The Moving named 'Battle-Royal'
「あと、これはどっちでも好いんだが……ここに来る前の、ロイドのことを教えてくれないか。
僕は、ここに来てからのあいつしか知らなかったんだ。ロイド以外の人間から見た、こうなる前にいたロイドのことを」
僕は、ここに来てからのあいつしか知らなかったんだ。ロイド以外の人間から見た、こうなる前にいたロイドのことを」
そう言った彼の言葉は、コレットにとってとても酷いものだった。
彼――キールは目の前に、過去を聞きたいその少年の亡骸があることを知っていてその言葉を紡いだのだろうか。
胸から喉、そして頭部が大きく切り裂かれた、なんて程度のレベルではない惨状のそれ。
夕日が浮かび、建物は陰影でひっそりと暗くなり、くっきりとした赤と黒のコントラストが2人の視界を支配する。
風の冷たさなど少しも感じさせないほどの、その光景自体の無慈悲な冷徹さ。
それを前に見据えながら、2人は地に立つ。
人は遺体を目にしたとき、その人に別れを告げなければいけないのだから。
彼――キールは目の前に、過去を聞きたいその少年の亡骸があることを知っていてその言葉を紡いだのだろうか。
胸から喉、そして頭部が大きく切り裂かれた、なんて程度のレベルではない惨状のそれ。
夕日が浮かび、建物は陰影でひっそりと暗くなり、くっきりとした赤と黒のコントラストが2人の視界を支配する。
風の冷たさなど少しも感じさせないほどの、その光景自体の無慈悲な冷徹さ。
それを前に見据えながら、2人は地に立つ。
人は遺体を目にしたとき、その人に別れを告げなければいけないのだから。
1度おぶったキールを降ろし、コレットはもう息もしていないロイドに近付いた。
天使化した時点で心臓も呼吸も止まっているが、それでもロイドはみんな止まってしまった。
直視するに堪えない状況なのを座り込んで見るも、痛みが消えていたからなのか、切り口から覗ける少年の表情はどこか穏やかだ。
動かないロイドの手をそっと握り、改めて大切な人の感触を噛みしめる。
その間に地面に座り込んだキールがセレスティアのケイジを取り出し、独り言を呟くような語調の軽さで詠唱する。
彼女のすぐ傍で発生したロックブレイクは甚だ空気が読めていなかったが、しかしきっと必要な行為なのだ。
柔らかくなった大地はそれなりの大きさの穴を作り出した。人が1人入られるくらいだろう。
物音に気付いてその穴を見ていたコレットは、後ろにいるキールの方へと振り返る。
相変わらずのふてぶてしさが見え隠れする表情だが、それでもコレットは彼に感謝した。
少なくとも自分だけではロイドを弔うことなどできなかった。ロイドをこのままにしておくなど惨すぎる。
それに、こうして埋葬のための墓穴を作り出してくれたこと自体が、彼にとってのロイドへの一種の思いなのだろう。
彼女は握っていたロイドの手を離そうとしたが、そのままぴたりと動かなくなってしまった。
後方のキールが怪訝そうな目で彼女を見つめる。
しばらく沈黙が続いたため、彼は時間と焦りに耐えかねて声をかけた。
「おい、僕たちには時間の猶予がないんだ。埋葬しないなら行くぞ」
とは言うものの、コレットの力を借りなければろくに移動もできないキールだったが、
コレットは後ろに首を動かし、可愛らしい笑みを浮かべて「ごめんなさい」と謝った。
そしてロイドの方へと向き直る直前、目元に手を当てて何かをかき消したのを彼は見た。
コレットは何回も何回も湧き出るそれを、頑張って抑えようとした。
けれども溢れてしまうそれを手で押さえて、彼女はもう1度だけ大切なロイドの手を握った。
天使化した時点で心臓も呼吸も止まっているが、それでもロイドはみんな止まってしまった。
直視するに堪えない状況なのを座り込んで見るも、痛みが消えていたからなのか、切り口から覗ける少年の表情はどこか穏やかだ。
動かないロイドの手をそっと握り、改めて大切な人の感触を噛みしめる。
その間に地面に座り込んだキールがセレスティアのケイジを取り出し、独り言を呟くような語調の軽さで詠唱する。
彼女のすぐ傍で発生したロックブレイクは甚だ空気が読めていなかったが、しかしきっと必要な行為なのだ。
柔らかくなった大地はそれなりの大きさの穴を作り出した。人が1人入られるくらいだろう。
物音に気付いてその穴を見ていたコレットは、後ろにいるキールの方へと振り返る。
相変わらずのふてぶてしさが見え隠れする表情だが、それでもコレットは彼に感謝した。
少なくとも自分だけではロイドを弔うことなどできなかった。ロイドをこのままにしておくなど惨すぎる。
それに、こうして埋葬のための墓穴を作り出してくれたこと自体が、彼にとってのロイドへの一種の思いなのだろう。
彼女は握っていたロイドの手を離そうとしたが、そのままぴたりと動かなくなってしまった。
後方のキールが怪訝そうな目で彼女を見つめる。
しばらく沈黙が続いたため、彼は時間と焦りに耐えかねて声をかけた。
「おい、僕たちには時間の猶予がないんだ。埋葬しないなら行くぞ」
とは言うものの、コレットの力を借りなければろくに移動もできないキールだったが、
コレットは後ろに首を動かし、可愛らしい笑みを浮かべて「ごめんなさい」と謝った。
そしてロイドの方へと向き直る直前、目元に手を当てて何かをかき消したのを彼は見た。
コレットは何回も何回も湧き出るそれを、頑張って抑えようとした。
けれども溢れてしまうそれを手で押さえて、彼女はもう1度だけ大切なロイドの手を握った。
せめてもの形見にと、コレットは彼のポケットから細工に使っていた愛用の工具と、時空剣士の証たるエターナルリングを取り出す。
彼女の胸に飾られた要の紋も、きっとこの細工道具で作っていたのだろう。
そう思うとこれがとても大切なものに思えた。
エターナルリングも、彼女との世界再生の旅の果てに手にした、彼との過程の結実。
共に眠らせてあげてもよかったものだが、少しでも彼のものを近くに置いていきたいと思うのは、自分の心の弱さゆえか。
今でも自分を庇ってくれたロイドに「ありがとう」と言えない。どうしても「ごめんね」という言葉しか出てこない。
自分がもっと身体も心も強ければ、という思いが拭い切れないでいる。
だが、いつかは言える。そして笑ってみせよう。
そのために今は決別が必要なのだ。死んでしまったロイドと――――過去の弱い自分と。
彼女の胸に飾られた要の紋も、きっとこの細工道具で作っていたのだろう。
そう思うとこれがとても大切なものに思えた。
エターナルリングも、彼女との世界再生の旅の果てに手にした、彼との過程の結実。
共に眠らせてあげてもよかったものだが、少しでも彼のものを近くに置いていきたいと思うのは、自分の心の弱さゆえか。
今でも自分を庇ってくれたロイドに「ありがとう」と言えない。どうしても「ごめんね」という言葉しか出てこない。
自分がもっと身体も心も強ければ、という思いが拭い切れないでいる。
だが、いつかは言える。そして笑ってみせよう。
そのために今は決別が必要なのだ。死んでしまったロイドと――――過去の弱い自分と。
2つの形見をしまい込み、コレットはロイドの屍を抱え上げる。
頭がだらりと垂れ下がったお姫様抱っこの状況に、本当なら立場が逆なのにな、と思った。
そのまま歩を踏み出して進み、口を開けている穴にロイドの身体を安置する。
少しだけその姿を見つめ、彼女はキールの方へと向く。
彼女の様子を遠目でみるように眺めていた彼は、「いいのか?」と少し遠慮がちに尋ねた。
両手ですくうように持っている二つの遺品を彼は一瞥したが、どうにも興味なさそうに目を逸らす。
クレスを見逃したから指輪には興味がないだろうことはコレットにもなんとなく分かっていた。
だけど、彼は首輪を外すことができるかもしれない鍵さえも関心を示さなかった。
キールが怪訝そうに、どちらかというなら不安そうにコレットを見据える。
コレットは頷いた。これ以上の躊躇する間を挟まぬように。
その反応を受けて、キールは今1度ケイジを取り出して地系晶霊術を唱えた。
この人は良く分からないし、少し怖いけど、それだけじゃないと彼女には思えた。
頭がだらりと垂れ下がったお姫様抱っこの状況に、本当なら立場が逆なのにな、と思った。
そのまま歩を踏み出して進み、口を開けている穴にロイドの身体を安置する。
少しだけその姿を見つめ、彼女はキールの方へと向く。
彼女の様子を遠目でみるように眺めていた彼は、「いいのか?」と少し遠慮がちに尋ねた。
両手ですくうように持っている二つの遺品を彼は一瞥したが、どうにも興味なさそうに目を逸らす。
クレスを見逃したから指輪には興味がないだろうことはコレットにもなんとなく分かっていた。
だけど、彼は首輪を外すことができるかもしれない鍵さえも関心を示さなかった。
キールが怪訝そうに、どちらかというなら不安そうにコレットを見据える。
コレットは頷いた。これ以上の躊躇する間を挟まぬように。
その反応を受けて、キールは今1度ケイジを取り出して地系晶霊術を唱えた。
