ウソツキウサギ

ウソツキウサギ ◆Ok1sMSayUQ



 どうして。

 鈴仙・優曇華院・イナバの脳裏を支配していたのはその一語だった。
 自分が絶望的な選択を迫られていることへの『どうして』であり、やること為すことが裏目に出てしまうことへの『どうして』。
 己が身さえ助かればいいと奥底では思っていたから?
 紅美鈴の言うように、希望を捨て、惰性で流されるままでしかなかったことへのツケが回ってきたから?

 ……でも、綺麗事だけで生きていけるほど私達は強くない。

 それが言い訳だと分かっていながら、鈴仙は自分を正当化せずにはいられなかった。
 誰だって死にたくはない。命が失われるのは恐ろしいことで、
 誰も知りえない恐怖の世界、虚無の巣食う暗闇に向かうことなど考えたくもない。
 軍人であることから背き、仲間を見捨てて月を逃げ出したのも戦争で死ぬかもしれないという怖さがあったから。

 鈴仙自身は望んで軍人になったわけではない。そうするよう月では義務付けられていたからで、月に対する愛国心や忠誠心もなかった。
 外の連中と知らない間に揉め事になっていて、いきなり戦場に引っ張り出されるなど持っての他だった。
 大体、半ば形骸化していた月の軍隊では、いかに優れた技術があろうとも張子の虎でしかないことは明らかだったし、
 月が経験してきた戦争らしい戦争といえば妖怪が侵攻してきたという事件のみ。
 それだって技術格差のお陰で圧勝できたようなものだったし、追い返しただけで戦果らしい戦果など何一つない。
 赤子同然の軍隊に付き合って心中する気は、頭の良かった鈴仙にはなかった。

 仕方のないことなんだ、と鈴仙は思っていた。
 負けるのが明らかなら戦う必要性なんてどこにもない。自分ひとりが抜けたくらいで変わることなどありはしない。
 だから逃げた。生物の持つ『生きたい』という願望に後押しされるように。
 悪いのは今の時勢も把握できない奴らで、正当な判断をした自分こそ正しかったのだ、と。

 実際、お陰で鈴仙は今日まで生き延びてくることができた。
 居住先が同じ月人である蓬莱山輝夜や八意永琳と一緒になるとは予想していなかったが、
 同じ月人であることが鈴仙を安心させ、罪悪感を鈍らせもしていた。

 永琳も輝夜も、月から逃げ出した罪人。だが逃げ出したこそ穏やかに過ごせてきた彼女らの姿を見れば、
 寧ろ正しさは輝夜側にあるように思えた。だから鈴仙は輝夜達に付き従うことを決めた。
 同じ罪人としてのシンパシーもあったし、何より同族であったから。
 元々が同じ月人で、寂しくなるということもなさそうだったから。
 罪は彼女達と一緒に清算していけばいいと断じて、鈴仙は永遠亭の仲間として竹林入りした。

 それから、何も悪いことなんてせず、寧ろ穏やかに暮らしてきたはずだったのに、どうして。
 師匠からは殺せと命じられ、主からは虫でも見るような目で見られ、どこにも行き場がなくて。
 どうしたらいいのかなんて分からず、立ち往生するしかないのが鈴仙だった。

 やること為すことが裏目に出てしまった事実も、鈴仙自身の判断に自信をなくさせる一因にもなっていた。
 ここで自分が何かを選択したところで、結局はまた自分が不幸になるだけではないのか。
 奥底では保身しか考えていない自分は、無意識下でまた誰かを見捨てる算段しか考えていないのではないか。
 拠るべき人、信じられるものを失い、自分では何一つ決められない哀れな兎の姿がそこにあった。

 もう誰も指図なんてしてくれない。月のみんなは、自ら裏切ってしまった。永遠亭の主からは見限られてしまった。
 従ってさえいれば幸せに過ごせた時代はもう戻ってはこないのだと痛感しながらも、無言を貫くことしか出来なかった。
 死ぬのは怖い。死から身を守るのはあらゆる生物としては当然のことで、自ら死地に赴くなんて馬鹿のすることだ。

 だが、今も目の前にいる二人はその馬鹿げた行為を本気で行おうとしている。
 生きているはずのない妹を探して、僅かな希望の一糸に縋って。
 しかしそれは縋る糸さえない鈴仙に比べて、遥かに輝かしいもののように思えた。

 愚鈍に願望を追っているのではなく、その先が絶望だとしても真摯に見据えようという覚悟の元の行為。
 二人の姿は我々と戦おうという月からの言葉と重なり、かつて訓練を積み、
 月の未来について語り合った同僚達の姿と重なって、忘れかけていた罪悪感を鈴仙に呼び覚ました。

