『NOSTALGIA』にて……
逃亡者として人の社会から追われる身となり、
それでも新天地を求めた果てに、
未知なる獣───
死人の王と
その眷属に遭遇し……
一歩も動けず、何らなす術なく愛する女を
縛血者に変えられてしまった男が、
“永遠”を求め
洗礼を伴侶に願った言葉。
―――この時点でのトシローには、何ら縛血者に関する知識はなく
美影が人間の温かな生き血によってのみ生き永らえるようになった事、年月を重ねようとも老いる身体ではなくなった事、
そして同じ存在となる為には“同族”に咬まれる事が必要……程度の事柄しか分かってはいなかった。
だが、どれほど伴侶の身体が変貌しようとも、彼にとってはさして支障を感じる事はなかった。
二人だけの閉じた楽園、自分達が自分達として生きていける場所を求め流離い続けたのは、唯一つの理由から。
花咲く庭で己に科した誓い。美影を慈しみ守り抜くことこそがトシローという人間の生きる標だった。
そして……時を止めた彼女を永久に守り抜く為には、自分もまたその断絶を越えて夜に紛れるしかない……
当時の彼は、僅かの迷いも無くそう決断した。
「ですが、杜志郎様………」
俺を咬んで同じ存在にしてくれ――愛する男からそう懇願された美影は悲痛な表情を顔に浮かべた。
変貌を受け入れていたトシローとは異なり、ずっと彼女は己の変化に怯え、
吸血の性を嫌悪してきた。
すべてを擲ってでも望んだ、愛する人とのささやかな幸せの欠片を掴む機会すら喪い、
残ったのは血の通わぬ、おぞましい我が身のみ。
その過酷な
運命を、まだ人間として生きていける彼にも押し付ける――優しい彼女が躊躇するのは当然だった。
それでもトシローは、彼女を押し切る形で薔薇の命をその身に享けた。
―――これで己は、ずっと彼女と居られる。
しかし……この時彼はまだ、理解してはいなかった。
定命のヒトが、その縛りを抜け出し永き時を生き続ける事……その重み、苦しみを。
どれだけ人として大切な思い出も、約束も。
重ね続けてしまえば、痛みや哀しみさえ生み出す鎖と変わってしまうという事を。
仮初の生。歪んでしまった絆。砕けかけた心。
何もかもが、限界を超えていた。
何もかもが、擦り切れくたびれ果てていた。
劇的に変化していった世界の姿。
街が、人が、社会通念が、猫の目のように移ろう中……
切り取られた影絵のように、二人の時間は、氷結したままだった。
- そうか、ヴァーミリアンでもラグナロクでも不老不死者の苦しみや悲哀が描かれていたんだな。 -- 名無しさん (2020-05-12 09:58:17)
- 思い出してみればトシローさんも神祖程では無いけど長生きしてたな。 -- 名無しさん (2020-05-24 21:50:38)
- オルフィレウスより年上だからなトシローさん -- 名無しさん (2020-05-24 21:59:21)
- トシローさんより年下とは言えあれだけ科学大好きヒャッハーして人生エンジョイしているオルフィレウスが強すぎる。なお極一部の方の人生 -- 名無しさん (2020-07-06 19:04:47)
- ぼっちなら人の社会に溶け込めないこと気にならないしな まあトシローも美影生きてればなんだかんだもう三百年くらいはエンジョイ出来そうだが -- 名無しさん (2020-11-14 10:21:31)
- 結局失ったから歪んだだけってのに目を逸らしていたから「なんと傲慢なのだ俺は」につながるわけよね 吸血鬼だ人間だ現実に縛られるだごちゃごちゃ言ってたけど結局は恋人を亡くしたくなかっただけだった -- 名無しさん (2024-03-01 18:22:36)
最終更新:2024年03月01日 18:22