この人は良く分からないし、少し怖いけど、それだけじゃないと彼女には思えた。
彼の顔が土くれに埋まっていく。
飽きるほどに見慣れた赤い服が見えなくなっていく。
別れの時が刻一刻と近付き、寂しさと悲しみと強さだけが降り積もっていく。
工具と指輪をぎゅっと握り締めた両手を胸元へと当て、コレットは「だいじょぶだよ」と呟いた。
飽きるほどに見慣れた赤い服が見えなくなっていく。
別れの時が刻一刻と近付き、寂しさと悲しみと強さだけが降り積もっていく。
工具と指輪をぎゅっと握り締めた両手を胸元へと当て、コレットは「だいじょぶだよ」と呟いた。
そうして、ロイドは姿を網膜に残し、目の前から消えた。
□
女子に背負われるという情けなくもある意味では男子の本懐を果たしているキールは、
中央広場に向かうまでの間じっとコレットの話を聞いていた。
彼女がこの島に来てから辿った道筋、出会った人々、遭遇した出来事。
少なくとも、彼女の話は彼の情報を補完する上ではかなりの重要度を占めていた。
正気であった頃のクレスに、第1次放送をまたいで戦ったティトレイ。襲いかかってきたマグニスやバルバトス。
何よりもあのE2の城の崩壊を招いたのは、間接的ではあるが彼女だったのだ。
そこで出会ったリアラに、既に死者となっていたクラトス。リアラから聞いた島での経緯と元の世界の情報。
城跡に集まってきたスタンやカイル、ミトス。
情報に齟齬はない。図面に欠けていたピースが少しだけ嵌まる。
可能であるのならまた1人話を聞き出したい奴ができてしまった。
その力自体の情報は、全容は把握できずともヴェイグから聞いている。
何故力を暴走させたのか、何よりも“放送の前に力を暴走させるほど精神不安定に追い込んだものは何なのか”。
中央広場に向かうまでの間じっとコレットの話を聞いていた。
彼女がこの島に来てから辿った道筋、出会った人々、遭遇した出来事。
少なくとも、彼女の話は彼の情報を補完する上ではかなりの重要度を占めていた。
正気であった頃のクレスに、第1次放送をまたいで戦ったティトレイ。襲いかかってきたマグニスやバルバトス。
何よりもあのE2の城の崩壊を招いたのは、間接的ではあるが彼女だったのだ。
そこで出会ったリアラに、既に死者となっていたクラトス。リアラから聞いた島での経緯と元の世界の情報。
城跡に集まってきたスタンやカイル、ミトス。
情報に齟齬はない。図面に欠けていたピースが少しだけ嵌まる。
可能であるのならまた1人話を聞き出したい奴ができてしまった。
その力自体の情報は、全容は把握できずともヴェイグから聞いている。
何故力を暴走させたのか、何よりも“放送の前に力を暴走させるほど精神不安定に追い込んだものは何なのか”。
とはいえ、前記の問いは意外とすんなり答えることができる。
「状況から考えて、真っ先に疑うのはサレだな」
ふぇ、とコレットは頓狂な声を上げた。予想外の人物が捜査線上に挙がったからだった。
現に、彼女は知らないがキールは直前までサレのことを情報上での「対主催」として扱っていた。
「暴走するティトレイのそばには負傷した誰かがいたんだろう?
後のお前の話やティトレイ本人が言っていたことから検定するに、恐らく藤林しいなだろうが。
ティトレイの言葉も気になるが、これも後々のことを考えれば推測はできる。
それに奴は殺したではなく『見殺しにした』と言っていたし。
となると、その事件の場により近くにいたのはサレということになる」
「でも、サレさんはいい人です。
私を庇ってくれたし、怪我をした私のために治療道具や治癒術を使える人を探しに行ってくれた。
だから城跡にはリアラやクラトスさんがいたし、サレさんもいたんだよ」
「そうか? 僕はヴェイグから、サレは元の世界では敵だったと聞いていたが。それも人の不幸を楽しむタイプの。
ティトレイと藤林しいなを襲った何かは二人のうち“あえて藤林しいなを選んだ”。いかにも戦えそうなティトレイを後に回して。
もし2人を全く知らない犯人であれば、なぜ先に女を狙ったのか。ティトレイをその後狙わなかったのか。
この“何か”はティトレイが暴走することを知っていたのではないか。
これを踏まえれば、あのティトレイの事件さえ、サレがお前たちを陥れるために仕組んだことと思えないか?
リアラとクラトスが城跡の事件に巻き込まれたのは奴の罠とは思えないか?
もっとも、仕組んで何をしたかったのかは分からないし、そいつも死んでるけどな」
口をつぐんでしまうコレットだったが、それでも否定的な剣幕は顔に表れていた。
背負われ後ろから見ることはできなくとも、無口であることでそれを感じ取ったキールは一言、
「おめでたい奴め」
とだけ呟いた。
今度こそぶん投げられるなり殺されるなりされるだろうと思っていたが、黙々と目的地に向かって歩く彼女に、
彼は満足げににやついた。
「状況から考えて、真っ先に疑うのはサレだな」
ふぇ、とコレットは頓狂な声を上げた。予想外の人物が捜査線上に挙がったからだった。
現に、彼女は知らないがキールは直前までサレのことを情報上での「対主催」として扱っていた。
「暴走するティトレイのそばには負傷した誰かがいたんだろう?
後のお前の話やティトレイ本人が言っていたことから検定するに、恐らく藤林しいなだろうが。
ティトレイの言葉も気になるが、これも後々のことを考えれば推測はできる。
それに奴は殺したではなく『見殺しにした』と言っていたし。
となると、その事件の場により近くにいたのはサレということになる」
「でも、サレさんはいい人です。
私を庇ってくれたし、怪我をした私のために治療道具や治癒術を使える人を探しに行ってくれた。
だから城跡にはリアラやクラトスさんがいたし、サレさんもいたんだよ」
「そうか? 僕はヴェイグから、サレは元の世界では敵だったと聞いていたが。それも人の不幸を楽しむタイプの。
ティトレイと藤林しいなを襲った何かは二人のうち“あえて藤林しいなを選んだ”。いかにも戦えそうなティトレイを後に回して。
もし2人を全く知らない犯人であれば、なぜ先に女を狙ったのか。ティトレイをその後狙わなかったのか。
この“何か”はティトレイが暴走することを知っていたのではないか。
これを踏まえれば、あのティトレイの事件さえ、サレがお前たちを陥れるために仕組んだことと思えないか?
リアラとクラトスが城跡の事件に巻き込まれたのは奴の罠とは思えないか?
もっとも、仕組んで何をしたかったのかは分からないし、そいつも死んでるけどな」
口をつぐんでしまうコレットだったが、それでも否定的な剣幕は顔に表れていた。
背負われ後ろから見ることはできなくとも、無口であることでそれを感じ取ったキールは一言、
「おめでたい奴め」
とだけ呟いた。
今度こそぶん投げられるなり殺されるなりされるだろうと思っていたが、黙々と目的地に向かって歩く彼女に、
彼は満足げににやついた。
しばらく沈黙が続いていたが、コレットは空気を変えようとしたのかロイドのことを喋り始めた。
初めはぶすっとしたまま可愛げもなく話していたが、段々と声の調子が楽しそうなものになっていくのが、
手に取るまでもなく彼も分かることができた。
それでね、それでねと今日あった面白い出来事を語るかのように、コレットの語りは喜々としていて、鮮度があった。
キールはへえ、ふうんと相槌を打つだけで、ただコレットの言葉を耳に入れていた。
そうして彼は理解する。
コレットがロイドのことを話し出したのは空気を変えるためではなく、自身のいきり立つ心を抑えるためだったのだ。
クルシスなる敵――厳密には反旗を翻そうとしていた奴みたいだけど――にさらわれ、
ロイドが助けに来てくれたことを話すときなど、どこか言葉尻が湿ってさえいた。
ロイドのことを考えると自然と嬉しい気持ちになる。心が溢れてくる。
コレットにとってあいつはそんな存在なのだ。本当に頭のおめでたい奴め、とキールは心中で罵る。
初めはぶすっとしたまま可愛げもなく話していたが、段々と声の調子が楽しそうなものになっていくのが、
手に取るまでもなく彼も分かることができた。
それでね、それでねと今日あった面白い出来事を語るかのように、コレットの語りは喜々としていて、鮮度があった。
キールはへえ、ふうんと相槌を打つだけで、ただコレットの言葉を耳に入れていた。
そうして彼は理解する。
コレットがロイドのことを話し出したのは空気を変えるためではなく、自身のいきり立つ心を抑えるためだったのだ。
クルシスなる敵――厳密には反旗を翻そうとしていた奴みたいだけど――にさらわれ、
ロイドが助けに来てくれたことを話すときなど、どこか言葉尻が湿ってさえいた。
ロイドのことを考えると自然と嬉しい気持ちになる。心が溢れてくる。
コレットにとってあいつはそんな存在なのだ。本当に頭のおめでたい奴め、とキールは心中で罵る。
――――人のこと言えた義理じゃないよなァ。
彼だって、メルディのことを考えただけでいざとなればクレスを殺せるほどだ。
メルディのエールは万病の霊薬・エリクシールの効力さえ上回る。ついでに言えば最高の媚薬である。
