「自分は傷一つないって厚顔で! 人の傷痕を踏んでも気付かず! そのくせ自己満足の優しさを振り撒いてる! おまえの全部が鬱陶しいんだァ――ッッ!!」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
マレーネ√、拠点に
凌駕と
マレーネを残し、索敵のため出撃していたジュンと美汐。
そんな彼女らも他の
刻鋼人機たちと同様に、
オルフィレウスの語る
心装永久機関とそれにまつわる
真実を聞き、
さらに以後、立場を取り払った無差別のイマジネイター同士の殺し合いを開始するという宣言の下、
物言わぬ忠実な猟犬としての本質を露にしたネイムレスにより、執拗な追撃を受けることとなってしまった。
逃亡の途中、肉体の疲労とともに精神的余裕を無くしていく美汐は、
苦境に追いやられながらも希望を信じ、他者を信じることを止めないジュンに対し、
己の内にある苛立ち、嫌悪感を刺刺しい言葉と成して突きつけてゆく。
生き残るためなら結局は私の命だって踏み台とする気だろう。
お前みたいな極端に前向きな奴、前以外見えていない手合いなら尚更そう。
どうせ涙を流しながら、血みどろの欲望だって綺麗事に繕おうとするんだ。
「必ず背負うわ、あなたのことは忘れない」
――そうやってあの秋月みたいに、心の傷を、涙を強さに変えて、やがて無傷になってしまうんだ……と。
それに対し、ジュンも一歩も譲ることなく、どこまでも真っ直ぐな瞳で言葉を紡ぐ。
青砥さんを裏切らない。一緒に生き残って皆の元に帰る。
頭悪いかもしれないし、偽善者なのかもしれないけど、でも、やっぱりあたしは綺麗事が好き。
そして、その好きな事を現実にしたいし、そのために全力で頑張り続ける。
――正しいとか間違ってるとかじゃなくて、それが私の我儘だから。
結局……
どこまでも他者を信用せず、生き残るためなら何だってやるという美汐と――
躊躇わず彼女の傷に踏みこみ、他者をどうか信じて欲しいと訴えるジュン――
二人の意見は交わらぬまま、魂なき鋼鉄の怪物が、再び彼女らに襲い掛かる。
圧倒的性能差によって、吹き飛ばされるジュン。
しかし、猟犬の狙いはジュンの命――
ではなく、
希有な可能性を持つジュンとその胸に宿るもう一人、その覚醒にあったのだ。
「だ……誰だてめえぇッッ!? 私の中を掻き回すんじゃ――ひぃぐッ!?」
「畜生……やめろ、そこに触るな――あ、グゥゥッッ!?」
そのために、オルフィレウスはネイムレスを介し、接触している
少女の精神を
弄り、
真理に到達できぬ落伍者は、更なる可能性を持つ者の当て馬が相応しかろう、と
強制的に美汐が封じ込めていた陰我を引き出し、意図的な暴走を招来するのだった。
……己が最も忌み嫌う過去、そのビジョンに囚われた美汐。
蘇った彼女は、自分があまりに大きな世界の裏側に取り残され、
どうあっても優しかった両親のことを憎めない、けれど、ならば己は何を憎めばよいのか……と苦悶した。
だが、彼女は歪んだ形で決意を定めた。自分の命を奪った母の、その目から流れる血涙。
そこに、彼女は見た……
愛ゆえに愛する者を殺さねばならぬ不条理を。
娘への慈悲と自己を偽装せねば殺人を成せぬ不条理を。
そんなモノをただ押しつけられ死ぬしかなかった、救えなかった己。
故に、足りなかったのはそう、そんな不条理まみれの現実に屈せぬ強さだと。
ゆえに狂乱の最中でありながらも、美汐の憎悪はこの場でたった一人に向けられる。
そう、あまりに幼く、無垢に正しさ、誠実さを信じていた愚かな娘を……
そんな過去の自分を想起させる女。真っ直ぐに綺麗事を信じ、自分の傷口を広げる前向き女に。
――結果具現するのは、あれだけ速度を信じ、最大の武器としてきたジュンが、
その速度の土俵で、手も足も出ずに切り裂かれるという光景であった。
だが、自分の傷も構わず、ジュンは、
過去の苦しみを抱え悲痛な叫びを上げる美汐の姿に悲しみを感じ、
天空でこの状況を笑みさえ浮かべながら眺めているであろう支配者に怒りを叫ぶ――
「おまえの仕業かァッ!!」
「女の子を泣かせて、高みの見物なんて――許せないッ!」
しかし、その叫びは暴走する美汐の苛立ちをさらに加速させる効果しか持たず……
「うるさい、うるさいッ――その声が耳障りなのよ」
ジュンの身体を上空へ向けて音速で吹き飛ばし、更に影装を纏った美汐はその身体に垂直に並走しながら……
憎たらしい女に向けて、偽りなき本音をぶちまけていく。
「自分は傷一つないって厚顔で!
人の傷痕を踏んでも気付かず!
そのくせ自己満足の優しさを振り撒いてる!
おまえの全部が鬱陶しいんだァーーッッ!!」
放たれるは、月を背後に背負った直上からの落下蹴り。
荒ぶる暴力のまま翻弄され、
心にも鋭い拒絶の刃を突き刺され、ジュンは隕石の如き速度で地に叩きつけられるのであった……。
- まぁ本当にジュンが美汐の命を踏み台にするかどうかは美汐本人の√で示されてるからね。ジュンは自分の命を顧みず友人を助けてしまうから…… -- 名無しさん (2017-07-12 23:26:55)