ひぐらしのなく頃に

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ひぐらしのなく頃に ◆ew5bR2RQj.



「ここまで来れば大丈夫だろう……」

周囲に誰の気配も無いことを確認して、縁は足を止める。
遊園地の派手なアトラクションは景色から消え、古めかしい民家の集合地が代わりに点在していた。

「ホントに、助かったヨ」

自身の身体を見渡しながら不敵な笑みを浮かべる縁。
腹部に刻まれた裂傷は消え、身体には溢れんばかりの力が湧いている。
これも先程使用した香のおかげだ。
掌を何度も握り締めながら、内側に秘める力を実感する。

「枢木も、あの女も、あれでは死んでいるだろう」

腹を貫かれた鷹野と、炎で焼き尽くされたスザク。
あれはどちらも致命傷であった。
協力者を失ったことは痛いが、最終的に彼らは糧となって死んでくれた。
その証拠が、完全回復した肉体と右腕に掛かっている二つ目のデイパック。
スザクがあそこで行動を起こさなければ、自分は彼らに捕縛されていたかもしれない。
連中の目が自分から外れたからこそ、傷を回復して逃げることができた。
そして、鷹野が押し付けてきたデイパック。
中を覗くと、役立ちそうな道具がいくつも入っていた。
香も二つ残っていたため、装備は盤石になったと言ってもいい。

「フフ……本当によくやってくれたよ」

笑いが止まらない。
彼らの犠牲が、何処までも自分に有利な展開を生み出してくれた。
配布された時計を見ると、もうすぐ零時を回ろうとしている。
今までのペースから推察すると、残り人数は十人前後になっているだろう。
姉の蘇生が、抜刀斎への復讐が、もう目の前にある。

「復讐、か……」

零れ出た笑みが不意に止まる。
彼の脳裏に蘇っていたのは、炎の中でもがき苦しむかつての協力者の姿だった。
憎い相手の最も愛する人を奪い取ったスザク。
彼が行った復讐は、縁が抜刀斎に仕掛けようとした人誅と酷似している。
もし、抜刀斎への人誅が成功していたとしたら。
あの炎の中に居たのは、自分だったのだろうか。

「フンッ……」

復讐を完遂した時、スザクの心中がどのようなものだったのか。
あの高笑いを聞いていれば、容易に想像することができた。
全身を満たすような歓喜と高揚感。
抜刀斎への人誅を想像するだけで縁はそれを覚えるのだから、彼が体験したのはそれ以上のものだったと推察する。
だが、それを傍らで見ていた時。
縁が感じ取ったものは、まるで真逆だった。
下品に笑い続けるスザクを見て、言いようのない不快感が迸った。
血の海に倒れるレナを見て、喉の奥から吐瀉物が零れそうになった。
これが復讐の末路だというのか。

「チッ……」

スザクの顔を思い浮かべて、縁は舌打ちをする。
最初に彼の精気のない顔を見た時、妙な親近感を覚えた。
復讐を企てているのを知り、自らの勘が間違っていなかったことに気付いた。
そして、彼は死んだ。
復讐者の末路を示すように、彼は炎の中に消えて行った。
元から信頼など存在しない関係だったが、縁が彼に抱いた最後の感情は払拭しがたい嫌悪感だった。


 ☆ ☆ ☆


柊つかさが事の顛末を知ったのは、数時間前まで根城にしていた民家の中でだった。
ミラーハウスの影に身を隠し、北岡達が戻ってくるのを待っていたつかさ。
戦場からは数百メートル離れていたため、音も疎らにしか聞こえない。
その状態で三十分が経過し、不安を抱き始めた頃に彼らは車に乗って戻ってきた。
運転席にジェレミア、助手席に北岡、後部座席に狭間。
レナの姿が無いことには、すぐに気付いてしまった。
車内の雰囲気が重く、何が起きたのかを尋ねることはできない。
根城にしていた民家に戻り、北岡と二人きりになったところでようやく話を聞くことが出来た。

「レナちゃんが……」

数時間前に一緒に料理した彼女の死に同情を隠すことができない。
涙が零れそうになるのを、必死で我慢し続けた。
一番辛いのは狭間なのだ。
民家に到着した直後、狭間は一人になりたいと二階に行ってしまった。
そしてもう一人、ジェレミアも奥の部屋に篭っている。
遊園地の出口の先にある民家で、枢木スザクが力尽きているのを発見したらしい。
彼女がスザクと会ったのは、総合病院を出た後の一件だけだ。
自分達を襲撃してきた彼を、彼女は危険人物だと認識している。
しかしジェレミアからすれば同郷者の一人であり、敵とも味方ともつかぬ複雑な関係にあった。
本来の彼は凶行に走るような人物ではない。
ジェレミアはずっとその理由を知りたがっていたが、最後までそれを知ることができなかった。
故にジェレミアは深い後悔を抱いているのだ。

