ゆめのすこしあと ◆Ok1sMSayUQ
むかしむかし……とはいってもほんのすこしだけだけのむかしですが、
メディスン・メランコリーというおにんぎょうさんがいました。
メディスンちゃんにはスーさんというとてもなかのいいおともだちがいました。
ですが、ちょっとしたすれちがいからふたりはおおゲンカしてしまいます。
「スーさんなんてだいっきらい!」
おこったままにそんなことをいってしまったメディスンちゃんはどこかにいってしまいました。
スーさんはとてもかなしみました。ですが、ふたりはいつでもいっしょだったおともだち。
なかなおりしなきゃとおもい、スーさんはメディスンちゃんをさがしにいきました。
いっしょうけんめいさがしたスーさんでしたが、メディスンちゃんはみつかりません。
きらわれてしまったのだろうかとスーさんはおもいました。
もういらないとおもわれてしまったのでしょうか。
それでもスーさんはさがしつづけました。ただ、スーさんはごめんなさいがしたかったのです。
そんなおねがいがつうじたのでしょうか、メディスンちゃんはみつかりました。
ですがたいへん。メディスンちゃんはふとふみいれてしまったかわでおぼれていたのです。
スーさんはみずがにがてです。けれどもスーさんはまよいませんでした。まっすぐにかわにとびこんでメディスンちゃんをたすけます。
あっぷ、あっぷ。おぼれそうになりながらもスーさんはちからをふりしぼってメディスンちゃんをひっぱりました。
メディスンちゃんはたすかりました。ですが、スーさんはちからをつかいはたしてかわのそこにしずんでしまいました。
きがついたメディスンちゃんはおおなきします。スーさんはいなくなってしまったのです。
しかし、そんなメディスンちゃんのみみにささやくこえがありました。
『ずっといっしょにいてくれてありがとう』
『これからもしあわせに』
それはしずんでしまうまえにスーさんがのこしたことばだったのでした。
メディスンちゃんはきづきます。
スーさんはいまもメディスンちゃんのとなりにいるのです。
メディスンちゃんはなくのをやめました。そして、まえをみてあるきだしました。
まだめでたしめでたしなのかはわかりません。
ですがメディスンちゃんはずっとそこをめざしつづけるのでしょう。
おとぎばなしは、まだこれからなのです。
* * *
メディスン・メランコリーが目を覚ました後、彼女の目に飛び込んできたのはあまりにも綺麗な空の青だった。
陰影はなく、ただ驚くほど白い雲と、世界そのものに染み込んだかのような蒼天がどこまでも遠くに広がっていた。
こんな色だっただろうか。メディスンは目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。
人形であるはずなのに、浄化されたかのような清涼な空気が身体に取り込まれ、隅々までを活性化させてくれている。
そんな感慨を受け止め、メディスンはいつの間にか握っていたらしいスズランの花に目を移した。
華々しさは失われ、痩せ細った老躯のように萎れていたスズランの花は、しかし満足げに微笑んでいるように見えた。
きっと、このスズランが己を蝕んでいた毒を請け負ってくれたのだろうとメディスンは思った。
周りを満たす清浄な空気も、それまでの澱み一切がなくなり、どこかすっきりとした自分の頭も、どこまでも透き通っている空の色も。
ありがとうという言葉が口の中で溶け、メディスンは自分の内側になにかが落ちてゆくのを感じた。
それは多分、悲しさから来るものではなく、感謝の念からくるものなのだろう。
希望という温かさが体に力を行き渡らせてゆくのを感じたメディスンはゆっくりと体を起こして歩き始めた。
どこに行こうか。文字通り毒の抜け切った体は軽く、どこにでも歩いていけそうな気さえする。
自分はどこにだって行ける。花畑という狭い世界だけではなく、この空が広がる様々な場所に。
親友がそれを教えてくれた。親友は今も自分と共にある。
毒は枷だと思わなかった。そのせいで殺されかけもしたし、メディスン自身をも苦しめた。
だが毒の存在こそが自分と親友とを繋ぎ止めていたものだ。かけがえのない透明な糸。
だから、もう一度その糸を探そうと思った。
絡まってしまったまま、どこか遠くに置き去りにしてしまった友達の証を。
そのときこそ自分は誰も苦しめない、本当の毒を手にすることができるのだろう。
人間の体を良くする薬だって、元は毒なのだから……
確信に近い気持ちで一歩一歩を踏みしめるメディスンの足取りは決然としたものだった。
