あけないたたかい ◆3nT5BAosPA
武蔵の同意を得られたので、圭はすぐに移動を開始した。
とりあえずは現在地からなるべく離れることが最優先の目的だが、かといって、あてもなく歩き続けるというわけにも行くまい。
身を潜めるのに適した場所はなかったか──歩きながら脳内に周辺の地図を思い浮かべていると、車輪が回る音と共に誰かがやってくるのが見えた。
その誰かはママチャリに乗っていた。しかし、運転手は主婦ではなく男だ。圭と同年代くらいに見える、制服姿の少年である。金色に染まっている髪は、圭にカイを連想させた。
彼も石上の声を聞いて、ここまで来たのだろうか。
「ここに居てはまた石上の聞いた誰かがやって来て面倒が起きるかもしれない」という圭の懸念は、すぐさま的中したようである。
とりあえずは現在地からなるべく離れることが最優先の目的だが、かといって、あてもなく歩き続けるというわけにも行くまい。
身を潜めるのに適した場所はなかったか──歩きながら脳内に周辺の地図を思い浮かべていると、車輪が回る音と共に誰かがやってくるのが見えた。
その誰かはママチャリに乗っていた。しかし、運転手は主婦ではなく男だ。圭と同年代くらいに見える、制服姿の少年である。金色に染まっている髪は、圭にカイを連想させた。
彼も石上の声を聞いて、ここまで来たのだろうか。
「ここに居てはまた石上の聞いた誰かがやって来て面倒が起きるかもしれない」という圭の懸念は、すぐさま的中したようである。
「止まれ!」
此方に向かってくる少年の姿を認めた瞬間、圭は叫んだ。
すると、少年の動きは止まった。ちなみに、武蔵は圭が口を開いた時には両手で耳を塞いでいた。大した状況判断力である。
がしゃあん、と。
運転手の行動の急停止による必然の結果として、コントロールを失ったママチャリは派手な音を立てて転倒した。
すると、少年の動きは止まった。ちなみに、武蔵は圭が口を開いた時には両手で耳を塞いでいた。大した状況判断力である。
がしゃあん、と。
運転手の行動の急停止による必然の結果として、コントロールを失ったママチャリは派手な音を立てて転倒した。
──バイクじゃあるまいし、あの速度でそこまで酷い怪我をするとは思えないが……。
圭が『亜人の声』を使ってこのようなことをしたのは当然であった。
敵か味方かも分からない少年を不用意に近づけた結果、喜ばしくない結果を招いては困る。ならば、多少乱暴な手段になっても、少年を止めるべきだったのだ。
しばらくすると、少年は体を起こした。
敵か味方かも分からない少年を不用意に近づけた結果、喜ばしくない結果を招いては困る。ならば、多少乱暴な手段になっても、少年を止めるべきだったのだ。
しばらくすると、少年は体を起こした。
「いてて……、今の声は『言葉の重み』みたいだが、あれとは違う感覚だったぜ──いきなり何すんだよ!」
「僕たちは別に、殺し合いに乗っているわけじゃない。だけど、君がどういう人間なのか分からない今、接近を許すわけにはいかなかったんだ。許してくれ」
「僕たちは別に、殺し合いに乗っているわけじゃない。だけど、君がどういう人間なのか分からない今、接近を許すわけにはいかなかったんだ。許してくれ」
我ながら誠意の籠っていない口調だな、と思いながら、少年に向かって圭は語りかけた。
「率直に聞かせてもらおう。君はこの殺し合いに乗っているのか?」
「カッ! このふざけたバトルロワイアルへのスタンスなら、俺もお前らと同じだぜ。乗るわけねえだろ」
「カッ! このふざけたバトルロワイアルへのスタンスなら、俺もお前らと同じだぜ。乗るわけねえだろ」
人の命が奪われる催しに心からの嫌悪を示すような表情で、少年は言った。
「この辺りから声がしただろ? 俺はその声の主を助けようと、ここまで来ただけなんだが」
「その者なら死んだ」
「なッ……!?」
「その者なら死んだ」
「なッ……!?」
答えたのは武蔵だった。
「武蔵があの場に参った時には既に巨漢に踏み潰されていた」
「そうか……クソッ!」
「そうか……クソッ!」
声の主の死を知った少年は、悔しそうに地面を殴った。
「間に合わなかったってことかよ!」
「そう悲嘆にくれるなよ。おそらく、あの声がした直後には殺されていたんだろうし、誰だって間に合わなかったさ」
「そう悲嘆にくれるなよ。おそらく、あの声がした直後には殺されていたんだろうし、誰だって間に合わなかったさ」
僕くらいの距離にいたのならまだしも。
圭は心中に湧いた補足を、そっと握り潰した。
圭は心中に湧いた補足を、そっと握り潰した。
X X X X X
少年は名前を人吉善吉と言った。箱庭学園という高等学校の生徒である彼は、この殺しあいの場へ共に連れて来られた知り合いを探している最中に、吸血鬼を名乗る雅という怪物に襲われ、そこを煉獄杏寿郎という剣士に助けられたらしい。その後ふたりは手を組んで人外の化物を相手に戦っていたが、突如として罵声が響き、声の主を助けるために善吉は戦線から離脱した──らしい。
「吸血鬼……?」
善吉からこれまで起きたことを聞いた圭が反応したのは、フィクションの世界でよく見られる怪人の名前だった。
そんなものがこの島には居るのか。
そんな馬鹿な、と否定する意図は無い。圭は先ほど人を超えた所業を連発する筋肉野郎を見たばかりだし、なにより圭自身が亜人という人ならざる存在だ。だったら、本物かどうかはさておき、吸血鬼を自称する参加者くらいいてもおかしくはないだろう。もしかしたら、雅とかいう奴は亜人なのかもしれない。たしか世界には、亜人を神話や伝説上に記されている不死の存在と重ねて信仰している地域があるらしいが──いや、違うか。
善吉の話を聞けば、雅という男はどれだけ酷いダメージを負っても死ぬ事もなく回復し、常人を超えた力を振るっていたらしいし、それに何より──証拠が雅本人の言及しかないが──彼の吸血鬼の性質は、血を介して傷口などから他人へ感染するというのだ。まだ分からない部分が多い亜人だが、血液を経由して不死性が伝染するという話は聞いたことがない。ウイルス性の病気じゃあるまいし。
だったら、雅は亜人とは異なる不死ということか。
そんなものがこの島には居るのか。
そんな馬鹿な、と否定する意図は無い。圭は先ほど人を超えた所業を連発する筋肉野郎を見たばかりだし、なにより圭自身が亜人という人ならざる存在だ。だったら、本物かどうかはさておき、吸血鬼を自称する参加者くらいいてもおかしくはないだろう。もしかしたら、雅とかいう奴は亜人なのかもしれない。たしか世界には、亜人を神話や伝説上に記されている不死の存在と重ねて信仰している地域があるらしいが──いや、違うか。
善吉の話を聞けば、雅という男はどれだけ酷いダメージを負っても死ぬ事もなく回復し、常人を超えた力を振るっていたらしいし、それに何より──証拠が雅本人の言及しかないが──彼の吸血鬼の性質は、血を介して傷口などから他人へ感染するというのだ。まだ分からない部分が多い亜人だが、血液を経由して不死性が伝染するという話は聞いたことがない。ウイルス性の病気じゃあるまいし。
だったら、雅は亜人とは異なる不死ということか。
「まるで鬼だな」善吉の言葉を聞いた武蔵は言った。
「鬼とは何です、武蔵さん」圭は問う。
「不死身の異形異類のことだ。人吉が見たという吸血鬼と特徴が似ておる」
「鬼とは何です、武蔵さん」圭は問う。
「不死身の異形異類のことだ。人吉が見たという吸血鬼と特徴が似ておる」
どうやら比喩としての鬼ではなく、正真正銘鬼そのものを指して言ったらしい。筋肉野郎と渡り合えていたことからただ者ではないと思っていたが、本人の話を聞くところによると武蔵は実際に不死身の鬼と戦い、斬ったことがあるらしい。もしかすると、その鬼とやらもこの島にいるかもしれないな、と圭は懸念を抱いた。
「煉獄さんはああいう化け物と戦った経験が何度もあるらしいが、それでもずっとひとりにしておくわけにはいかねえ。宮本さんみたいに化物と戦った経験がある人を連れて戻れたら最良なんだが……、どうだ宮本さん、そして永井、おれに付いて来てくれねえか? 煉獄さんを助けたいんだ」