「……」

沈黙が場を支配する。
部屋に篭る直前の二人の顔が出発前と比べて随分と憔悴していたことを、彼女は思い出していた。
顔を見上げると、北岡も沈痛な面持ちをしている。
レナやスザクの他にもう一人、今回の騒動で犠牲者が出ていた。
全ての発端である女性、鷹野三四
殺し合いに巻き込んだ主催側の一人であり、彼女自身も直接命を狙われている。
完全に敵側の人間ではあるが、それでも死んで欲しかったとは思わない。
それに死人が出たこともそうだが、あの場で戦った一人を取り逃がしてしまっている。
つかさは直接会ったことはないものの、アイゼルや奈緒子を襲った男と特徴が一致していた。

「北岡さん……」

誰にも聞こえないような小さな声で呟くつかさ。
木製の椅子に腰掛ける北岡が、今はとても小さく見える。
その場にいなかった彼女ですら胸が張り裂けそうなのだから、彼らの心中は想像するだけでも痛ましい。

「私が……何とかしなくちゃ……」

だからこそ、そう思う。
戦闘では役立たないのだから、それ以外のところで尽力するしかない。
そうして辺りを見回して、目に入ったのが数時間前に作ったビーフシチューだった。
来訪することを事前に聞いていたため、狭間の分は残してある。

「つかさちゃん?」

椅子から立ち上がり、一目散に台所へと駆け寄るつかさ。
背後で北岡が呼び掛けてくるが、それも耳へは入ってこない。
コンロのノズルを捻り、鍋に入ったシチューを温め始める。

「車の中で狭間さんがお腹が空きそうって言ってたので、持って行ってあげた方がいいかなって思ったんです」
「そういやそんなこと言ってたな、手伝うよ」
「いいです、北岡さんは休んでてください」

手伝おうとして立ち上がった北岡を制止し、戸棚から取り出した皿にビーフシチューを盛る。

「それじゃあ、行ってきますね」

お盆に皿を乗せると、つかさは台所から立ち去っていく。
向かったのは狭間がいる二階に繋がる階段。
零さないように気を付けながら階段を上がり、廊下を歩いて寝室の扉の前に立つ。
コンコンとノックをすると、乾いた声で返事が返ってきた。

「入りますね」

扉を開けると、ベッドに腰掛けた狭間が夜空を眺めていた。
背を向けているため、表情を伺うことはできない。

「あの……車の中で言ったビーフシチューを持ってきたんです、良かったら食べてください」

ベッドの上にお盆を置く。
そうして扉の前まで退散した彼女は、は緊張しながら緊張しながら狭間の挙動を見守り始めた。
見るからに気品漂う狭間の口に合うか不安だったのだ。
しばらく皿を注視し続けた後、狭間は膝の上にお盆を乗せた。
傍に置かれたスプーンを手に取り、皿に盛られたビーフシチューを掬い取る。
そして、口へと運んだ。

「……」

訪れる沈黙。
扉の前に立ちながら、狭間が食事をする様子を観察するつかさ。
口内で味わっているのか、狭間は中々呑み込まない。
調理師を目指しているため、ビーフシチューの味には自信がある。
事実、北岡やジェレミアは褒めてくれた。
しかし中々呑み込まない狭間に、抱いていた自信は不安へと変わっていく。
妙な居心地の悪さから、全身が痺れるような感覚を覚え始める。
それでも待ち続けて二分が経過。
無言だった空間に、ごくんと飲み込む音が響く。

「ど、どうでしたか?」

緊張が頂点に達したためか声が裏返ってしまう。
羞恥心から逃げるようと、思わず顔を逸らすつかさ。

「中々に美味だったぞ」

そんな彼女に返ってきたのは賞賛の言葉だった。
羞恥に染まっていた顔が、歓喜を表す明るいものへと変わっていく。

「ホ、ホントですか!? ありがとうございます!」
「……これは貴様と一緒に竜宮も作ったのか?」
「はい、そうです……そうだ、レナちゃん、狭間さんも来るからってとっても頑張ってたんですよ!」