 やめてくれ、と鈴仙は脳髄を揺さぶる幻影達に対して叫んだ。
 仕方のないことじゃないか。死ぬしかない状況に向かって得られるのは自己満足だけだ。
 そのために死ぬなんて間違ってるし、生きるために最善を尽くすのが自分達の役目のはずではないのか。
 必死に並べる弁解の言葉も、罪悪感を覚えた今となっては空々しく、矮小な自らの姿を晒すことにしか繋がらなかった。
 だが鈴仙は言い訳せずにはいられなかったのだ。
 考えられる頭を持ち、思想や信義を持てる自分達だからこそ、正当化しなければ押し潰されてしまうということを知っていたから……

「……間違ってます。おかしいですよ、あなた達。だって、放送で生死は分かることでしょう!?
 放送が嘘であるはずがないことは、あなた達だってよく分かってるじゃないですか!」

 だからもう少し待って。それで引き返して。
 そう続けようとした鈴仙を遮ったのは、先と寸分違わぬ美鈴の凛とした視線だった。
 自分とは違う、何があっても揺れず、折れない強さを備えた眼に、鈴仙はやめてよ、と言いたくなった。

 そんな目で私を見ないでよ。どんどん惨めになっていくだけじゃない……!

「確かにそうかもしれません。でも、そんなことは問題じゃないんです」

 声を発したのは秋静葉だった。泣き崩れ、自暴自棄になって虚ろな様子になっていたのから一転して、
 今は自らの為すべきことを見つけ出し、黄金色の被膜に生硬い意思を含ませた静葉は、
 神であると言っていた秋穣子の姉とするに相応しいものがあった。

「私、自分を誤魔化したくない。何もしないまま、閉じこもって、無力なんだって諦めたくない。
 神様なんだもの。誰も救えなくて、誰からも信仰されないような卑小な神様になりたくない。それだけです」

 誤魔化したくないという言葉が鈴仙の中で弾け、神様然とした現在の姿と重なって、説得できるはずもないという感想を抱かせた。
 俯き、肩を落として呆然とする鈴仙に、美鈴は「あなたが言ってるのも分からなくはないです」と重ねた。

「でも、それは鈴仙さんの論理です。間違ってるかどうかなんてあなたが決めることじゃない。
 ……あなたの言っていることは、結局自分を救うためのものでしかないんです」

 ビクリ、と体が震えた。読まれていたという感想を抱き、同時にこれで全ての道は絶たれたと解釈した頭は、
 こんなことになるなら言わなければ良かったと考えるよりも、この状況になっても他人に救ってもらおうとしている自分に慄然とした。

 穣子から願いを託されたから、というのは所詮名目でしかなく、本当は自分の罪を忘れたかったから。
 穣子の言葉は実は重荷でしかなく、責任逃れをしたかったがために、静葉に取り入ろうとしただけではないのか。
 そうして責任の文字を薄れさせた後は、最初のように冷酷に他人を見捨てる算段を立て、機会があれば裏切ろうとしていた?

 餓鬼道にも劣る自らの所業を改めて認識し、ならば永琳や輝夜に見放されるのも当然と考えた鈴仙は、
 元から正しさなんて何もなかったという事実から立ち昇る失笑しか浮かばなかった。
 死体に集る虫のように、ただ他人を食い尽くすことしかできない自分は見捨てられて当たり前。
 正しさもなく、誰も救おうとしないのに、救ってもらおうだなんて文字通り虫のいい話だった。

 なら、私はどうやって正しさを見出せばいいの?

 裏切りを重ねてきた我が身に本当の正しさなんて身についているはずもなく、自分で考える力さえ失っていると気付かされた鈴仙には、
 もう自暴自棄に近い気持ちしか持てていなかった。
 この期に及んで縋ろうとしていることに呆れを通り越して冷笑さえ覚えたが、こうすることしかできなかった。
 しかし手前勝手な期待に美鈴と静葉が応えてくれるはずもなく、二人は無言で鈴仙の脇を通り過ぎてゆくだけだった。
 通り過ぎた直後、二人が一瞬だけ留まる気配を見せたが、結局何も言ってくれることはなかった。

「……そうよね。私は、自分の意思で何かを成し遂げたことなんて、ないもの」

 小声は風で掻き消え、鈴仙以外の誰にも届くことはなかった。
 頭上に広がる青空とは真反対の、暗く重い空気が鈴仙の胸を軋ませていた。

     *     *     *

 魔法の森を抜けたときには、既に時刻は昼になっていた。
 いや、昼だったことに気付かなかった、というべきなのだろうか。
 因幡てゐはそんなことを考えながら、激しく呼吸を繰り返している自分を見つめる。

 なりふり構わず逃げてきたせいで枝や葉っぱで服は汚れ、破れているところもある。
 縛られていた部分は軽く痣となっていて、脱出する際に切れてしまったところもあるようだ。
 無様な、とてゐは思う。完璧だったと慢心していた結果、殆どを失い、孤立無援の状態に陥ってしまった。

