――どこに、かえればいいの?

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――どこに、かえればいいの? - (2020/09/19 (土) 00:16:11) のソース

発言者:[[アンヌ・ポートマン]]


[[『三本指』>三本指]]の模倣犯、彼に生まれたちっぽけな欲求――&color(#7B68EE){&bold(){どこにでもいる縛血者に戻りたくない}}――が暴走する。
&size(14){&bold(){[[掟の番人>夜警]]の裁きも、自分たちを狩る[[狩人]]の妨害も届かないだろうという余裕が、}}
&size(14){&bold(){貧困の中に生まれ育ったことの反動が、裕福な人間の家庭へ手を出すことに躊躇いをなくし、}}
&size(14){&bold(){狙いを定めた、その家の幼い子供の幸せそうな声が、男の歪んだ嗜虐心をさらに加速させ}}――――


&size(17){&bold(){妄執に溺れた男の行為により、アンヌ・ポートマンは帰るべき家を奪われたのだ。}}


&size(16){&color(#491F26){――&bold(){燃え落ち、崩れ去っていく。}}}
&size(16){&color(#491F26){――&bold(){人であった時の拠り所が、家族と過ごした思い出と共に焼き払われていた。}}}


&bold(){本当に、偶然に。}心寂しさにつられ実家を見に来ていた縛血者の少女は、
ただ呆然と、野次馬達に紛れる中で、目の前の光景に言葉を失っていた。


&size(18){&color(#933F4D){「やめて、かえして………」}}

&size(18){&color(#933F4D){「やめて、かえして、やめて、かえして、やめて、かえして」}}


&bold(){アンヌは懇願した。燃え落ちる家に向かい何度も何度も呟き続ける。}
&bold(){けれど目の前の炎は聞き入れてくれない。}


&size(16){&color(#491F26){―――&bold(){柱が灰になっていくのが聞こえる。}}}

&size(16){&color(#491F26){―――&bold(){誕生日に買ってもらったぬいぐるみは、既に灰だった。}}}

&size(16){&color(#491F26){―――&bold(){部屋が消える。廊下が消える。思い出が消えていく。}}}


&size(17){&color(#491F26){――――&bold(){わたしのかぞくといっしょに。}}}


&size(21){&color(#933F4D){「やめて、かえして、やめて、かえして、やめて、かえして、}}
&size(21){&color(#933F4D){やめて、かえして、やめて、かえして、やめて――――」}}


無表情のまま、涙をこぼし………&color(#933F4D){&bold(){かえしてほしい}}と、それだけを口にする。
&bold(){もしかしたらと、家族は出かけていたのではと、}そんな淡い願いを抱いても……

アンヌの得た、人の頃よりも鋭くなった体の感覚は肉の焦げる臭気を感じ取り、
&bold(){燃える炎の中で、&ruby(・・・・・・・・・・・){誰が灰になっていくのか}を、はっきりと理解してしまっていた。}


&size(14){&color(#040414){&bold(){&ruby(げんじつ){不条理}は止まらない。アンヌの心を切り刻む。}}}
&size(14){&color(#040414){&bold(){永遠に傷が残るように、残酷な光景を進めていく。}}}


&size(15){&color(#933F4D){―――&bold(){お願いします。神様。神様。時間を戻してください。}}}
&size(15){&color(#933F4D){―――&bold(){ほんの少しでいいのです。一生のお願いです。もう身の丈に合わない願いは言いません。}}}
&size(15){&color(#933F4D){―――&bold(){ですからどうか、戻してください。せめて自分に、家族を守り抜く機会だけは与えてください。}}}
&size(15){&color(#933F4D){―――&bold(){でないと、こんな、こんな…………}}}

&size(19){&color(#933F4D){「こんなっ、わたし、いやだ、いやだっ……うそだよ、どこに、ねぇ、わたし、これからどこにっ」}}

&size(17){&color(#933F4D){―――&bold(){ああ、だから……わたしは、これから。}}}


&size(28){&color(#933F4D){&bold(){&tt(){「―――どこに、かえればいいの?」}}}}


&size(17){その口から、&ruby(ブラインド){縛血者}としてではなく、}
&size(17){ただのアンヌ・ポートマンとしての嘘偽りない本心が零れ落ちた。}


&size(21){&color(#933F4D){&bold(){&tt(){&italic(){「あぁ、ぁぁぁ……あああっ、うぁ、っ――――」}}}}}


&size(17){&bold(){……その本音が、彼女自身の心に最後のとどめを刺した。}}

&size(15){&color(#933F4D){&bold(){気づかなければよかった。帰りたいと、ずっと願っていたなんて。}}}
&size(15){&color(#933F4D){&bold(){[[背伸び>縛血者]]をし続けるよりも、本当は何より大切に思っていた日常への帰還。}}}
&size(15){&color(#933F4D){&bold(){もう一度、日の下を歩きたいという、ささやかな未来への希望。}}}


&size(15){&color(black){&bold(){けれど、もうその願いは叶わない。}}}
&size(15){&color(black){&bold(){流れる水のように、この指の隙間を通り抜けていってしまったから。}}}


&size(18){&bold(){そうして……アンヌは、再び陽が上るまでの間、喪失の焔の前で慟哭し続けるのだった}―――}



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- 白木の杭(肩をポンポン)  -- 名無しさん  (2018-11-21 20:04:05)
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