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「コロス……コロスコロスころすころすころすころすころす―――――」
コワレた人形のように、ヒアデスは繰り返し繰り返しつぶやく。
二匹目の獲物の、思わぬ反抗によってウージーを取り落としはしたが、男の殺意は消える気配を微塵も見せない。
森に消えた武器のことは意に介さず、サンダーブレードによって吹き飛んだチェスターににじり寄る。
コワレた人形のように、ヒアデスは繰り返し繰り返しつぶやく。
二匹目の獲物の、思わぬ反抗によってウージーを取り落としはしたが、男の殺意は消える気配を微塵も見せない。
森に消えた武器のことは意に介さず、サンダーブレードによって吹き飛んだチェスターににじり寄る。
瞬時に放たれた、溜めのない電撃であったが、チェスターの全身にはひどい痺れが残る。
鞭打って動かぬ右手を懐に伸ばすが、男の接近のほうが幾分早い。
男は、笑っていた。アミィのときと同じ、蟻を踏み潰す下衆の浮かべる笑い。
ヒアデスの右手が、チェスターの顔を握りつぶさんばかりに被さると、ギリギリと骨が軋む音が響く。
チェスターは立った。いや、立たされた。ヒアデスの手によって。
後ろの大木に背中をゴリゴリと擦り付けられ、ヒアデスの右手には更に力が籠められる。
チェスターは抵抗を試みたが、両足の感覚は痺れによって無くなっており、両手も、ブラリと垂れ下がっているまま。
ヒアデスは、既にこの獲物を殺す算段をしていた。といっても、それは本能の世界での算段なのだが。
左手で、この獲物の腹を抉り千切る。血の滴る自分の内臓を見せつけ、その後右手で頭を握り潰す。
その夢想だけで、ヒアデスの笑いは止まらなかった。
ヒアデスの、カン高い笑い声が森に吸い込まれる。
ひとしきり笑った後、ヒアデスはチェスターの臓物に向かい、左腕を振るった。
左腕が、チェスターの内臓を抉り取る……はずであった。
だがヒアデスの左腕は、振り上げたまま静止していた。
この異常に、ヒアデスの顔からは笑いが失せ、驚愕の表情が代わりに貼られる。
チェスターは、アミィの遺した毒を矢だけでなく、モーゼスから奪い取ったヤリにも塗っていたのだった。
神経の伝達を混乱させるその毒が、ヒアデスの本能の出す命令を阻害する。
理性が歯止めをかけないがゆえの強大な力も、神経が逆らってしまってはその力を出せない。
ヒアデスは、必死に左腕を動かそうともがいた。
その隙を、チェスターは霞む視界の中にあって見逃さなかった。
最後の力を振り絞り、右手を懐に入れ、取り出す。
握られたサバイバルナイフが、ヒアデスの左胸に突き刺さった。
ヒアデスの表情は驚愕から怒りに変わり、チェスターを力任せに投げ飛ばした。
鞭打って動かぬ右手を懐に伸ばすが、男の接近のほうが幾分早い。
男は、笑っていた。アミィのときと同じ、蟻を踏み潰す下衆の浮かべる笑い。
ヒアデスの右手が、チェスターの顔を握りつぶさんばかりに被さると、ギリギリと骨が軋む音が響く。
チェスターは立った。いや、立たされた。ヒアデスの手によって。
後ろの大木に背中をゴリゴリと擦り付けられ、ヒアデスの右手には更に力が籠められる。
チェスターは抵抗を試みたが、両足の感覚は痺れによって無くなっており、両手も、ブラリと垂れ下がっているまま。
ヒアデスは、既にこの獲物を殺す算段をしていた。といっても、それは本能の世界での算段なのだが。
左手で、この獲物の腹を抉り千切る。血の滴る自分の内臓を見せつけ、その後右手で頭を握り潰す。
その夢想だけで、ヒアデスの笑いは止まらなかった。
ヒアデスの、カン高い笑い声が森に吸い込まれる。