 くそっ、と一人毒づく。白楼剣を手に入れたとはいえ、残りは全て失ったばかりか、
 自分が他者を騙しかねないという噂が各地に広まることは必定。
 上白沢慧音や東風谷早苗とかいう甘い奴らがいるからそこまで悪い風評は流されないだろうが、
 火焔猫燐とかいう奴のお陰でそれなりの事実を流布される恐れがある。

 こうなると時間をかけるだけ不利だった。早いところ誰かに取り入って、信用を作っておけばたとえ連中と再会しても誤魔化しが利く。
 てゐには元から戦闘に回る気はなかった。いくら幻想郷で長生きしてきた古参とはいえ単純な実力だけならばそこらの妖怪のレベルでしかない。
 大体戦えるというのならあの時点で戦っていた。実力があるなら早苗を人質に取るなりして有利に状況を運べていただろうが、
 何しろ素の状態なら慧音にも劣る。燐の実力は定かではないが、洞察力の鋭さ、
 物怖じしない姿勢からはそれなりの自信があることは明らかだった。

 あの場に大人しく留まっても燐から常に疑いの視線を向けられていただろうから、
 逃げた自分の判断は間違ってはいないはずだとてゐは考えた。
 後は取り入る誰かを見つけるだけ。一刻も早く行動に移さなければならなかったが、果たして上手くいくだろうかという疑念があった。
 完全に騙せていたと思っていた慧音に、かなり早くの段階から見破られていたということがあったからだった。

 てゐの如き妖怪兎はいつでもどうにでもできる。
 だから手を出さなかったとも考えられるし、或いは本当に自分の改心を信じて泳がせていたのかもしれない。
 何にせよ、自分が舐められていたのは確かで、また早苗や燐に事実をすぐに告げなかったということは、
 暗にてゐの嘘など誰にでも見抜けるぞと言っているのかもしれなかった。

 事実、てゐは『わざと逃がされた』。
 自分が逃げる寸前、燐がこちらをちらりと見たのを見逃さなかったのだ。
 追撃しようと思えば、できただろう。捕縛とまではいかなくても弾幕の一斉射で傷を負わせることのくらいはできたはずだ。
 見逃したのは単に利害の一致があったと見るべきで、慧音が燐にあそこまで反発しなかったなら、燐は見逃さなかった。
 要するに、燐は場を取り合えずにでも収めるために、自分をダシに使ったということだ。

 ――私は、利用されたに過ぎないんだ。

 燐の視線を感じなければ、自分は今頃自らの演技力に酔っていたのだろう。
 そういう意味では燐の看破もマイナスばかりではなかったが、同時に大きな自信の喪失にも繋がった。
 もう誰も騙せないんじゃないか。適当についた嘘でさえもすぐに見破られ、嘘を交渉や駆け引きの材料として使われるのではないだろうか。
 時間がないにも関わらず、てゐの中に巣食う疑念が足を鈍らせ、彼女の孤独感を強めた。

「でも、だからどうしろってのよ」

 因幡てゐは弱い。幻想郷には博麗の巫女を始めとして自分などでは到底太刀打ちできない妖怪がずらりといる。
 放送の中には風見幽香などの強者もいたが、それでもまだ強力な妖怪はその数を減らしてはいない。
 力のないてゐにできることはひとつしかない。

 他者に取り入って守ってもらうこと。あわよくば利用して、更に強者の数を減らしてもらうこと。
 そうすれば最終的に自分が生き残ることが可能になるかもしれない。いや、生きなければならなかった。
 なぜなら、死にたくないから。

 幻想郷での生活は楽しい。竹林で妖怪兎どもと戯れるのも楽しいし、冗談を言い合って面白おかしく過ごすのも楽しい。
 死んでしまえばそのどれもがなくなってしまう。想像するだけでゾッとなるし、死の恐怖については昔からよく知っている。
 大国主命がいなければ引き裂かれるような痛みにのた打ち回ったまま死んでいた。

 あの時の苦痛は忘れるはずもない。身体の痛みだけではない、誰からも相手にされず見放される心の痛み。
 二度とあんなことは経験したくもなかった。だからこそ無茶などせず健康第一として生きてきたし、ささやかな幸せだって手に入れた。
 その幸福をこんなところで手放してたまるものか。何がなんでも生き残るしかないのだ。
 重たくなっていた手足を叱咤激励し動かすのと同時、てゐは人影を探すために顔を上げた。
 するとそんなてゐの想いに応えるかのように、こちらへと向かって歩いてくる、よく知った妖怪の姿があった。

