潮下汐流遍く統べん
- Side:ブライト
初夏を迎えた府中、トゥインクルシリーズの花形、全ウマ娘の夢である日本ダービーの舞台に今、彼女、メジロブライトは立っていた。
「ダービー制覇」
メジロ家の至上命題たる春秋天皇賞の盾の栄誉の獲得に並び、嘗てより悲願とされてきたのがクラシック、ひいてはダービーの制覇だった。
大先輩メジロオーの初挑戦から幾度となく挑み、届かなかったその栄冠にもっとも近づいたのが、彼女が姉と慕うメジロライアンだった。
アイネスフウジンの一世一代、渾身の逃げに屈して僅かに追いつけず無念の二着。
メジロ家の悲願を、姉の悔しさを背負って彼女は今、ダービーへと挑もうとしていた。
メジロ家の至上命題たる春秋天皇賞の盾の栄誉の獲得に並び、嘗てより悲願とされてきたのがクラシック、ひいてはダービーの制覇だった。
大先輩メジロオーの初挑戦から幾度となく挑み、届かなかったその栄冠にもっとも近づいたのが、彼女が姉と慕うメジロライアンだった。
アイネスフウジンの一世一代、渾身の逃げに屈して僅かに追いつけず無念の二着。
メジロ家の悲願を、姉の悔しさを背負って彼女は今、ダービーへと挑もうとしていた。
(わたくしがライアンお姉さまの無念を...メジロ家にもう一度栄光を...)
(今日、警戒すべきは...)
(今日、警戒すべきは...)
ブライトは薄く目を開くと、ライバルとなるだろう有力ウマ娘たちの方を見やった。
京都四歳特別を圧巻の差し切り勝ちをしたアルボルズ、先の皐月賞で惜しくも敗れた相手のフォルトレッツァ、そして圧倒的な逃げの素質で耳目を集めるサイレンススズカ。
一番人気として、多くの視線が突き刺さるような感覚を覚えながら辺りを見渡していると一人のウマ娘と目が合った。
京都四歳特別を圧巻の差し切り勝ちをしたアルボルズ、先の皐月賞で惜しくも敗れた相手のフォルトレッツァ、そして圧倒的な逃げの素質で耳目を集めるサイレンススズカ。
一番人気として、多くの視線が突き刺さるような感覚を覚えながら辺りを見渡していると一人のウマ娘と目が合った。
(あのかたは...たしかスズカさまの前走で2着の...タイダルフロウさま?)
前走プリンシパルステークスは、勝利したサイレンススズカから離された2着であり、何とか出走を果たしたといったところ。
それ故に当日12番人気という低評価にあるタイダルフロウ。
そんな彼女に何か一抹の不安というか、目が合った時に妙な感覚がしたと思ったが、些末なこととその不安感を抑え込んだ。
それ故に当日12番人気という低評価にあるタイダルフロウ。
そんな彼女に何か一抹の不安というか、目が合った時に妙な感覚がしたと思ったが、些末なこととその不安感を抑え込んだ。
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- Side:ブライトトレーナー
(大丈夫なのだろうか。やはり少し不安が残るな...)
ブライトのトレーナーは、発走直前となってゲート入りをしていく姿を見ながら考えこんでいた。
(府中は最終直線が525mある後方脚質に有利なコースだ)
(それこそブライトのような末脚を持ち味とする追い込みには絶好の条件のはず)
(しかし、先の敗戦で展開が作れないという、致命的な弱点が露呈した)
(あれは、中山の短い直線だったからと評されているが、府中でもそううまくいくものだろうか?)
(それこそブライトのような末脚を持ち味とする追い込みには絶好の条件のはず)
(しかし、先の敗戦で展開が作れないという、致命的な弱点が露呈した)
(あれは、中山の短い直線だったからと評されているが、府中でもそううまくいくものだろうか?)
どうしても拭えない不安感を抱えながら見ていると、ゲート入りが終わり、レースの開始直前となる
(容易ならざる戦いになりそうだが...ブライトの末脚は出色のものだ、これは杞憂に過ぎないだろう...)
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- Side:アルボルズ
(作戦は...道中メジロブライトを徹底的にマークして、最後に差し切りを狙うことだ...)
