許しに”来たらどうしようかと思った!!」
「――――――ッ!!」
ミトスが苦悶交じりに浮かべた嘲りに、彼の目が僅かに怯んだ。先ほどまでとは見降ろす側と見上げる側が一転している。
『馬鹿な、単独飛行だと!?』
「……ハッ、見下されっぱなしにしておくわけないだろ」
何か盛り上がる寸前で水を差されたような、寸止め特有の不快を浮かべながらミトスは吐き捨てた。
だが、一転して優位を得たはずのミトスが何故そのような面構えを見せるのかを判別する余裕はディムロスには無い。
序盤においてソロンの非常識な移動速度にも付き合っていたディムロスでさえ、唯目の前の光景に驚きを覚えるよりなかった。
舌打ちする彼がアトワイトを振りかざすと、再び形成された十数本の針が中空に戦列を並べる。
「蠅は蠅らしく標本台に這い蹲ってろよ――――――――――カイルァァァァァァァッ!!」
振り下ろされた彼女の号令にて射出される氷の飛沫が、彼らを大地に磔にせんとほぼ垂直に近い形で急襲する。
『っつ―――――カイル!!』
ディムロスの怒号からワンテンポ遅れてカイルの震える手ががくいと箒の“機首”を上げる。
それと同時にディムロスが後ろの浮力を緩めると、僅か一秒弱で箒は舳先を50度ほど上に曲げたような格好になり、
その瞬間にディムロスは再び熱空を焚いて後部より緊急加速した。
初速が僅かに間に合わず飛来した一番槍の害意がカイルの頬を掠めるが、残りが総出で襲い来る前に射線を外す。
低空を滑り抜けながらそれを間髪の境地、割れる氷の音が聞こえるほどの距離で彼らは舞う。
回避の中で懸命に上空へと昇るラインを作るディムロスはカイル=デュナミスが放つ荒く浅い呼吸音に交るその音を聞いた。
(カイル…………如何した!?)



氷の音は水の音。その手に握るは父の記憶なら、眼前の氷は母の残滓。
氷の鏡は罪の鏡。その手に握るが断罪の焔なら、母を殺めた氷をどう溶かす。
彼の、カイル=デュナミスの眼は何を捉えているのか。
晴らさなければいけない情念であり、超えなければいけない何か。
それは亜音速の世界でさえ損なうことのない金糸の光輝か、それとも、氷のように冷たい白銀か。


箒はその尾より熱を噴出し続け、歪んだ大気と白煙にて赤く染まった天蓋に軌跡が刻まれる。
そしてそれを追うのは、氷の針が10本。
『カイル、フレイムドライブ一斉射!』
ディムロスの号令でカイルが上半身を捻り、後ろに向って火球を放つ。
だが、ニードルは接触するよりも早くバラバラに散って火球を回避し、また集合・再編される。
一糸乱れぬ編成で飛翔するそれはもう弾丸というより鳥のようだった。
『翳めもせんか!』
もともと、敵陣に入り込んでからの白兵戦が天職であり射撃戦はあまり得手としていないディムロスだ。
先のマガジンを狙った時のように予め設定でもしなければ百発百中とはいかない。
しかも相手は動体であり、敵の射撃に一発でも当たれば御の字のつもりで撒いた火炎だった。
とはいえ、真逆一つも食い下がれないとなればディムロスも焦る。
否、とディムロスは素早く自らを否定した。自らを過大評価する訳ではないが、全く当たらないというのもおかしい。
『カイル、無事か!?』
ディムロスがカイルを見た。張り詰めた表情は戦闘中の戦士が持つ当り前のもののように見える。
無言のままディムロスをきつく握り締めて、カイルは彼の剣に戦意を示す。
だが、そこに浮かぶ脂汗と浅い呼吸はとても万全とはいい難いことを雄弁に物語っていた。
無理もない。いくら箒とディムロスに移動の全てを委ねているとはいえ、
下半身だけに限定すればカイルは全参加者の中でも特筆して重傷なのだ。
一時は粉と言っていいほどに破壊しつくされた両の肢は、可能な限りの処置を施しても立っていることも難しい。
幾ら足を使っていないとはいえ、移動に伴う苦痛はどれほどの配慮をした処でそう避けられるものではない。
粉砕された股間でサドルに座るだけでも相当な激痛を伴っているはずだ。
だが、ディムロスは見逃さない。その頬を流れるのは脂汗だけではなく冷や汗もあることを。



(当然と言えば当然か。カイルのダメージは無視できん。先ずは一度距離を開けて――――――)
一度退いて間合いを取る必要がある。だが、問題は。
『逃がさない。アイスニードル×3―――雹弾乱射!!』
中空を泳ぐミトスの手に握られたアトワイトの声と共に、
更に十と五の氷の針がさながら珠となってカイルの、否、ディムロスの下へ一直線に飛来する。
『っつ!!』
ディムロスの舌打とともにカイルが緊急加速した。
今までよりも一回り小粒の氷は、まさに霰か雹と呼ぶべきものであったが、避けにくさは一等だ。
『ちいッ! 2発3発で止められるのか!!』
逃げの軌道を描きながらディムロスは苛立ちを打った。
あれは連続射撃<コンボ>にして連携射撃<チェイン>。あくまで最大で4連携の連撃。
コストの安いアイスニードルなら、連射にも耐えられるという寸法。なんとも計画的な消費といえる。
そしてなによりも、今まで彼が歩んできた中での知識では説明の付かないミトスの飛行が彼を焦りに追い込む。
心身を負傷したカイルが唯一全参加者に対して持てるはずだった大空を舞える、というアドバンテージが瓦解したことで、
この空さえもカイルの逃げ場として機能を失ってしまっては、彼女らの攻撃圏からももう逃げ切ることは事実上不可能となった。
だが、それよりも彼の心に小波を立たせているのは、やはりカイルの初動の遅さに他ならない。
(弾を避けるごとに反応が落ちている。やはり戦闘可能な状態では―――――いや、肉よりも心か?)
とディムロスは頭を振るように己を否定した。剣の“握り”が若干硬すぎることに気づいたのだ。
自らと箒を握るその手が、肉体的なものを差し引いても僅かばかり緊張し過ぎていることに。
柔軟性を削ぐほどに入れ込んだ過度の緊張は焦りと怒りと逸りの証であり、その感情は大体の戦場にて『怖れ』を端に発するものだと経験則が断じた。
何かに脅えているのは分かっている。だが、ディムロスにはカイルが何に脅えているのかが分からなかった。




