最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

夢  ◆.WX8NmkbZ6



 地殻変動が起きたかのような振動が大地に広がった。
 ドラッグストアの面影は既に残っていない。
 付近の家屋も巻き込まれ、爆風に煽られて倒壊して崩れ去った。

 瓦礫さえ残らず吹き飛ばされて更地となったその中心地に、桐山和雄は立っていた。
 あちこちの骨が折れ、流血し、それでもまだ動ける。
 衝突の瞬間、桐山はサイコローダーから飛び降りたのだ。
 サイコローダーは粉々に砕かれ、ブランク体となったオルタナティブ・ゼロは地面に叩き付けられた。
 更に衝撃の煽りを受け、デッキが壊れ、デイパックも消滅した。
 変身が解けて生身の状態で地面を転がり――それでも生きている。
 最小限の怪我で済んだ。
 もし正面からまともにカズマとぶつかり合っていれば、桐山の命はなかったかも知れない。

「楽しいのかよ」

 低く唸るような声が桐山の耳に届く。
 そちらを向けば、カズマがいた。
 しかしぼろぼろと装甲が崩れて消え、血塗れの少年の姿が露わになる。
 サイコローダーを破ったものの自らの攻撃の反動の大きさに耐え切れず、アルターが維持出来なくなったようだ。
 カズマは足を引きずりながら、桐山に向かって歩み出す。

「そうやって、上手くズルく生きてよ……!!」

 勝ち残る為に勝負から降りた。
 それは逃げと同じだ。
 桐山はその事を誤魔化すつもりはない。
 恥じるべき事だとも思わない。
 だがカズマにとってはそうではなく、歯ぎしりしながら桐山を睨み付けている。
 コンクリートの剥がされた剥き出しの地面に血の跡を残しながら、歩いてくる。
 そして桐山の眼前、一メートルもない地点で止まった。

「……まさか、これで勝ったと思っちゃいねぇよな……?」

 その問いに、桐山は沈黙をもって答えとする。
 数秒の無音が二人の間を通り過ぎ、やがて互いに拳を振り上げた。

「ッらぁああああああ!!!!!」

 カズマが雄叫びを上げる。
 どちらも全ての支給品を無くした丸腰の状態で、最後に残った自らの武器を相手に叩き付けにいく。
 腕が折れていようと、腹に穴が空いていようと、関係なく戦い続ける。

 カズマが桐山の髪を掴み、投げ飛ばす。
 地面を転がった桐山はすぐに体勢を立て直し、追い打ちを掛けようとしていたカズマの腹に蹴りを入れた。
 血を吐いて呻くも、カズマは桐山から目を離さない。
 更に踏み込み、桐山の額に頭突きを食らわせる。
 桐山の体がぐらついたところで、顔面に拳を叩き込んだ。

 しかし桐山は倒れながらカズマの腕を捕らえ、引きずり込むようにして共に地面に倒れる。
 起き上がろうとする相手を互いに地面に押し付け、泥で全身を汚した。
「こんな、もんで……今の俺を、どうにか出来ると思うな……っ!」
 カズマが手首から先にアルターを纏わせて拳を握る。
 桐山は左腕でその拳を受け止めるが、骨が砕けてひしゃげた。
 それでもなお勢いは殺されず、桐山は地面を削りながら数メートル押し退けられた。

 障害を遠ざけたカズマが立ち上がる。
 倒れた桐山に最後の一撃を叩き込むべく足を前へ押し出す。

 踏み出した足は、地面に着くと同時に崩折れる。
 カズマは前のめりに倒れ、代わりに桐山がゆっくりと立ち上がった。

 万全の体勢で臨み、序盤にペースを作った桐山。
 初めから宗次郎との戦いで負った傷と疲労を引きずっていたカズマ。
 その二人の差は、互いの命を削った最後の肉弾戦の中で明確に表れてしまった。


 ああ、チクショウ。
 あとちょっとだってのによ。

 足は動かねぇ、腕も動かねぇ。
 指で地面をかきむしって、それでも体が持ち上がらねぇ。
 目がかすんじまって桐山の顔もはっきり見えやしねぇ。

 くそ、あの野郎まだ動いてやがる。
 こっちに、来てやがる。

 動けよ……こいつさえぶっ飛ばせりゃ、後は何もいらねぇ……!
 何もいらねぇんだよ……!!

