落陽に帰り道は見えるのか
崩壊した村をすさまじい速度で駆ける影が1つ。
音速の貴公子こと漆黒の翼のリーダー、グリッドは中央地区へ向かうべく、自慢の足で走り抜けていた。
背にはメルディを負ぶさっている。腕が1本しかないため、残った手を彼女の臀部にあて、
彼女には服をぎゅっと掴んでもらうことで何とか背負うということが成立していた。
恐らくキールがこの事実を耳にしたら、グリッドは半殺しにされるか、もしくは本当にあの世行きになるだろう。
しかし、メルディの体勢はそれでも時折不安定になり、グリッドの速さもあってか、彼女は常に強く服を握っていた。
彼女の肩にポジションを取るクィッキーも、重傷であるにも関わらず必死にしがみついている。
天使となって感覚を失ってしまったグリッドがこのことに気付くのは、走ってしばらく後のことである。
ちらりを後ろを振り返ると、懸命にしがみつく彼女とクィッキーの姿が目に入って、慌てて彼は速度を落とした。
そしてもう1度体勢を直し、今度は少し速度を落として走り出した。
それでも速さだけはごく一般的な成人男性と比べたら相当のものである。
このときばかりは感覚の消失を少しばかり恨めしく思った。
「すまん、メルディ。気を遣えなくて」
「……ダイジョーブ。メルディも走ったら、きっと追いつけないから」
メルディの語調は静かというよりはどことなく暗く、遠回しに背負われている自分の無力さを伝えているようだった。
グリッドは、珍しく彼女にだけはどんな言葉をかければいいのか分からないでいた。
自分の願いというものが、彼女にはあるのだろうか?
いつかのヴェイグの話で、元々彼女はとても元気で明るいと聞いた。
だが、今の姿しか知らないグリッドは、塞ぎ込んだ彼女をどうすればいいのかも分からない。
ろくに会話することさえも、メルディはずっとキールに付いていて自分はすぐ洞窟へ向かったのだから、実際今回が初めてのようなものだ。
自分の不甲斐なさに奥歯を噛みしめる。
過程はまるっきり別物であるにしろ、「無自覚に人を殺した」という点では、この2人に共通するものはある。
そしてそれを知った後、陰鬱に塞ぎ込んでしまったという点も共通している。
だが、彼と彼女は違う。似ているようで、ベクトルの向きは全く別物だ。
手段の直接性と間接性も、何に苦しんでいるのかも、自分を取り戻したか否かも――どんな言葉をかければいいのか分からないわけだ。
グリッドは、彼女をどうにかしたいと思いつつ、どう励ませばいいのか分からなかった。
言葉が届くかどうかというよりは、自分が差し挟んでいい問題だと思えなかった。
自分は彼女と感覚を共有できたとしても、戻るための道筋がまるで違う。
方法が違うのだから、アドバイスをしたとしても彼女のためになるとは思えなかったのだ。
それほど彼女の瑕疵は深い。だからといって、簡単に「はいそうですか」と言える人間でも、グリッドはないのだが。
音速の貴公子こと漆黒の翼のリーダー、グリッドは中央地区へ向かうべく、自慢の足で走り抜けていた。
背にはメルディを負ぶさっている。腕が1本しかないため、残った手を彼女の臀部にあて、
彼女には服をぎゅっと掴んでもらうことで何とか背負うということが成立していた。
恐らくキールがこの事実を耳にしたら、グリッドは半殺しにされるか、もしくは本当にあの世行きになるだろう。
しかし、メルディの体勢はそれでも時折不安定になり、グリッドの速さもあってか、彼女は常に強く服を握っていた。
彼女の肩にポジションを取るクィッキーも、重傷であるにも関わらず必死にしがみついている。
天使となって感覚を失ってしまったグリッドがこのことに気付くのは、走ってしばらく後のことである。
ちらりを後ろを振り返ると、懸命にしがみつく彼女とクィッキーの姿が目に入って、慌てて彼は速度を落とした。
そしてもう1度体勢を直し、今度は少し速度を落として走り出した。
それでも速さだけはごく一般的な成人男性と比べたら相当のものである。
このときばかりは感覚の消失を少しばかり恨めしく思った。
「すまん、メルディ。気を遣えなくて」
「……ダイジョーブ。メルディも走ったら、きっと追いつけないから」
メルディの語調は静かというよりはどことなく暗く、遠回しに背負われている自分の無力さを伝えているようだった。
グリッドは、珍しく彼女にだけはどんな言葉をかければいいのか分からないでいた。
自分の願いというものが、彼女にはあるのだろうか?
いつかのヴェイグの話で、元々彼女はとても元気で明るいと聞いた。
だが、今の姿しか知らないグリッドは、塞ぎ込んだ彼女をどうすればいいのかも分からない。
ろくに会話することさえも、メルディはずっとキールに付いていて自分はすぐ洞窟へ向かったのだから、実際今回が初めてのようなものだ。
自分の不甲斐なさに奥歯を噛みしめる。
過程はまるっきり別物であるにしろ、「無自覚に人を殺した」という点では、この2人に共通するものはある。
そしてそれを知った後、陰鬱に塞ぎ込んでしまったという点も共通している。
だが、彼と彼女は違う。似ているようで、ベクトルの向きは全く別物だ。
手段の直接性と間接性も、何に苦しんでいるのかも、自分を取り戻したか否かも――どんな言葉をかければいいのか分からないわけだ。
グリッドは、彼女をどうにかしたいと思いつつ、どう励ませばいいのか分からなかった。
言葉が届くかどうかというよりは、自分が差し挟んでいい問題だと思えなかった。
自分は彼女と感覚を共有できたとしても、戻るための道筋がまるで違う。
方法が違うのだから、アドバイスをしたとしても彼女のためになるとは思えなかったのだ。
それほど彼女の瑕疵は深い。だからといって、簡単に「はいそうですか」と言える人間でも、グリッドはないのだが。
夕闇の弱々しい光が街路を気持ちばかり照らす。
光よりは闇の方が濃くなってきた村では、前方も暗くなりはじめ、視界が悪い。
体温を奪い去っていくような夕方の風も、この闇から生まれてきたのではないかと思える。
荒廃した村では何の違和感もなかった。気分が悪いと、グリッドは心中で吐き捨てた。
「メルディ、マジカルポーチの様子は?」
「何もないな。何も出てこないよ」
「つっまんねーな。こう、ステーキとか景気よく出ないもんかねえ。黄色いケーキだっていいぞ。
ああ……ボルシチか、ビーストミートのポワレでもいいな。こう寒いとあったまるモンがいい」
その言葉にメルディは何も返さなかった。ただぎゅっと服を掴むばかりで、何かにぐっと堪えるようだった。
「……ダメだよ。きっといい結果なんて出ない。メルディの手は汚れてるんだから」
「ほう、その汚れた手で俺を掴んでくれてるとは、ありがたいこった」
彼女は手離そうとしたが、グリッドが速度を上げたため服を掴んでいらざるを得なかった。
「どうなるか分かんねえだろ。どうなるか分かんねえから、色々やるんだろ?
端っから読めてたらつまらんだろ」
グリッドが意気揚々と言う中、彼女は目を逸らすように顔を服に埋めていた。
深い橙色の髪が少しばかり見えるが、その奥で彼は何の疑問の浮かべず、とても輝かしく笑っているのだろう。
それくらいは彼女にも想像することができた。想像でも眩しかった。
この村の塵にまみれ澱んだ空気の方が、まだ自分には合っているのだと彼女は思う。
今も呼吸することさえ辛いが、晴々として澄みきった空気を吸う方が、きっともっと辛いだろうから。
涼やかな大気を吸い込んだときの心地よさが懐かしい。
セレスティアはいつも暗かったけど、インフェリアは空が青くて綺麗だったっけと、彼女の中で痛みに似たものが過ぎった。
その空の下で、あの3人はよく笑っていた気がする。
自分もその笑顔を奪ってしまったのだから、もうそれを見ることは叶わない。
だが、思い出すことはまだできる。瞼の裏に浮かぶ光景を思い出しながら、共に笑うことが――――できなくなるのは、怖い。
彼女が持っていたポーチから何かがぽんと飛び出て彼の後頭部に直撃した。
痛みこそないものの頭が下に向き、視界が激変したおかげで彼は見事につんのめった。
空を舞った何かをキャッチするメルディ。
「ニンジンな」
「っはあ? ニンジン? こう走らされてても、いくら何でも馬じゃねえぞグリッド様は」
1度メルディを降ろし、再度負ぶり直そうとした彼はメルディの方を向いた。
彼女は何故か飛び出してきたニンジンを見つめていた。
「でも、ボルシチの材料だよう」
彼女の言葉にはっとし何かを閃いた彼は、汗も出ない身体で指をぱちりと鳴らした。
「ちょっとずつ、ちょっとずつ、ってことだな」
光よりは闇の方が濃くなってきた村では、前方も暗くなりはじめ、視界が悪い。
体温を奪い去っていくような夕方の風も、この闇から生まれてきたのではないかと思える。
荒廃した村では何の違和感もなかった。気分が悪いと、グリッドは心中で吐き捨てた。
「メルディ、マジカルポーチの様子は?」
「何もないな。何も出てこないよ」
「つっまんねーな。こう、ステーキとか景気よく出ないもんかねえ。黄色いケーキだっていいぞ。
ああ……ボルシチか、ビーストミートのポワレでもいいな。こう寒いとあったまるモンがいい」
その言葉にメルディは何も返さなかった。ただぎゅっと服を掴むばかりで、何かにぐっと堪えるようだった。
「……ダメだよ。きっといい結果なんて出ない。メルディの手は汚れてるんだから」
「ほう、その汚れた手で俺を掴んでくれてるとは、ありがたいこった」
彼女は手離そうとしたが、グリッドが速度を上げたため服を掴んでいらざるを得なかった。
「どうなるか分かんねえだろ。どうなるか分かんねえから、色々やるんだろ?
