東方萃夢想/月ヲ砕ク ◆Ok1sMSayUQ
全てがどうでもよくなったはずだった。
いや、自分自身のあまりの無知と無恥に絶望していたはずだった。
所詮鬼は嫌われ者。それだけならばまだしも、無意識とはいえ自ら人間との溝を深めていたことに嫌気が差した。
人間を小馬鹿にしてきただけの自分は。自分勝手な論理を振りかざしてきただけの自分は。
死んで当然であり、滅びて然りの存在でしかなかった。
けれど、死ぬ前に助けられた。どこからかやってきた地獄烏と妖精に。
死ぬ機会を脱してしまったと思ったが、すぐにまたひとつ動機は生まれた。
自分が古明地こいしを殺したことだ。
仕方がなかった。どうしようもなかった。――本当にそうだと、誰が言い切れる?
独善的な生活しか営んでこなかった自分は、ただ言い訳をしようとしていただけではないのか。
これまでの所業から逃げようとするあまり、諦めていたのではないか。
きっとそうだ。そうに違いない。だから……彼女のペットだった、霊烏路空に殺してもらおうとした。
案の定、空は怒り狂い今にも殺しそうな勢いで胸倉を掴んできた。
萃香としてはそれで本望だった。
確かに、こいしは最後の最後に正気には戻った。自分だけのせいではないと言っていた。
全ては、辿ってきた過程が悪かったのだと。
けれども……その過程を積み上げてきたのは誰だ?
ここに来てからの伊吹萃香は、悪くはなかったのかもしれない。
だがそれ以前はどうだった? 千年以上にわたって堆積させてきた対立という名の軋轢は?
何も気付いてなかった。分かったつもりだったのは表層的なことで、本当の事実に気付かなかった。
結局、いい気になっていただけだったのだ。
こいしに正気を取り戻させたのをいい気になって、彼女から許しを得たのをいい気になって、殺し合いの根本、
歴史が作り上げてきた人間と妖怪の対立という問題から目を背けていたのだ。
こんな殺し合いが、悲劇が続くのは自分のせいじゃないと思いたかっただけ。求めていたのは免罪符でしかなかったのだ。
本当にこいしが伝えたかったのは、この歴史を、憎悪の歴史を変えて欲しかったということだったのに……
誰も悪くないのではなく、誰もが今以上の責任を感じなくてはならなかった。
こいしの言葉は、責任の所在を薄れさせるものでは、なかったのだ。
殺し合いに加担していない自分は悪くない。殺し合いをする奴が悪い。
そのことばかりに拘って、なぜ殺し合いが起きたのかを、考えようともしてこなかった。
だからこそ、霊夢の言葉をきいたときの萃香の失望感は大きかった。
弱者の復讐。今まで気にさえかけてこなかった存在たちの、驕り高ぶっていた自分たちに対する報復。
始めの方こそ、霊夢のように無差別に襲う連中しか殺し合いはしていなかったのかもしれない。
しかし殺し合いが進み、死が現実となってきたとき、理不尽な喪失に触れた者は恨みの原因を求めるようになった。
今までいい気になってきた妖怪が何もしてこないからこんなことになった。全部妖怪のせいだ。
やり場のない怒りはそれまで抱え込んできた不満に火を点け、殺意という形となって他者に向けられる。
例えば……
アリス・マーガトロイドを『誰も助けてくれなかった』と思い、間違った気持ちで突き進むことになったこいしのように。
そうして死は広がる。悪意が悪意を呼ぶようになった。
そんな状況になってもなお、自分は悪くない、悪いのは無意味な殺しをする奴だと思っていた。
その気持ちこそが、殺し合いを広める一因だとも理解せずに。
立場をはっきりさせ、正しくあろうとしていたつもりが、その実無自覚の傲慢を振り撒いていた。
