ニナ√……身動きの取れなくなった
公子を置いて、野心持つ
藍血貴達が活発に動き出す。
利用価値があるからこそ生かされていた不穏分子も今や、
『柩の娘』捜索の過程での障害物として容赦なく狩り立てられる。
そして、地下の闇を牛耳ってきたアルフライラもまた、
バイロンの手勢により、一人逃走を余儀なくされていた……
「クソが!どこから漏れたッ……!」
『裁定者』の襲撃により壊滅したと見せ掛け、潜伏を続けながらも戦力を整えていた彼女は裏切り者の存在を確信していた。
表側と地下側――互いの情報に通じ、事態を掌握するための絵図を描いた者の存在を。
巧妙に反撃を狙っていたはずが、政の一環に自分達も組み込まれていた……その事実がアルフライラに怒りの炎を滾らせる。
だが、どこまでも生きぎたない彼女は逆転の好機をもぎ取るべく、今にも千切れそうな躰を動かしていた。
これまで鍛え上げられてきた危険への嗅覚は、地上での変化を敏感に察知する。
「あのガキ共……以前見たが、バイロンの血筋だったか。成る程な、新しい猟犬って訳かよ」
「上の連中に毒蛇が喰い込んだな、とすりゃあ落ちたのは十中八九うちのお姫様。化かし合いからまず脱落、か」
「……クク、キナ臭ぇなあオイ。急造の新体制、つつけば穴がボコボコ見つかりそうじゃねえか」
思考は止めない―――付け入る隙はあると、ライラは口元を獰猛な肉食獣の形に歪めた。
「必要なのは、でかい揺さぶりかけられる要素だ。
悪いな、お姫様。とりあえず一度、綺麗なドレスとはお別れしてもらうぜ………」
―――強者は馴れ合わないが、弱者は容易く取り込める………
立場の表裏の差異こそあれ、現状互いに勢力逆転を狙う敗残者の身。利用できるだろうと地下の長は考える。
……そして、身に宿した
賜力にも表れていた“音”に対するライラの絶対感覚が、実に聞き慣れた存在の足音を捉える。
ニナ・オルロックに揺さぶりをかけ、権力闘争に更なる煽りを入れるための駒が。
実に最良のタイミングで、アルフライラの元へと近づいていた――
「―――いいねぇ、やはり墜ちるなら底だな」
眼前に姿を見せたのは黒コートの陰鬱な影を纏った
“元”夜警の侍と、
その相棒。
都合のいい邂逅、展開。何者かに仕組まれているかのような錯覚は、しかし訪れた幸運と共に彼女の中で消える………
「よう、いい所に来たなぁ……飼い犬」
最終更新:2021年09月20日 11:09