発言者:[[アンヌ・ポートマン]] [[『三本指』>三本指]]の模倣犯、彼に生まれたちっぽけな欲求――&color(#7B68EE){&bold(){どこにでもいる縛血者に戻りたくない}}――が暴走する。 &size(14){&bold(){[[掟の番人>夜警]]の裁きも、自分たちを狩る[[狩人]]の妨害も届かないだろうという余裕が、}} &size(14){&bold(){貧困の中に生まれ育ったことの反動が、裕福な人間の家庭へ手を出すことに躊躇いをなくし、}} &size(14){&bold(){狙いを定めた、その家の幼い子供の幸せそうな声が、男の歪んだ嗜虐心をさらに加速させ}}―――― &size(17){&bold(){妄執に溺れた男の行為により、アンヌ・ポートマンは帰るべき家を奪われたのだ。}} &size(16){&color(#491F26){――&bold(){燃え落ち、崩れ去っていく。}}} &size(16){&color(#491F26){――&bold(){人であった時の拠り所が、家族と過ごした思い出と共に焼き払われていた。}}} &bold(){本当に、偶然に。}心寂しさにつられ実家を見に来ていた縛血者の少女は、 ただ呆然と、野次馬達に紛れる中で、目の前の光景に言葉を失っていた。 &size(18){&color(#933F4D){「やめて、かえして………」}} &size(18){&color(#933F4D){「やめて、かえして、やめて、かえして、やめて、かえして」}} &bold(){アンヌは懇願した。燃え落ちる家に向かい何度も何度も呟き続ける。} &bold(){けれど目の前の炎は聞き入れてくれない。} &size(16){&color(#491F26){―――&bold(){柱が灰になっていくのが聞こえる。}}} &size(16){&color(#491F26){―――&bold(){誕生日に買ってもらったぬいぐるみは、既に灰だった。}}} &size(16){&color(#491F26){―――&bold(){部屋が消える。廊下が消える。思い出が消えていく。}}} &size(17){&color(#491F26){――――&bold(){わたしのかぞくといっしょに。}}} &size(21){&color(#933F4D){「やめて、かえして、やめて、かえして、やめて、かえして、}} &size(21){&color(#933F4D){やめて、かえして、やめて、かえして、やめて――――」}} 無表情のまま、涙をこぼし………&color(#933F4D){&bold(){かえしてほしい}}と、それだけを口にする。 &bold(){もしかしたらと、家族は出かけていたのではと、}そんな淡い願いを抱いても…… アンヌの得た、人の頃よりも鋭くなった体の感覚は肉の焦げる臭気を感じ取り、 &bold(){燃える炎の中で、&ruby(・・・・・・・・・・・){誰が灰になっていくのか}を、はっきりと理解してしまっていた。} &size(14){&color(#040414){&bold(){&ruby(げんじつ){不条理}は止まらない。アンヌの心を切り刻む。}}} &size(14){&color(#040414){&bold(){永遠に傷が残るように、残酷な光景を進めていく。}}} &size(15){&color(#933F4D){―――&bold(){お願いします。神様。神様。時間を戻してください。}}} &size(15){&color(#933F4D){―――&bold(){ほんの少しでいいのです。一生のお願いです。もう身の丈に合わない願いは言いません。}}} &size(15){&color(#933F4D){―――&bold(){ですからどうか、戻してください。せめて自分に、家族を守り抜く機会だけは与えてください。}}} &size(15){&color(#933F4D){―――&bold(){でないと、こんな、こんな…………}}} &size(19){&color(#933F4D){「こんなっ、わたし、いやだ、いやだっ……うそだよ、どこに、ねぇ、わたし、これからどこにっ」}} &size(17){&color(#933F4D){―――&bold(){ああ、だから……わたしは、これから。}}} &size(28){&color(#933F4D){&bold(){&tt(){「―――どこに、かえればいいの?」}}}} &size(17){その口から、&ruby(ブラインド){縛血者}としてではなく、} &size(17){ただのアンヌ・ポートマンとしての嘘偽りない本心が零れ落ちた。} &size(21){&color(#933F4D){&bold(){&tt(){&italic(){「あぁ、ぁぁぁ……あああっ、うぁ、っ――――」}}}}} &size(17){&bold(){……その本音が、彼女自身の心に最後のとどめを刺した。}} &size(15){&color(#933F4D){&bold(){気づかなければよかった。帰りたいと、ずっと願っていたなんて。}}} &size(15){&color(#933F4D){&bold(){[[背伸び>縛血者]]をし続けるよりも、本当は何より大切に思っていた日常への帰還。}}} &size(15){&color(#933F4D){&bold(){もう一度、日の下を歩きたいという、ささやかな未来への希望。}}} &size(15){&color(black){&bold(){けれど、もうその願いは叶わない。}}} &size(15){&color(black){&bold(){流れる水のように、この指の隙間を通り抜けていってしまったから。}}} &size(18){&bold(){そうして……アンヌは、再び陽が上るまでの間、喪失の焔の前で慟哭し続けるのだった}―――} ---- - 白木の杭(肩をポンポン) -- 名無しさん (2018-11-21 20:04:05) #comment