君は強い。私が信じた君を自分で信じるんだ。この日、欲望に勝った自分の心を。何があっても諦めてはいけないよ

発言者:ヴィクトル・シュヴァンクマイエル・クラウス
対象者:とある少女


白木の杭であるクラウスが、ある頼み事をしっかりと果たしてくれた少女に対し、
信頼の眼差しと共に語って聞かせた、彼の信奉する人間の持つ可能性(かがやき)についての言葉。
誰かが誰かの未来を信じ、思いや願いを託してゆく……
『人間は素晴らしい』という彼の見解が現れた台詞であると同時に、欲望に負けた、堕ちし不浄なる『吸血鬼』という認識も言外に現れている場面。



霧の都の夜……少女は小走りで頼み事をした老人に、約束を守ってきた事を報告していた。
少女は老人に疑問を投げかけた。
どうして先に駄賃を渡してくれたのか? 会ったばかりの知らない子どもなんて、そのままお金だけ持って帰ってこないかもしれないのに、と。
老人は少女の頭を優しく撫でながら、答える。
“それでも君はちゃんと帰ってきたじゃないか。私は君を信じていた。欲望に抗う心の強さを、君は持っている”
そう、君は強いのだ(・・・・)驚く少女に、彼はさらに続けて語る。

「だから、これからも強く在り続けるんだ。
この世界で人間だけが、強く在り続けようとする事で強くなれる唯一の存在なのだから」

「私が信じた君を自分で信じるんだ。この日、欲望に勝った自分の心を。何があっても諦めてはいけないよ」


老人の確かな信頼の宿る言葉に、少女の瞳に輝きが宿っていく。
そして、少女の後姿を、老人――クラウスは満足そうに見つめていた

夜の遅い時間、たった一人でいる子ども。身体に見られる複数の傷や痣。
クラウスは、少女が現在育児放棄あるいは虐待、そんな厳しい環境に置かれている事を容易に想定できた。
それを理解した上で、彼は少女の未来に思いを馳せる。

あの少女は今日、自分自身の価値というものを自覚できただろうか。
自分が、誰かから信じられるだけの価値を持っているという事を。
この日、名も知らぬ老人から託された信頼という宝物が、いつかあの少女の未来を救うかもしれない。
そうなればいいと、クラウスは心から願った。

未来を信じ、託す……それこそが人間の強さ、それこそが人間の美しさ。
やはり(・・・)人間は素晴らしい(・・・・・・・・)


揺るがぬ信念を胸に懐き、クラウスは闇より近づく足音に、一本の白木の杭へと切り替わる

「……やはり来たか。自ら墓穴へ足を運ぶ愚か者めが」
“吸血鬼へ。おまえの正体を知っている”───こんな馬鹿げた手紙を受け取り、わざわざ差出人に会いに行く物好きはおらん。本物(・・)を除いてはな」

隻眼には、先の少女に見せた物とは似ても似つかぬ酷薄な光が宿り……
生身であるはずの肉体が不意に鉄の塑像と化したかのように、気配を変えていた。


今宵只今から……我が人生最後の狩りを始めよう。
(ケダモノ)、喜べ。その最初の贄となれる光栄を。




  • クラウスおじいちゃんが嫌いになれない理由なセリフ -- 名無しさん (2020-02-18 20:01:47)
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最終更新:2022年06月05日 15:09