「あれは……鈴仙!?」

 見間違えるはずもない。自分とよく似た一対の長耳に、制服然としたブレザーに短めのスカート。
 さらさらと流れる長髪にすっきりと整った顔立ちの彼女は、間違いなく鈴仙・優曇華院・イナバであった。
 それまで不安ばかりだったてゐの心に、ようやく一つの光が差した。
 なぜなら鈴仙は永遠亭で一緒に暮らした仲間であり、八意永琳や蓬莱山輝夜に次いで親しい妖怪でもある。
 真面目一徹の、ともすれば融通の利かない一面もあるが、基本的には冷静沈着でもあり、実力もある。
 ここの広さゆえに合流は難しいかもしれないと思っていただけにてゐの喜悦は高まった。

 そうだ。あいつを隠れ蓑にすればいいじゃないか。やっぱ私ってば運がいいね!

 鈴仙とは親しいとてゐ自身も思っていて、少なくとも邪険に扱われることもないだろうと踏んでいた。
 何よりこうして永遠亭の面子が二人揃えば、後は必然的に永琳と輝夜を探そうという流れになるはず。
 てゐ自身は、永琳が主催者であるとはどうしても思えなかった。

 こんなことをする意味がない。永琳は輝夜の従者であり、主君を危機に晒すような真似は絶対にしない。
 加えて、永琳の望みは既に達成されているも同然。この上異変を引き起こすなどてゐにはとてもではないが考えられなかった。
 森を抜けたときに放送があって、そこでも永琳の声を聞いたが、どうしてもあの永琳とは思えなかった。
 ただの勘でしかなかったが、長年生きてきたことで培ってきた勘でもある。永琳は、そこまで命を無下にする人ではない。
 同じく永琳を師匠として崇めている鈴仙なら気付いているだろう。後は二人して探しに行けばいい。
 輝夜と永琳が揃えば怖いものなしだ。ひょっとしたら、ここから脱出する手段だって思いついているかもしれない。
 仮に考え付いていなかったとしても今すぐ自分を殺しはしないだろう。それだけの結束はあるとてゐは思っていた。

 ……万が一に備えて、保険くらいは打たせてもらうけどね。

 武器をこっそりと集めておけば、或いは不意討ちも可能ではあった。そんなことはなるべくならしたくはないところだったが。
 とにかくまずは鈴仙と情報交換をしようと、てゐはぶんぶんと手を振りながら近づいていった。

「おーい、鈴仙ーっ!」

 若干顔を俯けていた鈴仙はこちらには気付いていなかったようで、自分の声に反応して、ようやく手を振ってくれた。
 久しぶりに見たような気がする鈴仙の表情は、心なしか疲れているように見えた。
 ここに一人でいるということは、ずっと一人だったのだろう。もしかすると誰かと一緒に行くのを断って探していたのかもしれない。
 真面目な鈴仙の性格を知っているから、てゐは自然とそう思うことができた。
 ならきっと自分を守ってくれるだろうと打算を働かせつつ、てゐはにこやかに、再会を喜ぶ仕草を見せた。

「良かったー、無事だったんだね」
「そっちこそ」

 硬い中に微笑を含ませた鈴仙は、やはり自分の知る鈴仙の姿に相違なかった。
 とりあえず信頼していることをアピールするために「寂しかったんだよ」と言って抱きついておくことも忘れない。
 見たところ鈴仙の得物は自分が使っていたのと同じような武器。十分すぎる持ち物だ。きっと守る手助けとなるだろう。

「てゐはどうしたの? ちょっと怪我してるじゃない」
「え? ああ……はは、ちょっとドジっちゃってね」

 擦り切れてしまった部分を見つけたのか、鈴仙が眉をしかめる。今はすっかり乾いて瘡蓋になっているが、
 仮にも永琳の弟子である鈴仙としては気にならざるを得ない部分なのだろう。彼女も薬は持っていないようだったが。
 これ幸いと、てゐは鈴仙に、慧音達のことを多少の尾びれをつけて話しておくことにした。
 ひとまずこれで情報の誤魔化しはできるはずだった。

「途中で襲われちゃってねー……上白沢慧音と、東風谷早苗と、火焔猫燐って奴らにさ。
 私はそれまでパチュリー・ノーレッジと一緒にいたんだけど、あの子は逃げ切れなくて……」

 火焔猫燐、の名前を聞いた瞬間、鈴仙の表情が軽く変わったような気がした。
 しかしすぐに元に戻すと、鈴仙は「あの上白沢が?」と聞き返してきた。
 慧音については里でもよく会うのだろう、俄かには信じられない様子だった。

「そうそう。いきなり襲われて必死だったから、ひょっとしたら見間違いかもしれないけど……」
「よく逃げ切れたわね」
「そりゃもう一生懸命だったんだから。持ってた道具とか全部使って、なりふり構わずに。
 ……でも、それはパチュリーが優先的に狙われてたかもしれないからかも。
 あの子もそれ分かってて、私が囮になるから、って……」

