Ace Combat -No Hero in Starry Heavens-
咽び泣くような啜る彼女の声に、あるはずのない肉感的な疼きをディムロスは覚えた。
本来ならソーディアンである自分たちには有り得ない、しかし決して不快ではないそれを掬いとって眺めるように楽しむ。
壊れているのは、自分も彼女も同じなのかもしれないなと思った―――――“奴”の言うとおり。
(!! しまっ―――――――)
ディムロスの意識が戦闘用に組み替えられていくが、アトワイトの方に完全に注力していたそれが戻るのに数瞬のラグが生じる。
彼女の方だけを見つめていたからこそ、ディムロスは彼女の手を取ることが出来た。
本来ならソーディアンである自分たちには有り得ない、しかし決して不快ではないそれを掬いとって眺めるように楽しむ。
壊れているのは、自分も彼女も同じなのかもしれないなと思った―――――“奴”の言うとおり。
(!! しまっ―――――――)
ディムロスの意識が戦闘用に組み替えられていくが、アトワイトの方に完全に注力していたそれが戻るのに数瞬のラグが生じる。
彼女の方だけを見つめていたからこそ、ディムロスは彼女の手を取ることが出来た。
『…………ミトス!?』
「アブソリュート――――――――絶対零度」
「アブソリュート――――――――絶対零度」
だからこそ――――――――ミトスがこのタイミングで動くのは至極当然のことと言えた。
アトワイトの声につられて真上を見上げるディムロス。そこには、転移の光の粒子を撒き散らしながら、両の手を添えるようにして抱えられた氷塊があった。
八割組み上げられた意識でディムロスは理解する。あの時ミトスはアトワイトを落したのではなく“手放した”のだ。
ディムロスの意識が戦闘から完全に乖離するこの一点の為の布石としてか。
その真意は別にしても、その推測は現実に符合していた。アトワイトの驚きがそれを裏付けている。
カイルの後頭部を目掛けて完全に分子運動を止めた氷塊が落ちるように飛ぶが、彼らの応対は一歩間に合わない。
『カイ―――――――』
アトワイトの声につられて真上を見上げるディムロス。そこには、転移の光の粒子を撒き散らしながら、両の手を添えるようにして抱えられた氷塊があった。
八割組み上げられた意識でディムロスは理解する。あの時ミトスはアトワイトを落したのではなく“手放した”のだ。
ディムロスの意識が戦闘から完全に乖離するこの一点の為の布石としてか。
その真意は別にしても、その推測は現実に符合していた。アトワイトの驚きがそれを裏付けている。
カイルの後頭部を目掛けて完全に分子運動を止めた氷塊が落ちるように飛ぶが、彼らの応対は一歩間に合わない。
『カイ―――――――』
「落ちろ、浄化の炎ッ!」
そう、たった一人を除いて。
そう、たった一人を除いて。
無意味な警告が言い終わるよりも早く、ディムロスの身体が引っ張られた。
捩じるように振り向かされて、ミトスの方へと刀身が向けられる。
彼の核たるレンズが一層に輝くが、ディムロスの自覚的なものではなかった。
何事か、と理解するよりも早くディムロスは体感する。間に合ったのかと。
「『エンシェント、ノヴァ!!』」
剣二本を右手に収めて空いているカイルの左手に赤白い炎熱が集い放たれる。
自分の非力を剣の借力にて補って放たれるは、彼女の炎。
古代の焔と銘打たれていながらもディムロスのそれに比べて稚拙で、研鑽は無く、足りないものが多かった。
だが、それを補って余りある若さと熱気が風を巻き込んで爆ぜる。
アトワイト無きミトスの氷とディムロスを持つカイルの焔は互角の様相を見せ、一気に水蒸気が巻き上がった。
冷気と熱気が怨嗟の如く渦を巻いて、風を促す。
『この風、そうか、これがミトスの単独飛行……いや、単独遊泳の仕掛けか!?』
白い雲粒の流動をその眼に写しながら、ディムロスは現象の意味を掴んだ。
氷と炎―――――冷気と熱気。真逆の属性が、急激な温度差を生み、その温度差は気圧差を生む。
そして気圧の落差は気流を――――――――即ち、風を生む。