メルディのエールは万病の霊薬・エリクシールの効力さえ上回る。ついでに言えば最高の媚薬である。
コレットにとってロイドがそうであったように、旅を共にした他の仲間にとってもそうであったらしい。
何がしかの傷や痛みを抱える仲間たちを、ロイドの前向きさが少しずつ変えていった。
ロイドはどうやら自分の意識していないところで全能だったようだ。
他人のベクトルを変える力を持っていたし、故に自分のベクトルを曲げる必要がなかった。
自分が望むようにやっていれば人を、そしてそのうち世界を変えられる。
正に世界に愛された奇跡の申し子。世界の中心に据えられた、真の温室育ち。
それも当然か。時空剣士はその力で歴史や世界そのものさえねじ曲げられるのだから、それくらい傲慢でなければ力を担う重圧と釣り合わない。
巻き込まれる側のことをまるで考えていない。
そんなロイドが、この村に来て真っ先に死んだ。
世界を変えるどころか、自分の大切なもの1つだけ守り抜いて死にやがった。
ロイドにも変えられないほどこの世界が牢固だったから、という訳ではない。
自分から全能を捨てて、ベクトルを“変えられる側”になったのだ。
例え全能であろうと神とかそういうものではなく、ただの人間だったから。
だから1つしか救えなかった。1つしか救わなかった。
だが、その様がキールには普遍的でありながらとても特別なものに見えたのだった。
何がしかの傷や痛みを抱える仲間たちを、ロイドの前向きさが少しずつ変えていった。
ロイドはどうやら自分の意識していないところで全能だったようだ。
他人のベクトルを変える力を持っていたし、故に自分のベクトルを曲げる必要がなかった。
自分が望むようにやっていれば人を、そしてそのうち世界を変えられる。
正に世界に愛された奇跡の申し子。世界の中心に据えられた、真の温室育ち。
それも当然か。時空剣士はその力で歴史や世界そのものさえねじ曲げられるのだから、それくらい傲慢でなければ力を担う重圧と釣り合わない。
巻き込まれる側のことをまるで考えていない。
そんなロイドが、この村に来て真っ先に死んだ。
世界を変えるどころか、自分の大切なもの1つだけ守り抜いて死にやがった。
ロイドにも変えられないほどこの世界が牢固だったから、という訳ではない。
自分から全能を捨てて、ベクトルを“変えられる側”になったのだ。
例え全能であろうと神とかそういうものではなく、ただの人間だったから。
だから1つしか救えなかった。1つしか救わなかった。
だが、その様がキールには普遍的でありながらとても特別なものに見えたのだった。
ロイドのことを聞きはしたが、それに対するキールの返答は特になかった。
ただ言葉を含み、舌の上で感触を確かめて嚥下する。
この島に来る前のロイドと来た後のロイドはことごとく同じであり、――――だからこそ最期の選択が異化されて浮き上がる。
少なくとも同じ人間である以上、彼はロイドには負けられない。
あの自信に満ちた笑顔を上回らねば、彼はあの脳内天晴れな奴より下になってしまうのだから。
そんなくせに、動かない下半身と女におぶられているという事実が情けない。
ただ言葉を含み、舌の上で感触を確かめて嚥下する。
この島に来る前のロイドと来た後のロイドはことごとく同じであり、――――だからこそ最期の選択が異化されて浮き上がる。
少なくとも同じ人間である以上、彼はロイドには負けられない。
あの自信に満ちた笑顔を上回らねば、彼はあの脳内天晴れな奴より下になってしまうのだから。
そんなくせに、動かない下半身と女におぶられているという事実が情けない。
話をしている内に、目的地である中央広場へと辿り着いた。何とか広場だと分かる程度だった。
ジャッジメントの影響もあって憩いの場は見るも無残に崩れ去っており、瓦礫で溢れ返っていた。
周囲の民家も半壊なり全壊なりしており、とてもじゃないがゆっくり休める場所ではない。
おまけに辺りも暗くなってきたおかげで廃墟特有の不気味さが立ち込めている。
そんな中、「どうぞ座って下さい」と言わんばかりにぽつんと椅子が置いてあった。
横たわらず、暗い場所だがしっかりと安定した場所に置いてあることから、それがグリッドの設置していたものだとキールは考えた。
コレットも同じことを考えたのか、その椅子の方へと近寄っていく。
「30点だな」
キールを椅子に座らせたコレットはその呟きを確かに聞いた。
「普通、椅子と机はセットだろう? それを僕の言葉を正面から受け取って椅子だけ置いて行くなんてどこの馬鹿だ。
これでマイナス50点。その気配りのなさでマイナス10点。ついでに椅子の立てつけが悪いのでマイナス10点」
キールはじろりとコレットを見た。そして何もない自分の前方を指で2回指し示す。
目は口ほどにものを言うというが、あまりに不遜かつ無遠慮な目つきに流石の彼女も応じるべきか迷った。
彼女も黙ってキールを見返していると、しばらくして彼が溜息をつき、
「僕は男も女も対等に扱ってるだけだぞ。メルディは特別だけど」
「対等なら、あなたも同じはずだよ」
「……すまないが、机になるものを持って来てくれないか」
と、折れた。彼女は笑ってとてとてと走りながら机を探しに行った。
その間に彼は足元に転がっている飛礫や小石を拾い上げる。
足が動かないので椅子に座ったまま上半身を曲げて拾っているが、正直運動不足の彼にはこれだけでも辛かった。身体が固い。
「ふみゅっ」と遠くから情けない声が聞こえたのでそちらを向くと、
今まさにコレットがバランスを崩して瓦礫に転ぼうとしているところだった。
そうしてどてんと地面に不時着すると、その衝撃で机が転がり出た。思わずキールも椅子から転げ落ちる。
「いたたた……あれ? 机があるよ?」
(何だあれ……数学的に考えて、ちょうどよく転んでちょうどよく机だけが出てくる確率……相当過ぎる)
不思議そうにコレットは現れた机を見ているが、それ以上にキールは信じられないような目でその光景を見ていた。
コレットの神に祝福された幸運はそうそう数値で計れるものではないのである。
結果オーライといった表情で机を持って帰ってきた彼女は、せっかく座らせたのに落ちている彼を見てびっくりした。
ジャッジメントの影響もあって憩いの場は見るも無残に崩れ去っており、瓦礫で溢れ返っていた。
周囲の民家も半壊なり全壊なりしており、とてもじゃないがゆっくり休める場所ではない。
おまけに辺りも暗くなってきたおかげで廃墟特有の不気味さが立ち込めている。
そんな中、「どうぞ座って下さい」と言わんばかりにぽつんと椅子が置いてあった。
横たわらず、暗い場所だがしっかりと安定した場所に置いてあることから、それがグリッドの設置していたものだとキールは考えた。
コレットも同じことを考えたのか、その椅子の方へと近寄っていく。
「30点だな」
キールを椅子に座らせたコレットはその呟きを確かに聞いた。
「普通、椅子と机はセットだろう? それを僕の言葉を正面から受け取って椅子だけ置いて行くなんてどこの馬鹿だ。
これでマイナス50点。その気配りのなさでマイナス10点。ついでに椅子の立てつけが悪いのでマイナス10点」
キールはじろりとコレットを見た。そして何もない自分の前方を指で2回指し示す。
目は口ほどにものを言うというが、あまりに不遜かつ無遠慮な目つきに流石の彼女も応じるべきか迷った。
彼女も黙ってキールを見返していると、しばらくして彼が溜息をつき、
「僕は男も女も対等に扱ってるだけだぞ。メルディは特別だけど」
「対等なら、あなたも同じはずだよ」
「……すまないが、机になるものを持って来てくれないか」
と、折れた。彼女は笑ってとてとてと走りながら机を探しに行った。
その間に彼は足元に転がっている飛礫や小石を拾い上げる。
足が動かないので椅子に座ったまま上半身を曲げて拾っているが、正直運動不足の彼にはこれだけでも辛かった。身体が固い。
「ふみゅっ」と遠くから情けない声が聞こえたのでそちらを向くと、
今まさにコレットがバランスを崩して瓦礫に転ぼうとしているところだった。
そうしてどてんと地面に不時着すると、その衝撃で机が転がり出た。思わずキールも椅子から転げ落ちる。
「いたたた……あれ? 机があるよ?」
(何だあれ……数学的に考えて、ちょうどよく転んでちょうどよく机だけが出てくる確率……相当過ぎる)
不思議そうにコレットは現れた机を見ているが、それ以上にキールは信じられないような目でその光景を見ていた。
コレットの神に祝福された幸運はそうそう数値で計れるものではないのである。
結果オーライといった表情で机を持って帰ってきた彼女は、せっかく座らせたのに落ちている彼を見てびっくりした。
仕方なくもう1度座らせると、彼はおもむろに机に石を置き始めた。
「何してるんですか?」
「別に。グリッドが戻ってくるまでの暇つぶしさ。することもないんだから何をするのも勝手だ」
何の法則もなく、様々な位置に小石が置かれていく様子をコレットは見つめる。キールもただ黙々と石を置いていく。