ひとしきり笑った後、ヒアデスはチェスターの臓物に向かい、左腕を振るった。
左腕が、チェスターの内臓を抉り取る……はずであった。
だがヒアデスの左腕は、振り上げたまま静止していた。
この異常に、ヒアデスの顔からは笑いが失せ、驚愕の表情が代わりに貼られる。
チェスターは、アミィの遺した毒を矢だけでなく、モーゼスから奪い取ったヤリにも塗っていたのだった。
神経の伝達を混乱させるその毒が、ヒアデスの本能の出す命令を阻害する。
理性が歯止めをかけないがゆえの強大な力も、神経が逆らってしまってはその力を出せない。
ヒアデスは、必死に左腕を動かそうともがいた。
その隙を、チェスターは霞む視界の中にあって見逃さなかった。
最後の力を振り絞り、右手を懐に入れ、取り出す。
握られたサバイバルナイフが、ヒアデスの左胸に突き刺さった。
ヒアデスの表情は驚愕から怒りに変わり、チェスターを力任せに投げ飛ばした。
「ハァーーーーーッッッ!! フゥーーーーッッッッ!!!!」
ヒアデスは、力任せにナイフを引き抜いた。
彼の狂人の血が、地面を赤く染めた。
そのナイフを右手に握り締めると、受身もとれずに大地に叩きつけられたチェスターに向かい、ゆっくりと歩き寄った。
チェスターは遠のく意識の中で、あの男がいよいよ自分に止めをさすのだと悟った。
(アミィ……すまねぇ…………俺は………)
ヒアデスが血に臥す獲物へとサバイバルナイフを振り上げたその刹那。
ヒアデスは、力任せにナイフを引き抜いた。
彼の狂人の血が、地面を赤く染めた。
そのナイフを右手に握り締めると、受身もとれずに大地に叩きつけられたチェスターに向かい、ゆっくりと歩き寄った。
チェスターは遠のく意識の中で、あの男がいよいよ自分に止めをさすのだと悟った。
(アミィ……すまねぇ…………俺は………)
ヒアデスが血に臥す獲物へとサバイバルナイフを振り上げたその刹那。
ナイフが、するりとヒアデスの手から逃げた。
そして狂人が、血を吐いた。膝をつき、倒れこむ。
おかしい。みょうだ。ヒアデスはそう感じたかのような表情で取り落としたナイフを探す。
しかし、ヒアデスの目から視界が消えてゆく。
なぜ、なぜ? そう思いながらも、ヒアデスはナイフを再度つかんだ。
そして再び立ち上がる。
だが、すぐにその両足は崩れ落ちる。
また立ち上がる
。 そして崩れ落ちて、地に臥す。
立ち上がり、倒れる。
幾度も繰り返された後、ヒアデスは笑い声をあげた。
それは森の中にひとしきり響き渡ると、やがて消えた。
森に響き渡る銃声、戦いによるものと思われる魔法素の収束、そして響き渡る狂ったような笑い声。
それらを聞いたアーチェは、ひどく嫌な気分になった。
なにか、嫌な予感がする。
近くの城を目指していたが、そうしてアーチェはそれらの音の主の元に向かい、戻ることにした。
そして狂人が、血を吐いた。膝をつき、倒れこむ。
おかしい。みょうだ。ヒアデスはそう感じたかのような表情で取り落としたナイフを探す。
しかし、ヒアデスの目から視界が消えてゆく。
なぜ、なぜ? そう思いながらも、ヒアデスはナイフを再度つかんだ。
そして再び立ち上がる。
だが、すぐにその両足は崩れ落ちる。
また立ち上がる
。 そして崩れ落ちて、地に臥す。
立ち上がり、倒れる。
幾度も繰り返された後、ヒアデスは笑い声をあげた。
それは森の中にひとしきり響き渡ると、やがて消えた。
森に響き渡る銃声、戦いによるものと思われる魔法素の収束、そして響き渡る狂ったような笑い声。
それらを聞いたアーチェは、ひどく嫌な気分になった。
なにか、嫌な予感がする。
近くの城を目指していたが、そうしてアーチェはそれらの音の主の元に向かい、戻ることにした。
彼女の予感は当たっていた。