アトワイトとディムロス程の能力が条件を揃えてぶつかれば、台風と呼べるレベルにまで到達するであろう。
ミトスは空を飛んでいたのではない。人さえも吹き飛ばせるほどの風をその羽根に受けて、流れていただけなのだ。
『気象操作? だが、イクティノス無しでか? 間接制御だけでそこまでやれるのか!?』
『それが、出来るのよ…………ミトスは、唯の魔法剣士じゃない……』
ディムロスの驚きに、アトワイトが苦悶するように応じた。
この風の中でも聞こえるのか、耳聡いミトスの声が雲煙の向こうから響く。
周波数の微細な増加が、接敵していることを伝えていた。
「技術的にしかマナを捉えられないソーディアンには、理解が出来ないだろうけどね。
シルフ無しで制御なんて何百年ぶりかも忘れるくらい久し振りだったから、ここまで調伏するのに時間がかかった、よ!!」
風が威を弱め、雲が晴れた先からファフニールを持って迫りくるミトスの姿が映る。
それは魔術と剣技を操る魔法剣士でもなく、時間と空間を操る時空剣士としてでもなく、
自然現象の概念集合たる精霊との対話を為し得た、万世を統べる召喚士として風に乗っていた。
退くべきだと、太陽の傾斜を確認したディムロスの理性が当然の意見を口にする。
アトワイトは彼らの掌中にあり、厳しいとはいえ全力を出せる今なら“未だ”間に合う。
だが、ディムロスはそれを言わなかった。
捩じるように振り向かされて、ミトスの方へと刀身が向けられる。
彼の核たるレンズが一層に輝くが、ディムロスの自覚的なものではなかった。
何事か、と理解するよりも早くディムロスは体感する。間に合ったのかと。
「『エンシェント、ノヴァ!!』」
剣二本を右手に収めて空いているカイルの左手に赤白い炎熱が集い放たれる。
自分の非力を剣の借力にて補って放たれるは、彼女の炎。
古代の焔と銘打たれていながらもディムロスのそれに比べて稚拙で、研鑽は無く、足りないものが多かった。
だが、それを補って余りある若さと熱気が風を巻き込んで爆ぜる。
アトワイト無きミトスの氷とディムロスを持つカイルの焔は互角の様相を見せ、一気に水蒸気が巻き上がった。
冷気と熱気が怨嗟の如く渦を巻いて、風を促す。
『この風、そうか、これがミトスの単独飛行……いや、単独遊泳の仕掛けか!?』
白い雲粒の流動をその眼に写しながら、ディムロスは現象の意味を掴んだ。
氷と炎―――――冷気と熱気。真逆の属性が、急激な温度差を生み、その温度差は気圧差を生む。
そして気圧の落差は気流を――――――――即ち、風を生む。
アトワイトとディムロス程の能力が条件を揃えてぶつかれば、台風と呼べるレベルにまで到達するであろう。
ミトスは空を飛んでいたのではない。人さえも吹き飛ばせるほどの風をその羽根に受けて、流れていただけなのだ。
『気象操作? だが、イクティノス無しでか? 間接制御だけでそこまでやれるのか!?』
『それが、出来るのよ…………ミトスは、唯の魔法剣士じゃない……』
ディムロスの驚きに、アトワイトが苦悶するように応じた。
この風の中でも聞こえるのか、耳聡いミトスの声が雲煙の向こうから響く。
周波数の微細な増加が、接敵していることを伝えていた。
「技術的にしかマナを捉えられないソーディアンには、理解が出来ないだろうけどね。
シルフ無しで制御なんて何百年ぶりかも忘れるくらい久し振りだったから、ここまで調伏するのに時間がかかった、よ!!」
風が威を弱め、雲が晴れた先からファフニールを持って迫りくるミトスの姿が映る。
それは魔術と剣技を操る魔法剣士でもなく、時間と空間を操る時空剣士としてでもなく、
自然現象の概念集合たる精霊との対話を為し得た、万世を統べる召喚士として風に乗っていた。
退くべきだと、太陽の傾斜を確認したディムロスの理性が当然の意見を口にする。
アトワイトは彼らの掌中にあり、厳しいとはいえ全力を出せる今なら“未だ”間に合う。
だが、ディムロスはそれを言わなかった。
「ァァァァぁぁあああああああああ!!!!!!!!!」
左手にアトワイトを移したカイルの剣が、ミトスの剣とぶつかる。互いの顔のブレが目に判るほどに痺れ合った。