相当な数があるが、そのうちの幾つかは横に避けられている。
たまに石を動かし、何個かの石を取り除く。そして、机の上に砂を一定の箇所に振りかける。
そしてまた石を動かしては取り除き……その繰り返しだ。
声も発せず、コレットは黙ってじっとその様子を見つめている。
右手側にあった幾つかの石が、一気に左側へと移動する。左上のある箇所に、様々な場所から石が十何個も集まる。
そして再び、中央付近に振られる砂。
それが、コレットは“自分が指で地図を貫いた感触と似ている”ことに気付く。
「……あ、もしかして……」
「時間潰しには最高の棋譜だよ」
「何してるんですか?」
「別に。グリッドが戻ってくるまでの暇つぶしさ。することもないんだから何をするのも勝手だ」
何の法則もなく、様々な位置に小石が置かれていく様子をコレットは見つめる。キールもただ黙々と石を置いていく。
相当な数があるが、そのうちの幾つかは横に避けられている。
たまに石を動かし、何個かの石を取り除く。そして、机の上に砂を一定の箇所に振りかける。
そしてまた石を動かしては取り除き……その繰り返しだ。
声も発せず、コレットは黙ってじっとその様子を見つめている。
右手側にあった幾つかの石が、一気に左側へと移動する。左上のある箇所に、様々な場所から石が十何個も集まる。
そして再び、中央付近に振られる砂。
それが、コレットは“自分が指で地図を貫いた感触と似ている”ことに気付く。
「……あ、もしかして……」
「時間潰しには最高の棋譜だよ」
小石はキールが知る限りの参加者。除かれたものは脱落者であり、ひいてはキールが情報を持ち得ない者。
主に中央付近に走る砂は禁止エリア。彼が最後の砂を掴み落とすと、中央には見事な砂の断線が走っていた。
主に中央付近に走る砂は禁止エリア。彼が最後の砂を掴み落とすと、中央には見事な砂の断線が走っていた。
「何か、見落としていることはないかと思って振り返っていた」
「でも、もう手がかりとかは」
「ああ。洞窟半落、E2陥落、C3陥落、G5炎上、B2封鎖。どうしようもない。
北東の城は話を聞く限り残ってそうだが、ここももう普通には行けない」
キールは指を右側に持っていこうと動かしたが、砂の線に阻まれて止まった。
彼は視線を机の中心――地図でいうD5の山へと向ける。
(行く必要があるとすればここだが、もう無理だな。
封鎖線が完成し、エターナルソードを持たない以上はミクトランの囲いは完壁。
クレスやミトスが協力してくれるなんてのは天文学的確率だし、もしそうなってもミクトランは確実に手を出してくる。
僕たちの首輪はともかく、時空剣士は確実。出会いがしらに潰しに来ないとも限らない。
リヴァヴィウサーだって頭が飛ばされちゃ何の意味もない。
情勢はミクトラン側の圧倒的有利。負けは最早無いと言って差し支えない――――不自然すぎるほどに)
「でも、もう手がかりとかは」
「ああ。洞窟半落、E2陥落、C3陥落、G5炎上、B2封鎖。どうしようもない。
北東の城は話を聞く限り残ってそうだが、ここももう普通には行けない」
キールは指を右側に持っていこうと動かしたが、砂の線に阻まれて止まった。
彼は視線を机の中心――地図でいうD5の山へと向ける。
(行く必要があるとすればここだが、もう無理だな。
封鎖線が完成し、エターナルソードを持たない以上はミクトランの囲いは完壁。
クレスやミトスが協力してくれるなんてのは天文学的確率だし、もしそうなってもミクトランは確実に手を出してくる。
僕たちの首輪はともかく、時空剣士は確実。出会いがしらに潰しに来ないとも限らない。
リヴァヴィウサーだって頭が飛ばされちゃ何の意味もない。
情勢はミクトラン側の圧倒的有利。負けは最早無いと言って差し支えない――――不自然すぎるほどに)
現在の情勢となった盤面を眺めながら、キールは考える。ミクトランは何故こんなにも完璧な封鎖ができたのか。
(ミクトランに負けの目が無さ過ぎる。僕たちの浮き足を掠め取っただけではとてもこうはならない。何かおかしくないか? )
今まで、“自分たちが西に集まったことを首輪から察知したから幸いと封鎖した”と考えていたが、これでは道理が立たない。
第4放送で完全に詰める前から、既に仕込みがあったからこそ可能なこの断線。
第3時点で東西のアクセスポイントはD5を通るかC4の橋を渡るか、南の橋しかない。
もし東西に人が別れたら、33%の確率で山を経由することになる。
第4放送時点での生存者は15人。その内5人が山に来れば、山の施設に気づく奴もいるだろう。
思いつきで気軽かつ突発的にできる断線ではない。
これは、状況を見て封鎖に踏み切ったというより“山までのプロセスを封鎖するから、参加者を西に集めた”と見るべきなのではないか?
しかも、速くて第2放送、遅くとも第3放送の時点で仕込みを始めている。
早々にD5を封鎖しては中央のルートが消滅し、東西のアクセスの利が減少する。
だからこそじわじわと、端から中央へ向かうようにと設定する。
東西分断に必要な禁止エリアは最低で8つ。放送2回分に相当するが、流石に2回分で中央封鎖に踏み込んでは露骨が過ぎる。
それこそ中央に何かあるのではないかという仮定を臭わせてしまう。
片方にあらかじめ人が集まるようにしておけば、山岳に設置されている装置が露見する可能性は下がる。
(ミクトランに負けの目が無さ過ぎる。僕たちの浮き足を掠め取っただけではとてもこうはならない。何かおかしくないか? )
今まで、“自分たちが西に集まったことを首輪から察知したから幸いと封鎖した”と考えていたが、これでは道理が立たない。
第4放送で完全に詰める前から、既に仕込みがあったからこそ可能なこの断線。
第3時点で東西のアクセスポイントはD5を通るかC4の橋を渡るか、南の橋しかない。
もし東西に人が別れたら、33%の確率で山を経由することになる。
第4放送時点での生存者は15人。その内5人が山に来れば、山の施設に気づく奴もいるだろう。
思いつきで気軽かつ突発的にできる断線ではない。
これは、状況を見て封鎖に踏み切ったというより“山までのプロセスを封鎖するから、参加者を西に集めた”と見るべきなのではないか?
しかも、速くて第2放送、遅くとも第3放送の時点で仕込みを始めている。
早々にD5を封鎖しては中央のルートが消滅し、東西のアクセスの利が減少する。
だからこそじわじわと、端から中央へ向かうようにと設定する。
東西分断に必要な禁止エリアは最低で8つ。放送2回分に相当するが、流石に2回分で中央封鎖に踏み込んでは露骨が過ぎる。
それこそ中央に何かあるのではないかという仮定を臭わせてしまう。
片方にあらかじめ人が集まるようにしておけば、山岳に設置されている装置が露見する可能性は下がる。
「あの、さっき右上の方に集まってた石って……」
「ん、ああ。B7……マーテルたちだな。ファラの放送に反応して村に向かったんだ」
「そっか、マーテルさん……ああ、やっぱり」
明らかに含みのある言い方に、キールは目尻を鋭くして彼女を無言で問い詰める。
思ってもいなかった反応に彼女はあたふたと手を振った。
「マーテルさんなら、あんな放送があったら迷わず向かっていただろうなって。だから、やっぱりそうだったんだと思って」
その言葉でキールの脳内がすっと冷え切った。
「ん、ああ。B7……マーテルたちだな。ファラの放送に反応して村に向かったんだ」
「そっか、マーテルさん……ああ、やっぱり」
明らかに含みのある言い方に、キールは目尻を鋭くして彼女を無言で問い詰める。
思ってもいなかった反応に彼女はあたふたと手を振った。
「マーテルさんなら、あんな放送があったら迷わず向かっていただろうなって。だから、やっぱりそうだったんだと思って」
その言葉でキールの脳内がすっと冷え切った。
第2放送のしばらく後、ファラは決死の覚悟で島中に不戦を呼びかけた。
そして彼女の意志に賛同するかのようにC3の村には参加者の一部が集結した。
そこで組まれた円陣も、一時の団結も、あっという間に崩壊した結束も覚えている。
マーテルたちを含め、参加者が西に集まったのはファラの放送に呼び寄せられたから。当然のように分かる論理だ。
だから考えるのはそんな問題ではない。これは表面的なものであり、単に断片の1つでしかない。
既知の未知化。事象は分かれば分かるほど謎が現れ、新たな観点で見ていく必要がある。
そして彼女の意志に賛同するかのようにC3の村には参加者の一部が集結した。
そこで組まれた円陣も、一時の団結も、あっという間に崩壊した結束も覚えている。
マーテルたちを含め、参加者が西に集まったのはファラの放送に呼び寄せられたから。当然のように分かる論理だ。
だから考えるのはそんな問題ではない。これは表面的なものであり、単に断片の1つでしかない。
既知の未知化。事象は分かれば分かるほど謎が現れ、新たな観点で見ていく必要がある。
ここまでの展開が――――1つの意図の下に組まれていたと“解釈”したら?