畳み掛けるようにそう告げるが、狭間からの返事は返ってこない。
余計なことを言ってしまったかと、後悔の念が彼女の脳内を渦巻いていく。

「……通りで」

すると彼は、自嘲するようにフッと笑いながら――――

「通りで、しょっぱくなるわけだ」

そんな事を言った。

「え……やっぱりお口に合わなかったですか?」

恐る恐ると言った様子で尋ねるつかさ。
レナは調理の手伝いをしただけで、あくまで主導は彼女である。
故に味付けに問題があれば、それは彼女の責任なのだ。

「いや、そんな事はない」
「で、でもしょっぱいって……」
「ああ、しょっぱいな」

そう言いながら、二口目を口に運ぶ狭間。
その姿を眺めていて、彼女は気付いてしまった。
スプーンを持つ手が震えていることに、先程から彼が何度も鼻を啜っていることに。


「本当に、しょっぱいな」


食べ始めてから、ずっと彼が背を向けていることに。


   ☆ ☆ ☆


「柊、頼みがある」

半分ほど食べ終えた狭間が、唐突に言葉を投げかけてくる。

「他の二人を居間に集めておいて欲しい、そこで大事な話をしたい」

くるりと身体を反転させ、つかさと向き合う狭間。
凛とした張りのある声色を響かせ、最初に会った時のような自信に溢れた顔で告げた。


   ☆ ☆ ☆


つかさが一階に戻ってきてから五分後、ずかずかと階段を下る足音が伝わってきた。

「ジェレミア、パソコンを貸せ」

居間に入ってきて早々、開口一番に狭間はそう言い放つ。
命令口調にジェレミアがピクリと眉を動かすが、嫌々といった様子でノートパソコンを差し出した。

「柊、頼むぞ」
「え? あ、はい」

汚れた皿をつかさに押し付け、ノートパソコンを受け取る狭間。
呆然としながらも彼女はそれを受け取り、そそくさと台所に走っていく。
北岡の呆れたような顔をしているが、彼がそれに気付く素振りはない。
机の上にパソコンを置くと、椅子に座ってそれを起動させた。

「そういえば鷹野からユーザ名とパスワードだけは聞き出せてたな」

思い出したように言いながら、北岡とジェレミアは狭間の背後に移動する。
つかさの洗い物が終わった頃には、『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページが画面に表示されていた。
メニューには多くの項目があるものの、大半の情報には閲覧制限が設けられている。
パスワードを知る者しか閲覧を許さない堅牢な錠前。
しかし、今の彼らにはそれを解き放つ鍵がある。
狭間はログイン画面を表示すると、目にも留まらぬ速さでユーザ名とパスワードを入力した。

「開いた!」

喜びの余り声を上げるつかさ。
扉は開かれ、中にある重要な情報へと辿り着いたのだ。
鷹野が死亡した今、これが唯一の突破口なのである。

「ふむ……」

凄まじい速度でページをスクロールする狭間。
その余りの速さに、北岡とジェレミアですら追うことができない。
つかさに至っては、背後であたふたとしていた。
参加者詳細プロフィールを読み終えると、今度は一つ下にある参加者の動向へ。
それも読み終えると、また一つ下へ。
次から次へとページを読み進めていく。

「あのさぁ、もう少しゆっくり読めないの?」
「いつでも読めるのだ、後で見ればいいだろう」

北岡の懇願をピシャリと打ち切り、ひたすらに文字を追い続ける狭間。
その返答を聞いた北岡は、ジェレミアと目を合わせて肩を竦めた。

「もう読み終わったぞ」
「早っ!」

パスワードを入力してから、およそ三分後の出来事だった。

「目的は見れないみたいだな」
「ああ、そこだけはあの女の権限でも閲覧できなかったようだ」

狭間からパソコンを受け渡されたジェレミアは、真っ先に最上部に設置されていた目的のページを開く。
しかし、そこだけは閲覧制限が設けられたままである。
余程知られたくなかったのだろう。
敵を知るのは重要だが、見ることができないのなら仕方がない。
ページを戻し、一つ下にある『参加者の詳細プロフィール』を開いた。

「これに間違いはないようだな……」

ゆっくりとページをスクロールしていくジェレミア。
そこに記されているのは夥しい程の情報量。
参加者詳細プロフィールには、全ての参加者の詳細な情報が。
参加者の動向には、全参加者のこれまでの動向が。
死者表示、世界観区分にも、題目通りの情報が記されていた。
自身の情報と照会してみるが矛盾はないため、
この中の情報は信頼できると判断していいだろう。