 地面にはいつくばって、泥まみれになって。
 いくら拳に力をこめても、届か――

「カズマさん」

 あぁ……?
 ……誰だったっけな、こいつら。
 桐山と俺の間に、一人。
 俺のまわりに、二人。
 えーと……思い出せねぇな。
 何つったっけな……頭がボーっとして、よけい思い出せねぇ。
 誰でもいい……邪魔すんじゃねぇ……!!

「私が届かせます」
「ざけんな……そいつは、俺が……ッ!!!」

 起き上がろうとしてもがいてた手を、となりにいた女に掴まれる。
 ボヤけてて顔が見えねぇ……――あぁ、みなみか。
 止めんなよ。
 あと一発、殴るだけだ。
 そんだけなんだよ。

「私にやらせて下さい。
 お願いします」

 猫背で、妙に落ち着いててムカつく……あーそうだ、Lだ。
 てめーに言われて、退くわけねーだろ……!!
 そいつはかなみを、殺しやがったんだぞ……!!!

「カズマさん、やめて……動かないで」

 だから止めんなって――……お前、その血、どうしたんだよ。
 手にケガでもしたのかよ、誰にやられたんだ。
 ……ああ。
 俺の血か。
 よく見りゃ俺のまわり、どこもかしこも血だらけじゃねぇか。
 何もいらねぇ、っつっても……もう、何もねぇんだな。

「……くそ」

 ここに来て、いろんなやつに会って。
 そいつらのこと全部振り切って、かなみの事を探し回って。
 かなみが死んでからだって、他のこたぁほったらかし。
 それで……しまいにゃこれかよ。
 生き急いでばっかで、なんも掴めなかったじゃねーか。
 ほんと俺、甲斐性なしのろくでなしだ。
 人間のクズだ。

「しょうがねぇ、よなぁ……俺は、そんな生き方しか知らねぇんだからよ」
「カズマさん。
 それでも……私はあなたを尊敬しています」
「……へっ」

 えらそーな事言いやがって。
 桐山の前に立つぐれーには、ちったぁマシな覚悟が出来たのかも知れねぇけどよ。

 ……立とうとすんのは、やめだ。
 疲れた。
 眠ぃ。
 代わりに俺は腕を振り上げる。
 アルターもなくなった、それでも自慢の拳。
 それを握ってLに向ける。

「おまえらに、譲ってやるよ……今回だけな……」

 やるからには、しくじるんじゃねーぞ。
 このシェルブリットのカズマの邪魔するからにはよ!



「その野郎を、一発ぶん殴れ……!!」



【カズマ@スクライド 死亡】




 放送を聞いた後、L達三人はカズマを探していた。
 翠星石と真司なら互いに支え合える。
 しかし一人で桐山を探しに行ったカズマには、もう支えがない。
 一般人三人ではカズマの戦いの役に立たなくても、彼を諫める事は出来る。
 光太郎を失った三人に、警察署に留まるという選択肢はなかった。

 カズマと合流して、正面から話をする。
 今度こそ理解し合って、それから翠星石と真司を探す。
 そうして順に共に戦う仲間を集め直し、最後は主催者V.V.を打倒して脱出へ。
 死んでいった者達の為にも、Lにはそれを果たす責務がある。

 土煙と共に倒壊する建物が目印となって、カズマがいる方角はすぐに分かった。
 辿り着いて目に入ったのは桐山と、倒れ伏すカズマ。
 間に合ったとは言えない。
 それでもLは自分の役目を果たす為に、桐山の前に立ち塞がる。

