SKIT「大地の味がする」
「ヘルマスターCを排除。残存エネミー無し。チェック……応手はありますか?」
「ありません……リザイン。勝者……グリューネ様でございます……」
出現した敵を全て撃破したグリューネの初戦勝利をサイグローグが宣言する。
「どうしました? 大風呂敷を広げた割には、随分と手緩いですね。まさかこれで終わりだと?」
サイグローグが盤上に出した敵駒を鮮やかな手並みで排除したグリューネは、
少しだけ背を逸らし、その豊満な胸を道化に突き出して挑発する。
だが、サイグローグはそんな貴重なサービスシーンなど眼中にないように眼を伏せて、
仮面越しにも伝わる程の不満を洩らしながら盤上を見つめていた。
「不満があるならば、何か言ってはどうですか? 私の手に何か不自然でもあったと?」
「いえ……グリューネ様の一手……通しでございます……誰の目から見ても矛盾も不合理も無き、
瑕疵無き一手……覆す余地などございません……まこと、自然の極みでございます……」
「そう本心から思うのであれば、せめて私の眼を見て言えばどうですか? 怒らないから言ってみなさい」
「…………本当に言っても?」
「最初からそう言っています」
「本当に……?」
「いいなさい」
暫く考えた後、サイグローグが俯き加減のまま、聞こえるかどうかギリギリの音で呟いた。
「――――――――――――大地の味がします」
「今、何と?」
「……豊かな滋養と、作り手の慈愛に包まれた野菜の……芳しき香りと、力強き味わい……
清涼なる流水に洗い、そのまま歯を立てればシャリと輝き鳴らす繊維のきめ細かさ……
根より培った素材の味を極限まで引き立てた繊細なる味わい…………これ正しく大地の味でございます……」
眼を瞑って詩人か料理審査員かとばかりの論評を紡ぐサイグローグ。
どんな批評皮肉を吐いてくるかと身構えていたグリューネは少し驚いたような顔をする。
「意外ですね。貴方がそのようなことを口にするとは」
「私はいつでも正直でございますよ…………ですから、食べた感動のあまり思わず厨房へ向かい、
暖簾を掻き分けてこう叫んでしまいたい―――――“このやさいを作ったのは誰だあっ!!”……と……」
「!?」
「これまで万漢全席かくやの美味珍味至高の粋を尽くした料理が振舞われていたというのに……
何が悲しくて、今更野菜を丸齧りしなければならないのか…………実に貧乏臭い……」
「私の一手が、野菜だと?」
「オフコース……どれだけに旨かろうとニンジンはニンジン、キュウリはキュウリ……素材は所詮素材……
ただ素材に齧り付くだけなら犬でも出来ること……それを如何に加工し、調味し、盛り付け……『料理』とするか……?
それこそが本能で喰らう畜生と理性にて嗜むヒトの境目…………今更素材本来の味など……誰も求めていないのですよ……」
神の一手、そこに込められたモノを咀嚼し理解しながら尚“クソ不味い”と吐き捨てるサイグローグにグリューネは歯を軋らせる。
「それが無惨に駒を全滅させられたプレイヤーの言葉というなら、滑稽というしかありませんね」
「紳士たるものレディ・ファーストでございますよ……グリューネ様の料理を堪能するべく先ずは食前酒を用意した次第……
しかし…………どうやらグリューネ様はコース料理の“手順”はおろか調理法さえお解りになっていないご様子……
このまま野菜ばかりの精進料理が続けばお客様の舌を退屈させてしまう……仕方ありませんか……」
やれやれと溜息をつきながらサイグローグが指を鳴らすと、盤がドクりと鳴動し始める。
「ダンスに不慣れな淑女をエスコートするもまた紳士の務め…………ご教授してさしあげますよ……
肉の味を……肉に塗す香辛料のスパイシーさを……上手な肉の斬り方を……」
ニヤ付く道化が指を鳴らすと、盤がぞぞぞと唸り這い振動する。一秒ごとにビートを上げていく振動は、まるで時計の針を早めるかのよう。
「シナリオ7から20をショートカット……地形、及び配置を変更……準備完了……
おっとりなグリューネ様のリズムに合わせていては夜が明けてしまいます故……少々“巻かせていただきます”……
何を勿体ぶっているのかは存じませんが……伏せ札があるなら早めに切ることをお勧めしますよ……ククククク……!」
サイグローグが笑みながら蠢き色立つ盤の躍動は、次なるゲームの始まりの鐘。
グリューネは射殺すほどの眼光で道化を穿ち、何かを決意するかのように応酬を告げた。