「コレット。お前はこのバトルロワイアルについてどう思う?」
「え?」
「じゃあ、最初に巻き込まれたとき、どんなことを考えた?」
「え、ええっと……やっぱり、ひどいことだと思いました。
だからロイドたちと合流して、この戦いを終わらせる方法を考えようと思ったんです。
ミクトランの中にもきっと良心っていう神様がいると思ったから。話し合えばきっと分かりあえる、って」
聞けば聞くほど楽天的にも程があると思ったが、それはこの際置いておく。
重要なのは、参加者――巻き込まれた者たちにとってまずバトルロワイアルというものをどう捉えるのか、ということである。
「なら、最初に会ったサレはどうだったと考える?」
「……サレさんは、ロイドたちを探すのを手伝ってくれるって言ってくれました。
でも、しいなを襲ったのがサレさんだっていう、あなたの言葉を信じるなら……サレさんは、私やクレスさんを不幸に遭わせようとしていた」
コレットとサレは共に行動していた。だが、その根幹にあるバトルロワイアルの意味――ひいては勝利条件は全くの正反対だ。
別にこの2人だけに言えることではない。
コングマンやマグニスのように「バトルロイヤル」と捉えるなら、勝利条件は最後の一人まで生き残ることであり、
その手段は他者の殺害になる。
ロイドたちのように「主催者の凄惨な行為」と捉えるなら、勝利条件はミクトランの打倒であり、
その手段は首輪の解除およびこの箱庭からの脱出となる。
単純に生き残りたい奴、一度は死んだ身として願いを叶えたいやつ、単純に惨劇が見たい奴、
それぞれによって勝利条件とそこに至る手段は異なる。
バトルロワイアルは1つしかないのに、まるで万華鏡のように映される絵は増える。
「え?」
「じゃあ、最初に巻き込まれたとき、どんなことを考えた?」
「え、ええっと……やっぱり、ひどいことだと思いました。
だからロイドたちと合流して、この戦いを終わらせる方法を考えようと思ったんです。
ミクトランの中にもきっと良心っていう神様がいると思ったから。話し合えばきっと分かりあえる、って」
聞けば聞くほど楽天的にも程があると思ったが、それはこの際置いておく。
重要なのは、参加者――巻き込まれた者たちにとってまずバトルロワイアルというものをどう捉えるのか、ということである。
「なら、最初に会ったサレはどうだったと考える?」
「……サレさんは、ロイドたちを探すのを手伝ってくれるって言ってくれました。
でも、しいなを襲ったのがサレさんだっていう、あなたの言葉を信じるなら……サレさんは、私やクレスさんを不幸に遭わせようとしていた」
コレットとサレは共に行動していた。だが、その根幹にあるバトルロワイアルの意味――ひいては勝利条件は全くの正反対だ。
別にこの2人だけに言えることではない。
コングマンやマグニスのように「バトルロイヤル」と捉えるなら、勝利条件は最後の一人まで生き残ることであり、
その手段は他者の殺害になる。
ロイドたちのように「主催者の凄惨な行為」と捉えるなら、勝利条件はミクトランの打倒であり、
その手段は首輪の解除およびこの箱庭からの脱出となる。
単純に生き残りたい奴、一度は死んだ身として願いを叶えたいやつ、単純に惨劇が見たい奴、
それぞれによって勝利条件とそこに至る手段は異なる。
バトルロワイアルは1つしかないのに、まるで万華鏡のように映される絵は増える。
「じゃあ次だ。主催者にとってバトルロワイアルとは何なのか?」
彼の問い掛けにコレットは黙り込んだ。よくよく思えば、ミクトランがロワを開いた理由など考えたこともなかったのである。
だが考えてみたところで圧倒的に情報が少ない。ましてや彼女にとって主催者は別世界の人間なのだ。
ヒントも何もなければ、背景に思い至ることもできない。
「……やっぱり、私たちが苦しんでいるのを見て喜んでいるんでしょうか」
「本当にそうか? 僕にはそうとは思えないが……僕なら、もっと苦しませる」
それはどうかといった面持ちでコレットはキールを見るが、彼にしてみれば至極最もな考え方だった。
彼の問い掛けにコレットは黙り込んだ。よくよく思えば、ミクトランがロワを開いた理由など考えたこともなかったのである。
だが考えてみたところで圧倒的に情報が少ない。ましてや彼女にとって主催者は別世界の人間なのだ。
ヒントも何もなければ、背景に思い至ることもできない。
「……やっぱり、私たちが苦しんでいるのを見て喜んでいるんでしょうか」
「本当にそうか? 僕にはそうとは思えないが……僕なら、もっと苦しませる」
それはどうかといった面持ちでコレットはキールを見るが、彼にしてみれば至極最もな考え方だった。
能動的にバトルロワイアルを引き起こした人間の立ち位置は二つ。目的か、または手段か。
目的であると仮定した場合。即ち『バトルロワイアルを開催することが目的であった場合』。
その場合、勝利条件は既に開催された時点で――極論すればあのホールから全員が転移した時点で達成されている。
参加者が20%未満にまでなったら、もう爆笑してもいいはずだ。
きっと今頃もがく参加者を見ながら、大口を開けて笑っているのだろう。
しかし、キールは開催自体が目的ではないと踏んでいる。
「脱出のための手がかりがなさすぎる。純粋に絶望とか惨劇とか、そういうものを観賞するためにこのゲームがあるとするなら、
餌代わりの希望を用意してもいいはずなんだ。例えば、首輪を解除する鍵が実は起爆装置だったとか。
いや、餌は魅力的であればあるほど食いつきがいいのだから、本当に手がかりがあってもいい。
なのに、何もない。考えられるとしたらエターナルソードくらいだ。
放送だって重要なのは死亡者と禁止エリアくらいしか言わないし、遊びの要素が全くと言っていいほどない。
ゲームっていうのは目の前に餌をぶら下げて、希望と絶望で揺らぐ波を与えなきゃモチベーションを維持できないものなんだ」
目的であると仮定した場合。即ち『バトルロワイアルを開催することが目的であった場合』。
その場合、勝利条件は既に開催された時点で――極論すればあのホールから全員が転移した時点で達成されている。
参加者が20%未満にまでなったら、もう爆笑してもいいはずだ。
きっと今頃もがく参加者を見ながら、大口を開けて笑っているのだろう。
しかし、キールは開催自体が目的ではないと踏んでいる。
「脱出のための手がかりがなさすぎる。純粋に絶望とか惨劇とか、そういうものを観賞するためにこのゲームがあるとするなら、
餌代わりの希望を用意してもいいはずなんだ。例えば、首輪を解除する鍵が実は起爆装置だったとか。
いや、餌は魅力的であればあるほど食いつきがいいのだから、本当に手がかりがあってもいい。
なのに、何もない。考えられるとしたらエターナルソードくらいだ。
放送だって重要なのは死亡者と禁止エリアくらいしか言わないし、遊びの要素が全くと言っていいほどない。
ゲームっていうのは目の前に餌をぶら下げて、希望と絶望で揺らぐ波を与えなきゃモチベーションを維持できないものなんだ」
これは学習における指導要綱に似ている。
例えば、足し算のできるロイ……学生Lに因数分解を教えるとしよう。
まず足し算をするLに九九を解けと言えば、解けるかどうかは別にしても解く意思は持つだろう。
それが解ければ次は代数計算を経て、そして因数分解へと理解を進めさせるのだ。
一本一本間にチェックポイントを用意することで、バカを一歩一歩導いていく。
だが、Lにいきなり因数分解を解かせようとしたところでそもそも問題を見る気にさえなるかどうか分からない。
地図もコンパスもなしに大海原に放り出されれば、途方にくれるよりないように。
例えば、足し算のできるロイ……学生Lに因数分解を教えるとしよう。
まず足し算をするLに九九を解けと言えば、解けるかどうかは別にしても解く意思は持つだろう。
それが解ければ次は代数計算を経て、そして因数分解へと理解を進めさせるのだ。
一本一本間にチェックポイントを用意することで、バカを一歩一歩導いていく。
だが、Lにいきなり因数分解を解かせようとしたところでそもそも問題を見る気にさえなるかどうか分からない。
地図もコンパスもなしに大海原に放り出されれば、途方にくれるよりないように。
アクセントとしてのヒントくらいはあってもいいものを、この島にはそれがない。
ヒントを設置できるだろう施設も脆い。壊れていいということは、守るほど重要なものがそこにないということだ。
壊れることを予想していたかどうかは別にしても、壊れてもさして問題がなかったということになる。
山の施設だって、実際そんなヒントがあってもいいだろうという仮定から導き出された程度の推論。
本当にあるという物証はないし、開催理由が目的ではないなら、むしろないとも考えられる。
このバトルロワイアルは徹頭徹尾、問題を解かせない=参加者を脱出させまいというベクトルに満ち溢れている。
つまり、ゲーム自体のプロデュースは二の次だ。ミクトランにとってバトルロワイアルは「手段」である。
「それに、バトルロワイアル自体が目的なら参加者はもっと多いだろう、普通」
「じゃあ、ミクトランにとってこれは……何か理由があるの?」
けれどもコレットの言葉に彼は曖昧に呻き、小さく頷くだけだった。
ヒントを設置できるだろう施設も脆い。壊れていいということは、守るほど重要なものがそこにないということだ。
壊れることを予想していたかどうかは別にしても、壊れてもさして問題がなかったということになる。
山の施設だって、実際そんなヒントがあってもいいだろうという仮定から導き出された程度の推論。
本当にあるという物証はないし、開催理由が目的ではないなら、むしろないとも考えられる。
このバトルロワイアルは徹頭徹尾、問題を解かせない=参加者を脱出させまいというベクトルに満ち溢れている。
つまり、ゲーム自体のプロデュースは二の次だ。ミクトランにとってバトルロワイアルは「手段」である。
「それに、バトルロワイアル自体が目的なら参加者はもっと多いだろう、普通」
「じゃあ、ミクトランにとってこれは……何か理由があるの?」
けれどもコレットの言葉に彼は曖昧に呻き、小さく頷くだけだった。
バトルロワイアルが手段であると仮定した場合、ではミクトランにとっての意味――勝利条件は何なのか?