アルボルズは、自分のトレーナーと立てて来たレースプランを再度思い返していた。
事前に見てきたところ、一番の難敵となるのはやはりメジロブライトだろうと自らのトレーナーは評した。
自身だって決して負けているわけではないが、手ごわい相手のはずだ。
事前に見てきたところ、一番の難敵となるのはやはりメジロブライトだろうと自らのトレーナーは評した。
自身だって決して負けているわけではないが、手ごわい相手のはずだ。
(だが、1番人気と3番人気では気負う物が違うはずだ...)
1番人気と3番人気では、集中するマークのきつさが間違いなく異なる。
この心理的優位を利用することで、最後の駆け引きでブライトを倒せる、そう確信していた。
この心理的優位を利用することで、最後の駆け引きでブライトを倒せる、そう確信していた。
(このレース、勝利するのは自分だ...!)
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- Side:???
春、六月。春クラシックの大舞台。日本ダービーこと東京優駿。私はここに立っている。
雨が降り出している。珍しくも不良馬場になるだろうか。
『さあ、クラシックの大一番。全ウマ娘の夢の舞台、日本ダービーの発走です!』
ゲート入り。この瞬間は、いつもより少し緊張する。
冬の寒さも記憶に新しい早春1月のデビューから初めて、G1の大舞台へと立つのだから。
『さあ、最後に大外枠のトーランドが……ゆっくりとゲートに収まりました』
刹那、静寂。私は息を整え、構え――
雨が降り出している。珍しくも不良馬場になるだろうか。
『さあ、クラシックの大一番。全ウマ娘の夢の舞台、日本ダービーの発走です!』
ゲート入り。この瞬間は、いつもより少し緊張する。
冬の寒さも記憶に新しい早春1月のデビューから初めて、G1の大舞台へと立つのだから。
『さあ、最後に大外枠のトーランドが……ゆっくりとゲートに収まりました』
刹那、静寂。私は息を整え、構え――
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ガッ、コン。
『スタートしました!おっと、ノーザンランドちょっとタイミングが合わ無かったか、出遅れました』
(少し出遅れてしまいましたわ~...でもこの舞台だからこそ、自分のペースを大切に〜…)
やや出遅れ気味になったブライト、スタートが巧く無く末脚に強味を持つ彼女はいつも後方から追い込むレーススタイルだ。
(わたくしはわたくしなりのペースを継続しますわ~...末脚を活かすためにとトレーナーさまと練習を積みましたもの)
そして視線を前に向けた時、彼女の目に映ったのは内から一気にハナへと躍り出た一人のウマ娘の姿だった。
(少し出遅れてしまいましたわ~...でもこの舞台だからこそ、自分のペースを大切に〜…)
やや出遅れ気味になったブライト、スタートが巧く無く末脚に強味を持つ彼女はいつも後方から追い込むレーススタイルだ。
(わたくしはわたくしなりのペースを継続しますわ~...末脚を活かすためにとトレーナーさまと練習を積みましたもの)
そして視線を前に向けた時、彼女の目に映ったのは内から一気にハナへと躍り出た一人のウマ娘の姿だった。
『さあ先行争いに行きましたのは、3番。タイダルフロウが先頭を奪いに行きます。それに続くのは8番サイレンススズカ。6番ハイロードスターが外から前を窺うか、しかし8番サイレンススズカも譲らない。3番タイダルフロウが行き切って2バ身のリード、4番マウンテンレンジ、6番ハイロードスターが2番手集団となります。皐月賞ウマ娘のフォルトレッツァは中団外に付けまして、人気の13番メジロブライトがその後ろ。さあ第1コーナーに差し掛かります18人のウマ娘たち!』
(内から一気に行ったな...スズカは抑えたか?行った3番は低人気だし玉砕覚悟の逃げだろうな、気にせずともいいか)
アルボルズはトレーナーと事前にプランニングした通り、最大の障壁と見られるメジロブライトをマークする位置についた。
(きっちりマークして追走、最後にブライト、お前を差し切れば勝利になるはずだ...!)
(内から一気に行ったな...スズカは抑えたか?行った3番は低人気だし玉砕覚悟の逃げだろうな、気にせずともいいか)
アルボルズはトレーナーと事前にプランニングした通り、最大の障壁と見られるメジロブライトをマークする位置についた。
(きっちりマークして追走、最後にブライト、お前を差し切れば勝利になるはずだ...!)
