大陸暦1400年代
+ | 黒の騎士 アスター |
■黒の騎士 アスター
ウィスタリア帝国北西部出身、地元に駐屯する帝国辺境警備隊に入隊間もなくして、迷いの森から現れた幻獣とも冥魔ともつかない未知の魔獣によって警備隊と故郷の村は灰燼に帰す。
魔獣の圧倒的な力の前に、嘆きながらも抗う力を欲した彼の声に応えたのは、竜骨山脈の峰高くに眠っていた二振りの魔剣。
飛来した魔剣との契約によって得た力によって辛くも生き延びるが、二剣の持つ呪いによって他者の記憶にその存在を留めることが叶わない。 故郷も仲間も、家族も友も失った彼は、誰の記憶に留まることもない宿命を受け容れ、姿を消した魔獣を追い、屠ることだけを目的に旅を続けている。
大陸暦1476年、魔獣の手がかりを追って訪れた帝国魔道学院領にて人形師アマリエ=オクターヴァの危地を救ったことで誼を結ぶこととなるが、彼女もまた後に剣の呪いによって"彼"という記憶を消失する。
長き旅路の果てに、二振りの魔剣と、半生を連れ添った自動人形のヒルデとを、一人の魔女に託して息を引き取った。
『故郷も家族も仲間も……大切だった人も、何もかも失くしたと、だからこれ以上失うものなど何もない、そう思っていたんだ。あぁ、本当にバカだったよ』
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+ | 剣戟の自動人形 ブリュンヒルデ |
■剣戟の自動人形 ブリュンヒルデ
大陸史に名を刻む著名な魔道人形師オクターヴァが手がけた自律思考回路を有した戦闘型魔道人形。
五連からなる魔核結晶によって構築された主核回路は、蓄積魔力の尽きた別回路を常時充填する役割を果たすことから外部魔力補充を長期間受けずとも飛躍的な連続稼動と戦闘出力の継続時間を誇る。 また、動力用とは別途に無数の魔核結晶を全身に配し、各種内蔵・副兵装を自在に操ることで近距離ならず中距離戦闘においても格段の威力を発揮するが、その基本思考は単一戦闘ではなくパートナーの支援行動を主として構成されている。
数あるオクターヴァの人形の中でも間違いなく最高峰の一体として開発時より注目を浴びていたが、その完成が公にお披露目されることはなく、オクターヴァ自身の意向により一人の騎士に伴われて、その工房から姿を消している。
短い期間であったが友誼を結んだ孤独な騎士の背中を護るためにオクターヴァが友情と、騎士への秘したる想いとを込めて組み上げた魔核結晶回路には、創造主が呪いによって失った彼への想いが宿り、後にブリュンヒルデは人形として飛躍的な進化を遂げることになるが、それは大陸技術史に刻まれることは無かった。
黒の騎士に連れ添い、旅の途中に没した彼を一人の魔女とともに見届けた後、その消息はようとして知れない。
『ヒトならぬアナタになら解析できますか?マスターの背を見るたびにワタシの中で掻き鳴るこのノイズが何かを?これは……ワタシのものなのか、それともワタシの母サマのものなのかが……』
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+ | 人形師 アマリエ=オクターヴァ |
■人形師 アマリエ=オクターヴァ
名工として名高い魔道人形技師。
人形としての擬体造形術もさることながら、彼女の手がけた自律思考型人形たちが与えられていた思考回路術式の緻密さは当時の技術水準としては群を抜いており、その判断思考の個体別調整によって擬似人格とも取れる"個性"とも取れる特徴を有していた。
彼女の発表した人形たちの多くは、役目を終えて後、後進たちの技術資料として各地の工房や研究所で保管。研究がなされ、自律思考型人形の発展に大きく寄与したが、1900年代においても未だ現役で稼動を続けている個体も数体存在する。
カージナル大公家の女官として凡そ500年に渡り、その任に就いている【ヴィルヘルミーナ】や、賢者の塔付属図書収蔵館にて司書を務める【ヴィヴリア】、魔道学院の給仕係として学生から親しまれる【アリスリード】【シャーロット】【キャロライン】のメイド三姉妹などがそれにあたる。
当時自律思考型魔道人形開発における第一人者であったが、1477年より後は自律思考回路研究・開発の一線から突如退き、以降晩年に至るまで彼女が発表した人形に与えられた思考回路は、特定条件下における判断思考の範囲に留まっている。
『ブリュンヒルデ……青き月へと去った神の娘でありながら、父の定めた運命に逆らった戦女神の名だそうだ。あいつを独りにしてしまう呪いに、私の代わりに抗って欲しくて……あいつを忘れてしまう私の想いを、私に代わってお前が記憶していてくれないかと願ったら……私は悪い母だな、ヒルデ』