もう達成されている場合。
今なおバトルロワイアルを運営している意味はない。さっさと首輪を爆発させればいい。
今なおバトルロワイアルを運営している意味はない。さっさと首輪を爆発させればいい。
優勝者を出す場合。
しかし参加者の半数以上が初期の時点では対主催であろう人間―――ロイドやジェイ達が言う所のミクトランに抗うであろう仲間達―――である。
優勝者を出したいだけなら、前述の通り安全を期して参加者のほとんどをバルバトスのような奴にしてしまえばいい。
死人さえ呼べる力を持つミクトランが、わざわざ理想主義・平和主義の人間ばかり集めるのは利に合わない。
蟲毒系の儀式によって何か力を得るのが目的だとしても、ここまで参加者に統一性がないと次の段階に行けないだろう。
何より、ここまでのことができる人間が55人程度の規模の儀式で必要なものを得られるのか? 甚だ疑問が残る。
しかし参加者の半数以上が初期の時点では対主催であろう人間―――ロイドやジェイ達が言う所のミクトランに抗うであろう仲間達―――である。
優勝者を出したいだけなら、前述の通り安全を期して参加者のほとんどをバルバトスのような奴にしてしまえばいい。
死人さえ呼べる力を持つミクトランが、わざわざ理想主義・平和主義の人間ばかり集めるのは利に合わない。
蟲毒系の儀式によって何か力を得るのが目的だとしても、ここまで参加者に統一性がないと次の段階に行けないだろう。
何より、ここまでのことができる人間が55人程度の規模の儀式で必要なものを得られるのか? 甚だ疑問が残る。
仮に、脱出させる場合。
これは論外である。ミクトランが中央封鎖線を張ったおかげで詰んでいるのだから。
脱出させることが目的でバトルロワイアルを開いたならミクトランは自滅している。主催側がこんなミステイクを犯す理由はない。
これは論外である。ミクトランが中央封鎖線を張ったおかげで詰んでいるのだから。
脱出させることが目的でバトルロワイアルを開いたならミクトランは自滅している。主催側がこんなミステイクを犯す理由はない。
全滅させたい場合。
これも否。結果だけが欲しいなら、それこそ最初のホールで崩落させるなり毒ガスを出すなりして虐殺すればいい。
わざわざバトルロワイアルなどという面倒な手段を取る必要がないのだ。
これも否。結果だけが欲しいなら、それこそ最初のホールで崩落させるなり毒ガスを出すなりして虐殺すればいい。
わざわざバトルロワイアルなどという面倒な手段を取る必要がないのだ。
バトルロワイアルは囮で、その過程で得られる何かがある場合。
あるいは、複数個の目的を同時に達成しようとしている場合。例えば趣味と実益を兼ねるなどのケース。
ほかに比べればマシではあるが、それでもバトルロワイアルを囮にする理由は薄い。
少なくとも、もっと不確定要素のない手段はあるはずだ。それこそ先述の全滅目的のような。
複数個の目的がある場合も同様だ。力の入れ所が分散し、そこに隙が生まれてしまう。
つまるところ、どの目的もしっくり来ないのはこの不確定さに尽きる。
あるいは、複数個の目的を同時に達成しようとしている場合。例えば趣味と実益を兼ねるなどのケース。
ほかに比べればマシではあるが、それでもバトルロワイアルを囮にする理由は薄い。
少なくとも、もっと不確定要素のない手段はあるはずだ。それこそ先述の全滅目的のような。
複数個の目的がある場合も同様だ。力の入れ所が分散し、そこに隙が生まれてしまう。
つまるところ、どの目的もしっくり来ないのはこの不確定さに尽きる。
「バトルロワイアルは不確定要素が大きすぎて、1つの目的を得るための手段としてはてんで向いていない。
無理して1つの結果に誘導するくらいなら、その結果に近い位置から始めた方がましだ。
だけど、そこまでするならバトルロワイアルである必要もないというジレンマがある」
無理して1つの結果に誘導するくらいなら、その結果に近い位置から始めた方がましだ。
だけど、そこまでするならバトルロワイアルである必要もないというジレンマがある」
何故バトルロワイアルなのか。
ミクトランほどの知能や技術に長けた人物なら、わざわざこんな手間を取る必要はないという考えにすぐ至るはず。
ならば、手段としての性能が低いバトルロワイアルでなければいけない理由<勝利条件>とは何なのか。
ミクトランほどの知能や技術に長けた人物なら、わざわざこんな手間を取る必要はないという考えにすぐ至るはず。
ならば、手段としての性能が低いバトルロワイアルでなければいけない理由<勝利条件>とは何なのか。
先刻のリオンの考察で、ミクトランが常に自由に干渉できることは首輪を爆破させる“のみ”という直接的手段しかなく、
かつこのゲームは有限回であり、主催もまたその全てを操れるわけではないと証明した。
ミクトランは間接的にしか手を出せず、行動範囲は限られている。ミクトランもまた何らかのルールに縛られる駒の1つである、と。
そして、メルディがなぜネレイドの手に落ちああなったのかということを考え、この論理を広げると、
ミクトランはこのバトルロワイアルにおいて6つのルールを持っているということになる。
かつこのゲームは有限回であり、主催もまたその全てを操れるわけではないと証明した。
ミクトランは間接的にしか手を出せず、行動範囲は限られている。ミクトランもまた何らかのルールに縛られる駒の1つである、と。
そして、メルディがなぜネレイドの手に落ちああなったのかということを考え、この論理を広げると、
ミクトランはこのバトルロワイアルにおいて6つのルールを持っているということになる。
“ミクトラン――王は首輪によって駒の有無=参加者の生死に影響を与えられる”
“王は禁止エリアの指定権利によって、駒の移動に影響を与えられる”
“王は放送の内容によって、参加者の行動に影響を与えられる”
“王は禁止エリアの指定権利によって、駒の移動に影響を与えられる”
“王は放送の内容によって、参加者の行動に影響を与えられる”
ここまでは確定している事実。云わば主催者として堂々と行使できる「表ルール」とでも言うべきものである。
そして、今キールが疑惑を強めているプレイヤーとして使役できる「裏ルール」が残りの3つ。
そして、今キールが疑惑を強めているプレイヤーとして使役できる「裏ルール」が残りの3つ。
“王は、駒の初期配置をある程度任意に選ぶことができるかもしれない”
“王は、アイテムの初期配置をある程度任意に選ぶことができるかもしれない”
“王は、アイテムの初期配置をある程度任意に選ぶことができるかもしれない”
これはファラの放送によって参加者がこの村に集まったことや、メルディにリヴァヴィウス鉱が支給されていることなどから考えられる。
ただし仮定の域は出ていない。説明できる事象がまだ少ない。
そして、この2つでも説明できない、通常なら考えにくい要素――キールが推測する未だ判明しない直接手。
ただし仮定の域は出ていない。説明できる事象がまだ少ない。
そして、この2つでも説明できない、通常なら考えにくい要素――キールが推測する未だ判明しない直接手。
“王は、まだ何か駒に影響を与えられる攻撃手を持っているかもしれない”
これこそ仮定中の仮定だ。手法も分からないし、実証など何もできない。
だが、わざわざマリアンを爆死させるという下策を経てなおジョーカーとして動くリオンの行動を考えれば、
可能性は低くとも否定することまでは不可能。ミクトランがリオンに手出ししたことも有り得る。
だが、わざわざマリアンを爆死させるという下策を経てなおジョーカーとして動くリオンの行動を考えれば、
可能性は低くとも否定することまでは不可能。ミクトランがリオンに手出ししたことも有り得る。
ミクトランをこの惨劇を俯瞰・観戦する主催者としてではなく、積極的に自分の権利を行使する存在と仮定し、
今のこの主催の敗北がありえない状況が、ミクトランの勝利条件を満たす為の駒の動かし方の結果だとすれば。
これを仮定し状況を並べなおせば、そこからミクトランの勝利条件を逆算できるのではないか。
そう考えた上で、キールは嘆息した。
(だけど、時間もないし情報も足りていない。不確定要素も多すぎる。
バトルロワイアルである理由があるはずなのに、やはりどうしても実行するには不安要素が強すぎる。
グリッドたちが戻ってきたとき、更に情報が入ればいいんだが)
今のこの主催の敗北がありえない状況が、ミクトランの勝利条件を満たす為の駒の動かし方の結果だとすれば。
これを仮定し状況を並べなおせば、そこからミクトランの勝利条件を逆算できるのではないか。
そう考えた上で、キールは嘆息した。
(だけど、時間もないし情報も足りていない。不確定要素も多すぎる。
バトルロワイアルである理由があるはずなのに、やはりどうしても実行するには不安要素が強すぎる。
グリッドたちが戻ってきたとき、更に情報が入ればいいんだが)
この島はチェスボードだ。自分たちも、ミクトランさえも駒の1つであり、2つの勢力に分かれて戦っている。
それはマーダー対脱出派といった易しい構図ではない。敵――主催者ミクトラン側と、バトルロワイアルに抗う者たち。
2人の王の下、この孤島というボードの上で戦いは繰り広げられている。
とりあえず、もう1人の王はグリッドにでもしておこうとキールは決めた。
気は乗らないが、奴が死ねば団結は脆いものにも消え去っていくものにもなるだろう、と思ったからだ。
それくらいには彼もグリッドを評価している。
奴が大勢の中で、あの鬱屈を吹き飛ばして堂々と叫んだ様も、発した言葉も、否定する側のトップにするには相応しいだろう。
まあ、代表というか代理だけど。彼は内心いじわるにほくそ笑んだ。
それはマーダー対脱出派といった易しい構図ではない。敵――主催者ミクトラン側と、バトルロワイアルに抗う者たち。
2人の王の下、この孤島というボードの上で戦いは繰り広げられている。