「いいだろう」
「いいだろう」
武蔵は凛とした口調で、善吉の頼みを承諾した。
「なッ──」
こいつマジか、と言いたげな顔で武蔵を見る圭。しかしよく考えてみるまでもなく、武蔵は石上の言葉を聞きつけてあの場に真っ先に馳せ参じた者なのだ。そんな奴が善吉の頼みを断る可能性の方が低いというものだろう。
「この島に鬼の如き化生が他にも居り、助けを求めるものが居るならば、二天一流に進まぬ道理は無い」
頼もしいことこの上ない武蔵の言葉に、善吉は頭を下げ、謝意を述べた。
己の方針を明らかにした武蔵は、圭に顔を向けた。目と目が合う。
己の方針を明らかにした武蔵は、圭に顔を向けた。目と目が合う。
「おぬしはどうする」
「僕は……」
「僕は……」
圭は顔を顰めた。雅のような危険人物(人?)を放置しておくわけにいかないのは確かだ。だが、だからといってそんな奴が暴れている場所にわざわざ向かうのは相当なリスクである。十全な備えをしていない現状で、そう易々と出向くわけにはいかないだろう。
けれども、そこで鬼殺しの熟練者であるという煉獄杏寿郎が戦っており、同じく鬼斬りの経験者である武蔵が向かうというのであれば、話は別だ。吸血鬼を名乗る不穏分子を排除できる可能性は高いといえるだろう。
故に、圭が返した答えは、
けれども、そこで鬼殺しの熟練者であるという煉獄杏寿郎が戦っており、同じく鬼斬りの経験者である武蔵が向かうというのであれば、話は別だ。吸血鬼を名乗る不穏分子を排除できる可能性は高いといえるだろう。
故に、圭が返した答えは、
「僕は……、僕も、付いて行きます」
だった。
煉獄と武蔵がいるとはいえ不安の残る選択だったが、武蔵から離れて一人で行動するよりはよっぽどマシである。それも踏まえての答えだ。
善吉が言うところによると、ここから1エリアしか離れていない『那田蜘蛛山』の麓で、煉獄と雅は戦っているらしい。そんなすぐ近くで魔人と剣士が戦いを繰り広げているという事実に、圭は改めてこのバトルロワイアルの狭さと恐ろしさを知ったのであった。
煉獄と武蔵がいるとはいえ不安の残る選択だったが、武蔵から離れて一人で行動するよりはよっぽどマシである。それも踏まえての答えだ。
善吉が言うところによると、ここから1エリアしか離れていない『那田蜘蛛山』の麓で、煉獄と雅は戦っているらしい。そんなすぐ近くで魔人と剣士が戦いを繰り広げているという事実に、圭は改めてこのバトルロワイアルの狭さと恐ろしさを知ったのであった。
「そうと決まれば話は早い。さっさとD-4エリアに戻らねえと」
倒れっぱなしになっていた自転車を起こし、来た道を戻ろうとする善吉。
次から次に訪れる厄介な事態、そしてこれからもやってくるであろう面倒事を思い、圭は溜息を吐きたくなった──その時だった。
突如として空から何かが飛来してきたのは。
轟音と共に地面が陥没し、粉塵が舞う。すわ大砲が発射されたのかのかと思ったが、違った。飛んできたのは砲弾ではなく人間だった。ただし、砲弾の如き速度で着地して五体満足な姿を見せているものを人間と呼べるのならば、の話になるが。
突然の来訪者の正体は、ふたりの男だった。
ひとりは総身を覆う筋肉の鎧と入れ墨が印象的な半裸の男。狼虎めいた目には左右それぞれに『上弦』『参』の文字が刻まれている。
もうひとりはボロボロの学生服を着ている、目つきのわる半裸の男が圭の元まで飛んできて腹目掛けて蹴りを放った所為で、観察は強制的に中断させられた。
次から次に訪れる厄介な事態、そしてこれからもやってくるであろう面倒事を思い、圭は溜息を吐きたくなった──その時だった。
突如として空から何かが飛来してきたのは。
轟音と共に地面が陥没し、粉塵が舞う。すわ大砲が発射されたのかのかと思ったが、違った。飛んできたのは砲弾ではなく人間だった。ただし、砲弾の如き速度で着地して五体満足な姿を見せているものを人間と呼べるのならば、の話になるが。
突然の来訪者の正体は、ふたりの男だった。
ひとりは総身を覆う筋肉の鎧と入れ墨が印象的な半裸の男。狼虎めいた目には左右それぞれに『上弦』『参』の文字が刻まれている。
もうひとりはボロボロの学生服を着ている、目つきのわる半裸の男が圭の元まで飛んできて腹目掛けて蹴りを放った所為で、観察は強制的に中断させられた。
「がッ……!?」
腹を襲った衝撃に、圭は血を吐いた。
腹筋と内臓を越えて背骨にまで到達したんじゃないかと思わされるほどに、蹴りは深々と突き刺さる。与えられた攻撃から生まれる当然の結果として、圭はくの字の体勢で後方に吹っ飛んでいった。蹴撃だけでも人体に与えるのに余りあるダメージだったが、家屋の壁に背中からぶつかった際に、腹部以外の内臓や頭蓋骨にも致命的な損傷が加わった。
腹筋と内臓を越えて背骨にまで到達したんじゃないかと思わされるほどに、蹴りは深々と突き刺さる。与えられた攻撃から生まれる当然の結果として、圭はくの字の体勢で後方に吹っ飛んでいった。蹴撃だけでも人体に与えるのに余りあるダメージだったが、家屋の壁に背中からぶつかった際に、腹部以外の内臓や頭蓋骨にも致命的な損傷が加わった。
「永井―――ッ!?」
半裸の男の目にも止まらぬ攻撃から一拍置いて何が起きたのかようやく理解した人吉善吉は、絶叫のような声を挙げた。
名前を呼ばれた圭が返事をすることはない。あれほどのダメージを与えられれば、指先一つ動かす事すら不可能だろう。
全身を稲妻のように駆け巡る激痛に悶えるも呻き声ひとつ上げられないまま、彼は意識を手放し、しばらく経つと、生命活動を終了した。
名前を呼ばれた圭が返事をすることはない。あれほどのダメージを与えられれば、指先一つ動かす事すら不可能だろう。
全身を稲妻のように駆け巡る激痛に悶えるも呻き声ひとつ上げられないまま、彼は意識を手放し、しばらく経つと、生命活動を終了した。
【永井圭@亜人 死亡】
X X X X X
永井圭を仕留めた後、半裸の男──猗窩座の次の標的は武蔵だった。
拳を振りかぶりながら、一足で飛びかかる。
武蔵は既に抜いていた刀を持って、これを迎撃した。
一閃──剣豪の頭を砕かんと突進していた腕は、切り離されていた。
斬撃を受けた襲撃者はアクロバティックな動きで後退し、距離をとる。
五メートルほど離れた所で、猗窩座は静止する。その頃になると、彼の腕は元通りに生え変わっていた。信じがたい再生力である。
拳を振りかぶりながら、一足で飛びかかる。
武蔵は既に抜いていた刀を持って、これを迎撃した。
一閃──剣豪の頭を砕かんと突進していた腕は、切り離されていた。
斬撃を受けた襲撃者はアクロバティックな動きで後退し、距離をとる。
五メートルほど離れた所で、猗窩座は静止する。その頃になると、彼の腕は元通りに生え変わっていた。信じがたい再生力である。
「傷も残らぬ、死なずの身。さては鬼か!」
鬼──不死身の怪物。
剣豪としてこれまで多くの武芸者と戦ってきた武蔵だが、そんな彼でも瞠目を禁じ得ないほどに、目の前の拳鬼の動きは尋常ならざるものだった。人が生涯をかけてどれほど激しい鍛錬を積んでも、猗窩座ほどの武を磨くことは不可能だろう。そう思わされるほどに、超人的な風格を、彼の一挙一動は纏っている。武蔵は猗窩座を『上の上』だと認定した。
武蔵の刀をしげしげと眺めた猗窩座は、実に楽し気な声音で言葉を紡いだ。
剣豪としてこれまで多くの武芸者と戦ってきた武蔵だが、そんな彼でも瞠目を禁じ得ないほどに、目の前の拳鬼の動きは尋常ならざるものだった。人が生涯をかけてどれほど激しい鍛錬を積んでも、猗窩座ほどの武を磨くことは不可能だろう。そう思わされるほどに、超人的な風格を、彼の一挙一動は纏っている。武蔵は猗窩座を『上の上』だと認定した。
武蔵の刀をしげしげと眺めた猗窩座は、実に楽し気な声音で言葉を紡いだ。
「いい太刀筋だ。俺と戦う強者に相応しいと言えるだろう。あの声に招かれた者の中に、おまえのような強い人間がいたことを嬉しく思うぞ──俺の名は猗窩座」
「宮本武蔵にござる」
「ムサシよ──見たところ、お前の得物は日輪刀のようだな。さては鬼殺隊の剣士か?」
「否。鬼殺隊など聞いたこともない。武蔵が振るうは何処にも属さぬ孤剣なり」