『余所見してる余裕があるのかしら?』
侮蔑するような声と共に降り注ぐ氷雨か弾雨か判別しようもない嵐にディムロスは現実へと引っ張られた。
掠めているのか当たっているのか分からないほどの霰を凌ぎながらディムロスは軋るように唸った。
分かっていたことだが、状況が不利に過ぎる。
とても一、二日程度しか組んでいないとは思えないほど晶術の扱いを巧みに行うミトスに、
あのエクスフィアとやらの力か、支援特化型のソーディアンとは思えぬほどに攻撃的な性能を発揮するアトワイト。
最大火力や最大速度こそシャーリィやクレスに劣りこそすれ、総合力と安定性で見ればおそらく全参加者の中でもトップクラスのコンビだろう。
マーテルの蘇生という縛りを自らに課していなければ、恐らくはこの島で一番勝利に近かった組み合わせだ。
傷を負ってただでさえ不安定なこちらにそんな2人を相手取って余力などある筈もない。一瞬の油断が致死に繋がってしまう。
相手に中空の舞台のまで上がられてしまった以上は、魔力の枯渇まで待つこともできない。
迷いを抱きながら勝てる相手では無い。むしろ、最初の森の中で不意を打って一撃で決めてしまうべき相手だった。
一切の利を失ってしまった以上、ここは退いてしまうのが妥当だ。
ミトスたちは追撃しないだろう。彼らは此処に死にに来たのだから。
そして、自分たちには生きなければならない理由がある。
カイルは、その命を生かしてくれた全ての命のために。ディムロスは、ミクトランの野望を食い止めるために。
『カイル、ここは――――――――』
転ずるべきか、その混濁する胸中に指針を与えようとディムロスはカイルを一瞥し、そして気づいた。
グローブ越しにもわかる自らを握る汗ばんだカイルの手が、手中にあるディムロスがやっとわかる程度に震えていること。
押し固めた握りの硬直はそれを揉み消すためのもの。隠すということは否定すべきものということ。
彼の惑いに迷いきったその瞳は、滲みこそすれその意志でその恐怖と戦っているということを教えていた。
カイルとて無知ではあるが莫迦ではない。自分の抱える“何か”が、枷となっていることを分かっているのだろう。
戦略的に考えるならば退くべき戦い。だが退けないのだ。
この戦いに最初から戦略的な意味が全くないということも理解しているのだ。
不利有利の話ではない。この戦いは、身も蓋もなく言ってしまえば無意味に尽きるものなのだから。
散発的な射撃を限界速度の8割で回避しながらディムロスはそれを納得した。
“だからこそ”この戦いは彼らにとって絶対に必要なのだ。カイルにも―――――――――――そしてディムロスにも。


『ここは――――――――――加速する!!』
箒より噴出する熱量が倍増し、カイルの頬を凹ませるほどにディムロスは加速した。ミトスたちを振り切れるほどの速度だった。
『ッ―――――――――そう、よね……やっぱり、逃げるわよね……でも、逃がさない!! トーネード、環状収束!!』
明らかな失意を露悪的な怒りに変えて、アトワイトはさらに飛び道具を生成、射出する。
凍結して構築された4つのチャクラムがカーブを描きながらディムロス達を狙い、直線軌道で進むニードルをカバーする。
上下左右の逃げ道を塞がれたディムロスは、ニードルが推進力を失うまで走り続けるか根負けして刺されるしかない。
(カイルとて何かに抗っているのに、先に私が逃げるなど、出来る訳がない)
ディムロスは撤退を選ぶ一歩手前で思い止まった。
ここに来ることを選んだのはカイルだが、その彼ををここに運んだのはディムロスだ。
カイルがこの滑稽な戦いに挑む理由があるように、ディムロスにもそれがある。
真剣に惑う。言葉にすればなんとも滑稽なことか。だが、今のディムロスにはそれが何よりも尊いものだと思った。
人は理によって囚われている。条件も時間制限もあるこの世界で、惑えるということはそれだけで価値のあることなのだ。
余裕のほとんどないこの状況下において失われた仲間を探すこと、ましてや敵に寝返った者に尽くす手など無い。
デメリットを考慮して理屈理合に照らし合わせれば、ここはアトワイトを切り捨てるのが最善手だろう。
そして、ディムロスが司令官であったのならば苦悶こそすれ迷わずそれを選択する。
ミクトランを討つために、より多くを救うために。それが人の上に立つ者に課せられた代償だ。
『だが、私も負ける訳にはいかん。今度こそ!!』
ディムロスの指示に従うように、カイルは左腕で箒を思いっきり引いた。同時に排熱が止み、それまでの慣性だけで小さく180度回頭する。
あまりに急な停止に追随しようと加速していたチャクラムが対応を誤り、カイルに掠りもせずに通り過ぎる。
『止まった!? 逃げるんじゃ――――――』
アトワイトの疑問が戦闘にさし挟まる余地もなく、ニードルが急停止した格好になった彼らを狙い穿ち着弾する。
彼女に去来する複雑な感情信号が着弾音に掻き消える。粉雪のように儚く崩れ去った白銀が、ほんのりと斜陽に赤み掛った。
光が乱反射して煙のように広がる空間を見ながら、アトワイトが呟く。
『ディムロス……』
『誰が逃げると言った。アトワイト』
(カイルがどうにもならん以上は、私が保たせるよりない!)
それに応ずるかのように、ディムロスの声が白煙の向こうの影から響いた。
彼女らの見る先には、煙がもうもうと立ち込めていた。しかしそれを構成するのは氷片でも雪でもない。
じゅうじゅうと音を立てて笠を増していくのは外気に冷えてできた水の粒の集合たる雲。
その中心を囲むのは水蒸気。水を煮沸して至るものであり、“高熱を与えて”氷より昇華する三態の一。
全てが吹き飛んで完全に水蒸気と化して快晴となった空にあるは剣士と、灼熱を斬る剣。
ファイアウォールを前面に展開してニードルを防ぎ切ったディムロスは、猛るように言い放った。
『時間がないのは私とて同じ。先に私の決着をつけさせてもらう!!』



再び灼熱が大気を歪ませる。それを目の当たりにしてミトスは呆れるように言った。
「なんともお熱いことで。灼けるね」
『ミトス……』
どうしたものかというような鈍さを声色に顕しているアトワイトを見ながら、ミトスはわざとらしい調子で言った。
「まあ、都合は悪くない。本命が焔というには火付きがよくないしね。
 少し手を変える。僕が完全に“読み”切るまではお前に任せるよ。やれる?」
試すような物言い。アトワイトは、その意味を後半部分だけ了解しながら―――――ええ、と肯いた。
『往くぞ。妥協は一切無しだ!!』
ディムロスは箒を走らせた。進行方向である柄の半延長線はミトスと、いや、アトワイトへと真っ直ぐに結ばれている。
まるで視線のようなその軸線を外してやるかの様にミトスはその羽根を少しだけ揺らして己が身を横へと流し、アトワイトを振った。
魔女の指先より現れる兵隊のように、再び葬列を為す氷針の群れ。
この世界の根幹を成す要素の一つである水が命と切り離せないものである以上、ミトスの魔力が尽きぬ限り彼女の武装は無限に等しい。
『コレットの身体を借りてた時と同じと思わないことね。逃げるなら、今のうちよ。ニードル、一斉射!!』
彼女の輝きに同調するかのように、凝結が完了したアイスニードルが彼らを目掛けて飛翔する。
彼女の言うとおり、身体を動かすことと晶術を構成することを両方行っていたコレットの時とは異なり、
その能力はミトスの命じた通り、その能力の全てが攻撃に運用されていた。
確かに、ターゲッティングの出来ない上級術では不可能な戦法ではあるが、それでもこの精度は尋常なものではない。
回数を重ねることで誤差を修正してきたか、今やその射撃は互いの間隔さえ揃った完璧に近いものになっている。
ディムロスにそれを望むべくなどできない。あと一歩のところで何かに引っ掛かっているカイルに無理をさせることもできない。
攻撃と移動を両方とも自らの統制下で行わなければならない現状、真っ向からの射撃戦に応ずることなどできはしない。
『二度も言わせるなアトワイト! 私はもう逃げんし、退きもせん!!』
だが、今のディムロスにとって“攻撃”と“移動”が同義たる“進撃”だった。
距離をとって術を打ち合うなどという気など微塵も無いと言わんばかりに、ブラシより更なる熱気が噴出する。
カイルはディムロスを持った右腕を後方に流し、残った左手で箒の柄をきつく握り締めてその胸を柄に沿わせるよう身体を屈めた。
彼の所作はほとんど無意識だった。
ただ、そうしなけば―――上体を未だ其処に残していては―――自分の胴体が吹き飛んでしまうと身体が先に理解した。
機首より止め処なくあふれるような空気抵抗をなんとか減じようとする所作。
戦闘機とは異なり風防もなにもない唯の箒にのった半死の少年。それを乗せていると承知でディムロスは今、それほどの速度を出して飛んでいた。