「この二つは何なんだ……?」

nのフィールドの危険性と、「彼」のギアス一覧。
ギアスという単語に馴染みがあるためか、ジェレミアが先に開いたのは後者だった。
そのページに記されているのは、「彼」が使用したとされるギアスの詳細。
全参加者に課せられたギアスの詳細が記されていた。
「彼」というのは、つかさの記憶の中にある銀髪の少年のことだろう。
大半の参加者は連れ去る際にものだけだが、一部の参加者には能力の制限が設けられている。
例えば後藤に掛けられた、他の参加者に手加減しろというものがそうだ。
他は狭間やシャドームーンなどが該当している。

「大半の参加者はギアスで連れてこられたようだな、だが私やC.C.はどうやって連れて来た……?」

疑問が解けた先にあったのは新たな疑問。
ギアスの通じないジェレミアやC.C.はどうやって連れて来たのか。
さらに突き詰めれば、制限の方法に関しても全貌が判明した訳ではない。
謎は深まる一方だった。

「これ、本当なのか……?」

後者を見終わり、nのフィールドについて記されたページを開く。
そこに踊る文字を見て、北岡は額に皺を寄せた。
そのページで説明されているのは、nのフィールドに関する詳細な情報。
その名称に覚えはないが、鏡面から入るという点はミラーワールドと一致している。
ローゼンメイデンと呼ばれる者達のみが出入りすることができるらしい。

「あの薔薇水晶とかいう輩がそうだろう」

薔薇水晶があの場から立ち去る際、窓ガラスの中に消えて行った。
真紅や翠星石といった他のローゼンメイデンとも名前の響きが似ているため間違いないだろう。
読み進めていく内に、主催側の者達がnのフィールドを経由して会場の出入りしていることが分かった。

「そういうことか!」

マウスを握り締めながら、ジェレミアが叫ぶ。
その背後で北岡も納得するように染み染みと頷いている。

「さっきのリストの中にあった真紅や翠星石って連中に掛けられてたギアスを覚えてる?」
「えぇっと、確か四人ともnのフィールドに入るなってギアスが……ああああああ!!」

北岡が言わんとしていることが理解できたのだろう。
つかさも大声を上げ、驚愕を顕にした。

「その人たちのギアスが無くなっちゃえば、V.V.さんに会いに行けるんだ!」

nのフィールドに入ることができるローゼンメイデン。
しかし彼女達には『nのフィールドに入るな』というギアスが課せられている。

「ギアスなら私のギアスキャンセラーで解除することができる」

橙色の仮面に覆われた左眼球を指差すジェレミア。
ギアスを解除できる彼と、nのフィールドに乗り込むことができるローゼンメイデン。
彼らが一堂に会すれば、主催側に乗り込める可能性が出てきたのだ。

「まだ翠星石は生き残っているな」
「翠星石ちゃんは真紅ちゃんの仲間だってレナちゃんが言ってました!」
「ああ、これなら行けるぞ!」

殺し合いに巻き込まれてからおよそ一日。
五十三人もの犠牲者を出し、今も何処かで命が潰えようとしている。
それでもこの場において、初めて明確な希望が生まれたのだ。

「だが、早く向かわないとまずいかもしれん」

参加者の動向のページを見ながらジェレミアは言う。
現在翠星石は地図にない診療所で休憩中のようだが、これからシャドームーンと戦おうとしている。
五人もの人間を虐殺し、今もなお血を欲している最強のマーダー。
この場に彼と邂逅したものはいないが、動向を読むだけでも恐ろしい敵であることは伝わってくる。
全力で衝突した場合、死亡してしまう可能性は十二分にあった。

「狭間、悪いんだけどさ、あの機械で翠星石の居場所を調べてもらえない?」
「Fー8だ」
「おいおい、あれ見ないでどうやって……ってひょっとしてもう調べてあったりしたの?」
「必要になると思ってな」

