「っち、しょうがない……おい、そこの仏像と猪」
「何でもいいから適当に材料買ってこい。日が上がっている内に目立たないよう動けば、まあ何とかなるだろ」
(戦場ではやむない事なのかもしれないが)マレーネ嬢の大分独特な食への認識がうかがえる一幕。
ジュン√、秋月邸から
拠点へと帰還し……朝に
一悶着はあったものの、
凌駕達四人は
離脱していた礼と彼を回収に向かった
切との日没後の合流まで待機を続ける事となった。
そこでマレーネは各自の部屋に備蓄の食糧があり、この時間に見てみるのもいいだろうと告げる。
食べ物と聞いて、目を輝かせたのはジュン。
「おおう、食べ物もあるんだっ。まあ何日も居ること前提の造りだからあるかなー、とは思ってたんだけど」
「外国の食べ物は大味とかって聞くけど、その分量が多いって本当かな?
いやー、あたしとしちゃそういう売りは大歓迎でさ! 初体験の味に、ちょっと多めの期待しちゃってもおかしくはないよねっ」
凌駕も、ジュンほどではないにせよ、これまで目にしてこなかったがどのような類のものがあるのか興味を抱いて、
指揮官直々の紹介の時を待っていたの、だが……
壁と一体化したパネルから取り出されたのは――錠剤型の薬のようなものと、戦場っぽさ丸出しのドラムマガジン型の容器。
その光景に固まった凌駕達を置いて少女は黙々と錠剤を数粒掴み、容器の中身を開きながら……
「特製の完全栄養補填食品と、軍用携帯食だ。数粒で一日に必要な栄養素を完全に摂取できるので、腹を満たしたら一緒に取れ」
そのまま見えたレーションの印象はというと……
「めっちゃくっちゃまずそう……」
あれはダメだと、味覚が死にそうになるひどい見かけから察してしまえる代物だった。
ジュンだけでなく、今までいいものを食べてきている美汐に至っては、顔を顰めながら後ずさりする始末。
呆然とした仲間達の姿に対し、マレーネは表情一つ変えず
「これが普通だ。作戦行動時に満足な食事などできるはずもなかろう。
第一、食とは生存するために必要な栄養を取る、そのための手段。味はあくまでそれを判断する味覚向けの材料に過ぎん」
「何より、昨日の朝食はご馳走だろう? 流石にこれを年に数度の豪勢さと比べるな。奮発してくれた高嶺にも申し訳ない」
「いや、日本の由緒正しい一般家庭の朝食だったと思うんだが……」
「あーあー、言っても無駄だ秋月。いるんだよ、こういう奴……研究中毒こじらせすぎて、生理的な反応まで栄養とか効率で捉えちまうようなのが」
美汐の言い分に対し、流石にそれは言い過ぎだろう……と思いつつも、
凌駕自身もマレーネのそういった考え方は、明らかにここ数年のみで身に付いたものとは考えられず。
研究職特有の、数値で物事を考えるが故の悪癖――けれど、こんな場面で見たくはなかったと感じてしまう。
完全に俺たちパスしますな表情を浮かべる他のメンバーに対し……
「どうした、食わんのかお前達? まったく、カレンや切のようなことを言いおって……」
不満気に口を尖らせたマレーネのその言葉に、以前からの仲間である彼女達の苦労が切々と感じられ――
カレンが気ままに街を散策していたのは、もしかしたら食料の確保という目的もあったのだろうか、と……
凌駕は今になって気づく、世知辛い真実に溜息をつくばかりだった。
最終更新:2023年08月05日 09:13