『さあ第1コーナーをカーブして。先頭は3番タイダルフロウが単独で行きまして1バ身半のリードを取った。4番サイレンススズカ、6番ハイロードスターがこれに続きます。そして後ろに、内1番ザイデブリッツ、外11番トライバトルとなりました。少し空いては9番アルティエーレ、13番スピットファイアの並びであります。そして14番のマチカネフクキタル。』
ペースは落ち着かせた、自己のペースになっている
足音の変化的に速度差、距離差は想定内、先行勢はしっかりと“射程圏内”にいるのが分かる
やっぱりマークはブライトらに集中している、私を顧みることはない...
その心理的陥穽が付け入るべき隙になる
あとは仕掛けのタイミング次第、先行集団を振り払えて、後ろでは手遅れになるポイントでだ
ペースは落ち着かせた、自己のペースになっている
足音の変化的に速度差、距離差は想定内、先行勢はしっかりと“射程圏内”にいるのが分かる
やっぱりマークはブライトらに集中している、私を顧みることはない...
その心理的陥穽が付け入るべき隙になる
あとは仕掛けのタイミング次第、先行集団を振り払えて、後ろでは手遅れになるポイントでだ
『少しばらけて、12番皐月賞ウマ娘のフォルトレッツァがここに居まして、その後ろ内15番ウェンドーヴァー、外16番コールドコール、少し下がって18番キティホーク、2番ロンディニウム、15番メジロブライトの並び。5番アルボルズ、その外10番ドッグランズ、7番トーランドは切れ味にかけます。17番ノーザンランドが殿で追走。こんな体制であります。』
(やはりこちらにマークが集中している...)
ブライトのトレーナーはそう嘆息した。
このままではまたしてもスローペースに入り、差し損ねるのではという懸念が鎌首をもたげてきている。
(歯がゆいが...どうしてもこちらから展開に干渉できない...)
(やはりこちらにマークが集中している...)
ブライトのトレーナーはそう嘆息した。
このままではまたしてもスローペースに入り、差し損ねるのではという懸念が鎌首をもたげてきている。
(歯がゆいが...どうしてもこちらから展開に干渉できない...)
『それほど速いペースとはなっておりません。先頭から最後方までは十バ身と少しは離れているぐらいでしょうか、三コーナーから四コーナーへと向かいまして、ここは府中、長い直線、後方各ウマ娘達の決め手勝負となるのでしょうか。』
(この展開は...やっぱりスローになってる)
(全レース場でもっとも長い直線だから、末脚を活かせるブライトに優位なはずなんだけど...)
ブライトの出走を見守りに、友人のアイネスフウジンと来ていたメジロライアンはレースの展開に胸騒ぎがして仕方なかった。
「ライアンちゃん、この展開はブライトちゃんにとって結構危ういかもなの。一気にハナを取った逃げ馬の子が低人気だからってペースを握ってスローに落とし込んでるのに見過ごされてる」
アイネスフウジンも同様の、そして同じ逃げを選んでいたからこそ、より強く展開に警戒を募らせていた。
「スローになって折り合ってるの。余力を最後残してくるならかなり手強いよ。逃げ切りがあるかもしれないなの。」
(この展開は...やっぱりスローになってる)
(全レース場でもっとも長い直線だから、末脚を活かせるブライトに優位なはずなんだけど...)
ブライトの出走を見守りに、友人のアイネスフウジンと来ていたメジロライアンはレースの展開に胸騒ぎがして仕方なかった。
「ライアンちゃん、この展開はブライトちゃんにとって結構危ういかもなの。一気にハナを取った逃げ馬の子が低人気だからってペースを握ってスローに落とし込んでるのに見過ごされてる」
アイネスフウジンも同様の、そして同じ逃げを選んでいたからこそ、より強く展開に警戒を募らせていた。
「スローになって折り合ってるの。余力を最後残してくるならかなり手強いよ。逃げ切りがあるかもしれないなの。」
『さあ、先頭はタイダル、タイダルフロウが行っております。二冠へ向けてフォルトレッツァが少しづつ位置取りを上げてきて青い帽子がもう5、6番手辺りまで!キティホークもいつの間にか中団前目の外へと持ち出してきています。いま現在二番手にはハイロードスター、すこし後退してサイレンススズカとマチカネフクキタル。』
皐月賞では仕掛けるのが遅れて、追い込みが決まりきりませんでしたわ~...)