辺りに飛び散った血、血、血……
その中から、眠るようにうつ伏せで倒れているチェスターと、仰向けで笑いの表情のまま死んでいる男を見つけた。
「チェスター!」
近づき、チェスターを抱きかかえるアーチェ。
「チェスター! チェスター! 返事しなさいよ!! ねぇ!!!」
全身くまなく灼かれて、更に腕、足、腹部にも傷があり、ジワジワと血が染み出ている。
アーチェは、もう泣きそうな表情で、懸命にチェスターに呼びかける。
「………………アー………チェ………か」
消え入るようなチェスターの声。
「チェスター!!!」
「………………どう…………し……た?」
「チェスター! 待ってて、今手当てするから」
アーチェはそういうが早いか、支給品袋をひっくり返した。
水くらいしか、手当てに使えそうなものはなかった。
だがそれでも、何もしないよりははるかに良い。
必死に、チェスターの傷を水で濯ぐ。それしか、アーチェには出来なかった。
パナシーアボトルのひとつでもあれば消毒液がわりになるが、それさえもない。
祈るような思いで、アーチェの手当ては続く。
傷自体は、致命傷というほどではない。
だが、傷を受けてから時間が経ちすぎていた。
彼が死の淵から蘇えるには、既に血を失いすぎていたのだ。
「……………ア……ミ…ィ………」
チェスターはそう呟いた。
静かに、本当に静かに……チェスターの瞼が閉じていった。
「待って! 起きて、ねぇ、起きてよ!!!! チェスターーーーーーッッッッ!!!!!!!!」
アーチェは涙を溢し、あらんかぎりに叫んだが、彼の切れ長の目が、再びアーチェを写すことはなかった。
辺りに飛び散った血、血、血……
その中から、眠るようにうつ伏せで倒れているチェスターと、仰向けで笑いの表情のまま死んでいる男を見つけた。
「チェスター!」
近づき、チェスターを抱きかかえるアーチェ。
「チェスター! チェスター! 返事しなさいよ!! ねぇ!!!」
全身くまなく灼かれて、更に腕、足、腹部にも傷があり、ジワジワと血が染み出ている。
アーチェは、もう泣きそうな表情で、懸命にチェスターに呼びかける。
「………………アー………チェ………か」
消え入るようなチェスターの声。
「チェスター!!!」
「………………どう…………し……た?」
「チェスター! 待ってて、今手当てするから」
アーチェはそういうが早いか、支給品袋をひっくり返した。
水くらいしか、手当てに使えそうなものはなかった。
だがそれでも、何もしないよりははるかに良い。
必死に、チェスターの傷を水で濯ぐ。それしか、アーチェには出来なかった。
パナシーアボトルのひとつでもあれば消毒液がわりになるが、それさえもない。
祈るような思いで、アーチェの手当ては続く。
傷自体は、致命傷というほどではない。
だが、傷を受けてから時間が経ちすぎていた。
彼が死の淵から蘇えるには、既に血を失いすぎていたのだ。
「……………ア……ミ…ィ………」
チェスターはそう呟いた。
静かに、本当に静かに……チェスターの瞼が閉じていった。
「待って! 起きて、ねぇ、起きてよ!!!! チェスターーーーーーッッッッ!!!!!!!!」
アーチェは涙を溢し、あらんかぎりに叫んだが、彼の切れ長の目が、再びアーチェを写すことはなかった。
【アーチェ 状態:身体は健康】
所持品:BCロッド・レジストリング・ダークボトル(残り2個)・スペクタクルズ(1個)
状態:深い悲しみ
現在地:C5の橋付近
所持品:BCロッド・レジストリング・ダークボトル(残り2個)・スペクタクルズ(1個)
状態:深い悲しみ
現在地:C5の橋付近
【チェスター・バークライト 死亡】
【ヒアデス 死亡】
【ヒアデス 死亡】
【残り47人】