 作り話としてはまずまずだろう。元より自分達は仲間だ。鈴仙が疑う道理は殆どない。
 パチュリーについてはかなり早くの方の死者だが、そこからずっと逃げ続けていたとするなら、今の自分の惨状も納得がいくはずだ。
 実際鈴仙はさほどの疑問を挟むこともなく、話のひとつひとつに頷いていた。
 慧音が襲ったことだけに関しては疑問を持っていたようだったが、疑いさえ持たせればいい。真実かどうかは関係がなかった。

「そう、それでずっと一人で逃げてたんだ。誰にも会わずに?」
「隠れてたからね。でも良かったよ、鈴仙と会えてさ」

 この言葉は嘘ではない。少なくとも、頼りになるという意味では鈴仙は使える。
 上目遣いに鈴仙を見やると、鈴仙は困ったように笑って頭を撫でてくれた。これでいい。
 自分の話に多少の疑問は会っても、少しは信頼してくれているはずだ。
 嬉しそうに笑う素振りを見せつつ、てゐは話を続けた。

「あっちの森の方には行かないほうがいいよ。私はあそこで襲われたんだ。まだ潜んでるかも」
「あそこに、上白沢達がいた?」
「うん」
「……良ければ、人相を教えてもらえないかしら? 覚えてる限りでいいから」
「あ、そうだね、分かった」

 慧音に関しては知っているだろうから、てゐは早苗と燐に絞って大まかな特徴を伝えた。
 早苗は博麗の巫女と同じような服装で、蛇と蛙をあしらった髪飾りをしていること。
 燐は奇妙な目玉のついた飾りをつけていること、などの情報を。
 どちらも分かりやすい特徴なだけに、一目見れば瞭然だろう。
 鈴仙は一通り情報を叩き込んだのだろう、「ありがとう」と言って話を変えた。

「てゐはどうするつもりだったの?」
「そうだね、私はお師匠様とかを探すつもりだったけど……鈴仙も一緒でしょ?」
「そうね……そうするつもりだったわ」

 やはり。疑問を挟まないということは、鈴仙も永琳が主催であることに疑いを持っている。
 ならば後は一緒に探そうと持ちかけるだけだ。最後の仕上げ、と口を開こうとした瞬間、鈴仙の目がスッ、と細められた。

「でも今は違う。ありがと、情報を提供してくれて。……あなたの利用価値もここまでね、てゐ」
「えっ……?」

 突きつけられた銃口の意味を、てゐは俄かには理解することができなかった。
 先程まであった真面目で少し硬かったはずの鈴仙の表情は、冷たく、他者を見下すものへと変貌していた。
 利用されていたと思う以前に鈴仙の行動が信じられず、てゐは「何言ってるのよ……」とかすれた声を搾り出していた。

「私はこの殺し合いに乗ってるの。それだけよ」

 簡潔に過ぎる言葉は冗談としか思えず、「へ、下手な嘘はやめなよ」と笑い声さえ浮かんでいた。
 もし殺し合いに乗っているのだとしても、ここまで躊躇無く武器を向けるはずがない、という思いがあった。
 いや同じ永遠亭の仲間にどうしてこんなことが行えるのか、そもそもそれが信じられなかった。

「ちょ、ちょっと待ってよ、仲間でしょ、私達」
「仲間……? そんなことを言った覚えはないけど。下賎な地上兎風情が、私と同格だとでも思ってたわけ?」

 哄笑する鈴仙は、自分のことを虫けら同然にしか見ていない、傲慢で冷酷な妖怪の雰囲気を漂わせていた。
 彼女の目は赤くは光っていない。つまり、波長を操っているわけでもない。鈴仙は……本気なのだ。
 一人でいたのも、自分達を探してでのものではなく、単に出会う連中を殺していたから?
 逃げろ、と鈴仙の殺気を敏感に読み取った体はそのように命令していたが、飽和する頭は理解できず、ただ竦んでいることしかできなかった。

「ついでにいいことを教えてあげる。私はね、姫様と会ったの。姫様も殺し合いに乗ってらしたわ。
 私は姫様に仕える月人として、命令に従ってるの。これなら理解してもらえるかしら?」
「え、ひ、姫って……」
「輝夜様に決まってるじゃない。その程度のことも理解できないの? 馬鹿兎は」
「う、嘘だ! 鈴仙の嘘なんて」
「だったら会ってみれば? 姫様も私と同じ銃を持っているから、簡単に狩ってくれるわよ?
 姫様はてゐは役立たずだから殺していいって言ってたしね」