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+ | 大地母神の神官見習い アデアット=ラウィーニア |
■アデアット=ラウィーニア
東部列強連盟三強の一角、トライセラ王国で大地母神エスティナに仕える神官見習い。
神殿の管理する森の奥で偶然、古代魔導王国時代の遺跡と、その最奥で幾重にも鎖に縛られた一振りの剣を発見し神殿に報告したことで、後にその運命を大きく変えていくことになる少女。
報告を受けた王家の命で遺跡から持ち出された霊剣の"気配"を追ってトライセラに現れた二人連れの男女と女性型の自動人形の一行から自身が見つけたものの危険性を説かれ、再び封印するために一行に協力する。
王家の管理下から取り戻した剣を一度は再び眠りへと戻した。
数年後、大陸魔道協会規定に反して、魔道遺跡の無断採掘・危険度判定を受けぬまま魔道遺物の秘匿解析を実施していた事実が明るみに出たことで国際的信用を失ったトライセラは、これをウィスタリア帝国による謀議として反駁、急遽帝国へ報復として侵攻する暴挙に出るが、やがて国土の大変を席巻される劣勢に陥った王家は都を捨てて国外脱出を図る。
王を失い、戦火と暴力に踏みにじられる故郷と隣人を目の当たりにした少女の叫びに応じたのは、かつて湖の底深くへと封じたはずの霊剣。 しかし霊剣の持つ力は、かつてアデアットにその危険性を説いた緑の魔女の言を遥かに越え、開放された無垢なる"力"は平凡な神官見習いの少女の手を逡巡の間もなく朱へと染める。
やがて戦場に槍先に結わえたトライセラの白き旗と、一振りの剣を携えた少女が義勇兵を率いて現れ、トライセラ領深くまで侵攻した帝国派遣軍を徐々に押し返す働きを見せる。かつての神官見習いアデアットである。
命令系統を分断され各個に抵抗を続けていたトライセラ正規軍が合流し、奪われた国土の多くを奪還。帝国との対等な立場で停戦交渉を行うにまでこぎつけた矢先、国外退去していたトライセラ王が帰還し、自らの王権継続と引き換えに国土割譲を帝国派遣軍司令官へと提示。 これに反対したアデアットが、"救国の聖女"と民衆ならず将兵からも支持されていることを疎んじたトライセラ王によって戦犯・反逆者としてその身に討伐命令が下される。 |
大陸暦1900~2000年代
+ | キシュフォルド王 ビクトリアノ=サラス |
■ビクトリアノ=サラス
身長:204セミルテ 年齢:47歳 性別:male
通称ビクトール。大陸南西に浮かぶ島国、西部キシュフォルド王にして東部キシュフォルド王国後見人を兼ね、暫定的に国号をキシュフォルド東西二重王国とした国家元首としてキシュフォルドⅠ世を名乗る。
若年時は王宮を飛び出し、私財で購入した軍船で私掠行為を働いて纏め上げた船団を、そうとは知らぬ父王から国家指名手配を受けた異色の経歴を持つが、一転二十代半ばで突然王宮へと戻り、父王についてこれをよく補佐する。
父王が身罷ると、即座に王位を継ぎ、強力な牽引力で国内を掌握するに留まらず、周辺諸国の他、遠く極東王朝や東部列強とも誼を通じる一方で南洋諸島群への勢力拡大を図る。
新神信仰の中心地である聖臨山各大神殿への財施を積極的に行うなど、あらゆる方面との交わりに余念が無い。
【南海の赤熊(しゃぐま)】の異名を持つが、その豪快な外見からはおよそ似つかわしくないほど政の駆け引きに長け、手練手管に富むことから【海狸】などとも揶揄される。
40を越えてから授かった娘のパトリシアを溺愛しており、『パッツィを目の中に入れれば恐らく尋常でなく痛いだろうが、全く痛くないと言い張る自信がある』というよく分らない言を多用している。
東部王国の国王一家事故死に端を発する泥沼の東部王家継承争いに、東部王家外戚の立場から介入し、幾つかの東部重臣と東部国政に対して発言権を持った神殿の承認を得て先々代王の姪の孫娘である地方貴族子女エステルを後継者に推す。
当時エステルは9歳であったが、後継者争いによって上位の継承権保有者を失う事態に陥っていた東部はこれを承認。 さらにスタシア神殿大司教は、縁戚通しでありながら互いに擁立した継承者同士で争った挙句、心労によってことごとく継承者を早逝させるに至った東部重臣たちを非難し、エステルと西部王ビクトリアノ嫡子であるヴァレリアノの婚約と、エステルが女王として戴冠するに相応しい18歳となるまでの後見を西部王が行う旨を提言。
これに対してビクトリアノは後見職については肯くものの、エステルとヴァレリアノの婚約については固辞してみせるが、再三の神殿からの要請に折れてこれを受諾。
但し、婚約の条件としてヴァレリアノから西部王位継承権と西部における政治的影響力の一切を廃し、東部王国貴族とした上で、女王の婚約者とすることを提示。
これを東部王国王家への配慮と受け取った神殿は王家代理として快諾。