「そうか。だが武蔵よ──こうして巡り合った強者であるお前が、鬼を斬るための武具を握っている状況に、俺は一種の天命めいたものすら感じているよ。お前の強さを俺に見せてくれ、存分に」
「宮本武蔵にござる」
「ムサシよ──見たところ、お前の得物は日輪刀のようだな。さては鬼殺隊の剣士か?」
「否。鬼殺隊など聞いたこともない。武蔵が振るうは何処にも属さぬ孤剣なり」
「そうか。だが武蔵よ──こうして巡り合った強者であるお前が、鬼を斬るための武具を握っている状況に、俺は一種の天命めいたものすら感じているよ。お前の強さを俺に見せてくれ、存分に」
恍惚とした様子で、猗窩座は宴を始めるべく、拳を構えた。
その時、横から何者かが吠える声がした。人吉善吉の声だった。
その時、横から何者かが吠える声がした。人吉善吉の声だった。
「てめえ! どうして永井を蹴飛ばしやがった! おまえが宮本さんと戦おうってんなら、あいつは関係なかっただろうが!」
「あいつは弱い人間だった。その上、手負いだった。だから殺した。それだけだ」
「あいつは弱い人間だった。その上、手負いだった。だから殺した。それだけだ」
猗窩座がさも当然とばかりに返した答えを聞いた善吉は絶句した。大した理由もなく、「弱いから」という理由で命を奪える、理解不能の精神性。これを鬼と言わずに何と言うべきか。
「もちろん、お前も俺からすれば唾棄すべき弱者だが、あいつと比べれば少しばかり鍛えているようだな。その闘気、凡人にしては練り上げられている方だ──白銀の初戦の相手としては適役と言えるだろう」
猗窩座のその言葉が合図であったかのように動いたのは、白銀と呼ばれた学生服姿の少年だった。
「白銀、おまえもあのお方に選ばれた鬼ならば、この程度の相手には勝ってみせろ──強くなりたいのだろう?」
「言われなくてもわかってる」
「言われなくてもわかってる」
猗窩座の言葉にぶっきらぼうに返す白銀。
鬼舞辻無惨がこの島で新たに生み出した鬼である彼は、手に入れた力に満足する一方、飢えも感じていた。
肉が足りない。血が足りない──そして、経験が足りない。
鬼になる以前は物騒事から縁の遠い生活をしていた白銀は、人と戦い、人を殺し、人を喰らうために必要な経験が欠如していた。
足りて、いない──ならば、得るしかないだろう。
奪うしかないだろう。
目の前の少年を己がより強くなるための糧とすべく、白銀は牙を剥く。
剃刀の刃のような鋭い殺気を感じた善吉は、咄嗟にサバットの構えを取った。
白銀は武蔵が鬼と判断した猗窩座と同類だ。つまり、三段論法的に雅とニアリーイコールで結ばれる化物ということになる。
その事実に善吉は、ゴクリと喉を鳴らした──しかし。
鬼舞辻無惨がこの島で新たに生み出した鬼である彼は、手に入れた力に満足する一方、飢えも感じていた。
肉が足りない。血が足りない──そして、経験が足りない。
鬼になる以前は物騒事から縁の遠い生活をしていた白銀は、人と戦い、人を殺し、人を喰らうために必要な経験が欠如していた。
足りて、いない──ならば、得るしかないだろう。
奪うしかないだろう。
目の前の少年を己がより強くなるための糧とすべく、白銀は牙を剥く。
剃刀の刃のような鋭い殺気を感じた善吉は、咄嗟にサバットの構えを取った。
白銀は武蔵が鬼と判断した猗窩座と同類だ。つまり、三段論法的に雅とニアリーイコールで結ばれる化物ということになる。
その事実に善吉は、ゴクリと喉を鳴らした──しかし。
「カッ! 俺をチュートリアルの雑魚キャラみてえに扱ってくれるとは、随分舐めてくれるじゃねえか。そんな様じゃ、痛い目を見ることになるぜ?」
白銀は雅より遥かに弱い。
この世ならざる彼岸が人の形をしていたかのような、あの超越者と比べれば、白銀が格段に劣っていることは明白だった。
その事実を認識すれば、いくらか落ち着きを得られようというものである──皮肉にも、雅との出会いがあったおかげで、善吉の心は幾分か平静に寄ることが出来ていた。
この世ならざる彼岸が人の形をしていたかのような、あの超越者と比べれば、白銀が格段に劣っていることは明白だった。
その事実を認識すれば、いくらか落ち着きを得られようというものである──皮肉にも、雅との出会いがあったおかげで、善吉の心は幾分か平静に寄ることが出来ていた。
「宮本さん! こいつの相手は俺に任せろ! あんたはその入れ墨野郎との戦いに集中してくれ!」
ふたりで永井の仇を取ろうぜ!──その言葉を最後に、ふたりの人間と二体の鬼はそれぞれに戦いを始めた。
人と鬼の戦いが、始まった。
人と鬼の戦いが、始まった。
X X X X X
「やあ、人吉くん。久しぶり」
「調子はどうだい?」
「って、調子がよかったら、ここに来るわけないか」
「うふふ」
「ああ、そうそう。ついさっき球磨川くんにも会えそうだったんだけど、そっちには間に合えなかったんだよね」
「開幕早々自爆で死にかけた彼を笑ってやりたかったのに、残念だ」
「この島のセキュリティがもう少し緩ければ、間に合ったんだろうけど──どうやら、思っていた以上に強固な守りをしているらしい」
「封印されているとはいえ、僕でも外からの干渉が難しいくらいにね」
「手間と時間をかけても、こうして姿を現すだけで精一杯なんだよ」
「現界するだけで限界だ」
「やれやれ、この僕にここまでの苦労を強いるなんて」
「BBちゃんとやらは、中々侮れないぜ」
「ここが彼女の支配するフィールドだから、有利を取られているのかな」
「あるいは、7932兆1354億4152万3222個の異常と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷、合わせて1京2858兆519億6763万3865個のスキルを持つ僕でも知らない技術や知識でも使っているのかな?」
「己の無知と無力を恥じ入るばかりだよ」
「おや、どうかしたかい? 何か気になることでもあるのかな?」
「……教室が以前見たものと変わっている気がする?」
「ああ、別に大した理由はないよ」
「きみと会うために──BBちゃんが支配する場に潜り込むために、この僕も少しばかりの小細工を弄する必要があった」
「彼女の記録に深く刻まれた風景にカモフラージュする必要があった」
「それだけさ」
「ところで人吉くん。バトルロワイアルに参加しているんだって?」
「今時デスゲーム物とか、古すぎて一周回って新しいくらい粗製乱造されたジャンルなのに、よくやるねえ」
「どうせなら、ついでに流行りの異世界転生や転移でもしてみてくれよ──いや、きみが今体験しているのも、一種の異世界転移みたいなものなのか」
「ともあれ、バトロワが始まって早々、吸血鬼と出会うどころか、続けざまに鬼と遭遇するなんて、君も運がないね」
「よっぽど鬼に縁があるらしい」
「まあ、そんな不運が続いたことで、きみは死んで、僕はこうしてきみの前に参上できたわけだし、そこは彼に感謝しないといけないかな」
「白銀御行くんに心からの謝意を表明させてもらうぜ」
「……ん? 何を驚いているんだい?」
「僕と会っているということは、つまり『そういうこと』に決まっているじゃないか」
「君は負けたんだよ。白銀御行に」
「完膚なきまでに敗北したんだ」
「調子はどうだい?」
「って、調子がよかったら、ここに来るわけないか」
「うふふ」
「ああ、そうそう。ついさっき球磨川くんにも会えそうだったんだけど、そっちには間に合えなかったんだよね」
「開幕早々自爆で死にかけた彼を笑ってやりたかったのに、残念だ」
「この島のセキュリティがもう少し緩ければ、間に合ったんだろうけど──どうやら、思っていた以上に強固な守りをしているらしい」
「封印されているとはいえ、僕でも外からの干渉が難しいくらいにね」
「手間と時間をかけても、こうして姿を現すだけで精一杯なんだよ」
「現界するだけで限界だ」
「やれやれ、この僕にここまでの苦労を強いるなんて」
「BBちゃんとやらは、中々侮れないぜ」
「ここが彼女の支配するフィールドだから、有利を取られているのかな」