両者の威力が反転し、二人が後方に弾き飛ばされる。
数メートル飛ばされたあたりで、カイルはブレーキをしたように急激に止まり、ミトスは微細な旋回で勢いを殺すように止まった。
前を向こうとしたミトスの眼前に何かが飛来し、それをミトスは危なげなく睫毛がそれに触る位置で掴んだ。
「…………何の真似だ?」
険悪そうに眉を顰めるミトスの目の前には、その手に握られたアトワイトがあった。
「真逆、騎士道を気取ってる訳じゃないんだろうな?」
「そんなんじゃない。返せるうちに、借りを返したかっただけだ」
指をアトワイトの刃に滑らせながら威圧を効かせて放たれるミトスの言葉を、カイルは真っ向から受けた。
「借り? 奪いこそすれ、貸したものは無かったと思うけど」
「アトワイトさんのことを、待っててくれた」
カイルの言葉に、諧謔的に綴ろうとしたミトスの唇が少しだけ硬く窄めて歪んだ。
その言が正鵠を射て驚いたというよりは、それを口にしたのがカイルであるということに不快を示すような態度だった。
両者の威力が反転し、二人が後方に弾き飛ばされる。
数メートル飛ばされたあたりで、カイルはブレーキをしたように急激に止まり、ミトスは微細な旋回で勢いを殺すように止まった。
前を向こうとしたミトスの眼前に何かが飛来し、それをミトスは危なげなく睫毛がそれに触る位置で掴んだ。
「…………何の真似だ?」
険悪そうに眉を顰めるミトスの目の前には、その手に握られたアトワイトがあった。
「真逆、騎士道を気取ってる訳じゃないんだろうな?」
「そんなんじゃない。返せるうちに、借りを返したかっただけだ」
指をアトワイトの刃に滑らせながら威圧を効かせて放たれるミトスの言葉を、カイルは真っ向から受けた。
「借り? 奪いこそすれ、貸したものは無かったと思うけど」
「アトワイトさんのことを、待っててくれた」
カイルの言葉に、諧謔的に綴ろうとしたミトスの唇が少しだけ硬く窄めて歪んだ。
その言が正鵠を射て驚いたというよりは、それを口にしたのがカイルであるということに不快を示すような態度だった。
『ミとス…………貴方…………』
動揺を顕わにしてアトワイトはミトスの方を向いた。彼女自身、考えてもいなかった発想だった。
アトワイトの方を一瞥することもなく、努めて賤しそうにミトスは彼女へと言葉を返す。
「勘違いするなよ。僕が待っていたのはあっちの生煮えの方だ。
……熱が通るまで待ってみたけど、火が回っても不味そうとなると、本当に始末に負えないな」
意図的な背伸びが目につくその振る舞いに、アトワイトは見逃さなかった。
目尻が完全に泳いで、口がどうしようもなく釣り上ったその顔は、求めていたものがそこにあると云わんばかりの子供のそれであることを。
『…………だっタら、捨てるしかなインじゃない? フリーずドライにして粉ゴナあタりに』
嘆息を小さくついたアトワイトの言い返しに、ミトスは少しだけ驚きを浮かべた。
無言ではあるが、それでいいのかという疑問が目に映している。
『もウ私は何も言わないわ。本当にスきにしテイいわよ。……それでも、あノ人は一緒にいてクレるって、知ってルカら』
アトワイトもディムロスと同じことに気づいていた。それでも彼らはこうすることを選んだのだ。
ならば、もう自分が韜晦すべきことはない。彼らは一切の柵もなくこの場所に立っているのだと理解できた。
それが彼らに必要だというのならば、これほど上等な命の使い道も無い。
動揺を顕わにしてアトワイトはミトスの方を向いた。彼女自身、考えてもいなかった発想だった。
アトワイトの方を一瞥することもなく、努めて賤しそうにミトスは彼女へと言葉を返す。
「勘違いするなよ。僕が待っていたのはあっちの生煮えの方だ。
……熱が通るまで待ってみたけど、火が回っても不味そうとなると、本当に始末に負えないな」
意図的な背伸びが目につくその振る舞いに、アトワイトは見逃さなかった。
目尻が完全に泳いで、口がどうしようもなく釣り上ったその顔は、求めていたものがそこにあると云わんばかりの子供のそれであることを。
