痛い、いだいぃ、いだいよぉおッ……!

発言者:伊里谷加護


精神的外傷から生まれた別人格(キャリー)による暴走……その中で、大切な仲間の姿を目にした事で現実に意識を浮上させる事ができた加護。
だが、眼前に広がるのは焔によって燃え盛る新都と、そして恋人である直が異能を発動させ自らに襲い掛かってくる姿だった。

加護は知らなかった。この眼を覆いたくなるような災いの中で、直が守ると誓った幸を無残にも亡くしていた事を。
そして、それを直視した事による激烈な精神的衝撃(ショック)で彼は理性を失くし、
自己の心に生まれた巨大な喪失感を埋めるべく、ひたすらに貪りたいという捕食本能に囚われてしまっていることを。

――制止の声も届かない。少女の耳に届くのは、狂気に汚染された荒い吐息と唸り声のみ。
その瞳は虚空を見つめ、異形と化した口部は今まさに眼前の肉へと近づき……


「痛い、いだいぃ、いだいよぉおッ……!」


尖った外骨格が少女の喉を押し潰しはじめ、胸部に鉤爪が喰い込んでゆく。
肋骨が砕け、肺にまで爪が貫通する。破れた血管から血が漏れだし、呼吸もままならない。
怪物の爪は動きを止めず、体内を無造作にかき回し抉り、内部が破壊される激痛を神経が鋭敏に伝えていく。
助けを求める余裕などなく、一方的な蹂躙を身に受けるしかできはしない。

だがそれ以上に、少女の心を苛んだのは異能の共感能力を通じ伝わる、直の重すぎる嘆きと哀しみ。
彼が見てきた燃える新都の惨状、そしてそこには崩れ去った幸のマンションもあった。
……そこから加護は、自分が彼の命に代えても守りたかった大事なものを奪ってしまったのだと理解し。
ならば、彼の怒り、憎しみを受けるべきは自分。これは不条理に降りかかった理不尽でも何でもない、当然の報いなのだと。
生気は喪われ、失意と後悔が心を埋め尽くす。

────ごめんね、直さん。それに幸さん。そして、あたしが命を奪ったすべての人たち。

声にもならない謝罪の言葉を思い、肉体自体の限界と罪悪感に少女は意識を手放していく。
“やはり、こんな自分が生き延びたことこそが罪だった。家族を見捨て、一人だけのうのうと生き残った卑怯者が行き着いた末路が、この有様。
あの被災地(じごく)で、家族と共に死んでいればよかった。そうすれば、好きな人にこんな悲しみを抱かせることもなかったのに……”

────生き残ってしまって、ごめんなさい。

そんな加護の悔悟など知る由もなく、抵抗力を失った獲物の頭部へと非情な獣の牙が向けられ───


頭蓋が砕き潰され、中身は噛み啜られ……
かつて加護の人格を司っていた部位は見る影もないただと肉と骨の塊へと攪拌され、獣に嚥下された。

次は、わずかに痙攣する胴体を、臓腑ごと。心臓も肺も胃も腸も腎臓も肝臓も胆嚢も膵臓も脾臓も。

まとわりつく肉ごと同化させた後は、投げ出された四肢を引き裂き、噛み千切り、肉片として咀嚼しながら食い散らかす。

残った脊髄さえもへし折り、噛み砕きながら飲み干していく。

やがて、伊里谷加護という人間の肉体は、丸ごとこの世から消え去っていた。
辺りにはただ、血と引き千切られた肉片が転がり……そして、虚空に吼え猛る禍々しき一体の獣が残るのみだった。





  • まさか物理的にモグモグするとは思わんかったよ… -- 名無しさん (2020-07-10 22:59:59)
  • このシーン、マックにむしゃぶりついてる時の俺に似てる -- 名無しさん (2020-09-05 18:31:27)
  • ↑どんな食い方しとんじゃ -- 名無しさん (2020-10-22 22:37:11)
  • ビッグマックを食べた堺雅人みたいなコメントは草 -- 名無しさん (2020-10-23 20:39:48)
  • 全ての食材が「痛い痛い」言ってくれたらダイエット出来るのにな -- 名無しさん (2021-03-16 21:12:02)
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最終更新:2021年12月10日 00:32