磨き上げた技も、燃やす闘志も、届かない。
そうして傷と泥に塗れ続ける二人の戦士の姿を前に、絶対者――《伯爵》は嗤いながら悦ぶ。
もっと輝いてみせろ、虚構を現実にできるやもしれぬ、おまえ達の必死な挑む姿がもっと見たいのだと。
――その吸血鬼の姿に、トシローとアリヤは怒りを以って立ち上がる。
……こいつの言葉が気に入らない。単純な、感情的極まりない理由が彼らを突き動かす。
そして――二人は人として吼える、人が生きるために欠く事のできない決意の意味を。
貴様の悪趣味な見世物で終わることなど認めない、負けてなるものかという反抗の意志を。
本編より
「必死なのだよ、こちらは。足りない物だらけだ、世は常にままならない……」
「困難ばかりが訪れて、毎度のこと準備不足……決意がなければ、やってられません」
生物学的には普通だとしても、他者を傷つけることなど悔やんで当然だ。
迷い、悩み、その度に選択をする。そして、後になって後悔するのだ。
だが───それが現実だろう。
俺たちは掟や道徳に縛られ、迷いを抱き、それでも足掻いて生きている。
解決できない難題にまみれた人生を、それでも生きるために誓うのだ。
ヒトはただ生きてはいけない。
決意が自らを縛ると知っていながら、その窮屈さがなければ生きられない。
それが何だ、貴様は。相手の人生を見透かし、これは美しい、これは醜いと。
「舐めるなよ、貴様───!」
「まったくです……屈辱という言葉すら、生温いッ」
ああ、つまり貴様はこう言いたいのだろう?
おまえ達の意思に意味もないが、格好つけている方が美しく見えるから精一杯酔えなどと───
「そうだ。俺達の決意は、俺達のためにある!
断じて、怪物の慰み物にするためではない!」
「虚構の誇りなど在りはしない、立ち上がらせるならば本物だ!
単調な意思しか持たない化物が、笑わせてくれる!」
ただ死んでいないのではなく、生きるためには不可欠な力。
苦しく辛い、痛みだらけの現実を生き抜くためにかざす。
愚者の烙印を押されようと、これを選ぶ者が自ら生きようと小さな勇気の灯を灯せる。
……だからこそ、俺達は叫ぶ。闘志を奮い立たせ、握る刃を構えて睨む。
怯えと戦い、絶望的な存在を前にしながら、それでも力強く吼えるのだ。
「おまえに決意は判らない」
「おまえは決意を抱けない」
「得られないから、眺めている。讃えて笑い、遠ざかったまま悪趣味に拍手を送る」
「羨ましいなら、指を咥えてねだってみろ。理解のあるように見せかけて、
必死に生きる者を鑑賞する権利など……何処の誰にもない!」
『だから、これ以上───』
『だから、これ以上───』
『ヒトの想いを、弄ぶな吸血鬼ッ!』
『ヒトの想いを、弄ぶな吸血鬼ッ!』
雄々しく拒絶を叩きつけて、俺とアリヤは疾走した―――。
- ここでの二人と伯爵がグランドルートでの覚醒伯爵見たらどう思うんだろうか。 -- 名無しさん (2020-04-23 01:41:50)
- 自分トリニティのアッシュのキャラPVで「英雄を目指した瞬間に英雄失格」という考えに一歩踏み込んで考えようとしてるんだけど、このころからそんな感じの作品がメインだったのかと、この項目をみて思いました。 -- 名無しさん (2020-04-24 18:26:23)
最終更新:2020年05月15日 00:15