端っから読めてたらつまらんだろ」
グリッドが意気揚々と言う中、彼女は目を逸らすように顔を服に埋めていた。
深い橙色の髪が少しばかり見えるが、その奥で彼は何の疑問の浮かべず、とても輝かしく笑っているのだろう。
それくらいは彼女にも想像することができた。想像でも眩しかった。
この村の塵にまみれ澱んだ空気の方が、まだ自分には合っているのだと彼女は思う。
今も呼吸することさえ辛いが、晴々として澄みきった空気を吸う方が、きっともっと辛いだろうから。
涼やかな大気を吸い込んだときの心地よさが懐かしい。
セレスティアはいつも暗かったけど、インフェリアは空が青くて綺麗だったっけと、彼女の中で痛みに似たものが過ぎった。
その空の下で、あの3人はよく笑っていた気がする。
自分もその笑顔を奪ってしまったのだから、もうそれを見ることは叶わない。
だが、思い出すことはまだできる。瞼の裏に浮かぶ光景を思い出しながら、共に笑うことが――――できなくなるのは、怖い。
彼女が持っていたポーチから何かがぽんと飛び出て彼の後頭部に直撃した。
痛みこそないものの頭が下に向き、視界が激変したおかげで彼は見事につんのめった。
空を舞った何かをキャッチするメルディ。
「ニンジンな」
「っはあ? ニンジン? こう走らされてても、いくら何でも馬じゃねえぞグリッド様は」
1度メルディを降ろし、再度負ぶり直そうとした彼はメルディの方を向いた。
彼女は何故か飛び出してきたニンジンを見つめていた。
「でも、ボルシチの材料だよう」
彼女の言葉にはっとし何かを閃いた彼は、汗も出ない身体で指をぱちりと鳴らした。
「ちょっとずつ、ちょっとずつ、ってことだな」
静けさの支配する場所で、2人の青年が空を見上げていた。
夕焼けの空に時折走る閃光に、空にたなびく飛行機雲。
草葉がそよぐだけの静寂とは裏腹に、音もなく飛び散る火花の激しさは戦闘の激しさを物語っていた。
2人のうちの1人が不安そうな表情を見せる。そして片手に持った懐中時計に目をやる。
時は17時半過ぎ。ともすれば「もう18時か」と呟いても差し支えない時間の頃合だ。
互いが持っている情報を一通り交換していたため、知らぬ間に時間は過ぎ去ってしまっていた。
それからは時折言葉を挟む程度の沈黙が続き、夕方の風が心に冷たさを吹き込ませていた。
青年がタイムリミットという禁忌をを知りながら、時計に意識を伸ばしてしまったのはそのためである。
夕焼けの空に時折走る閃光に、空にたなびく飛行機雲。
草葉がそよぐだけの静寂とは裏腹に、音もなく飛び散る火花の激しさは戦闘の激しさを物語っていた。
2人のうちの1人が不安そうな表情を見せる。そして片手に持った懐中時計に目をやる。
時は17時半過ぎ。ともすれば「もう18時か」と呟いても差し支えない時間の頃合だ。
互いが持っている情報を一通り交換していたため、知らぬ間に時間は過ぎ去ってしまっていた。
それからは時折言葉を挟む程度の沈黙が続き、夕方の風が心に冷たさを吹き込ませていた。
青年がタイムリミットという禁忌をを知りながら、時計に意識を伸ばしてしまったのはそのためである。
かの地は18時の放送と同時に封鎖される。
もしその前にエリアを抜けることができなければ、そこに命があるのなら容赦なく終わってしまう。
しかし、未だ終わりの見えない戦闘の気配が、青年の不安を駆り立てる。約束は果たされることなく終わるのかと。
「少しは落ちつけよ、ヴェイグ。お前らしくないぜ?」
傍らに座り込むもう1人の青年が語りかける。
ぽん、とどこからか緑の髪と同じ色の草を取り出して、風来坊がするかのように茎を口にくわえる。
「お前こそ妙に冷静だな、ティトレイ。らしくもない」
正反対の言葉を全く同じように言った。
ティトレイと呼ばれた青年は茎をたばこのように指で挟んで、やれやれといった顔をした。
小さく顔を上げて空に視線を移し、人工的に生まれた星の瞬きを眺めると、ティトレイは表情を真摯なものに変えた。
「あれはカイルの戦いだ、俺たちが口を挟んでいいことじゃない。あいつが俺らの戦いを黙って見ててくれたように」
「だが……」
「お前な、待つって決めたんだろ? 男ならびしっと約束は守れよな。もちろんカイルもだ。
男には、誰にも邪魔されない戦いってのがあるもんだぜ」
諭すかのように指を突きつけてティトレイは言う。
それは単にお前の理論ではないのかと、ヴェイグと呼ばれた男は口を挟みそうになったが、
邪魔をしてはいけないという思いは共通していた。
それでもカイルの行方を不安に思ってしまうのは、もはや彼の性なのか、年上の銀髪の男の宿命なのか。
――――両足骨折。睾丸破裂。裂傷多数。単純に考えて、戦闘をできる身体ではない。
いくらディムロスがいるとはいえ、今しがた空の向こうで行われているような激しい戦いのやり取りは出来ないはずだ。
……単純に考えて。
だが、現にカイルはそれをやってのけている。
どれだけの負担ががあるのかは分からないが、ただでは済まないことだけは、遠目に見ている2人にも分かった。
間違いなく、相応の動きに対する代償はある。
ましてやあんな煙さえ上げるほどの機動をカイルとディムロスは見せたことがない。
そして、そこにいるのだろうミトスもそれに応戦している。いや、相手の方が上手だろうか。
どれほど本気を出さねば戻ってこれないのか――戦闘が続いているのを見る限りまだ生きてはいるようだが、
それもいつ、どこまでか、不安になるのも仕方がなかった。
もしその前にエリアを抜けることができなければ、そこに命があるのなら容赦なく終わってしまう。
しかし、未だ終わりの見えない戦闘の気配が、青年の不安を駆り立てる。約束は果たされることなく終わるのかと。
「少しは落ちつけよ、ヴェイグ。お前らしくないぜ?」
傍らに座り込むもう1人の青年が語りかける。
ぽん、とどこからか緑の髪と同じ色の草を取り出して、風来坊がするかのように茎を口にくわえる。
「お前こそ妙に冷静だな、ティトレイ。らしくもない」
正反対の言葉を全く同じように言った。
ティトレイと呼ばれた青年は茎をたばこのように指で挟んで、やれやれといった顔をした。
小さく顔を上げて空に視線を移し、人工的に生まれた星の瞬きを眺めると、ティトレイは表情を真摯なものに変えた。
「あれはカイルの戦いだ、俺たちが口を挟んでいいことじゃない。あいつが俺らの戦いを黙って見ててくれたように」
「だが……」
「お前な、待つって決めたんだろ? 男ならびしっと約束は守れよな。もちろんカイルもだ。
男には、誰にも邪魔されない戦いってのがあるもんだぜ」
諭すかのように指を突きつけてティトレイは言う。
それは単にお前の理論ではないのかと、ヴェイグと呼ばれた男は口を挟みそうになったが、
邪魔をしてはいけないという思いは共通していた。
それでもカイルの行方を不安に思ってしまうのは、もはや彼の性なのか、年上の銀髪の男の宿命なのか。
――――両足骨折。睾丸破裂。裂傷多数。単純に考えて、戦闘をできる身体ではない。
いくらディムロスがいるとはいえ、今しがた空の向こうで行われているような激しい戦いのやり取りは出来ないはずだ。
……単純に考えて。
だが、現にカイルはそれをやってのけている。
どれだけの負担ががあるのかは分からないが、ただでは済まないことだけは、遠目に見ている2人にも分かった。
間違いなく、相応の動きに対する代償はある。
ましてやあんな煙さえ上げるほどの機動をカイルとディムロスは見せたことがない。
そして、そこにいるのだろうミトスもそれに応戦している。いや、相手の方が上手だろうか。
どれほど本気を出さねば戻ってこれないのか――戦闘が続いているのを見る限りまだ生きてはいるようだが、
それもいつ、どこまでか、不安になるのも仕方がなかった。
「今のカイルに、ろくに戦える力が残ってると思うか?」
錬術を発動させ、心持を隠すように傷の回復に努めるヴェイグ。
このような自己治癒の術が自分たちにはあるからいいものの、カイルは傷を癒す手段がほとんどない。
ティトレイもまたヴェイグを真似て術を発動させる。
「うーん、カイルのことは詳しく知らねえから何とも言えねえが、
いくら機動力があっても術だけでミトスに対抗するのは相当厳しいと思うぜ」
夕日の赤の中でもしっかりと浮かぶ青いフォルスの光。
その強い輝きは絢爛たるものだったが、反して彼らの心中には陰りが落ちる。
ミトスに関しての情報は、朝方にロイドからも聞いている。
おまけにティトレイは実際にミトスと2度対峙しており、それを踏まえての発言だ。
状況をしっかりと見極め、冷静な判断をした上で効率的な行動に出る。
権謀を謀るデミテルと共にいた青年にとって、この考え方は紛れもなく島に来て学んだ糧だった。
「けど、だからってそれでくたばるタイプでもないだろ、あいつ。やる時はやるし、土壇場で力を出すやつだな。俺もしてやられたし」
だが、同時にこの青年はティトレイ・クロウというヒトだった。
持ち前の前向きさで渦巻く不安を一気に吹き飛ばせる男だった。
ヴェイグは驚いたような目でティトレイを見ると、にかっと歯を見せた笑顔を浮かべていた。
大した面識もないカイルのことを何故こうも断言できるのかと、思わず溜息をつきそうになる。
(土壇場、か。だが、確かに一理ある。リオンの時も、シャーリィの時も、決定的な一撃を与えていたのはあいつだ)
けれども、土壇場というのは比較的刹那のもので、長く続けばそれは全くの別物だ。
単なる不利――その一言に落ち着くのである。
そして、今のカイルが不利などという状況に収まれば、間違いなく勝てない。そうヴェイグは思い込んでいた。
要するに、約束は信じるにはとても弱々しいものなのだ。
だが、そういえば「死なないで」という確証の持てない約束をしたのは誰だっただろうかとふと思った。
その誰かはこれまでの死地をくぐり抜けて何とか守ってきた。
思い出して、ヴェイグは苦笑めいたものをこぼす。しかし、それは確かに「笑い」だった。