「……分かってますよ、カズマさん」

 銃を両手で支え、桐山の額に向けて構える。
 殺し合いが始まった時点で、夜神月を殺す覚悟は出来ていた。
 この場で桐山を殺す事も、躊躇しない。
 殺人への躊躇と忌避感こそが杉下右京を殺したのだから。

 桐山の左腕や頬骨は折れ、不自然な方向に曲がっていた。
 顔や右腕からは血が絶え間なく滴る。
 普通の人間なら痛みでショック死していてもおかしくない怪我だが、桐山はまだ戦おうとしている。
 武器を持っていない満身創痍の姿だが、まるで油断出来なかった。

 何が彼をそこまで駆り立てるのか、Lには分からない。
 はっきりしているのは、ここで終わらせなければ更に犠牲者が出るという事だけだ。

 桐山は僅かに体重を前に移動させる。
 その動きに反応したLは即座に発砲したが、当たらなかった。
 桐山が消えた。
(縮地……!?)
 知識としては頭に入っていたものの、実際に戦う羽目になるのは初めてだった。
 桐山の姿を視認出来ないまま、Lは膝を曲げてしゃがむ。
 突き刺すように鋭く繰り出された桐山の指が、Lの喉元があった場所を通過する。
 桐山はデイパックを持たずに蒼星石を殺害した時、鉛筆で喉を刺していた。
 武器がない状態なら一撃で仕留めに来る可能性が高い、というLの読み通りだった。

 Lはしゃがんだ状態で、銃を片手に握ったまま地に両手を着けた。
 逆立ちの要領で両足を振り上げ、両手で体重を支えながら桐山に蹴りを入れる。
 その一撃は桐山の腕に防がれるが、これで終わりではない。

「すみませんカズマさん、ぶん殴れません――ですが」

 地に両手を着けたまま腕を捻って全身を回転させ、自由の利くもう一方の足で桐山の腹を蹴り抜いた。

「一発は一発です」

 内臓の潰れる感触が、足裏から伝わってくる。
 人を殺す感覚。
 蹴られた勢いのまま倒れる桐山を見ながら、Lはその不快感を噛み締めた。


 必死の呼び掛けも空しく、カズマは息を引き取った。
 泣き伏せるみなみを横目に、上田はLと桐山の攻防を見ていた。
 目で追う事も出来ない一瞬のうちに決着した戦い。
 上田が知るだけでも五人もの参加者を屠ってきた桐山が崩れ落ちる。
 流石Lさん、私が見込んだだけの事は、と賞賛しようとして、上田は動きを止めた。
「上田さん、みなみさん、カズマさんは――」
 カズマの容態を確かめようとして立ち上がり、振り返ったLに対して上田が叫ぶ。

「Lさんっ!!」

 上田の視線の先にあるのはLではなく、Lの向こうの――
 Lはハッとして逸れてしまった注意を戻す。

 そこではどす黒い血を口から滴らせた状態で、桐山が立ち上がっていた。

 仮面ライダーに変身していない。
 パラサイトでもフレイムヘイズでもアルター使いでもない生身の人間、ただの中学生。
 その桐山が、大量の血を吐きながらLの方を見ていた。

 桐山の姿が上田の視界から消え、次の瞬間にはLの傍らにいた。
 上田が桐山を視認したのと、Lが吹き飛ばされたのは同時。
 僅かに遅れて「Lが蹴られた」と理解出来た。
 勢いで銃が手から落ち、思い金属音を立てて離れていく。
 桐山がLに向かって歩き出す。
 それを見て、上田は思わず身を乗り出してしまった。