「あるいは、7932兆1354億4152万3222個の異常と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷、合わせて1京2858兆519億6763万3865個のスキルを持つ僕でも知らない技術や知識でも使っているのかな?」
「己の無知と無力を恥じ入るばかりだよ」
「おや、どうかしたかい? 何か気になることでもあるのかな?」
「……教室が以前見たものと変わっている気がする?」
「ああ、別に大した理由はないよ」
「きみと会うために──BBちゃんが支配する場に潜り込むために、この僕も少しばかりの小細工を弄する必要があった」
「彼女の記録に深く刻まれた風景にカモフラージュする必要があった」
「それだけさ」
「ところで人吉くん。バトルロワイアルに参加しているんだって?」
「今時デスゲーム物とか、古すぎて一周回って新しいくらい粗製乱造されたジャンルなのに、よくやるねえ」
「どうせなら、ついでに流行りの異世界転生や転移でもしてみてくれよ──いや、きみが今体験しているのも、一種の異世界転移みたいなものなのか」
「ともあれ、バトロワが始まって早々、吸血鬼と出会うどころか、続けざまに鬼と遭遇するなんて、君も運がないね」
「よっぽど鬼に縁があるらしい」
「まあ、そんな不運が続いたことで、きみは死んで、僕はこうしてきみの前に参上できたわけだし、そこは彼に感謝しないといけないかな」
「白銀御行くんに心からの謝意を表明させてもらうぜ」
「……ん? 何を驚いているんだい?」
「僕と会っているということは、つまり『そういうこと』に決まっているじゃないか」
「君は負けたんだよ。白銀御行に」
「完膚なきまでに敗北したんだ」
X X X X X
「ふあ~」
間延びした欠伸が鳴ったのは、武蔵たちが戦っている所から僅かに離れた位置に立っている木、その上の方からだった。
高く伸びた幹から思い思いの方向へと生えている枝──その内の一本の上で横になっている者がいる。身体が少しでもずれれば、そのまま真っ逆さまに落ちかねないというのに、まるで広々とした野原で寝そべっているかのような、余裕のある態度だ。ずいぶん器用な寝方である。
その者の名は波裸羅。バトルロワイアルの参加者としてこの島に招かれた現人鬼だ。
その姿の、何と美しいことだろう。余人が木の上に居る波裸羅を目にすれば、既に時刻は昼間となり、太陽が空に座していたのかと錯覚してしまうに違いない。それくらい波裸羅のかんばせと肉体が放つ美の輝きは眩しかった。
欠伸を終えた波裸羅は、退屈そうな面持ちで目を落とす。その視線の先には、つい先程開かれたばかりの、人と鬼の戦いの場があった。
猗窩座の拳と刃を交わせている武蔵──そして、白銀御行に惨敗し、血まみれで横たわっている人吉善吉の姿が目に映る。
高く伸びた幹から思い思いの方向へと生えている枝──その内の一本の上で横になっている者がいる。身体が少しでもずれれば、そのまま真っ逆さまに落ちかねないというのに、まるで広々とした野原で寝そべっているかのような、余裕のある態度だ。ずいぶん器用な寝方である。
その者の名は波裸羅。バトルロワイアルの参加者としてこの島に招かれた現人鬼だ。
その姿の、何と美しいことだろう。余人が木の上に居る波裸羅を目にすれば、既に時刻は昼間となり、太陽が空に座していたのかと錯覚してしまうに違いない。それくらい波裸羅のかんばせと肉体が放つ美の輝きは眩しかった。
欠伸を終えた波裸羅は、退屈そうな面持ちで目を落とす。その視線の先には、つい先程開かれたばかりの、人と鬼の戦いの場があった。
猗窩座の拳と刃を交わせている武蔵──そして、白銀御行に惨敗し、血まみれで横たわっている人吉善吉の姿が目に映る。
「ふん、つまらぬな」
人吉善吉が見せた、白銀御行との戦いでの敗北は、人の身では鬼に敵わないという、熟んだ果実が枝から離れて地に落ちること以上に当然の摂理に沿っているだけだった。
『研究所』から出てきたところで南方から響いた罵声を聞き、興味を持ってやって来た波裸羅であるが、そこで見せられたのがこんな先の読める戦いというのは、ひどく興ざめである。
ならば武蔵と猗窩座の戦いは違うのかというと、そうでもない。最初のうちは互角の戦いを演じていたが、アレではそのうち軍配が上がるのは猗窩座の方だろう。
武蔵の握る武器は悪すぎる。
刃が欠けているというのもあるが、それ以上に本数が拙い。
あの刀が二本で一対、つまり二刀流で扱う用途を念頭に置いて打たれたものであるというのは、初見の波裸羅の目でも明らかだ。武蔵の腰に提げられていながら鞘から抜かれていない刀があることから察するに、おそらく二刀のうちの片方は何らかの原因で使用不能になっており、そのため仕方なく一本だけを振るっているのだろう。
二刀流用に打たれた刀を一本だけ使えば、その戦いに無理が生じるのは当たり前である。
それに武蔵の動きに疲労の色が窺える。ここに来るまでに何度か戦いを経験していたのだろうか。これも拙い。
『研究所』から出てきたところで南方から響いた罵声を聞き、興味を持ってやって来た波裸羅であるが、そこで見せられたのがこんな先の読める戦いというのは、ひどく興ざめである。
ならば武蔵と猗窩座の戦いは違うのかというと、そうでもない。最初のうちは互角の戦いを演じていたが、アレではそのうち軍配が上がるのは猗窩座の方だろう。
武蔵の握る武器は悪すぎる。
刃が欠けているというのもあるが、それ以上に本数が拙い。
あの刀が二本で一対、つまり二刀流で扱う用途を念頭に置いて打たれたものであるというのは、初見の波裸羅の目でも明らかだ。武蔵の腰に提げられていながら鞘から抜かれていない刀があることから察するに、おそらく二刀のうちの片方は何らかの原因で使用不能になっており、そのため仕方なく一本だけを振るっているのだろう。
二刀流用に打たれた刀を一本だけ使えば、その戦いに無理が生じるのは当たり前である。
それに武蔵の動きに疲労の色が窺える。ここに来るまでに何度か戦いを経験していたのだろうか。これも拙い。
「実につまらぬのう」
展開が読める戦いをこれ以上見る必要もあるまい。此処に長居するのは無駄だな──そう考え、起き上がろうとした波裸羅であったが、『あるもの』を目にした瞬間、動作を止めることになる。
「ほう、あれは……!」
この場に現れて初めての『予想外』を目にし、歪めた唇に舌をぺろりと這わせる波裸羅。
現人鬼が目にしたものとは──
現人鬼が目にしたものとは──
X X X X X
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X X X X X
【永井圭@亜人 復活】
──ああ、クソッ。人吉なんかに構うんじゃなかった。あんな奴はスルーして、さっさとこの場から離れておくべきだったんだ。
永井圭は一度死に、そして生き返っていた。
予想外の奇跡みたいな所業だが、彼の支給品に死者の蘇生を可能とするアイテムがあって、それを使ったわけではないし、何らかの回復系の異能に頼って甦ったわけでもない。
ただ単に、圭は死ぬことのない生物である亜人であり、その性質はこのバトルロワイアルでも十全に発揮された。
それだけである。
予想外の奇跡みたいな所業だが、彼の支給品に死者の蘇生を可能とするアイテムがあって、それを使ったわけではないし、何らかの回復系の異能に頼って甦ったわけでもない。
ただ単に、圭は死ぬことのない生物である亜人であり、その性質はこのバトルロワイアルでも十全に発揮された。
それだけである。
──どうやら、亜人の性質に制限がかけられているかもしれないという読みは、外れたようだな。
圭は思考する。
というより、思考しかしていない。
彼は民家の壁に背中を預ける姿勢のまま、身動きひとつ取っていなかった。
猗窩座の攻撃で体の運動機能に障害が残ったわけではない。生き返ればそれまで負っていた傷が全て綺麗さっぱり回復する亜人の体に、そのような不具合は起こり得ない。なんなら、今から勢いよく立ち上がって全力疾走出来るくらいには五体満足の健康体である──圭は死んだふりをしているのだ。
それは何故か?