頭脳明晰な狭間は、情報を得た時点で翠星石に会う必要性に気付いていたのだ

「よし、じゃあ今すぐ車で――――」
「待て」

急いで部屋を出て行こうとする三人を静止したのは狭間。
窓辺に立ちながら、神妙な表情を浮かべている。

「なにのんびりしてるのさ、もし翠星石がやられちゃったら唯一の脱出法が無くなっちゃうじゃない」
「そうだ、それにシャドームーンと戦うなら頭数は多い方がいいだろう」

矢継ぎ早に繰り出す北岡とジェレミア。

「急いだ方がいいというのは同意だ、だが貴様らに話しておかなければならないことが一つある」
「それはそんなに大事なのか?」
「ああ、そうだ。先程貴様達は”唯一の脱出法”と言ったな?」
「言ったよ、それがどうしたっていうのさ?」

勿体振った言い方をする狭間に、ジェレミアと北岡は痺れを切らした様子である。
一刻を争う事態なのだから当然だろう。

「脱出法かどうかは分からないが、残された希望は一つではない」

だが、次に狭間の口から出た言葉で三人の動きは止まった。


「二つ目の希望が残されている、鷹野三四から託された希望がな――――」


   ☆ ☆ ☆


時間はレナが死亡した直後まで遡る。

「……貴様、生きていたのか」

背後で鳴った物音に反応して振り向く狭間。
そこに立っていたのは、先程まで戦っていた相手である鷹野三四。
直ぐ様警戒線を敷くが、彼女に戦意が無いことに気付くのはそう遠くなかった。
いや、戦意が無いのではない。
今の彼女は戦う事はおろか、立つことさえ困難なのだ。
口からは大量の血を流し、手足はぶるぶると震えている。
そして腹部には、背後が見える程の貫通傷。

「えぇ……」

もう長くないと、一目で分かる状態だ。

「何の用だ」

この期に及んで、まだ何かを企んでいるのか。
ギリッと歯を食い縛り、今にも倒れそうな彼女に対して狭間は露骨な嫌悪感を示す。

「お願いが……あるの…………」

だが、彼女が放ったのは懇願の言葉。

「お願い……だと?」

想定外の言葉に、狭間は声を荒げる。
あれだけのことをしておいて、自分が頼みを聞き入れると思ったのだろうか。
面の皮の厚さに辟易するが、鷹野は血を吐きながら言葉を紡ぎ続ける。

想定外の言葉に、狭間は声を荒げる。
あれだけのことをしておいて、自分が頼みを聞き入れると思ったのだろうか。
面の皮の厚さに辟易するが、鷹野は血を吐きながら言葉を紡ぎ続ける。

「ゴホッ、ゲホッ、雪代縁を……追い掛けて……」

雪代縁。
スザクと一緒にこの場を訪れ、騒ぎに乗じて姿を消した白髪の男だ。

「何故だ」
「あ、あの男が持っていった……デイパックの……中に……ゴホゴホッ……ゴフッ!!」

無理して喋り続けたせいか、鷹野は思い切り咳き込んでしまう。
続いて鳴ったのは、液体が泡立つような音。
咄嗟に両手で抑えるが、その隙間から大量の血液が流れ出ていた。

「おい!」

狭間がそれに気付いた瞬間、鷹野の身体は崩れ落ちる。

「あの男を……追い掛けて……デイパックの中に……ゲホッゲホッ!!」
「くっ……ディアラハン!」

横たわる鷹野に近付き、レナに施したのと同様の回復魔法を唱える。
死を防ぐことはできないが、傷を癒すことで話ができる状態に戻ると判断したのだ。

「ハァ……ハァ……雪代縁から……デイパックを……取り返しなさい……」

腹部の穴は消え、口からの吐血が止まる。
喋り方は辿々しいが、内容を理解することは出来た。

「あの中に……私がV.V.から盗み出した物があるわ……それを使って……ここから脱出しなさい……」

ラプラスに誘われるがままに会場に赴いた鷹野だが、目的を果たした後のことを考えてなかった訳ではない。
会場に置き去りにされることも見越していたため、一人の参加者として生き残る手段も考えていた。
情報を集め、予備の支給品をデイパックに詰め込む。
しかし、何かが足りない。
そう考えた彼女は、奥の手を用意した。
バトルロワイアルの運営に携わっていた彼女は、その根幹を為すシステムを概ね把握している。
脱出方法や首輪の構成、会場の秘密や制限の手段などを。
これらの情報は絶大なアドバンテージであり、これらを利用しない手はないと判断したのだ。

「何だと……ッ!? それは一体何なのだ」
「それは……それは――――…………」

詳細を告げようとして、彼女の言葉は途切れる。
狭間が呼び掛けるも反応はない。
彼女の魂もまた、黄金の海へと旅立っていた。

「何故だ、何故貴様は……」

盗み出した物の詳細は分からなかったが、殺し合いを覆すほどの物であることは間違いないだろう。
しかし、理解ができない。
自分を散々甚振った相手に、何故それを託したのか。
そもそも信用すると思っているのか。
合理的に考えれば考えるほど、狭間の思考は混迷に陥っていった。


