結果――美醜だけが残る。美しい者には輝きが在る、白であろうと黒であろうと、その閃光は眼の裏へと焼きつくだろう

発言者:《伯爵》


「よって────」

「私という他者にしか“善”を見出せないおまえは、ここへ何をしに来た?」

「我が裾を未だに掴む幼子……ジョージ・ゴードン・バイロンよ」


「答えなど、とうに知っておりましょう。
あなたに口付けられたいがため、私は舞い戻ってきたのです」




グランド√……摩天楼(カルパチア)の高層より、《伯爵》は薔薇の命が狩られていく様を観察し続ける。
二勢力に分かれた『裁定者』の群れはこれ以上ない速度で殲滅を進め、縛血者の九割以上が既に消滅していた。

そして――縛血者ではない人間も、その多くが霧の街を離れ始める。
歓楽街、賭博、荒事の元締め―――人間の「夜遊び」を取り仕切っていた縛血者の不在は、都市の経済に大きな打撃を齎す。
また、ブラインドと個人的な親交を持っていた者も、隣人の所在が知れない事に不安を抱く。
何よりも……縛血者の死骸は残る。夜が明ける度にダース単位で惨殺死体(・・・・)が発見される街になど、誰が心安らかに居を構えていられようか。

夜の世界を知らぬ者が姿を消し、次は自分達縛血者を知る者達がどう動くかについて《伯爵》は僅かに思案し……
不死を求める者ならば情報収集に動いているか、過激な勢力であるなら近代兵器で街ごと滅ぼすべきと主張しているかもしれぬと。
いや、もっと現状を認識する者なら水爆を撃ち込む程度(・・)の可能性があるかもしれぬ。

それでも、彼には揺るがぬ確信があった、それは……どれだけ滅びが迫ろうとも人類は一つとなって脅威に立ち向かう事はないだろうという事。
この街のように、善悪、揺るぎなき理想――それらは個別の意思として入り乱れる。
相い争う可能性は破滅への入り口、それを理解していても滅ぼしあうことを止められない。
そうして、生き残った価値を正道と崇めてきた、ヒトの在り方を高みから見つめ、
絶対の強者、不敗なる《伯爵》は事の勝敗ではなく。その生の美醜をこそ何よりも重視するのだと語る―――


本編より
「人類が思想を同じくすることは、小さな集団が精々だ。たとえ数秒後に種が死滅するとしても手を取り合うことは不可能だろう」


この街と同じ。全ての思惑は入り乱れている。
統一を見せない個別の意思は、破滅の芽だ。そうと判っていながら理想は交わりを見せやしない。
誰もが最善を目指して足掻き続け、認められぬ事柄を攻撃し続けている。

自我(のう)が繋がっていない限り、人類側の対応は最後まで事態の遷移に追いつかない。
《伯爵》は、そう判断していた。


「仮に、これが物語であったとしよう。それならば、事態は判りやすい勧善懲悪へ納まるに違いない」

「“悪”を滅し、“善”を掲げることで、舞台は幕を下ろす。
しかし悲しいかな、善行の基準は交わらぬ。個々の利益はすれ違ったままだ」

「救済、淘汰、研究、自傷……全てが等しく“善”となり、選択を免れた事柄が“悪”となる」

「極々当然のことだ、善悪は物差しに過ぎん。
自らの往く道を素晴らしいと吹聴するがため、公の人徳と重ねるだけだ」

「結果――美醜だけが残る。美しい者には輝きが在る、
白であろうと黒であろうと、その閃光は(まなこ)の裏へと焼きつくだろう」


勝者が善となるのが世の道理。
勝った者が選択した理念を玉座へ飾るだけならば、その是非を問うのはどこまでも無意味だ。
無限に等しい善悪と勝敗を見てきた。そして《伯爵》にとって敗北は存在しない(・・・・・)
だからこそ、醜悪な勝者よりも美しい敗者に目を奪われる。
常勝無敗であるからこその価値観。まさにこれぞ王の思想。



  • まぁ別に人類が滅ぶわけではないし -- 名無しさん (2020-09-25 10:57:59)
  • なお光狂い達や融合知性群体という一丸になることでヤバいことになる例 -- 名無しさん (2020-09-27 15:02:28)
  • まぁ善悪なんて簡単にひっくり返るしこの意見もあながち間違いでもない -- 名無しさん (2020-09-27 15:13:34)
  • でもちょっとヤケクソというか投げやりというかどうせ勝っても負けてもおんなじだしーって言ってるようにも聞こえる -- 名無しさん (2020-09-27 15:57:14)
  • 勝っても負けても一緒ってか総統閣下みたいに勝ち続けてる奴が美しいってこと -- 名無しさん (2020-09-27 15:58:35)
  • 皆殺し -- 名無しさん (2020-09-27 16:02:17)
  • 閣下が掲げるものも一つの正義だしゼファーのも人間最大のカルマで否定できないよね、じゃあどっち正しいの?←勝ち負け知らずに美しいものが素晴らしいだから敗北知らない化け物からの上からの評価 -- 名無しさん (2020-09-27 16:03:49)
  • 確かに歯車ぼっちはクズだけど目的と生き様は美しいって言っても過言じゃない -- 名無しさん (2020-09-27 16:08:25)
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最終更新:2024年10月31日 11:45