「そうだな。そう思う」
「だろぉ? そうでなくたって人はギリギリのところでこそ力を発揮するもんなんだよ。例えば、俺とか」
ヴェイグの言葉を聞き、笑いながらヴェイグの背中をばんばんと叩くティトレイ。
普段身に付けている胸甲がない分、叩く強さが負傷した身には少し堪えたが、それも懐かしいものと思えば別段気にはならなかった。
「確かにお前はサウザンドブレイバーの射角を変えていたな」
昨夜のことを思い出し、あの激動の光景を瞼に浮かべる。
目まぐるしく変わっていった情勢を思い返すだけで眩暈がしてくる。そして、罪悪感も。
錬術を発動させ、心持を隠すように傷の回復に努めるヴェイグ。
このような自己治癒の術が自分たちにはあるからいいものの、カイルは傷を癒す手段がほとんどない。
ティトレイもまたヴェイグを真似て術を発動させる。
「うーん、カイルのことは詳しく知らねえから何とも言えねえが、
いくら機動力があっても術だけでミトスに対抗するのは相当厳しいと思うぜ」
夕日の赤の中でもしっかりと浮かぶ青いフォルスの光。
その強い輝きは絢爛たるものだったが、反して彼らの心中には陰りが落ちる。
ミトスに関しての情報は、朝方にロイドからも聞いている。
おまけにティトレイは実際にミトスと2度対峙しており、それを踏まえての発言だ。
状況をしっかりと見極め、冷静な判断をした上で効率的な行動に出る。
権謀を謀るデミテルと共にいた青年にとって、この考え方は紛れもなく島に来て学んだ糧だった。
「けど、だからってそれでくたばるタイプでもないだろ、あいつ。やる時はやるし、土壇場で力を出すやつだな。俺もしてやられたし」
だが、同時にこの青年はティトレイ・クロウというヒトだった。
持ち前の前向きさで渦巻く不安を一気に吹き飛ばせる男だった。
ヴェイグは驚いたような目でティトレイを見ると、にかっと歯を見せた笑顔を浮かべていた。
大した面識もないカイルのことを何故こうも断言できるのかと、思わず溜息をつきそうになる。
(土壇場、か。だが、確かに一理ある。リオンの時も、シャーリィの時も、決定的な一撃を与えていたのはあいつだ)
けれども、土壇場というのは比較的刹那のもので、長く続けばそれは全くの別物だ。
単なる不利――その一言に落ち着くのである。
そして、今のカイルが不利などという状況に収まれば、間違いなく勝てない。そうヴェイグは思い込んでいた。
要するに、約束は信じるにはとても弱々しいものなのだ。
だが、そういえば「死なないで」という確証の持てない約束をしたのは誰だっただろうかとふと思った。
その誰かはこれまでの死地をくぐり抜けて何とか守ってきた。
思い出して、ヴェイグは苦笑めいたものをこぼす。しかし、それは確かに「笑い」だった。
「そうだな。そう思う」
「だろぉ? そうでなくたって人はギリギリのところでこそ力を発揮するもんなんだよ。例えば、俺とか」
ヴェイグの言葉を聞き、笑いながらヴェイグの背中をばんばんと叩くティトレイ。
普段身に付けている胸甲がない分、叩く強さが負傷した身には少し堪えたが、それも懐かしいものと思えば別段気にはならなかった。
「確かにお前はサウザンドブレイバーの射角を変えていたな」
昨夜のことを思い出し、あの激動の光景を瞼に浮かべる。
目まぐるしく変わっていった情勢を思い返すだけで眩暈がしてくる。そして、罪悪感も。
自分の意識と身体が噛み合わない思考の狭間で、ヴェイグはふと違和感を覚えた。
そして記憶を掘り返し、あの記憶は紛れもなく真実だと確認する。
自分の身にも起きた「それ」を思い出し、やはり間違いないと自分の中で言い聞かせる。
生じた違和感は、疑問から不安へと変化していた。
本来なら「それ」は、ありえないはずなのだから。
否、何故今になって疑問を覚えたのだ。たったさっき、自分はすぐ近くの相手にやってみせたではないか。
「……ティトレイ」
「ん? 何だよ」
ただでさえ低い声が更に低くなり、威圧感を生み出した。
相手の真剣そうな声音を微妙なニュアンスとして受け取ったティトレイは、表情を硬くして相手の方を見返した。
名を呼んだが、ヴェイグは隣の親友の方を見ずにただ前方を見つめていた。
はっとしたような、呆然自失としたような、どこか別のものを視野に存在させているような顔つきだ。
ヴェイグは息を吸うことを思い出したように1つ咳を払い、ティトレイの方を向いてはっきりと言った。
自分の身にも起きた「それ」を思い出し、やはり間違いないと自分の中で言い聞かせる。
生じた違和感は、疑問から不安へと変化していた。
本来なら「それ」は、ありえないはずなのだから。
否、何故今になって疑問を覚えたのだ。たったさっき、自分はすぐ近くの相手にやってみせたではないか。
「……ティトレイ」
「ん? 何だよ」
ただでさえ低い声が更に低くなり、威圧感を生み出した。
相手の真剣そうな声音を微妙なニュアンスとして受け取ったティトレイは、表情を硬くして相手の方を見返した。
名を呼んだが、ヴェイグは隣の親友の方を見ずにただ前方を見つめていた。
はっとしたような、呆然自失としたような、どこか別のものを視野に存在させているような顔つきだ。
ヴェイグは息を吸うことを思い出したように1つ咳を払い、ティトレイの方を向いてはっきりと言った。
「……俺たちは何故、聖獣の力を使える?」
中央地区へと到着していたグリッドは非常に焦っていた。探しても探しても椅子が見つからないのである。
このままでは四つん這い(正式には3)で人間椅子にされるどころか、言葉で責めて責めて責められて膝を抱えておしまいある。
まあ人間椅子になってもわざと身体をずらしてキールを転げ落とさせるのも面白いかなと思ったが、
それこそ今度は怪我をしたキールのために「歩く人間車椅子」にされそうな予感あらため悪寒がしたので、止めておくことにした。
子供にパパ、パパなどと呼ばれながらするならまだいいものの、誰が一体キールのためにそんなことをするものか。
自分は乗られる側ではなく乗る側なのである。あ、でも子供がキールみたいな奴だったらどうしようか。
このままでは四つん這い(正式には3)で人間椅子にされるどころか、言葉で責めて責めて責められて膝を抱えておしまいある。
まあ人間椅子になってもわざと身体をずらしてキールを転げ落とさせるのも面白いかなと思ったが、
それこそ今度は怪我をしたキールのために「歩く人間車椅子」にされそうな予感あらため悪寒がしたので、止めておくことにした。
子供にパパ、パパなどと呼ばれながらするならまだいいものの、誰が一体キールのためにそんなことをするものか。
自分は乗られる側ではなく乗る側なのである。あ、でも子供がキールみたいな奴だったらどうしようか。
とはいえ、そんな悪策あれこれを考えていても、見つからないものは見つからない。
まるで瓦礫の市場のようになってしまった中央広場では、完全な形をした椅子を見つけることすらままならない。
あったとしても脚が焦げてぼろぼろになっていたり、座ったら穴が空いて下半身が埋もれてしまいそうなものばかりである。
広場という性質上、民家がただでさえ少ないのだから、グリッドが焦るのも仕方がなかった。
「あー、俺の人生終わるよコレ。四つん這いなんかになったら羞恥心にTP使ってゲームオーバーだよマジで」
柄にもなくとぼとぼと俯いて呟くグリッド。
彼の様子をじっと見ていたメルディは、とてとてと歩いて傍にあった瓦礫の山に手をかけた。
「メルディ、大丈夫だ! 俺のせいでお前に小さな傷1つでもつけたって知られたら、俺キールに殺されっから!!」
「ロイドやコレットだったら、グリッドがこと手伝うよ、きっと。だから気にしなくていいな」
必死に止めるグリッドをよそに、彼女は手を止めようとしない。
まるで手を動かす理由をこんながらくたの山の中から見つけようとするかのような姿に、彼はメルディの手首を掴んだ。
「ロイドやコレットがするから、お前もするのか? そりゃあ唯のおままごとだろ。
他人がするから自分もする、なんての駄目過ぎるだろ」
その言葉は今のメルディの状態を鑑みれば酷なものだったが、それでも彼は伝えなければならないと思った。
案の定、彼女は黙り込んでしまった。瓦礫にかけた手が強く握られている。
下手すればその僅かな振動でもこの無骨な物質の山は崩れてしまうのではないかと、そう思わせる強さだった。
自分の情けなさを糾弾された恥よりも、あたかもロイドとコレットのことを侮辱されたような気がしたのだと、グリッドは悟った。
確かに彼女の行為は真似めいたものかもしれなかった。だが、それでも2人の心だけは汚されるものではない。
何より、そう思ったメルディの心はばらばらに切り刻んでいいものではないのだ。
手首にかけていた手を離し、彼も民家の残骸に手を伸ばす。
「ま、動かないよりはよっぽどマシか。そうしたい、って思ったのは自分だもんな」
がちゃがちゃと宝物でも見つけようとするようにグリッドは手を動かして山をあさる。
夕日の中、2人並んで大きなゴミを除く光景は何ともおかしかった。
「……メルディ、何がしたいかまだ分からないな」
「んん、俺もよく分かる。何をしても、結局ただのフリじゃないかって気がしてな。だからお前にさっきあんなことを言った。すまん」
「メルディも、フリか?」
「いや、違った。確かにロイドやコレットの真似かもしれないが、そこには確かにメルディの意思があった。
そこが俺とは違った。俺は自分すらなかったから、ただのフリだった」
「……よく分かんないな。メルディと、グリッドは違うか?」
俯くメルディにグリッドはにやりと笑う。
「違うね。そりゃもう190度くらい違う。それだけ自分で決めるってのは重いんだ。それに言ったじゃないか、あいつの傍にいるって」
まるで瓦礫の市場のようになってしまった中央広場では、完全な形をした椅子を見つけることすらままならない。