だから自分に絶望した。殺し合いどころか、霊夢さえ止められるはずがないと思った。
上の立場から見下ろしてきたのは事実で、復讐という言葉に何も言い返すことができなかったから……
萃香は空が殺してくれるのを待った。復讐を否定できなかった鬼が、復讐で殺される。
迎える結末としては出来すぎているじゃないかと自嘲しながら最後の瞬間を待ったが――空は、殺さなかった。
『悪くないなんて言うつもり、これっぽっちもないよ。認めなきゃいけない。それで……どうするか、考えなきゃ。おんなじことの繰り返しだよ』
空は気づいていた。妖怪の傲慢の歴史に。
萃香と違うのは、「それでも」と言えていることだった。
それでも、どうするかを考えなきゃいけない。でなければ、また同じことを繰り返すだけだから、と。
絶望したからって何も変わらない。諦めて退場してしまうのは、高みから見下ろしているのと変わらない。
そんな自分が嫌で嫌で仕方がないというのなら、『なにか』をするしかない。
嫌いな自分を変えることができるのは、自分しかいないのだと、空は言っていた。
萃香は強烈に頬を打たれた感覚を味わった。空に言われるまでまだ自分に甘えていたことよりも、
萃香を見下すことなく同等の存在として接していた空そのものが羨ましかった。
こんな卑怯者の鬼でも、まだ引っ張ろうとしてくれている。まだやれることがあると言ってくれている。
『レトロ原子核モデル』を預け、囮となって飛び出そうとする空を見ながら、だからあいつは妖精と一緒にいるのかと鈍い納得を感じていた。
それでも、と言える強さがあるから、種族や立場で物の見方を変えたりしない。
誰にだって可能性はあるから、妖精でも鬼でも説得しようとする。
そうだ。だから……滅多に笑わず、いつも強がっていたあの氷精が懐いていたのだ。
今度こそ間違えてはいけないと萃香は強く思った。
こいしが本当に伝えようとしたこと。身に沁みて分かったのだから、次はどうするかを考えなくてはいけない。
これからの私達。これからの妖怪。これからの未来――
犠牲を犠牲で終わらせないために、悲劇で片付けてしまわないために。
萃香は崩落を始めた家の床を蹴り、外に脱出し、強い意志をもった一歩を踏み出した。
そして、走って、走って、走った末に……まさに空たちにトドメを刺そうとしている、かつての医者を見つけたのだった。
「派手な弾幕をばら撒いてくれてありがとう。お陰で見つけやすかったよ!」
空中から力に任せて、永琳に突撃する。
永琳はトドメを刺すのをやめ、即座に萃香に応射しようとしたものの、萃香の周囲を漂っている『レトロ原子核モデル』に気付いて回避を優先した。
軌道を修正し切れず、地面に拳をぶつけるだけの結果に終わったが、とりあえず空たちを守ることはできた。
ぽかんと口を開けて萃香の方を見つめている、ふたりの間抜け面を見れば生きていることは一目瞭然だった。
土で汚れたふたりにニヤと笑いかけてやり、萃香はそれを最後に戦闘に集中することにした。
「伊吹萃香ね……全く、余計なことを」
「五月蝿いな。こいつらは私の仲間だよ。それに手ぇ出すってどういう了見だい」
「殺し合いだから、殺そうとしただけよ。あなたはまた私を殺して解決しようとでもいうのかしら」
「さあね。もうそんな単純な状況じゃないって、分かってる」
この殺し合いの根本は、自分達自身。
永琳が死んで全てが解決するとは微塵も思っていない。
でも、それでも。殺し合いを続けようとするのなら、まずはそれを止める。
それが私にできることだ。……今はこれでいいよね、こいしちゃん?