とりあえず、もう1人の王はグリッドにでもしておこうとキールは決めた。
気は乗らないが、奴が死ねば団結は脆いものにも消え去っていくものにもなるだろう、と思ったからだ。
それくらいには彼もグリッドを評価している。
奴が大勢の中で、あの鬱屈を吹き飛ばして堂々と叫んだ様も、発した言葉も、否定する側のトップにするには相応しいだろう。
まあ、代表というか代理だけど。彼は内心いじわるにほくそ笑んだ。
ミクトランもグリッドの側も、共に勝利条件を持っている。そうでなければそもそも争う理由がないのだから当然である。
そして勝利条件があるとすれば、それは逆に敗北条件の存在を暗に仄めかしている。
グリッド側の敗北条件は全員が死ぬなり何なりあるが、平たく大まかに言えば“全員がバトルロワイアルに屈する”ことだろう。
しかしミクトランの勝利条件は、先述した不確定要素も相まって「これだ」と断定することはできない。敗北条件も同様だ。
脱出してほしいのか優勝してほしいのか、この二極の結末のどちらも考え得る状況ではどう動いていいのかも分からない。
それ以外の他の結末も想定できるのだから更に致し方ない。
ゲームというのは大抵ルールが定められ、それに基づいて勝利条件が決められる。
単純に支給されたルールブックに載っているルールに乗っ取れば、優勝することがバトルロワイアルの参加者としての勝利条件なのだろう。
だが、先程のミクトランの6つのルールは別物。同じ駒でありながらミクトランの勝利条件は参加者とは違う。
それを踏まえて考えれば、ルールが定まってさえいないのだから、どうすれば主催にとって勝ちなのか分かるはずがない。
ならば、こちら側はミクトランが勝利条件を満たす前に、こちらの勝利条件を満たすしかない。
“バトルロワイアルから脱出し、ひいては主催者を打倒する”という明確な目標があるのだから、それに向けて動くしかない。
そして勝利条件があるとすれば、それは逆に敗北条件の存在を暗に仄めかしている。
グリッド側の敗北条件は全員が死ぬなり何なりあるが、平たく大まかに言えば“全員がバトルロワイアルに屈する”ことだろう。
しかしミクトランの勝利条件は、先述した不確定要素も相まって「これだ」と断定することはできない。敗北条件も同様だ。
脱出してほしいのか優勝してほしいのか、この二極の結末のどちらも考え得る状況ではどう動いていいのかも分からない。
それ以外の他の結末も想定できるのだから更に致し方ない。
ゲームというのは大抵ルールが定められ、それに基づいて勝利条件が決められる。
単純に支給されたルールブックに載っているルールに乗っ取れば、優勝することがバトルロワイアルの参加者としての勝利条件なのだろう。
だが、先程のミクトランの6つのルールは別物。同じ駒でありながらミクトランの勝利条件は参加者とは違う。
それを踏まえて考えれば、ルールが定まってさえいないのだから、どうすれば主催にとって勝ちなのか分かるはずがない。
ならば、こちら側はミクトランが勝利条件を満たす前に、こちらの勝利条件を満たすしかない。
“バトルロワイアルから脱出し、ひいては主催者を打倒する”という明確な目標があるのだから、それに向けて動くしかない。
だが攻撃しか出来ない参加者達の指針を踏まえた視点で考えれば、一連の流れにはミクトランの悪意が伺える。
ミクトランが6つのルールと、それによって動く駒を用いて守りを固めてきたという解釈だ。
初めは表ルールを使い参加者を牽制し、裏ルールを用いて参加者を攻撃する。
会場に放り出された右も左も分からない参加者にとって、支給品と現在位置は数少ない“絶対情報”だ。
その二つを調整することができるのなら、少なくともファラの放送は“仕組むことができた”シナリオだと読める。
キールにとってそれがミクトランの手で行なわれたかどうかは重要ではない。
この展開が“ミクトランにとって都合のいい展開であるかどうか”が重要なのだ。
既に都合の悪い展開に対して干渉が行なわれた実例がある故に。
(仕組んだかどうかは分からないが、そこに至る過程には幾つかの裏ルールの匂いが伺える)
来る人間までは完全に決めつけることはできないが、“来るだろう”人間を決めることは不可能ではない。
そしてファラがC3の村の近くに置かれたならば、彼女の性格のこと、遠からず拡声器は使われる。
彼女が毒を煽ろうが、煽らまいが関係はない。そうして惨劇の宴は引き起こされるのだ。
そしてその意図が見え始め綻び出す終盤では、再び強力な表ルールを使用して自陣の守りを完成させる。
結果はこの通り。禁止エリアによって片面が封鎖されては全ての情報は掴み切れないと、キールも痛感している。
東側にいた参加者も西側に集まったとは言っても、それでも全ての情報を集めなおすのは不可能だ。
ミクトランが6つのルールと、それによって動く駒を用いて守りを固めてきたという解釈だ。
初めは表ルールを使い参加者を牽制し、裏ルールを用いて参加者を攻撃する。
会場に放り出された右も左も分からない参加者にとって、支給品と現在位置は数少ない“絶対情報”だ。
その二つを調整することができるのなら、少なくともファラの放送は“仕組むことができた”シナリオだと読める。
キールにとってそれがミクトランの手で行なわれたかどうかは重要ではない。
この展開が“ミクトランにとって都合のいい展開であるかどうか”が重要なのだ。
既に都合の悪い展開に対して干渉が行なわれた実例がある故に。
(仕組んだかどうかは分からないが、そこに至る過程には幾つかの裏ルールの匂いが伺える)
来る人間までは完全に決めつけることはできないが、“来るだろう”人間を決めることは不可能ではない。
そしてファラがC3の村の近くに置かれたならば、彼女の性格のこと、遠からず拡声器は使われる。
彼女が毒を煽ろうが、煽らまいが関係はない。そうして惨劇の宴は引き起こされるのだ。
そしてその意図が見え始め綻び出す終盤では、再び強力な表ルールを使用して自陣の守りを完成させる。
結果はこの通り。禁止エリアによって片面が封鎖されては全ての情報は掴み切れないと、キールも痛感している。
東側にいた参加者も西側に集まったとは言っても、それでも全ての情報を集めなおすのは不可能だ。
「コレット、お前さっきのグリッドが叫んでいたことは聞こえてたのか?」
「……はい。今ならあの言葉の意味が分かる気がします。
私、どっかに自分の心を置いてきちゃってたんです。天使化とか、アトワイトに身体を貸したのとか関係なく。
もっと早くに気付けてたなら、私……ロイドを死なせないで、ごめんねじゃなくてありがとうって言えたはずなのに……」
「……勿体もない慰めは言わないぞ。僕だってロイドを殺した側なんだから」
「私も、あなたは悪くないなんて言いません。
私は……私のためにも、ロイドのためにも、いつか笑うって決めたんだから」
どこかに置いてきた自分の想い。それを思い出せとグリッドは叫んだ。
もし参加者が自分の心を置き去りにし、バトルロワイアルというものを飲み込み内側から呑み込まれてしまったら、
それはバトルロワイアルの存在を納得し、歯車の1つとして機構に組み込まれたことに他ならない。
その時点で人物Aはミクトランの駒として運動することを意味するのだ。
“あの村は危険人物が集まるだろうから行かない方がいい”――――そんな対主催的思考でさえ、
ミクトランの攻略法を手助けするものとなる。
「バトルロワイアル」とは、ミクトランが自らの勝利条件を満たすために用いる“指し手”――戦術の総称なのだ。
そこには対主催やマーダーといった区分けも境界線もない。ミクトランに利用されているか否かの一点だけ。
何らかの理由、たとえば脱出方法に捕らわれ対主催同士で潰し合えば、それはそれでミクトランの駒として機能しているのだ。
都合と理さえ合えば対主催さえもくるりと意味の向きを変える。
それがあの姦計の王の指し手・バトルロワイアルの力なのである。
「……はい。今ならあの言葉の意味が分かる気がします。
私、どっかに自分の心を置いてきちゃってたんです。天使化とか、アトワイトに身体を貸したのとか関係なく。
もっと早くに気付けてたなら、私……ロイドを死なせないで、ごめんねじゃなくてありがとうって言えたはずなのに……」
「……勿体もない慰めは言わないぞ。僕だってロイドを殺した側なんだから」
「私も、あなたは悪くないなんて言いません。
私は……私のためにも、ロイドのためにも、いつか笑うって決めたんだから」
どこかに置いてきた自分の想い。それを思い出せとグリッドは叫んだ。
もし参加者が自分の心を置き去りにし、バトルロワイアルというものを飲み込み内側から呑み込まれてしまったら、
それはバトルロワイアルの存在を納得し、歯車の1つとして機構に組み込まれたことに他ならない。
その時点で人物Aはミクトランの駒として運動することを意味するのだ。
“あの村は危険人物が集まるだろうから行かない方がいい”――――そんな対主催的思考でさえ、
ミクトランの攻略法を手助けするものとなる。
「バトルロワイアル」とは、ミクトランが自らの勝利条件を満たすために用いる“指し手”――戦術の総称なのだ。
そこには対主催やマーダーといった区分けも境界線もない。ミクトランに利用されているか否かの一点だけ。
何らかの理由、たとえば脱出方法に捕らわれ対主催同士で潰し合えば、それはそれでミクトランの駒として機能しているのだ。
都合と理さえ合えば対主催さえもくるりと意味の向きを変える。
それがあの姦計の王の指し手・バトルロワイアルの力なのである。
「えっと、あの」
コレットが口を開き何かを言おうとしたが、何故か言葉に詰まった。彼女はちらりとキールの下方を見てから俯く。
挙動不審な彼女の動作に気づいてキールは下を向いた。
地面に1個、僅かに残された夕日にきらめく小さなもの――画鋲が落ちている。
どこから出てきたのか分からない。
だが彼は何か思い当たることがあったのか、自分が座っている椅子の座席を、身体を捻らせて見た。