あったとしても脚が焦げてぼろぼろになっていたり、座ったら穴が空いて下半身が埋もれてしまいそうなものばかりである。
広場という性質上、民家がただでさえ少ないのだから、グリッドが焦るのも仕方がなかった。
「あー、俺の人生終わるよコレ。四つん這いなんかになったら羞恥心にTP使ってゲームオーバーだよマジで」
柄にもなくとぼとぼと俯いて呟くグリッド。
彼の様子をじっと見ていたメルディは、とてとてと歩いて傍にあった瓦礫の山に手をかけた。
「メルディ、大丈夫だ! 俺のせいでお前に小さな傷1つでもつけたって知られたら、俺キールに殺されっから!!」
「ロイドやコレットだったら、グリッドがこと手伝うよ、きっと。だから気にしなくていいな」
必死に止めるグリッドをよそに、彼女は手を止めようとしない。
まるで手を動かす理由をこんながらくたの山の中から見つけようとするかのような姿に、彼はメルディの手首を掴んだ。
「ロイドやコレットがするから、お前もするのか? そりゃあ唯のおままごとだろ。
他人がするから自分もする、なんての駄目過ぎるだろ」
その言葉は今のメルディの状態を鑑みれば酷なものだったが、それでも彼は伝えなければならないと思った。
案の定、彼女は黙り込んでしまった。瓦礫にかけた手が強く握られている。
下手すればその僅かな振動でもこの無骨な物質の山は崩れてしまうのではないかと、そう思わせる強さだった。
自分の情けなさを糾弾された恥よりも、あたかもロイドとコレットのことを侮辱されたような気がしたのだと、グリッドは悟った。
確かに彼女の行為は真似めいたものかもしれなかった。だが、それでも2人の心だけは汚されるものではない。
何より、そう思ったメルディの心はばらばらに切り刻んでいいものではないのだ。
手首にかけていた手を離し、彼も民家の残骸に手を伸ばす。
「ま、動かないよりはよっぽどマシか。そうしたい、って思ったのは自分だもんな」
がちゃがちゃと宝物でも見つけようとするようにグリッドは手を動かして山をあさる。
夕日の中、2人並んで大きなゴミを除く光景は何ともおかしかった。
「……メルディ、何がしたいかまだ分からないな」
「んん、俺もよく分かる。何をしても、結局ただのフリじゃないかって気がしてな。だからお前にさっきあんなことを言った。すまん」
「メルディも、フリか?」
「いや、違った。確かにロイドやコレットの真似かもしれないが、そこには確かにメルディの意思があった。
そこが俺とは違った。俺は自分すらなかったから、ただのフリだった」
「……よく分かんないな。メルディと、グリッドは違うか?」
俯くメルディにグリッドはにやりと笑う。
「違うね。そりゃもう190度くらい違う。それだけ自分で決めるってのは重いんだ。それに言ったじゃないか、あいつの傍にいるって」
下卑たいやらしい笑みを浮かべると、メルディの頬にほんのり赤みが差したような気がした。
というのも、単に夕日の光が広がっていたからそう見えたのかもしれなかったからである。
メルディは黙り込んだまま、作業に没頭するように残骸をあさった。それを、手を止めたグリッドは無言で見ていた。
自分が手を動かさずとも、メルディはちゃんと自分の手で探してくれているからだ。
先刻ユアンの記憶を垣間見て、否、混同しかねたことを思い出しながら、グリッドは彼女の後ろ姿に自分を重ねようとしていた。
――とはいえ、傍から見れば唯のサボリなのだが。
「あ、グリッド。椅子、椅子があったな」
「本当か!?」
積もっていた瓦礫は周囲に散らばり、山があった場所には四本足で背もたれのある椅子が横たわっていた。
椅子の上に残っているがらくたをグリッドが除け、椅子を立たせる。
埋もれてこそいたが、元々頑丈な素材だったのか、これといった損傷はなかった。
脚の長さが合っていないのか、少々がたついてしまうことが唯一惜しかったが、キールも及第点を出してくれるだろう。
思わずにんまりと笑うグリッド。
「上出来だメルディ。頑張ればお天道様はちゃんと見ててくれるってこったな。これで脱・羞恥プレイ!」
グリッドの言葉を理解できていないのか、メルディは高々と腕を掲げるグリッドをきょとんとして見ていた。
そんなことも露知らず、グリッドは椅子を片手で担ぎ上げ、瓦礫のない平らな場所へと置いた。
1度周りを見渡し、まだキールたちが来ていないことを確認して、怪しげな笑みを浮かべる。
「メルディ、ちょっとあっち向いててくれないか?」
彼が指差した方向に、メルディは怪訝に思いながらも振り向く。
グリッドはどこぞの女神の生まれ変わりの少女のような、とても褒められたものではない笑みを上げた。
(ジファイブ市街戦トラップマスターのグリッド様を嘗めるなよォ……? 何なら命かけてこれに電撃流したっていいんだぜェ?)
グリッドは手の中で転がしていたそれを、数個椅子の上へと置いた。
この島で4人、共にいた漆黒の翼のなごりが悪い形で発現されようとしていた。
というのも、単に夕日の光が広がっていたからそう見えたのかもしれなかったからである。
メルディは黙り込んだまま、作業に没頭するように残骸をあさった。それを、手を止めたグリッドは無言で見ていた。
自分が手を動かさずとも、メルディはちゃんと自分の手で探してくれているからだ。
先刻ユアンの記憶を垣間見て、否、混同しかねたことを思い出しながら、グリッドは彼女の後ろ姿に自分を重ねようとしていた。
――とはいえ、傍から見れば唯のサボリなのだが。
「あ、グリッド。椅子、椅子があったな」
「本当か!?」
積もっていた瓦礫は周囲に散らばり、山があった場所には四本足で背もたれのある椅子が横たわっていた。
椅子の上に残っているがらくたをグリッドが除け、椅子を立たせる。
埋もれてこそいたが、元々頑丈な素材だったのか、これといった損傷はなかった。
脚の長さが合っていないのか、少々がたついてしまうことが唯一惜しかったが、キールも及第点を出してくれるだろう。
思わずにんまりと笑うグリッド。
「上出来だメルディ。頑張ればお天道様はちゃんと見ててくれるってこったな。これで脱・羞恥プレイ!」
グリッドの言葉を理解できていないのか、メルディは高々と腕を掲げるグリッドをきょとんとして見ていた。
そんなことも露知らず、グリッドは椅子を片手で担ぎ上げ、瓦礫のない平らな場所へと置いた。
1度周りを見渡し、まだキールたちが来ていないことを確認して、怪しげな笑みを浮かべる。
「メルディ、ちょっとあっち向いててくれないか?」
彼が指差した方向に、メルディは怪訝に思いながらも振り向く。
グリッドはどこぞの女神の生まれ変わりの少女のような、とても褒められたものではない笑みを上げた。
(ジファイブ市街戦トラップマスターのグリッド様を嘗めるなよォ……? 何なら命かけてこれに電撃流したっていいんだぜェ?)
グリッドは手の中で転がしていたそれを、数個椅子の上へと置いた。
この島で4人、共にいた漆黒の翼のなごりが悪い形で発現されようとしていた。
ちなみに、これは古典的でありながらもなかなかの痛みを発させるのだが、
当のターゲットには通じなかったことはまた別の話である。
当のターゲットには通じなかったことはまた別の話である。
グリッドは空を見上げ、ある1点に目を移す。
どうみても自然に発したものではない多くの線状の雲が、赤い空を横切るように伸びている。
少なくとも、グリッドの才覚からすればきな臭さを嗅ぎ取るには十分過ぎたものだった。
どうみても自然に発したものではない多くの線状の雲が、赤い空を横切るように伸びている。
少なくとも、グリッドの才覚からすればきな臭さを嗅ぎ取るには十分過ぎたものだった。
ヴェイグの問い掛けを聞いたティトレイは面食らったような顔をして、そのまま沈黙してしまった。
どうやら自分が聖獣の力を行使したときのことを思い出しているらしく、腕を組んでうんうんと唸っている。
否定の声をすぐに上げないあたり、ティトレイにも思い当たる節があるのだろう。
確かに、聖獣の力については先程の情報交換でも話題の端にも上がらなかった。
それほど無意識の存在であり、認識の外にある当たり前のものだったのだ。
腕をほどき、口にくわえていた草を指でいじる。既に噛み過ぎて茎の根元はぼろぼろになっていた。
「確か、聖獣って俺たちがユリスを倒した後、カレギアを離れたんだから……使えないはずだよな?」
「そうだ。だが、現にこうして俺は使えている」
矛盾しながらも、確かに存在する事実。
異世界の人間が多く集まるこの世界には自らのあずかり知らないものや知識も多々あったが、
それでも自分たちの世界に関わることでは話が変わってくる。
「俺はあんな状態だったから、正直気にもしなかった……何でだ? 何で、使えるんだ?」
「分からない。……俺はこの島に来て、1度だけ……シャオルーンの声を聞いたような、気がする」
「シャオルーン? まさか、この世界に聖獣が来てるってのかよ?」
ティトレイの突飛な声にも、ヴェイグは首を横に振るばかりだった。
聞こえたというのも意識が朦朧とした時のことで、今は特に聞こえるわけではない。
理由も分からない上、いくら可能性を考えたところで当人たちから明確な答えを聞けないのでは、それらが推論の域を出ることはなかった。
旅を経るごとにうまく操ってきたからか、聖獣の力をこの世界で初めて意識したのは、
混濁した意識の中、ハロルドの手を止めようとしたときだ。
もっとも、あのときはそのまま気絶してしまったため、詳しく覚えてはいない。
その後イ―フォンの闇の力を使うティトレイと遭遇し、やっと明瞭に聖獣の力の存在を認識した。
違和感――というものがなかったわけではないが、状況の難解さがそんな暇を与えず、何より使わざるを得ない理由ができた。
だからこそ、今まで聖獣の力を使用してきたのだ。
ただの、存在は分かっていても、何故かというその理由にまで意識が向かなかっただけの話。
「でも、ま、理由が分からなくても実際使えるなら、それに越したことはねえんじゃないか?