不死身の肉体を持つものが周りからどんな悲惨な扱いを受けるのかを、圭はよく知っているからだ。
こんな緊迫した環境ならば特に、というものである。
化物扱いの迫害を受けるかもしれない、という考えは決して過度な妄想ではない。
圭が不死身、つまり鬼と似たような特性を備えているということを知った武蔵が、一時は共同戦線を結んだことのある相手に刃を向けることがないとは言い切れない。圭は彼と出会ったばかりであり、十分な信頼関係を築けていないのだから。
ならば、先ほどの武蔵の台詞を聞くところによれば死なない肉体を持っているらしい猗窩座達が、同じく不死身である圭を同胞として迎え入れてくれるのかというのかというと、それは都合の良すぎる考えというものである。
むしろ、ここで圭が動き、蘇ったことを明らかにすれば、武蔵と猗窩座が同時に襲いかかってくる、という最悪の事態がありえてしまうくらいだ。
だから、圭は不用意に動けずにいた。
というより、思考しかしていない。
彼は民家の壁に背中を預ける姿勢のまま、身動きひとつ取っていなかった。
猗窩座の攻撃で体の運動機能に障害が残ったわけではない。生き返ればそれまで負っていた傷が全て綺麗さっぱり回復する亜人の体に、そのような不具合は起こり得ない。なんなら、今から勢いよく立ち上がって全力疾走出来るくらいには五体満足の健康体である──圭は死んだふりをしているのだ。
それは何故か?
不死身の肉体を持つものが周りからどんな悲惨な扱いを受けるのかを、圭はよく知っているからだ。
こんな緊迫した環境ならば特に、というものである。
化物扱いの迫害を受けるかもしれない、という考えは決して過度な妄想ではない。
圭が不死身、つまり鬼と似たような特性を備えているということを知った武蔵が、一時は共同戦線を結んだことのある相手に刃を向けることがないとは言い切れない。圭は彼と出会ったばかりであり、十分な信頼関係を築けていないのだから。
ならば、先ほどの武蔵の台詞を聞くところによれば死なない肉体を持っているらしい猗窩座達が、同じく不死身である圭を同胞として迎え入れてくれるのかというのかというと、それは都合の良すぎる考えというものである。
むしろ、ここで圭が動き、蘇ったことを明らかにすれば、武蔵と猗窩座が同時に襲いかかってくる、という最悪の事態がありえてしまうくらいだ。
だから、圭は不用意に動けずにいた。
──…………。
圭は考える。
善吉が白銀に倒され、武蔵と猗窩座の戦いが続いてる現在、ここから先の展開は大きく分けて、ふたつあるだろう。
ひとつは、猗窩座が勝利する展開だ。
この場合はどうなるか。
武蔵と戦っている最中はともかく、倒した後になれば、猗窩座はまず間違いなく圭の復活に気がつくだろう。そこで彼がどうするかなど、考えたくもない。亜人の性質を有したままである以上、蹴られようが殴られようが死ぬことはないだろうが、それでもあんな痛みを味わうのは二度とごめんだ。
先ほど考えた、同じ不死身として仲間に迎え入れられるかもしれないという甘い考えが実現する可能性が万が一にあったとしても、出会ったばかりの他人に蹴りを放つような人格破綻者(圭が言えたことではないが)と付き合ったところで、『佐藤を倒し、このイカれたゲームから脱出する』という目的に近づけるとは、到底思えない。
ではもうひとつ、圭が考えるこれから先の展開は何かというと、それは宮本武蔵が勝利する展開だ。
しかし、現状この展開に至れる可能性はかなり低い。
絶無といってもいいぐらいだ。
どうやら、武蔵は今のところ猗窩座と対等な戦いが出来ているようだが、徐々にその均整が崩れてきているのは明白である。
その理由は、先ほどの筋肉野郎との戦いでの疲労があるだろうし、そして何より、二本あった刀の内の一本が折れてしまっているのが大きい。
それに猗窩座は、その動きや態度から、まだ余力を残しているように感じられる。もし彼が本気で戦えば、元から悪い旗色は最悪となるだろう。
高い実力を持ち、その上殺し合いに積極的ではないという理想的なスタンスの武蔵をここで失うのは、圭にとって手痛い損失となる。
善吉が白銀に倒され、武蔵と猗窩座の戦いが続いてる現在、ここから先の展開は大きく分けて、ふたつあるだろう。
ひとつは、猗窩座が勝利する展開だ。
この場合はどうなるか。
武蔵と戦っている最中はともかく、倒した後になれば、猗窩座はまず間違いなく圭の復活に気がつくだろう。そこで彼がどうするかなど、考えたくもない。亜人の性質を有したままである以上、蹴られようが殴られようが死ぬことはないだろうが、それでもあんな痛みを味わうのは二度とごめんだ。
先ほど考えた、同じ不死身として仲間に迎え入れられるかもしれないという甘い考えが実現する可能性が万が一にあったとしても、出会ったばかりの他人に蹴りを放つような人格破綻者(圭が言えたことではないが)と付き合ったところで、『佐藤を倒し、このイカれたゲームから脱出する』という目的に近づけるとは、到底思えない。
ではもうひとつ、圭が考えるこれから先の展開は何かというと、それは宮本武蔵が勝利する展開だ。
しかし、現状この展開に至れる可能性はかなり低い。
絶無といってもいいぐらいだ。
どうやら、武蔵は今のところ猗窩座と対等な戦いが出来ているようだが、徐々にその均整が崩れてきているのは明白である。
その理由は、先ほどの筋肉野郎との戦いでの疲労があるだろうし、そして何より、二本あった刀の内の一本が折れてしまっているのが大きい。
それに猗窩座は、その動きや態度から、まだ余力を残しているように感じられる。もし彼が本気で戦えば、元から悪い旗色は最悪となるだろう。
高い実力を持ち、その上殺し合いに積極的ではないという理想的なスタンスの武蔵をここで失うのは、圭にとって手痛い損失となる。
──鬼が勝つか、武蔵が勝つか。ここで僕が出来る選択で、マシな方は……。
武蔵が勝つ方だ。
しかし、その場合、ただ勝たせるだけでは駄目だ。
圭が手を貸すことで勝利に導き、恩を売るのだ。はっきりと。
そうでもしなければ、たとえ武蔵が勝利したとしても、不死身だということがバレた圭に待っている未来は、悲惨なものとなるだろう。
『永井圭の助けが無ければ勝てなかった』。
『永井圭は不死身だが、鬼のような危険存在とは違う』。
武蔵にそう思ってもらわなくてはいけないのだ。
では、どのようにして武蔵の手助けをするか。
立ち上がってふたりの元まで駆け寄り、加勢する? ──いや、近接戦闘の達人でもない圭が加わったところで邪魔にしかなるまい。佐藤対策班で多少の訓練を積んだが、あの戦いに割って入れるほどに習熟した技能は有していないのだ。せめて手元に銃があれば、遠距離からの援護射撃ができたのだが……、こうなると石上から銃を回収できなかったのが本当に悔やまれる。