服に、金色の画鋲がいくつも刺さっている。それにさえ気付けない。
コレットが口を開き何かを言おうとしたが、何故か言葉に詰まった。彼女はちらりとキールの下方を見てから俯く。
挙動不審な彼女の動作に気づいてキールは下を向いた。
地面に1個、僅かに残された夕日にきらめく小さなもの――画鋲が落ちている。
どこから出てきたのか分からない。
だが彼は何か思い当たることがあったのか、自分が座っている椅子の座席を、身体を捻らせて見た。
服に、金色の画鋲がいくつも刺さっている。それにさえ気付けない。
「プラス30点だな」
こう解釈したところでどうしようもない。情報も時間も、何より彼の命の刻限が足りない。
敵の攻め手も曖昧で、その狙いも不明瞭。その上ノイズが激しすぎる。
どこからどこまでが、どれがミクトランの「バトルロワイアル」としての指し手なのか判別することができない。
一部の事実に基づきこの仮説を立てた以上、全てがそれぞれの意志の結果による偶然の産物と説明するには都合が良すぎる。
しかし、全部が全部ミクトランの手中だと言うには、あまりにも穴がありすぎる。
いくつかが運の要素――ランダムで構成されているなら、それこそ無尽の結論が溢れ出し計算量が異常なまでに膨れ上がる。
それをこの短時間で計算するなど現実的ではないし、不可能だ。
データも足りていないのだから結論など出せっこない。
敵の攻め手も曖昧で、その狙いも不明瞭。その上ノイズが激しすぎる。
どこからどこまでが、どれがミクトランの「バトルロワイアル」としての指し手なのか判別することができない。
一部の事実に基づきこの仮説を立てた以上、全てがそれぞれの意志の結果による偶然の産物と説明するには都合が良すぎる。
しかし、全部が全部ミクトランの手中だと言うには、あまりにも穴がありすぎる。
いくつかが運の要素――ランダムで構成されているなら、それこそ無尽の結論が溢れ出し計算量が異常なまでに膨れ上がる。
それをこの短時間で計算するなど現実的ではないし、不可能だ。
データも足りていないのだから結論など出せっこない。
(それでも、僕が勝つ。どんなイレギュラーも、もう僕の計画を崩せない)
笑うキール。それをコレットは訝しがりながら見ていた。
自分の戦略と戦術を構築した今、キールにとってこの状況は決して悪くない。
終盤の終盤。ミクトランの勝利は刻一刻と近づいているだろう。
それを阻止し、彼の勝利条件を満たすための「攻め手」はこの答案の裏にある。
それで挑めばミクトランに、七割近くの勝率―――自分にとっての―――をはじき出せるだろうものを彼は用意している。
希望も絶えた訳ではない。ならば、いつまでも付きまとって離れないこの悪寒は一体何なのか。
(まさかこの状況も読んでいる? いや、力、情報……あらゆる面で格下の相手達に“負けるために全力を出して殺しにいく”なんてことは有り得ない)
それではミクトランがいままで仕掛けてきた戦術全てが無意味なものになってしまう。
ならば、この悪寒は何を恐れるが故なのか。
不利に見えて有利、有利に見えて不利。どこまでがミクトランの想定内であり、どこまでが違うのか。
ミクトランの勝利条件は何なのか。数少ない手がかりを結びつける蜘蛛の糸。
きっと、この解釈でさえ“何かが欠けている”。
自分の戦略と戦術を構築した今、キールにとってこの状況は決して悪くない。
終盤の終盤。ミクトランの勝利は刻一刻と近づいているだろう。
それを阻止し、彼の勝利条件を満たすための「攻め手」はこの答案の裏にある。
それで挑めばミクトランに、七割近くの勝率―――自分にとっての―――をはじき出せるだろうものを彼は用意している。
希望も絶えた訳ではない。ならば、いつまでも付きまとって離れないこの悪寒は一体何なのか。
(まさかこの状況も読んでいる? いや、力、情報……あらゆる面で格下の相手達に“負けるために全力を出して殺しにいく”なんてことは有り得ない)
それではミクトランがいままで仕掛けてきた戦術全てが無意味なものになってしまう。
ならば、この悪寒は何を恐れるが故なのか。
不利に見えて有利、有利に見えて不利。どこまでがミクトランの想定内であり、どこまでが違うのか。
ミクトランの勝利条件は何なのか。数少ない手がかりを結びつける蜘蛛の糸。
きっと、この解釈でさえ“何かが欠けている”。
だが、もうここで勝負を賭けるしかない。
ミクトランに仕掛けた“毒”が効いている今を逃せば、ミクトランに更にバトルロワイアルを行使する機会を与えてしまう。
ミクトランに仕掛けた“毒”が効いている今を逃せば、ミクトランに更にバトルロワイアルを行使する機会を与えてしまう。
勝負はすぐだ。彼の答えが正しいかどうか、全てはその1点に掛っている。
キールは天を仰ぐように銅空を見上げる。そんな自分を鼻で笑いたくなった。
今更神に赦しを乞うつもりも無いくせに。科学の外側で、神秘の内側でお前はいつも傍観を気取っている。
お前ならば―――全てを見下ろせるお前ならば、きっと答えなど既に知っているのだろうけど。
神よ、お前に願うものなんてない。
だが、答えられるものなら答えてみるがいい。
今更神に赦しを乞うつもりも無いくせに。科学の外側で、神秘の内側でお前はいつも傍観を気取っている。
お前ならば―――全てを見下ろせるお前ならば、きっと答えなど既に知っているのだろうけど。
神よ、お前に願うものなんてない。
だが、答えられるものなら答えてみるがいい。
「バトルロワイアルとは、何ぞや」
キールの呟きは、鋭敏化したコレットの耳でやっと拾える程度のもので、たちまちに掻き消えた。
虚空へ上る微小な波は、誰の耳にも届かない。
宇宙を越えて、星を越えて、銀河を渡ろうとも、決して。
虚空へ上る微小な波は、誰の耳にも届かない。
宇宙を越えて、星を越えて、銀河を渡ろうとも、決して。
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:HP5%/5%(HP減衰が常時発生)TP45% フルボッコ ある意味発狂 頬骨・鼻骨骨折 歯がかなり折れた 【QED】カウントダウン
指数本骨折あるいは切断 肉が一部削げた 胸に大裂傷 中度下半身不随(杖をついて何とか立てる程度)ローブを脱いだ
所持品:ベレット セイファートキー C・ケイジ@I(水・雷・闇・氷・火) C・ケイジ@C(風・光・元・地・時)
分解中のレーダー 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) フェアリィリング
スティレット ウィングパック(UZISMG入り)魔杖ケイオスハート
基本行動方針:メルディを救う
第一行動方針:情報を整理しながらメルディ達を待つ
第二行動方針:メルディを優勝させる
ゼクンドゥス行動方針:静観。一度はキールの願いを叶える。
現在位置:C3村中央地区
状態:HP5%/5%(HP減衰が常時発生)TP45% フルボッコ ある意味発狂 頬骨・鼻骨骨折 歯がかなり折れた 【QED】カウントダウン
指数本骨折あるいは切断 肉が一部削げた 胸に大裂傷 中度下半身不随(杖をついて何とか立てる程度)ローブを脱いだ
所持品:ベレット セイファートキー C・ケイジ@I(水・雷・闇・氷・火) C・ケイジ@C(風・光・元・地・時)
分解中のレーダー 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) フェアリィリング
スティレット ウィングパック(UZISMG入り)魔杖ケイオスハート
基本行動方針:メルディを救う
第一行動方針:情報を整理しながらメルディ達を待つ
第二行動方針:メルディを優勝させる
ゼクンドゥス行動方針:静観。一度はキールの願いを叶える。
現在位置:C3村中央地区
【コレット=ブルーネル 生存確認】
状態:HP70% TP20% 罪を認め生きる決意 全身に痣や傷 深い悲しみ
所持品:ピヨチェック 要の紋@コレット 金のフライパン メガグランチャー
エターナルリング 細工工具 イクストリーム
基本行動方針:何時か心の底から笑う
第一行動方針:メルディ達が戻ってくるのを待つ
第二行動方針:リアラを殺してしまった事をカイルに打ち明ける
現在位置:C3村中央地区
状態:HP70% TP20% 罪を認め生きる決意 全身に痣や傷 深い悲しみ
所持品:ピヨチェック 要の紋@コレット 金のフライパン メガグランチャー
エターナルリング 細工工具 イクストリーム
基本行動方針:何時か心の底から笑う
第一行動方針:メルディ達が戻ってくるのを待つ
第二行動方針:リアラを殺してしまった事をカイルに打ち明ける
現在位置:C3村中央地区
ですが、貴方達は聞いている。
世界の枠よりも大きな視点を持つ貴方達は聞いているし、見ています。
『バトルロワイアルとは、何か』
ある意味において、究極であり至源であるこの問い。
ある忍者は、このバトルロワイアルをチェスと捉えました。
マーダーと対主催。駒を操り、互いの王を討ち取るための戦いと。
ある学士は、このバトルロワイアルをチェスの指し手と捉えました。
もっと大きなチェスの中においてミクトランの操る駒、その動きに抗うための戦いと。
彼の問いに、答えられますか?
今、貴方はそれを考えた……そして、それではないような気がした…………
答えは何でもよいのです。
その答えによって、貴方の観測する世界<バトルロワイアル>が色めき立つ…………それが私の喜び。
ですが、皆様は一つだけ分かっていらっしゃる…………もし、これがチェスであるとするならば…………
駒だけではゲームは進まない…………そう、足りないものがあと二つあることを…………
それは…………とと、申し訳ありません。少々長く語りすぎてしまいました。それでは――――――――――――
「『下座』の手番終了です。『上座』、駒の運動をお願いします―――――――――――ベルセリオス様」