   ☆ ☆ ☆


「あの女がそんなことをねぇ……」
「にわかに信じ難いが……何か心境の変化があったのかもな」

鷹野を撃破した直後、狭間達は重症の鷹野を尋問しようとした。
しかし、レナだけは彼女に手を差し伸べている。
直後に彼女は致命傷を負い、レナもまたスザクによって命を奪われてしまった。
だがもしその後も彼女が意識を保っていたなら、レナの最期を目撃していたのだろう。

「まぁ、俺達が知ったことじゃないんだけどね」
「そうだな、それで本題に入るが……その話を信用するのか?」

額に皺を寄せながら尋ねてきたのはジェレミア。
他の二人も訝しげな表情を浮かべている。
自分達を殺し合いに巻き込んだ上、直接襲撃してきた鷹野を信用できないのは無理もない。

「……私はこれを信じてもよいと思っている」

だからこそ、あえてそう言う。

「正気か?」

神妙な表情を浮かべて尋ねてきたのはジェレミアだ。

「無論だ、確かにあの女のしでかした事を考えれば信じる通りはない、疑うのも当然だ」
「だったら何故」
「だが、激痛に耐え、命を賭し、この事を伝えてきたあの女を私は信じてみたいと思っている」

腹部を貫かれる痛みは、普通の人間が耐えられるものではない
即死する可能性も十分にあり、よしんば生き残っても一言話すだけで激痛が全身を襲う。
その苦痛の中にいたにも関わらず、鷹野はこの情報を必死に託したのだ。

「竜宮や蒼嶋の教えてくれた信じる心を、ここで無碍にしたくないと思っているのだ」

雛見沢症候群によって、他人を一切信じられなくなったレナ。
だが彼女はそれを克服し、他人を信じる心を取り戻した。
そしてその姿に、狭間も信じる心を教えられた。

「疑うのは容易い、だからこそ私は信じてみたい」

それが鷹野の最期を見て、狭間が抱いた結論だった。

「……なら、今からその縁って奴を追うのか?」
「いや、翠星石との合流が最優先だ
 彼女を含めた残りの信頼できる者達は全員固まっている、ストレイト・クーガーのみが一時的に離れているようだがな
 一度彼らと合流してからでも雪代縁を追うのは遅くない」

このまま彼らがシャドームーンと激突する場合、犠牲者が生まれる可能性は極めて高い。
それだけは何としても阻止しなければならないだろう。

「それなら問題ないんじゃない」
「ああ、どのみちあの男は倒さなければならないしな」

狭間の言葉に納得した二人が首肯する。
あくまで翠星石との合流が優先であり、最終的に縁も倒すべき敵であるという点が信用の鍵になったようだ。

「じゃあ余計に早く行かなきゃ駄目ですね、急ぎましょう!」

会話に入るタイミングをようやく掴んだせいか、つかさの声色は妙に明るい。

「そうだな、今度は運転よろしく」
「変身してる時以外は役に立たないのだから、貴様が引き続き運転してはどうだ」
「ま、待て!」

出発しようとした三人を止めたのは、またしても狭間だった。
ただし前回と違い、今回の声は上ずっている。

「……今度はどうしたのよ?」
「私は貴様達を信用に値する者達だと思っている、だが……だが……」
「えっと、大丈夫ですか……?」

今までの尊大な口調とは一転し、今の狭間は妙に歯切れが悪い。
心配そうにつかさが覗き込んできている。

「……貴様達は私を信用出来るのか?」

無言のまま一分が経過した後、ようやく狭間は次の言葉を口にした。

「どういう意味だ」
「見たのだろう、私の詳細なプロフィールを」

参加者の詳細プロフィールには、全参加者の詳細な情報が詰め込まれていた。
当然その中には、狭間のプロフィールもある。
魔神皇として暗躍していた時の情報も、無論記載されていた。

「私はかつて魔神皇を名乗り、同じ学校の者達を魔界に封じ込めていた
 それでも貴様達は、私を信用できるのか?」

普通に話そうと努めても、どうしようもない程に声は上ずってしまう。
今までは成り行きで会話を交わしていたが、本来の狭間は他者との付き合いが苦手である。
そこに自らの悪事が露見したとなれば、行き詰ってしまうのも当然のことだった。