「よ、よさないか!!」

 自分で自分の出した声に驚く。
 やめておけば良かった、と後悔しても遅い。
 桐山の視線は上田に向けられていた。

「き、き、き君は何故、こここんな事をっ、」

 全身がガタガタと震え、声が上手く出て来ない。
 無感情な視線が怖い。
 血塗れの姿とプレッシャーが怖い。
 逃げだそうにも膝が笑っていた。
 視界の端でLが立ち上がろうとしているが、表情は苦悶に満ち、脇腹を押さえたまま動けずにいる。

 人類の英知の結晶である私もこれまでかと泣き出しそうになった時、上田の横を風が通り過ぎた。
 「え」と声を出した時には、女神の剣を手にしたみなみが桐山に立ち向かっていた。

「み、みなみちゃ」

 桐山がみなみの剣を避け、代わりに手をみなみの首に向ける。
 夕陽に反射し、上田は桐山が金属片を持っているのに気付いた。
 Lに倒された際、地面に刺さっていたのを拾っていたのだろう。
 過たず頸動脈の上を通った金属片は みなみの薄い皮膚を容易く切り裂いて血を撒き散らす。
 目の前に広がる光景に気絶しそうになった。
 Lも何か叫んでいるが、上田には聞こえなかった。

 みなみは血を流しながらも倒れなかった。
 剣を地面に突き刺してそれを支えにする、弱々しく肩を上下させるみなみに更に桐山の手が伸びる。

 だが、桐山の手刃は届かない。
 桐山の背後からLが羽交い締めにし、歩を阻んでいる。
 みなみが地面から剣を抜き、力任せに振るった。
 何の技術も持たない、しかし女神の剣の効果で底上げされた身体能力による斬撃。
 その剣は桐山の腹を斬り裂いた。
 噴き出した赤い臓器と血液が、上田の目に焼き付く。

 Lが拘束を解くと、桐山が内臓を零しながら仰向けに倒れ込む。
 数秒遅れてみなみがその場にしゃがみ込み、上田は震える足で駆け寄ろうとした。

 その上田の手に、背後から何かがベタリと触れた。


 私は、何の為に生き残ってるんだろう。
 ずっとそれで悩んでいて……光太郎さんを、死なせた。
 殺してしまった。
 光太郎さんは私を責めなかった……Lさんも上田さんも、誰も責めなかった。
 だから頑張ろうと思えた。
 ……でも。
 何を頑張ればいいのかは、分からないままだった。
――皆で頑張れば、きっとこの戦いを乗り越えられる。
 私は何を、頑張ればいいんだろう……?
 放送を聞いてからもずっと、考えてた。

 上田さんが桐山君を呼び止めたのを見て、私は剣を握って走り出した。
 戦うのは怖いし、また人を傷付けるのも怖かった。
 でもLさんや上田さんが殺されるのは、もっと怖い。

 首を切られて、熱い。
 痛くて、力が抜けそうになる。
 だけど私は力任せに剣を振って、……桐山君を……。

 桐山君、ごめん。
 痛かったよね、死にたくなかったよね……もしかしたら叶えたい夢があったのかも、知れない。
 私は……恨まれてもいい。
 桐山君を傷付けた事に、後悔してない。
 Lさんと上田さんを守れて……Lさんが、人殺しにならずに済んだから……。
 自己満足だって、分かってる。
 でもLさんが桐山君を殺さなくて良かった。

 だってLさんは、世界一の名探偵だから。

 誰かが桐山君を殺さないと、他の誰かが死んでしまうなら……誰かが桐山君を殺さないといけないなら……私が。
 光太郎さんを殺した私が……やらなきゃいけない事だったんだって。
 カズマさんが「お前ら」って……私にも、託してくれたんだから。

 しゃがみ込んで、辺りが暗くなってきた。
 名前を何度も呼ばれるけど、水の底にいるみたいに声が遠い。

 光太郎さんを殺した私は、幸せにはなれない。
 忘れていいって、幸せになって欲しいって、光太郎さんは言ってくれたけど……。
 忘れるなんて、無理。
 死んでも、ゆたかや光太郎さんと同じ所には行かれない。
 二度とゆたかや先輩達には会えない。
 Lさんにも上田さんにも、会えない。
 だけど――そう思える人達に会えた私は、幸せだった。