「ありません……リザイン。勝者……グリューネ様でございます……」
出現した敵を全て撃破したグリューネの初戦勝利をサイグローグが宣言する。
「どうしました? 大風呂敷を広げた割には、随分と手緩いですね。まさかこれで終わりだと?」
サイグローグが盤上に出した敵駒を鮮やかな手並みで排除したグリューネは、
少しだけ背を逸らし、その豊満な胸を道化に突き出して挑発する。
だが、サイグローグはそんな貴重なサービスシーンなど眼中にないように眼を伏せて、
仮面越しにも伝わる程の不満を洩らしながら盤上を見つめていた。
「不満があるならば、何か言ってはどうですか? 私の手に何か不自然でもあったと?」
「いえ……グリューネ様の一手……通しでございます……誰の目から見ても矛盾も不合理も無き、
瑕疵無き一手……覆す余地などございません……まこと、自然の極みでございます……」
「そう本心から思うのであれば、せめて私の眼を見て言えばどうですか? 怒らないから言ってみなさい」
「…………本当に言っても?」
「最初からそう言っています」
「本当に……?」
「いいなさい」
暫く考えた後、サイグローグが俯き加減のまま、聞こえるかどうかギリギリの音で呟いた。
「――――――――――――大地の味がします」
「今、何と?」
「……豊かな滋養と、作り手の慈愛に包まれた野菜の……芳しき香りと、力強き味わい……
清涼なる流水に洗い、そのまま歯を立てればシャリと輝き鳴らす繊維のきめ細かさ……
根より培った素材の味を極限まで引き立てた繊細なる味わい…………これ正しく大地の味でございます……」
眼を瞑って詩人か料理審査員かとばかりの論評を紡ぐサイグローグ。
どんな批評皮肉を吐いてくるかと身構えていたグリューネは少し驚いたような顔をする。
「意外ですね。貴方がそのようなことを口にするとは」
「私はいつでも正直でございますよ…………ですから、食べた感動のあまり思わず厨房へ向かい、
暖簾を掻き分けてこう叫んでしまいたい―――――“このやさいを作ったのは誰だあっ!!”……と……」
「!?」
「これまで万漢全席かくやの美味珍味至高の粋を尽くした料理が振舞われていたというのに……
何が悲しくて、今更野菜を丸齧りしなければならないのか…………実に貧乏臭い……」
「私の一手が、野菜だと?」
「オフコース……どれだけに旨かろうとニンジンはニンジン、キュウリはキュウリ……素材は所詮素材……
ただ素材に齧り付くだけなら犬でも出来ること……それを如何に加工し、調味し、盛り付け……『料理』とするか……?
それこそが本能で喰らう畜生と理性にて嗜むヒトの境目…………今更素材本来の味など……誰も求めていないのですよ……」
神の一手、そこに込められたモノを咀嚼し理解しながら尚“クソ不味い”と吐き捨てるサイグローグにグリューネは歯を軋らせる。
「それが無惨に駒を全滅させられたプレイヤーの言葉というなら、滑稽というしかありませんね」
「紳士たるものレディ・ファーストでございますよ……グリューネ様の料理を堪能するべく先ずは食前酒を用意した次第……
しかし…………どうやらグリューネ様はコース料理の“手順”はおろか調理法さえお解りになっていないご様子……
このまま野菜ばかりの精進料理が続けばお客様の舌を退屈させてしまう……仕方ありませんか……」
やれやれと溜息をつきながらサイグローグが指を鳴らすと、盤がドクりと鳴動し始める。
「ダンスに不慣れな淑女をエスコートするもまた紳士の務め…………ご教授してさしあげますよ……
肉の味を……肉に塗す香辛料のスパイシーさを……上手な肉の斬り方を……」
ニヤ付く道化が指を鳴らすと、盤がぞぞぞと唸り這い振動する。一秒ごとにビートを上げていく振動は、まるで時計の針を早めるかのよう。
「シナリオ7から20をショートカット……地形、及び配置を変更……準備完了……
おっとりなグリューネ様のリズムに合わせていては夜が明けてしまいます故……少々“巻かせていただきます”……
何を勿体ぶっているのかは存じませんが……伏せ札があるなら早めに切ることをお勧めしますよ……ククククク……!」
サイグローグが笑みながら蠢き色立つ盤の躍動は、次なるゲームの始まりの鐘。
グリューネは射殺すほどの眼光で道化を穿ち、何かを決意するかのように応酬を告げた。
「……こちらの台詞です。その言葉を吐いたこと、後悔など許しませんよ」