ブライトもまた、直線へ向くに合わせて大きく進出を開始する。
(ですから...今日は早めに仕掛けます..!)
それを虎視眈々と狙い定めていた“二人”もまた動き出す。
皐月賞では仕掛けるのが遅れて、追い込みが決まりきりませんでしたわ~...)
ブライトもまた、直線へ向くに合わせて大きく進出を開始する。
(ですから...今日は早めに仕掛けます..!)
それを虎視眈々と狙い定めていた“二人”もまた動き出す。
『さあ、四コーナーをカーブして直線へとかかります!やはりフォルトレッツァはここで外目に持ち出した!その前にいったのはザイデブリッツ!
最終直線!ここで先頭はまだタイダル、タイダルフロウが依然として頑張っています!ハイロードスター!そしてその後ろにトライバトル!間にサイレンススズカは苦しい位置!』
そろそろ仕掛けの時期だ
後方からやや早仕掛けで上がってこようとする音を捉えた
先行集団は十分に釣り出せて、後方集団がまだ離れている今が好機となる
余した脚を使って一気に突き放す!
最終直線!ここで先頭はまだタイダル、タイダルフロウが依然として頑張っています!ハイロードスター!そしてその後ろにトライバトル!間にサイレンススズカは苦しい位置!』
そろそろ仕掛けの時期だ
後方からやや早仕掛けで上がってこようとする音を捉えた
先行集団は十分に釣り出せて、後方集団がまだ離れている今が好機となる
余した脚を使って一気に突き放す!
『タイダルフロウがここで一気に突き放しにかかった!まだ後ろは伸びてこないか!フォルトレッツァが間をこじ開けて猛追ッ!外を通ってはアルボルズとメジロブライト!ハイロードスターが懸命に粘っている!坂を上がって!メジロブライトが一気に追い込んできた!さらに外、大外通って連れて5番アルボルズが凄い脚!』
(よし、今だッ!)
ブライトのスパート開始タイミングに完全に合わせてアルボルズも一気に動き出す。
(行ける!差し切れる!あと少しでブライトを捉え切って...自分の勝利にな..る...!?)
ブライトを完璧なタイミングで仕掛けて差し切ろうというそのとき、アルボルズはそのさらに先にもう一人の背中があることに驚愕した。
(よし、今だッ!)
ブライトのスパート開始タイミングに完全に合わせてアルボルズも一気に動き出す。
(行ける!差し切れる!あと少しでブライトを捉え切って...自分の勝利にな..る...!?)
ブライトを完璧なタイミングで仕掛けて差し切ろうというそのとき、アルボルズはそのさらに先にもう一人の背中があることに驚愕した。
『しかしまだ先頭はタイダル!タイダルが粘っている!伸びないかフォルトレッツァ!フォルトレッツァは伸びが苦しい!二番手に来たのはメジロブライト!その外からアルボルズが襲い掛かるが!前との差はまだある!フォルトレッツァ二冠ならず!勝ったのはなんとタイダルフロウ!12番人気のタイダルフロウです!』
一気に後方勢が上がってきているのを感じる
仕掛けだした時の絶叫と壊乱の声が、一変して
磨り潰した先行勢とは違う、明らかに激化したその足音でそれを明確に理解した
特に大外から一気に追い詰めに来ている人の脚が頭抜けているだろう
確かに自分はもう脚が上がりきるだろう
だけど...もう遅いかな?
息が上がり、スタミナも切れかかって、辛いはずなのに不思議と確信を持てた
一気に距離が縮まっていくことがひしひしと感じられるが、もう“届かない”
最後、僅かにリードを保ってゴール板を通過した
一気に後方勢が上がってきているのを感じる
仕掛けだした時の絶叫と壊乱の声が、一変して
磨り潰した先行勢とは違う、明らかに激化したその足音でそれを明確に理解した
特に大外から一気に追い詰めに来ている人の脚が頭抜けているだろう
確かに自分はもう脚が上がりきるだろう
だけど...もう遅いかな?
