一発の銃声と共に───
目覚めた凌駕は、拳銃を手に一人佇む幼い指揮官の姿に、恋人が単独で飛び出し戦場へと赴いた事を理解した。
所属部隊、そしてその指揮官に反旗を翻す。
“兵士”としてはあり得ない行動を決意したエリザベータに、確かな変化を感じながら……
それらへの喜び、頼もしさ以上に、
男として、凌駕の胸には自らを頼ってくれなかった悔しさが襲っていた。
あれだけ男を惑わす手管に長けている女の癖に、なんでこんなに甘え下手なのか。
やっぱり初心なのにも程があるだろう。
感情の赴くままに、恋人を追いかけるため動こうとする凌駕を、マレーネは制する。
「こうなった以上、一秒とて千金に等しい。無差別に市内を探し歩く気か?」
「あいつの決意は本物だ。敬意すら伴って断言できる。だからこそ、無駄な行動を一つでも踏めば二度とこちらは追いつけん」
冷静に、理を説く指揮官を前に、少年の心は落ち着きを取り戻す。
そして遊底を引き、薬室内の一発を排出したマレーネは、その弾を指で弾き凌駕へと渡す。
問いかける凌駕に、どこか得意気に眼帯の少女は告げる。
「死にたがりの馬鹿者の元へ、その馬鹿者以外見えなくなっている大馬鹿者を導く、魔法の品だ」
そう。あの時の交錯には双方の決意の確認以上の意味があった。
エリザベータに打ち込まれた弾丸には極小の発信機が埋め込まれており、
モニターで今も高速で動く光点が、
マンドレイクジャマーの展開する区域……建設中の臨海電波塔を目指すのが確認できた。
そして続々と、ロビンフッドの仲間達も士気高い様子で次なる作戦行動へ向かうべく姿を見せる。
その中で一人、マレーネは静かに凌駕の顔を見上げていた。
メタルブルーの隻眼には、いつになく戸惑った光が宿っており……
「私には到底理解できん。何故、そこまで無思慮で無謀な行動ができるのだ?貴様たち、科学的な理性というものは何処へやった?」
「これが恋、というものなら……ああ、まったく」
そこで、少女はどこか遠くを見つめるように。
「いや、甘いのは私もか……なるほど確かに、たまには青臭い夢を後押ししてやるのも悪くない」
「ねえ、そうでしょう? 兄さん………」
呟かれた言葉は、彼に全て伝わる事はなかったが、その頬にはわずかに紅が差していた……
かくして、秋月凌駕は己の拳を握り締め、大切な恋人の元へ絶対に辿り着くと。
未だ冷めること無き熱を胸に、決意を研ぎ澄ますのであった。
最終更新:2021年04月12日 00:30