 Lさんならきっと、この殺し合いを打ち破れる。
 ここから出て、これからもたくさんの人を助ける。
 それを、信じられた。

「Lさんなら……きっと……」

 目を閉じようとして、頬に温かいものが当たった。
 すぐにそれが何か、分かった。
(チェリー……?)
 チェリーが舐めてくる。
 どうしてここに、なんて思うより先に――嬉しかった。
 夢でも良かった。
 すり寄られて、チェリーの匂いがする。
 チェリーがいる、日常の香り。
 先輩達がいて、ゆたかがいる日常。
 帰りたかった、戻って欲しくて返して欲しくて、どうしようもなくなるような平和な日々。
 それを一瞬だけ、もう一度味わえた。



 それはとても、贅沢な夢。



【岩崎みなみ@らき☆すた 死亡】


 桐山は虚ろな目で空を見ていた。
 しかし何も感じない。
 カズマとみなみを殺した高揚感や達成感も、優勝を逃した事への悔しさも、二度目の死への感慨も、何もない。
 全身を包む痛みと呼ぶ事すら微温い痛みであっても、桐山の心は揺らされない。

「……」

 二度目のバトルロワイアルにあっても何の感情も得ないまま、桐山和雄は再びその生涯を閉じた。

【桐山和雄@漫画版バトルロワイアル 死亡】


 上田の背後に現れてその手を舐め上げたのは、全身に酷い火傷を負った大型のシベリアンハスキーだった。
 北の山火事に巻き込まれたか、誰かに襲われたのかは定かではない。

 Lはみなみに初めて会った段階で、制服に付着していた犬の体毛から彼女が犬を飼っていると気付いていた。
 その体毛と一致する品種――この犬がそうなのだろう。
 何故かこの会場に連れて来られ、飼い主であるみなみを探していた。
 そして、力尽きた。
 今はみなみの横で安らかに眠っている。

「Lさん、怪我は……」
「肋が折れました。
 ……いえ。
 そんな事はどうでもいいです」

 カズマと桐山。
 そして犬に寄り添われて眠るみなみ。
 横たわる者達から、Lは目を逸らす。

「どうでもいい……」

――私が興味があるのは、正義だけですから。

 美空ナオミと共に捜査をした時、そう言った。

 正義以外どうでもいいとは言わないが、優先順位は低い。
 悪はどんなものでも許せないとは言わないが、優先順位は低い。

 正義では救えない人達もたくさんいる。
 悪で救われる人達もたくさんいる。
 しかし、それでもなお。

 正義は他の何よりも、力を持っている。
 正義は他の何よりも、優しさを持っている。

 そう信じてきた。
 そう信じて戦い続け、命を落とした事さえある。
 そうした生き方を、光太郎の死を前に固めた決意さえもあざ笑うように、人の命が消えていく。
 ほんの数時間前に光太郎に託されたものすら守れない。
 最後までLを信じ続けた光太郎は、最期の時までみなみの幸福を願っていたのに。
 誰一人、守れなかった。

「Lさん」
「……どうしました、上田さん」
 呆然と佇むLに対し、上田が話しにくそうにまごつきながら言う。
「その、私としては……皆を、運びたい。
 霊安室とまではいかないが、屋内に」
「……桐山もですか」
 確認すると上田はますます言葉をどもらせた。
 「それは……」だの「その……」だの、幾つも関係ない音を並べた上で、彼は改めてLに向き合った。
 そして彼の言葉に、Lは丸い目を更に丸くする。

「私は……沙都子ちゃんも亀山君も、瑞穂君も、……置き去りにしてしまった」

 上田は臆病で、怖がりで、根性なしだ。
 だからこそ出会った人々が次々と命を落としていく事に、無感情でいられるような図太さを持ち合わせていない。
 自分の命の方が大事だから逃げるというだけで、人の死に対して敏感なのだ。
 それはLが信じていた、正義が持つ優しさに通じている。