拳を強く握り、拳法の構えを取った。
腕を軽く曲げ、パンチを放ちやすいように構えただけの、単純なファイティングポーズだ。
だがそれで十分。鬼の怪力は、たとえ蓬莱人であっても一撃で戦闘不能にする。
体力もそうは回復していない。一撃で決めるしかないからこそのこの構えだ。
「あんただけが悪いとは言わない。でも、あんただって悪いと思うね、私は」
「そうね。だから私は、あなたを殺す」
「だから私は、あんたを叩きのめす!」
叫んだ途端、傷が痛んだ。萃める力で塞いでいても、命が流れ出すのを止めることはできない。
しかしその苦痛こそが萃香を覚醒させる。まだ生きている。生きているのなら、やれることがある。
のんびりとするのも悪くはない。遊惰に酒を飲み、過ごす贅沢をするのもいい。
けれども、やはり、こうして動くのが一番性に合っていることを実感していた。
萃香は昔を思い出す。人間と愉しむことだけを考えて、怪力しか取り得のない頭で色々と考え付く限りの悪さをしてきた。
あれも、人間の視点からすれば決して良かったことではないのだろうけど……だが、考えて行動することができていた。
いつからだっただろう。考えることさえ億劫になり、勝利に酔うための酒ではなく、ただ酔うための酒を呷るようになったのは。
勝手に失望し、勝手に引き篭もり、勝手に思考停止するのはもうやめよう。
鬼の望む未来。人間と鬼が仲良く喧嘩できるような未来にするために、今の苦しさに耐えてみせよう。
そのときに呑む勝利の美酒は……とびきり格別であるのに違いないのだから。
萃香の狙いはただ一点。あの蓬莱人に鬼の怪力を見せ付けることである。
バカ正直に真正面から突撃してきた萃香に、永琳は迎撃の弾幕で応じた。
「その原子核モデル、邪魔よ!」
永琳が浮遊する弾幕を射出した。
機雷かと思った萃香だったが、すぐにそうではないことに気付かされる。
あれは機雷などではない。一定時間が経過すると自動で弾幕を射出する『使い魔』である。
力の強い妖怪は大抵『使い魔』を扱うことができる。使い魔といっても、自動的に弾幕を出し続ける性質からそう呼ばれているだけで、
実際のところは河童なんかが使う機械と似ている。
『使い魔』の厄介なところは存在し続ける限り自動的に射撃するというところで、『使い魔』で大量に弾幕をばら撒いて、
動けなくなったところを本命の射撃で撃ち落とすというのが弾幕ごっこではよく見られた光景だった。
永琳が指を傾ける。すると今まで浮いていただけだった『使い魔』が猛烈に弾を吐き出してきた。
「くっ!」
咄嗟に弾の隙間に避難したものの、左右を擦過する弾幕はたちまちのうちに『レトロ原子核モデル』を破壊した。
守りの要がなくなった。そして大量の弾幕に囲まれ、身動きが取れない状況。
やはりこの女、一筋縄ではいかない強さを持っている。
しかし萃香も戦いの中に身を置いてきた鬼の一族である。
瞬時に弾幕の隙間を見切り、当たらないように動き回れるだけの判断力を持っていた。
「流石の鬼といったところね。でも避けるだけじゃこの殺し合いには勝てないのよ」
永琳が銃を向ける。驚異的な速射力と威力を有するこの武器の恐ろしさは既に身を持って体感している。
見てから避けることも不可能に近い。そして何より……この武器の存在を、幻想郷では知らない連中が多い。
だから一度は負けた。蓬莱山輝夜に。そして今度はその従者が自分を狙い撃とうとしている。
だが――二度目は、ない!