息が上がり、スタミナも切れかかって、辛いはずなのに不思議と確信を持てた
一気に距離が縮まっていくことがひしひしと感じられるが、もう“届かない”
最後、僅かにリードを保ってゴール板を通過した
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- Side:アルボルズ
「ハァ...ハァ...」
ゴール後、アルボルズは滂沱の汗を滴らせ、激しく肩で息をするような有様だった。
「クソッ...がッ...最後に...届かなかった...!」
結果はブライトを差し切りこそしたものの、届かずの2着。
あと少しのところで栄冠を掴めなかった。
必ず勝つと誓い合って、行ってきた練習、共に練り上げた戦術、積み上げてきたものが一挙に消え去るような慟哭。
その切ない塊が胸を下って消えていくまでには、必ずどうすればいいのかわからない息苦しさを一度経なければならなかった。
ゴール後、アルボルズは滂沱の汗を滴らせ、激しく肩で息をするような有様だった。
「クソッ...がッ...最後に...届かなかった...!」
結果はブライトを差し切りこそしたものの、届かずの2着。
あと少しのところで栄冠を掴めなかった。
必ず勝つと誓い合って、行ってきた練習、共に練り上げた戦術、積み上げてきたものが一挙に消え去るような慟哭。
その切ない塊が胸を下って消えていくまでには、必ずどうすればいいのかわからない息苦しさを一度経なければならなかった。
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- Side:タイダルフロウ
夢のような心地だった
ゴール板を過ぎた後、急激にやって来たスタミナの払底による息苦しさ
熱っぽく浮かされてぼうっとしていると、慌ててトレーナーが検量室の方から駆け寄ってくるのが見えた
まだ熱が引かずにいる頭で、多分限界そうに見えてて急いできたのかなと考えてながら検量室の方へと戻っていくと
渾身の走りで思ったより限界に達していたのか、退場するやいなや、糸が切れたようにプツリと意識が途絶えた
ゴール板を過ぎた後、急激にやって来たスタミナの払底による息苦しさ
熱っぽく浮かされてぼうっとしていると、慌ててトレーナーが検量室の方から駆け寄ってくるのが見えた
まだ熱が引かずにいる頭で、多分限界そうに見えてて急いできたのかなと考えてながら検量室の方へと戻っていくと
渾身の走りで思ったより限界に達していたのか、退場するやいなや、糸が切れたようにプツリと意識が途絶えた
多分眠ってたのは十数秒ぐらいなのかな
トレーナーにもたれかかっていたのに気づくと、急いで立ち上がった
未だ結果が夢でないと呑み込めない状態だったけど、表彰台に案内されていく道中で段々と強く認識できて来た
トレーナーにもたれかかっていたのに気づくと、急いで立ち上がった
未だ結果が夢でないと呑み込めない状態だったけど、表彰台に案内されていく道中で段々と強く認識できて来た
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- インタビュー
『全ウマ娘の夢、日本ダービー制覇の感慨は今いかがですか?』
「はい、いいですね...!」
『本日は大変見事な逃げ切り勝利でしたが、手ごたえはどうでしたか?』
「手ごたえは十分でした。あとはもうトレーナーさんと積み重ねてきた練習の成果を信じていくだけですから」
『ペースに関してはどう感じてましたか?』
「1~2コーナーで、もうマイペースに持ち込めたなって感じでした」
『3コーナー4コーナーと過ぎて、後方勢が当然気になったと思いますが、その辺どうでしょうか?」
「すぐ後ろに迫ってくるということを感じて、いろいろ考えてしまったのですが、不思議と最後は自信がありました」
「はい、いいですね...!」
『本日は大変見事な逃げ切り勝利でしたが、手ごたえはどうでしたか?』
「手ごたえは十分でした。あとはもうトレーナーさんと積み重ねてきた練習の成果を信じていくだけですから」
『ペースに関してはどう感じてましたか?』
「1~2コーナーで、もうマイペースに持ち込めたなって感じでした」
『3コーナー4コーナーと過ぎて、後方勢が当然気になったと思いますが、その辺どうでしょうか?」
「すぐ後ろに迫ってくるということを感じて、いろいろ考えてしまったのですが、不思議と最後は自信がありました」
『それではタイダルフロウさんのトレーナーさんにお聞きしますが、今日は12番人気と低評価の中での勝利でしたが、その評価についてどう思われましたか?』