では、IBMを飛ばすか? ──いや、筋肉野郎との戦いで使わなかったのと同じ理由で、あれは出せない。圭の操作を受け付けないアレが、武蔵に爪を立てるなんてことになれば、目も当てられない。
……と、そこで圭は気が付いた。
しかし、その場合、ただ勝たせるだけでは駄目だ。
圭が手を貸すことで勝利に導き、恩を売るのだ。はっきりと。
そうでもしなければ、たとえ武蔵が勝利したとしても、不死身だということがバレた圭に待っている未来は、悲惨なものとなるだろう。
『永井圭の助けが無ければ勝てなかった』。
『永井圭は不死身だが、鬼のような危険存在とは違う』。
武蔵にそう思ってもらわなくてはいけないのだ。
では、どのようにして武蔵の手助けをするか。
立ち上がってふたりの元まで駆け寄り、加勢する? ──いや、近接戦闘の達人でもない圭が加わったところで邪魔にしかなるまい。佐藤対策班で多少の訓練を積んだが、あの戦いに割って入れるほどに習熟した技能は有していないのだ。せめて手元に銃があれば、遠距離からの援護射撃ができたのだが……、こうなると石上から銃を回収できなかったのが本当に悔やまれる。
では、IBMを飛ばすか? ──いや、筋肉野郎との戦いで使わなかったのと同じ理由で、あれは出せない。圭の操作を受け付けないアレが、武蔵に爪を立てるなんてことになれば、目も当てられない。
……と、そこで圭は気が付いた。
──僕のデイバックに収納されている物の中に、刀が一本あるじゃないか。
一本の刀──支給品を確認していた際に、そのいかにも人殺しの武器という感じの見た目から、石上がビビっていたのを思い出す。
圭にも石上にも刀を十全に振るう力なんてないので、今までそれを使って戦うどころか鞘から抜いたこともないのだが──あれを武蔵に渡し、彼の手持ちを増やせば、状況を変える一助になるのではないのだろうか。
なにせあの武蔵だ。
二刀流の代名詞だ。
一本で戦うよりも二本で戦う方が向いているはずである。
そう考えてからは行動が早かった。
己のデイバックを開き、手を突っ込んだ圭は、すぐに目当ての刀を掴んだ。
そして、
圭にも石上にも刀を十全に振るう力なんてないので、今までそれを使って戦うどころか鞘から抜いたこともないのだが──あれを武蔵に渡し、彼の手持ちを増やせば、状況を変える一助になるのではないのだろうか。
なにせあの武蔵だ。
二刀流の代名詞だ。
一本で戦うよりも二本で戦う方が向いているはずである。
そう考えてからは行動が早かった。
己のデイバックを開き、手を突っ込んだ圭は、すぐに目当ての刀を掴んだ。
そして、
X X X X X
刃が煌めき、拳が閃く。
刃が鳴り、拳が唸る。
刃が走り、拳が駆ける。
刃が鳴り、拳が唸る。
刃が走り、拳が駆ける。
──日が昇るまで、あと半刻もないか。
白みを帯びつつある東の空を見ながら、猗窩座は首目掛けて迫りくる刀を軽くしゃがむことで避け、武蔵の腹に拳を浴びせた。たったそれだけで、巨岩を素材にして作り上げた彫像のように重々しい武蔵の体躯は、後方に退いてゆく。
武蔵の疲労の色は強い。傷を負っていないわけでもない。あまり長い戦闘は見込めないだろう。しかし一方猗窩座はどうかと言うと、傷一つない健康体であった。呼吸だって平常だし、そこに疲れている様子は見られない。武蔵と猗窩座、どちらが優勢かなど、明らかであった。
猗窩座は動きを止め、口を開いた。
武蔵の疲労の色は強い。傷を負っていないわけでもない。あまり長い戦闘は見込めないだろう。しかし一方猗窩座はどうかと言うと、傷一つない健康体であった。呼吸だって平常だし、そこに疲れている様子は見られない。武蔵と猗窩座、どちらが優勢かなど、明らかであった。
猗窩座は動きを止め、口を開いた。
「残念だな、ムサシ」
憐憫の意を込めた様子で、猗窩座は言う。
「お前の剣技は素晴らしかった。特に、鬼に迫らんばかりの膂力は瞠目を禁じ得ない。そんな力を持つお前が鬼になっていれば……と思うと、俺は悲しい気持ちになってしまうよ。お前がどれだけ素晴らしい力を俺に向けようと、どれほど素晴らしい技で俺を斬ろうと、その傷はすぐに治る。鬼にとって、そんな傷はかすり傷にもならないんだ。おまえは俺に勝てない──いや」
人間では誰も、鬼に勝てない──と。
猗窩座が言った、その時だった。
猗窩座が言った、その時だった。
「……誰にも勝てぬと申したか」
全身が疲労と傷に苛まれているとは思えぬほど力強い声で、武蔵が反応を示したのは。
猗窩座が口にした言葉は、武蔵にとって聞き捨てならぬものだった。
猗窩座が口にした言葉は、武蔵にとって聞き捨てならぬものだった。
「ならば武蔵、勝ってみせる!」
意気軒昂な声で叫びながら武蔵は剣を構え、猗窩座を睨みつけた。
虎の爪のように鋭い闘気が、猗窩座の感覚を刺激する。
ここまできて尚、これほどの闘気を見せるのか。
猗窩座は驚愕すると同時に、喜色に口元を歪めた。
虎の爪のように鋭い闘気が、猗窩座の感覚を刺激する。
ここまできて尚、これほどの闘気を見せるのか。
猗窩座は驚愕すると同時に、喜色に口元を歪めた。
「くく、はははっ! これ程の力量差を見せられながら、まだ刀を握るかムサシ! その気力、その精神力、その闘気! 全てが素晴らしい! ならば俺も応えよう! 全力を持ってお前を倒す!」
術式展開──全力の技を出すべく、地面を踏みしめ、姿勢を作り、拳を握る──そして。
そして、ふたりの間の地面に、鞘に収まった刀が飛んできた。
そして、ふたりの間の地面に、鞘に収まった刀が飛んできた。
「武蔵さん!」
刀と共に、声が聞こえた。聞こえるはずのない声だった。
声がした方向に、その場にいた全員の意識が向かう、そこにいたのは死んだはずの永井圭だった。
声がした方向に、その場にいた全員の意識が向かう、そこにいたのは死んだはずの永井圭だった。
「莫迦な」
驚きの余りそう呟いたのは武蔵だった。猗窩座も同感である。永井圭は先ほどの一撃で死んだはずだ。
闘気を感じ取る猗窩座の羅針は、圭がいる方角からも微弱な闘気を感じてはいたが、それはきっと先刻の大声に引き寄せられた新たな参加者だと思っていた。何せ、死人が闘気を放つはずがないのだから。この場に現れた新参者なら、余計な手出しをしてこない限り、武蔵を片付けた後で処理すればいいと判断するのは当然である。
しかし、永井圭は生きている。腹に致命の一撃を受けたとは思えないほどに、大声で叫んでいる。
これはいったい、どういうことだ?
闘気を感じ取る猗窩座の羅針は、圭がいる方角からも微弱な闘気を感じてはいたが、それはきっと先刻の大声に引き寄せられた新たな参加者だと思っていた。何せ、死人が闘気を放つはずがないのだから。この場に現れた新参者なら、余計な手出しをしてこない限り、武蔵を片付けた後で処理すればいいと判断するのは当然である。
しかし、永井圭は生きている。腹に致命の一撃を受けたとは思えないほどに、大声で叫んでいる。
これはいったい、どういうことだ?