 明快に告げる鈴仙の言葉は出任せとは思えず、それまであった永遠亭という安全地帯が音を立てて崩れてゆくのが分かった。
 輝夜が殺し合いに乗っているとは夢にも思えなかったが、きっと何か原因があるはずだった。
 素早く頭を働かせると、思い当たることがひとつあった。永琳だ。輝夜は、きっと永琳が主催だと信じてしまっているのだ。
 きっとあの『永琳』が輝夜に何かを吹き込んだに違いない。
 輝夜は永琳の主君だが、永琳の言う事をよく聞く、甘い部分もあるのは確かだったからだ。
 てゐは輝夜が騙されているのだと説明するために、必死で口を開いた。

「それはあいつが……偽物のお師匠様が吹き込んだからだよ! 鈴仙なら分かるでしょ、あれは本物のお師匠様じゃない!
 姫様をこんな酷い目に遭わせるような真似をするもんか!」
「出任せね。姫様は仰ってたわ。これはゲームなんだって。暇潰しのゲームだ、って。
 てゐも知ってるでしょ、姫様と師匠が死なない、ってこと」

 てゐは口を詰まらせた。そうだ。輝夜は死なない。
 ゲームということを加味しても、永琳が何らかの施しを与えたのだとすれば簡単には死ななくなっているはず。
 だがそれは永琳が全知全能で、かつ本当に主催だった場合だ。騙されているだけだ。鈴仙も輝夜も。

「ああ、もう一つ言っておくことがあったわ。会ったのよ、師匠と」
「え……」
「あれは本物の師匠だった。師匠しか知らないようなことを尋ねても、明朗に答えてたわ。あれが偽物であるはずはない。
 それでね、師匠も言ったの。姫様のサポートをしろ、って。分かるわよね、その意味は。
 これでも嘘だって言う? まぁ会ってみたらいいんじゃない? どうなっても知らないけど、ね」

 血の気が引いてゆくのが理解できた。即ち……捨てられたのだ。自分は、永遠亭からも。
 役立たずの妖怪兎は必要ない。普段の輝夜が行う自分に対しての扱い、態度から見れば、その程度にしか思っていない……
 その認識が広がった瞬間、寄る辺がなくなり、孤独の暗闇に一人取り残されたことが実感となり、てゐは我知らず涙を零していた。
 殺されるかもしれないということへの恐怖ではなく、
 もう無条件に自分を助けてくれる連中はいなくなったことに対する寂しさがそうさせたのだった。

「い、いやだ……助けてよ、鈴仙。私死にたくない! 何でもするから、姫様やお師匠様に取り成してよ!」

 恥も外聞もなかった。もう誰も騙せないかもしれないという自らへの自信の喪失、ひとりぼっちになってしまったことへの恐怖、
 そうして寂しく死んでしまうかもしれない絶望とがない交ぜとなって、嘘でその場を取り繕うという考えさえも失わせていた。
 鈴仙の服の裾を掴み、必死で引っ張るが、鈴仙は乱暴に振り払うとてゐを張り倒した。
 地面に倒れこんだてゐの頭に、ひやりとした銃口がぐりと突きつけられた。

「うざいわね。言いたいことはそれだけ?」

 声が震えているように感じられたのは、きっと命にしがみつく、下賎な兎に対する嘲笑を抑えているからなのかもしれなかった。
 もうどうやっても鈴仙の殺意を留めることはできないと確信したてゐは、無駄だと分かっていながらも這い蹲るようにして逃げた。
 体はまともに動かず、飽和しきった頭は死にたくないの一語で固められ、第三者の目で見れば実に浅ましいもののように見えるだろう。

「……ふん。それじゃあね、てゐ」

 引き金を引く気配が伝わり、てゐは内心で嫌だ! と絶叫した。
 本当に何でもするから、殺さないで! ひとりぼっちで死ぬなんて嫌だ!
 声に出したつもりだったが、喉はかすれた音を出すばかりで声にすらならなかった。

 こんな死に方、みじめすぎる……!

 絶叫も出せないまま、てゐの後ろで銃声が弾けた。

     *     *     *

 こうするしかなかった。
 てゐの話を聞いたとき、鈴仙はその一部に嘘があったことが分かっていた。
 てゐが火焔猫燐の話を持ち出したことが、その原因だった。

 なぜなら燐とは自分が一度会っている。その上、あの出来事を忘れるはずもない。
 茫然自失とした表情で、欺瞞に満ちた世界を憎しみの目でしか見られなくなっていたあの燐の姿を。
 燐が他者と組んで誰かを襲うとは思っていなかったし、念のためにてゐに確認してみたところ、姿かたちがまるで一致しない。

 てゐは嘘をついていたのだ。恐らくは慧音のことに関しても、早苗のことに関しても同じなのだろう。
 考えられるとすれば、恐怖のあまり三人のうちの誰かを攻撃してしまい、返り討ちに遭って逃げてきたところを自分と遭遇した。
 そこで自分に嘘の情報を流して、慧音達と敵対させることを企んでいたのだろうと鈴仙は推測した。
 自分を利用しようとしたことよりも、てゐが嘘をついていることの方が悲しかった。