加速に伴い相対速度を増す針の群れを前にしても怯みもせず、唯突き撃つのみとばかりに直進するディムロスを見て、アトワイトは唖然とした。
『ばっ……正気!? やめな――――』
自分が何を口走ろうとしたのかも考えるまもなくニードルが彼らに着弾しようとしたその瞬間、アトワイトはその目に捉えた。
ディムロス達が僅かに赤く染まっている。否、“赤く染まっているのは前方の空間”だ。
その前方の“何か”に彼女の氷が着弾しようとした瞬間、それはハッキリとした現象として彼女にも視認できた。
針が、飴のように溶けたかと思うよりも早く蒸気と化し“たか”と思うよりも早く、水から水蒸気に至る過程の白んだ霧が押し潰された。
その後も幾つもの氷針が彼らを穿とうとするが、見えない壁を叩き付けられたかのような現象は彼らを守る盾となってそれを阻み掻き消す。
全てが雲のように霧散し円錐状に弾かれて消滅する様は、まるで槍のようだった。
『っ! ―――――――――アイスウォール、二重……三重防壁!!』
彼女が考えるよりも早く、彼女の回路が走っていた。質など二の次で量を出しての障壁の展開とはいえ、3枚は破格である。
それだけの必要があると、彼女は本能的に理解していたのだ。その程度では防ぎきれないだろうことも。
針など効くものかといわんばかりに無視し、雲と散らせ、進軍してくるそれはまるで炎の槍。
1枚を消し飛ばし、1枚を蒸発させ、最後の1枚も退かしたその突撃は、そうとしか表現のしようがなかった。
2枚打ち抜いて1枚を弾き飛ばし、ミトスたちが居た場所から5mほど突き進んだとこでディムロスたちはその速度を落として踵を返した。
荒れた風の吹くその先にミトスとアトワイトが浮かび、牽制射撃が再び繰り出される。
急激な運動をした後のような彼女の動悸の吐息と、ミトスの羽根がその風の上に僅かに散っていた。
『空間転移か』
驚きこそすれ丁寧に旋回しながらカイル達は射撃を避ける。手応えがないことはぶつかったあたりでディムロスには承知の上だった。
あの不細工なシールドは、防ぐためでなく避けるまでの時間稼ぎの壁だ。
『ファイアウォールをピンポイントに展開して、音速域でのアサルト……アタック…………』
「成程ね。近似的に衝撃波を燃やしてバリアの形成と同時に突撃か。お前に聞いていたよりはキレるらしいじゃないか。イカれてるとも』
途切れるような言葉を紡ぎながら、彼女らは相手の手法を見切っていた。
大気中を高速で移動すれば、当然空気抵抗が発生する。
それを切り裂こうとする機首には、空気の壁とも呼びたくなる圧力――――衝撃が生まれる。
空気の粘性が水のそれのようになる速度の世界で、攻撃のための加速によって発生する空気の盾。
その一点だけに自らの焔を纏わせることで、ディムロスは攻防一体の突撃形態を成立させた。
厳密な衝撃波ともなればそれこそ超音速域にまで行く必要はあるだろうが、
空気圧縮層を燃焼させて炎を重ねるならこれで十二分だろう。
その槍の前では細い針如きは蝿のようなものだ。その身体に触れる前に焼け千切れるしかない。



「品性の欠片もないね――――――どうする?」
ディムロスを無視しながら気だるそうに顔を歪めたミトスに尋ねられたアトワイトは押し黙る。
箒で空を飛ぶしかも戦闘機動をというのは非常識極まりないが、現実を否定する訳にもいかない。
あの箒がディムロスが完全に掌握しているとするならば、そのエネルギーは恐らく自身のコアを使っているのだろう。
人一人に曲芸飛行をさせる程度のエネルギーならコアクリスタルでも十分捻出できる。
“こちらと違い”飛んでいるとはいえ、余程のことでもなければガス欠は考えにくい。
相性的には五分五分。ここはミトスに任せるべきか―――――――

(だから、僕はもうお前に命令なんて出来る立場じゃない。だから、もし本気で厭だったら―――――)

アトワイトはミトスの“傷”を思い出して否定した。
『まさか。“貴方の出番”は、来ない。回さない』
最初の一撃の後から妙に精彩がないのは、傷のせいだというのか。
理由は分からないが、確実にカイル=デュナミスは不調の兆しがある。コレットの身体を使っていた時比べれば瞭然だ。
そして、それが今のミトスを冷ましていることは確定と見ていいだろう。
(……それならそれで、挑発の一つも仕掛けないのは変だけど……好機とみるしかない、か)
あれだけ膨らませたカイルへの殺意を萎えさせている今なら、未だ“回避”できるかもしれない。
どう足掻こうが避けられないとしてもやってみる価値がない訳ではない。
終わり方を選り好みしたいのは、ミトスだけではない。
予想外だったのか、アトワイトの返事ににミトスは力なく笑みを作った。
「言うね。まあ、別にいいけどさ、あれはお前の手持ちの札じゃ破れないだろ。火力ないからなお前は」
撥ね退けるような彼女の拒絶の後、カイルの目を覗き込むように一瞥して羽根の戦慄かせる。
『だったら、貴方から貰うまでよ。槍は、一本だけ持つものとは限らない』
彼女の言葉に少しだけ傾げてから、ああと納得してミトスは羽ばたきを止めて落下を始めた。