『…………だっタら、捨てるしかなインじゃない? フリーずドライにして粉ゴナあタりに』
嘆息を小さくついたアトワイトの言い返しに、ミトスは少しだけ驚きを浮かべた。
無言ではあるが、それでいいのかという疑問が目に映している。
『もウ私は何も言わないわ。本当にスきにしテイいわよ。……それでも、あノ人は一緒にいてクレるって、知ってルカら』
アトワイトもディムロスと同じことに気づいていた。それでも彼らはこうすることを選んだのだ。
ならば、もう自分が韜晦すべきことはない。彼らは一切の柵もなくこの場所に立っているのだと理解できた。
それが彼らに必要だというのならば、これほど上等な命の使い道も無い。
『……でも、アレは……出来れバ止めた方がいいと思うんダケど……無理、ヨね……』
「人の術力あれだけ使っておいて言うセリフじゃないよ。なあに、慣れれば結構楽にいける」
一種の清々しささえあったアトワイトの声が萎むように小さくなる。
そんなアトワイトの声を無視するようにして、ミトスは首に巻いて風に煽られているスカーフに手をかけた。
顎の辺りからぐいとに引っ張ったかつての魔王の外套、その下より現れたのは赤く染まった無数の生傷だった。
出血が薄い分目を凝らせば皮膚から肉に至る断面が鑢で念入りに濾されたようにぐずぐずになった処までがくっきり見えそうな傷。
自分の首にそんなものが付いているということなど意を解することなく、ミトスは右手に持ったファフニールを首筋に宛がった。
「魔界の眷属が一、強欲たる竜よ。汝が牙にて我が黄金の血を啜り慾渇を満たせしば、其の陽気を供物と我に捧げろ―――“メンタルサプライ”」
儀式めいた狂言が終わるや否や、ミトスの首に邪剣ファフニールが穿たれた。
飢えに餓えたと云わんばかりに、ミトスの皮膚の内側でその短い刀身がのた打ち回る。
まるで剣自らが意志をもっているかのように、いや、事実として存在するであろう本能が自らの歪んだ刃に少しでも血を塗りたくろうと蠢く。
この島に存在してから誰一人とし命を啜れていなかったその剣は例えそれが歪んだ命であろうと嬉しそうに心底嬉しそうに舐めた。
砂漠を彷徨う人間がオアシスに対して想うような感情が、魔力となってその剣に――――――――“蓄えられなかった”。
剣先から伝う命の通貨が、鍔を通り魔力となって、柄を握るミトスへと循環する。
外部に流出するはずの命を心の力と化して体内に回帰させるEXスキル・メンタルサプライ。
吸精の魔具を媒介として循環効率を高められたミトスの中で発動していた。
『…………せめて、治療は……無理なんデシょうね…………』
生理的な嫌悪感を隠すこともなく、アトワイトは諦めきれずに呟いた。
術力が不足しているから、代わりに生命力を削ってそれを充填するなど正気の沙汰ではない。
人間に比べて生体という概念から超越している無機生命体であり、魂喰いに食わせた命を逆に奪い取ることで変換率を増幅させているとは言え、
十分の一というこの世界の回復効率とは比べ物にならない。考え付いても誰もしなくて当たり前の、子供の発想だ。
「人の術力あれだけ使っておいて言うセリフじゃないよ。なあに、慣れれば結構楽にいける」
一種の清々しささえあったアトワイトの声が萎むように小さくなる。
そんなアトワイトの声を無視するようにして、ミトスは首に巻いて風に煽られているスカーフに手をかけた。
顎の辺りからぐいとに引っ張ったかつての魔王の外套、その下より現れたのは赤く染まった無数の生傷だった。
出血が薄い分目を凝らせば皮膚から肉に至る断面が鑢で念入りに濾されたようにぐずぐずになった処までがくっきり見えそうな傷。
自分の首にそんなものが付いているということなど意を解することなく、ミトスは右手に持ったファフニールを首筋に宛がった。
「魔界の眷属が一、強欲たる竜よ。汝が牙にて我が黄金の血を啜り慾渇を満たせしば、其の陽気を供物と我に捧げろ―――“メンタルサプライ”」
儀式めいた狂言が終わるや否や、ミトスの首に邪剣ファフニールが穿たれた。