リバウンドもあるみたいだし、聖獣の力なのは本当みたいだ」
そんな自分の思考とは正反対に、あっけらかんとティトレイは朗笑を浮かべて言った。
考えても意味がないとでも主張するかのような結論に、深く考えている自分が馬鹿にされているような感覚に陥った。
「本当に頼ってもいいのか? 考え方によっては、得体の知れない……」
「おいおい、その得体の知れない力で俺を元に戻そうとしたヴェイグさんが言うなよ」
思わず押し黙ってしまったヴェイグはそのまま言葉を引っ込めるしかなかった。
確かに、使えるものは使っていった方がいいというティトレイの言説は、こんな状況下に放り込まれたこともあり、理にかなっている。
それでもヴェイグは、問題が解決したからこそ、歯と歯の間に何かが挟まったときのような不良感を覚えていた。
かつてジューダスと共に行動していたときもフォルスのことを聞かれ、更には首輪の解除方法にある程度の目処をつけたようだった。
考えたこともなかったが、もしかしたら自分たちの力は、自分たちが思っている以上に謎を秘めているのかもしれない。
「……けど、そうだな。おっさんは俺の力にかなり興味あったみたいだし。そんなに他の世界のとは違えのか……?」
ヴェイグの考えを読んだように、ティトレイが独り言をこぼす。
「あー、考えても分かりゃしねえ。こういうのは頭いい奴の仕事だよな!」
ふんぞり返って頭を組んだティトレイに、ヴェイグは「そうだな」と一言答えた。
頭のいい奴、と考えキールを連想した。
そうして西の状況と、自分を中央に向かうよう指示したキールに少しの不安を覚えた。
今頃あっちはどうなっているのか、まさか全員クレスに殺されてしまっているのではないか――そんな根拠のない不安ばかりが募った。
本当は、カイルを待つためとはいえここに残っているべきではないのだ。
ティトレイを引き連れて西に向かった方が、ロイドたちの手助けになる。
それにティトレイはクレスと組んでいたのだから、もしかしたら説得も可能かもしれない。
(そうだ、その方がよっぽど合理的じゃないか)
――――それでも自分の足は動こうとしなかった。
死体の山から目を逸らしたいのか、それとも仲間たちを信頼しているからなのか。
何にせよ、自分の身体はどうしようもなく不器用だった。
どうやら自分が聖獣の力を行使したときのことを思い出しているらしく、腕を組んでうんうんと唸っている。
否定の声をすぐに上げないあたり、ティトレイにも思い当たる節があるのだろう。
確かに、聖獣の力については先程の情報交換でも話題の端にも上がらなかった。
それほど無意識の存在であり、認識の外にある当たり前のものだったのだ。
腕をほどき、口にくわえていた草を指でいじる。既に噛み過ぎて茎の根元はぼろぼろになっていた。
「確か、聖獣って俺たちがユリスを倒した後、カレギアを離れたんだから……使えないはずだよな?」
「そうだ。だが、現にこうして俺は使えている」
矛盾しながらも、確かに存在する事実。
異世界の人間が多く集まるこの世界には自らのあずかり知らないものや知識も多々あったが、
それでも自分たちの世界に関わることでは話が変わってくる。
「俺はあんな状態だったから、正直気にもしなかった……何でだ? 何で、使えるんだ?」
「分からない。……俺はこの島に来て、1度だけ……シャオルーンの声を聞いたような、気がする」
「シャオルーン? まさか、この世界に聖獣が来てるってのかよ?」
ティトレイの突飛な声にも、ヴェイグは首を横に振るばかりだった。
聞こえたというのも意識が朦朧とした時のことで、今は特に聞こえるわけではない。
理由も分からない上、いくら可能性を考えたところで当人たちから明確な答えを聞けないのでは、それらが推論の域を出ることはなかった。
旅を経るごとにうまく操ってきたからか、聖獣の力をこの世界で初めて意識したのは、
混濁した意識の中、ハロルドの手を止めようとしたときだ。
もっとも、あのときはそのまま気絶してしまったため、詳しく覚えてはいない。
その後イ―フォンの闇の力を使うティトレイと遭遇し、やっと明瞭に聖獣の力の存在を認識した。
違和感――というものがなかったわけではないが、状況の難解さがそんな暇を与えず、何より使わざるを得ない理由ができた。
だからこそ、今まで聖獣の力を使用してきたのだ。
ただの、存在は分かっていても、何故かというその理由にまで意識が向かなかっただけの話。
「でも、ま、理由が分からなくても実際使えるなら、それに越したことはねえんじゃないか?
リバウンドもあるみたいだし、聖獣の力なのは本当みたいだ」
そんな自分の思考とは正反対に、あっけらかんとティトレイは朗笑を浮かべて言った。
考えても意味がないとでも主張するかのような結論に、深く考えている自分が馬鹿にされているような感覚に陥った。
「本当に頼ってもいいのか? 考え方によっては、得体の知れない……」
「おいおい、その得体の知れない力で俺を元に戻そうとしたヴェイグさんが言うなよ」
思わず押し黙ってしまったヴェイグはそのまま言葉を引っ込めるしかなかった。
確かに、使えるものは使っていった方がいいというティトレイの言説は、こんな状況下に放り込まれたこともあり、理にかなっている。
それでもヴェイグは、問題が解決したからこそ、歯と歯の間に何かが挟まったときのような不良感を覚えていた。
かつてジューダスと共に行動していたときもフォルスのことを聞かれ、更には首輪の解除方法にある程度の目処をつけたようだった。
考えたこともなかったが、もしかしたら自分たちの力は、自分たちが思っている以上に謎を秘めているのかもしれない。
「……けど、そうだな。おっさんは俺の力にかなり興味あったみたいだし。そんなに他の世界のとは違えのか……?」
ヴェイグの考えを読んだように、ティトレイが独り言をこぼす。
「あー、考えても分かりゃしねえ。こういうのは頭いい奴の仕事だよな!」
ふんぞり返って頭を組んだティトレイに、ヴェイグは「そうだな」と一言答えた。
頭のいい奴、と考えキールを連想した。
そうして西の状況と、自分を中央に向かうよう指示したキールに少しの不安を覚えた。
今頃あっちはどうなっているのか、まさか全員クレスに殺されてしまっているのではないか――そんな根拠のない不安ばかりが募った。
本当は、カイルを待つためとはいえここに残っているべきではないのだ。
ティトレイを引き連れて西に向かった方が、ロイドたちの手助けになる。
それにティトレイはクレスと組んでいたのだから、もしかしたら説得も可能かもしれない。
(そうだ、その方がよっぽど合理的じゃないか)
――――それでも自分の足は動こうとしなかった。
死体の山から目を逸らしたいのか、それとも仲間たちを信頼しているからなのか。
何にせよ、自分の身体はどうしようもなく不器用だった。
無事に椅子を設置し終えたグリッドたちは、改めて北地区へと向かっていた。メルディを背負い疾走する。
これまで落とし穴に引っ掛かっていないのは、彼の運がなす技か、それとも落ちる前に穴を通り抜けてしまっているからか。
天使化による強化は破壊的と言えるまでの力を引き出させていたが、肝心の背中の羽はただのお飾りなのか、
風にそよいで悠然としているだけだ。
背中のメルディが触れてみても後天性の羽であるため、簡単にすり抜けてしまう。
「グリッドのはロイドが翼よりちっちゃいんだな」
「甘いなメルディ。俺の翼は目に見えないところにあるんだぜ!」
「ううん、グリッドのはこのサイズな。でも、それでもグリッドは飛べてるよ」
あっさりと言われてしまったグリッドは頭をうなだらせ、本来感じないはずの重さがぐっと増したように感じたが、めげずに走り続けた。
住宅街を駆け、いくつかの倒壊した家屋が現れ始める。
そして村というくくりが終わりそうになり、軒のラインが切れた頃、目の前に見えてきたのは石に腰かける2人の青年――――
「やあっとグリッド便終了だ。お届け物はモノじゃなく言葉、ってな」
とはいえただの言伝の上にモノもあるんだが、と付け足してから、グリッドは大きく息を吸い込む。
そして思いっきり叫んだ。
これまで落とし穴に引っ掛かっていないのは、彼の運がなす技か、それとも落ちる前に穴を通り抜けてしまっているからか。
天使化による強化は破壊的と言えるまでの力を引き出させていたが、肝心の背中の羽はただのお飾りなのか、
風にそよいで悠然としているだけだ。
背中のメルディが触れてみても後天性の羽であるため、簡単にすり抜けてしまう。
「グリッドのはロイドが翼よりちっちゃいんだな」
「甘いなメルディ。俺の翼は目に見えないところにあるんだぜ!」
「ううん、グリッドのはこのサイズな。でも、それでもグリッドは飛べてるよ」
あっさりと言われてしまったグリッドは頭をうなだらせ、本来感じないはずの重さがぐっと増したように感じたが、めげずに走り続けた。
住宅街を駆け、いくつかの倒壊した家屋が現れ始める。
そして村というくくりが終わりそうになり、軒のラインが切れた頃、目の前に見えてきたのは石に腰かける2人の青年――――
「やあっとグリッド便終了だ。お届け物はモノじゃなく言葉、ってな」
とはいえただの言伝の上にモノもあるんだが、と付け足してから、グリッドは大きく息を吸い込む。
そして思いっきり叫んだ。
不安の影に囚われていた中、グリッドたちの訪問はヴェイグにとって僥倖だった。
腕が1本なくなっていることに驚きもしたが、当人はけろっとした表情で
「あー腕持ってきてヴェイグにくっつけてもらえばよかったかなー」などとのたまうものだから、ヴェイグの心配はあっけなく吹き飛ばされた。
それに、ティトレイが普通に行動を共にしていることに驚いたのは相手も同じだった。
北地区でのことを話すと、グリッドは笑ってうんうんと頷いていた。