吹き荒ぶ風の中に支えを失ったように落下しようとするミトスの鼻先をディムロスが掠めて皮膚一枚が焦げる。
『ぢぃッ! 外したか!!』
そのまま減速することなくディムロスはその身を縦に回転させて自由落下体制に入ったミトスを追撃しようとする。
『逃がさ――――――ッ!?』
鉛直重力方向。上側より下側のミトス達を見据えようとしたディムロス達の前にあったのは、極太のアイスピックが4本。
ミトスの浮かべる軽薄な笑みが、砲火線上に誘い込む為の罠であることを教えていた。
「気をつけたほうがいい。突貫仕様<ストライク>なのは、そっちだけじゃあない」
『アイシクル・変則凍結。“フリーズランサー”・槍を放て!!』
限界まで酷使される紋章の悲鳴か、アトワイトの号令の下轟く爆音とともに射出される氷の槍。その勢いは針遊びの比ではない。
大気との摩擦熱によって表面が蒸発し後部に見ゆる白煙の尾を引いて飛ぶ槍は、もはやミサイルのそれだ。
『晶術による他系統術の再構築! しかも長距離空対空だとッ!?』
危険を察した即座、ディムロスは僅かにブラシのラダー部分を僅かに右にずらして水平軸で微かに回転する。
炎壁と衝突する2本の槍が一瞬で大量の水蒸気と化すが、3分の1が健在。
圧縮大気の二層目をその弾頭で抜き穿ち、発射時にの25%ほどしかない刃がカイルの眼尻を切った。
ディムロスの機転で間一髪で納める。だが心までは如何程のものか。氷が肉よりも少しだけ柔らかい彼の傷を抉る。
「あ、ああ」
傷口から膿が漏れ出るように、カイルの声は湿りきった感情を含んでいた。
ディムロスはそこで漸く気付く。ここまでの氷撃に、カイルは反応していたことに。
(アトワイトの属性、マスター…………真逆)
『食い縛ってろ! 泣き叫ぶための舌さえ落ちるぞ!!』
だがディムロスにその予感を推論にまで高めている余裕など与えられなかった。
フレイムウォールを解除し突撃形態を解いてディムロスはそのまま回避行動に移る。
両側にまで熱気流を生成し自分達ををロールさせると同時に箒の仰角を上げる。
螺旋を描くようにして機動する彼らの背面を槍が掠った。風圧は尻を守ってはくれない。
『随分と豪勢なことだな! あの娘ならばともかく、その小僧の力はそこまで残っておるまい!』
『ッ―――――そう思うなら、大人しく堕ちなさい!』
自らが置かれた劣勢を億尾にも出さず叫ぶディムロスに、アトワイトは苛立ったように応えた。
そんなことは言われずとも分かっているのだと。“言われず”とも。



ディムロスは回避に専心しながらもその一方で思考する。
目まぐるしく飛ぶ中、この大空より僅かに見えるあの村に落とされた神の光・ジャッジメント。
あの規模の術は上級中級云々というより、もはや兵器だ。サウザンドブレイバーと同様の対軍魔術。
それまでにどれだけ休息をとっていたとしても、それを単独で放ったであろうミトスの術力はかなり目減りしているはずだ。
ロイドの世界の最強の一角である以上、自らに蓄える魔力量は相当であるだろうことは予測できる。
だが、いくら初級中級術しか使っていないとはいえここまで消費できるというのは理に合っていない。
(こちらはTP枯渇を狙っていたというのに……それすら承知で追尾機能の追加オプションまで仕掛けるとなると、これは)
やはり、何らかの手段で術力を回復したとしか考えられない。
だがどうやって。よしんばその手段があったとして、それなら態々あの局面でミントを諦める必要はなかったはずだ。
一体――――――――「うぐッ!!」
ぶしゅと小さな袋が破けるような音とともにカイルから吹き出した鮮血が後方へと流れていく。
カイル、と叫ぶ間もなくディムロスはさらに圧を増して加速する。
向こうは自壊も厭う必要のない無人遠隔操作、こちらはマニュアルで人を乗せている。
スペック以前の出せる最大速度に差がある以上、氷の槍先から絶えず点をずらす線をとらなければ5秒と置かず撃墜される。
なんとかその距離を確保してから、ディムロスはカイルの安否を確認した。
傷は浅いが、その肌から零れ落ちる汗は冷え切っている。
『カイル、お前はミトスとの決着を付けにきた。お前のいう決着とは、リアラとスタンの仇を取ることではなかったのか』
吹き抜けるような景色の入れ替わりと『未だ』という言葉の割には急かす音調は微塵も感じられない声でディムロスは尋ねた。
カイルは何かを言おうとして肺に空気を入れたが、喉の奥で詰まったそれは霧散してただの頷きになった。
ディムロスは、恐れずとも慎重にその予感を形に変えた。
『奴は罪を悔いている。それこそ命を惜しまないほどに。お前よりもほんの少しだけ多く私はそれを見てきた。
 奴は、罪を背負って余りある罰を受けてきた。恐らくこの世界で誰よりも罰を、裁きを求めている』
滔々と綴るディムロスの言葉にカイルは彼の言葉、その意味を悟った。
『私は、奴はもう許されるべきだと思っている。そして、奴を許せる者がいるとすれば、それは』
言葉を遮るように右サイドから飛来するニードル。ディムロスはそれを単体のファイアウォールで凌ぐ。
爆発的に広がる水蒸気が冷えて雲煙となる。白亜の雲粒の中に潜り込みながらディムロスは言葉を続けた。
『それはお前しかいない。それが死であろうとそうでなかろうとヴェイグを解き放てるのはお前だけだ』
風速と飽和水蒸気量を超えた湿度の中でで息もしにくかろう中で、カイルの生唾を飲み込む音がハッキリと聞こえた。
僅かな間断の後、カイルは気の抜けた炭酸のような笑みを浮かべた。
知っていたのかという無言の追及に、攻撃が止んだことを訝しみながらも減速しながらディムロスが無言を以て肯定する。