「いくら他からの評価が低いと言ったって、彼女と積み重ねてきた日々の価値が否定されるわけじゃないので、勝てると信じていました。一番人気はなくても、一着さえあればいいと、思っていました」
『トレーナーさんはなかなか勝たせられない、低迷していた時期があって、そして今日ダービー制覇という栄光を掴んだわけですが、今どんなふうに振り返りますか?』
「夢みたいです、本当に」
『秋はもちろん菊花賞を制して、二冠達成というの視野に入れていると思いますが?』
「はい、頑張りたいと思います」
『淀の3000でも勝てる自信が?』
「はい、あります!」
「いくら他からの評価が低いと言ったって、彼女と積み重ねてきた日々の価値が否定されるわけじゃないので、勝てると信じていました。一番人気はなくても、一着さえあればいいと、思っていました」
『トレーナーさんはなかなか勝たせられない、低迷していた時期があって、そして今日ダービー制覇という栄光を掴んだわけですが、今どんなふうに振り返りますか?』
「夢みたいです、本当に」
『秋はもちろん菊花賞を制して、二冠達成というの視野に入れていると思いますが?』
「はい、頑張りたいと思います」
『淀の3000でも勝てる自信が?』
「はい、あります!」
『これまでタイダルフロウさんたちを支えてくれた人たちに一言お願いします』
「今まで応援ありがとうございました。秋にもライバルとの決戦が待っているので、応援よろしくお願いします」
『ダービーを勝利したタイダルフロウさんとそのトレーナーさんでした。おめでとうございました!』
「「ありがとうございました」」
「今まで応援ありがとうございました。秋にもライバルとの決戦が待っているので、応援よろしくお願いします」
『ダービーを勝利したタイダルフロウさんとそのトレーナーさんでした。おめでとうございました!』
「「ありがとうございました」」
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ー逃げでいいのかー
前走プリンシパルステークスから鎌首を擡げ始めたこの危懼は、ダービー当日となっても未だ彼女の中に残り続けていた。
プリンシパルステークスをトレーナーからの指導に従って、先行で“勝ってしまった”が故に迷いが生まれた。
ダービーの舞台は東京競馬場、長い最終直線が特徴的だ。
そこに至って、逃げに出て勝てるのかという疑義は色濃く、トレーナーも逃げに出る事には消極的だった。
そんな中、隣の子がハナを強引にでも取りにかかったことは、まさに天上の甘露のようなことだった。
前走で、先行策で捉えきれた子ータイダルフロウと言ったかーの逃げ。
ー先行策でも勝てるー
そう、思ってしまった。
実に論理的で、正当な選択であると、思いこめる、自分に言い訳できる材料が出てきてしまった。
その代償はすぐにやってきた。
ー自分のペースを作れない、息が、苦しい、自分の走りができない、フォームが保てないー
ペースを握られ、息を入れることを許さないタイトなペース配分。
4コーナーでスタミナを使い果たしてズルズルと後退していく私に最後見えたのは、
突き放してリードをつけて逃げ切り体制に入った、その子の姿だった。
そしてレースが終わり、一度ターフから戻るとき、最後こちらを一瞥したその目に、惹かれた。
『先頭の景色は...譲らない』
前走プリンシパルステークスから鎌首を擡げ始めたこの危懼は、ダービー当日となっても未だ彼女の中に残り続けていた。
プリンシパルステークスをトレーナーからの指導に従って、先行で“勝ってしまった”が故に迷いが生まれた。
ダービーの舞台は東京競馬場、長い最終直線が特徴的だ。
そこに至って、逃げに出て勝てるのかという疑義は色濃く、トレーナーも逃げに出る事には消極的だった。
そんな中、隣の子がハナを強引にでも取りにかかったことは、まさに天上の甘露のようなことだった。
前走で、先行策で捉えきれた子ータイダルフロウと言ったかーの逃げ。
ー先行策でも勝てるー
そう、思ってしまった。
実に論理的で、正当な選択であると、思いこめる、自分に言い訳できる材料が出てきてしまった。
その代償はすぐにやってきた。
ー自分のペースを作れない、息が、苦しい、自分の走りができない、フォームが保てないー
ペースを握られ、息を入れることを許さないタイトなペース配分。
4コーナーでスタミナを使い果たしてズルズルと後退していく私に最後見えたのは、
突き放してリードをつけて逃げ切り体制に入った、その子の姿だった。
そしてレースが終わり、一度ターフから戻るとき、最後こちらを一瞥したその目に、惹かれた。
『先頭の景色は...譲らない』