最終話

ナビ



「ありがとう、勉強になったわ。ずっと忘れていたことを思い出させてくれて。」
「いえ、こちらこそ、いろいろとありがとうございました。」
「普通ならここでバイバイでも言うんだろうけど……。不思議ね。もう二度と会えないような、いつでも会えるような……。」
「分かりませんよ、今度は五十年後から来たりして。」
「ふふ。……それじゃあ、また十年後に、十年前の自分によくしてあげてね。」
「んー、ちょっと自信ないかな。」
「しっかりしなさいよ。あなたはもうたったひとりの『優子』なんだから。」
「……はい!」
「じゃあ、行くね。」
そして優子さんは夏の空へ消えていった。そういえばタイムマシンってどんなものだったんだろう。……まあいいか、十年待てば分かることだし。

「もう、あの馬鹿教授! 今日は早退するってちゃんと言ったのに!」
信号が青に変わった。さっきより歩調が速くなるのは、目の前の建物が目的地だから。
「……高等学校……期生同窓会。うん、間違いない。ここね。」
とあるホテル。そのホールを借り切ってそれは行われていた。
分厚い扉を開く。学年全体とはいえ皆忙しいだろうにこんなに人が集まるなんて。とりあえずお目当ての集団を探す。
「ユウ! こっちこっち!」
ショートカットの女性が手招きをする。人の波をかき分けて合流。
「ひさしぶり! みんな大きくなったわね。」
「大きくって、同い年じゃない。」
思わず笑いが漏れる。
「まあ、つい最近まで過去に行ってたんじゃあしょうがないかもね。」
「知ってたの?」
「タイムマシンの発明なんて世界的なビッグニュースだったからね。それでピンと来たよ。」
彼女にお酒を注いでもらいながら、今度は別の二人に話しかける。
「そこのバカップルは幸せそうね。」
「バカップルって言うな! 仲がいいだけだもんねー、まゆたん。」
「ねー。」
はあ……、それをバカップルって言うんだよ。四年前の年賀状で結婚報告が来た時には目を疑った。正直、博美がここまで一途な人だとは思ってなかった。
「そういや翔も結婚したんだっけ。」
再びイチャつき始めた二人を横目に、かつての憧れだった男性に話しかける。
「ああ、去年な。あの時の彼女じゃないんだけど。」
「もうそんなこと気にしてないよ。」
「そう? 『十年前』では避けてたみたいだけど。」
「あの頃そのままのあなただったから、ちょっと気まずかっただけ。」
今はこうして普通に話せる。それが嬉しい。
「明は?」
ここで最初に話した彼女に話を振った。
「僕は、彼女と同棲中。」
「そっか。大変かもしれないけど、頑張ってね。」
こくんと力強くうなずく。昔私に恋心を抱いていた彼女。私はそれに応えることはできなかったけど、幸せになってほしい。
「ユウの方はどう?」
「私は……、」
左手を掲げ指輪を見せる。
「本当は再来年の予定だったんだけど、一年早く卒業できることになったから今度の春……ね。」
大学に入ってから知り合った恋人との誓いの証。
「俺よりいい人が見つかってよかったな。」
「なにそれ。肯定しても否定しても感じ悪いじゃない。」
皆で笑いあう。

きっと……、物理学の難しい概念なんか使わなくたって、タイムマシンはこんなところにもある。ふと、そういう考えが頭をよぎった。


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最終更新:2008年09月06日 23:17
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