「今は説明している暇がありません、その刀を取って戦ってください!」
死人の復活という奇なる怪異に疑問を抱かぬものが何処に居ようか。
しかし武蔵は、即座に刀を拾い上げた。知恵を捨てて戦う剣士は、疑問を抱かない。
圭が放った刀は、確かな力強さを感じさせるものだった。
猗窩座曰く鬼を斬るための刀と、この刀。
二本が合わされば。
二天一流の形を成すことくらいは出来るだろう。
しかし武蔵は、即座に刀を拾い上げた。知恵を捨てて戦う剣士は、疑問を抱かない。
圭が放った刀は、確かな力強さを感じさせるものだった。
猗窩座曰く鬼を斬るための刀と、この刀。
二本が合わされば。
二天一流の形を成すことくらいは出来るだろう。
「永井、感謝するぞ!」
謝意の言葉と共に、武蔵は鞘から刀を引き抜いた。
X X X X X
「きみの敗因を挙げるなら、鬼の力に対し、白銀御行の戦闘能力が著しく低かったというのが大きいだろうね」
「それなら普通は勝てるんじゃないかって?」
「そうじゃないんだよな」
「逆だよ──強すぎる力に技術が伴ってない奴ほど、勝ちにくい相手はいないんだぜ」
「白銀御行は鬼になったばかりの元人間だ」
「戦闘経験なんて、あるはずもない」
「そんな奴が急に戦ったところで、マトモに動けるわけがないだろう」
「なにせ、戦闘経験がないということは、どう動いて戦えばいいのかという基礎的な知識が皆無ということだからね」
「結果、白銀御行の動きはしっちゃかめっちゃかで、でたらめなものとなり、きみはそれに翻弄された」
「さぞかし苦戦したことだろう」
「見るだけで嫌悪感を刺激されそうな棘皮動物じみた動きから繰り出される、当たれば大ダメージの攻撃って、戦う相手からすると怖いよね」
「一瞬後にどんな動きをするのか、予測もつかないだろうし」
「普段から鍛えていて、相手の戦闘スタイルや流れを読むことに慣れている人吉くんなら、なおさら困惑したはずだ」
「と、まあ感想はこのくらいにしようか」
「あーだこーだ言ったところで、負けた今となっては意味がないだろうし」
「敗者のきみは、敗者らしく死者スレで雑談でもしてくるといい──と言いたいところなんだけどね」
「喜ばしいことに、きみはまだ死んでいない」
「さっきは言葉の綾で誤解を招く言い方をしたけれども、まだ生きているんだよ」
「とはいえ、(僕としては言い難いことだが)安心はできない」
「死んでいないとはいえ、死にかけではあるからね」
「ゲームで喩えるなら、HPゲージが赤色になるくらいには、限り限りの状態で存命中だ」
「あと少しでも攻撃を受ければ、それだけで死ぬし、そうでなくとも数分も放置されれば死ぬだろう」
「だけど、そのくらいで動けなくなるほど、きみはヤワじゃないだろう?」
「そんなことは僕がよく知ってる」
「どんな無理難題を与えられようと、強がりを言って、みっともなく立ち上がるのが、人吉善吉という男だ」
「違うかい?」
「死にかけの状態である今でも、意識を取り戻して立ち上がることくらい出来るだろう」
「そのガッツで、闘争するか逃走するかは、きみ次第なんだけどね」
「どちらの道を選んだとしても、きみが生き残ることを、僕は切に願っているよ」
「それじゃあ頑張ってね、人吉君」
「勿論僕も頑張るつもりさ──そちらにより干渉できるよう尽力する」
「だけど、あまり期待しないでくれよ」
「なにせ、さっきも言った通り、このバトルロワイアルのフィールドのセキュリティはかなりのものだ」
「僕でも『時間をかけさえすればきみたちを救出できる』なんて無責任なことを断言できないくらいにはね」
「正直、この教室での対面だけでも、あとどれくらいやれるのか分からな
「それなら普通は勝てるんじゃないかって?」
「そうじゃないんだよな」
「逆だよ──強すぎる力に技術が伴ってない奴ほど、勝ちにくい相手はいないんだぜ」
「白銀御行は鬼になったばかりの元人間だ」
「戦闘経験なんて、あるはずもない」
「そんな奴が急に戦ったところで、マトモに動けるわけがないだろう」
「なにせ、戦闘経験がないということは、どう動いて戦えばいいのかという基礎的な知識が皆無ということだからね」
「結果、白銀御行の動きはしっちゃかめっちゃかで、でたらめなものとなり、きみはそれに翻弄された」
「さぞかし苦戦したことだろう」
「見るだけで嫌悪感を刺激されそうな棘皮動物じみた動きから繰り出される、当たれば大ダメージの攻撃って、戦う相手からすると怖いよね」
「一瞬後にどんな動きをするのか、予測もつかないだろうし」
「普段から鍛えていて、相手の戦闘スタイルや流れを読むことに慣れている人吉くんなら、なおさら困惑したはずだ」
「と、まあ感想はこのくらいにしようか」
「あーだこーだ言ったところで、負けた今となっては意味がないだろうし」
「敗者のきみは、敗者らしく死者スレで雑談でもしてくるといい──と言いたいところなんだけどね」
「喜ばしいことに、きみはまだ死んでいない」
「さっきは言葉の綾で誤解を招く言い方をしたけれども、まだ生きているんだよ」
「とはいえ、(僕としては言い難いことだが)安心はできない」
「死んでいないとはいえ、死にかけではあるからね」
「ゲームで喩えるなら、HPゲージが赤色になるくらいには、限り限りの状態で存命中だ」
「あと少しでも攻撃を受ければ、それだけで死ぬし、そうでなくとも数分も放置されれば死ぬだろう」
「だけど、そのくらいで動けなくなるほど、きみはヤワじゃないだろう?」
「そんなことは僕がよく知ってる」
「どんな無理難題を与えられようと、強がりを言って、みっともなく立ち上がるのが、人吉善吉という男だ」
「違うかい?」
「死にかけの状態である今でも、意識を取り戻して立ち上がることくらい出来るだろう」
「そのガッツで、闘争するか逃走するかは、きみ次第なんだけどね」
「どちらの道を選んだとしても、きみが生き残ることを、僕は切に願っているよ」
「それじゃあ頑張ってね、人吉君」
「勿論僕も頑張るつもりさ──そちらにより干渉できるよう尽力する」
「だけど、あまり期待しないでくれよ」
「なにせ、さっきも言った通り、このバトルロワイアルのフィールドのセキュリティはかなりのものだ」
「僕でも『時間をかけさえすればきみたちを救出できる』なんて無責任なことを断言できないくらいにはね」
「正直、この教室での対面だけでも、あとどれくらいやれるのか分からな
X X X X X
意識を取り戻した人吉善吉を迎えたのは、全身を駆け巡る激痛の疾走だった。
白銀との戦いで負った傷によるものである。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
こんなに苦しいのなら、意識を取り戻すんじゃなかった。今からでも手放そうか──常人なら、そんな泣き言を思ってしまうほどの痛み。
しかし、善吉は激痛に蝕まれてなお、歯を食いしばりながらゆっくりと立ち上がった。
というか、どうしてこんな死体同然の状態で起きることが出来たのだろうか。何らかの意思に突き動かされたような気がするが……、分からない。何か夢を見ていたような気もするが、その内容も起きた今となっては不鮮明だ。──まあ大方、生存本能や無意識が作った幻覚のようなものだったのだろう。
そんなことよりも、今は目の前の問題をどうにかする方が先だ。
視線を前に向けると、白銀の姿が見えた。とどめを刺す為にこちらに近づいていたのだろうか。自分はどれくらいの間、気を失っていたのだろう、と善吉は考えた。
白銀との戦いで負った傷によるものである。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
こんなに苦しいのなら、意識を取り戻すんじゃなかった。今からでも手放そうか──常人なら、そんな泣き言を思ってしまうほどの痛み。
しかし、善吉は激痛に蝕まれてなお、歯を食いしばりながらゆっくりと立ち上がった。
というか、どうしてこんな死体同然の状態で起きることが出来たのだろうか。何らかの意思に突き動かされたような気がするが……、分からない。何か夢を見ていたような気もするが、その内容も起きた今となっては不鮮明だ。──まあ大方、生存本能や無意識が作った幻覚のようなものだったのだろう。
そんなことよりも、今は目の前の問題をどうにかする方が先だ。
視線を前に向けると、白銀の姿が見えた。とどめを刺す為にこちらに近づいていたのだろうか。自分はどれくらいの間、気を失っていたのだろう、と善吉は考えた。
「気が付いたようだな。だが無駄だ。どうせお前は、すぐに死ぬんだからな」
まるで氷のように冷たい口調で、白銀は言った。
「お前を喰らって俺はもっと強くなる。お前だけじゃない、この島にいる他の人間も喰らってやるんだ」
「……一つ疑問なんだけどよ」
「……一つ疑問なんだけどよ」
およそ正気ではない言葉を吐く白銀に、善吉は疑問を投げかける。
「お前がそこまでして強くなりたい理由ってなんだ?」
聞いておいてなんだが、善吉はこの質問に対して白銀が返す答えに大体の見当をつけていた。というより、既に知っていた。
なにせ、白銀の目的は、おそらく善吉の目的と同じなんだから。
だから、これは質問というより確認だ。
白銀がこの場に現れ、対峙し、戦っていた最中も、そして死にかけの状態から復活した今まで、ずっと抱いていた、まるで鏡を見ているかのような共感──その正体を確定させる。その為だけの確認だ。
その共感は白銀自身も感じていたのだろうか。隠す素振りもなく、口を開いた。
斯くして、彼が返した答えは、
なにせ、白銀の目的は、おそらく善吉の目的と同じなんだから。
だから、これは質問というより確認だ。
白銀がこの場に現れ、対峙し、戦っていた最中も、そして死にかけの状態から復活した今まで、ずっと抱いていた、まるで鏡を見ているかのような共感──その正体を確定させる。その為だけの確認だ。