 自らを誤魔化し、後に戻れなくなると理解しようともせず、保身を考えるがままに他人を欺き続ける。
 それはまさに今まで鈴仙が行ってきたことと同じ道だった。
 誰かを食い荒らすだけの行為は何も生まず、餓鬼道に落ちるばかりでその後の救いなどないと言うのに……

 しかしてゐに伝えたところで、納得も理解もしてくれないことは想像がついていた。
 鈴仙自身がそうだから。他者から何度言われても道を引き返すことができず、奈落の底まで落ちてしまった自分だからこそ分かる。
 こうして底の底まで落ちなければ、生きたいという願望が全てに勝ってしまう。
 本能的な恐怖に縛られるままで、本当に大切なこと、守らなければならない最低限のことすら忘れてしまうのだ。

 鈴仙は落ちてゆこうとしているてゐを見捨てることができなかった。
 他人を見捨て続け、もはやどうしようもなくなってしまった自分自身を理解してしまったからこそ、
 せめて他の誰かを救いたいと、鈴仙は心の底から思った。
 他者を救い、自分も救われるという理想を掴むことが出来ないと分かってしまった今、
 ならば自分をどこまでも貶めることで他者を救いたいと思った。
 餓鬼道に落ち続け、誰かを食いつぶしてしまう前に。

 もう正しい行いなんて出来ない。ならば間違ったことをしてでも、結果的に誰かを助けられればいいのではないか?
 そしてその対象は、目の前にある――因幡てゐだった。

 穣子との約束は果たせない。自分が正しい道に戻れると信じて庇ってくれた彼女を見捨てなければならないことは分かっていた。
 しかしいずれ誰かを冷酷に切り捨てるのが鈴仙・優曇華院・イナバという妖怪の本性だ。
 どんなに変えようと思っても変えられない、遺伝子そのものに刻み込まれた本質が、常に誰かを見殺しにする。
 だから正しくは在れない。それでもこのままでいたくない。

 迷い続けてきた私という自我が、確かにあったんだから。
 だから私は……てゐを見放した。

 言葉で伝えても分からないなら、体で理解させればいい。
 てゐを極限まで追い込むことで、もう他者を裏切れないような状況にする。
 正直になって、誰かに心から協力せざるを得ないように仕立て上げる。

 たとえ利害の一致からそうするしかないと思ったとしても、誰かを裏切らず、
 餓鬼道に落ちなければ少なくとも自分のようになることはないのだ。
 そうすれば、いつかはきっと、てゐだって救われるかもしれないのだから……

 そのために輝夜と会い、誰かを殺すように命じられたことを利用させてもらった。
 輝夜のことに関しては大半が事実だ。もしも自分と輝夜がやりとりしていたことが誰かに伝わっていれば信憑性は高くなる。
 永琳のことに関しては殆どが嘘だが、てゐの話を聞く限り永琳とは会っていなかったようだし、何より自分が裏切り、
 輝夜も裏切っていたことを伝えられたてゐからすれば、半ば信じざるを得ない。それくらいの賢しさはあるはずだった。

 果たしてこちらの目論見通り、てゐは完全にこちらの言い分を信じ、銃口を突きつけてやったところで殺さないでくれと懇願してきた。
 その時が、鈴仙に残っていた最後の良心が痛んだ瞬間だった。
 本当はこんなことしたくはない。同じ永遠亭で暮らした仲間同士、協力し合いたかった。
 だが裏切りを常とする自分と、欺こうとしているてゐが一緒になったところで、誰も救われない。
 互いを欺き続け、自らも欺き続けて、迎えるのは互いに破滅でしかない。
 だから鈴仙は本当に言いたかった言葉を堪えた。

 私だって死にたくない。あなたと一緒に救われたい。ささやかに暮らしていきたかったのに……

「うざいわね。言いたいことはそれだけ?」

 思わず声が震えてしまい、悟られたかと肝を冷やしたが、てゐは混乱のあまり気付くこともなかった。
 無様に逃げようとしているてゐの姿を見ながら、鈴仙は心中で別れの言葉を伝えた。

 頑張って、てゐ。私はどうやってもダメな子だから……姫様に従って殺し続けるわ。そうしたら、もしかしたら助かるかもしれないもの。
 やっぱり私は死にたくないの。ダメだって分かってても、結局は楽な方へ流れるから。餓鬼道に落ちるって、そういうことなのよ。
 二度と這い上がれない。でもねてゐ、あなたはまだなんとかなる。てゐはまだ怖いだけなんだから。