飢えに餓えたと云わんばかりに、ミトスの皮膚の内側でその短い刀身がのた打ち回る。
まるで剣自らが意志をもっているかのように、いや、事実として存在するであろう本能が自らの歪んだ刃に少しでも血を塗りたくろうと蠢く。
この島に存在してから誰一人とし命を啜れていなかったその剣は例えそれが歪んだ命であろうと嬉しそうに心底嬉しそうに舐めた。
砂漠を彷徨う人間がオアシスに対して想うような感情が、魔力となってその剣に――――――――“蓄えられなかった”。
剣先から伝う命の通貨が、鍔を通り魔力となって、柄を握るミトスへと循環する。
外部に流出するはずの命を心の力と化して体内に回帰させるEXスキル・メンタルサプライ。
吸精の魔具を媒介として循環効率を高められたミトスの中で発動していた。
『…………せめて、治療は……無理なんデシょうね…………』
生理的な嫌悪感を隠すこともなく、アトワイトは諦めきれずに呟いた。
術力が不足しているから、代わりに生命力を削ってそれを充填するなど正気の沙汰ではない。
人間に比べて生体という概念から超越している無機生命体であり、魂喰いに食わせた命を逆に奪い取ることで変換率を増幅させているとは言え、
十分の一というこの世界の回復効率とは比べ物にならない。考え付いても誰もしなくて当たり前の、子供の発想だ。
だが、それをミトスは行った。それはつまり生きる力より戦う力が欲しかったからに、
死の淵に向かおうが為さなければならないことがあったからに他なからなかった。
やっぱり子供の考えることは、特に男の子の考えることはよく分からないと、向こう側の剣を見ながらアトワイトはそう思った。
死の淵に向かおうが為さなければならないことがあったからに他なからなかった。
やっぱり子供の考えることは、特に男の子の考えることはよく分からないと、向こう側の剣を見ながらアトワイトはそう思った。
ミトスの異常な行動を見て、ディムロスもまた気づく。
生呼精吸。信じたくない話ではあるが、それ以外にミトスの術力回復を説明する術がなかった。
体力を失ったこと、それをミトスが不利になったとは考えない。
ソーディアン・ディムロスの特性上、体力を後生大事に抱えて回復に徹してくれた方が読みが楽だからだ。
だが、ミトスは打って出ることをその体で示した。となればこの後に待つ戦いの形は決まっている。
遂に空中での自由を確保したミトスとの遠中近全ての距離で繰り広げられる、一〇〇〇〇発の砲弾を十数分で射耗し尽くすような最悪の総力戦だ。
カイルが以前ミトスと戦った時は痛み分けだったと聞いたが、今回はそれでは済まされない。
下手を打てば痕跡さえ残るまい。両陣に自分たちが居るが故に。
『カイル。俺は果報者だ。人ならざる選択を強いてきた剣には過分に過ぎるほどの、人としてのものを得た。
最早一切に後悔はない。俺にも、アトワイトにも』
そう云いながら、ディムロスは箒の状態を確認する。目には見えぬ、しかし全体として隠しきれない疲弊が蓄積されていた。
ソーディアンの全力を受けてこの箒を運用できるのは、もうあと数分もないだろう。
『だからカイル。後はお前だけだ。お前が選べ。自分の意志で、何を為すかを。俺は、その全てに力を貸そう』
答えを聞きたかったわけでは無かった。もし此処でカイルが退くつもりだったのなら、アトワイトを手放さなかっただろう。
ディムロスが彼女と交わした約束を無碍にするはずがないと知るからこそ、故に彼は自らが認めた3代目に忠義を示した。
生呼精吸。信じたくない話ではあるが、それ以外にミトスの術力回復を説明する術がなかった。
体力を失ったこと、それをミトスが不利になったとは考えない。
ソーディアン・ディムロスの特性上、体力を後生大事に抱えて回復に徹してくれた方が読みが楽だからだ。
だが、ミトスは打って出ることをその体で示した。となればこの後に待つ戦いの形は決まっている。
遂に空中での自由を確保したミトスとの遠中近全ての距離で繰り広げられる、一〇〇〇〇発の砲弾を十数分で射耗し尽くすような最悪の総力戦だ。
カイルが以前ミトスと戦った時は痛み分けだったと聞いたが、今回はそれでは済まされない。