「赦そうと、思ってたんだ」



白雲の中で完全に停止したディムロスは、向こうの出方を考えながらその言葉をただ押し黙って聞いていた。
やはり、カイルは気づいていた。ルーティを誰が殺したかを。
この世界でこそミトスがその力を余すことなく使用しているソーディアン・アトワイトだが、その本当のマスターは別にいる。
ルーティ=カトレット。彼の朋友たるスタンのパートナーにして、それが真実であるとするならば、カイルをその身に宿した女性。
スタン同様この島に落され、儚くも早々に生者の世界から切り落とされてしまった人。
幾多の死人の存在に麻痺して本来なら埋没するべき名前だ。こうまで骸が転がってしまえば、下手人など探すのも莫迦らしい。
だがディムロスは知っている。
彼女を殺した人物が、未だこの世界に残っているということを。しかもその人物が“その罪を生傷のまま抱えていることを”。
カイルの血統を知ってしまった彼はカサブタとなっていてもいい傷を、後生大事にそのままにしてしまったのだ。
誰よりも命の意味を知るが故に、人を殺すというその罪を滅ぼせぬと知りながら、
誰よりも命の意味を悟るが故に、自らの死を以て贖うことも善しと出来ない。
償い切れぬ自己満足と解りながらもただ罪を雪ぐよりない永遠の罪人。
ヴェイグ=リュングベルがそういう生き方をしているということを、彼と少なからず共にあったディムロスは知っていた。
「あの人がどれだけ俺を守ろうとしてくれたかも、どれだけそれに命を賭けてたかも知ってる。
 だから、あの人が選ぶ道を選んだらその時こそ俺はそれを受け入れて、あの人を赦そうと思ってた」
霞を吸うような静かな呼吸。心音さえ響きそうな白い世界で、子供特有の甲高い声が響かずに湿って溶ける。
「でも、あの人は答えを見つけた。罪を受け止めて生きることを選んだんだ。
 俺がこっちに来ることを切り出さなかったら、あの人は俺に本当のことをいうつもりだったんだと思う」
確証を得たのは、恐らくは先ほどのヴェイグ達のやり取りだろうとディムロスは思った。
ティトレイの言葉は、ヴェイグの言葉だ。互いの問いかけは互いの答えであり反響して増幅する。
その中でヴェイグは叫んでいた。己の罪を、その身を引裂かんばかりの悔悟を、そしてそれでも生きるということを。
解き放たれることさえ許されないという業。それはきっと死よりも酷い。
そして、赤の他人を守るだけなら誰だってそんなものを背負う訳がないのだ。
この世界におけるカイルの縁故はカイルの仲間と、両親くらいしかいない。
ハロルドをシャーリィに、ロニとジューダスをリオンに殺されているカイルは、図らずとも“仇を取ってしまっている”。
そして、今ここにいるミトスを愛する者の、クレスを父親の仇だとするならば、ヴェイグがカイルに贖うものはもう一つしか残ってない。
「そんなあの人に俺は、どうしてあげればいいんだ?」
カイルがディムロスに与えられるものなど一つしかない。だが、それを選べない。
ヴェイグの覚悟をその身に刻んだ今、カイルは惑っている―――――――怖れているとさえ言っていい。
そのヴェイグに、自分がどう向かうべきかを。
この世界でカイルは多くのものを失い、そのどれもが等しくカイルにとって大切だったのだ。罪科の量に優劣などつくはずもない。
例えその手に掛けた人物が“その行為をどれだけ悔やんでいたと知っていても”それは変わらない。
その欠落を埋める絆などもう亡く、彼の心の欠損は外側を覆う霧の白には似つかわしくない穢れた黒で充たされている。
「はは……笑えるだろ……? あの人は罪を選んだ。ディムロスのいうとおり、俺は罰を選ばなきゃいけない。
 でも、あれだけ偉そうな口を叩いておいて…………選べないんだよ。
 俺はきっと、それを選ぶことは無いと心のどこかで思ってたんだ。決着を一番怖がってたのは、俺なんだ」
漫然とヴェイグがカイルに罪の意識を感じ、それを言い出せないまま唯それを黙っていればいい。
母殺しと母を殺された子として対峙することなく、どちらかが先に滅ぶ。なんて楽な選択なことか。
だが、ヴェイグはそれを善しとしなかった。ティトレイとの戦いを経て、時の針を動かすことを決意した。
ヴェイグは全てを受け入れて、それでも生きていく道を選んだ。ならばカイルもまた選ばなければならない。


「立ち向かうって、受け止めるってあの人の顔を見たら、分からなくなった……
 あの人の罪を全て赦して……その生を見届けて、俺は、それでいいのか?
 俺は、後悔したくない。もう、あんなリオンの時のようなことだけは厭なんだ」

誰かが許さなければならない。殺した奴にだって理由がある。反省だってこんなにしている。だから赦してやれ。
そんなものは須く茶番だ。
そんなお題目を盲目的に唱えるだけでは、燃え盛る黒い炎は決して消えないとカイルはその身で経験しているのだ。
彼はその手で、誰かのために生きたかったリオン=マグナスを焼き尽くしているのだから。
カイルはその手にしっかりと覚えていたし、ディムロスもそれを柄刃を通して知っていた。
どうしようもない怒りの衝動に駆られて、見定めるべき真実ごと両断してしまったあの感覚を。
リオンが持っていたかもしれない何かを知ろうという発想さえ持たず、ただ殺してしまった後に残った虚無感を。
だったら全てを受け入れれば良いのか。許したかったはずなのに、彼をどうすれば赦せるのかが分からない。
何の真実も見定めることなくリオンをその手で殺した自分に、その資格が有るのかさえ分からない。
『だからお前はここに来たのか。もう一つの仇を前に、答えが得られると』
怒りにてリオンに罰を下した自分を恐れ、今ミトスに罰を下そうとする自分を恐れ、この先にヴェイグへと罰を下すのだろう自分を恐れ、
“だからこそ”カイルは見極めようとしている。命の意味を、死の価値を、罪と罰の理を。
憎しみに駆られて死を以て罰を下すことのなんと簡単で浅慮なことか。それをカイルがどれだけ悔んだかも彼は知っている。
このミトスに下す裁定は、必ずヴェイグと相対するときに影響を及ぼす。
「それでも、分からないんだ。あの人は許そうって思っても、ミトスを見たら腹の奥から許せなくなって、
 そしたら、あの人も許していいのかって思えて。でも、許したくて。
 父さんも、母さんも、リアラも、ロニ達も、みんな、みんな、俺にとって大切な人だったのに」
だから今、カイルがミトスに対しその衝動を再び燃やし始め、それが燃えきらぬようにと抑えていることをディムロスは悟った。
同時に、その衝動がヴェイグにまで向けてしまうかもしれないという怖れを抱いていることも。
過去と現在の半延長線上に未来は存在する。未来を意識すれば現在はその様相を変える。
否、逆なのかとさえディムロスは思う。カイルはヴェイグをとっくに許しているのだろう。
“だからこそ、先にミトスなのか”。母を殺したヴェイグを許すのであれば、ミトスを赦せぬ道理が立たぬと。
カイルは恐れているのだ。ミトスに対する選択が―――――――――――――きっと未来の選択を侵してしまうことを。
死にたいとは思わない。
だけど、このまま悩んで悩んで悩みまくったその先で答えの出ないまま終わるのなら、それはきっと楽なんだろう。
選べぬのであれば、いっそ杯<殻だ>を砕くか。



雲が風に流れて晴れて、彼らの周りを赤い空が燦然と輝きを満たす。
斜陽を乱反射してこの輝きを空間に満たす氷槍が彼らの前に屹立していた。
『フリーズランサー×4――――LAAM』
ディムロス達が隠れた間に、隠密に、そして精密に配置された彼女の十六の兵隊が隊伍を組んで戦列を敷く。
彼女の号令一つでたちまちに彼らの穴という孔全てを拡張できる状況で、アトワイトは勧告した。
『チェッく。完全に捕らえたわ。大ナシく、退きなサイ』
ノイズが混じりはじめた彼女の声に、少なくともディムロスはその表面に感情を表さなかった。
中級術の四連詠唱。どこまで無茶をすれば彼女の気が済むのかは、最早問う意味もない。
憎々しい仇は死罪で、反省している仇なら無罪。それで片が収まるならば刑罰に意味はない。
全てを赦すには『死』は大きすぎるし『命』は重すぎる。
例え四十余人が3日足らずに死んだとしても、その重さは決して軽んじてはいけないのだ。
自らの罪を知り、罪の在り方を知りてなお許すことは本当に正しいことなのだろうか。
だが、ならば厳罰をもって処すことは本当に正しいのか。
許すべきか、殺すべきか。ミトスに対するカイルの恐れはその選択に集約されている。
『……ソう。だッたら、直接終わらセてあゲる! 槍よ、四肢ヲ穿て!!』
断罪の槍撃に弾隔は殆ど無く、4発ずつ順次発射されているはずのそれはほぼ斉射に等しかった。
夕日に照らされる蒼白の飛槍の全てがディムロス達を狙っている。
それは戦いの中に惑いを持ち出したカイルの罪を裁くかのようだった。
抒情酌量など蚊帳の外で当事者達を傍観する第三者が持つ幻想に過ぎない。罪と罰は絶対でなければならない。
刑罰は、絶対であるが故に司法の座に在ることを許される。罪に下す罰の量に揺らぎはあってはならないのだ。
それでも、カイルは死に物狂いで躊躇している。一度それを失敗し、得られるはずだった何かを失ったから。
故に、カイルは迷う。生きなければならないとわかっている命を死の淵にさらしててでも。
掛け替えのない人だからこそ、今度こそその罪の清算を見誤ってはいけないのだと。