 今まで楽しかった。さよなら。……ありがとう。

 鈴仙は引き金を引いた。少しだけ、てゐから照準を外して。
 空を切った銃弾は、てゐのすぐ近くの地面に突き刺さっていた。
 びくりとてゐの体が震え、必死に体をうずくまらせているのを見た鈴仙は、いつの間にか流していた涙を拭い、
 可能な限りの冷たい声でてゐに言った。

「……今回は見逃してあげる。今までのよしみってやつでね。それにどうせ、あんたみたいな妖怪兎なんてすぐに殺せるしね。
 さっさと逃げなさいよ。早く逃げないと、今度こそ狩ってあげる。私の強さは、知ってるわよね」

 てゐの涙で濡れた顔が鈴仙を向いた。ぐしゃぐしゃで、必死に生きたいと心から願う妖怪兎は、
 同族を殺そうとしている自分をどのような目で見つめているのだろうか。
 自分自身の冷酷ささえも、もう分からない。

「ふぇ、ひっく……れ、れいせん……」

 泣きじゃくるてゐの声に、なぜかいつものてゐの無邪気な笑顔が重なり、鈴仙の心を軋ませた。
 それだけではない。永琳の苦笑、輝夜の穏やかな笑みが思い起こされ、
 食卓を囲んでいたかけがえのない日々が思い出になってゆくのが、今はっきりと分かった。

 ――ああ、私は。永遠亭を、守りたかったんだ。

 遅すぎる願いを噛み締めながら、鈴仙は笑った。嗤って、笑った。

「あと五つ数えて、そこにいたら撃ち殺すからね。五つ、四つ、三つ……」

 てゐが走り出す。なりふり構わず、こちらを振り向くこともなく。
 奇しくも、てゐが逃げた方向は人間の里、即ち美鈴と静葉が向かった場所でもあった。
 そうだ。逃げろ。ただ逃げていればいい。奈落の底から、逃げろ。

「二つ、ひとつ……おしまい」

 銃を下ろす。ひどく重く、つらく、悲しかった。
 これからは、殺しに行かなくてはならない。
 自分が助かるために。てゐを救うために。

 もしも。

 もしも、てゐが他の誰かに混じって、笑うことができたのなら。

 それが鈴仙の、唯一の救いなのかもしれなかった。


【E-4 一日目 真昼】

【鈴仙・優曇華院・イナバ】
[状態]疲労(中)、肋骨二本に罅、精神疲労
[装備]アサルトライフルFN SCAR(18/20)、破片手榴弾×2
[道具]支給品一式×2、毒薬(少量)、FN SCARの予備弾×50
[思考・状況]基本方針:保身最優先 参加者を三人殺す
1.輝夜の言葉に従って殺す
2.てゐを救えれば、それが自分の救いなのかもしれない
3.様々な人を裏切ってしまったが、もうどうしようもない
4.穣子と雛、静葉、こいしに対する大きな罪悪感
5.永遠亭のみんなが大好きだった……
※美鈴達と情報交換をしました。殺す三人の内の一人にルーミアを定めています。


【紅美鈴】
[状態]右腕に重度の裂傷(治療済)
[装備]なし
[道具]支給品一式、インスタントカメラ、秋静葉の写真、彼岸花
[思考・状況]静葉を守る
[行動方針]
1.穣子を探しに人間の里に行く
2.静葉を守る為なら戦闘も辞さない。だが殺しはしない
3.幽々子や紅魔館メンバーを捜すかどうかは保留
4.主催者に対する強い怒り
※鈴仙と情報交換をしました。


【秋静葉】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、紅美鈴の写真、不明支給品(1~3)
[思考・状況]妹に会いたい
[行動方針]
1.穣子を探しに人間の里に行く
2.情けない自分だが、美鈴の為にももう少しだけ頑張りたい
3.幽々子を探すかどうかは保留
※鈴仙と情報交換をしました。


【因幡てゐ】
[状態]やや疲労、手首に擦り剥け傷あり(瘡蓋になった)
[装備]白楼剣
[道具]なし
[基本行動方針]保留
[思考・状況]1,ひとりぼっちで死ぬのは嫌だ
       2,頼れる人もいない、どうすればいいの?
[備考]


[その他:美鈴と静葉はE-4西部、鈴仙とてゐはE-4東部にいます]


104:Never give up 時系列順 106:それでも、人生にイエスという。
104:Never give up 投下順 106:それでも、人生にイエスという。
90:亡き少女の為のセプテット 鈴仙・優曇華院・イナバ 116:脱兎堕ち~Tauschung
90:亡き少女の為のセプテット 紅美鈴 110:赤い相剋、白い慟哭。
90:亡き少女の為のセプテット 秋静葉 110:赤い相剋、白い慟哭。
92:Gray Roller -我らは人狼なりや?-(後編) 因幡てゐ 110:赤い相剋、白い慟哭。

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最終更新:2009年11月16日 21:34
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