下手を打てば痕跡さえ残るまい。両陣に自分たちが居るが故に。
『カイル。俺は果報者だ。人ならざる選択を強いてきた剣には過分に過ぎるほどの、人としてのものを得た。
最早一切に後悔はない。俺にも、アトワイトにも』
そう云いながら、ディムロスは箒の状態を確認する。目には見えぬ、しかし全体として隠しきれない疲弊が蓄積されていた。
ソーディアンの全力を受けてこの箒を運用できるのは、もうあと数分もないだろう。
『だからカイル。後はお前だけだ。お前が選べ。自分の意志で、何を為すかを。俺は、その全てに力を貸そう』
答えを聞きたかったわけでは無かった。もし此処でカイルが退くつもりだったのなら、アトワイトを手放さなかっただろう。
ディムロスが彼女と交わした約束を無碍にするはずがないと知るからこそ、故に彼は自らが認めた3代目に忠義を示した。
「俺、少しだけ分ったんだ。ううん。思い出した」
ごそごそとポシェットより何かをとりだしてカイルはそれを握りしめる。
「俺は、未だ全然なんだって。未熟で、半人前で、ガキで。何にも分かってないんだって」
輝くそのエクスフィアは、カイルに生きることの意味を教えてくれた人の記憶だ。
「あの人が俺に生きろって言ってくれたから、今俺はこうして生きてる。
あの人や、父さんのように誰かを守れるような、誰かのために生きられるような、そんな人に」
自分の命を此岸に繋いでくれたその絆を、カイルは強く握りしめた。
軋らせた奥歯と同じように、ともすれば割れてしまいかねないほどに。
「俺は、生きるんだ。だから――――――生きるためにはまず“俺”が必要だったんだ」
カイルがディムロスを背負う。その小さな背中には不似合いなほどの剣だった。少なくとも今はまだ。
少年の氷は未だ解けていない。あの洞窟から、最後の最後の針が動いていない。
「俺は、未だ全然なんだって。未熟で、半人前で、ガキで。何にも分かってないんだって」
輝くそのエクスフィアは、カイルに生きることの意味を教えてくれた人の記憶だ。
「あの人が俺に生きろって言ってくれたから、今俺はこうして生きてる。
あの人や、父さんのように誰かを守れるような、誰かのために生きられるような、そんな人に」
自分の命を此岸に繋いでくれたその絆を、カイルは強く握りしめた。
軋らせた奥歯と同じように、ともすれば割れてしまいかねないほどに。
「俺は、生きるんだ。だから――――――生きるためにはまず“俺”が必要だったんだ」
カイルがディムロスを背負う。その小さな背中には不似合いなほどの剣だった。少なくとも今はまだ。
少年の氷は未だ解けていない。あの洞窟から、最後の最後の針が動いていない。
「俺は、ここに逃げに来たんじゃない。誰かを守りに来た訳じゃない。
何が正しいかを見つけに来たんでもない――――――――――――俺は、俺を勝ち取りに来たんだ」
何が正しいかを見つけに来たんでもない――――――――――――俺は、俺を勝ち取りに来たんだ」
カイルの双眼がミトスを射抜く。目指すべき一点、越えるべき壁がそこに屹立している。
「付き合ってくれる? ディムロス」
ディムロスは分かっていた。此処で退かなければ、もうあの村には帰れない。
箒の全スペックか、時間のどちらか。それがここからあの村に戻るための最低条件だ。
そして、今からカイルがやろうとしていることはその両方を使わなければ為せないことだった。
だが、それはディムロスにとって今更すぎる話だった。使う奴が軒並み碌でもないのだから仕方がない。
『反対する理由ならば山ほどあるが、マスターの頼みとあっては是非もないな。付き合うさ』
「ありがとう、俺、お前に会えて良かった」
肩を竦めるようなディムロスの返事に、カイルはありったけの気持ちを詰めた笑顔で応じた。
「付き合ってくれる? ディムロス」
ディムロスは分かっていた。此処で退かなければ、もうあの村には帰れない。
箒の全スペックか、時間のどちらか。それがここからあの村に戻るための最低条件だ。
そして、今からカイルがやろうとしていることはその両方を使わなければ為せないことだった。