永琳は確かに賢い。即座に自分の守りを打ち崩し、最適な方法で殺そうとする。
しかし……永琳は自らの頭脳を、過信しすぎていた。
萃香に対して、遠距離では打つ手がない、と思っていたであろうことがまずひとつ。
そして、萃香が銃の恐ろしさを知っているはずがないと思っていることだ。
だからこそ永琳は銃弾の使用量を最小限にとどめるため、悠々と狙いをつけていたのだし、『使い魔』で近寄らせまいとしていた。
それこそを待っていたと言わんばかりに、萃香は握り拳に妖力を集中させ、めらと燃える火炎の拳を作り上げた。
『妖鬼-密-』。凝縮された妖力を打ち出す、萃香の疎密能力を利用した特製の弾丸である。
雪合戦などでよく見られるように、よく握りこんだ雪球はまるで石のように硬くなる。
『妖鬼-密-』もその類で、萃香によって萃められた妖力は、凄まじい弾幕相殺能力を有していた。
「『使い魔』が邪魔なら……」
萃香は拳を引き、ありったけの力を込めた。
「そいつごと粉砕するまでだ!」
腕を突き出すモーションと共に、凝縮された『妖鬼-密-』が『使い魔』を直撃した。
『妖鬼-密-』は弾幕ごと飲み込み、一撃のうちに完全消滅の道を辿った。
高エネルギーが衝突したことにより、周囲に風が吹き荒れる。砂埃を巻き上げ、それが萃香の姿を隠した。
これで、永琳は狙撃することができない。チャンスはここしかないと感じた萃香は塵芥の中に突入した。
もうもうと視界を遮る砂埃は1メートル先でさえ見渡せなかったが、萃香は永琳の位置を把握していた。
何故なら、自分は疎密の具現。近距離ならどこに気配が萃まっているかも分かる。
特に、永琳の気配は……死を撒き散らそうとする悪意が丸見えだった。
一気に永琳の懐に飛び込む。萃香の接近に気付き、今更のように視線を合わせてきたが、もう遅い。
「萃鬼」
永琳の胸倉を掴んで、一気に空中まで持ち上げる。
最大出力。最強の一撃。動けなくなってもいい。この一発で……全てを決める!
「『天手力男投げ』!」
腕力の増強に全ての妖力を注ぎ込み、萃香は永琳ごと民家へと突撃した。
家にぶつかる直前に、服を強引に抱えての、一本背負い投げを見舞った。
落ちる加速度と鬼の怪力をつぎ込んだ一撃は、木材を粉々に粉砕し、柱の一本も残さずに薙ぎ倒した。
瓦葺きの屋根が崩れ、ガラガラと音を立てながら永琳を埋め尽くす。
萃香はその光景をしっかりと見ながら、しかし己の妖力が尽きたことを自覚してがくりと膝を折った。
傷を無理矢理塞いでいた密の力が欠け、銃創部分から血があふれ出してくる。
「ぐっ……参ったな、医者が必要かもね」
その医者を、ついさっき叩きのめしたのだが。皮肉なことだと思いながら、萃香は後方を見やった。
『天手力男投げ』を行う際遠くまで移動してしまったのか、空と
チルノの姿は見えなかった。
だが、確かに見えていたはずだ。あのぽかんとした表情は目に焼きついて離れない。
これが鬼の力。古来より畏れられてきた、何者にも負けない力だ。
「我が群隊は百鬼夜行、鬼の萃まる所に人間も妖怪も居れる物か」
勝利の勝ち鬨を上げるときには、いつもこんな感じの仰々しい言葉を言っていた気がする。
霊夢の言う通り、最近は言葉遊びばかりで、本当はどんなことを言っていたのかも思い出せなくなっていたが。
それでも、今の萃香は自分の言葉に誇りを持ち、胸を張ることができそうだと思えていた。
そうだ。まだ自分達には、これからがある。閉塞した未来だって叩き壊せる、『それでも』と言える力が――
「そうね。『人間』も『妖怪』もいない。でも『月人』なら居るのよ」
どこからともなく聞こえた声だった。
気がついたときには、胸がびくりと痙攣し、口から大量の血を吐き出していた。
あ……? 萃香が胸に視線を向けると、そこにはいくつもの穴が開き、紅いものが吹き出している。
「鬼の怪力、侮れたものじゃなかったわね」
声を上げることもせずに、のろのろと萃香は振り向いた。
そんな馬鹿な、という思いを抱きながら。
崩れ落ちた、民家の、瓦礫の上。
月を背に、夜で彩り、無表情な姿で、硝煙のたなびく銃を冷酷に構えた八意永琳が、そこにいた。