「はぁ……今更何言ってるのさ」

心底呆れたと言うように溜息を吐いたのは北岡。

「信用するとかしないとか、そういうのはとっくに終わってたと思ってたんだけどさ」
「そうですよ、狭間さんがいなかったら今頃私達どうなってたか」
「確かに貴様のしたことは許されることではない、だがそれは元の世界に帰った後に償えばいいだろう」

北岡の発言を皮切りに、他の二人も言葉を投げ掛けてくる。
信用するのが当たり前だと言うような物言い。
狭間がとんでもなく間抜けなことを言い出したかのような空気が漂っていた。

「それに……元の世界で人に言えないことやってたのは俺も同じだよ、悪徳弁護士なんて言われてたしね」
「私もいつもおっちょこちょいで、こなちゃんやお姉ちゃんによく迷惑掛けてたな」
「……私など純血派の名を借りて、日本人を殺していたこともある」

逆に自らの罪を吐露し始める三人。
そのやり取りを見ながら、狭間は口をぽかんと開けていた。

「……信じると言ってこのザマか、私もまだまだだな」

自嘲するように笑う狭間。
その際に呟いた言葉は、周囲の空気に紛れて誰の耳にも届かなかった。

「そうか……なら、改めて自己紹介させてもらおう」

どうしてこのタイミングで自己紹介するのよと、北岡が突っ込みを入れる。
その理由を答えるのなら、やはり彼が他者との交流に馴れていないからだろう。
だが、そんなことは気にせず、狭間は尊大な口調で言い放った。

「私は軽子坂高校2年E組の狭間偉出夫、そしてあらゆる魔法を習得した全知全能たる魔人皇
 この私が来たからには安心するがいい
 私は殺し合いというふざけた”もし”を破壊し、貴様らと一緒に元の世界に戻るつもりだからな」

何処までも芝居がかった口調に、目の前にいる三人は苦笑している。

「そのためには貴様らの力が必要だ、だから力を貸してもらう、拒否は許さんぞ」
「フン、当たり前だ」
「私に何が出来るか分からないけど……頑張ります!」」
「そっちこそ後でやっぱやめたとかやめてよね」

三者三様の反応だが、共通しているのは皆が彼を受け入れているということ。
満足そうに笑みを浮かべながら、狭間は一歩前へと踏み出す。
そして、こう言った。




【一日目 真夜中/G-9 民家】
北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]:レイの靴@ガン×ソード、ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎(一時間変身不可)
[所持品]:支給品一式×3(水×2とランタンを消費)、CONTRACTのカード@仮面ライダー龍騎、CONFINE VENTのカード@仮面ライダー龍騎
     FNブローニング・ハイパワー@現実(12/13) 、RPG-7(0/1)@ひぐらしのなく頃に、榴弾×1、ミニクーパー@ルパン三世
     デルフリンガーの残骸@ゼロの使い魔、確認済み支給品(0~1)(刀剣類がある場合は一つだけ)
[状態]疲労(小)、軽傷
[思考・行動]
0:殺し合いから脱出する。
1:翠星石のいるF-8に向かう。
2:つかさに対する罪悪感。
※龍騎勢が、それぞれのカードデッキを持っていると確信。
※一部の支給品に制限が掛けられていることに気付きました。
※病院にて情報交換をしました。
※レナ、狭間と情報交換をしました。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。

【柊つかさ@らき☆すた】
[装備]なし
[支給品]支給品一式×2(水のみ3つ)、確認済み支給品(0~1) 、レシピ『錬金術メモ』、陵桜学園の制服、かがみの下着、食材@現実(一部使用)、
    パルトネール@相棒(開封済み)、こなたのスク水@らき☆すた
[状態]健康
[思考・行動]
0:殺し合いから脱出する。
1:翠星石のいるF-8に向かう。
2:錬金術でみんなに協力したい。
[備考]
※錬金術の基本を習得しました。他にも発想と素材次第で何か作れるかもしれません。
※アイゼルがレシピに何か書き足しました。内容は後続の書き手氏にお任せします。
※会場に連れ去られた際の記憶が戻りました。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。

ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[装備]無限刃@るろうに剣心、贄殿遮那@灼眼のシャナ
[所持品]支給品一式×2(鉛筆一本と食糧の1/3を消費)、咲世子の煙球×1@コードギアス 反逆のルルーシュ、USB型データカード@現実、ノートパソコン@現実、
    ヴァンの蛮刀@ガン×ソード、琥珀湯×1、フラム×1、リフュールポット×2、不明支給品(0~1)、
    薬材料(買い物袋一つ分程度)、エンドオブワールドの不発弾(小型ミサイル数個分)、メタルゲラスの装甲板、メタルゲラスの角と爪
[状態]右半身に小ダメージ、疲労(小)、精神磨耗、両腕の剣が折れたため使用不能
[思考・行動]
0:殺し合いから脱出する。
1:翠星石のいるF-8に向かう。
2:V.V.を殺す。
3:他の参加者に協力する。クーガーとの約束は守る。
4:全て終えてからルルーシュの後を追う。
[備考]
※病院にて情報交換をしました。
※制限により、ギアスキャンセラーを使用すると疲労が増大します。他にも制限があるかも知れません。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。

【狭間偉出夫@真・女神転生if...】
[装備]:斬鉄剣@ルパン三世
[所持品]:支給品一式×2、ニンテンドーDS型探知機 インスタントカメラ(数枚消費)@現実、真紅の下半身@ローゼンメイデン、空飛ぶホウキ@ヴィオラートのアトリエ、
     Kフロストマント@真・女神転生if…、ブラフマーストラ@真・女神転生if…、庭師の鋏@ローゼンメイデン、鉈@ひぐらしのなく頃に
[状態]:人間形態、疲労(中)、魔力消費(大)
[思考・行動]
0:殺し合いから他の者達と一緒に脱出する。
1:翠星石のいるF-8に向かう。
[備考]
※参加時期はレイコ編ラストバトル中。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。

※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページのユーザ名はtakano、パスワードは123です。
またこれらを入手したことにより、以下の情報を手に入れました。
  • 全参加者の詳細プロフィール
  • 全参加者のこれまでの動向。
  • 現時点での死者の一覧。
  • 各参加者の世界観区分。
  • nのフィールドの詳細及び危険性。
  • 「彼」が使用したギアスの一覧。
※目的の欄を閲覧することはできませんでした。


【一日目 真夜中/G-10】
【雪代縁@るろうに剣心】
[装備]: 倭刀@るろうに剣心
[所持品]:レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、逆刃刀・真打@るろうに剣心、玉×5@TRICK、紐とゴム@現実(現地調達)、夜神月が書いたメモ
     ルパンの不明支給品(0~1)、支給品一式 、菊一文字則宗@るろうに剣心
     鷹野のデイパック(さざなみの笛@真・女神転生if...、魔力の香@真・女神転生if...、体力の香@真・女神転生if...、???@???、その他不明支給品)
[状態]:疲労(大) 、力+1、速+1
[思考・行動]
1:参加者を皆殺しにし、可能なら姉と抜刀斎を生き返らせる。
2:ヴァンへの怒りや敵意といった負の感情。
[備考]
※殺し合いを認識しました。
第一回放送における『緋村剣心』以外の死者の名前、及び禁止エリアの放送を聞き逃しました。
※ギアス、コード等に関する情報を得ました。
※戦闘後に何処へ向かったかは後の書き手さんにお任せします。
※???@???は殺し合いを打破できる可能性のある物です。

※スザクの支給品は全て燃え尽きました。

【○の香@真・女神転生if...】
鷹野三四が主催本部から調達。
体力を完全回復し、○を+1。
○の部分には力、知恵、魔力、体力、速さ、運が入る。

【さざなみの笛@真・女神転生if...】
鷹野三四が主催本部から調達。
死亡した者をUNDEAD状態にして操ることができる。
UNDEAD状態の者に一切の攻撃は効かないが、回復魔法か破魔魔法を使うことで死体に戻る。

【手榴弾@現実】
鷹野三四が主催本部から調達。
夜神月に支給された物と同じ。

【倭刀@るろうに剣心】
鷹野三四が主催本部から調達。
由詑かなみに支給された物と同じ。
実は作中に二本登場している、探してみよう。


【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に 死亡】
【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に 死亡】


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159:魔人 が 生まれた 日(後編) 北岡秀一 160:因果応報―世紀王 シャドームーンが1体出た!―
柊つかさ
ジェレミア・ゴットバルト
狭間偉出雄 160:因果応報―終わりの始まり―(後編)
雪代縁 162:永すぎた悲劇に結末を――Please hold on to small children.
鷹野三四 GAME OVER
竜宮レナ



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