『莫迦め』



ディムロスはそんなカイルを、そして嘗ての自分を―――――――――“嘲笑った”。
着弾の寸前にディムロスのコアが輝く。それまでで一番力強い光だった。
何事か、と頭で判断する前にカイルの両の腕が持ち上がる。
ただ何となく、ディムロスがそうして欲しいような気がしたが故に。カイルは自然に呪文を唱えていた。
『「ファイアウォール!!」』
カイルの手の平を起点としてと紅壁が楯と燃え上がる。それはディムロスが箒を介して単体で放つそれよりも厚く、熱かった。
着弾する氷槍がその壁に刺さり止まる。炎が消えず氷が融けぬのは構成する力が五分である証左。
対処が間に合わなかった五番から八番が左に持ったディムロスから発せられる壁によって防がれた時点で、
アトワイトが残り八本を急停止して待機、速やか再編へとシフトさせる。
両の手が塞がっているはずなのに彼女の中の人間だった頃の記録が確信する。この壁は穿てないと。
『カイル。お前は莫迦だ、大莫迦だ。少しばかり知恵が付いたかと思えばこれか』
「ッ……さ、三度も言うことないだろ!」
燃え猛る壁に挟まれたようにも見える格好で、呆れたような声を出すディムロスにカイルは反発を上げた。
ディムロスは少しだけ怒気を増して返す。
『三度で済めば重畳と思え。……まったく、下らんとこだけ似通りおって』
え、と言いかけるカイルの疑問を遮る様にディムロスは大声を上げた。
『言うに事欠いて“許して良いのか?”だ? カイル、いつからお前は裁判官になった?それとも、神にでもなったつもりなのか?』
その問いに臓腑を握りしめられたような錯覚を覚えながらカイルは言葉を咽喉に詰まらせる。
ヴェイグの言葉をカイルは思い出した。人は罪を償うことはできない。
それは、本当の意味で人が人を許すことが出来ないからだ。



『射線再確保。往ッて!』
再配置されたランサーに再び彼女からの狙撃指令が下される。シールドされた左右側面を全て捨てて、
上下前後に各2発用意されたそれが火線を合わせて一直線目指して飛翔した。
それに気づいていないのかと思いかねないほど平静に、ディムロスはカイルに言った。
『カイル、悩むべき所を見誤るな。“人は、過つことから逃れることは出来ない”のだ』
「え……?」
カイルがディムロスの言葉の真意を問おうとする前に、剣を伝って何かを感ずる。
それは錯覚なのかもしれなかった。だが、その言葉に込められたものが悔悟であると思うくらいには察せられる。
箒がホバリングしたまま一気にロールし、カイルの体が大きく傾いた。
先ほどのファイアウォールと同様、ディムロスが何をしたいのかがカイルには何となく――――否、そうだろうと分かる。
「――――――ヴォルテックヒートッ!!」
『ッ!?』
カイルを基点として湧き上がる赤色のつむじ風が、解除された双璧に引っ掛かっていた槍ごと飛槍を一瞬だけ引き留める。
燃える風の全周防御。当然その密度は楯よりも薄く、楯さえ貫きかねない槍の前ではせいぜい一瞬金縛る程度にしかならない。
だがその一瞬があれば、焔は一気に燃え広がる。
『空いたか、ブースト!!』
カイルの晶術によって間隙が生まれ、完全に術の補助を行わずに目を更にしたディムロスが陣形の穴を見つける。
即座にそこから機動コースを見出したディムロスが一気に箒を唸らせ、アトワイトの構築した火力密集領域から自分達を弾き出した。
アトワイトは自身の動揺を最小限に留めて、半壊した氷を再編しようと自身を回そうとする。
『逃ガさない! 凝固再……』
「待った」
しかし、それにミトスが水を差した。
『止メナいで、もウ時間が――――――ッ!?』
ミトスの静止を振り払おうとしたアトワイトは、ミトスを見てその罵倒を呑まざるを得なかった。
「ああ、時間。“そういうこと”。この期に及んでお前はそれを狙ってるのか」
ミトスの“状態”からアトワイトはディムロスの方へと視線をずらす。距離を離して旋回移動中。
ここからだと死角か。おそらくは見られてないだろう。
「勘違いするなよ。別に今更咎める気もないからさ。むしろ、有難うっていいたい位だから」
それを行いながら、ミトスは素直な言葉をアトワイトに投げかけていた。
素直すぎて間違った吹き替えなのではないかと思えるくらいこの光景から乖離していた。
「“だけど”、とりあえず少し待って。今補給するからさ。これでお前の持分、全部だ」
『みトス、もウソれは。セめて―――――――』
彼女の口を塞ぐように、ミトスはその柄をほんの少しだけキツく握った。
「お前だって似たようなもんだろ。人のことをとやかく言える立場じゃない。
エクスフィアのついたアトワイトのコアに赤い飛沫が飛び散る。
「なんにせよ、やるなら早くした方がいいよ。僕が萎えてる間に。虎の子が熾きる前に、ね」
血の付いていない部分に反射したミトスの口元が笑う。諦観だけでできたようなその笑顔には、僅かに恍惚が混じっていた。


状態バランスをとりながら、ディムロスは先ほどの言葉に続けた。
『……人が人を裁くなどそれそのものが傲慢だ。だが、割り切れぬものとて割り切って選ばねば人は前にも進めん。
 だから人は人を裁く。線を引いて、物事の輪郭を明瞭にするために。
 神にしかできないそれを人の手で行うのだ。傲慢以外の何物でもない。だが、神がやらぬ以上誰かがやらねばならない』
「だからって、選べっていうのか……ディムロス、あんたみたいに」
ささくれ立った棘を生やすような怒気を語気に渦巻かせてカイルが何かを口の端から吐露した。
全体の決定。大局的な物の見方。戦略眼。情では切り落とせぬものを、理にて裂く。
それをかつてディムロスは、ディムロス=ティンバーは息を吸うように行ってきた。
それは戦争であり、それはその循環の中で当然の一つだった。
『必要ならばな。それが人の上に立つ者の責務だ。
 例えそれによって私が何かを失うとしても。私の下で戦う私が守りたい者に、何かを失わせぬために』
「…………失って、守る」
胃の中まで入れた言葉を、カイルは喉にまで引き出して口に戻す。
心に鍼を一本通されたかのような冷たさがカイルを襲った。それは霧の冷たさではなく昨日の夜の寒さだった。
かけがえのないものを守り通す生き物で、自身の望みを一切を捨てる生き物。
失った母の存在を失いたくはない。だが、その仇ももう失いたくはない。
どちらかは守れる。だけど、両方を守りたいという本当の願いは捨てなければならない。
人の上に立つ神のいない世界で人の上に立つ生き物で、世界を変えうる力を持つ生き物。
そんな生き物にでも――――――英雄と呼ばれる生き物でもならない限り、人を許すことも裁くことはできはしない。
何かを守ることと全てを失うこと。この二つは、きっと矛盾しないのだ。
あの夜の意味が、今初めて理解できたような錯覚をカイルは覚えた。
それは詭弁だとカイルは知っていた。錯覚ではなく経験だ。何故なら、カイルは既に―――――――