だが、それはディムロスにとって今更すぎる話だった。使う奴が軒並み碌でもないのだから仕方がない。
『反対する理由ならば山ほどあるが、マスターの頼みとあっては是非もないな。付き合うさ』
「ありがとう、俺、お前に会えて良かった」
肩を竦めるようなディムロスの返事に、カイルはありったけの気持ちを詰めた笑顔で応じた。
燃えた草木の灰が巻き上がった風に煽られて乱れる。
少しずつ夕の赤が夜の黒に滲み始めた空に浮かぶそれは雪か桜の舞い散るように世界を幻惑している。
少しずつ夕の赤が夜の黒に滲み始めた空に浮かぶそれは雪か桜の舞い散るように世界を幻惑している。
その空に立つ二つの影。一人は堕ちた勇者で、一人は英雄を辞めた男。
世界は遂に閉ざされた。勝利は無く、名誉も無く、敗北さえも無い。唯、浮かび始めた星々だけが在った。
世界は遂に閉ざされた。勝利は無く、名誉も無く、敗北さえも無い。唯、浮かび始めた星々だけが在った。
「戦う理由は見つかったか?」
全ての意味が死に封鎖された輝ける星空の下、
英雄<Hero>になれなかった英雄<Ace>達の、語られない最後の戦いが今その火蓋を切った。
英雄<Hero>になれなかった英雄<Ace>達の、語られない最後の戦いが今その火蓋を切った。
「お前をぶっ倒す理由くらいは、ある。そこから先はその間に見つけるよ」
【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP25% TP20% 両足粉砕骨折(処置済み) 両睾丸破裂(男性機能喪失)
右腕裂傷 左足甲刺傷(術により処置済み)背部鈍痛 覚悟+
所持品:S・ディムロス フォースリング 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 ミスティブルーム
首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ クローナシンボル ガーネット
魔玩ビシャスコア アビシオン人形 漆黒の翼のバッジ ペルシャブーツ エメラルドリング
基本行動方針:それを決めろ
第一行動方針:ミトスをとの決着をつける
第二行動方針:ヴェイグのことはその後
SD基本行動方針:(結果がどうであれ)デアトワイトと共に在る
現在位置:B3・大草原
状態:HP25% TP20% 両足粉砕骨折(処置済み) 両睾丸破裂(男性機能喪失)
右腕裂傷 左足甲刺傷(術により処置済み)背部鈍痛 覚悟+
所持品:S・ディムロス フォースリング 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 ミスティブルーム
首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ クローナシンボル ガーネット
魔玩ビシャスコア アビシオン人形 漆黒の翼のバッジ ペルシャブーツ エメラルドリング
基本行動方針:それを決めろ
第一行動方針:ミトスをとの決着をつける
第二行動方針:ヴェイグのことはその後
SD基本行動方針:(結果がどうであれ)デアトワイトと共に在る
現在位置:B3・大草原
【ミトス=ユグドラシル@ミトス 生存確認】
状態:HP15% TP60% とてつもなく高揚 左頬に軽度火傷 右頬に小裂傷 首に傷多数
所持品(サック未所持):S・アトワイト ミスティシンボル ダオスのマント 地図(鏡の位置が記述済み)邪剣ファフニール
基本行動方針:???
第一行動方針:カイルを殺す
SA基本行動方針:(結果がどうであれ)ディムロスと共に在る
現在位置:B3・大草原
状態:HP15% TP60% とてつもなく高揚 左頬に軽度火傷 右頬に小裂傷 首に傷多数
所持品(サック未所持):S・アトワイト ミスティシンボル ダオスのマント 地図(鏡の位置が記述済み)邪剣ファフニール
基本行動方針:???
第一行動方針:カイルを殺す
SA基本行動方針:(結果がどうであれ)ディムロスと共に在る
現在位置:B3・大草原