そして、その笑顔ががらっと変わって、西ではロイドが死んだことがヴェイグ達に伝えられた。
ロイドたちを見捨ててきたも同然であるヴェイグは、複雑な思いを抱えながらも何も言うことが出来なかった。
自分を支えてくれた仲間の1人だというのに、最期に立ち会うこともなかった。得も言われぬ罪悪感が心中を漂う。
「そんな顔をするんじゃない。ここに来たのはお前の意思だろう。なら、悲しみはしても後悔はするんじゃない」
そう言うグリッドの表情も、眉間に皺が寄せられ、ぐしゃぐしゃになりかけていた。
少なくとも、遠くから守れなかったことよりも、その場にいて仲間を目の前で殺される方が辛い。
その発想に至ってヴェイグは申し訳なさげに俯いた。
「クレス……やっぱりあいつ……」
「クレスは俺とキールのユニゾンアタックで撃破した。……と、ティトレイだったか。1つ話がある」
手早くメルディを降ろし、つかつかと近寄るグリッド。ティトレイが返事の音を作る前に事は終わっていた。
腕が1本なくなっていることに驚きもしたが、当人はけろっとした表情で
「あー腕持ってきてヴェイグにくっつけてもらえばよかったかなー」などとのたまうものだから、ヴェイグの心配はあっけなく吹き飛ばされた。
それに、ティトレイが普通に行動を共にしていることに驚いたのは相手も同じだった。
北地区でのことを話すと、グリッドは笑ってうんうんと頷いていた。
そして、その笑顔ががらっと変わって、西ではロイドが死んだことがヴェイグ達に伝えられた。
ロイドたちを見捨ててきたも同然であるヴェイグは、複雑な思いを抱えながらも何も言うことが出来なかった。
自分を支えてくれた仲間の1人だというのに、最期に立ち会うこともなかった。得も言われぬ罪悪感が心中を漂う。
「そんな顔をするんじゃない。ここに来たのはお前の意思だろう。なら、悲しみはしても後悔はするんじゃない」
そう言うグリッドの表情も、眉間に皺が寄せられ、ぐしゃぐしゃになりかけていた。
少なくとも、遠くから守れなかったことよりも、その場にいて仲間を目の前で殺される方が辛い。
その発想に至ってヴェイグは申し訳なさげに俯いた。
「クレス……やっぱりあいつ……」
「クレスは俺とキールのユニゾンアタックで撃破した。……と、ティトレイだったか。1つ話がある」
手早くメルディを降ろし、つかつかと近寄るグリッド。ティトレイが返事の音を作る前に事は終わっていた。
一閃。
まさにそう例えてもおかしくはない左からのストレートが、ごうを音を立ててティトレイの頬をえぐっていた。
不意の攻撃と殴打自体の速さも相まって、ティトレイは受け身を取ることもなく地に転がった。
ヴェイグとメルディも多少なりとも驚いた顔をしていた――とはいえヴェイグはユニゾンアタックについて聞いた時点で驚いていた――が、
何よりも驚いているのはティトレイ自身だった。
「昨日はどうもお世話になりました。あんな超弩級の砲撃に、毒まで喰らわせおって!!」
「い、いや秘奥義はともかく、毒はおっさんがしたことだろ!?」
反論する前にもう一撃。半身を起こしたところで今度は裏拳で反対側に喰らい、両側とも赤くなってしまっている。
一方的な加虐にティトレイも怒気をはらんだ目つきでグリッドを見るが、当人は気にも留めず、目を閉じて鼻から息をもらした。
「……今のはジェイとヴェイグの分だ。2人でこの一発でおしまい」
噛みつかんとまでに膨れ上がっていた怒気が、すっと冷めていったようにヴェイグは思えた。
この言葉に驚愕したのは何もティトレイだけではなく、ヴェイグもその1人だった。
ジェイを死なせてしまったのは誤殺した自分が原因だと考えていたのに、グリッドは遠慮もなくティトレイを殴った。
確かにあの状況を招いたのはティトレイだ。だが、実際問題歩いていただけで、何の手も出していない。
むしろ殺されようとする側だったのだ。ヴェイグからしたら、何故こう非を咎められるのか、訳が分からなかった。
――いや、もしかしたら。ヴェイグの中で1つの光景が蘇る。
グリッドは、ジェイが死ぬ状況を招いたことを責めているのではないのかもしれない。
それなら単に「ジェイの分」と、自分を含める必要はないのだから。
ティトレイは何も言わず沈黙していたが、殴られた頬に触れた後、ぱんぱんと両手で2回叩いた。
心なしか、左頬の方が赤く腫れている。
「分かってるぜ。俺はもう、嘘はつかないって決めてんだ」
それを聞いて、にやりとグリッドの口角が上がる。
「我らが新生・漆黒の翼はバトルロワイアルに抗う者なら誰でも入団可能である。というわけで! お前は今日から一員だ」
「勝手に決めんなよ! ……でも漆黒の翼ってあれだろ、ギンナルたちのだろ? なら結構楽しそうかもな」
あれを楽しそうと思う感覚がどうかと思うが、とヴェイグは呆れそうにもなったが、それでも気持ちは重苦しいものではなかった。
グリッドのこの才能は以前からもあったような気がするが、どこか違うように思えると、ヴェイグはリーダーを見ながら耽っていた。
「で、お前は何しに来たんだよ?」
「おお、そうだった。収集命令だ、キールが中央に集まれと」
その言葉を聞いても2人の表情はいまいちぱっとしなかった。
カイルのことを既に聞いていたグリッドは片腕でぽりぽりと頭をかいて、弱った様子を見せる。
「まあ、カイルも連れてこいと言っていたからな。分かった、だが必ず5分前には広場に来い。それともう1つ、条件がある」
グリッドはサックから、キールに渡された首輪とメモを取り出す。何も言わず、ヴェイグたちの方へと差し出す。
「……これを、どうしろと?」
「知らん。キールから言われたんだ。詳しくはそれを見ろ。あと、できればお前よりティトレイの方がいいとも言っていた」
「はあ? 何で俺が?」
「だから知らん」
まさにそう例えてもおかしくはない左からのストレートが、ごうを音を立ててティトレイの頬をえぐっていた。
不意の攻撃と殴打自体の速さも相まって、ティトレイは受け身を取ることもなく地に転がった。
ヴェイグとメルディも多少なりとも驚いた顔をしていた――とはいえヴェイグはユニゾンアタックについて聞いた時点で驚いていた――が、
何よりも驚いているのはティトレイ自身だった。
「昨日はどうもお世話になりました。あんな超弩級の砲撃に、毒まで喰らわせおって!!」
「い、いや秘奥義はともかく、毒はおっさんがしたことだろ!?」
反論する前にもう一撃。半身を起こしたところで今度は裏拳で反対側に喰らい、両側とも赤くなってしまっている。
一方的な加虐にティトレイも怒気をはらんだ目つきでグリッドを見るが、当人は気にも留めず、目を閉じて鼻から息をもらした。
「……今のはジェイとヴェイグの分だ。2人でこの一発でおしまい」
噛みつかんとまでに膨れ上がっていた怒気が、すっと冷めていったようにヴェイグは思えた。
この言葉に驚愕したのは何もティトレイだけではなく、ヴェイグもその1人だった。
ジェイを死なせてしまったのは誤殺した自分が原因だと考えていたのに、グリッドは遠慮もなくティトレイを殴った。
確かにあの状況を招いたのはティトレイだ。だが、実際問題歩いていただけで、何の手も出していない。
むしろ殺されようとする側だったのだ。ヴェイグからしたら、何故こう非を咎められるのか、訳が分からなかった。
――いや、もしかしたら。ヴェイグの中で1つの光景が蘇る。
グリッドは、ジェイが死ぬ状況を招いたことを責めているのではないのかもしれない。
それなら単に「ジェイの分」と、自分を含める必要はないのだから。
ティトレイは何も言わず沈黙していたが、殴られた頬に触れた後、ぱんぱんと両手で2回叩いた。
心なしか、左頬の方が赤く腫れている。
「分かってるぜ。俺はもう、嘘はつかないって決めてんだ」
それを聞いて、にやりとグリッドの口角が上がる。
「我らが新生・漆黒の翼はバトルロワイアルに抗う者なら誰でも入団可能である。というわけで! お前は今日から一員だ」
「勝手に決めんなよ! ……でも漆黒の翼ってあれだろ、ギンナルたちのだろ? なら結構楽しそうかもな」
あれを楽しそうと思う感覚がどうかと思うが、とヴェイグは呆れそうにもなったが、それでも気持ちは重苦しいものではなかった。
グリッドのこの才能は以前からもあったような気がするが、どこか違うように思えると、ヴェイグはリーダーを見ながら耽っていた。
「で、お前は何しに来たんだよ?」
「おお、そうだった。収集命令だ、キールが中央に集まれと」
その言葉を聞いても2人の表情はいまいちぱっとしなかった。
カイルのことを既に聞いていたグリッドは片腕でぽりぽりと頭をかいて、弱った様子を見せる。
「まあ、カイルも連れてこいと言っていたからな。分かった、だが必ず5分前には広場に来い。それともう1つ、条件がある」
グリッドはサックから、キールに渡された首輪とメモを取り出す。何も言わず、ヴェイグたちの方へと差し出す。
「……これを、どうしろと?」
「知らん。キールから言われたんだ。詳しくはそれを見ろ。あと、できればお前よりティトレイの方がいいとも言っていた」
「はあ? 何で俺が?」
「だから知らん」
鼻息を荒くし何故自信満々に語るグリッドに、ヴェイグは頭痛を起こしそうになったが、
とりあえず首輪を1つ受け取るとそれはティトレイに渡し、言われた通りにメモを見た。
内容はフォルスに関する記述ばかりで、大抵が以前キールに話したことばかりだ。
首輪と一緒に渡されたものの、首輪の構造などが書かれたメモは一切ない。
少なくとも、キールは首輪の解除方法を求めているわけではないのだろう。
メモの端々に書かれている追記にも、他系統の術との比較など、フォルスの特異性に関しての記述が目立つ。
(ティトレイも以前、ミトスの指示でフォルスによる首輪の爆破を行ったと言っていた。
キールもミトスも、あのデミテルも……やはり、フォルスは何か他とは違うのか……?)