目前に遮蔽物もなく広がる草原は広く、空と地面の境界線を伴ってよく見渡せる。
右を見れば薄暗い色の森が見え、左を見れば赤茶けた険しい山々が広がっている。
真正面には米粒ほどの大きさの何かがたくさんあって、そこでは時折ぴかぴかと光のようなものを輝かせていた。
選択肢はいくらでもある。本当の毒を取り戻せる場所はどこなのだろう。
生まれてから数年しか経っておらず、どうにも知識の乏しい頭で必死にそれらしい場所はないかと考えを巡らせる。
そもそもメディスン自身毒を扱う程度の能力があるのか皆目検討がつかず、
実はすごく難しい問題に挑んでいるのではないかという思いが浮かんだ。
どうしよう。そんな疑問はすぐに浮かんだ別のアイデアによって霧散する。
八意先生に聞いてみよう。
花の異変以降、自分の毒に興味を持ち、研究したいと言ってきた永遠亭の医者。
四季映姫に諭されたこともあって社会勉強として請け負ったのを覚えている。
その最中に八意永琳から教わったことは多い。礼儀やマナー、作法を教えられ、他人と接する方法を学んだ。
八意先生なら何でも知っている。ならば、毒を取り戻す方法だって分かるはずだ。
短時間でそこまでの考えに至れたのはメディスンが幼くはあっても、賢い存在だということの証明だった。
うん、それがいいと笑顔を花開かせたメディスンは鼻歌まじりにステップを踏み出そうとして――そこに影が差した。
同時に聞こえる二つの悲鳴。それは真上が発信源だった。
ハッとして上を向くと、そこには空ではなく二つの物体が視界を覆っていた。
落ちてきた物体にメディスンが潰されるのは自明の理だった。
空から妖怪が落ちてきた。そんな不思議を解明する間もなく、メディスンは再び意識を失うのであった。
* * *
「いったーい! バカバカバカ! おくうのバカ! なんだってあんなとこから落とすのよ!」
「何ですってー! バカって言う方がバカなのよ、バーカ!」
どこかで聞いたことのある言い争いをしているのは氷の妖精
チルノと地獄の烏妖怪、霊烏路空だった。
空の咄嗟の機転によってとりあえずは爆死の憂き目を辿らずに済んだものの、
突然転移してきた場所は空の真上(とは言っても数メートルほどだが)であり、真っ逆さまに落下する羽目になったのだ。
霧の湖には帰れない、いたい、おくうはバカという思いがない交ぜになりチルノは自分でもわけの分からない怒りに振り回されていた。
「っていうか、私のお陰で助かったんじゃない! 感謝されこそすれ、怒鳴られるいわれなんてないんだから!」
「う、うるさいうるさい! 痛かったんだぞ! 高かったんだぞ! 責任とりなさいよこのバ」
空にしては珍しく正論を並べ立てられたので、うるさいの感情論で一蹴して、
詰め寄ろうと一歩踏み出したチルノの足にむぎゅっとした感触があった。
カエルでも踏んだのかしら? 異様な感触に思わず下を見たチルノはそれ以上の現実に唖然とした。
「わー! なんかいる!」
足元でうつ伏せになっていたのは金色の頭にフリフリドレスのちっちゃい奴だった。
驚きの余り怒りも忘れ、チルノは我知らず空の体に飛びついていた。
空は身じろぎひとつせずチルノを受け止め、手に突っ込んでいる制御棒というので金髪フリフリをつつき始めた。
なんでこいつは驚かないんだろうという奇妙な感心を抱きつつ、チルノは空の後ろ側に回り込むようにして様子を窺った。
倒れている物体は思ったより小さく、チルノよりも一回りは下。
そういえばどこかで見たことがあるような、と疑問を浮かべたチルノだったが、顔が判別できない以上分からないの一語しか言えなかった。
「ふーん。死んではいないようね。どうするのよ、犯人さん」
「あ、あたいがやったんじゃないもん!」
言い訳したチルノだが、踏みつけたという事実が変わるはずもなく、どうしようという感情だけが浮き立った。
でも、大体、こんなところで寝ていたこいつが悪いのではないか。
そう咄嗟に言葉を重ねようとしたチルノだったが、その前に空が助け起こしていた。
聞き分けのない子供を叱るような空の目線にムッとさせられる一方、居心地の悪さも感じたチルノは目を逸らしただけだった。
別に、あたいは悪くないもん……その言葉を口の中で溶かす。
タイミングが計れなかったからではなく、言ってしまうと自分が悪者になってしまうような気がしたからだった。
いつだってそうだ。いつだって気がつけば自分が悪者。
妖精の中ではいつも仲間はずれで、望んで手に入れたわけでもない『氷の能力』を理由にされて。