「掴まれたとき極め返してやろうかと思ったけど、抵抗できないとはね。逃げるので精一杯だったわ」
「そんな、でも、確かに……!」
「状況さえ把握してれば、どうするかなんて考えるまでもないのよ。
視界を遮られる。するとあなたは私に接近して一撃を叩き込む。恐らく私は逃げられない。
じゃあ、それを見越して受け身をしておけばいいだけ」
萃香は絶句した。鬼の一撃を、折込済みだったというのか、この女は。
化け物め、という言葉が浮かびそうになり、そこで萃香は初めて彼女が月人であることを理解していた。
地上の生き物を見下し、下賎な生き物だと蔑んできた連中。しかしそう言い切れるだけの強さを持った連中。
侮っていたわけではない。油断もなかった。ただ……この傷ついた体で、一撃で勝負を決められるはずがなかった。
それほどの根本的な地力の差があったのだ。
「だけど、鬼の一撃を……受けきろうなんて……」
「私は医者よ? 道楽だったけどね。医者は、とても人体に詳しいの。どこが弱いか。どこを守ればいいか。
医者は……とても優れた殺人者なの。それでいて自分を守る術を知っている。あなた風に言うなら、『鬼に金棒』ね」
「く、そ……」
敗北を自覚した瞬間、体が崩れ落ちた。
思えば、家の崩れ方は尋常ではないほど派手だった。
本気だったとはいえ、家全体をまるまる破壊できるほどの範囲のある攻撃でもなかったのに。
恐らく、永琳は投げられながらも、冷静に弾幕を撃ち、その反動でダメージを軽減したのに違いなかった。
結局のところ、彼女の賢しさの方が勝った。鬼はやはり、知恵を用いた戦いには勝てなかったのだ。
「にしても、まだ生きていることの方が驚きだわ。急所を確かに射撃したのに……頑丈なのね」
萃香はもう喋らなかった。
月人との実力差に失望したわけでもなく、死をただ待っているのでもなかった。
力を溜めていた。自分にできることはなにか。やらなければいけないことはなにか。
永琳が頭を空にして、考えることすらやめてしまったのなら、それに敗北したというのなら、自分はそれに逆らってみせる。
鬼は天邪鬼なのだ。
私の力、萃める力、鬼にしかなせない力……それは……
「……ふむ。もう放っておいても死ぬわね。さようなら、小さな鬼。あなたが体を張って助けたあの二匹もじきに……」
「じきに……どうなるって言うのかしら!」
永琳の佇む瓦礫の上目掛けて、霊烏路空の核の炎でもない、萃香の妖力を纏った鬼火でもない、
永遠に燃え続ける、第三の焔が飛来した。
攻撃を察知した永琳が瓦礫から飛びのく。
崩落した家に衝突した火炎は熱と衝撃波と火の粉を撒き散らし、夜をそこだけ赤く染め上げた。
「残念だけど」
そこに現れたのは、ふたつの影。
全てを見通すかのような透き通った瞳と、小柄ながらも地底の主としての威厳を纏う妖怪、古明地さとり。
月まで届く白煙を思わせる、美しい白髪と、命の輝きを思わせる炎の赤を瞳に塗り込めた人間、藤原妹紅。
気絶させ、逃がしたはずの人間が……今度は、味方を連れて助けに来たのだった。
あの、こいしの姉を引き連れて。
「さとりのペットと妖精なら避難させたよ。そこの萃香が、暴れてくれたからね。見つけやすかった」
永琳がそこで初めて、強張った表情を萃香に向けた。
ざまあみろ、と萃香は内心で言い返す。
いや、口に出せなかった。力は尽き果て、永琳の言う通り、もう少しで死ぬ。
しかしあの月人に最後に一泡吹かせることができたのだから……少しは、勝っていた、はずだった。
私は皆を萃めることができる。
気持ちを広めることだってできる。
それが、鬼にしかできないことだ。
永琳がここで勝っても、まだ妹紅が戦ってくれる。
自分の、自分達の思いを引き継いでくれる。
「医者の癖に、見下げ果てた根性だ。輝夜も輝夜なら従者も従者ね……!」
妹紅が背中から炎の羽根を広げ、その怒りを露にしていた。
「私の可愛いペットに、よくも手出しをしてくれたものです。その罪……万死に値します!」
さとりが妖力を集中させると、彼女の身につけている第三の瞳が不気味に蠢いた。
自分の思いを、受け取って、戦ってくれる頼もしい友人を、仲間の姿を、見ながら。