沈黙したままヴェイグは一考する。
先程まで頭のいい人間の仕事だと思っていたことが、その人間から逆に返し手を食らってしまった。
ただ、わざわざあのキールが頼むということは、やはりキールだけでは出来ないことなのだ。
となると、やはり自分たちにしかないものを必要としているということなのか。
北の空に目を移すと、なおも光は絶えていない。むしろ、更に激しさを増しているようだ。
発生した雲や、明らかに一部帯だけにかかっている靄。
カイルとミトスは、互いの全力を出し合ってぶつかっているのだろう。
そうそう終わるものではないと、嬉しいのか悲しいのか分からずにそう思った。
「恐らく、これで俺たちの力を試せということなんだろう。引き受ける」
「そうか、助かる。じゃあ俺たちは……」
「いや、待て」
立ち去ろうとするグリッドを引き止めるが、ヴェイグの視線は彼ではなく、
その後ろで1人クィッキーの傷を看ているメルディへと向けられていた。
ぼんやりと青い毛並みを撫でていた彼女は、その視線に気づいたのか、ゆっくりと陰った瞳を3人の方へと向けた。
ヴェイグの隣にいたティトレイが、少しだけ瞳を大きくする。そのことに気がついたのは誰もいなかった。
「メルディ、こっちに来てほしい」
不思議そうな面持ちをしながら、メルディはクィッキーを肩に乗せて近寄る。
1歩分の距離を空けて立ち止まったが、ヴェイグは小さく手招きをして更に呼んだ。
手を伸ばせば簡単に顔に触れられる距離にまでなり、ヴェイグはティトレイの方に振り向く。
そして、キールに渡されたメモの一文を指差して示す。
とりあえず首輪を1つ受け取るとそれはティトレイに渡し、言われた通りにメモを見た。
内容はフォルスに関する記述ばかりで、大抵が以前キールに話したことばかりだ。
首輪と一緒に渡されたものの、首輪の構造などが書かれたメモは一切ない。
少なくとも、キールは首輪の解除方法を求めているわけではないのだろう。
メモの端々に書かれている追記にも、他系統の術との比較など、フォルスの特異性に関しての記述が目立つ。
(ティトレイも以前、ミトスの指示でフォルスによる首輪の爆破を行ったと言っていた。
キールもミトスも、あのデミテルも……やはり、フォルスは何か他とは違うのか……?)
沈黙したままヴェイグは一考する。
先程まで頭のいい人間の仕事だと思っていたことが、その人間から逆に返し手を食らってしまった。
ただ、わざわざあのキールが頼むということは、やはりキールだけでは出来ないことなのだ。
となると、やはり自分たちにしかないものを必要としているということなのか。
北の空に目を移すと、なおも光は絶えていない。むしろ、更に激しさを増しているようだ。
発生した雲や、明らかに一部帯だけにかかっている靄。
カイルとミトスは、互いの全力を出し合ってぶつかっているのだろう。
そうそう終わるものではないと、嬉しいのか悲しいのか分からずにそう思った。
「恐らく、これで俺たちの力を試せということなんだろう。引き受ける」
「そうか、助かる。じゃあ俺たちは……」
「いや、待て」
立ち去ろうとするグリッドを引き止めるが、ヴェイグの視線は彼ではなく、
その後ろで1人クィッキーの傷を看ているメルディへと向けられていた。
ぼんやりと青い毛並みを撫でていた彼女は、その視線に気づいたのか、ゆっくりと陰った瞳を3人の方へと向けた。
ヴェイグの隣にいたティトレイが、少しだけ瞳を大きくする。そのことに気がついたのは誰もいなかった。
「メルディ、こっちに来てほしい」
不思議そうな面持ちをしながら、メルディはクィッキーを肩に乗せて近寄る。
1歩分の距離を空けて立ち止まったが、ヴェイグは小さく手招きをして更に呼んだ。
手を伸ばせば簡単に顔に触れられる距離にまでなり、ヴェイグはティトレイの方に振り向く。
そして、キールに渡されたメモの一文を指差して示す。
『メルディの首輪をフォルスでコーティングしてほしい。変な気は起こすな。下手なことはするな。
ヴェイグなら外側を氷で、ティトレイの場合はヴェイグと同程度でいい。それ以上のことをしたら殺す』
ヴェイグなら外側を氷で、ティトレイの場合はヴェイグと同程度でいい。それ以上のことをしたら殺す』
大変物騒な内容である。自分が離れている間に一体何があったのかと疑いたくもなる内容である。
そこまで言うなら頼まなければいいのに、とさえ思ってしまう。
ヴェイグはティトレイの方を見たまま動かない。
そこまで言うなら頼まなければいいのに、とさえ思ってしまう。
ヴェイグはティトレイの方を見たまま動かない。
「……俺の方がいいって、そういうことかよ。ヴェイグじゃ凍傷とかしちまいそうだもんな」
重たい息をついて、メルディの方へと向き直るティトレイ。
曇り切ってしまった深紫色の瞳は、彼には見るに堪えないものだった。
彼女の表情は鏡に見立てたガラスのようで、いつか見た自分の表情と全く瓜二つだったのだ。
かつての姿を想起させる彼女の姿に、こんな顔をしていたのだと胸が苦しくなる。
何よりも――何故そうなったのかまでは分からずとも――彼女は深い絶望を抱いているのだと分かるのだ。
それだけではあるが、それがどんなに辛く苦しいのかは、ティトレイも分かっている。
「……あんた、俺に似てるな」
聞こえるか聞こえないかの境目くらいの声量でティトレイは言う。
「大丈夫、諦めさえしなければ、絶対何とかなる」
それでも、届かないと思うのは何故なのか。
当然だ、その人にはその人の問題があり、それは自ら乗り越えていかなければならないのだから。
自分にできるのはせめてもの励ましくらいだ。きっと、届きはしないだろう。彼女の目は変わらない。
だが、言うことにこそ意味がある。自分がその証人だと、ティトレイは分かっていた。
フォルスを発動させ、首輪に蔓を巻きつけていく。おまけにティートレーイの花を一輪つけてあげた。
少し息苦しいのではないか、と思ったが、それはメルディの表情には表れなくてうかがい知れなかった。
「こんなもんでいいのか? イマイチよく分かんねえんだけど」
確かに、これが一体どんな影響を及ぼすのか、正直3人には皆目見当もつかなかった。
しかしこれ以上すれば逆にこちらがキールに首を飛ばされてしまう。
ましてや、首輪に手を出すというのは、普通に考えれば度胸のいることなのだ。
下手すれば爆発しかねないものを、何故わざわざ空の首輪ではなくメルディの首輪で確かめたのか、ヴェイグには疑問を禁じ得なかった。
「まあ、これで用件はおしまいだな。再度通告だが、時間までには必ず来い。それ以上は保障できんとのこと」
「……分かっている」
返事を受け取ると、グリッドは再度メルディをおぶり、中央に向かって走り出した。
最後に見たグリッドの表情は、陰りのない不敵な笑顔――だったように思う。
すぐに小さくなっていく後ろ姿を見送りながら、ヴェイグは背に広がる空の向こうのことを考えた。
果たして、時間通りに戻ってくることは出来るのだろうか、と。
さっきまで手に持っていた首輪が、形もないのに急に手の中にあるような気がしてきて、ずしりと更に重くなった。
密接に肌とくっつきそのまま身体の一部となって剥がれなくなってしまうようだった。
時間と、たった1つしかない掛け替えのない代償を自分に伝えてきている。
周りに漂う時間がどんどん遅延していき、手袋の中でゆっくりと汗が流れる。
思考と自分という存在だけが、やけにくっきりと浮かび上がっている。
自分の中で、どこか「大丈夫」だという気持ちがあった。
だが、突如突きつけられた時間という現実は、周りの空を冷たく、渇いたものにしていった。
そして何よりも、犯した罪はなおも自分にこびり付いているのだと、嘲り笑っていった。
グリッドたちの帰っていく最後の姿が目に映る。
今の自分の表情はあいつとは全く違うのだろう、とヴェイグは思った。
カイルは本当に戻ってこれるのか――――自分は、戻れるのだろうか。
重たい息をついて、メルディの方へと向き直るティトレイ。
曇り切ってしまった深紫色の瞳は、彼には見るに堪えないものだった。
彼女の表情は鏡に見立てたガラスのようで、いつか見た自分の表情と全く瓜二つだったのだ。
かつての姿を想起させる彼女の姿に、こんな顔をしていたのだと胸が苦しくなる。
何よりも――何故そうなったのかまでは分からずとも――彼女は深い絶望を抱いているのだと分かるのだ。
それだけではあるが、それがどんなに辛く苦しいのかは、ティトレイも分かっている。
「……あんた、俺に似てるな」
聞こえるか聞こえないかの境目くらいの声量でティトレイは言う。
「大丈夫、諦めさえしなければ、絶対何とかなる」
それでも、届かないと思うのは何故なのか。
当然だ、その人にはその人の問題があり、それは自ら乗り越えていかなければならないのだから。
自分にできるのはせめてもの励ましくらいだ。きっと、届きはしないだろう。彼女の目は変わらない。
だが、言うことにこそ意味がある。自分がその証人だと、ティトレイは分かっていた。
フォルスを発動させ、首輪に蔓を巻きつけていく。おまけにティートレーイの花を一輪つけてあげた。
少し息苦しいのではないか、と思ったが、それはメルディの表情には表れなくてうかがい知れなかった。
「こんなもんでいいのか? イマイチよく分かんねえんだけど」
確かに、これが一体どんな影響を及ぼすのか、正直3人には皆目見当もつかなかった。
しかしこれ以上すれば逆にこちらがキールに首を飛ばされてしまう。
ましてや、首輪に手を出すというのは、普通に考えれば度胸のいることなのだ。
下手すれば爆発しかねないものを、何故わざわざ空の首輪ではなくメルディの首輪で確かめたのか、ヴェイグには疑問を禁じ得なかった。
「まあ、これで用件はおしまいだな。再度通告だが、時間までには必ず来い。それ以上は保障できんとのこと」
「……分かっている」
返事を受け取ると、グリッドは再度メルディをおぶり、中央に向かって走り出した。
最後に見たグリッドの表情は、陰りのない不敵な笑顔――だったように思う。
すぐに小さくなっていく後ろ姿を見送りながら、ヴェイグは背に広がる空の向こうのことを考えた。
果たして、時間通りに戻ってくることは出来るのだろうか、と。