理屈では分かっている。周囲の温度を下げてしまう自分の能力が普通の妖精にとっては害であるということは、前々から気付いていた。
それでも認めたくはなかった。理不尽な仲間はずれをただの運の悪さがそうさせたのだと思いたくなかったのだ。
だからみんなは自分が嫌い。嫌いだから、自分だって嫌いになってやる。
そう思い込むことで寂しさとやり場のない怒りを紛らわせてきたのがチルノだった。
おくうも同じだ。きっと寒くなる氷の能力が嫌いなんだ。だからあたいのことをバカバカ言うんだ。
どうせ嫌われ者なら、自分から嫌ってしまった方が楽になる。
それを分かっているチルノは僅かに抱いた罪悪感を押しやって、ふんと鼻息を鳴らした。
「よっと。随分軽い体ね。ちゃんとご飯食べてるのかしら。食べなきゃ大きくなれないのに」
金髪フリフリを抱えて背中におぶった空の姿は、何故か自分よりも立派なもののように思えた。
あたいは悪くない。その思いをもう一度温めなおし、チルノは不貞腐れながら空の後に続いた。
「……ねえ、結局霧の湖はどこなのさ」
「知らないわよ。私だって分からないもの」
きょろきょろと周りを見回しながら歩く空は頼りにならなさそうだった。
なんでこいつと一緒にいるんだろう。不意にその疑問が頭をもたげ、チルノは嘆息していた。
成り行きで一緒にいるだけで、霧の湖も知らないこいつになんて用はないはずなのに。
どうして今まで気付かなかったのだろうと思いながらも、離れたところでどうする術も持たないチルノは思いを持て余すしかなかった。
寂しいのだろうか。自問してみて、それこそバカらしいと思ったチルノは考えるのをやめた。
くだらない。どうせみんな自分のことが嫌いなのは分かりきっているはずではないのか。
だったらカエルで遊んでいる方がいい。あいつらは何も文句を言わないから。
想像しようとしたところで、カエルのように踏みつけてしまった金髪フリフリの後ろ背が目に入り、気持ちは霧散した。
けれどもモヤモヤとしたものはなくならず、チルノは誤魔化すために空に話しかけた。
こいつも嫌っているはずなんだと決めたばかりなのに。
「ねえ、なんでおくうはあたいといるのよ」
「は? あんたが霧の湖ってのを探してくれって言ったんじゃない」
「……別に、知らなかったらどうでもいいもん」
「何よそれ」
ヘンな奴、と付け足した空にチルノは煮え切らない気持ちを抱えたままいつものように言い返す。
「ヘンじゃない。あたいは最強なの! 最強だからひとりで帰れるし、ひとりでだって遊べる! だから」
「じゃあ、その最強ってなによ」
遮るようにして放たれた空の疑問に、チルノは続ける言葉を失った。
正確には忘れてしまった。
ひとりでいい。あんたなんかいらない。嫌い。どれだったのだろうと逡巡する間もなく、空は続ける。
「最強って言ってるけど、何のための最強なの? 誰のための最強なの?」
疑問を連ねる空の言葉にはいつものようなバカっぽさはなく、聡明でしっかりとした考えを持った妖怪のように思えた。
雰囲気が変わった空にたじろぎ、「……知るもんか」と返すのが精一杯だった。
逆らわなければ、みじめになってしまうような気がしたからだ。
そんな気持ちを知ってか知らずか、空はこちらを向かぬまま「いい?」と諭すように重ねた。
「私はさとり様のペット。大好きなさとり様を守れる最強のペットなの。さとり様だけじゃない。
こいし様、お燐、
地霊殿のみんな。私はみんなが好き。大好きなの。
だから、守るためには最強じゃなくちゃいけないの。分かる?」
さとり。こいし。お燐。紡ぎ出された名前は柔らかく、チルノにも大切な人なのだろうと窺い知ることができた。
だからこそ反発心を覚えた。自分にはいない。守りたい誰かも、好きでいられる誰かも……
「分かんないよ。だって、みんなあたいが嫌いだもん。おくうだってそうでしょ」
「クソ生意気な妖精だとは思うわよ」
笑いながら言った空に、なにを、と言い返そうとする前に空は「だけど」と言った。
「その生意気さ、嫌いじゃないわ。不思議と元気になるもの。負けてられるか、ってね。
あんたのエネルギーに負けたくない。最強のペットとして、地霊殿の霊烏路空として。
そのために核融合の力だって手に入れたんだから」
核融合という言葉の中身は分からなかったが、誰かのための最強、という空の言葉が身に沁みて分かった。
一途なまでに誰かを守りたいという思い。それが何者にも負けない最強の力を生み出すのだろうか。
……じゃあ、それがいない自分はどうなのだ?