その共感は白銀自身も感じていたのだろうか。隠す素振りもなく、口を開いた。
斯くして、彼が返した答えは、
「認められる俺になるためだ」
だった。
「認められる俺になる。仮面で偽る必要なんてなんてなく、『彼女』の隣に立つのに相応しいと認められる俺に──その為に俺は強くならなきゃいけなんだ。もっと、もっともっと」
「……ああ、やっぱりそうか」
「……ああ、やっぱりそうか」
善吉の中で、何かが腑に落ちた──そして、その何かを口から流すべく、彼は続けて言った。
「おまえは俺なんだよ」
血が足りなくなった分、頭が冷静になり、ようやくわかった。
鬼という色眼鏡を外して見た白銀は、普通のくせに身の丈に合わない場所を目指して努力して、好きな子に認められるために恰好つけようとする──思春期を拗らせただけの男子だった。
鬼という色眼鏡を外して見た白銀は、普通のくせに身の丈に合わない場所を目指して努力して、好きな子に認められるために恰好つけようとする──思春期を拗らせただけの男子だった。
「だから、俺は負けねえ。負けるわけにはいかねえ。自分にすら勝てなきゃ、めだかちゃんに勝つなんて、夢のまた夢だからな」
ニヤリと笑い、善吉は臨戦態勢を取った。準備は万端である。
「俺がお前だと?」
対して、白銀の顔は嫌悪感に塗れていた。
「ふざけるな! お前のような普通の人間と、鬼の力を手に入れた俺が、同じなわけがあるか!」
白銀は否定の言葉を吐く。善吉の言葉を拒絶するように、あるいは心のどこかにあった共感を否認するように。
激情と衝動に身を任せて、白銀は牙を剥き、爪を立てて飛びかかった。
対峙する善吉に、恐怖の様子は見られない。侮りも様子もだ。
スキルを使わずとも、自分と同じ男が何を見ているのか抜かりなく把握できている彼に、怖いものも侮るものもなかった。
自分自身に打ち勝つべく、善吉はこちらに向かってくる白銀に立ち向かうのであった。
激情と衝動に身を任せて、白銀は牙を剥き、爪を立てて飛びかかった。
対峙する善吉に、恐怖の様子は見られない。侮りも様子もだ。
スキルを使わずとも、自分と同じ男が何を見ているのか抜かりなく把握できている彼に、怖いものも侮るものもなかった。
自分自身に打ち勝つべく、善吉はこちらに向かってくる白銀に立ち向かうのであった。
X X X X X
「ふむ、まだ立ち上がるか。やるではないか」
善吉のガッツを称賛する波裸羅。
しかし、そちらにばかり目を向けてもいられない。
波裸羅の興味を大きく引くものは、別の所にあった。
永井圭である。
死にかけの状態で立ち上がった善吉と違い、永井圭は確実に死んでいた。幾人もの死を見てきた現人鬼である波裸羅の目に狂いはない。
だが、圭は復活したのだ! おまけに、傷が綺麗さっぱり完治しているのである! いかなる理屈による奇術か?
しかし、そちらにばかり目を向けてもいられない。
波裸羅の興味を大きく引くものは、別の所にあった。
永井圭である。
死にかけの状態で立ち上がった善吉と違い、永井圭は確実に死んでいた。幾人もの死を見てきた現人鬼である波裸羅の目に狂いはない。
だが、圭は復活したのだ! おまけに、傷が綺麗さっぱり完治しているのである! いかなる理屈による奇術か?
「あの生命力はまるで怨身忍者、いや──」
波裸羅の脳裏に『端麗人』という言葉がよぎる。
永遠の命を持ち、時代を超える者──永井圭が今しがた見せた復活は、波裸羅に桃太郎卿の説明を連想させた。
永遠の命を持ち、時代を超える者──永井圭が今しがた見せた復活は、波裸羅に桃太郎卿の説明を連想させた。
「まさか、な……」
永井圭からは、そのような上位の生物が身に纏って然るべき格(オーラ)というものがまるで感じられない。
しかし、あの世から帰還してみせたのも事実である。
はたして彼は何者なのだろうか。
しかし、あの世から帰還してみせたのも事実である。
はたして彼は何者なのだろうか。
「随分とそそらせるではないか。滾ってきたぞ」
愉快気に呟く波裸羅。その顔は美しく、そして悍ましくもあった。
X X X X X
始まった戦いは一度大きく揺れ動き、そして改めて開始された。
日の出まで、あともう少し。
日の出まで、あともう少し。
【C-4・市街地/1日目・早朝】
【永井圭@亜人】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1.武蔵を勝たせる。
2.自衛隊入間基地に向かう
3:使える武器や人員の確保
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力に制限らしい制限がかけられていないことを知りました。
【永井圭@亜人】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1.武蔵を勝たせる。
2.自衛隊入間基地に向かう
3:使える武器や人員の確保
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力に制限らしい制限がかけられていないことを知りました。
【宮本武蔵@衛府の七忍】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0~3、嘴平伊之助の日輪刀×1、折れた嘴平伊之助の日輪刀×1@鬼滅の刃 、刀@???(どーゆー刀かは後の書き手さんに任せます)
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1:猗窩座を斬る。
2:事情通の者に出会う
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0~3、嘴平伊之助の日輪刀×1、折れた嘴平伊之助の日輪刀×1@鬼滅の刃 、刀@???(どーゆー刀かは後の書き手さんに任せます)
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1:猗窩座を斬る。
2:事情通の者に出会う
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。
【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]:精神的疲労(中)、全身にダメージ(極大) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:白銀を倒す。
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。
[状態]:精神的疲労(中)、全身にダメージ(極大) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:白銀を倒す。
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、可楽の羽団扇@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1.無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼に対して──?
4.ムサシを倒す。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、可楽の羽団扇@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1.無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼に対して──?
4.ムサシを倒す。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。
【白銀御行@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
[状態]:鬼化、軽い飢餓、強い怒り
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:人吉善吉を殺す。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。どれだけの血が与えられたかは後続の書き手さんにお任せします。
[状態]:鬼化、軽い飢餓、強い怒り
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:人吉善吉を殺す。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。どれだけの血が与えられたかは後続の書き手さんにお任せします。
【波裸羅@衛府の七忍】
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、真田の六文銭@衛府の七忍、ナノロボ入り注射器×2@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:彼岸島勢に興味。
3:永井圭に興味。
[備考]
※第十四話以降からの参戦。
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、真田の六文銭@衛府の七忍、ナノロボ入り注射器×2@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:彼岸島勢に興味。
3:永井圭に興味。
[備考]
※第十四話以降からの参戦。
| 前話 | お名前 | 次話 |
| 貴方の隣に立ちたくて | 白銀御行 | あらがうものたち |
| 猗窩座 | ||
| 鬼殺しの戦い | 永井圭 | |
| 宮本武蔵 | ||
| ORDER CHANGE | 人吉善吉 | |
| ロストルームなのか? | 波裸羅 |