さっきまで手に持っていた首輪が、形もないのに急に手の中にあるような気がしてきて、ずしりと更に重くなった。
密接に肌とくっつきそのまま身体の一部となって剥がれなくなってしまうようだった。
時間と、たった1つしかない掛け替えのない代償を自分に伝えてきている。
周りに漂う時間がどんどん遅延していき、手袋の中でゆっくりと汗が流れる。
思考と自分という存在だけが、やけにくっきりと浮かび上がっている。
自分の中で、どこか「大丈夫」だという気持ちがあった。
だが、突如突きつけられた時間という現実は、周りの空を冷たく、渇いたものにしていった。
そして何よりも、犯した罪はなおも自分にこびり付いているのだと、嘲り笑っていった。
グリッドたちの帰っていく最後の姿が目に映る。
今の自分の表情はあいつとは全く違うのだろう、とヴェイグは思った。
カイルは本当に戻ってこれるのか――――自分は、戻れるのだろうか。
遠くから聞こえた爆発音に、ヴェイグは我に返ったように身体を震わせた。
音がした方向を見ると、ティトレイが自前の弓を構えており、その前方には地面が焦げ付いたのだろう小さな跡が残っていた。
視線に気づいたのか、ティトレイは振り返ってヴェイグの方を見た。
「ヴェイグ? どうしたんだよ、ぼーっとしちまって」
まだぼんやりとした表情を浮かべていたのか、ティトレイは驚きと心配が混ざったような面持ちだった。
何も言わず焦げ跡の方を見ると、「ああ」と首を振りながら言い、そのまま言葉を続けた。
「早いとこ、これやっちまった方がいいんじゃねえかと思って。カイルたちがいつ帰ってくるか分かんねえんだから。
にしても意外とこれあっけなく爆発するんだな。俺が前やった時はもっと違ったのに――――」
爆発後を指し示しながら説明するティトレイの言葉も、ヴェイグには残骸としてしか頭に残らなかった。
どうしても、先刻の感覚が心身にこびりついて離れない。
昨夜の海岸で首輪を爆発させたときのことを語っていたティトレイも、親友の異変に勘づいたのか、
いつもは快活明瞭な笑顔を珍しく曇らせた。
「……俺、何となくだけどよ、今だけはお前が考えてること分かるよ」
そう呟いて、ティトレイはグリッドたちが消えていった街路の方へ顔を動かした。
姿はもう消えてしまっているが、網膜に焼きついた残像として、後ろ姿と影の幻が道に浮かび上がる。
「多分、俺も同じことを思ったんだ」
ヴェイグは答えはしない。少なくとも、何か言葉を発してしまったら、
この島に来て自分の中で欠けてしまったものはあるのだと、痛烈に感じてしまうから。
ティトレイも言葉を促すようなことはしなかった。欠落は2人とも同じことが言えた。
近くの岩にティトレイは腰かける。再び草を出して、それで口に鍵を掛けるように口内に差し込んだ。
周囲には夕闇と静寂だけが満ちる。それでも、赤い空に浮かぶ戦いの軌跡は消えそうにない。
帰ってこない空の星々、帰っていく後ろ姿、それらを思い浮かべながら、
2人は懐かしい世界の風景に自分の姿を重ねることがどんな意味を持つのか、浮かんでは消える思いを定めようとしていた。
音がした方向を見ると、ティトレイが自前の弓を構えており、その前方には地面が焦げ付いたのだろう小さな跡が残っていた。
視線に気づいたのか、ティトレイは振り返ってヴェイグの方を見た。
「ヴェイグ? どうしたんだよ、ぼーっとしちまって」
まだぼんやりとした表情を浮かべていたのか、ティトレイは驚きと心配が混ざったような面持ちだった。
何も言わず焦げ跡の方を見ると、「ああ」と首を振りながら言い、そのまま言葉を続けた。
「早いとこ、これやっちまった方がいいんじゃねえかと思って。カイルたちがいつ帰ってくるか分かんねえんだから。
にしても意外とこれあっけなく爆発するんだな。俺が前やった時はもっと違ったのに――――」
爆発後を指し示しながら説明するティトレイの言葉も、ヴェイグには残骸としてしか頭に残らなかった。
どうしても、先刻の感覚が心身にこびりついて離れない。
昨夜の海岸で首輪を爆発させたときのことを語っていたティトレイも、親友の異変に勘づいたのか、
いつもは快活明瞭な笑顔を珍しく曇らせた。
「……俺、何となくだけどよ、今だけはお前が考えてること分かるよ」
そう呟いて、ティトレイはグリッドたちが消えていった街路の方へ顔を動かした。
姿はもう消えてしまっているが、網膜に焼きついた残像として、後ろ姿と影の幻が道に浮かび上がる。
「多分、俺も同じことを思ったんだ」
ヴェイグは答えはしない。少なくとも、何か言葉を発してしまったら、
この島に来て自分の中で欠けてしまったものはあるのだと、痛烈に感じてしまうから。
ティトレイも言葉を促すようなことはしなかった。欠落は2人とも同じことが言えた。
近くの岩にティトレイは腰かける。再び草を出して、それで口に鍵を掛けるように口内に差し込んだ。
周囲には夕闇と静寂だけが満ちる。それでも、赤い空に浮かぶ戦いの軌跡は消えそうにない。
帰ってこない空の星々、帰っていく後ろ姿、それらを思い浮かべながら、
2人は懐かしい世界の風景に自分の姿を重ねることがどんな意味を持つのか、浮かんでは消える思いを定めようとしていた。
【グリッド 生存確認】
状態:HP15% TP10% プリムラ・ユアンのサック所持 天使化 心臓喪失 自分が失われることへの不安
左脇腹から胸に掛けて中裂傷 右腹部貫通 左太股貫通 右手小指骨折 左右胸部貫通 右腕損失
習得スキル:『通常攻撃三連』『瞬雷剣』『ライトニング』『サンダーブレード』
『スパークウェブ』『衝破爆雷陣』『天翔雷斬撃』『インディグネイション』
所持品:リーダー用漆黒の翼のバッジ 漆黒の輝石 首輪×3 ジェットブーツ
ソーサラーリング@雷属性モード リバヴィウス鉱 マジックミスト 漆黒の翼バッジ×5
基本行動方針:バトルロワイアルを否定する。現状ではキールの方策に従う。
第一行動方針:メルディを連れて中央広場に向かう
第二行動方針:キールにヴェイグたちと首輪のことを説明する
現在位置:C3村北地区→中央広場
状態:HP15% TP10% プリムラ・ユアンのサック所持 天使化 心臓喪失 自分が失われることへの不安
左脇腹から胸に掛けて中裂傷 右腹部貫通 左太股貫通 右手小指骨折 左右胸部貫通 右腕損失
習得スキル:『通常攻撃三連』『瞬雷剣』『ライトニング』『サンダーブレード』
『スパークウェブ』『衝破爆雷陣』『天翔雷斬撃』『インディグネイション』
所持品:リーダー用漆黒の翼のバッジ 漆黒の輝石 首輪×3 ジェットブーツ
ソーサラーリング@雷属性モード リバヴィウス鉱 マジックミスト 漆黒の翼バッジ×5
基本行動方針:バトルロワイアルを否定する。現状ではキールの方策に従う。
第一行動方針:メルディを連れて中央広場に向かう
第二行動方針:キールにヴェイグたちと首輪のことを説明する
現在位置:C3村北地区→中央広場
【メルディ 生存確認】
状態:TP35% 生への失望?(TP最大値が半減。上級術で廃人化?) 神の罪の意識
キールにサインを教わった 首輪フォルス付加状態
所持品:スカウトオーブ・少ない トレカ カードキー ウグイスブエ BCロッド
双眼鏡 漆黒の翼のバッジ クィッキー(戦闘不可) マジカルポーチ ニンジン
基本行動方針:本当の意味で、ロイドが見たものを知る
第一行動方針:グリッドと共に中央広場に戻る
第二行動方針:キールを独りにしない
現在位置:C3村北地区→中央広場
状態:TP35% 生への失望?(TP最大値が半減。上級術で廃人化?) 神の罪の意識
キールにサインを教わった 首輪フォルス付加状態
所持品:スカウトオーブ・少ない トレカ カードキー ウグイスブエ BCロッド
双眼鏡 漆黒の翼のバッジ クィッキー(戦闘不可) マジカルポーチ ニンジン
基本行動方針:本当の意味で、ロイドが見たものを知る
第一行動方針:グリッドと共に中央広場に戻る
第二行動方針:キールを独りにしない
現在位置:C3村北地区→中央広場
【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態:HP20%(動くまで回復継続中) TP35% リバウンド克服 放送をまともに聞いていない 背部裂傷 不安
所持品:フィートシンボル メンタルバングル バトルブック(半分燃焼) チンクエディア
オーガアクス 短弓(腕に装着)
基本行動方針:罪を受け止め生きる
第一行動方針:カイルの帰還を待つ
第二行動方針:ミントの邪魔をさせない
現在位置:C3村北地区
状態:HP20%(動くまで回復継続中) TP35% リバウンド克服 放送をまともに聞いていない 背部裂傷 不安
所持品:フィートシンボル メンタルバングル バトルブック(半分燃焼) チンクエディア
オーガアクス 短弓(腕に装着)
基本行動方針:罪を受け止め生きる
第一行動方針:カイルの帰還を待つ
第二行動方針:ミントの邪魔をさせない
現在位置:C3村北地区
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP25% TP25% 他人の死への拒絶 リオンのサック所持 刺傷 不安
両腕内出血 背中3箇所裂傷 胸に裂傷 打撲
軽微疲労 左眼失明(眼球破裂、眼窩を布で覆ってます) 胸甲無し
所持品:忍刀桔梗 ミトスの手紙 漆黒の翼のバッジ ナイトメアブーツ ホーリィリング
基本行動方針:罪を受け止め生きる
第一行動方針:カイルの帰還を待つ
第二行動方針:ロイド達の安否が気になる
第三行動方針:カイルに全てを告げる
現在位置:C3村北地区
状態:HP25% TP25% 他人の死への拒絶 リオンのサック所持 刺傷 不安
両腕内出血 背中3箇所裂傷 胸に裂傷 打撲
軽微疲労 左眼失明(眼球破裂、眼窩を布で覆ってます) 胸甲無し
所持品:忍刀桔梗 ミトスの手紙 漆黒の翼のバッジ ナイトメアブーツ ホーリィリング
基本行動方針:罪を受け止め生きる
第一行動方針:カイルの帰還を待つ
第二行動方針:ロイド達の安否が気になる
第三行動方針:カイルに全てを告げる
現在位置:C3村北地区
※この後、ヴェイグとティトレイは356話のポプラおばさんの話に繋がる形になります。