『だがな、カイル。“君”は私のような唯の腰抜けとは違うのだろう?』

揉みくちゃになりそうな意識を引っ張り出したのはディムロスの声だった。
諧謔と皮肉が多分に混じり合った苦笑が、張り裂けるカイルを空に留める。
ソーディアンとしてではない、千年前に出会った人間の言葉のようだった。
『……だから莫迦だと言ったのだ。お前は理合などに収まる枠ではないと思っていたのだがな。
 今のお前では考えに考えを尽くしたところで、答えも出ん。そもそも、それは考えているとは言わん』
失意のような意気を溜息と吐いて、ディムロスはカイルを嘲った。
「そ、そんなことない! 俺は!!」
半ば反射的にカイルが抗じた。が、ディムロスはその刀身を用いることなくカイルの心に切り込んだ。

『ならば聞くがな。お前は、何故ルーティが死んだかを知っているのか?』



「それは……」
言いよどむカイル。絶対的な事実であるはずなのに、ヴェイグが殺したからだとは何故か言えなかった。
今のヴェイグしか知らないカイルには彼が母を殺す姿を想起できなかった。
『口にできんのも当たり前だ。お前は、ヴェイグのことをどれだけ知っている。
 奴がどういう思いで戦ってきたのか、その道程の触りさえも知るまい』
カイルは閉口するしかなかった。彼が何の理由もなく母を殺すなど、それこそ信じられない。
なのにその理由にさえ考えが至らなかったことに今更ながら気づかされたのだから。
『お前があの時の、リオンのことを悔いているのは分かる。同じ過ちを二度と冒したくないというのも、理解できる。
 だがな、間違えたくないからといって、選ぶことを放棄するのであればそれこそ本末転倒ではないのか』
「え……?」
『あの時お前を突き動かしていたものが誤りであったと何故断ずる。どうして断じてしまえるのだ
 お前は確かに短慮だった。話を続けて、全てを知ることが出来たのならばお前の選択も変わったかも知れん』
あそこで剣を誰かが振らねばどうしようもなかったとしても、あそこで終わりにしなければもっと違う結果が得られたかもしれない。
だが、とディムロスはその可能性を切り捨てた。
『それの選択が最善だったかなど誰にも言えんのだ。だが今のお前は、ただ結果だけを見て考えている。
 お前の代わりに敢えて言ってやる。それは腰抜けの考え方だ。
 それともあの時選んだ答え、振った剣に込めたものまでも過ちだと否定できるというのか』
ディムロスを握るその拳を見据えて、カイルはその感触に思い出す。
(ロニ…………ジューダス…………)
あの洞窟の中で膨れ上がった殺意。氷さえも溶かしつくす黒い焔。
あれはおぞましいものであったし、叶うなら二度と見たくはない。だが、否定はできない。
火のない所に煙は立たない。あれは―――――あれを燃やした想いは、失われてしまった掛け替えのないものの絆だから。
『カイル、お前は見誤るな。人は過つ可能性から逃れることは絶対にできない。
 未来を、歴史を知らぬ我らは、何が正しいかさえ知ることのできない生き物だ』
カイルの中でちくりと記憶の棘が痛む。未来を知り、時空を超えた彼にしか知りえない痛みだった。
あの時の軽薄な自分の存在が疎ましく思えるほどに痛む。未来が保障されてなければ、動けないのか。

ディムロスの言葉にカイルは少しだけ齟齬を覚えた。彼の知るディムロスはほんの少しだけ、臆病だったと思う。
だが、カイルはその齟齬を素直に受け止めることができた。それは決して好ましくないものではなかった故に。
『私とてそうだ。自ら選ぶことに耐えきれず理に流され、最後の最後で自らを尽くして決めることを放棄した。
 その私の弱さの結果が、今私の目の前で結実している』
カイルは前を向く。飛ぶことに疲れたのか、遠くに小さく立つ少年は大地にてこちらを向いている。
そして、その手にはディムロスが目指すべき欠損が迎撃態勢を整えていた。
その動機は分からなくてもカイルにはその感情は刃を通して理解できる気がしていた。
命に等しき力を削ってまで刃を向けてくるの彼女を一度諦めたのは他ならないディムロスだからだ。
一度は彼女を捨てた。あの時自分に考えうるもっとも正しい判断に基づいて。
『あそこでリアラ達を見捨てた。その是非は結果論として、あの局面ではあれが最適だった。
 情報もなく戦略の立てられない状況で無闇に血を流すより、来るべきときの戦略に使える戦力を出来る限り温存すべきだった。
 それは正しかったと今でも思うし、その結果として今彼女に刃を向けられるのは当然のことだと受け止めよう。
 足りなかったのは、私の覚悟だ。その選択を今更悔やんでしまう程度にしか考えを尽くさなかった私の底の浅さが、
 彼女に要らぬ傷を負わせてしまった。それはヒトとして許されないことだ。いや、私が許せぬ』
だからこそ、ディムロスは思う。正しいと思うなら徹底的に見捨てて切り捨てるべきだった。
何かを選ぶということは、選ばれなかった何かから恨まれると言うことに繋がる。千年前にさんざん知り尽くしたことだった。
情だけで選ぶことも、理だけでも選ぶことのできない中途半端だから私は腰抜けなのだろう。
そんな情けない男に、女がそっぽを向くのは全く以て道理以外の何物でもない。
『カイル。過つことを避けられるよう努めるのはいい。
 だが過つことを怖れるな。私のような罪人になるな。人は唯その選択が未来にてどのような結果になろうと、
 考えて考えて考え尽すことしか出来ぬ。決してその選択を過去の後悔とせぬ様、現在を尽くすしかないのだ』