西部王家並びに貴族としての一切の特権を失ったヴァレリアノは、新たに東部王国で爵位と封地を得てエステルの婚約者兼、補佐・保護役として東部入りを果たし、現在は二重王国暫定王位にあるビクトリアノに対する東部王国の窓口などを務めている。
東部王家継承を巡るこの一連の経緯については不透明な部分も多く、西部王ビクトリアノによる陰謀説などもまことしやかに囁かれている。
陰謀説を唱える者は、その証左として二重王国暫定王位に就いた後のビクトリアノが東部従来の治世方針に対して事あるごとに改正要求を発布するようになったことなどを挙げるが、神殿、西部王ともどもこれを否定している。
前述のビクトリアノの要求については、西部王太子の身から一転して東部王国の臣となったヴァレリアノによって、悉く後見職職分を越えた要求として撥ね付けられており、サラス親子の仲は上手くいっていないようだなどと噂されている。……あくまで表向きは。
西部王位継承権は現在ビクトリアノの一人娘パトリシアに委譲されており、いずれ東部女王となったエステルとヴァレリアノとの間に第二王子が生まれた場合はこれをパトリシアの婿とすることとしている。
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+ | キシュフォルド東部宰相 ヴァレリアノ=メレンデス |
■ヴァレリアノ=メレンデス
身長:187セミルテ 年齢:19歳 性別:male
ビクトリアノ=サラスの長子、元西部キシュフォルド王太子。
東部キシュフォルド王国の王位継承者であるエステル=ウルバーノの婚約者でもあり、彼女の後見人となったサラス王に代わって、その隣で輔弼を行う役目とともに、東部入りした。
但し、エステル次期女王との婚約に際しては西部王国における第一王位継承権、役職の全てを剥奪し、東部王国の一臣下とすることを実父であるビクトリアノが取り決めたことにより、当時断絶していた東部王国の名門メレンデス家の名を継ぐことで東部王国伯爵位を得ており、現在の役職は東部王国執政補。
ビクトリアノが実子をもって東部王国に臣籍降下を決断したことを東部王家への誠意と受け取った東部スタシア神殿によって、王家直轄地から封地を割くことを固辞したヴァレリアノへ、神殿の管理する神殿領を譲渡されたが、伯爵位とは凡そ釣り合わぬ、わずかな領地を持つに留まる。
東部王国の臣となって以降は、西部とは思想的に決別しており、近年東部に諮ることなく『キシュフォルド東西二重王国の王』として聖臨山に対して公式書類を発行し、国際的に認めさせてしまって以降、東部に対して威圧的な態度で臨む実父であるビクトリアノに対して、あくまでビクトリアノは東部王家外戚としてエステル次期女王の後見人であり、事実上の東部王を名乗るは専横である旨の抗議文をビクトリア並びに聖臨山に対して発する他、ビクトリアノの東部への内政干渉と取れる提案等にはことごとく反発するなどしており、東部王家家臣としての立場を守っており、サラス親子の不仲説が噂されている。
しかしこれら一連のやりとりは全て西部王ビクトリアノが実子ヴァレリアノに東部王国の人心掌握を図らせる為に用意された筋書きに沿って進められている。西部王ビクトリアノはヴァレリアノ自身に東西いずれの王位をも与えないことで、ヴァレリアノとエステルとの間に生まれた子によって将来的に東西を単一国家とする目論見があり、ヴァレリアノは全て承知の上で、サラス一族の悲願を継いでいるに過ぎない。
この謀が功を奏し、中流貴族の子女として育ったエステルを始め、東部家臣団の信頼を得るようになり、当初ヴァレリアノの東部入りを歓迎しなかった民からも、東部宰相などと呼ばれ人気を博しはじめている。
このように実父ビクトリアノとの不仲を演じながら、月に一度召集される西部王都での東西会議の合間には演技から開放された父の良き理解者然としてひそかに語らうヴァレリアノだが、本心では父に対して己の野心の為、ヴァレリアノが王となる権利を奪い、道具然として扱われたことに対する鬱屈した思いを隠しており、慧眼で知られる父王をも欺いている。
それゆえにビクトリアノが可愛がっている年の離れた異母妹であるパトリシアに対しても複雑な感情を抱く。
熊と称される父に似ず、至って涼しげな貴公子然とした外見をしており、早世した母に似る。
父譲りの頭脳の冴えを持つが、それを生来の見た目の柔らかさによって包み隠しており、警戒を抱かせない。
婚約者であるエステルに対してはあくまで臣下として接することに徹しているが、己と同じく父王に利用された存在であることを不憫と思っており、彼女に向ける笑顔は本心からのものであることに自身では気付いていない。
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