伊吹萃香は、笑って、死んだのだった。
【D-4 人里のはずれ 一日目・夜中】
【博麗霊夢】
[状態]万全
[装備]果物ナイフ、ナズーリンペンデュラム、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障)
不明アイテム(1~4)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.小町、(いるなら)映姫と合流する
2.とにかく異変を解決する
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない
【
藤原 妹紅】
[状態]腕に切り傷
[装備]ウェルロッド(1/5)、フランベルジェ
[道具]基本支給品、手錠の鍵、水鉄砲、光学迷彩
[基本行動方針]ゲームの破壊、及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
[思考・状況]
1.永琳を叩きのめす
2.閻魔の論理は気に入らないが、誰かや自分の身を守るには殺しも厭わない。
3.萃香と紅魔館に向かい、にとり達と合流する。
4.てゐを探し出して目を覚まさせたい。
5.輝夜が操り人形? 本当だろうか……?
※以前のてゐとの会話から、永琳が主催者である可能性を疑い始めています。
【古明地さとり】
[状態]:健康
[装備]:包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品、にとりの工具箱
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.永琳を叩きのめす
2.こいしと燐の死体の探索。空の保護
3.西行寺幽々子、八意永琳の探索
4.こいしと燐を殺した者を見つけても……それでも、良心を信じてみたい
5.
ルーミアを……どうするのが最善だった?
6.工具箱の持ち主であるにとりに会って首輪の解除を試みる。
[備考]
※主催者の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます。
※閻魔を警戒
※明け方までに博麗神社へ向かう
※小町の心を読みました
【八意永琳】
[状態]疲労(中)
[装備]アサルトライフルFN SCAR(15/20)
[道具]支給品一式 、ダーツ(24本)、FN SCARの予備マガジン×2
[思考・状況]行動方針:参加者の殲滅
1.皆を、殺さなきゃ
※冷静ではあります
※この会場の周りに博霊大結界に似たものが展開されているかもしれないと考えています
【チルノ】
[状態]満身創痍。戦闘不能
[装備]手錠
[道具]支給品一式(水残り1と3/4)、ヴァイオリン、博麗神社の箒、洩矢の鉄の輪×1、
ワルサーP38型ガスライター(ガス残量99%) 、燐のすきま袋
[思考・状況]基本方針:お空と一緒に最強になる
1.前に進む。
2.メディスンを殺した奴(天子)を許さない。
3.ここに自分達を連れてきた奴ら(主催者)を謝らせる。
4.必ず帰る。
※現状をある程度理解しました
※さとりと妹紅によってどこかに避難させられています
【霊烏路空】
[状態] 満身創痍。戦闘不能
[装備] 手錠
[道具] 支給品一式(水残り1/4)、ノートパソコン(換えのバッテリーあり)、スキマ発生装置(二日目9時に再使用可)、 朱塗りの杖(仕込み刀) 、橙の首輪
[思考・状況]基本方針:チルノと一緒に最強になる。悪意を振りまく連中は許さない
1.前に進む。
2.メディスンを殺した奴(天子)を許さない。
3.必ず帰る。
※現状をある程度理解しました
※さとりと妹紅によってどこかに避難させられています
※空の左手とチルノの右手が手錠でつながれています。妹紅の持つ鍵で解除できるものと思われます。
※メディスンの持っていた燐のスキマ袋はチルノが持っています。
中身:(首輪探知機、萃香の瓢箪、気質発現装置、東のつづら 萃香の分銅● 支給品一式*4 不明支給品*4)
【伊吹萃香 死亡】
【残り20人】
最終更新:2011年09月24日 14:18