ディムロスの声は、悔悟と女々しさに満ち溢れていた。体内の膿という膿を全て斬り絞るかのように自身を押し潰そうとしている。
「貴方は、どうするんですか……?」
カイルは足りない酸素を取り込むかのように反射的に問うた。俺、お前ではなく自然と嘗て出会った人への話し方になっていた。
自分が持っていない何かを、ディムロスは既に得ている。そういう確信がカイルにはあった。
『私は、ただアトワイトに一言謝れればそれでよかった。
 ミクトランを打ち倒すこと、お前を生きて帰らせること、私たちには為さねばならんことが山ほどある。
 故にそれより先を望むつもりは無かったし、私には資格がない…………そう、思っていたのだがな』
瞬間、カイルは寒気のする熱を覚えた。涼しげな蒼い焔が、実は赤い炎よりも熱いように。
『だがアレを見て気が変わった。あんな痛ましい姿は見ているこちら側が堪えん』
ソーディアンとしてのディムロスでもなく、カイルが千年前にて出会ったディムロス中将でもない、
どす黒い、生臭い、ディムロス=ティンバーという一個の“何か”だった。
『私は奴を、アトワイトを救いたい。例え私のものに帰らなくとも、それが許されようが許されまいとも、だ』
それはカイルが見たことのないディムロスだった。
アトワイトとディムロスが恋人で会ったことはハロルドから聞いて知っている。だからこそディムロスに腰抜けと言ったことがある。
だが、それさえも恥じ入ってしまいたくなる“本性”としか呼べぬそれがディムロスから露出していた。
(ディムロス、貴方はそれが出来ると、思っているんですか。貴方は、貴方は、剣なのに)
『剣が夢を見て何が悪い。資格など無いことなど血の通わぬこの身が一番分かっている。
 だから、私は唯願うよりない―――――――――――カイル、お前にだ』
びくんと、カイルは手だけではなく全身で震えた。
その震えは、剣を通じてディムロスに心を読まれたような気がしたからであり、自分を名指しで指名されたからでもあった。
『手はある。懐まで逝く手も、向こうの戦列を突き崩す手も勘案した。
 それには、私が全力を出さなければ届かん。そして私は、自分で自分の力を引き出す事が出来ん。
 私は、どこまで夢を見ようが願おうがソーディアン、唯の道具でしかないのだ』
それは懇願とも依頼でも無かった。一番近い単語を探せば、その付近に恫喝や恐喝といったものが目立つものだった。
そしてカイルはそれを自身が信じられないほど素直に嚥下した。
ディムロスが、自分を気遣って最大戦速を出していないことを体で理解していたからだ。
『口惜しいが、今までの手合いで明瞭した。私一人では一歩届かぬ。だからお前が私を運んでくれ、彼女の下まで。
 お前が今戦う理由を選べぬならそれでも構わん。唯“私の理由”の為に力を貸してくれ……ッ』
それはディムロスがこの島に降り立ってから初めて口にした“私”だった。
ソロン、リオン、してヴェイグ。たとえ剣がどんな崇高な理想を掲げようと剣として持主は選べない。
武器であるがゆえの達観を抱えたディムロスが、今、初めて全ての戦略的なものを投げうって希った。
カイルにはディムロスの剣についた返り血の全てなど知るはずもない。
だが、それでも、カイルはその願いに、自分にはないものを感じざるを得なかった。



カイルの手の震えが止まる。僅かな漣は残っているが、それでも十分余韻と呼べるものだった。
『カイル…………すまん』
箒が敵へと向けて微速に前進し始めた時、ディムロスが最後の謝罪を吐いた。
これが今生の別れとなるかは別にしても、恐らく会話は出来ぬと知っていたが故に。
ディムロスが行おうとしていることはそれほどのリスクを孕んでおり、カイルを気持半分で引き込んでよい場所ではない。
カイルの心のしこりは、恐らくは時間をかけてゆっくりと解すべきものだ。
だが、ディムロスにはその時間がない。アトワイトがあとどれだけ保つかも分からない現状、
明け透けに言い切ってしまえば“カイルの趣味に付き合ってる暇がない”。
『なにも考えなくていい。お前はただ剣を持ち箒を握りしめて、私の呼吸を合わせることに専心しろ』
「……それだけで、いいの?」
『そうだ、それだけだ。それだけに、耐えてくれ』
ディムロスの言葉は遠回しに、それだけのことでさえ命を失いかねない場所に今から向うことを暗に伝えていた。
持ち主を死に至らしめかねない境地に誘おうとする剣など妖刀魔剣の類いだ。
だが、カイルはそれを受け止めた。肉体にかかる負荷など、この心の痛みほどに増すとはとても思えなかったから。

『来タわね。ミトす、テは出さナイで』
アトワイトが遥か遠くの敵機の運動を感知し、気体として待機させていた兵たちを叩き起す。
「僕の好きにしていいんじゃなかったっけ?」
意地悪く笑みを浮かべるミトスにアトワイトは少しだけバツの悪そうな気配を放った。
「ま、いいよ。お前に任せたのは僕だ。ここで死ぬなら良し。お前の水でかき消える程度の炎だというなら、それまでだしね」
『…………ソウあることを、願ってるわ。前列SAM八発、斉射!!』
見る見るうちに槍兵が並べられていく中で、アトワイトはミトスの意思を確認した。
ミトスは“まだ”絶頂にまで行っていない。あの一合目を経てから、その殺意を押し込めている。
それはきっと自らを試金石と考えているからであると、彼女は考えていた。
逆に言えば“まだ”この戦いを彼女のものと出来る可能性があることを意味している。
(ミトス、貴方には悪いけど、彼らには私の力で帰ってもらう。貴方はそれを嫌がるでしょうけど、その方がきっと貴方のためになる)
ミトスの“補給”を二度見た彼女はそう考えていた。彼に好きにやってしまえばいいとはいったが、
それがアトワイトにとって許容できるかどうかは別問題だ。
最後の最後には恐らくミトスの思い通りになるよりないだろうが、それを最後の最後の最後まで回避しようと願うのも彼女の意志だった。
(軌道計算は終了した。どんなコースで攻めてきても、確実に撃ち落とせる。
 ディムロス、“諦めなさい”。もう、貴方の刃は私には一太刀たりとも届かない)
彼ら彼女らに残された時間の総量から考えればかなり“とっくり”と費やした時間によって彼女の守備は盤石と化していた。
彼らのトップスピードや旋回能力を含めた航行能力はほぼ割れている。
今しがた放った地対空射撃に対しディムロスがいかな回避行動をとろうが、
中距離より繰り出されるAAM交差射撃8発が待ち構える。次のクロスで、98%撃ち落とせると彼女は判断していた。
なのに、彼女の刃に僅かながらの震えがあるのは何故か。
震える心などもう無いはずなのに震えるのはその2%を恐れているからか、それとも。



『自分で考え、自分の意思で、自分の判断で、か。軍人にはそれはあり得ん。規律と法なくば群れは軍と機能せん』
(私はお前を見捨てるべきなのだろうな。お前はそれを望んでいるのだから)
見る間に近づいてくる氷槍を見ながら“暖気”をするディムロスはそう漏らした。
アトワイトの行動を遡れば、それ以外の解釈は無かった。したくはなかった。
一度は、理と情の狭間に彼女を取りこぼしてしまった。ソーディアンとして、ディムロスという人格として。
それを罪と思い彼女に報いようとするならば、ディムロスはカイルなど無視して舳先を村へと向けるべきだった。
それが地上軍前線司令官たるディムロス=ティンバー中将としての考え方であり、それは必要だった。
『だが、今ならば理解もできよう。お前にそういう柵を説いたところで無駄なのだったな』
(だがな、アトワイト。私は守りに来たのではないのだ)
だが、“もう配役は変わってしまった”。参謀からさえも弾き飛ばされた今のディムロスは唯の一兵卒に過ぎない。
(だから私も勝ち取りにきたのだ。アトワイト、お前を取り戻す為に)
熱が熱を揺らす。箒に蓄えられた熱エネルギーが、内部から震動する。
最早この身は唯の突撃兵。而してその役割は―――――――――障害を焼き尽くし、灰と散らし、突撃あるのみ。

『ああ、いい風だ。前線で暴れるにはもってこいの風だ』

刹那、世界が“あつきちから”に爆ぜた。

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