 優しさを内包する正義だけでは救えない人々がいる――知っていたし、この場でも思い知った。
 だがそれは正義が無力である事の証明にはならない。
 これまでずっと、正義を信じて事件を解決してきた。
 多くの人間を救ってきた。
 今更正義の存在意義を疑ったところで、救える人間の数は増えはしない。

 みなみの死を突き付けられて忘れそうになっていた――鈍くなっていた。
 桐山とて人間であり、ここで皆と同じく殺し合いに加えられて命を落とした。
 悪であろうと被害者だ。
 他を弔い桐山を野晒しにする事は、人として許されない。
 その選択をしてしまえば、Lは今度こそ「人の気持ちが分からない人間」になってしまう。
 正義を信じながら、正義が持つ優しさから外れようとしていた。

「……そうですね、上田さん。貴方は正しい。
 桐山和雄の遺体も、どこかに運び込みましょう。
 しかし――」

 こうして突っ立っていては誰に襲われるか分からない。
 しかも残る参加者はたったの二十一人。
 急ぐ理由は幾らでもある。
 それでも、足が前に進まない。

「すみません、もう少しだけ……」

 死刑囚を囮に使い、死なせた事がある。
 様々な形で人の死に関わってきた。
 しかしこの数時間で失った、自ら死なせた人々の事を想う。
 蒼星石。こなた。右京。かなみ。光太郎。カズマ。みなみ。桐山。
 正義で救えなかった人々の存在が、枷となって足を重くする。

「もう少しだけ、このまま……」

 空を見上げる。
 澄み渡った青は見る影もなく、橙すらも僅かとなって濃い藍色が空に広がる。
 夜の帳が下りていく。
 暗い闇色がやがて空の全てを侵食するのを、Lは為す術なく見ている事しか出来なかった。


【一日目 夜/G-9】
【L@デスノート(漫画)】
[装備]ゼロの剣@コードギアス
[支給品]支給品一式×4(水と食事を一つずつ消費)、ニンテンドーDS型詳細名簿、アズュール@灼眼のシャナ、ゼロの仮面@コードギアス、
    角砂糖@デスノート、確認済み支給品0~2、情報が記されたメモ、S&W M10(5/6)、S&W M10の弾薬(18/24)@バトル・ロワイアル、
    首輪(魅音)、シアン化カリウム@バトルロワイアル、イングラムM10(0/32)@バトルロワイアル、おはぎ×3@ひぐらしのなく頃に
[状態]肋骨折、疲労(中)
[思考・行動]
1:協力者を集めてこの殺し合いを止め、V.V.を逮捕する。
2:大量の死者を出してしまったことに対する深い罪悪感。

上田次郎@TRICK(実写)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式×4(水を一本紛失)、富竹のポラロイド@ひぐらしのなく頃に、デスノート(偽物)@DEATH NOTE、不明支給品0~1
    ベレッタM92F(10/15)@バトルロワイアル(小説)、予備マガジン3本(45発)、雛見沢症候群治療薬C120@ひぐらしのなく頃に、
    情報が記されたメモ、浅倉のデイパックから散乱した確認済み支給品1~3、瑞穂の不明支給品0~1
[状態]額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲
[思考・行動]
1:Lに協力する。
2:カズマ達の遺体を弔う。
※東條が一度死んだことを信用していません。

※桐山とカズマのデイパックは消滅しました。
※みなみのデイパック、女神の剣@ヴィオラートのアトリエは付近に放置されています。
※チェリー@らき☆すたは死亡しました。


時系列順で読む


投下順で読む


146:はぐれ者 上田次郎 153:Painful Return
L
カズマ GAME OVER
岩崎みなみ
桐山和雄



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー