ないとうはやと
トシローと
美影が一時的に身を寄せた
甲陽鎮撫隊の人間で、侍としてのトシローの在り方に興味を抱き彼に一人接触する。
その真の名は
土方歳三。佐幕派武闘集団・
新撰組の副長であり、その眼差しは味方であろうとも咎ある者を許さぬ粛清者――
同族殺しとしての鋭さを宿す。
「成り上がって成り上がって、ようやくそれなりの形を掴めたと思やあ……ははッ、これだ」
「まるで始まったかと思った途端、芝居の幕がブッツリ下ろされちまったみたいで……悪い酒酔いン中にいるみたいだ……」
鳥羽伏見において「剣士の地獄」を見たと語り、剣士としての己にどうしようもない無力感を抱えてしまった土方。
そんな中出会った、同じくひたむきに剣の道に打ち込んできたであろうトシロー。
時代の変化に臆することもなく、揺るがず立つその芯は一体何処に在るのか――
その答えを求め、天然理心流・土方歳三は水鴎流・鹿島杜志郎との一対一の死合に臨む。
――剣士としての技量は互角……その状況に剣士として昂揚しながらも土方は、洋装の懐から拳銃を取り出し、寂しげに決闘の終わりを告げる。
「何故だ……? それなのに、おまえさんは己を否定されて何故そう平然としていられる?
剣の秘奥が、武士の矜持が……こんな、引鉄を引く指一本にも劣るものだって事実を突きつけられてよ」
「撃たれよ、土方殿。さすれば、貴公が欲する答が見えよう」
「死ぬぜ」
「死なぬ」
それでも恐れず、ただ銃口に向き合うトシロー。膨れ上がった剣気を前に、土方は反射的に引鉄を引いていた。
最終更新:2021年10月13日 15:24