一人ぼっちでしかない我が身の姿を思う一方、嫌いじゃないという空の言葉が強く反響していた。
「私は、さとり様のための最強であり続けたい。チルノはどうなの? チルノは、何のために最強になるの?」
初めて呼ばれたチルノという名前の響きが、自分を対等な存在として、妖怪と妖精の垣根を取り払った言葉が頭を強打した。
それまであった反感がふっと消える。くすぐったくなるようにも緊張させられたようにも思え、
チルノは初めて最強という言葉の中身を反芻した。今まで一人でいることの理由に過ぎなかった、空疎な言葉の中身を。
「分かんない」
だが、結局そんな答えしか出せなかった。カラッポの器にすぐ継ぎ足せるほどチルノは器用ではなかったし、
取り繕えるだけの小賢しさもなかった。実直にしか受け答えできなかったチルノの言葉を、空は「それでいいわよ」と言ってくれた。
「ゆっくり見つけていけばいいわ。私だってそうだったんだから。
だから、ね。最強の『何』になるか、じっくり考えなさい。お空お姉さんからの忠告よ」
そう言った空の言葉尻には、年上ぶろうとする元のバカガラスの雰囲気があった。
けれども反感は湧き出してはこなかった。
呆れ果てたのではなく、ただ空のことを認め始めているのかもしれないとチルノは思ったが、口には出さなかった。
そうしてしまうとまた空が調子に乗ってしまうような気がして、悔しかったからだった。
「ん……う~ん……」
「おっ、チビっ子ちゃんのお目覚めね」
以前にもチルノのことをチビ呼ばわりしていたような気がするが、どうせ忘れているのだろうと思った。
自分のことを認めようとしてくれているのかもしれないとも思ったが、その考えは一時しまっておくことにした。
まだ自分は、最強であるための何かを見つけることだって出来ていないのだから。
「ちゃんと謝りなさいよ」
「……おくうだって踏んづけてたかもしれないじゃん」
「だから、二人で謝るのよ」
「……? なに言ってるの、あなたたち」
完全に意識を取り戻したらしい金髪フリフリが不思議そうにチルノと空を交互に見つめていた。
思い出した。こいつは、メディスン・メランコリーだ。
毒っぽいやつだったとは覚えているが、それ以上のことはよく思い出せなかった。
ただ名前を思い出せたことにより少々緊張は薄れ、わけもない敵対心も発散されるのを感じていた。
だからだろうか。自分でも驚くほど素直に、チルノは謝罪の言葉を発することができた。
「「ごめんなさい」」
謝られた当のメディスンは身に覚えがなかったらしく、ただ目をしばたかせていた。
【E-6 上部 昼・一日目】
【霊烏路空】
[状態]健康(体力満タン)
[装備]なし
[道具]支給品一式、ノートパソコン(換えのバッテリーあり)、スキマ発生装置(24時間以降に再使用可)
[思考・状況]基本方針:自分の力を試し、力を見せ付ける
1.偉そうな奴(永琳)を叩きのめす
2.後であの建物をぶっ壊す!
3.無縁塚が禁止エリアになったのは何故?……まあいいや。
※現状を少しだけ理解しました
【チルノ】
[状態]健康(体力満タン)
[装備]なし
[道具]支給品一式、ヴァイオリン、博麗神社の箒
[思考・状況]基本方針:霧の湖に帰って遊びたい
1.最強のなにかになりたい。
2.おくうのことが少し好きになった。
※現状をよく理解してません
【メディスン・メランコリー】
[状態]意識不明から回復
[装備]懐中電灯 萎れたスズラン
[道具]支給品一式(懐中電灯抜き) ランダムアイテム1~3個
[思考・状況]基本方針:毒を取り戻す
1.八意先生に相談してみよう
[備考]
※主催者の説明を完全に聞き逃しています。
※夢の内容はおぼろげにしか覚えていません。
最終更新:2009年10月13日 01:09